孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

女性の地位  ロシア・プーチン大統領が語る女性への「愛と感謝」の実態

2024-03-09 22:43:51 | 女性問題

(モスクワで2019年11月、「いつか自由になる」と書かれたプラカードを持ち、DV対策法の整備を求めてデモを行う女性たち【2021年1月5日 東京】)

【女性の働きやすさ 日本はOECDのなかで最下位争い常連国】
昨日3月8日は国際女性デーということで、男女格差に関する報告や、各地での活動が報じられています。

そのひとつ、この時期に毎年報じられるのが「女性の働きやすさ」に関する国際ランキングで、日本は相変わらずの「嘆かわしい」状況。(「日本には日本の文化がある。他国からどうこう言われる筋合いはない」と怒る方もいらっしゃるのでしょうが)

“<変わろう、変えよう>女性の働きやすさ、日本は29カ国中27位 英誌エコノミスト”【3月7日 毎日】

【アメリカ 共和党州知事候補は過激なアンチ・フェミニズム】
女性の地位向上を求めるフェミニズムに対しては根強いアンチも存在します。

****「女性が投票できない時代の方が良い」主張の政治家、ノースカロライナ州知事候補に選ばれる****
アメリカ・ノースカロライナ州で3月5日に行われた予備選挙で、マーク・ロビンソン副知事が共和党の州知事候補に指名された。

ロビンソン氏は数々の女性蔑視発言で知られており、4年前には憲法修正第19条がなかった時代、つまり女性に選挙権がなかった時代に戻った方が良いとも主張している。

ロビンソン氏が知事候補に指名されたことで新たに注目されているのは、2020年3月にピット郡で開かれた共和党女性委員会主催のイベントだ。

ロビンソン氏はこのイベントで「アメリカを『再び偉大な国』にするには、『黒人が木に吊り下げられていた時代』と『女性に参政権がない時代』のどちらに戻る方がいいかと、保守派の政治活動家キャンディス・オーウェンズ氏が尋ねられていた」というエピソードを紹介。

「自分なら間違いなく、女性が投票を認められなかった時代に戻る」と主張した。
その理由を「その時代には真の社会変革のために戦う人々がいた。その人たちは共和党員と呼ばれていた」と説明している。

ロビンソン氏はその後に「(人種差別の法律)ジム・クロウ法を終わらせたのは共和党だ」とも主張している(実際には、民主党と共和党、両党の議員とリンドン・ジョンソン大統領が1964年の公民権法と1965年の投票権法を成立させて、ジム・クロウ法を終わらせた)。

数々の女性、フェミニスト蔑視
ロビンソン氏はFacebookなどでも、女性を蔑み、フェミニズムを攻撃する投稿を続けてきた。
2016年には、フェミニズムは悪魔が作ったと主張。自身をフェミニストだとする男性のことを「レースのパンティと同じくらい男らしく」「意思も心も弱い“男”」と馬鹿にしてきた。

フェミニストを何度も「フェミナチ」と呼び、「性差別主義者で、脇の下に毛が生え、うんち帽をかぶった左翼 」という言葉で批判したこともある。

また、2017年には「自分の居場所をわきまえない女より悪いのは、自分の居場所をわかっていない男だ」と書き込んでいる。

さらに、キリスト教保守派テレビ伝道師の故パット・ロバートソン氏同様に、「悪魔がレズビアニズムとフェミニズムを利用して、伝統的な家族を破壊している」という主張もしている。

フェミニズムを性差別や人種差別と同一視する投稿も多数あり、2016年9月には「黒人が人種差別に、女性は性差別に対して立ち上がるべきなら......男性はフェミニズムに対して立ち上がるべきではないのか?」という疑問を投げかけている。

同日には「フェミニズムとフェミニストにはうんざりだ。彼らは人種差別主義者と同じくらい、いやそれ以上にひどい」とも書き込んでいる。

さらに、ロビンソン氏は女性を「売春婦」「魔女」「拒絶されたドラッグ・クイーン」など、様々な言葉で攻撃してきた。

他にも、アドルフ・ヒトラーの言葉を引用し、イスラム教徒への偏見を煽り、性自認に沿ったトイレを使用するトランスジェンダー女性を逮捕すべきだと主張し、ホロコーストに疑念を投げかけ、数多くの危険な陰謀論を広めてきた。

公共の場で授乳する女性を嫌っており、2016年には「恥知らずの注目されたい豚ども」と批判している。
11月に行われる選挙で、ロビンソン氏は対立候補の民主党ジョシュ・スタイン司法長官と、ノースカロライナ州知事の座を争うことになる。(後略)【3月8日 HUFFPOST】
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このロビンソン氏が州知事候補に選ばれるのですから、トランプ氏が大統領候補になるのも何の不思議もないのかも。

