孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

鳥インフルエンザ(H7N9型) 中国で再び感染拡大の兆し

2013-11-30 22:48:10 | 疾病・保健衛生

(中国・青海省西寧市の鳥市場 “flickr”より By M M http://www.flickr.com/photos/43423301@N07/3997443439/in/photolist-76eWEB-7bXDD7-fWAZDN-fWAV2H-fWAXEN-fWBimk-fWAYhk-fWB6Dq-fWASYV-fWBfXc-fWAUza-fWAU8D-fWBjj2-enKhQb-egYXW5-egYYoY-egTgpK-egTgEx-egTdPX-egTdht-egYZ2G-egTeDx-egZ38N-egTfo8-egTgVc-egTfCn-egTg7x-egTf5z-egTcM6-egZ3rh-ebhhJ1-fpZggr-gimRez-gimRu4-ebhWfi-fWBwuM-eaXvz7-en6ch8-fWBiHn-exqWEt-edyYjr-ebtBdW-e9Pjah-hLBAZH-ebW6eM-eg2Y2D-ejayYd)

封じ込めをあきらめた中国
寒さも本格化し、今年もインフルエンザの季節が近づいています。

隣国・中国では今年初めから春にかけて鳥インフルエンザ(H7N9型)の感染者が続出して世界が注目していました。
その後、夏頃には小康状態になっていましたが、ここにきて再燃の兆しが見られるそうで、懸念されます。

また、中国当局は隔離入院などの強制措置はとらない方針で、その背景には軽症ながら感染者が広範囲にいる可能性が指摘されています。

****鳥インフル:中国で再び感染拡大の兆し 5人の感染確認*****
中国で感染者が激減していた鳥インフルエンザ(H7N9型)に再び感染拡大の兆しが出ている。インフルエンザが流行しやすい秋に入り、広東省と浙江省で5人の感染が確認され、衛生当局は警戒を呼び掛けている。

しかし、軽症の「潜在的」な感染者が既に多く出ているとみており、今後は感染防止に向けた患者の隔離入院を実施しない方針だ。(中略)

ただ、感染者に数えられるのは重症で病院にかかった人だけで、中国の呼吸器疾患の専門家、鍾南山氏は中国メディアに「計上されていない軽症者が多くいる」と、広範囲に感染者がいる可能性を指摘している。

国家衛生計画出産委員会は11月4日、H7N9型を危険度が上から2番目の乙類伝染病に指定したと発表した。ペストなど甲類に次ぐものだが、26種類の伝染病の一つとなり、隔離入院などの強制措置はとらない。軽症ながら感染者が広範囲にいる可能性を踏まえ、拡大防止のための隔離入院の効果は低いと判断したとみられる。

中国では今年3月下旬、H7N9型のヒトへの感染が世界で初めて確認された。上海市や浙江、江蘇両省を中心に感染者が一気に拡大し、5月末までに全国で132人に上った。抗ウイルス薬の投与が遅れたことなどから死者も同月末までに37人に達し、国内外に不安が広がった。

ウイルスは市場の家きん類の間で広まった可能性が高いとされ、流行地域の市場の閉鎖後は新たな感染者は激減した。ただ、家きん類との接触歴がない人が感染したケースもあり、感染源と感染経路は不明のまま。

また、農村部ではニワトリやアヒルがどこの家庭でも飼われている。世界保健機関(WHO)は継続的なヒトからヒトへの感染は起きていないとしているが、家族内感染などが疑われるケースもある。

中国メディアによると、浙江省で11月27日、57歳男性の感染が確認された。中国本土の感染者は2市10省で140人(うち死者45人)に上っている。

 ◇情報公開、後退の傾向
H7N9型の感染拡大では、当局の積極的な情報公開が評価を集めたが、ここにきて後退の傾向がみられる。

67歳男性の感染が確認された浙江省嘉興市の王江ケイ鎮では11月4日、64歳女性の感染が確認された。中国衛生当局は世界保健機関(WHO)と台湾、香港当局に連絡したが、これまでと違って国内向けに発表していない。

11月27日にも57歳男性の感染が確認され、一部中国メディアが伝えたが、浙江省の衛生当局のホームページでは11月以降の感染情報は更新されていない。

国家衛生計画出産委員会は、H7N9型を11月から乙類伝染病に指定した。今後の統計は乙類伝染病に統合するとしており、浙江省の当局者は毎日新聞に「これまでのような個別発表はしない」と明らかにした。

今後は月ごとにまとめて発表するとしているが、中国紙記者は「他の伝染病に紛れてしまう。今後、増える可能性があるのに発表しないのはおかしい」と指摘している。【11月29日 毎日】
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日本では指定感染症に認定されており、感染拡大予防のため強制的に感染者を隔離する体制をとっています。

日本への影響は?】
発生源の中国で封じ込めをあきらめたような状況で、日本において鳥インフルエンザ(H7N9型)がどのくらいの脅威になるのかが気になるところです。

いまのところ、濃厚接触による家族内感染が例外的に起きてはいるようですが、そうした「人から人」に感染する能力は限定的だと言われています。

****鳥インフル、「人・人」感染初確認=江蘇省で死亡の親子―中国****
中国江蘇省疾病予防コントロールセンターはこのほど、英医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」に発表した論文で、H7N9型鳥インフルエンザに感染し5月に死亡した同省無錫市の親子について、ウイルスが父親から娘にうつったとする研究結果を明らかにした。

H7N9型の「人から人」への感染は、上海で死亡した親子と夫婦の2例でも疑われているが、中国の専門家が公式に確認したのは初めて。

8日付の同省紙・揚子晩報によると、60歳の父親は、市場で生きた鳥を買った数日後の3月8日に発病し、5月4日に死亡。娘も1週間後に発病し、その後死亡した。

娘は有力な感染源とみられる生きた鳥との接触歴がない一方、マスクや手袋をせずに父親の看病に当たっており、父親のたんなどを通じて、ウイルスが娘に感染したとみられるという。

ただ、同様に看病した娘の夫を含め、親子と密接に接触した43人は感染しておらず、「人から人」に感染する能力は限定的だと強調している。【8月8日 時事】
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致死率については、“5月末までに全国で(感染者が)132人に上った。抗ウイルス薬の投与が遅れたことなどから死者も同月末までに37人に達し・・・”ということで、非常に高い致死率のようにも見えますが、実際は把握されていない感染者が多数存在するなかでの“37人”と考えるべきでしょう。(現時点では、感染者138人、死亡者45人と報じられています。)

****H7N9型鳥インフルエンザが新たなステージへ*****
・・・・ここで決して致死率を 45÷138=32.6% としてはなりません。
なぜなら、中国では医療機関を受診しないと感染の確認は行われておらず、つまり母数には「受診するぐらい症状が重かった人」か「健康保険を有しているか、受診できるだけの財力のある人」という条件がつくからです。

これまで中国政府は住民全体に対して感染の有無を確認するサーベイランスは実施しておらず、どの程度、医療機関を訪れていない軽症者もしくは貧困者がいるか明らかではないのです。
【11月18日 apital 高山義浩氏 http://apital.asahi.com/article/takayama/2013111800003.html
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中国社会において、「健康保険を有しているか、受診できるだけの財力のある人」以外の人が多数存在することは極めて大きな問題ですが、その件は今日はパスします。

そもそも、日本における通常のインフルエンザによる感染者・死者がどのくらいいるのか?
厚生労働省のHPによれば以下のとおりです。

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Q10.通常の季節性インフルエンザでは、感染者数と死亡者数はどのくらいですか。

例年のインフルエンザの感染者数は、国内で推定約1000万人いると言われています。国内の2000年以降の死因別死亡者数では、年間でインフルエンザによる死亡数は214(2001年)~1818(2005年)人です。
また、直接的及び間接的にインフルエンザの流行によって生じた死亡を推計する超過死亡概念というものがあり、この推計によりインフルエンザによる年間死亡者数は、世界で約25~50万人、日本で約1万人と推計されています。【厚生労働省HP】
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直接の死因は肺炎や脳炎、あるいは腎不全だっとしても、インフルエンザに掛からなければ、それらの要因で死亡する事は無かった・・・そういう間接的な死亡まで含めた“超過死亡概念”で見ると、年間1万人という訳です。

非常に大きな数字にも思えますが、人間は何らかの原因で必ず死ぬものですから・・・。
この数字に、中国由来の鳥インフルエンザ(H7N9型)感染が上乗せされて、どの程度に膨らむのか・・・よくわかりません。

単純に“上乗せ”なら、そんなに大騒ぎする話でもないかもしれません。
特に、「人から人」への感染が現状のままなら、中国のようにトリとの接触が少ない日本での感染は、中国からの旅行者など例外的なものとなるでしょう。
(トリの感染によって、殺処分を迫られる養鶏農家への影響は大きなものがあるかもしれませんが)

ただ、“季節性インフルエンザとの共感染によるヒト型への変異も起こりやすくなります”【前出 高山義浩氏】というのが怖いところです。当然、毒性も変異します。
中国での感染拡大にともなって、そうした変異の危険性も大きくなります。

抗ウイルス薬の有効性については、タミフルやリレンザが効かない事例もあるようです。
もともと医薬品の有効性は100%ではありませんが、耐性ウイルス云々と言われると不安も増大します。

予防手段としてのワクチンが開発されたというニュースもありました。

****鳥インフル:中国がH7N9型のワクチン開発…中央テレビ****
中国中央テレビによると、中国浙江省の浙江大学医学院付属第1病院と香港大学などは26日までに、鳥インフルエンザウイルス(H7N9型)のワクチン製造に必要なワクチン株の開発に成功した。
今後、実際にワクチンが生産されれば、感染拡大防止につながる可能性がある。

同ウイルスの感染者は8月に広東省で判明して以降、報告されていなかったが、今月15日と23日に浙江省で相次いで新たに確認された。感染者は台湾の1人も含めて138人となり、うち45人が死亡している。【10月26日 毎日】
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実用化の段階にあるのか・・・わかりません。
技術的な問題以外に、医療保険制度・医療体制が不十分な中国にあっては社会的な問題もあります。

鳥インフルエンザ(H7N9型)は、人間とウイルスの永遠の戦いのひとつですが、鳥インフルエンザ(H7N9型)か、あるいは別のウイルスかはともかく、人の移動が昔に比べて飛躍的に増大した現代社会にあっては、いずれ劇的なパンデミックが起こりそうな感じがします。
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ロシアのスターリン、中国の毛沢東 “古き良き過去”を必要とする指導者

2013-11-29 22:48:23 | ロシア

(チェコ・プラハを市街を見下ろす公園に掲げられた“スターリン風のプーチン” “flickr”より By
Vsevolod Vlasenko http://www.flickr.com/photos/13465775@N03/10482164084/in/photolist-gYgQbY-gqsGX9-fF8uLS-fQvSBs-gi6fV3-gi6EyB-gi6Q4B-gi6ncU-gi6xJK-gi6i7u-fQvN5o-fQvShE-h58NUZ-fSmpqt-gmGFU5-hxnSKX-hN1fGM-hAoP5G-fDucRP-fod4tQ-fnXKAF-fnXKnB-fnXMzp-fod2Cs-fod2hN-fod2vu-fnXMDg-fnXKjr-fod2ds-fod4xY-fnXMdD-fnXMoe-fnXKBP-fod2EQ-fod4mC-fnXJLe-fod2rA-fod1Zy-fod2zf-fnXMtr-fnXKxp-fod2kC-fnXJHr-fnXMix-fnXKEF-fod2mS-fnXMqD-fod1jN-fod2cS-fnXMcH-fod469)

【「スターリン主義のルネサンス」を否定したメドベージェフ
ソ連を戦勝に導いた“英雄”であり、膨大な犠牲者を出した“独裁者”でもあるスターリンに関するロシア内での評価の話。

最近の記事の前に、3年以上前のメドベージェフ大統領時代の記事を先ず紹介します。

****ロシアでようやく固まったスターリンへの評価****
2010.05.19(水) コンスタンチン・サルキソフ

ロシアにおいて、旧ソ連時代の社会主義とスターリンへの評価がようやく固まったようだ。いずれに対しても、その評価は否定的なものである。

5月9日、モスクワでドイツとの戦争(独ソ戦争)の戦勝65周年を祝う式典が挙行された。正確な数字は今でも不明だが、ソ連はあの戦争で大変な犠牲を払った。独ソ戦争の勝利を祝う式典は、ロシアにとって極めて神聖なものである。

当時のソ連の指導者はスターリンだった。独ソ戦をどう評価するか、そして戦時中のスターリンの役割をどう評価するか。それは単に歴史的な認識だけにとどまらず、今のロシアのあり方と今後の民主主義の将来を左右する重要な問題である。

スターリンの功績を評価していたプーチン
1991年の反共革命とソ連崩壊後、ロシア人の過去の歴史に対する心境は矛盾に満ちたものだった。政府の立場も固定することはなく、揺れ続けていた。エリツィンの時代は社会主義とスターリンを全面的に否定していたが、プーチン時代になって、もっと「バランスの取れた」立場に変わってきた。

その背景には、プーチンが縦割りの権力システムを強化し、「強いロシア」の実現を目指したことがある。
プーチンはスターリンの中に「悪」と「善」の両方を見出そうとして、独ソ戦に勝利したスターリンの功績を評価していた。

また、プーチンは欧米を挑発するかのように、スターリンの偉大さをほのめかす発言を繰り返した。NATO(北大西洋条約機構)本部のロシア代表としてプーチンに任命された国粋主義者のドミトリー・ロゴージン氏は、自分の書斎の壁にスターリンの写真を掲げていた。

メドベージェフは「国民に対して罪を犯した」と糾弾
メドベージェフ大統領の立場は、プーチンとは違うように見える。彼は過去の歴史を「悪」と「善」で単純に色分けする人間ではないが、社会主義とスターリンに対しての評価は厳しく、否定的である。

5月7日、メドベージェフは新聞のインタビューで、「ロシア大統領」の立場として次のように答えていた。
「率直に言って、旧ソ連は全体主義に染まっていたと言わざるを得ない。残念なことだが、全体主義の制度の下で国民の基本的人権と自由が押しつぶされた。この圧迫はソ連人だけではなく、社会主義陣営の他の国に対しても行われていた。この事実を歴史から消し去ることはできない」

メドベージェフはスターリンに対しても、次のように批判する。
「戦争中にスターリンが果たした役割がどうあれ、現在のロシアから見ると、スターリンは当時の国民に対して山ほどの罪を犯した。彼がよく働き、彼の指導の下で国家が発展したことは事実だが、彼の国民に対する犯罪を容赦することはできない・・・スターリンへの評価は人それぞれであってもいいと思うが、ロシアとして、そしてロシア大統領としては否定的な評価をせざるを得ない」

