孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  タリバンに教育の権利を求めた少女 出口が見えない難民の暮らし

2021-12-31 22:05:59 | アフガン・パキスタン
(「私たちには教育を受ける権利がある」、イスラム主義勢力タリバンを前に、アフガニスタンの15歳の少女が声を上げました。【12月30日 日テレNEWS24】)

【アフガンに民主主義はなじまない(タリバン幹部) 選挙管理委員会を解体】
この1年、国際面のニュースで一番印象的だったのはアフガニスタンの政権崩壊とタリバン支配の復活でした。

状況から見て「時間の問題」とは思っていましたし、米軍幹部などの予想にも「そんなに長くは持たないのでは・・・」とも思っていましたが、政権側が抵抗らしい抵抗も出来ずに、これほど劇的に変化するとは・・・

タリバン支配の在り様は、これまでも度たび取り上げてきたところですが、欧米の批判をかわし、国家承認を取り付けたい狙いから、政権幹部からの旧タリバン政権当時に比べると比較的穏健な発言もあるものの、現場から報じられる女性の権利、人権、民主主義、国内融和などに関するその実態は「やはりタリバンに多くを期待するのは無理か・・・」という感は否めません。

最近のタリバン政権の表向きの言動も、「やはり・・・」という懸念を裏付けるようなものとなっています。

****タリバン、選管を解体=民主制への影響懸念―アフガン****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は25日、選挙管理委員会を解体したと発表した。

報道担当者は「必要があれば再び組織する」と述べたが、タリバンはもともと民主制には懐疑的な立場を取ってきた。女性や少数派の意見を反映した包括的政権実現の可能性がまた一歩遠のいたのではないかと懸念されている。
 
地元民放トロTVによると、暫定政権のカリミ副報道官は25日、記者団に対し「欠員に伴い政府職員を募集中だ。不要のため解体された政府機関の職員は他の職務に充てるべきだ」と選管解体の正当性を主張した。暫定政権への移行後、女性職員の労働が規制され、タリバンの報復を恐れ、出勤を見合わせる旧民主政権職員も多い。
 
暫定政権は他にも議会に関連する省庁などを解体した。カリミ氏は「必要があれば再び組織する」と説明したものの、タリバン幹部は今年8月中旬に政権を掌握後、アフガンに民主主義はなじまないといった発言を繰り返しており、見通しは暗い。
 
トロTVによれば、アフガンの政治評論家サイード・ハールーン・ハーシミー氏は「共和制や民主主義の破壊の第一歩だ」と批判した。
 
アフガンではこのほか、暫定政権下での経済的混乱やタリバンの脅迫などに伴い、報道機関の閉鎖やジャーナリストの失職も続いている。政権についての情報を国民に提供する機会が失われ、危機感が広がっている。
 
国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団」(RSF)は今月20日、タリバンの政権掌握後にアフガン全体の6割に当たる6400人以上のジャーナリストが失職したと発表した。特に女性ジャーナリストは8割が職を離れた。その後殺害されるケースも続発している。【12月26日 時事】 
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タリバン支配のもとでの民主的な選挙、報道の自由を期待するのが「無理」というものでしょう。

【女性単独での遠出禁止 車内で音楽禁止 礼拝時間は停車 イスラム支配の現実】
女性の権利についても・・・・

****女性の遠出、男性伴わねば禁止 タリバン****
アフガニスタンで実権を握るイスラム主義組織タリバン暫定政権は26日、近親男性が同伴しない限り女性の遠出を禁止すると発表した。勧善懲悪省がソーシャルメディアに新指針を投稿した。
 
タリバンはさらに、全ての車両所有者に対し、髪をスカーフなどで覆っていない女性の乗車を拒否するよう求めた。車内で音楽をかけることも禁止される。
 
勧善懲悪省の報道官はAFPに対し「女性が45マイル(約72キロ)以上移動する場合、近親者が同伴しなければならない」と説明した。近親者は男性に限るという。女性が移動する場合、「ヒジャブ」の着用が求められるとも述べた。
 
タリバンは8月15日に実権を掌握すると、公的部門で働いていた女性の復職を禁じた。また、大半の女子生徒が中等教育を依然受けられていない。 【12月27日 AFP】
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女性単独での近場の外出を禁止していないだけ、まだましということでしょう。
ただ、遠出であれ近場であれ、女性が外に出ることへ厳しい目が向けられることになります。

音楽・テレビ・映画・サッカー・闘犬・凧あげなど市民生活における「娯楽」も旧タリバン政権では禁じられましたが、再びその兆しが。

****「車内で音楽禁止」「礼拝時間は停車」…タリバンのイスラム教解釈が先鋭化****
(中略)また、暫定政権の勧善懲悪省は、走行中の車内で音楽を聞くことを禁止し、礼拝の時間には停車することを義務づける通達を出した。イスラム教の規範を独自解釈して社会に適用する動きを加速させている。(後略)【12月26日 読売】
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「走行中の車内」に限定したのはどういう思惑か?
運転の妨げになるという“大義名分”で導入しやすい場面から「禁止」を導入し、やがては範囲を拡大しようというものでしょうか?

「礼拝の時間には停車」
以前、マレーシアの東海岸コタバルを観光したことがありますが、この地域はほとんどがイスラム教徒で、イスラム原理主義政党PASが支配する地域。 

広場を多くの屋台が埋める市場を散策していると、礼拝を告げるアザーンが鳴り響き、拡声器を抱えた男性が。 言っていることはわかりませんが、多分「お祈りの時間だ。みんなモスクへ行け」と言っているのでしょう。

大勢の人で賑わっていた市場は、客も売り手もほとんどいなくなりガランとした状態に。

誰も肉を焼いている途中でモスクに行きたいとは思わないでしょう。多分、逆らうと営業出来なくなるのでしょう。
「イスラム支配というのはこういうものか・・・」と実感しました。

【「なぜ女子は学校に行けないのでしょうか? 私たちには教育を受ける権利があります。」】
こうしたタリバン支配の「本音」が次第に明らかになる状況で、女性の教育を受ける権利をタリバンに求めた少女がいるとのこと。