【ロシア プーチン大統領が進めるロシア的価値観】
このようなアンチほどではなくても、伝統的な「女性は家庭で母親になることこそが幸せ」という考えは、日本を含めて多くの国で多くの者に支持されているところでしょう。

昨今の日本では、そういう考えを公の場で口にするとバッシングを受けることになりますが、ロシアは事情が違うようです。

ロシアでは3月8日の国際女性デーは、女性の地位向上のための日というよりも、身の回りの世話をする母や妻らに、男性がプレゼントを贈る「愛と感謝の日」として認識されており、例年プーチン大統領は女性に対する「愛と感謝のメッセージ」を公表しています。

報道によれば、今年の国民向けメッセージでは、「女性は母になるのが素敵な運命だ」と述べ、子どもや家族の世話が最も重要な役割だと強調したとか。

今年のメッセージは目にしていませんが、2019年のプーチン大統領のメッセージは以下のような内容でした。

****親愛なる女性の皆さん!****
国際女性デー、おめでとうございます。この祝日はすべての人々が敬愛しています。(中略)

今日、男性たちはあなたたちに感謝と敬愛の念を伝えようと慌ただしくしていることでしょう。最高の温かい感情をもって告白するでしょうし、妻や母、祖母、姉妹、娘、職場の同僚たちに対し、心を込めて「ありがとう」と言うでしょう。

あなたたちの寛大さは本当に無限だということを私たちは知っています。そう、それは天の恵みです。あなたたち女性は、そうした寛大さを職場の同僚や近しい人たちに対し、もっと注いでいますね。

あなたたちは信頼できる組織人であり、責任感のあるリーダーであり、とても繊細なことを正しく教えることができ、あらゆる事柄に取り組む創造性も持っています。

偉大なロシア人女性の献身的な貢献を抜きに、ロシアの発展と歴史を語ることはできません。今日、ありとあらゆる専門分野で高い水準に到達できたのは、事実上あなたたちの力によるところが大きいのです。

成功させること、それはロシア人女性の性分です。あらゆる分野であなたたちは成功を収めています。職場でも家庭でも。

そしてあなたたちは美しく輝き、魅力にあふれ、家族の中心であり続けています。愛情で家族をまとめ上げ、創造や人を助け、元気づける力もあります。

あなたたちには、新たな生命を創造するすべが与えられています。すなわち、子どもを産むことです。子どもの誕生は、母性や子育てという尊い幸福であり、世界を変え、上質な優しさや慈悲の心で包んでくれます。

さらには、ロシアの力の源泉になってきた伝統的な価値観を支えています。

私たちにとって親というのは何歳になっても尊い存在ですが、母親に対しては言うまでもなく、特別な感情を抱いてきました。気遣い、無限の愛、理解、許し。母親から享受したそうしたものに対し、感謝しています。何年もたってから、そうした教えや温かい眼差しと手の感触を思い出すのです。

私たちはいつもあなたたちに恩義があります。それは国家全土において、あらゆる人たちが当てはまります。子どもを育てるためにすべてを捧げる女性たちのために、国は優先して多くのことをしなければなりません。

親愛なる女性の皆さん! はっきり言って、男性があなたたちにふさわしくなることは、時に難しくもあります。しかし、私たちは女性が心強く信頼できるよう、すべてのことをしようと思っています。

この記念日だけでなく、私たちはいつもあなたたちを大切にし、愛しています。

もう一度すべての女性に対し、今日という日のお祝いを申し上げます。健康とご多幸をお祈り申し上げます。【2019年3月16日 関根和弘氏 HUFFPOST】
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歯が浮くような文面のなかには、女性が子供を生み育てることを強調し、それをロシアの伝統的価値観に結びつける考えが示されています。ただ、「運命」とか「最も重要な役割」という表現は見られません。

報じられているように、今年のメッセージで女性は母になるのが素敵な「運命」だと述べ、子どもや家族の世話が「最も重要な役割」だと強調したということであれば、2019年のメッセージから更に踏み込んだ内容とも考えられます。

欧米的な女性の積極的社会参加、地位向上的な価値観に対し明確な否定を示したものとも言え、昨今の欧米とロシアの対立を背景として、ロシアの伝統回帰路線を示すものでもあります。

【プーチン大統領が言う「愛と感謝」の実態 DV大国ロシア それを助長するプーチン政権】
子どもや家族の世話が女性の最も重要な役割なのか、女性も積極的に社会参加し、そこで平等に扱われることが重要なのか・・・そこらはいったん脇に置くとして、ロシアの女性がプーチン大統領が示すような「愛と感謝」をうけて幸せな家庭生活を送っているのかと言えば、そうでもないようです。