ロシアでは、第2次世界大戦で連合国が勝利したのは「100%ソ連のおかげだ」とする声が多かったが、これに対してもメドベージェフは、「ヨーロッパや、その他の国の国民とともに戦って勝ったのだ」と強調している。

また、「自由主義陣営が歴史を歪曲し、偽造している」という旧ソ連のプロパガンダに対して、「我々も歴史を捏造していた」と率直に認めている。

メドベージェフのこうした発言の背景には、一体何があるのか。
最近、二頭政権に対する不満が高まりつつある。共産党をはじめとする野党勢力の中には、「歴史を客観的に見ろ!」というスローガンを掲げて、スターリンの名誉回復を図ろうとする動きが出てきている。

実際にモスクワ市長は、独ソ戦の勝利記念日を迎えてスターリンの写真を町の中心に掲げようと思っていたが、大統領府と「統一ロシア」与党の反対、さらには世論の猛反発を受けて結局あきらめた。

スターリンの役割を再考する動きは「スターリン主義のルネサンス」と呼ばれる。メドベージェフは、この動きが、欧米と接近している今のロシアに害をもたらすものだと考えている。だから、「スターリン主義のルネサンスはないし、今後もあり得ない」と断言しているのだ。

「救世主」の崇拝は遠い過去の話に
ロシアでスターリンが否定的に評価されるようになったのは、時間の経過のせいもある。
最近、全ロシア世論調査センター(VCIOM)が実施した世論調査では、65年前の歴史に対する国民の関心がどんどん薄れていることが明らかになっている。

過去の歴史を誇り、ドイツとの戦争に勝利したスターリンを英雄視することは、長らく国民の思想の柱だった。だが、今は違う。2001年に「スターリンに関心がない」と答えたのは11%だったが、2009年には28%まで増えた。その傾向は若い年齢の人ほど強い。

また、「今のロシアには、スターリンみたいな指導者が必要か」という質問に対して、肯定的に答えたのは、2001年に19%だったが、2009年には9%しかない。まだ40代であるメドベージェフの価値観も、前の世代とはまったく違っている。

スターリンを「救世主」と崇めたてまつる現象は社会主義国家の一種のモデルとなり、スターリンの死後もソ連で延命し、中国でも毛沢東を個人崇拝する形で続いていた。現在でも北朝鮮やキューバ、旧ソ連共和国のベラルーシ、中央アジアなどでそのモデルが生き続けている。

一時期、プーチンも「ナショナルリーダー」としてロシアの救世主になりそうな気配だったが、幸いにしてそうはならなかった。「救世主」を崇めたてまつるモデルは、もはやロシアでは成り立たない。スターリンを否定するロシアの公式見解は、いつか「プーチン主義」に対しても向けられるかもしれない。【2010年 5月19日 JB PRESS】
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かつては二頭政治とも言われながら、現在はロシア政治への影響力をほとんど失ったように見えるメドベージェフ首相ですが、スターリンを明快に否定するあたり、今さらながらプーチン大統領との資質の違いが窺われます。

次の記事は、今年3月のスターリン没後60年のときのものです。

****スターリン没後60年、評価は今も二分****
2013年03月06日 12:09 発信地:モスクワ/ロシア

4日に旧ソ連の独裁者ヨシフ・スターリンの死去から60年を迎えたロシアでは、スターリンを数百万人の大量虐殺を行った暴君とみるか、第2次世界大戦後のロシアを大国に押し上げた救世主とみるかで国民の意見が二分している。独立系調査機関レバダ・センターが今月行った世論調査では、スターリンが果たした役割を肯定的に評価したのは49%、否定的に評価したのは32%だった。

1953年3月5日のスターリンの死を、恐怖と粛清の終わり、そして冤罪(えんざい)で有罪にされた多くの人々が強制収容所から解放された日と位置づけた人は55%。
一方、この日を偉大な指導者を失った日とした人は18%に過ぎなかった。

同じ世論調査で、第2次世界大戦で激戦が繰り広げられたロシア西部のボルゴグラードの都市名を、ソ連時代のスターリングラードに戻そうというロシア当局の提案に対しては、55%が反対していることがわかった。

2008~2012年に大統領を務めたドミトリー・メドベージェフ首相は、スターリンの遺産を否定的に捉え、脱スターリン路線を進めようとさえした。
一方ウラジーミル・プーチン大統領はスターリンについて自身の評価を明らかにすることを避けている。【3月6日 AFP】
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プーチン政権下で進むスターリン時代再評価
“プーチン大統領はスターリンについて自身の評価を明らかにすることを避けている”とのことですが、歴史教科書において“歴史の書き換え”作業を着実に進めているようです。

****独裁者や戦争肯定は愛国心養成? ロシア歴史教科書要領で論議****
2013年11月27日(水)
ロシアのプーチン政権が乗り出した学校用の統一歴史教科書づくりで、その指針として専門家らの策定した指導要領が論議を呼んでいる。

「愛国心」の養成を歴史教育の眼目と位置づける同要領が、過去の独裁者や戦争を肯定的にとらえているためだ。膨大な人的犠牲といった歴史の暗部を矮(わい)小(しょう)化する姿勢には「人や社会を軽視した国家至上主義が鮮明だ」との批判が強く、現政権による自己正当化の思惑が垣間見える。

プーチン大統領に提出された指導要領(80ページ)は、新たな教科書を通じ、愛国心と国民のアイデンティティー(自己認識)、諸民族の寛容さを育むことが必要だと強調。そのために、大祖国戦争(第二次大戦の独ソ戦)などでの「偉業」や「英雄的行為」に力点を置き、諸民族がロシア国家に加わることで得た利点を重視するよう求めている。

ソ連崩壊後のロシアは共産主義に代わって国民を束ねる理念を打ち出せず、民族間の関係も悪化している。2月に歴史教科書の統一作業を指示したプーチン氏には、自国の歴史に対する「誇り」を持たせることで、国民の一体感を創出する狙いがあったと考えられている。

そうした方向性は特に、ソ連の独裁者、スターリンの時代に関する評価に際立っている。
同要領は、スターリンの恐怖政治が確立していった1920~30年代について、「近代化が生活の全ての面に及んだ」と記述。30年代前半の農業集団化などに伴った300万~600万人の犠牲者数は原案から削除された。37~38年だけで約70万人が銃殺された大粛清についても、その規模には触れていない。

第二次大戦をめぐっては、独ソ不可侵条約の秘密議定書に基づくポーランド分割(39年)が開戦の端緒となったことが完全に捨象された。指導要領では「大祖国戦争」(41~45年)のくくりで、ドイツによるソ連奇襲から大戦が始まったかのように描かれている。

この戦争に伴う「社会の団結」は強調されている半面、スターリンによる少数民族の強制移住など苛烈な戦時体制については、言及すべき用語の項に列挙されているにすぎない。

45年8月9日の対日参戦は「同盟国に対する責務」と正当化。同月15日に日本が降伏した事実は無視し、「満州での作戦で関東軍を粉砕」「クリール諸島(千島列島と北方四島)を解放」などとしている。

現代史でどの時期までを扱うかには多くの議論があったが、結局、プーチン氏が通算3期目の大統領に就いた2012年までが対象とされた。00年以降の「プーチン時代」は、新生ロシアに安定と経済発展、国際的地位の向上をもたらしたと位置づけられている。

歴史問題に詳しいルイシコフ元下院議員は「国家は常に正しく、為政者は偉大だというのが指導要領の趣旨であり、帝政時代やソ連時代の公式史観と何ら変わらない。現政権の支持につなげるという政治的意図が明らかだ」と指摘。「このような歴史認識では国民の隷従的意識しか生まれず、民主主義社会の建設は不可能だ」と話している。

関係者によると、指導要領に基づく執筆者や出版社の選定を経て、統一教科書は早ければ14年中にも現れる見通しだという。【11月27日 産経】
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多くのイスラム教徒を抱えて、民族対立やテロなどの問題に苦しむロシアの事情はわかりますが、それは“愛国心”を鼓舞することではなく、国民一人一人の権利を尊重して平等な関係を構築していくことによって克服されるべき問題です。

中国の“愛国教育”の影響はよく指摘されるところですが、ロシア版“愛国教育”の弊害が懸念されます。

習近平:毛沢東の業績に疑問を持ってはいけない
一方、経済格差の拡大、不正・腐敗の横行で貧困層などの不満が高まる中国においては、毛沢東時代を懐かしむ動きが出ています。
それに伴い、毛沢東生誕120周年を前に、毛沢東時代の“歴史書き換え”が行われているようです。

****毛沢東時代の大飢饉は仕方なかった?  中国の歴史修正主義****
10月16日付米ニューヨーク・タイムズ紙は、Chris Buckley同紙記者の解説記事を掲載し、毛沢東生誕120周年を前に、中国では、大躍進の際の死者数を過小評価し、毛沢東の政策のせいではなく、自然災害で仕方なかったとする動きがあることを伝えています。

すなわち、1958年~1962年に中国を襲った飢饉は、2000~3000万人の犠牲者を出した史上最大の大惨事と言われ、毛沢東時代を決定づける災難の1つである。以来ずっと、中国共産党は、共産国家の創設者への崇敬の念を維持するため、この惨事を、検閲や婉曲表現で覆ってきた。

しかし、12月26日の毛沢東生誕120周年を前にして、毛沢東支持者や党の論客達は、長い間の公の沈黙を破って、彼らなりの解釈で被害程度を下げ、反対する歴史家を攻撃し始めた。彼らは、飢饉によって数千万人の死者が出たことを否定する。

党の機関紙「環球時報」は、数学者の言葉を引用し、大躍進の時期に栄養失調で亡くなった人は、最大250万人である、とした。それ以上の数字は、統計上の欠陥によるものであり、村から村へ移動した人達を重複して数えた、とする。

毛沢東に対する評価は、党にとっても重要である。何故なら、党は、革命的政策に、その起源があるからだ。そして、習近平主席は、前任者達よりも、自分の家族が毛沢東時代に苦しんだにもかかわらず、革命的遺産を護るのに熱心である。

大躍進は1958年に始まった。丁度、共産党指導部が、農村の大改革を行ない、労働力を動員して急速に中国を工業化しようという毛沢東の野心的政策を採用していた時だ。理論的には生産力が上がるはずだったが、急いで工場や人民公社を建設しても、結局、効率は上がらず、生産力は下がり始めた。

1959年までには、食糧不足が地方で起こり始めた。収穫は都市に吸い上げられてしまうので、農村では食糧不足は拡大し、飢餓が蔓延するようになった。批判する役人達は追放され、恐怖政治の雰囲気の中で、政策は継続され、大惨事が積み重なって、ようやく毛沢東は政策を放棄した。

元中国国防大学の歴史家は、「数字に関して学者間で意見の相違があっても、大躍進で大災害がもたらされた事実に変わりはない」と述べた。彼は、在職中の殆どを毛沢東時代の研究に費やしたが、彼の推定では、約3000万人が異常な死を遂げた。

72歳の歴史家で元新華社通信の記者Yang Jisheng(揚继绳)氏は、大躍進と飢饉の研究を『墓碑』(Tombstone)と題する本にまとめた。2008年に香港で中国語版が出版され、改定縮小・英語版が2012年に出版された。中国国内では発売禁止であるが、海賊版などで広く読まれている。この研究によって、彼は、長く中国国内で攻撃されて来た。

Yang氏によると、大躍進による暴力と食糧不足による死者数は3600万人に上る。彼は、50年以上前の大飢饉を否定するような動きは、最近の懸念すべき政治状況の嫌な前触れである、と言う。
「共産党の支配を護るには、何千万人が飢饉で亡くなったことを否定しなければならないのだ。党指導部は社会的危機を感じていて、その支配的地位を護るのは喫緊の課題である。それで過去の真実を回避する必要があるのだ」とYang氏は語った。

習近平の父、Xi Zhongxun(習仲勲)は、毛沢東の同僚であったが1962年に追放され、16年間の刑に服し、政治的屈辱を味わった。しかし、習近平は、家族の思い出ではなく、政治的判断によって、過去と向き合っている、と『墓碑』英語版の編者であるエドワード・フリードマン(ウィスコンシン・マディソン大学名誉教授)は言う。

1月、習近平は、役人達に、毛沢東の業績に疑問を持ってはいけないと訓示した。彼は、政治的たがを緩めることの代償として、繰り返し、ソ連崩壊を例に挙げた。

4月には、党支配への7つのイデオロギーの危険を明示した指令を発出した。その中には、「歴史ニヒリズム」が含まれる。すなわち、党の実績を批判して、「中国共産党の長期支配の正当性を否定すること」である。

フリードマン教授は、「彼らの偉大なる指導者は神聖である必要がある。そして、彼らには、古き良き過去が必要なのである。」と語った。(後略)【11月27日 WEDGE】
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****スフィンクス?巨大な毛沢東像、生誕120年前にお色直し****
中国の初代国家主席、毛沢東の生誕120年を来月に控え、中部湖南省の長沙では人気観光スポットとなっている毛沢東の巨大な頭像のお色直しが進んでいる。生誕120周年となる12月26日には、毛沢東の故郷の湖南省で盛大なイベントが行われる予定。【11月27日 AFP】
****************

大躍進政策については、“地方政府が誇大な成果を党中央に申告した結果、中央政府は申告に従って地方に農産物の供出を命じ、地方政府は辻褄あわせに農村から洗いざらい食料を徴発したため、広範囲の農村で餓死者続出の惨状が起きた”【ノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・セン氏の見解 ウィキペディアより】とのことですが、現在の地方政府による生産第1主義に共通するものがあり、過去を直視しないことが、共産党による同じ過ちを惹起しているように思われます。

また、毛沢東を担ぎ出すのは失脚した薄熙来などのニューレフトの特徴ですが、権力闘争で薄熙来を打倒した習近平国家主席自身も多分にそうした傾向に重なるものがあるようです。

いずれにしても、過去の犠牲、痛みは時間とともに薄れていきます。
そのようなときに、国家指導者が過去の負の側面を消し去り、自身が進めたい政策と共通する側面を肯定的に評価するような動きを見せ始めると要注意です。
ロシア、中国だけの話ではないことは当然です。
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EUとロシアのはざまで揺れるウクライナとモルドバ 

2013-11-28 23:32:26 | 欧州情勢

(11月26日 ウクライナ・キエフ 親欧米派による抗議 かつての「オレンジ革命」を思い出させるような光景でもありますが、その失望も経験した今、どこに向かうのか・・・ “flickr”より By Ivan Bandura http://www.flickr.com/photos/25100842@N08/11073887374/in/photolist-hSyyUE-hPqW8e-hSytaA-hSywAy-hSyuLb-hPq41X-hPpVri-hPqR6F-hUkXk4-hUkXgg-hMmK6K-hRJiVB-hNJkqF-hLh8Mf)