****「教育を」タリバンを前に声を上げた少女****
「私たちには教育を受ける権利がある」、イスラム主義勢力タリバンを前に、アフガニスタンの15歳の少女が声を上げました。タリバンが実権を握り、多くの女子生徒が学校に行けない中、少女の勇気ある行動に、世界的な注目が集まっています。

■「学校に行く権利がある」マララさん届けた少女のメッセージ
2021年12月、ノーベル平和賞の受賞者で人権活動家のマララ・ユスフザイさんは、アメリカのブリンケン国務長官と面会した際、あるアフガンの少女の手紙を読み上げ、女子教育への支援を訴えました。

「学校や大学が女子に閉ざされている時間が長ければ長いほど、私たちの未来への希望は失われていきます。女子教育は、平和と安全を築くための強力なツールです。私たちには、学校に行く権利があるのです」

■少女はタリバンを前に、ある驚きの行動に…
この手紙をマララさんに託したのは、アフガン西部ヘラート州に住む、15歳のソトゥーダ・フォロタンさん。日本の高校1年生にあたります。この2か月前、タリバンの当局者ら200人を前に、ある驚きの行動に出ていました。

イスラム教の預言者ムハンマドの誕生日を祝う行事で、詩を朗読する予定だったソトゥーダさん。壇上に上がると突然、こう訴えました。

「ヘラートは知識と文化の街なのに、なぜ女子は学校に行けないのでしょうか? 私たちには教育を受ける権利があります。女子のために、学校の扉を開けてください」

タリバンの旗がたなびく壇上で「学校に戻りたい」と、自らの思いを語ったのです。地元メディアによりますと、彼女の勇気あるスピーチの動画はSNSでも話題となり、タリバンのメンバーの中にも称賛する声があったといいます。

■少女の訴えは、地元政府を動かした
旧政権下では、女子教育を禁じていたタリバン。21年8月に実権を掌握した後は、女子の通学を小学校については認めたものの、中学・高校についてはいまだに認めていません。

教師の母に育てられたソトゥーダさんは、こうした状況の中で、女子のクラスメートの思いも背負い、教育を受ける権利を求めて声を上げたのです。女性初の外務大臣になりたいという夢が、ソトゥーダさんの勇気の源だといいます。

スピーチからおよそ2週間後、ヘラート州では、中学・高校の女子の通学が認められたのです。

■女子教育の再開…教師らによる粘り強い交渉も
(中略)タリバン暫定政権が正式に中学・高校の女子生徒の通学を認めていない中、なぜヘラート州は女子教育の再開に踏み切ったのでしょうか。ソトゥーダさんの訴え以外にも、現場の教師や保護者らの取り組みが後押ししたといいます。

AP通信によりますと、ヘラート州では、教師や保護者らが地元のタリバン当局者と粘り強く交渉を続けました。暫定政権の許可なしには再開できないとする地元のタリバン当局者に対し、学校では男女が分離されており、女子には女性教師が教えることや、女子はヒジャブを身に着けることなどを徹底すると訴えたのです。その結果、州独自の判断として、女子の通学が認められました。

ヘラート州以外でも一部の地域で、中学・高校への女子の通学が認められています。しかし、あくまで各地域の独自の判断とみられ、首都カブールなど多くの地域では、女子生徒が学校に行けない状態が続いています。

■貧困や治安の悪化で「教育現場は崩壊」の声
また、国民の多くが日々の食事にも困っている中で、学校に子どもを通わせる余裕のある家庭は多くないのが現状です。「教育現場は崩壊している」カーブルの複数の中学や高校で教師をしている女性は、NNNの取材にこう訴えました。

女性は21年11月から教師の仕事に復帰したものの、学校に通えるはずの男子生徒も、貧困や治安の問題で、およそ2割しか通学できていないといいます。

12月には、教えている男子生徒が通学途中に誘拐され、身代金を要求されるという出来事も。家族が身代金を払い解放されたものの、男子生徒は精神的なショックで学校には戻れず、他の生徒や教師にも動揺が広がっているといいます。

また、いまだ学校に行けない女子生徒らは自宅で自習するしかなく、将来に希望を見いだせない状態だといいます。女性の元には「奨学金をもらって海外で勉強したい」という相談も寄せられています。

■高まる“児童婚”のリスク
さらに深刻な問題もあります。ユニセフ(=国連児童基金)は、「10代の女子たちが学校に戻れない状況が続くと、児童婚のリスクが高まる」と警鐘を鳴らします。

ある学校の教師は、イギリスBBCの取材に対し、「タリバンが実権を握って以降、15歳以下の女子生徒少なくとも3人が結婚を余儀なくされた」と証言しました。女子生徒が学校に行けず、家にいるだけの状況に家族が不満を募らせると、こうした児童婚の増加に拍車がかかるのではないかと危惧していました。

■2022年 女子生徒は学校に戻れるか
タリバンを前に、教育を受ける権利を訴えたソトゥーダさん。イギリス・フィナンシャルタイムズ紙の、21年の「最も影響力がある女性25人」にも選ばれました。

しかしその後、脅迫を受けるなどして、学校に行けない状況に逆戻りしてしまったといいます。「彼女はオリに閉じ込められたカナリアのようだ」父親は、ソトゥーダさんの近況について、地元メディアにこう語っています。

また、一部の中学・高校では、女子生徒の通学を再開できても、説明もなく再び禁止されたり、タリバンの戦闘員が通学途中に女子生徒の服装を確認したりするため、多くの女子生徒が恐怖から登校をやめてしまったケースもあるといいます。

タリバン暫定政権は、22年に新たな教育政策が承認されるまで、女子生徒が中学・高校に通うことは許可しないとしています。タリバンが今後、どのような方針を示すのか、国際社会による監視と検証が求められます。【12月30日 日テレNEWS24】
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少女の声に耳を傾けたタリバンも少なくなかったことでもわかるように、タリバンの中にも一定に女子教育の必要性に理解を示す者もいるのでしょうが、「宗教上の正義」を振りかざされたとき、そういう「理解」は抑圧されていまいがちです。