プーチン大統領も「男性があなたたちにふさわしくなることは、時に難しくもあります。」と言っていますが、現実はもっと「愛と感謝」からはほど遠いものです。

****DVに悩むロシアの女性、男性優越の壁壊せるか****
ロシア中部クラスノヤルスクに住む主婦のナタリア(37)=仮名=は昨夏、「散歩に行く」と言ったきり、夫(39)の元には帰らなかった。子どもの手を引き、市内の家庭内暴力(DV)の保護センターに駆け込んだのだ。

◆2年以上前から続いた夫の暴力、コロナで拍車
2年以上前から続いた夫の暴力は、新型コロナウイルスの流行とともに堪え難くなった。都市封鎖のため職場から3カ月の「休暇」を言い渡された夫は、収入減の不安と外出制限のストレスで、ナタリアに手を上げる回数が増えたからだ。

「コロナの第2波が来て再び都市封鎖になったら耐えられない」。夫からの着信をブロックして暮らすナタリア。国連のグテレス事務総長は昨年4月、「コロナ禍の世界でDVが激発している」と警告を発した。

ロシア政府などによると、DV被害に遭う女性は年間1600万人。ロシアの人口は約1億4500万のため、女性の5人に1人は暴力を受けている計算だ。死者は年間1万2000~1万4000人と推定される。昨春の都市封鎖で、DVの通報数は前年と比べて25%も増えた。だがこれらの数値すら「氷山の一角」と見られている。

◆「家族の問題」と周囲も止められず
ロシアでDV被害が絶えないのは「(男が女を)殴るのは愛の証し」ということわざがあるように、男性優越の考えが背景にある。妻はぶたれても「愛ゆえの行為」と自分に言い聞かせ、周囲も「家族の中の問題だから」と、暴力を止められないという。

こうした風潮に加え、プーチン政権が保守色を強めていることも問題視されている。2017年にはDVに対する罰則が軽減され、家族への暴力について、初犯で大けがを負わせていなければ、最大でも3万ルーブル(約4万3000円)の罰金刑で済むようになった。

「一家のあるじが刑務所に入れば、家族の収入が減る」という考えからだが、モスクワの民間DV被害防止センター代表、アンナ・リビナ(31)は「妻子に暴力を振るってカネさえ払えば許されるのはおかしい。DVが減らない責任の一端は政府にある」と憤る。

◆コロナ禍で深刻化、迫られる法整備
長年、DV問題に取り組む下院・家族問題副委員長のオクサナ・プーシキナ(57)は「コロナ禍は、DVを深刻化させる」と断言。DV対策の法整備を急ぐ必要があると訴える。

現在、プーシキナらが提出を目指す法案では、DVを「社会で解決すべき問題」と捉え、行政と保護センター、医療機関が連携することをうたう。加害者である男性が、被害者である妻子や交際していた女性に接触することも禁じる。

多くの先進国では既に導入されている取り組みだが、ロシアではこれでも過度に「前衛的」な内容と見なされている。議会は現在、有識者のヒアリングを進めているが、法案を提出しても可決されるか予断を許さない。

◆「女性が恥じる文化を変えなければ」
「ぶたれた女性が、恥じるような文化をまず変えなければ」。アンナは意識改革が必要との思いから、テレビ局と連携して啓発動画や、Tシャツなどのグッズをつくっている。グッズに刻まれた標語は「暴力を振るうのではなく、愛し合おう」だ。【2021年1月5日 東京】
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もちろんDVはロシアだけの問題ではありませんが、“「(男が女を)殴るのは愛の証し」ということわざがあるように、男性優越の考えが背景にある”社会にあって女性を家庭に縛り付けるような女性観は、結果として多くのDV被害者を生むことになります。

実際、ロシアはDV大国として知られていますが、上記記事にもあるようにプーチン政権はそれを助長するような法改正も行っています。いわゆる「平手打ち法」と称されるものです。

****DV大国ロシアで成立した「平手打ち法」の非道****
<ロシアは年間1万4000人の女性が死亡するほどDVが横行しているが、さらにDVの罰則を軽減する改正法をプーチンが成立させた>

ロシアで「平手打ち法」と呼ばれる改正法が成立した。

すでに圧倒的多数の賛成でロシア議会を通過していたこの刑法の改正法案は、今月7日プーチン大統領が署名をして成立させた。このニュースは世界的に報じられ、ロシア政府に対する非難の声が上がっている。