【「EUだけでなくウクライナ国民にとっても失望だ」】
東方拡大を進めてきたEUと、勢力圏再構築を狙うロシアの思惑がぶつかり合う場ともなっている旧ソ連のウクライナやモルドバの状況については、10月19日ブログ「旧ソ連諸国の独自の動き 圧力をかけるロシア」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131019)で取り上げました。

ウクライナについては、EU側が条件としていた職権乱用罪で服役しているティモシェンコ前首相の国外療養が認められる見通しで、ウクライナのEU接近、「連合協定」への署名が見えてきている・・・と書きましたが、土壇場になってロシア側が巻き返し、前首相の国外療養法案は否決され、「連合協定」への署名は延期されました。

****ウクライナ:前首相の出国認めず 国外療養法案を否決****
ウクライナ最高会議(国会に相当)は21日、職権乱用罪で服役しているティモシェンコ前首相の国外療養を認める法案を否決した。

前首相の出国は、ウクライナの欧州連合(EU)加盟に道を開く「連合協定」の条件としてEU側が求めていたが、これで28、29日にリトアニアで開かれるEU東方パートナーシップ首脳会議での協定署名は絶望的となった。

法案は前首相派などの野党が提案したが、採決でヤヌコビッチ大統領の与党「地域党」などが棄権し、賛成が過半数に届かなかった。

統領は2015年の次期大統領選をにらみ、政敵である前首相の「復権」につながる動きを懸念しているとされる。野党陣営は「大統領はウクライナの欧州統合を妨げている」と批判している。

旧ソ連のウクライナを「西側」に取り込みたいEUに対し、東の大国ロシアはウクライナに経済的な圧力をかけるなどして自国の勢力圏にとどめる工作を強めていた。【11月21日 毎日】
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今回決定の背後には、ウクライナのEU接近を嫌うロシアの強い圧力があったと見られており、EU側は「連合協定」への署名延期を決めたウクライナの決定に“失望”を表明しています。

****ウクライナに「失望」=協定署名延期で―EU****
欧州連合(EU)のアシュトン外交安全保障上級代表(外相)は21日、ウクライナがEUとの政治・経済関係を強化する「連合協定」への署名延期を決めたことを受け、「EUだけでなくウクライナ国民にとっても失望だ」との声明を発表した。

声明は「署名がウクライナの改革路線をさらに強化し、国際通貨基金(IMF)との新たな融資協議の弾みになっただろう」と強調。ロシアとの関係を重視したウクライナの決定には経済面でリスクがあると指摘した。【11月22日 時事】 
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一方のロシア・プーチン大統領は、圧力をかけているのはEUの方だと反論しています。


****EUがウクライナに圧力=ロシア大統領が反論****
ロシアのプーチン大統領は22日、ウクライナが欧州連合(EU)との署名延期を決めた「連合協定」に関して「(EUからウクライナへの)圧力と脅迫があった」と主張した。

隣国ウクライナのEU接近を嫌うロシアが署名を断念するよう圧力をかけたとされる中、EUを逆に批判した格好だ。【11月22日 時事】
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長期的な経済効果よりも、ロシアがもたらす目先の利益を優先
“(ウクライナ)ヤヌコビッチ政権は、EU市場が開かれることによる長期的な経済効果よりも、ロシアがもたらす目先の利益を優先した。”と見られるなかで、“親露派と親欧米派で国論が二分されるウクライナの行方はなお不透明”な情勢が続いています。

****ウクライナ、割れる国論 露圧力、EU統合見送り 「決定は戦術的なもの****
ウクライナが欧州連合(EU)加盟の前段となる連合協定(AA)の締結を見合わせた問題で、同国のアザロフ首相は22日、「決定はもっぱら経済的理由による戦術的なものだ」と議会で説明した。

旧ソ連諸国の経済統合を目指すロシアの圧力で当面は「東」にかじを切るものの、長期的な欧州統合路線には含みを残した形だ。親露派と親欧米派で国論が二分されるウクライナの行方はなお不透明だ。
                   ◇
ウクライナのヤヌコビッチ政権は、28~29日に行われるEUと旧ソ連諸国の東方パートナーシップ首脳会合で、自由貿易協定(FTA)を柱とするAAの締結を目指していた。

政権による突然の決定について、EUのアシュトン外交安全保障上級代表は「EUだけでなくウクライナ国民にとっても失望だろう」との声明を発表。スウェーデンのビルト外相もツイッターで「明らかに粗暴な圧力の政治が働いている」とロシアを批判した。

プーチン露政権は、ベラルーシやカザフスタンとともに形成している「関税同盟」を拡大し、2015年をめどに経済共同体「ユーラシア連合」を発足させたい考えだ。歴史的、民族的に深い結びつきがある域内第2の大国、ウクライナが加わらねば構想は大きな打撃を受ける。

ロシアは、ウクライナが関税同盟に加われば、自国産天然ガスの供給価格を大幅に引き下げると提示。EUとAAを締結すればウクライナ産品に「保護措置」を取ると警告してきた。

ウクライナの離脱によって、近くEUとAAを締結する可能性があるのはグルジアとモルドバだけとなり、露政界からは安堵(あんど)の声が出ている。

ウクライナ経済は、今年1~9月の国内総生産(GDP)が前年同期比で1・3%減となるなど低迷している上、同国の輸出は約4分の1がロシア向けだ。ヤヌコビッチ政権は、EU市場が開かれることによる長期的な経済効果よりも、ロシアがもたらす目先の利益を優先した。

ただ、ウクライナには、西部は親欧米派が優勢で、東部や南部にはロシアに共感する住民が多いという特色がある。親欧米派の野党は、政権がAA締結を見合わせたことを「大統領弾劾に値する背信行為だ」と激しく批判し、近日中に首都キエフで大規模な抗議デモを行いたい考えだ。

東部の工業地帯を支持基盤とするヤヌコビッチ政権も親欧米派を無視できず、無条件にロシアの勢力下に入る考えもない。

22日付の露有力経済紙、ベドモスチは「(ウクライナの決定は)プーチン氏の勝利だが、一時的なものだ。ウクライナは関税同盟に入らず、欧州統合路線を諦めることもないだろう」という識者の見解を伝えた。【11月23日 産経】
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【「オレンジ革命」以来の抗議デモ
ウクライナの首都キエフでは24日、親欧米派による、2004年の「オレンジ革命」以来最大規模のデモが行われました。一部では、治安当局との衝突も起きています。

****ウクライナ:首都で政府抗議集会 EUとの連合協定中止で****
ウクライナの首都キエフで24日、欧州連合(EU)との関係を緊密化する「連合協定」の署名見送りを決めた政府に抗議する大規模集会が開かれた。参加者の一部は25日も抗議行動を続け、政府庁舎前で警官隊と衝突する騒ぎに発展した。

24日の集会は同国の欧州統合を目指す野党陣営が呼びかけたもので、約5万人が参加。これだけ多数が繰り出すのは2004年の民主化運動「オレンジ革命」以来という。

参加者はウクライナとEUの国旗を掲げ、「ウクライナは欧州だ」とアピール。野党指導者で服役中のティモシェンコ前首相の長女エフゲニヤさん(33)は、ロシアとの関係を重視するヤヌコビッチ大統領が連合協定に署名するまでデモを続けるよう呼びかけた。

野党内ではアザロフ首相率いる内閣の総辞職やヤヌコビッチ大統領の弾劾を求める声も出ている。

署名見送りについては、協定を働きかけてきたEU内で失望感が広がっているほか、ケリー米国務長官が12月上旬に予定していたキエフ訪問を取りやめるなど波紋を広げている。

ウクライナ政府の決定の背景にはロシアの圧力があったとされ、親欧米派のユーシェンコ前大統領は24日、「旧ソ連諸国の統合を進めるロシアはあらゆる手段を使ってウクライナを取り込もうとしている」と警戒感を示し、EUに支援継続を求めた。【11月25日 毎日】
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また、拘束中のティモシェンコ前首相は、「連合協定」締結を求める無期限のハンガーストライキを始めたと報じられています。

こうした緊迫した情勢の中で、旧ソ連諸国と欧州連合(EU)との関係強化を協議する「東方パートナーシップ首脳会合」が28日から始まり、ウクライナのヤヌコビッチ大統領も出席しています。

****東方パートナーシップ首脳会合開幕 締結見送りのウクライナ大統領も出席****
旧ソ連諸国と欧州連合(EU)との関係強化を協議する「東方パートナーシップ首脳会合」が28日、リトアニアの首都ビリニュスで開幕する。

初日の夕食会には、EU加盟の前段となる連合協定(AA)の締結作業を直前に凍結させたウクライナのヤヌコビッチ大統領も出席し、英独仏の首脳らと今後の交渉のあり方などについて話し合う。

ウクライナの凍結決定ついて、EU側は「ロシアの圧力があった」と指摘。対して、露側はウクライナの独自の選択にすぎないと反論し、EU側に批判を差し控えるよう要求している。

会合では、EU側がAA締結の条件としていたヤヌコビッチ大統領の政敵で服役中のティモシェンコ前首相の釈放をめぐる問題についても、協議されるとみられる。
ウクライナ国内では前首相の恩赦などを求める野党デモが続いており、警備が強化されている。

一方、欧州統合に向け国内調整を続けてきたグルジアとモルドバは今回の会合で、AAや自由貿易協定(FTA)などで仮調印する見込み。露紙独立新聞は28日、EUは、モルドバとビザ免除協定を結ぶ準備を進めていると報じた。【11月28日 産経】
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モルドバでは親ロシア派の抗議デモ
“グルジアとモルドバは今回の会合で、AAや自由貿易協定(FTA)などで仮調印する見込み”とありますが、モルドバでもロシアによるワイン輸入禁止などの圧力がかかるなかで、ロシア支持勢力による抗議行動が強まっています。

****欧州統合 揺れるモルドバ 締結準備を継続/親露派反対デモ****
リトアニアで28日に開幕する旧ソ連諸国と欧州連合(EU)の東方パートナーシップ首脳会合を前に、EU加盟の前段となる連合協定(AA)などの仮調印を目指すモルドバが揺れている。

ウクライナがAA締結作業を停止する中、モルドバは準備を継続。一方で親露派の共産党系は大規模な反対デモを起こしている。

2009年の議会選でモルドバ共産党を下野に追い込み連立内閣を組んだ欧州統合派の現政権は、今回の会合でAAと自由貿易協定に仮調印し、来年に本署名することを目指している。
締結は長くこの国を影響下に置いてきたロシア(旧ソ連)の地域圏から脱することを意味し、「歴史的大転換」(専門家)とされる。

モルドバからの報道によると、21日にウクライナがAA締結の作業を停止すると、モルドバのリャンカ首相は「隣国ウクライナの決定を尊重するが、われわれは欧州統合への選択をすでに決定している。方針に変わりはない」と強調した。

対するロシアは、モルドバの特産品であるワインを輸入禁止にするなど圧力をかけている。24日には首都キシニョフで数万人規模の協定締結反対デモが開催された。共産党党首のウォロニン元大統領は演説し、ロシアとの関税同盟を締結した方が、「より大きな成功が得られる」と訴えた。

一方、モルドバと統一国家の歴史があり、言語もほぼ同一の隣国ルーマニアはすでにEUに加盟。天然ガス供給計画を進めるなど、モルドバ現政権の欧州統合路線を支持してきた。
ルーマニアのバセスク大統領は「今回の首脳会合は(EU加盟への)チャンスにすぎない」と述べ、来年の本署名に向けてEUとロシアの駆け引きが激化し、モルドバが正念場を迎えるとの見方を示している。【11月28日 産経】
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ウクライナ、モルドバともに、長期的にはEUとの関係強化による市場拡大がメリットがありますが、ロシアに大きく依存する現在の経済状況にあっては、ロシアとの関係も重視せざるを得ない経済事情、更に、国内において親ロシア派と親欧米派が対立する政治事情から、悩ましい状況が続いています。
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南アフリカ  大統領の「豪華過ぎる邸宅」写真公表が論議を呼ぶ「情報保護法案」

2013-11-27 23:30:54 | アフリカ

(ズマ大統領の「豪華過ぎる邸宅」写真を掲載する南アフリカメディア 右下はズマ大統領 【12月3日号 Newsweek日本版】)

日本では特定秘密保護法案が今日あっさりと衆議院を通過しましたが、南アフリカでも「国家機密」に関する情報保護法案が注目されています。

【「見てはいけない」「さあ、逮捕してみろ」「禁じられた写真」】
南アフリカでは情報保護法案が2011年11月に下院でいったん可決されましたが、世論の強い批判もあって、公共の利益になる情報の暴露なら免責することなどの改正が上院で加えられ、今年4月下院があらためて採決、ズマ大統領の署名待ちになっています。

****南ア:情報保護法案、大統領署名に注目****
報道の自由を巡り、南アフリカでも政府とメディアが激しく対立している。「国家機密」を暴露した者に最長で禁錮25年を科す情報保護法案が今年4月に国会を通過し、ズマ大統領が署名し成立するかに注目が集まる。

こうしたなか、政府閣僚が大統領私邸の写真報道は「法律違反」と発言し、反発した複数の有力紙が一斉にこの写真を1面に掲載して対決姿勢を鮮明にした。

白人政権によるアパルトヘイト(人種隔離)体制下、反体制的な報道に対し厳しい締めつけがあった南アでは、1994年の民主化後、報道の自由を保障。活発なジャーナリズムは、政界の汚職などをたびたび追及し、政権幹部らを失脚に追い込んできた。

だが、与党「アフリカ民族会議(ANC)」は情報保護法案を提出、2011年に国会で可決された。
法案は「報道の自由を侵害する秘密法案だ」と世論の猛反発を受けて一部修正されたが、再提案され、今年4月に再度賛成多数で可決された。
野党や反対派市民らは、法制化によって汚職や不正を暴く調査報道が萎縮する可能性などを懸念している。

与党ANCは、ネルソン・マンデラ元大統領が率い、黒人解放闘争下で報道の自由の欠如に苦しんだ経験を持つ。自由を勝ち取った後、なぜ規制を目指すのか。

有力紙メール・アンド・ガーディアン紙の元編集長、アントン・ハーバー・ウィットウォーターズランド大教授は「与党のなかには、内部からの情報漏えいにうんざりしている者がいる。我々の社会が持つ強いジャーナリズムに待ったをかけたいのだ」と解説する。(後略)【11月26日 毎日】*******************

その南アフリカで、「国家機密」にあたるのかどうかの具体例としてクロースアップされているのが、ズマ大統領の「豪華過ぎる邸宅」の写真公表の問題です。

****ズマの豪邸をめぐる報道バトル****
南アフリカの新聞各紙は先週、クワズールー・ナタール州にあるズマ大統領の邸宅の写真を一斉に掲載した。与党・アフリカ民族会議(ANC)の「禁止令」を無視した行動だ。

今も数百万人が粗末なバラックで暮らす南アフリカでは、大統領の「豪華過ぎる邸宅」が議論の的になっている。ズマの地元ンカンドラにある豪邸は専用ジムやヘリポート、ミニサッカー場付き。家畜舎だけでも建設に9万8400ドル掛かったと言われている。
さらに昨年には、2800万ドルの公費を投じて改修が行われたと報道された(ズマ本人は疑惑を否定)。