【社会にも受け入れられず、冬を迎え、一層厳しさを増す難民の暮らし】
厳しい状況はアフガニスタン後に暮らす人々だけでなく、様々な脅威から国を離れた難民も同じです。

****冬を迎え厳しさ増すアフガン難民家族の今***
イスラム主義勢力タリバンから逃れるため、アフガニスタンを脱出した大勢の難民たち。食料は不足し、満足な暖房器具もないまま冬を迎えている。あるアフガン難民家族に話を聞くと、故郷を捨て国外に逃れた彼らを待つ過酷な現実が浮き彫りになった。(中略)

■難民の受け入れはわずか、多くは「不法入国者」
イギリスにたどり着くことができた難民は幸運なほうだ。イギリスは約2万人のアフガン難民の受け入れを表明していて、彼らには居住や就労の権利が与えられる。

しかし、国外に逃れた全てのアフガン人がそうした待遇を得られるかというと、そうではない。

私は21年10月にトルコにやってきたアフガニスタン人の取材をした。彼らは密航業者に1人数百ドルの手数料を払い越境してきた「不法入国者」だ。「不法入国者」であるが故に正規の仕事には就けず、学校にも通えず、病院に行くことすらできない。もちろん治安当局に見つかれば拘束されてしまう。冬を迎え、彼らの生活は一層厳しさを増している。

彼らは今どのように暮らしているのか、オンラインで再び顔を合わせた。【取材日2021年12月16日】

■父親がタリバンに殺され…難民家族の今
話を聞いたのは母親(46)、長男(15)、二男(8)の3人家族。軍人だった父はタリバンに連行され、殺害されたという。身の危険を感じ、21年8月にアフガンを脱出、イランとトルコの国境近くにある街にたどり着いた。

寒さが厳しく、冬の最低気温はマイナス10℃近くにもなるという街。密航業者の仲介により、街はずれの民家の一室を借りて暮らしているが、部屋には暖房器具も給湯設備もなく、厳しい生活を送っている。母親は病気で働けないため、長男と二男が飲食店や商店の雑用で毎月日本円にして7000円程度を稼ぎ、生活を支える。

――食べ物は足りていますか?
(母)いいえ、残念ながら十分ではありません。

――家族の健康状態はどうですか?
(母)ここの寒さのせいで、家では二男がインフルエンザにかかり、せきをして熱を出していました。その前には、長男も病気になりました。私自身も腰の骨に問題を抱えていて痛みがあり、働けない上、家でもなかなか動けません。私たちは寒さと病気に悩まされています。

――病気になった場合、どうしていますか?
(母)こちらでは身分証明書を持っていないので、医者に行って診察してもらったり、処方箋をもらったりすることができません。治るまで、あるいは死んでしまうかもしれませんが、ただ家にいることしかできません。誰も私たちに関心を持っていません。そのため、状況は日に日に悪くなっています。

――将来の見通しについて、どう考えていますか?
(母)子どもたちの将来のために、どこかの国で教育を受けさせ、前に進んで行きたいと思っています。しかし、今の私たちにはトルコに滞在するための資格がありません。イスタンブールに移動するためのお金もありません。私たちは苦しんでいます。二男は週に100トルコリラ(約900円)で働いていますが、長男は先日仕事を解雇されてしまいました。

――滞在資格を得るための法的な問題について、サポートをしてくれる人はいますか?
(母)いいえ、法的問題についてサポートしてくれる人はいません。ここには誰も知り合いがいません。

■2人の子どもは学校に通えず生活費を稼ぐ毎日

――トルコで友達はできましたか?
(長男)トルコ語がわからないので友人ができません。私は一人で落ち込んでいます。

――状況は良くなっていますか?
(二男)いいえ、以前よりも状況は悪くなっています。私は仕事をしていますが、失敗をすると殴られ、または罰としてよりきつい仕事をさせられます。私にとっては最悪の状況です。

――今、何を一番望んでいますか?
(二男)自分と家族のために、平穏な日を過ごしたいです。毎日が良い日であってほしい。滞在の資格や身分証明書を得たい。良い人生を過ごしたいです。

(母)私は息子たちに良い未来を望んでいます。彼らが教育を受け、とても良い未来が待っていることを。もちろん、現在の生活で言えば、全てのものが必要です。洗濯機がない、冷蔵庫がない、お湯は出ない、暖房器具もない。私はたくさんの問題を抱えています。この部屋は寒くて、例えば壁に触れられないくらいです。病気にもなってしまいました。

(母)まずはトルコに受け入れてもらえなければなりません。病気になったら、医者に行かなければいけないのに、今私たちは医者に行くこともできません。

取材した家族は未来に全く希望を見いだせない今の状況に涙を流していた。

トルコ政府も難民を受け入れたい思いがないわけではない。しかし、現地の難民収容センターによれば、トルコはすでにおよそ500万人のシリア難民を受け入れていて、さらにアフガニスタンからの難民を受け入れる余裕はないのだという。

アフガニスタン難民の問題はG7、あるいはG20などで議論されている。人数が膨大な上に広い地域に拡散しているため手が回り切らないのが現状だが、引き続き国際社会の中での主要課題として位置づける必要があるだろう。

私が取材した家族のような、アフガン難民を取り巻く環境が、22年は少しでも改善されることを願ってやまない。【12月30日 日テレNEWS24】
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アフガニスタン国内に暮らす人にとっても、国を離れた難民にとっても、2022年がより良い年になるといいのですが・・・。

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中国  続く「ゼロ・コロナ」政策 厳格な規制の西安では食料不足も 人権無視・市民監視も

2021-12-30 23:35:12 | 中国
(PCR検査を受ける学生ら=25日、中国陝西省西安(共同)【12月29日 産経】)

【武漢から2年 「ゼロ・コロナ」政策のもとで、西安が再び「ゴーストタウン」に】
新型コロナについて武漢の医師、李文亮さんがその危険をネットに投稿してから2年が経過しました。
その後、日本でも、世界中でも、今にいたるまでコロナで大騒ぎしており、感染爆発、行動規制、ワクチン開発等々随分いろんなことがありましたが、李文亮さんの告発からまだ2年しかたっていない・・・そんな感じも。