「平手打ち法」とはいったいどんなものなのか。実は、この改正法により、ロシアでは家庭内暴力(DV)の罰則が一部軽減されることになる。つまり、法律で「平手打ち」などのDVが容認されるというのだ。

ロシア刑法第116条が改正され、親族に対する暴行は刑事罰から排除されることになる。また犯行を繰り返す常習犯は刑法で裁かれるものの、初犯ならばDVは刑事事件ではなく行政処分の対象とされる。また妻や子供に痣や出血を伴う怪我を負わせた場合、罰金又は15日の禁固刑が科される場合があるが、改正前は最大で2年の禁固刑だった。

なぜロシアでは、こんな時代錯誤とも言える改正法が成立したのか。ロシアではDVに対して他の先進国とは違った認識をもっている人が少なくないようで、例えば米AP通信はモスクワからの配信記事で、ロシアでも暴行は犯罪だが、妻に平手打ちをするくらいは特に驚くことではないと伝えている。

事実、世論調査で、ロシア人の約20%は妻や子供を叩くことは問題ない、と公然と答えている。またイタル・タス通信によれば、世論調査の回答者のうち59%が、深刻なけがにならない程度なら、家族内でのちょっとしたいざこざに厳しい処罰をする必要はない、と答えている。

この法案を推進した議員らに言わせれば、これで家庭生活に政府が関与するのを減らすことができるという。なぜなら、ロシアでは伝統的に国家が市民の家庭生活に口を挟むのは好ましくないとされているからだ。

また賛成派は、この法律が体罰などで子供をしつける親の権利を守るものだとも主張している。というのは、ロシアでも最近は子供をしつけで叩くことが許されない風潮があるからだ。

こうした感覚から分かる通り、ロシアのDV事情はかなり深刻な状況にある。そして、この法律によってその状況がさらに悪化するという懸念がある。

ロシア内務省によると、ロシアでは年間1万4000人の女性が夫やパートナーからの暴力で死亡しており、これは1日に約40人が死亡している計算になる。また年間60万人の女性が家庭内で暴力や言葉による虐待を受けている。

さらにこんなデータもある。ロシアで唯一のDVホットラインを運営する「アナ・センター」の集計によれば、ロシア女性の約3分の1がパートナーによる暴力に苦しめられている。また、ロシアで発生するすべての暴力犯罪と殺人事件の40%は、家庭内で起きている。

ちなみに人口がロシアの2倍のアメリカでは、2001~2012年に合計約1万1000人の女性が夫または恋人の暴力で死亡している。年間1000人ほどが死亡している計算になり、これでも十分に驚くべき数字だが、ロシアとは比較にならない。

もちろん、この「平手打ち法」に反対する人たちもいる。(中略)ただ残念ながら、こうしたロシア女性の叫びが改正法に署名を済ませたプーチンに届くことはないだろう。【2017年2月10日 山田敏弘氏 Newsweek】
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プーチン大統領が言う「愛と感謝」の実態はこのようなものです。

【今なお続く女性器切除】
女性の地位向上は重要な問題ですが、それ以前の問題として、私が1日も早い改善を希望するのがアフリカを中心に今なお広く行われている女性器切除の問題です。

****女性器切除サバイバー、世界で2億3000万人以上 ユニセフ****
国連児童基金(ユニセフ)が8日、国際女性デーに合わせて公表した報告書によると、女性器切除を受けた上で生存している少女や女性(サバイバー)の数が世界で2億3000万人を超えた。

FGM(女性の性器の一部を切除してしまう慣習)には小陰唇や陰核(クリトリス)の一部または全部の切除、縫合による膣口の狭小化などが含まれる。FGMには出血や感染症のリスクがある他、不妊症、妊娠合併症、死産、性交痛といった長期的結果につながるリスクもある。

ユニセフは、FGMが一般的に行われている31か国を対象に調査を実施。地域別に見たFGMサバイバーの数は、アフリカが1億4400万人以上と最も多く、次いでアジアが約8000万人、中東が約600万人だった。

全体的にサバイバー数が増加しているのは一部の国の人口増加によるところが大きいが、その他の国ではFGMが減少傾向にある点を報告書は強調している。

例えばシエラレオネでは、FGMサバイバーが15〜19歳の全女性に占める割合が、30年間で95%から61%に減少した。エチオピア、ブルキナファソ、ケニアでも大幅な減少が記録されている。

一方、FGMサバイバーが15〜49歳の全女性に占める割合が多い国は、99%のソマリアを筆頭に、ギニアの95%、ジブチの90%、マリの89%と続いている。 【3月8日 AFP】
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