ANCは先週、ズマ邸の写真公開は「違法」であり、違反者は訴追される可能性もあると発表した。

「こちらは『やめてほしい』と丁重にお願いしている立場だ」と、クウェレ国家安全保障相は記者団に語った。「ホワイトハウスの警備体制を撮影した写真が公開されることはない。この点は、どんな民主主義国家でも同じだ。今のメディアのやり方は受け入れられない」

ムテトゥワ警察相は、ズマ邸の写真公開は「機密扱い」の「警備体制」の漏洩に当たる可能性があると説明した。

これに対して南アフリカ全国編集者フォーラムは、写真の公開がズマ邸の警備を危機にさらすことはないとして、今後も掲載を続けると声明で発表した。

「(写真公開は)国民の強い関心の対象になっていると確信する。残念ながら、閣僚たちは法律を盾にして、邸宅改修疑惑をめぐる説明責任から逃げているように見える」

メディアはズマ邸の警備状況が分かる写真を公開したことはないと、同フォーラムのムプメレロ・ムカベラ議長は言う。
「(大統領が)執務時間の大半を過ごす政府庁舎の写真を公開禁止にするようなものだ」

「禁止令」の翌日、新聞各紙が掲載したズマ邸の写真には、「見てはいけない」「さあ、逮捕してみろ」「禁じられた写真」といった挑発的な見出しが付けられていた。【12月3日号 Newsweek日本版】
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現地紙は社説で「我々は写真掲載を続ける。止めることは民主主義の監視役という責務への背信行為となる」と明言しています。

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ズマ大統領の邸宅については、安全面拡充の名目で改装などに多額の公金が使われた、との疑惑があり、南アメディアが追っていた。

21日、クウェレ国家安全保障相が国家安全保障に関する法律に照らせば「メディアも含めて写真撮影・公表は許されない」と述べ、大統領私邸の写真報道は違法との見解を示した。

この発言を受け、有力紙タイムズは22日、1面に私邸の全景写真を掲載し「じゃあ、我々を逮捕しろ」との大見出しを載せた。
さらに社説で「我々は写真掲載を続ける。止めることは民主主義の監視役という責務への背信行為となる」と明言した。

南ア紙の反発をBBC放送(電子版)など海外メディアも報道。
政府報道官は22日、声明で「写真掲載自体は問題ないが、(私邸の)安全面の特徴を報じることは大統領へのリスクとなる」とトーンダウンに追い込まれた。

南アでは6月、国家機密の必要性を認める一方で、情報公開の原則への配慮を求める国際的指針「ツワネ原則」が世界の専門家によって作成された。

同原則によれば、秘密は国防計画や兵器情報などに限定し、情報開示による公益が秘密保持の公益を上回る場合、内部告発者は保護される。【11月26日 毎日】
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日本の崇高な理念に基づく特定秘密保護法案と、南アフリカの「豪華過ぎる邸宅」の問題を同一レベルで論じるのは不見識だと、安倍首相は怒るでしょうが・・・・。
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タイ  繰り返される“不毛の対立” 反タクシン派、省庁占拠で政権を揺さぶる

2013-11-26 23:21:41 | 東南アジア

(26日バンコクの反政府デモ  ホイッスルが必需品のようです。 “flickr”より By ilovemonkeys http://www.flickr.com/photos/ilovemonkeys/11043523123/in/photolist-hPRdBa-hPSWF6-hPTDBp-hPRNSU-hPT1yZ-hPNKC5-hPQ63H-hPP9dL-hPU46Q-hPQRUE-hPPvS6-hPQr4h-hQBabL/)

【「タクシンは出ていけ。軍は介入せよ」】
このブログでも何回も取り上げているように、タイではタクシン元首相を支持する勢力と、反タクシン勢力が国を二分する対立が続いています。

タクシン元首相の妹でもあるインラック首相は、汚職で有罪となり現在国外に逃れている兄タクシン氏の帰国も可能となる恩赦法の制定を試みましたが、下院は通過させたものの、世論の強い批判もあって上院では否決され、インラック首相も廃案とする結果となっています。

インラック政権の恩赦法制定の動きに反発した反タクシン派の抗議活動は、同法案廃案後も政権打倒を目指す行動として拡大しています。
これに対抗する形で、タクシン支持派の活動も起きており、緊張が高まっています。

****タイ首都で大規模な反政府デモ、財務省を占拠****
タイの首都バンコクで25日、インラック・シナワット首相の退陣を求める数万人規模の抗議デモが行われ、デモ隊の一部が財務省の建物に突入し占拠した。デモ隊は他の官公庁ビルも占拠すると警告している。

インラック首相と、汚職で有罪となり現在国外に逃れている兄のタクシン・シナワット元首相に対する抗議デモは、死者90人以上を出した2010年の反政府デモ以来最大の規模にまで膨れ上がっている。

警察の推計では3万人が参加。デモ隊は市内各地で省庁や軍・警察の拠点、テレビ局などへ向かって行進しており、一部は「タクシンは出ていけ。軍は介入せよ」とのシュプレヒコールを叫んでいる。

タイでは立憲革命により立憲君主制が確立した1932年以降、軍が政変に介入する事態が18回にも及ぶ。

バンコクでは、インラック政権がタクシン元首相の帰国に道を開く恩赦法案を提出したことから、ここ数週間にわたって野党主導の反タクシン派デモが続いている。

24日には9万人以上がデモ行進。これに対しタクシン支持派の通称「赤シャツ隊」も同日夜にインラック首相の支持を訴える集会を開き、約5万人が参加するなど緊張が高まっている。【11月25日 AFP】
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過激化する反タクシン派の行動に対し、政府はバンコク全域と周辺県の一部に治安維持法を適用すると発表しています。

****首都に治安維持法適用 タイ反政府デモで緊迫****
タイの首都バンコクで反政府デモを続ける野党・民主党を中心とする勢力は25日、財務省などのビルを占拠し、外務省でも座り込みを始めるなど、行動をエスカレートさせた。
この事態を受け、インラック首相は同日夜、バンコク全域と周辺県の一部に治安維持法を適用すると発表した。

同法は検問の設置や市民の移動規制など警察が混乱予防措置をとりやすくする法律で、これまでも首相府や国会の周辺などに適用されていた。
首都全域への適用は極めて異例で、政府が対抗措置を強く打ち出した形だ。デモ参加者との間で緊張が高まる恐れがある。

26、27日に下院でインラック氏らに対する不信任動議の審議・採決が予定されていることから、デモ隊はこれに合わせて混乱を引き起こし、政権に圧力をかけたい考えとみられる。

地元メディアなどによると、デモ隊は25日朝、政府機関や軍、テレビ局など13カ所に向かってデモ行進を開始。一部は夕方までに解散したが、デモを率いる民主党のステープ元副首相の一団約2千人は財務省ビルなどに入り、すべての部屋で座り込んだ。
その後、学生を中心とするデモ隊約2千人が外務省の敷地内になだれ込み、駐車場などに居座った。

インラック首相は財務省の占拠後、記者団に「こうした行為はタイの国際的信用を傷つける」と退去を呼びかけた。しかしその後、外務省にも混乱が広がり、治安維持法適用拡大を決めた模様だ。

警察は今のところデモ隊の排除には動いていないが、同法適用後はいつまでも放置できないとみられる。
バンコク中心部の民主記念塔で開かれてきた反政府集会への参加者は24日、一時十数万人規模に達したが、25日朝には5万~6万人に減っていた。【11月26日 朝日】
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反タクシン派は財務省に加え、新たに、農業、観光、運輸の3省庁を占拠。
一方、当局は26日、デモを率いる野党・民主党のステープ元副首相に対し、財務省への不法侵入などの容疑で逮捕状を取っています。

****反タクシン派の反政府デモ 新たに3省庁占拠****
タイの首都バンコクで反政府デモを激化させる反タクシン元首相派は26日、前日から占拠を続ける財務省に加え、新たに、農業、観光、運輸の3省庁を占拠した。

政府機能のマヒは必至で、タクシン氏の妹のインラック政権は2011年8月の発足以来、最大の危機を迎えている。

反タクシン派は財務省敷地内に特設ステージを設置し、約3000人がインラック政権打倒を訴え座り込みを続けた。

25日に外務省敷地を占拠したデモ隊は引き揚げたが、新たに3省庁を占拠し、内務省を取り囲んだ。
反タクシン派の報道担当者は「明日(27日)は全国規模に運動を拡大する」と話しており、事態が収束に向かう気配はない。

政府は25日夜に治安維持法の適用を首都全域に拡大。警察当局は26日、デモを率いる野党・民主党のステープ元副首相に対し、財務省への不法侵入などの容疑で逮捕状を取った。
ただ、デモの強制排除など強硬手段に出れば政権批判がさらに強まる恐れがあり、政府は慎重な対応を迫られている。

一方、タイ下院は26日、インラック首相に対する不信任案の審議を始めた。反タクシン派のデモは国会審議に圧力をかける狙いもあるとみられる。【11月26日 毎日】
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2008年11月におきた反タクシン派による空港占拠や、2010年5月の強制排除で日本人カメラマン村本博之をはじめ、一般市民約90人が死亡することになったタクシン支持派による9週間に及ぶバンコク中心街占拠など、これまでの経緯をみると、政権側も容易には強硬手段には出られないと思われます。

2010年5月の強制排除で多数の死者を出した当時のアピシット首相(民主党)は殺人罪で起訴されています。
治安維持法を拡大したインラック首相は、今のところは「力に頼らない」と述べて、強制排除の可能性は否定しています。

インラック首相に対する不信任案の下院審議の結果報道はまだ目にしていませんが、与党が多数を占めていますのでおそらく否決されるのでしょう。
ただ、それではなかなか収束しないように見える反タクシン派の抗議行動です。

【「誰の手にも負えず、誰も新たな道を示せない。共通の土台がないんだ」】
何度も繰り返されるタクシン・反タクシン両勢力の実力行使ですが、政権が強行した恩赦法が廃案になったことでタクシン元首相の帰国は当分は難しくなったように思えます。

****恩赦ごり押しはタクシンの大誤算****
タイ 亡命中の兄の帰国・復権に道をつけるインラック首相の「国民和解」策は頓挫  混迷が続くこの国に最も必要な改革とは

タイのインラック・シナワット首相は11年の総選挙で勝利したとき、繁栄と国民の和解を目指すとフェイスブックで誓った。
だが、今の情勢では目標達成はとても望めない。

インラックは汚職などの罪で実刑判決を受けて国外逃亡中の兄タクシン・シナワット元首相の帰国・復権につながる包括的な恩赦法の成立を目指した。
しかし上院審議を目前にした今月5日、首都バンコクで少なくとも1万人が集会とデモに参加するなど抗議のうねりが広がった。

インラックは「国民が許すことを学べば、この国は前進する」と訴えたが、騒ぎは収まらず、政治危機の再燃が懸念される事態になった。

国民の怒りに押される形でインラックは7日、「恩赦法案は終わった」と官言。
法案を全面的に撤回した。

タクシン派と反タクシン派の対立がタイ政治を混迷に陥れてから7年余り。インラックの4年の任期も半ばを過ぎたが、混乱収束の兆しは見えない。

恩赦法阻止では、反タクシン派のアピシット前政権で副首相を務めた野党民主党のステープ・トゥアクスパン議員が旗振り役となり、バンコクの民主記念塔に多数の市民が結集した。

恩赦法が成立すれば、タクシンの資産460億バーツ(約1448億円)の凍結が解除される可能性もあった。
バンコクのビジネス街シーロム地区ではビジネスマンたちが法案に抗議して目抜き通りを封鎖。株式市場も混
乱に嫌気し、4日の取引終了時点ではタイ企業の時価総額のうち7億7675万バーツ(約24億4400万円)が泡と消えた。
抗議の声が全土に広がるなか、タイの名門大学25校をはじめ、多くの民間機関も法案に抗議する声明を発表した。

インラック政権と与党タイ貢献党が法案をごり押ししようとしたことが、タクシン派の強力な支持基盤に修復不能なダメージを与えた可能性もある。

最貧地域であるタイ北東部はタクシン派の牙城で、11年の総選挙ではタイ貢献党が圧勝した。
だが、この地域で最近実施された世論調査では、恩赦法に反対する人は46・6%に上り、賛成派は31・6%にすぎなかった。

恩赦法は下院では今月1日に野党のボイコットを押して強行採決され可決した。
このとき与党議員は全員賛成票を投じたものの、内心では反対の議員も多かった。

実際タクシン派の中心的な実動部隊「赤シャツ隊」はこの法案に反対し、下院での採決を前にタクシンの「適切な」
復帰を望むと声明を発表。恩赦で罪を水に流すことを暗に批判した。

不毛な報復合戦が続く
赤シャツ隊のメンバーは、タクシン失脚後に政権の座に就いたアピシット・ウェチャチワ前首相の断罪を強く求めている。

10年4月と5月にタクシン派のデモを鎮圧するため軍隊が出動し、赤シャツ隊のメンバーなどに90人余りの死者が出た。この責任を問われアピシットとステープは先月末に殺人容疑で起訴されたが、恩赦法が成立すれば2人の起訴も取り下げられることになる。

これについては、恩赦法成立を目指すインラック政権が反タクシン派の譲歩を引き出すための交渉カードにしようと、殺人容疑での立件を急いだとの見方もある。

だが、赤シャツ隊をはじめタクシン派はアピシットらが恩赦の対象になることに反発。タクシンの息子パントンテもフェイスブックに10年のタクシン派「虐殺」の罪をもみ消すことは許せないと書き込んだ。

身内からも逆風が吹き荒れるなか、インラックとタクシンは恩赦法の意義を必死で訴えた。
「いずれ一線から退くわれわれ(対立世代)が国家の利益を顧みず権力闘争を続ければ・・・傷つき衰弱した国で後を継ぐ子供たちの世代が生きることになる」と、タクシンは下院の採決を前にシンガポールのタイ字新聞で訴えた。

だが恩赦法は上院に上程されても成立は危うかった。さらに、上院が可決しても、裁判で違憲性が問われ無効になる可能性があった。

インラックとタクシンに誤算があったのではないか。
この法案でタクシン人気が試され、国民がタクシンの復権にノーを突き付ける結果になった。

一方、反タクシン派は少なくとも表面上は抗議の高まりで勢いを得たかに見える。ステープは民主記念塔での集会を率い、アピシットもシーロム地区での抗議運動を主導した。

とはいえ、実際のところ恩赦法に抗議した人たちの多くは、インラックをタクシンの操り人形にすぎないとして批判する一方で、ステープとアピシットにも不信感を抱いていた。

結局のところ、恩赦法騒動で誰も得しなかったと、タイのタマザート大学のタネット・アポンスワン教授はみる。タクシン派と反タクシン派の不毛な報復合戦は終わりそうもない。