中国においては、当局の処遇にかかわらず、李文亮さんの警鐘は今も敬意が払われているようです。

****武漢の医師告発2年 感謝や不安 SNSにあふれる数千のメッセージ****
新型コロナウイルスの発生について中国湖北省武漢市の医師、李文亮さん=2020年2月に死去=が警鐘を鳴らしてから2年を迎えた30日、李さんが残した中国の短文投稿サイト「微博(ウェイボー)」のアカウントには勇気ある行動への感謝や今なお続く感染症への不安をつづった数千のメッセージが寄せられている。
 
同市の病院に勤務していた李さんは市当局が集団感染を初めて公表した前日の19年12月30日、医師仲間のグループチャットで原因不明の肺炎について注意を呼びかけた。

メッセージは広く拡散されたが、公安当局からは「虚偽情報を流した」として処分を受け、自らも新型コロナに感染して死亡。告発者に対する当局の対応に批判が高まり、処分は取り消されている。
 
最後となった李さんの投稿には節目ごとにメッセージが集まり、その数は100万件以上に上る。30日のメッセージには「あなたの勇気で私たちは救われた」といった内容のほか、西安市での感染拡大を受けて「もう2年たったのに、まだ私たちは感染症から離れられないのです」と心情を吐露するものもあった。【12月30日 毎日】
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武漢での悲惨な経験、その後の情報公開の遅れに対する「中国のせいで世界に災いが広まった」との国際的非難・・・そういうこともあってのことでしょうが、中国政府は頑なに「ゼロ・コロナ」政策を続けており、コロナの感染拡大に苦しむ欧米を尻目に、「ゼロ・コロナ」政策の成果を共産党政治の欧米民主主義に対する優越性として誇っています。

そうした状況にあって、中国が苦慮しているのは上記記事最後にもある西安での感染拡大とロックダウンです。
かつての長安、古都西安(人口1300万人)は2年前の武漢の再現となっています。

****中国、「ゴーストタウン」再び コロナ初公表から2年 出口見えぬ強権措置****
中国湖北省武漢市の当局が、後に新型コロナウイルス感染症とされた「原因不明のウイルス性肺炎」について初公表してから31日で2年。

武漢で約2カ月半のロックダウン(都市封鎖)を行うなど強権的な手法で感染拡大に歯止めをかけてきたが、来年2月の北京冬季五輪を目前に控えて局地的な流行に直面。わずかな感染拡大も許さない習近平政権の「ゼロコロナ」の号令下で緊張が高まっている。

国家衛生健康委員会によると、症状のある新規感染者は25日に中国本土全体で206人確認された。海外からの入国者も含めたもので、200人を上回ったのは今年初めてだった。

陝西(せんせい)省西安市ではデルタ株の感染が急拡大し、9〜29日に確認された症状のある感染者は同市内だけで計1千人を突破した。西安では23日から実質的なロックダウンが実施され、生活必需品の購入も自由に行うことができない移動制限をとった。

西安は世界文化遺産「兵馬俑(へいばよう」がある観光都市だが、中国メディアによると街中ではPCR検査に向かう人など一部を除き人影がない。香港紙の明報(電子版)は「人口1300万の都市がゴーストタウンのようになった」と伝え、中国のインターネット上には「去年の武漢のようだ」という投稿もあった。

米欧などで多数の感染者の確認が続く中、習政権は「ゼロコロナ」政策を成果と位置付ける。今年、中国本土ではコロナによる死者は2人だけといい、市民からも「コロナ対策で共産党はよくやっている」(北京の40代女性)といった評価の声が少なくない。

世界ではコロナと共存しながら社会・経済活動を進める「ウィズコロナ」も議論されるが、中国では「ゼロコロナ」の出口は見えない。【12月30日 産経】
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【買い出しも制約される厳しい規制で食料不足も】
陝西省の衛生当局の30日の発表によると、29日に西安市で新たに155人の感染を確認。感染者が出た9日からの累計は1117人になっています。

欧米の万単位の感染状況に比べたら問題にもならない数字ですが、「ゼロ・コロナ」政策をとる中国にとっては許されない事態で、上記記事にもあるように厳しい外出規制・都市封鎖が行われています。

”習近平指導部の号令の下、展開される「ゼロコロナ」政策では、感染者が一人でも出ると、その居住区を封鎖して全住民のPCR検査を実施するなど厳格な措置が取られる。

またスマートフォンで、ワクチン接種の有無やPCR検査の陰性証明、感染地域での行動歴等を記録・管理するなど徹底した防疫措置が講じられている。
 
感染が拡大した西安市では23日から住民ら約1300万人の外出を原則禁止にする都市封鎖を開始。政府も空軍の医療チーム150人を派遣するなど、必死にコロナの封じ込めを図る。”【12月30日 毎日】

厳しい外出規制で食料購入もままならず、住民からは批判も。

(西安市内での食料配布、29日撮影【12月30日 ロイター】)

“西安市では23日以降の都市封鎖によって供給網や物流が混乱。住民らは食料などの必需品不足に陥る事態となっている。

30代の女性会社員は毎日新聞の取材に「西安で今深刻なのはコロナではなく、食料の問題だ」と訴える。政府は「十分な供給量がある」と発表して沈静化を図るが、コロナの震源地となった武漢市の都市封鎖の際に問題となった食料不足が繰り返された形だ。”【同上】

****中国、コロナ対策のロックダウン拡大 食料不足の訴えも****
中国北部で28日、新型コロナウイルス対策として、新たに住民数十万人に対し外出制限が課された。同国では新型ウイルスの感染がここ1年9か月で最悪の水準に拡大。ロックダウン(都市封鎖)下に置かれた住民は、ソーシャルメディアで食料不足を訴えている。
 
中国は現在、来年2月の北京冬季五輪に向けて多数の外国人の受け入れ準備を進めており、厳格な入国制限と長期間の隔離、局所的なロックダウンによる「ゼロコロナ」戦略を取っている。
 
しかしこの数週間で感染者数が再び急増。28日には209人の感染が発表され、中部・武漢で新型ウイルスが猛威を振るった昨年3月以降の1日の新規感染者数としては最多となった。
 