インラックも和解に貢献できず、恩赦法に国民が猛反発したことから、タクシンが帰国すれば事態はさらに悪化するだろう。「誰の手にも負えず、誰も新たな道を示せない。共通の土台がないんだ」とタネットは言う。(後略)【11月19日号 Newsweek日本版】
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タクシン支持地域や赤シャツ隊においても“タクシン帰国”のゴリ押しには抵抗があるというのは、興味深いところです。

国民和解のためには、タクシン元首相には“過去の人”になってもらう必要があります。
それでも、赤シャツ隊のアピシット前首相への恨みに見るように、両勢力の和解には道筋が見えません。

いつも言われるのは、従来はタイ政治の混乱を調停してきた国王が高齢となり、ほとんど前面にでなくなったことで、和解が更に難しくなっているということです。

街頭での実力行使で政権を揺さぶるという不毛の対立から抜け出すには、国王の権威に頼らない民主主義の確立が求められていますが、その道がどこにあるのか・・・・軍に介入を求めるのは安易に過ぎます。
国民的人気も高かったインラック政権の恩赦法ゴリ押しで、更に混迷が深まったようです。
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イラン核問題 「第1段階」措置の合意

2013-11-25 22:33:11 | イラン

(テレ朝news http://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000016684.html)

双方の不信解消に向けた一歩
イラン核問題をめぐる「第1段階」措置の合意内容は、以下のように報じられています。

****イラン核、濃縮制限合意 経済制裁一部を緩和****
スイス・ジュネーブで20日から続いていたイラン核問題をめぐる協議で、国連安全保障理事会5常任理事国にドイツを加えた6カ国とイランは24日未明、核問題の包括的解決に向けた「第1段階」の措置で合意した。

イランは軍事転用が懸念されるウランの濃縮活動などを制限する一方、6カ国は同国への経済制裁の一部を緩和する。2006年から続く核協議で本格合意に至ったのは初めて。双方の不信解消に向けた一歩となる。

オバマ米大統領は合意を受け、「初めてイランの核計画の進展を止めた」と意義を強調。イランのロウハニ大統領は「新たな展望を開くものだ」と評価した。

第1段階の実行期間は6カ月。米側発表では、イランは
5%超のウラン濃縮活動を停止
保有する20%の濃縮ウランを軍事転用が困難な形に加工
プルトニウム抽出につながるアラクの研究用重水炉建設を中断
(4)国際原子力機関(IAEA)にナタンツ、フォルドゥの濃縮施設への徹底した査察を容認-する。

一方、6カ国側は、
金・貴金属類や石油化学製品の取引制限を一部停止するほか、イランが石油販売関連収入のうち最大42億ドル(約4200億円)の送金を受けとることを認める。
制裁緩和は総額約70億ドル(約7千億円)相当。イランが合意を順守する限り、6カ月間は追加制裁を科さない。

今回の合意は暫定的なもので、「第1段階」以降の具体的な取り組みについては示されていない。

これまでの協議ではイランがウラン濃縮の権利を主張、核兵器開発を疑う欧米が反対してきた。
米側が発表した今回の合意内容には、イランが求めていたウラン濃縮の権利は明記されていないものの、6カ国側は、5%までの低濃縮ウランの製造は事実上容認した。【11月25日 産経】
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【「核開発はとにかく金がかかる。縮小は一石二鳥だ」】
今回の合意に至った背景に、国連および欧米側の経済制裁によるイラン経済の疲弊があることは周知のとおりです。

****イラン核合意 ロウハニ政権“成果****
米欧など6カ国との今回の合意でイランのロウハニ大統領は、最低限のウラン濃縮活動を認めさせることで面目を保ちつつ、本格的な制裁緩和に一応の道筋をつけた。

就任から約3カ月半で「外交的成果」を挙げたことは政権基盤の強化につながるとみられるが、米欧を敵視する国内の強硬保守派の反発を抑えながら、今後も合意を積み重ねていけるかは不透明だ。

 ◆制裁緩和に道筋
「神の恩寵(おんちょう)と国民の支持が協議の成功につながった」。イランのメディアによると、最高指導者ハメネイ師は24日、こう述べて合意内容を歓迎した。

イランに対しては国連安全保障理事会が4度の制裁決議を採択しているほか、米国や欧州連合(EU)が金融や石油産業への制裁を科している。
原油輸出は現在、2012年初めの半分以下に低下、この期間の損失額は800億ドル(約8兆円)超とされる。通貨下落に伴うインフレも深刻だ。

こうした状況が、今年6月の大統領選で、制裁緩和の実現を掲げる穏健保守派のロウハニ師の当選につながった面は大きい。
米国を「敵」とみるハメネイ師が、核交渉ではロウハニ師の対話路線を支持した理由もここにある。

強硬保守派が多数派の議会も、世論の後押しを受けるロウハニ政権の外交政策を見守る姿勢をおおむね維持。
ラリジャニ議長は今月上旬、日本の岸田文雄外相との会談で政権を支える考えを繰り返し強調した。

 ◆譲歩なら弱腰批判
一方で、核エネルギーの自給自足体制は大国を自任するイランの宿願だ。

一部核施設への日常的な査察受け入れなど、合意で義務づけられた項目に反発が出る可能性もあるほか、今後の交渉で制裁緩和を急いで安易な譲歩をみせれば、議会から「弱腰」との批判を受けることも考えられる。【11月25日 産経】
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単にイラン経済が疲弊しているから制裁解除を・・・という以上に、イランにとって核開発そのものが重荷になっており、開発負担を外国に肩代わりさせる形で開発規模を縮小したい・・・との思惑があるとのことで、興味深いところです。

****イラン譲歩、陰に財政難 前政権の核開発、重荷****
23日、各国外相が集い、最終調整がおこなわれたイランと米英独仏中ロ6カ国の核協議。イランと関係各国が歩み寄る背景には何があるのか。

関係6カ国との核協議でイランが柔軟な譲歩姿勢を見せる背景には、同国の深刻な財政難がある。
イランの歳入は7割以上が原油収入。米国が2011年の制裁で各国に「米国かイランか」の踏み絵を迫ると、大量に原油を買っていた日本や中国も輸入を制限し、輸出量は6割減った。

そんななか、アフマディネジャド前政権は核施設やウラン濃縮活動の拡大を続けた。核関連施設の稼働や維持のコストは増大し、大きな負担になった。

交渉の席で口にはしないが、6カ国から核開発の縮小や中断の要求をされたことは、イランには渡りに船だった。イラン政府関係者は「核開発はとにかく金がかかる。縮小は一石二鳥だ」と打ち明けた。

ロハニ大統領が8月に就任すると、政権内ではすぐに核開発の譲歩案が浮上した。この関係者によると、国際社会との融和を目指すというよりは、ウランの濃縮や燃料棒化など、核開発にかかるコストを他国に負担させるという発想が端緒になったという。

首都テヘランには研究炉があり、医療用アイソトープをつくっている。20%濃縮ウランが必要で、国際原子力機関(IAEA)の11月報告書によると、イランは196キロを貯蔵する。だが、燃料棒の形にしないと使えない。これには膨大な費用が必要だ。

そこで、核開発の監視を名目に、燃料棒化を他国に代替させる案が浮上した。相手国としてロシアを想定。
別に保有する5%以下の低濃縮ウランを20%に濃縮することも肩代わりさせるつもりだったという。

ただしイランは、低濃縮ウランの生産継続には強くこだわる。核技術の向上は国の基本政策で、米欧への融和を嫌悪する国内の強硬派を説得するためにも重要だからだ。(後略)【11月24日 朝日】
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双方が都合よく解釈
“イランには渡りに船だった”という事情なら、交渉はもっと簡単にまとまってもよさそうにも思えますが、実際のところは“低濃縮ウランの生産継続”をめぐって、かなり緊迫した展開もあったと報じられています。

****核協議 合意背景に1本の電話****
イランの核開発問題を巡るイランと欧米など関係6か国の協議で、最終段階で行き詰まっていた交渉を一気に合意へと動かしたのは、6か国側の外相が対応を協議するなかで、イランの交渉関係者からかかってきた1本の電話であったことが関係者の証言で明らかになりました。

スイスのジュネーブで行われた核開発を巡るイランと欧米など関係6か国との協議は、5日間にわたるマラソン協議の末、24日未明、イランの核開発を制限する見返りに、制裁の一部を緩和する第1段階の措置で合意しました。

しかし、交渉関係者によりますと、23日に6か国の外相が現地入りした時点では、大半の部分では合意がまとまっていたものの、イランが強く主張したウラン濃縮の権利を認めるかどうかなどを巡って溝が埋まらず、協議は最終段階で行き詰まっていました。

そのまま24日未明に入り、EU=ヨーロッパ連合のアシュトン上級代表と、6か国側の外相が集まって対応を協議していたところ、突然、イラン側の交渉関係者から1本の電話があり、この電話によって6か国側は合意できると確信したということです。

電話の内容は明らかにされていませんが、今回の合意文書では第1段階の措置としてはイランにウラン濃縮の権利を認めると明記していない代わりに、包括的な解決策となる最終段階の措置についての部分に条件付きで濃縮活動を認めると記してあり、こうしたぎりぎりの駆け引きが、初めてとなる合意につながったとみられています。【11月25日 NHK】
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この玉虫色の合意については、
“イランが「譲れない一線」として求めたウラン濃縮活動の「権利」は、米側が発表した合意内容には明記されなかったが、5%までのウラン濃縮活動に関しては事実上、保有量を制限した上で“黙認”した。

イランのロウハニ大統領はこれを踏まえ、「権利が認められた」とし、ケリー氏は「権利があるとはしていない」と否定。合意ではあいまいな形で双方が歩み寄ったのが実情だ。その扱いは今後も最大の焦点になるとみられる。”【11月25日 産経】とも。

****米・イラン、重ねた譲歩 核協議、制裁一部緩和で合意 濃縮巡る解釈にずれも****
・・・・争点の一つは、3・5%以下の低濃縮ウランの生産だった。米国はすべてのウラン濃縮活動を6カ月間停止するよう求めたが、民生用核開発を国の基本方針に据えるイランは反発。生産の継続に加え、ウラン濃縮の権利を認める文言を合意文書に盛り込むことにこだわった。

結局、文言は文書の中に入らなかった。

ケリー氏は合意後の会見で「(文書は)イランにウラン濃縮の権利があるとは書いていない。どんな解釈がされようともだ」と強調。

一方、ザリフ氏は「核開発の権利が認められた」とし、文言がない理由を「核不拡散条約(NPT)で認められた権利で、あえて書く必要がない」と説明した。

双方が都合よく解釈できる余地を残したもので、ともに譲歩したことがうかがわれる。

背景に、両国の接近を望まない勢力をともに抱えている事情がある。
米国は議会、サウジアラビアなど湾岸諸国やイスラエルだ。イランはイスラム体制の擁護を任務とする軍事組織・革命防衛隊など強硬派が融和を嫌う。米国もイランも譲歩したのは相手方だと示す必要があったとみられる。(後略)【11月25日 朝日】
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衝突する互いの利害の調整が外交交渉ですので、ときにこうした、お互いが都合のいいように解釈する“玉虫色の合意”も必要になります。
そこを明確化せよと迫れば、交渉が破たんし、世界の安定は崖から転落することにもなります。

なお、現段階での合意では“玉虫色”ですが、発表された「共同行動計画」では、最終着地地点について明記されています。

****限定的な濃縮容認=平和目的の証明で―イラン核協議****
米国務省は24日、イランの核開発問題をめぐって欧米など6カ国とイランが合意した「共同行動計画」を公表した。行動計画は、最終的に核開発が平和目的であると証明されれば、同国に限定的なウラン濃縮活動を認め、国連安保理による全ての制裁を解除すると明記している。

行動計画は、核協議の目標について「イランの核開発計画が完全に平和目的であることを証明する包括的な解決を得ること」と規定。包括的な問題解決によって、イランは核拡散防止条約(NPT)の下で「核の平和利用の権利」を享受できるとしている。【11月25日 時事】 
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米議会、懸念や批判噴出
ただ、アメリカ議会のイラン不信は強く、「双方の釣り合いがとれていない合意であり、失望した。イランは制裁が緩和される間だけ核能力を凍結しておけばいいだけだ」(与党・民主党、上院ナンバー3のシューマー上院議員)といった不満・批判が出ています。

****米議会の反発は必至****
「イランがこの機会をつかめば、(米国との)相互不信を取り除くきっかけにすることができる」

協議4日目、約16時間のマラソン交渉で真夜中に合意に達した直後、オバマ米大統領はホワイトハウスで演説し、30年来のイランとの「敵対関係」の改善に一歩かじを切ることへの思いをにじませた。

「我々はすでにルビコン川を渡った」。米政府高官は、オバマ氏が9月末、イランのロハニ大統領と直接対話したことをこう表現していた。

米国が対イラン制裁の一部緩和に踏み込んだ背景には、「欧米側に時間がなかった」(英フィナンシャル・タイムズ)との側面もある。

イランが今のペースでウラン濃縮を続ければ、来年中には核兵器の製造が可能な状態になるとの見方もあった。暫定的な合意ではあっても、ウラン濃縮を止める必要に迫られていた。

イランがひとたび核武装すれば、中東で核開発競争が起きるというのが、米国が恐れる最悪のシナリオだ。地域諸国の勢力均衡が崩れ、サウジアラビアやトルコなども「核クラブ」の仲間入りを目指す、との見方も少なくない。

合意では、イランに対して半年は新たな制裁を追加しないと約束したが、米議会の反発は必至。
米下院外交委員会のロイス委員長(共和党)は合意発表後すぐ「(イランは)核兵器を製造する重要な能力を維持したままだ」と批判。米国や同盟国の安全が守れないとし、ケリー国務長官に直ちに説明を求める考えを示した。

さらに、イランが合意を守らなかった場合の米政権への打撃は計り知れない。このため、米国はイランが求める原油制裁などの解除には慎重にならざるを得ず、イランとの交渉が今後難航する可能性もある。【11月25日 朝日】
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個人的には、大量核保有国であるアメリカの“アメリカの核はよくて、イランの核は悪い”という論理には受入難いものがあります。基本的にはイランの核も、アメリカの核も五十歩百歩に思えます。

もちろん、核バランスへの配慮は現実世界の安定に必要でしょうし、中東での核開発競争の懸念もわかりますから、イランに自制を求めるというのはあるでしょうが、それを核保有国である自分たちが強いることについて、もう少し後ろめたげに、恥ずかしげにやってもらいたいものです。