感染がまん延している欧米と比較すれば中国の感染者数は少ないが、人口1300万人の西安では当局が「最も厳格」な規制を導入。住民は複数回の検査を受け、食料品の買い出しのため外出できる人数は1世帯で3日ごとに1人のみに制限されている。
 
西安の近隣都市でも、感染が増加。約300キロメートル離れた延安でも28日、商店が閉鎖され、1地区の住民数十万人が外出を禁じられた。
 
西安のロックダウンは、同規模の都市である武漢が封鎖されて以来、同国で最大規模のものとなった。外出制限が6日目に入る中、ソーシャルメディアには食料などの必需品が調達できず助けを求める投稿が相次いでいる。
 
ある住民は、中国版ツイッターの微博(ウェイボー)に「餓え死にしそうだ」と投稿。「食べ物はないし、集合住宅は外に出してくれないし、即席麺も無くなりそうだ……助けて!」と訴えた。 【12月29日 AFP】
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さすがに中国当局も必需品の供給に支障をきたしていることを認めたようです。

****中国当局、ロックダウン下の西安市での食料不足認める****
中国当局は29日、新型コロナウイルスの感染拡大によりロックダウン(都市封鎖)を実施している北部陝西省西安市で、人手不足と物流の問題により、必需品の供給に支障をきたしていることを認めた。食料不足を訴える声が住民から上がっていた。
 
人口1300万の西安市では、外出制限が続いている。衛生当局はここ数か月で最悪の感染状況だとして、さらなる対策の強化を求めている。
 
28日にはソーシャルメディアで、食料などの必需品が調達できず助けを求める市民の投稿が相次いだ。中には食料が尽きそうなのに集合住宅から外へ出られないと訴える人もいた。
 
市幹部は記者会見で、企業を動員して地域ごとの配給を強化しており、市職員が卸売市場やスーパーを監督していると説明した。
 
だが、一部地域ではまだ物資が不足している。
ある住民は、中国版ツイッターの微博(ウェイボー)に「何日か前は食品を買いに行けたが、それもできなくなった」「オンラインの食品通販アプリはどれも売り切れか、配達範囲外だ」と投稿した。
 
西安市では今月9日以降、960人以上の感染者が確認されている。当初は買い物のための外出が3日に1回許可されていたが、27日に外出制限が強化され、検査以外の外出を禁じられた住民も多い。【12月30日 AFP】
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市民生活が支障をきたすぐらいですから、当然に経済活動にも支障が出ています。

“西安市は感染経路を追うため市内全域で検査を実施しており、30日には6度目の検査に着手した。市当局者は29日、記者会見で「新型コロナとの闘いで、生きるか死ぬかの段階に来ている」と語った。”【12月30日 ロイター】

【規制違反者を「さらし者」にする地方当局も】
「ゼロ・コロナ」のもとで感染拡大を許せば市当局もその責任を中央から問われますので、市当局も必死でしょう。

****中国、コロナ新規感染者が過去4カ月で最多、西安市当局者26人処分―独メディア****
独ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトの25日付報道によると、中国本土で新型コロナウイルスの新規感染者(無症状感染者除く)が過去4カ月で最多となる中、感染が拡大している陝西省西安市では、十分な対策を怠ったとして市の当局者26人が処分された。(後略)【12月27日 レコードチャイナ】
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そうした「必死さ」と人権への認識欠如から、感染対策規則違反者を「市中引き回し」の見せしめにする地方当局も。さすがに「文化大革命のよう」との批判も。

****容疑者を市民の前でさらし者に 動画拡散を受け「文化大革命のよう」SNS上で批判の声 中国****

新型コロナウイルスの流入に警戒を強める中国当局が、密入国を斡旋した容疑者を市民の前でさらし者にし、ネット上では「文化大革命のようだ」と批判の声が上がっている。

ベトナムと国境を接する広西チワン族自治区で28日に撮影された映像では、防護服を着た警察官が、同じく防護服を着た容疑者の男らを引き回す。自分の顔写真をぶら下げ、集まった市民を前にさらし者としている。
 
地元警察が国外からのウイルス流入を警戒して水際対策の強化を発表した直後の出来事で男らはベトナムからの密入国を手引きした疑いで拘束されたということだ。
 
この動画が拡散するとSNS上では「文化大革命のようだ」「法律にこんな刑罰があるのか」などの批判が相次いだ。地元警察は「処罰の一環」で問題ないとの認識を示している。【12月30日 ABEMA TIMES】
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中国では2010年、人権団体による長年の反対運動により、犯罪者に対し公に辱めを与えることが禁止されています。

“こうした強圧的な措置には、中国共産党系のメディアやソーシャルメディアから批判の声が出ている。
中国共産党系の大衆紙新京報は29日、国外からの新型コロナの流入を阻止するよう靖西に対し「重圧」が掛けられているとした上で、「こうした措置は法の支配の精神に著しく反しており、再発は許されない」と指摘した。”【12月30日 AFP】

【市民監視も一段と厳しく】
一般市民についても、コロナ対策を理由に、監視の目がこれまで以上に厳しくなっています。

****中国、進む「コロナ独裁」 14億人に精緻な監視網****
中国当局が「原因不明の肺炎」として新型コロナウイルス感染症の発生を初公表してから31日で2年。習近平指導部は「ゼロコロナ」の掛け声の下、住民組織やスマートフォンを通じて14億人を徹底的に監視、管理する体制を築いた。

新変異株「オミクロン株」の感染拡大で世界では収束が見通せない中、強権的な共産党の一党支配をコロナ禍が加速させている。
 
「日本や欧州の大使館の行事に招かれたようですね。何をするんですか」。北京市の30代男性は今月、居住区ごとに設置された「社区」の居民委員会に呼び出され、説明を求められた。自分の行動が全て把握されていると知った。【12月29日 共同】
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強権的措置を伴いつつ中国の「ゼロ・コロナ」政策は当分続くと見られています。

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来年2月には北京冬季五輪、秋には5年に1度の共産党大会を控えており、北京の外交筋は「当分は『ゼロコロナ』でいくのではないか」との見方を示す。

中国国内での感染拡大は、他国に比べコロナ対策の行動規制が成果を上げているとアピールしてきた習近平体制の「制度的優位性」が揺らぐことになるため、当局は厳しい規制を続ける見通しだ。【12月30日 毎日】
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ソマリア  深刻な飢餓の脅威が迫る状況で、大統領と首相の確執で政治は混迷

2021-12-29 23:13:52 | アフリカ
(アフリカ・ソマリアのモハメド・アブドラヒ・モハメド大統領が27日にモハメド・フセイン・ロブレ首相の権限を停止したと発表したことを受け、数百人におよぶロブレ首相派の治安部隊が28日、大統領官邸近くに集結している。写真はソマリアで27日撮影 【12月29日 ロイター】)

【「すしざんまい」社長「美談」の落とし穴 難しい情報評価】
アフリカ東部のソマリアについては、ひと頃「海賊問題」が国際的関心事となり、スエズ運河を経由して欧州とアジアを結ぶ海路の大動脈にあって多くの船舶が往来する日本にとっても重要な問題となりました。

「海賊」の方は、最近では収まったようですが、そのソマリア海賊の収束に関して、初競りで大間産の本マグロを1億、2億と言った高額で競り落として話題にもなる寿司レストランチェーン「すしざんまい」を運営する喜代村の木村清社長が多大なる貢献をしているという、初耳の記事を目にして驚きました。

****「お前らを漁師に戻す」ソマリアの海賊をあっという間に消滅させた"すしざんまい社長"の声かけ****
(中略)
脅威は海運業界に大きな負担を強いて国際問題となっていた。それが2013年頃から急に海賊がいなくなったのである。(中略)木村社長に直接会って話を聞いた。

「好き好んで海賊をやっているんじゃない」
ソマリア沖はキハダマグロが獲れる良い漁場なのだが、海賊の出没騒ぎで漁ができなくなった。調べてみると、誰も海賊たちと話したことがないという。海賊だって同じ人間なのだから会って話を聞いてみようと、ソマリアに出かけた。

内戦が続いてボロボロになった国では、生きていくだけでも悲惨な日々で、それは漁師たちも同じだ。貧困と飢えは、目の前を往来する世界中の船団、「宝船」に目を向けさせた。

漁師たちはついに禁断の大海原の強盗と化してしまい、平和な海は無法地帯になった。ところが彼らと話してみると、好き好んで海賊をやっているんじゃない、ただ生きるためだと言う。じゃあ、マグロを獲ればいいじゃないか、もっと誇りを持った人生にしなくちゃいかんと話した。

「マグロ漁の方法は教える! 漁船も私がすべて調達して、まず4隻を持ってきて与える! もちろん、ソマリア国内にマグロの冷凍倉庫や流通設備は私が整えるし、そのマグロはすべて買い取る! そうすれば本来の漁師に戻れるだろ! 船も確保されて、売り先も心配ないとなれば、何も問題はないだろう!」

そうして、年間に300件以上も発生していた海賊襲撃被害は2014年以降からパタッと消滅した。正直、まだ採算はとれていないが、利益が出る目論見は立っているという。

「商売は、目先の利益を考えたらいかん。どうやったら喜んでもらえるか、何を求められているかに応えるのが商売だ」

その年に、アフリカ・ソマリア沖の海賊問題解決とマグロ漁場開拓のため、ソマリアの新政府に民間による漁業支援を申し出た。

和食が世界的にブームになり、乱獲で漁獲量も激減し始めていたから、ソマリアの件がうまくいけばマグロが入手できる上に海賊行為もなくなるという一石二鳥の名案であった。(後略)【12月23日 黒木 安馬氏 PRESIDENT Online】
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「そんなことがあったの!?」って驚いたのですが、すぐにこの「美談」が事実と異なることが指摘されています。

****バズった「すしざんまい」美談 「ソマリア海賊消滅に貢献」の裏側****
「すしざんまい」を運営する喜代村の木村清社長が「ソマリアの海賊をあっという間に消滅させた」という記事がSNSで広く拡散されました。しかし、同社によると、実際はソマリアの「海賊らしき人」への支援にとどまり、「海賊消滅」に貢献した事実は確認できないといいます。(中略)
 
「話に尾ひれ、美談が強調」
同社広報によると、2010年ごろからソマリア沖周辺でのマグロ漁の可能性を探っていたといいます。木村社長は自らソマリアの隣国ジブチに入国。自衛隊が海賊対策のために派遣され、拠点を置いていた国です。ここから、ソマリアに入ったといいます。
 
同社広報は取材に「ソマリアでは海賊らしき人と話して、マグロ漁の技術的な指導や加工技術を伝えました」「船は寄贈しましたが、冷凍倉庫や流通設備はもともと政府の途上国援助(ODA)であったものを利用したと聞いています」と明かしてくれました。
 
つまり、木村社長がソマリアで支援をしたのは「元海賊」かどうかは不明で、「ソマリアの海賊をあっという間に消滅させた」という事実も認められないということでした。同社広報は「話に尾ひれがついてしまっています。美談の部分が強調されています」と教えてくれました。(中略)
 
同社によると、現在はソマリアでの活動は中断しているといいます。治安が悪化し「渡航が難しくなったことが原因です」(同社広報)。
 
筆者に問い合わせたところ、木村社長には1時間程度面会し、事実関係の裏取りまでできていないという内容の回答がありました。記事を掲載した「プレジデント オンライン」編集部は「掲載時には事実関係をチェックしているが、確認不足だった」として、24日午後に記事を削除しました。

海賊が減った本当の理由
一方で、10年代半ば以降、ソマリアの海賊はたしかに減少していきました。本当は何が起きていたのでしょうか。
 
ソマリアを中心にテロ組織からの投降兵と逮捕者の脱過激化に取り組む「アクセプト・インターナショナル」の永井陽右代表理事は「海賊が激減した理由は、多国籍のソマリア沖パトロールと、ソマリア北東部のプントランド自治州による湾岸警備が機能したからです」と説明します。
 
さらに、ソマリア北部の刑務所では、元海賊への再犯防止プロジェクトも展開されています。こうした、国際的な取り組みと草の根の活動がリンクして、ようやく海賊が減っていったといいます。
 