また、“イランは信用できない。黒白はっきりせろ”というのは、結局、相手を力でねじ伏せないと気が済まない強者の驕りを感じます。

シリアの化学兵器問題やイラン核開発問題では、アメリカ・オバマ大統領の妥協を“弱腰”“アメリカの指導力が失われた”と批判する向きが多々ありますが、力づくではなく交渉でという方向は間違っていないと考えます。

今後に向けて、米議会、イスラエルやサウジアラビア、イラン保守強硬派などの抵抗で、紆余曲折があるであろうことは言うまでもありません。
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アルメニアとアゼルバイジャン 平和協定の締結を目指し、協議を行うことで合意 

2013-11-24 23:16:37 | 欧州情勢

(アゼルバイジャン・アクダム 事実上アゼルバイジャンから独立しているナゴルノ・カラバフ共和国との国境地帯の町で、ナゴルノ・カラバフ戦争で最前線だったため、廃墟になっています。“flickr”より By Joseph Ferris III http://www.flickr.com/photos/55510802@N06/8178445822/in/photolist-dsGF1A-dPUurZ-dPWKx8-arfeX9-bZvqpG-dsGF2o-9dKv3f-dsGEZJ-8Udx91-9dKuRf-dEyD95-dEtfMX-dEtfUx-dEtfHv-9Z1cGn-92UtCq-9n4Zgc-9ndRDD-9n4Zg8-9n8a57-9n87VE-9n4Zgv-9n3QHh-9n3QHU-9ndRDv-9ndRDK-9n87VS-9n87VC-9n87VA-9n4Zgr-9n87Vu-9ndRDM-9n4Zgt-9n3QHo-9ndRDx-9n3QHA-9ndRDB-9n3QHN-9n3QHW-9n87VQ-9n4Zgi-dEyCWj-dEtfAR-9mZFDB-9mZFDH-9mZFDT-9mZFDn-9mZFDt-9mZFDx-dEyCU9-eUdiPR)

ナゴルノ・カラバフ問題
長年、世界の不安定化の種ともなっているイラン核開発をめぐる協議は、ようやく「第1段階の措置」で「歴史的」合意に至ったというこで、メディアで大きく取り上げられています。

イランの話はまた後日取り上げる機会もあろうかと思いますが、今日取り上げるのはイラン問題に比べると非常にマイナーではありますが、これまた長年もめていたアルメニアとアゼルバイジャンの関係正常化に向けた動きの話です。

アルメニアとアゼルバイジャンはともに旧ソ連を構成していましたが、ソ連崩壊で独立した国家です。
北のロシア、西のトルコ、南のイラン、東のカスピ海に囲まれたコーカサス地方に位置しており、ロシアと戦火を交えたグルジアとも隣接しています。

宗教的には、アルメニアはキリスト教の一派であるアルメニア教会、アゼルバイジャンはシーア派イスラム教が多数を占めています。

この両国が長年対立しているのが、アルメニアの東隣のアゼルバイジャン領内にあるナゴルノ・カラバフ地区をめぐる帰属問題です。

ナゴルノ・カラバフ地区はイスラム国家であるアゼルバイジャンの自治州でしたが、主にアルメニア人が居住しており、ロシア革命の頃からその帰属でもめています。
1992年にナゴルノ・カラバフ側が一方的に「ナゴルノ・カラバフ共和国」として独立を宣言、これをきっかけに紛争が勃発。ナゴルノ・カラバフ側にはアルメニアが軍事介入し、本格的な戦争に発展しました。

その後、ロシアとフランスの仲介で停戦が成立していますが、「ナゴルノ・カラバフ共和国」は国際的には承認されていません。現在はアルメニア人が実効支配しており、アルメニア軍が駐留しています。

一方、アルメニアの軍事介入に反発したトルコ(アルメニアとは、いわゆる“アルメニア人虐殺問題”で対立関係にあります)は、93年にアルメニアとの国境を閉鎖して、現在に至っています。

この紛争により、2~3万人の死者が発生し、100万人以上の難民が発生したと言われています。

なお、ナゴルノ・カラバフ地区はアゼルバイジャン領内にあるアルメニア支配地域ですが、アルメニアの南西部にはアゼルバイジャンの飛び地であるナヒチェヴァン自治共和国が存在するという、入り組んだ関係にもあります。

(参照)
2009年9月6日ブログ「トルコとアルメニア 「虐殺」問題を乗り越えて、国交樹立へ」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090906
2011年12月23日ブログ「フランス下院 オスマン・トルコによるアルメニア人「虐殺」の否定を禁じる法案可決」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111223


平和的解決を目指してさらに交渉を重ねることで合意
****アルメニアとアゼルバイジャン、和平交渉加速で合意 ナゴルノカラバフ問題****
長年対立関係にあるアルメニアとアゼルバイジャンの両首脳は19日、アゼルバイジャンのナゴルノカラバフ(自治州をめぐる紛争を解決する平和協定の締結を目指し、協議を行うことで合意した。

欧州安保協力機構(OSCE)の発表によると、アルメニアのセルジ・サルキシャン大統領とアゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領はオーストリアの首都ウィーンで非公開会談を行い、平和的解決を目指してさらに交渉を重ねることで合意した。

2年ぶりとなる今回の首脳会談は、ナゴルノカラバフ紛争の解決を目指すOSCEのミンスクグループが主催した。
今後、両国の外相はミンスクグループ共同議長国のロシア、フランス、米国の大使らと「和平プロセスの加速を目指す」協議を行う。

また、ウクライナの首都キエフで12月5、6日の日程で行われるOSCEの会議と並行し、両国の交渉へ向けた作業部会が行われる他、ミンスクグループ共同議長国の代表が年内にナゴルノカラバフ自治州を訪問する。
さらに数か月以内に再度、アルメニアとアゼルバイジャンの首脳会談が行われるという。

アルメニアとアゼルバイジャンは長年、ナゴルノカラバフ自治州をめぐって対立していた。90年代には同自治州の人口の約8割を占めるアルメニア人が「ナゴルノカラバフ共和国」の樹立を宣言し、これを認めないアゼルバイジャンと戦闘になり、94年の停戦合意までに約3万人が犠牲になった。

同自治州の大部分と周辺地域は現在、アルメニア人の実効支配下にある。停戦後に和平協議が行われてきたものの、和平協定の締結には至っていない。【11月23日 AFP】
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“ミンスクグループ”というのは聞き慣れませんが、欧州安保協力機構(OSCE)が「ナゴルノ・カラバフ問題」解決のために設置したもので、記事にもあるようにロシア、フランス、米国の大使が共同議長を務めています。
イラン問題解決のための6各国グループと似たようなものでしょう。ややミニ版にはなりますが。

国際社会への働きかけに積極的なアルメニア
アルメニアは、国家として、また民族としても、世界で最初に公式にキリスト教を受容(西暦301年)した国で、その後ペルシャ、イスラム(サラセン)帝国、オスマントルコなどの強国による支配・影響下にありながらも独自の信仰を保ってきたからもわかるように、よく言えば強固なアイデンティティーを持った、悪く言えば「世界はアルメニアを中心に回っている」的な自意識過剰な国民性との指摘もあるようです。

(参考“不思議な、不思議な「アルメニア共和国」”http://armenia.en-grey.com/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%A1%E3%83%8B%E3%82%A2%E3%81%A7%E6%88%91%E6%80%9D%E3%81%B5/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%A1%E3%83%8B%E3%82%A2%E4%BA%BA%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F)

また、欧米社会で生活する海外生活者ディアスポラが多いこともあって、居住地社会に対するロビー活動的な働きかけも積極的なようです。

アメリカでは下院外交委員会において2010年3月、19世紀末と20世紀初頭にトルコ領内でおきたアルメニア人殺害について、オスマン・トルコ帝国によるアルメニア人「大量虐殺」(ジェノサイド)と認定して非難する決議案を可決しています。

この際、トルコは、駐米大使に「協議のため」帰国するよう命令。抗議のための事実上の大使召還措置と見られています。
ただ、アメリカも、イランやアフガニスタン問題での協力が必要な地域大国トルコを過度に刺激したくないので、本会議では採決していません。

また、フランスでは、サルコジ政権下の2012年1月、オスマン帝国によるアルメニア人ジェノサイド(大虐殺)を否定することを禁じる法案を成立させています。

しかし、法律の違憲審査をする憲法会議は、この法律を、表現の自由などに抵触するとして「違憲」と判断しています。これを受けて、サルコジ大統領は、政府に同趣旨の別法案を作成するよう指示したとの報道がありましたが、その後どうなったかは知りません。

ロシアとの関係で言えば、アルメニアはアゼルバイジャンとともに、EU潜在的加盟候補国が含まれる東方パートナーシップのメンバー国ですが、もともとロシアとの関係が強固で、ロシアの主導する関税同盟への参加を決定しており、サルキシャン大統領はユーラシア経済同盟への参加にも前向きな姿勢を見せています。【9月6日 ノーボスチ・ロシア通信社より】

こうした関係を見ると、ロシア、フランス、米国の大使が共同議長を務める“ミンスクグループ”というのは、アルメニアに好意的なようにも思われます。
実際、アゼルバイジャン側は、かねてより“ミンスクグループ”の調停をアルメニア寄りとして批判しています。

天然ガス供給で重要なアゼルバイジャン
一方、イスラム国家アゼルバイジャンは“米露とのバランスを考慮しつつ、伝統的友好国のトルコ、アゼルバイジャン人が多く住むイランとも等距離善隣外交を継続”【日本外務省HP】という基本方針の国ですが、バクー油田を抱える石油・天然ガスが豊富な国です。

最近注目されたのは、ロシア迂回ヨーロッパ向けの天然ガスパイプラインの話題でした。

****欧州に露回避ガスルート エネ供給多様化へ前進 初のパイプライン、2019年実現****
アゼルバイジャンからロシアを通らず欧州に天然ガスを輸送する初のパイプラインのルートが決まった。

欧州連合(EU)が進める計画とは異なるが、ガス輸入をロシアに依存するEUにとり、エネルギー安全保障上の課題である供給源の多様化に向けて前進した格好。2019年には欧州への供給が実現する予定だ。

 ◆カスピ海から輸出
ルートは、アゼルバイジャンからグルジアを抜け、トルコを横断するパイプライン「TANAP」を経由した後、ギリシャ国境からアルバニア、アドリア海を通るパイプライン「TAP」により、イタリア南部に到達するというもの。TAPはノルウェーやスイスの企業が進めている。

アゼルバイジャン側はカスピ海のガス田「シャフ・デニズ2」から年160億立方メートルを輸出。18年からトルコに60億立方メートル、19年から残る100億立方メートルが欧州に向かう予定だ。以前からTANAPへの供給は決まっていたが、その先のルートとしてこのほど、TAPが選ばれた。

実はEU側も、ロシアを回避できるカスピ海や中東のガスを確保するため、トルコからバルカン半島を抜けオーストリアに届くパイプライン「ナブッコ」を推進。
その後、ブルガリアを起点とする「ナブッコ・ウエスト」に規模を縮小し、シャフ・デニズ2のガス獲得を目指してきた。

しかし、採算性などの面でTAPに敗北したようだ。

 ◆「画期的な決定だ」
ただ、ロシアにガス輸入量の約3割を依存するEUにとり、他の供給源を確保したことに変わりはない。
欧州委員会のバローゾ委員長は今回の決定について「欧州にとっても成功であり、エネルギー安全保障の強化のために画期的だ」と歓迎している。

欧州へのロシア産ガス供給に関しては、主要経由地のウクライナとロシアが過去に価格をめぐって対立を激化させ、東欧やバルカン諸国への供給が混乱した経緯がある。ロシア側はウクライナを通らない「北ルート」と「南ルート」の実現に取り組み、EUへの影響力保持を図っていた。

今回の決定に対し、露国営天然ガス企業のガスプロムは「ナブッコは葬り去られた」と指摘する。
だが、アゼルバイジャン側はガス生産が増加した場合、ナブッコを通じた欧州への供給も視野に入れており、EUも2つのルートによる輸入に期待をかけている。【7月30日 産経】
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世界のエネルギー事情は「シェール革命」で大きく変化してきていますが、いずれにしてもロシアに依存しない天然ガスの確保を望む欧州にとっては、アゼルバイジャンは非常に重要な国になっています。

なお、アゼルバイジャン側は、ナゴルノ・カラバフの紛争でアルメニア軍による住民虐殺があったと非難しています。

****虐殺」20年で追悼行進=大統領ら5万人行進―アゼルバイジャン****
アゼルバイジャンの首都バクーで26日、隣国アルメニアとの係争地ナゴルノカラバフ自治州ホジャリの「虐殺事件」から20年を迎え、犠牲者を追悼し、アルメニアを非難する大行進が行われた。
現地からの報道によると、アリエフ大統領をはじめ約5万人が参加した。

事件ではナゴルノカラバフ紛争が激化していた1992年2月25、26日、アルメニア系が多数派を占める同自治州でアゼルバイジャン系住民613人が殺害された。

アゼルバイジャン側は「アルメニア軍の仕業」と主張しており、行進の参加者はプラカードを掲げ「ホジャリ、(ボスニア・ヘルツェゴビナの)スレブレニツァ、ルワンダ、(シリアの)ホムスで起こった虐殺事件は繰り返してはならない」と国際社会に訴えた。【2012年2月27日 時事】
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今回のアルメニア、アゼルバイジャン両国の合意は、“平和協定の締結を目指し、協議を行うこと”の合意であり、これからの協議結果を保証するものではありません。
それにしても、長年対立を続けてきた両国が関係正常化に向けて1歩踏み出すことは、数少ない喜ばしいニュースのひとつです。
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シリア  アルカイダ系組織の勢力拡大と内紛 非アルカイダ系組織の統合

2013-11-23 22:47:14 | 中東情勢

(「イラク・レバント・イスラム国(ISIL)」戦闘員 http://www.liveleak.com/view?i=744_1377386471)

ISILの勢力拡大 ザワヒリ裁定を拒否 
シリアで政府軍と戦う反体制派には、離反兵士を中心とする自由シリア軍、多くのイスラム系民兵組織、アルカイダ系イスラム過激派、更には独自の立場のクルド人組織など、多様な組織が混在し、自由シリア軍も必ずしも組織的に統一されていないことなどはよく指摘されるところです。

また、最近、こうしたイスラム過激派組織とクルド人組織、イスラム過激派組織と自由シリア軍など、各組織間の反目・戦闘行為が目立つことも報じられています。
こうした反体制派内部の混乱が、政府軍側を利していることは明らかです。

****シリア、クルド人勢力とイスラム武装組織が衝突****
シリアのクルド人勢力とイスラム武装組織が26日、イラクとの国境付近で衝突し、クルド人勢力が国境付近を掌握した。シリア人権監視団が活動家の話として明らかにした。この戦闘で、双方に複数の死者が出た。

シリア人権監視団によると、クルド人勢力は明け方、国際テロ組織アルカイダ系イスラム過激派組織の「イラク・レバント(地中海東岸地域)のイスラム国(ISIL)」、「アルヌスラ戦線」、およびその他の反体制派と衝突した後、イラクとの国境にあるAl-Yaarubiaの国境検問所を掌握したという。

クルド人勢力は、イラク北部にあるようなクルド人自治区をシリア国内にも作ることを目指している。このことが、シリアのバッシャール・アサド大統領の政権とイスラム教スンニ派主導の反体制派との戦いをさらに複雑にしている。 

反体制派は数か月前から互いに銃を向けあうケースが増加しており、反体制派が広い範囲を支配下に収めた北部では、イスラム過激派の各勢力がシリア反体制派の主流である「自由シリア軍(FSA)」と戦っている。【10月27日 AFP】
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イスラム過激派組織にも、イラク拠点の「イラク・レバント・イスラム国(ISIL)」と、シリア人中心の「ヌスラ戦線」という異なる組織があり、このふたつの対立も表面化しています。
そこで、“本家”アルカイダの指導者ザワヒリ容疑者が両組織の調停に乗り出しています。

****ザワヒリ容疑者:シリアのアルカイダ系対立解消求める****
中東の衛星テレビ局アルジャジーラによると、国際テロ組織アルカイダの指導者ザワヒリ容疑者は8日までに、内戦状態のシリアで反体制派として参戦しているアルカイダ系組織同士の対立解消を求める声明を発表した。

シリアでは、イラク拠点の「イラク・レバント・イスラム国(ISIL)」と、シリア人中心の「ヌスラ戦線」が対立しており、アルカイダ組織内の混乱が背景にあるとみられる。

ISILは今年4月、ヌスラ戦線との合併を一方的に発表し、組織名にシリアなど地中海東岸地方を意味するレバントを加えて、シリア内戦に本格介入する方針を示した。

これに対して、ヌスラ戦線はISILとの合併を拒否する一方、ザワヒリ容疑者に忠誠を誓う声明を発表し、内戦では反体制派として別々に活動している。

一連の経緯について、ザワヒリ容疑者は「ISILはアルカイダに相談なく改称した。ヌスラ戦線も独断でアルカイダとの関係を公表した」と両組織の行動を非難。その上で、ヌスラ戦線を「シリアで活動するアルカイダ傘下の独立組織」と位置付けた。

ISILには改称前の「イラク・イスラム国」を名乗り、イラクを中心に活動するよう要求。両組織が資金や装備の面で協力するよう求めた。

ただISILは今夏以降、シリア北部や東部で支配地域を拡大し、支配権を巡って他の反体制派との衝突も頻発している。混乱するシリア経由で武器などをイラクに持ち込んでいるとの指摘もあり、ザワヒリ容疑者の指示に従うかは未知数だ。【11月9日 毎日】
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“ザワヒリ容疑者の指示に従うかは未知数”とのことですが、【朝日】報道では、シリアから手を引くように勧告された「イラク・レバント・イスラム国(ISIL)」はザワヒリ裁定を拒否したとされています。

****シリア内戦、アルカイダ系組織確執深まる 調停を拒否****
シリア内戦に参戦する国際テロ組織アルカイダ系のヌスラ戦線と「イラク・シリアイスラム国(ISIS)」の二つの組織の対立が表面化している。

アルカイダ最高指導者のザワヒリ容疑者が調停に入ったが、裁定も拒否され、逆にアルカイダの統一司令部の威信の低下も明らかになっている。(中略)

ISISのアブバクル・バグダディ指導者は「我々は目標を達成するまで戦い続ける」としてザワヒリ裁定を拒否した。ザワヒリ容疑者はビンラディン容疑者の死後、アルカイダ最高指導者についた。
今回の裁定は、シリアの2組織の対立を「アルカイダ統一司令部」の名の下に解決しようとしたもの。

しかし、裁定が拒否されたことでアルカイダ系組織の分裂と、イラクイスラム国の発言力が強まっていることが明らかになっている。【11月10日 朝日】
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「イラク・レバント・イスラム国(ISIL)」と「ヌスラ戦線」がどのように異なるのかは、まったく知りませんが、一般論で言えば、まがりなりにもこれまで宗派間の共存的な生活が存在した地域に、外からの原理主義勢力が入ってくると、地域の旧来の状況を一切考慮しない過酷な処断がなされる懸念があります。

その意味で、イラク拠点のISILはシリアから手を引くように・・・とのザワヒリ裁定は歓迎すべきものかもしれません。ただ、無視されればそれまでですが。

冒頭写真をコピーした動画では、ISILが走行中のトラックを停止させ、運転手がシーア派だと断じると、その場で処刑します。何のためらいもありません。(素人目には、わざとはずして撃っているようにも見え、本当の処刑シーンかどうか、さだかではありません。実際の射殺など見たことがないので)

なお、イスラム過激派組織にとっては、国際ブランドである“アルカイダ”との関係を打ち出すことは、組織の威信を高め、資金調達などにもメリットがあるということから、“自称”を含め各地の組織がアルカイダの“代紋”を求め、アルカイダネットワークが形成されています。
従って、アルカイダ関連組織と言っても、アルカイダの指揮系統下にある訳ではないことが多いようです。

アルカイダ系組織拡大を警戒して、非アルカイダ系組織は連合組織結成
一方、アルカイダ系過激派以外のイスラム民兵組織のなかには、現在の混乱状態を改善して、連合組織を形成しようとする動きがあります。

****シリアにイスラム系の連合組織****
内戦が続くシリアでアサド政権と戦う反政府勢力の分裂が際立つなか、イスラム系の7つの有力な武装組織が連合組織を結成したと発表し、劣勢が伝えられる戦況の巻き返しを図るねらいがあるとみられます。

シリアの内戦では、アサド政権の部隊が隣国レバノンのシーア派組織ヒズボラの軍事支援を受けて攻勢を強める一方、反政府勢力の軍事部門はさまざまな勢力が入り乱れて分裂が際立っています。

こうしたなかイスラム系の7つの有力な武装組織が22日、インターネット上に声明を出し、「イスラム戦線」という連合組織を結成したことを明らかにしました。

参加した武装組織の1つがNHKの電話取材に明らかにしたところによりますと、「イスラム戦線」は兵力が少なくとも1万数千人で、反政府勢力の軍事部門では最大勢力となります。

主力だった自由シリア軍とは協力関係にある一方、このところ影響力を増しているアルカイダ系の過激派とは距離を置くということです。

武装組織の報道官は「反政府勢力はこれまでバラバラで戦っていたために劣勢に立たされてきたが、結束することで巻き返しを図りたい」と述べ、今後、ほかの武装組織にも参加を呼びかけてアサド政権の打倒とイスラム国家の樹立を目指すとしています。

アメリカなどは反政府勢力を支援してきましたが、アルカイダ系に加えてイスラム国家の樹立を掲げる勢力も存在感を高めており、対応に苦慮することになりそうです。【11月23日 NHK】
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今回「イスラム戦線」に加わると発表したのは、下記のアラブ人主体の主要なイスラム系民兵組織6つとクルド人主体のイスラム系民兵組織1つです。
拠点とする地域が異なる組織が多いようです。

「タウヒード旅団」
アレッポ拠点「シャームの自由人」
サラフ主義「シャームの隼」
北部イドリブ拠点「真実の旅団」
中部ホムス拠点「シャームの擁護者たち」
北西部ラタキア周辺拠点「イスラーム軍」
ダマスカス拠点「クルド・イスラーム戦線」

今回の統合については、“要するに反政府軍の中の、アルカイダ系ではない勢力が(これで全部か否かは不明)が、イスラム国家とかヌスラ戦線の勢力伸長に脅威を感じて、統合したという性格のものではないかとおもわれ、イスラム軍の統合ではなく、むしろイスラム軍の中の色付けが明確になってきたというところでしょうか?”【11月23日 野口雅昭氏 「中東の窓」】との指摘も。

シリアのアルカイダ系過激派に関する話題2件

****シリアのアルカイダ系組織、誤って自派戦闘員に斬首の処刑****
内戦下にあるシリアの反体制派「シリア人権監視機構」は15日、政府軍と戦うアルカイダ系過激派が負傷した自派の戦闘員をアサド政権の支持者と勘違いし、斬首する処刑を行ったと報告した。

過激派の「イラク・シリアのイスラム国」(ISIS)の報道担当者は14日、インターネット上の声明で同組織の戦闘員が処刑に関与したと認めた。
その上で処刑の実行者への許しを乞い、反政府派支持者の自制と信心を求めた。

処刑は今週実行されたもので、同組織の戦闘員2人が北部アレッポで切断した首らしきものを群衆に示す画像もネット上で流れた。処刑された戦闘員はアサド政権軍との戦いで負傷していた。

ISISの声明によると、斬首された戦闘員は負傷して簡易治療所に運ばれた際、イスラム教シーア派の聖人の名前を叫んだことから、政府軍兵士と間違われたとみられる。アサド政権はシーア派系で、反体制派はスンニ派が主流となっている。

反体制派内では最近、過激派とより世俗的な武装組織との戦闘が激化。反体制派の内部結束を弱め、一般住民が戦闘に巻き込まれる被害も出ている。

人権団体や一部の反体制派はISISによる負傷した政府軍兵士に対する残虐な仕打ちを非難。
ISISは神を冒とくしたとして15歳少年に発砲したり、シャリア(イスラム法)に反する振る舞いをした女性に公開むち打ち刑を科すなどの行動を見せている。【11月16日 CNN】
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ISIS(ISILの改称前の組織名)も、一応は反省しているようです。
ただ、“イスラム教シーア派の聖人の名前を叫んだ”というのは、本当でしょうか?

もちろん、間違いにしろ何にしろ、負傷戦闘員の首を切断するというのは言語同断です。
“処刑の実行者への許しを乞い、反政府派支持者の自制と信心を求めた”というのは、間違えたことへの反省でしょうか、首を切ったことへの反省でしょうか?

****シリア内戦に英国人300人参加か、アルカイダ系組織と共闘の4人死亡****
英紙タイムズは21日、内戦下のシリアで国際テロ組織アルカイダ系のイスラム過激派組織と共に政府軍と戦っていた英国人4人が死亡したと報じた。

タイムズによると4人は、10人ほどからなる英国人イスラム過激派グループのメンバー。うち3人はロンドン出身とみられ、8月にアレッポ近郊でバッシャール・アサド大統領の政府軍と戦闘中に死亡し、残る1人はその2週間後、大統領派部隊の拠点を奇襲する作戦で死亡したという。

4人が所属していたグループは、別の20人規模の英国人グループと合流し、アルカイダ系イスラム過激派組織「アルヌスラ戦線」と共同戦線を張っていたという。

英国内の治安維持を担う情報局保安部(MI5)は、シリアで戦闘に参加するためにシリアに入国した英国人の若者は200~300人に上るとみており、こうした過激派が英国内でイスラム教への改宗者を募ったり、英本土でテロ攻撃を行ったりする可能性があるとして懸念を示している。

タイムズが取材した英治安情報筋は、「これらの若者たちのうち、内戦初期に(シリアに)渡った何人かは英国に帰国し、他の若者たちに過激思想を広げては、新たな仲間を従えて再びシリアに向かっている」と指摘している。【11月22日 AFP】
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イスラム系住民が多い欧米にあっては大きな問題ですが、アサド政権が倒れ場合、イスラム過激派の影響力は飛躍的に増大すると思われ、こうした欧米社会へのフィードバックも更に深刻化するでしょう。
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ネパール  1年半の空白を埋める制憲議会選挙 第1党毛派が惨敗か

2013-11-22 22:02:53 | 南アジア(インド)

(ポカラ近郊のダンプス付近からのアンナプルナ・サウスの眺めではないでしょうか。“flickr”より By Julia Manzerova http://www.flickr.com/photos/7194536@N02/10900284643/in/photolist-hBdNS8-hFqH72-hBbdUq-hGRfpv-hFmbos-hEGs7Y-hEUKij-hEVP5H-huW4SG-hEUHHW-hEUHys-hEVeVY-hEVNAB-hEVeyL-hBJiJR-hEUudD-hye7Ni)

投票率は70%
ネパールでは王制廃止後も憲法制定作業が進まず、憲法制定にあたる議会すらこの1年半解散したまま・・・という政治空白が続いていました。この混乱状態をただすべく、19日、ようやく新たな議会を選ぶ選挙が行われました。

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06年に10年間にわたる反政府組織マオイストの武装闘争が終結して以来、今度で2度目の選挙となる。

08年の制憲議会選挙ではマオイストが比較第1党となり、王制を廃止。だがその後も党派対立が続き、政権も3度交代したあげく憲法起草が果たせないまま議会は昨年5月に解散した。

その後は首相不在の中、マオイストなど主要政党間の交渉が行われ、今年3月に選挙管理内閣が発足した。キル・ラージ・レグミ最高裁判所長官が暫定首相となり、選挙による新政権樹立を模索してきた。【11月20日 Newsweek】
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議会もなく、首相も満足に決まらい状況でも、それなりに国民生活は行われるようです。
ただ、それは最低限の行政が行われるということで、現状改善につながるような施策・事業はできません。
カトマンズに数日滞在しただけで、道路は穴ぼこだらけ、計画停電で電気が十分に使えない、水道も不十分・・・という政治の貧困はすぐにわかります。

08年の制憲議会選挙で大方の予想を裏切り第1党となった「ネパール共産党毛沢東主義派」(毛派)から分離した左派グループによると思われる選挙妨害はありましたが、選挙はおおむね順調に終了しました。

選挙に向けて、投票日の2日前から休日になり、当日は車もバイクも通行が禁止されたようです。
“カオス”そのもののカトマンズの街路から車が消えるというのは、なかなか想像しがたい光景です。

****ネパール:新憲法制定へ選挙…政党乱立し混乱続く****
立憲君主制から共和制へ移行したネパールで19日、新しい憲法を定める制憲議会選挙の投票が全国で行われた。

制憲議会は2008年に発足したが、政党間の対立で憲法を定められず、延長を重ねた任期は昨年5月に切れ、解散していた。再度、制憲議会を作り直して新憲法制定を目指すが、今回の選挙には約120の政党が乱立しており、政治混乱は続きそうだ。

一方、06年の内戦終結まで武装闘争を展開していた「ネパール共産党毛沢東主義派」(毛派)から分離した極左グループなどが選挙のボイコットを訴えている。
19日には首都カトマンズ中心部の投票所近くで爆発があり、8歳の男の子を含む3人が負傷。18日夜にもカトマンズなど複数の都市で爆発が相次ぎ、極左グループの妨害工作とみられる。