今回のようにひとりの民間人が乗り込んで「ソマリアの海賊を消滅させた」という説に対しては、「問題解決の現場に対する人々の理解をねじ曲げてしまう。そして誤った理解は問題の構造をさらに悪化させる。メディアは社会的責任を考えなければいけない」と永井氏は危機感を述べています。

「まなざし」のくもりを取り払う
(中略)冷静に考えると、民間人だけで国際問題を解決するのは難しいはずです。それなのに、なぜ、これほど多くの人が信じ、称賛してしまうのでしょうか。
 
その心理の奥には、どこか遠く離れたアフリカへの偏見はないでしょうか。アフリカ地域の事情について、私たちはあまりに知らなすぎるのではないでしょうか。だから、こうした美談に飛びついてしまうのではないでしょうか。
 
現地で活動を続ける永井氏は「より良い世界のためには、インターネットに出てこない無数の人々による地道な貢献こそ、理解され、応援されるべきだ」とも伝えています。
 
少しだけ、私たちと同じ時代を生きるアフリカ地域で暮らす人びとのことを考えてみませんか。私たちがアフリカをみる「まなざし」のくもりを取り払うためには、その一歩が大切になると信じています。【12月24日 朝日】
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世界は広く、個人の日常空間は限定されていますので、「私たちはあまりに知らなすぎる」のは一定に止む得ないところも。

ネットに溢れる情報をフィルターにかけて「怪しいもの」をふるい落とすことは、なかなか難しい作業です。
特に、自分の考えるところに沿うような情報については、つい無批判に受入れがちです。
私も気をつけないと・・・。

【中国を念頭に、この地域への関与を縮小するアメリカ・日本】
でもって、海賊は収まりましたが、無政府状態に長くあったソマリアの状況が大きく改善した訳でもないようです。
イスラム過激派アルシャバーブの活動も続いているようです。

“ソマリア首都で車爆弾 20人死亡、30人負傷”【3月7日 CNN】

****米軍、ソマリアで空爆=バイデン政権で初****
米国防総省は20日、ソマリアでイスラム過激派アルシャバーブに空爆を加えたと発表した。ソマリアでの空爆はバイデン米政権発足後初めて。

空爆はソマリア中部ガルカイヨ近郊で行われた。具体的な標的は不明。国防総省は声明で、空爆による被害状況の確認を終えていないとしつつも「初期分析によれば民間人に死傷者はいない」と強調した。【7月21日 時事】 
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ソマリア情勢があまり報じられないなかにあって、やや唐突な感もあった米軍空爆でしたが、アメリカにとってソマリアは、映画「ブラックホーク・ダウン」にも描かれた「大失敗」のトラウマを引きずる場所。アメリカがアフリカに関与したがらない遠因ともなっています。

米軍は基本的にはこの地域からの撤退を進めています。

****ソマリアから米部隊の大半撤退へ、トランプ氏が命令****
米国防総省は4日、ドナルド・トランプ米大統領が、ソマリアに駐留する米部隊の大半を撤退させるよう命じたと発表した。ソマリアには約700人が駐留し、イスラム過激派組織「アルシャバーブ」対策やソマリア軍の訓練に当たっている。

国防総省は、トランプ氏が「国防総省と米アフリカ軍に、2021年初頭めまでに人員と資産の大部分をソマリアから撤退させるよう命じた」と明らかにした。

国防総省はこの対応について、米国がアフリカから撤退するわけではないとした上で、「米本土を脅かす恐れのある過激派武装組織を弱体化させ続けると同時に、大国間競争でのわが国の戦略的優位を維持し続ける」と述べた。 【2020年12月5日 AFP】
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バイデン政権の考えは知りませんが、イラク、アフガニスタンからの撤収とも軌を一にする動きで、中国を念頭に置いた再配備を重視するバイデン政権もソマリアにはあまり関与する考えはないのでは・・・。

日本も、対中国を念頭に、海上自衛隊の護衛艦を帰還させることを決定しています。

****中東海域派遣の護衛艦、帰還へ 日本周辺の警戒態勢強化****
政府は24日の閣議で、情報収集活動のため中東海域に派遣している海上自衛隊の護衛艦1隻について、26日までの派遣期間を延長しないことを決めた。

海洋進出を強める中国をにらみ、護衛艦を帰還させて日本周辺海域の警戒監視態勢を強化する。情報収集活動は、アフリカ東部ソマリア沖のアデン湾で、海賊対処行動に従事する別の護衛艦1隻が兼務する。
 
中東への護衛艦派遣は、米国とイランの対立を受け、日本に関係する民間船舶の安全確保を目的に2020年に始まった。日本は米・イラン両国に配慮し、イランに近いホルムズ海峡などを活動海域から除き、同海峡手前のオマーン湾などに護衛艦を派遣している。任務を集約した護衛艦の新たな活動期限は22年11月19日。
 
防衛省などによると、活動開始以降、情報収集部隊が21年10月末までに確認した船舶は10万6491隻に上る。政府は中東地域で高い緊張状態は継続しているとしながらも、「日本関係船舶に対する特異な事象は確認されず、直ちに防護を要する状況にはない」と分析。

また、アデン湾での海賊対処行動については「海賊の発生件数は低水準で推移し護衛回数も減少している」として、海賊対処に当たる護衛艦に情報収集を兼務させることが可能と判断した。
 
日本周辺海域では、中国が公船による沖縄県・尖閣諸島周辺への領海侵入などを繰り返し、海洋進出を強めている。政府は日本周辺の海自の体制を手厚くし、喫緊の課題である南西諸島方面の防衛力強化を図る。【12月24日 毎日】
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【干ばつの脅威 4人に1人が餓死寸前】
アルシャバーブ以上に深刻なのは干ばつによる「飢餓」の脅威です。

****ソマリアで干ばつ悪化 4人に1人「急性飢餓」の危機****
国連は20日、紛争で荒廃した東アフリカのソマリアで雨期の降水量が3期連続で少なかったことから干ばつが深刻化し、ほぼ4人に1人が餓死寸前の「急性飢餓」の危機に直面していると警告した。
 