選挙では、定数601のうち政府任命の26議席を除く575議席を争う。投票は都市部では即日、地方部では20日以降開票される。大勢判明は21日ごろの見通し。有権者は約1200万人。

08年の制憲議会選で第1党になった毛派や、ネパール会議派、統一共産党など主要政党が参加したが、どの党も単独過半数を制する見通しはない。新議会や新政権の発足後も不安定な政治情勢が続きそうだ。

憲法制定ができない異常事態が長年続く中、ネパールでは経済が疲弊。一般国民の間では、政争に明け暮れてきた主要政党への批判が強い。【11月19日 毎日】
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投票率は70%と高く、前回の65%を超えたようです。

****ネパール選挙実施、投票率過去最高****
・・・・今回毛派から分かれたモハン・バイディア派が選挙ボイコットを表明し、33の小党が賛同したが、それにも関わらず投票率は過去最多だった。

2008年選挙の投票率は65.69%だったのに対し、今回は70%にも上った。カトマンズ盆地にあるバクタプール郡の投票率が全国で最も多く86.51%だったことからも、国民の期待が大きかったことがうかがえる。

有権者12,147,865人に政府が写真付きの証明書を発行したことで、なりすまし投票ができず公正な選挙だったことが、投票へのモチベーションにもつながったと選挙管理委員会は分析している。

郡庁所在地に投票箱を集めて開票することになっており、山国であるネパールではそこまで移送するのに時間がかかることから、大勢判明までまだ時間がかかりそうだ。

すべての投票箱が到着してから数えることになっており、苦肉の策ではあるもののその方が不正が生じにくいとしている。陸路では輸送できない113か所の投票は、ネパール国軍がヘリで運ぶことになっている。

全国的に比較的平穏に実施されたが、西部のロルパ郡では反対派が投票箱を川に投げ捨てたことから、治安を強化し22日(金)に再選挙を行うことになった。【11月20日 日本ネパール協会】
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ヒマラヤ山脈の奥深い村など、車が通行できる道路がないエリアが多く、開票作業といっても大変なようです。
それにしても“有権者12,147,865人に政府が写真付きの証明書を発行”というのは、行政能力がそんなに高いとは思われないあのネパールにしては・・・という感があります。

ネパールでは国民が写真付きの身分証明書(ナガリクタ)を所有しているようなので、顔写真が全員登録されているのでしょう。
とはいえ、先述のようなヒマラヤ山脈の奥深い村々の有権者全員にそうした証明書を配布するというのは、それほど簡単な作業ではないように思われますが。

もっとも、70%という高率は、“国民の期待が大きかった”だけでなく、投票所に行かないと後々面倒が・・・といった村落共同体的強制力が働いてのものでしょう。

毛派惨敗で、混乱の懸念も
注目される選挙結果ですが、第1党の毛派が惨敗のようです。
現地在住の方の今日のブログによれば、現時点で議席が確定したのが“UML(統一共産党)が38人、コングレス(ネパール会議派)31、マオイスト8”とのことです。

毛派の議長で首相にもなったプスパカマル・ダハール氏(通称プラチャンダ)が小選挙区でネパール会議党候補に敗北したとの情報もあります。

そうなると、つい数年前まで国軍と武装闘争を行っていた毛派がおとなしく選挙結果を認めるのか・・・という懸念が出てきます。

****ネパール制憲議会選挙 結果巡り混乱も****
ネパールで19日行われた制憲議会の選挙は、開票が進むにつれて劣勢が明らかになってきているネパール共産党毛沢東主義派が、開票作業に不正があると主張して作業の即時中止を求め、今後、選挙結果を巡って混乱することも予想されます。

ネパールで19日、投票が行われた制憲議会選挙は開票作業が続いていて、現地の報道によりますと、前回5年前の選挙で第2党になった「ネパール会議派」と第3党の「統一共産党」が、多くの選挙区でトップ争いをしています。

一方、武装闘争を放棄して前回第一党になったネパール共産党毛沢東主義派は、都市部を中心に劣勢が明らかになってきており、ダハル党首は21日、記者会見し、開票作業に不正があると主張して作業の即時中止を求めました。

これに対しネパールの選挙管理委員会は、主張には根拠がないとして開票作業を続ける姿勢を示していますが、毛沢東主義派は開票所から立会人を引き上げるなどしていて、今後、選挙結果を巡って混乱することも予想されます。

ネパールは、5年前に王制を廃止して共和制に移行しましたが、その後の新しい国づくりが政党間の対立によって停滞していて、国民の間には毛沢東主義派への失望が広がっていました。【11月21日 NHK】
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毛派惨敗の理由は、左派の分裂のほか、公約が実現されず、腐敗がはびこっていることや強引な政治手法への国民の不満・批判があるのではと指摘されています。
もっとも、それらは毛派に限った話でもありません。

そもそも、武装闘争で恐れられていた毛派が前回選挙で第1党なったことが驚きの結果であり、ネパール版“チェンジ”でした。
しかし、ここ数年の混乱で毛派に対する期待・幻想が色褪せた・・・というところでしょう。

毛派が選挙結果を受け入れ、不毛の対立に陥らないことを願います。

なお、前回選挙では、ながくネパール政治から疎外されていた南部マデシ地方を代表する政党が躍進しましたが、今回どういう結果になるかも注目されます。
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シリア化学兵器廃棄処理 難航する受入国探し

2013-11-21 22:23:12 | 中東情勢

(リビアの化学兵器をチェックするOPCW http://www.spacewar.com/reports/Libya_honours_chemical_weapons_plan_deadline_OPCW_999.html)

国外廃棄の詳細計画は来月に先送り
つくることより、廃棄すること、処分すること、廃止することが難しいものはたくさんあります。
いろんな“制度”や“組織”も、いったん出来たものを廃止するのは、全く存在理由がないという訳でもないので、関係者の大きな抵抗があってなかなか進みません。

物質的なもので言えば、現在問題になっている原子炉の廃炉処理などもそうした事例でしょう。
原子炉に比べれば、シリアで問題になっている化学兵器の処分はまだ容易と思われますが、それでも受入国がなかなか決まらないようです。

****OPCW:シリア化学兵器廃棄の処理国先送り****
化学兵器禁止機関(OPCW)の決定機関・執行理事会は15日、シリアの化学兵器を国外搬送し、来年6月末までに処理する廃棄計画を決定した。

今後、本格的な廃棄プロセスに入るが、搬送先の有力候補だったアルバニアが同日、受け入れを拒否。受け入れ国名は決定に盛り込まず、国外廃棄の詳細計画は来月に先送りした。

また処理後に出る大量の有害廃棄物は、施設を建設しての燃焼処理が必要で、2億〜3億ユーロ(約260億〜400億円)とみられる費用を国際社会がどう分担するかも課題だ。

シリアは内戦下で資金も技術もないため化学兵器の国外搬出を要請。執行理事会は承認したが、あくまでシリアが処理に責任を持つことを明確にした。

シリアの化学兵器1290トンは、全量が混ぜれば毒ガスを発生する「前駆物質」でタンク保管されている。マスタードガスやサリンの原料など危険度の高い1000トンは年末までに国外搬出、残りの大半は2月5日までに搬出する。
工業原料や消毒剤に使われるイソプロピルアルコールはシリア国内で3月1日までに廃棄する。
マスタードガスやサリンの原料などは3月31日までに処理。残りは6月30日までに処理を完了する。

決定には搬送先や処理方法、必要な資金量は盛り込めなかった。OPCW事務局に来月2日までに報告、17日に詳細な計画を提出するよう求めた。期限が守れない場合は、代替日程を認める。

アルバニアが受け入れを拒否したことでベルギーなどでの処理が有力視されている。

処理は米国の移動式の加水分解処理施設3基を使用。その後、5000〜7000トン出る有毒廃棄物を、燃焼施設を建設して最終的に廃棄する。執行理事会は廃棄費用を工面するため信託基金の設立も決めた。各国に拠出を求める見通し。【11月16日】
*****************

個人的には、ごく少量の化学薬品の廃棄処分で悩んだ経験があります。中和や無害化の作業は個人では無理で、専門業者に持ち込むことになりましたが、時間も費用もかかりました。

ただ、放射性物質などとは違って、それなりの施設で行えば、そんなに危険な作業でもないようにも思えます。
特に、今回は最終物質ではなく前駆物質の形ですから、危険性も大幅に低いのではないでしょうか。

通常兵器の処理も覚束ないアルバニア
受入国の有力候補とされていたアルバニアが拒否した経緯については、以下のとおりです。
アルバニアの場合は、確実に処理するだけの状況にはないようです。

****世界が押し付け合うシリア化学兵器の行方****
国外処理の場所探しが難航するなか、「経験者」のアルバ二アが浮上したが・・・

9月に米口が合意した枠組みに基づき、国際管理下におけるシリアの化学兵器の廃棄計画が始動している。

化学兵器禁止機関(OPCW)がシリアに派遣している査察官によると、国内の化学兵器製造設備の破壊は完了。アサド政権はさらに、保有する1300トン以上の化学兵器を来年1月までに国外へ移し、6月末までに廃棄を完了させる予定だ。

ただし、具体的な処理方法は不透明なままだ。最大の問題は、処理をする場所をめぐって迷走が続いていること。NRKノルウェー公共放送局が入手した国連のメモによると、ベルギーとノルウェーのほか、5つの国連安保理常任理事国(アメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリス)が候補に挙げられている。 

このうち、ノルウェーは既に受け入れ拒否を表明。処理設備がないことや法律の不備を理由にしている。

そこで注目されていたのが、07年に世界で初めて自国の化学兵器の廃棄を完了させたアルバニアだった。
同国のディトミル・ブシヤティ外相は10月に仏ル・モンド紙に対し、米高官から「打診」があったことを認めていた。

アルバニアの化学兵器は02年12月に、放棄されていた貯蔵庫で偶然、発見された。70年代半ばに中国から輸入されたと考えられているが、記録は見つかっていない。

アルバニア政府はアメリカから資金と技術の支援を受け、18トン以上の化学兵器を処理。費用は約4500万ドルに上った。

しかし、焼却後の有害廃棄物は25個の容器に入れられ、首都ティラナから20キロ近く離れた村で屋外のコンクリートの上に置かれている。
EUの協力で有害廃棄物の貯蔵施設を建設する計画もあるがいまだに完成していない。

環境保護団体は、アルバニアは化学兵器どころか通常兵器の処理も覚束ないと批判。有害廃棄物の管理がおろそかで、今も自然界に脅威を垂れ流していると指摘する。

技術的な能力があるか
ウィキリークスが暴露したアメリカの外交公電によれば、08年に容器から有害物質が漏れ始めた。移し替えたプラスチック容器の寿命は20年。残り15年だが、安全な廃棄方法はまだ見つかっていない。

アルバニアの活動団体「AKIP(ゴミの輸入に反対する連盟)」はアルバニア政府に対し、シリアからの化学兵器の持ち込みに関する情報開示を要求。

「アルバニアに化学兵器を持ち込める法の抜け穴はなく、極めて危険な処理がこの国にできるという技術的保証もない」と主張し、処理の引き受けについては見直しを強く求めていた。

こうした批判の高まりは先週、ピークを迎えた。
ティラナの首相官邸前では、化学兵器の処理引き受けに反対する2000人のデモ隊が2日間にわたり大規模な抗議を行った。

デモに参加した大学生のマリア・ペーシヤは、「この国に化学兵器を処理できる施設はない。自分たちの化学兵器すら処理できないのにシリアの兵器を引き受けるなんてあり得ない」と話した。「アルバニアはこの件で誰かに従う義務などない。NATOにもアメリカにも」

ラマ首相は先週、ついに「アルバニアがこの任務に参加することは不可能だ」との声明を発表し、アメリカ政府からの要請を正式に拒否した。

いちるの望みだったアルバニアから手痛い拒否を食らったアメリカ。シリアの化学兵器問題は、再びしばらく漂流することになりそうだ。【11月26日号 Newsweek日本版】
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【「洋上廃棄」案も
アルバニアに続いて、ベルギーも受け入れを否定しています。

****シリアの化学兵器、次の候補ベルギーも処理否定****
ベルギーのデクレム国防相は18日放送の国営ラジオVRTで、シリアの化学兵器廃棄を巡り「輸送面で協力したい」と語り、ベルギーで廃棄処理を行う可能性を否定した。

シリアの化学兵器の廃棄場所を巡っては、米国の打診を受けたノルウェーとアルバニアが拒否。第1次大戦中に使用された化学兵器の廃棄で実績を持つベルギーが次の有力候補との観測が出ていた。【11月18日 読売】
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化学兵器廃棄の経験・・・という点では、中国で旧日本軍の残存化学兵器処理を行っている日本も、無関係ではありません。
サリンとは非常に因縁もあります。

ただ、中国での作業自体があまり進捗していないということは、10月22日ブログ「中国に残る旧日本軍化学兵器」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131022)で取り上げました。

こうした情勢で、「洋上廃棄」も検討されているようです。

****洋上廃棄」検討か=シリア化学兵器****
ロイター通信は19日、シリアの化学兵器を国外に搬出して廃棄する計画をめぐり、受け入れ先が決まらない場合の選択肢として、化学兵器禁止機関(OPCW、本部オランダ・ハーグ)が洋上での廃棄作業を検討していると報じた。船上か、海上に特殊な装置を浮かべての処理が技術的に可能という。

搬出先の有力候補だったアルバニアが15日に受け入れ拒否を表明したため、代替案の模索が始まった。ただ、次の候補とされるベルギーも廃棄の受け入れに消極的で、2014年半ばまでにシリアの化学兵器を全廃する目標達成のための苦肉の策として、洋上案が浮上したとみられる。【11月20日 時事】 
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素人考えでは、放射性物質などに比べれば、万一事故が起きて海上に流れ出してもそれほど大きな影響はないのでは・・・とも思えます。

もっとも、今回のシリア化学兵器処理問題で道筋をつけたロシア・アメリカ両国とも、居住者のいない広大な土地を有していますので、最後まで責任を持つ形で、自国内で処理してもいいのではないか・・・とも思いますが。

一般論として
原発、放射性廃棄物、化学兵器処理、ゴミ処理場、基地・・・危険性が否定できないもの、厄介なものは自分の近くにあってほしくないというのはもちろんわかりますが、その一点で譲らないというのは、あまり共感できません。

100%の安全性が保障されないというのは当然ですが、世の中の出来事・事象はすべて何らかのリスクを伴っています。生きるということは、そういうリスクを負担していくということでもあります。

必要性を否定して、その便益にも一切関与しないというのであれば、それはひとつの見識として尊重しますが、誰かがやればいい、自分は嫌だ、便益は享受したい・・・というのでは・・・。
コメント
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