次の雨期も雨はあまり降らない見通しで、事態はさらに悪化し、来年5月までに460万人が食料支援を切実に必要とする状態になると国連は指摘している。
 
すでに16万9000人が食料、水、牧草地の不足のため住んでいた土地を捨てて避難せざるを得なくなっており、その数は向こう半年以内に140万人に膨れ上がるという。
 
国連ソマリア支援ミッションのアダム・アブデルモウラ氏はAFPのインタビューで、「最悪の事態が迫りつつある」と述べ、今後数か月間で5歳以下の子ども30万人が「重度の栄養失調」に陥る恐れがあると警鐘を鳴らした。
 
国連は、来年中にソマリアの全人口約1590万人のほぼ半数に相当する770万人が人道支援と保護を必要とするとみて、危機に対応するため約15億ドル(約1700億円)の資金拠出を呼び掛けている。
 
ソマリアでは10人に7人以上が貧困ライン以下の暮らしを送っている。 【12月20日 AFP】
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【混迷する統治 大統領と首相の確執】
こうした危機的状況に政府がどのように対応できているのか・・・・どうも対応できていないのでは・・・というのが、「マッドマックス」や「北斗の拳」の世界を地で行くような「無政府状態」を長く続けたソマリアの抱える大きな問題です。

大統領選挙を巡っても政争に明け暮れ、状況は二転三転・・・。

“ソマリア大統領が任期切れ 予定の選挙、実施できず”【2月9日 朝日】
“ソマリア大統領、選挙せず任期を延長へ 米「深く失望」”【4月15日 朝日】
“10月にソマリア大統領選出 政治家の投票で”【6月30日 産経】

結局、10月の選挙も実施されていません。
政局混迷の背景に、大統領と首相の確執があるようです。

****ソマリア大統領、首相を停職に 選挙めぐり対立激化****
東アフリカ・ソマリアのモハメド・アブドラヒ・モハメド・ファルマージョ大統領は27日、選挙をめぐって対立するモハメド・フセイン・ロブレ首相を停職処分としたと発表した。ロブレ首相は憲法違反だと主張しており、確執が深まっている。
 
大統領府は、ロブレ首相が土地収奪事件の捜査に介入したとして「首相に汚職関与の疑いがあることから、停職させ権限を停止すると決定した」と発表した。

これに先立ちロブレ首相は26日、ファルマージョ大統領が首相の選挙実施権限を取り消し、間違いを「正す」ためとして新たな委員会を招集したのは選挙プロセスの妨害だと非難していた。
 
停職の発表を受け、ロブレ首相はファルマージョ大統領が「憲法と法律に違反して、力ずくで首相の座を奪おうとしている」と反論している。
 
政情が不安定な「アフリカの角(Horn of Africa)」と呼ばれる地域にあるソマリアでは、選挙の延期が続く中、ファルマージョ大統領とロブレ首相の関係が冷え込んでいた。今回の事態を受け、内政のさらなる混乱が危惧される。 
 
4月にはファルマージョ大統領が選挙を行わないまま任期延長を決定し、首都モガディシオの市街地で政府支持派と反政府派が銃撃戦を繰り広げる事態に発展した。
 
この混乱はファルマージョ大統領が任期延長を撤回し、ロブレ首相が選挙日程を調整することで収束したものの、両者の対立は続き、選挙はまたも延期。両者は10月にようやく和解し、共同声明で選挙プロセスの加速化を約束したばかりだった。【12月27日 AFP】
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更に、不穏な情勢も報じられています。

****ソマリア、首相派部隊が大統領官邸近くに集結 権限停止受け****
アフリカ・ソマリアのモハメド・アブドラヒ・モハメド大統領が27日にモハメド・フセイン・ロブレ首相の権限を停止したと発表したことを受け、数百人におよぶロブレ首相派の治安部隊が28日、大統領官邸近くに集結している。

ロブレ首相はモハメド大統領による権限停止をクーデターの企てと非難。米国は声明で全ての関係者に事態の深刻化を避けるよう呼び掛けたが、米国は首相側を支持しているもよう。

ロイターのカメラマンによると、治安部隊は28日午後時点で集結した以外の行動は起こしていない。ただ、集結したことで大統領派・首相派の部隊同士の衝突が懸念されている。【12月29日 ロイター】
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4人に1人が餓死寸前の「急性飢餓」の危機に直面しているという状況で、再び「マッドマックス」「北斗の拳」の世界でしょうか。
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西アフリカ・マリでの欧米の関与縮小の空白を埋めるロシアの民間軍事会社傭兵

2021-12-28 22:10:23 | ロシア
(ロシアのプーチン首相(左、当時)と実業家エブゲニー・プリゴジン氏=2010年9月、サンクトペテルブルク郊外(AFP時事)【12月14日 時事】) 

【イスラム過激派拡大などで治安状況が悪化する西アフリカ】
西アフリカでは、ナイジェリアを中心に女子生徒の大量拉致を繰り返すイスラム過激派「ボコ・ハラム」に代表されるように「イスラム国(IS)」系やアルカイダ系の過激派が活発化し、加えて、政情不安、部族抗争などで、不安定な状況が続いています。

“武装集団が工事現場襲撃、中国人ら5人拉致 マリ”【7月18日 AFP】
“ギニアでクーデター=特殊部隊が大統領拘束”【9月6日 時事】
“イスラム過激派攻撃で市民480人犠牲に 5〜8月で ブルキナファソ”【9月14日 AFP】
“逃げる人を次々に殺害、ナイジェリアの武装集団が住民を襲撃…民族対立背景か”【10月1日 読売】
“西アフリカ・ニジェール南西部で銃撃、町長含む69人死亡”【11月5日 AFP】

****アフリカでイスラム過激派拡大 自由貿易圏に影****
アフリカでイスラム過激派がテロ活動を活発化している。中東の過激派組織「イスラム国」(IS)や国際テロ組織アルカイダに関連する組織の犯行で、テロの主な舞台が中東から移っている。企業の活動や、1日に始動したアフリカの自由貿易圏にも懸念要素となる。

仏エネルギー大手のトタルは2020年末、アフリカ東部モザンビークで進める天然ガス開発事業から一部の従業員を退避させた。治安の悪化を受けた措置で、AFP通信によるとプロジェクト現場の近くで20年12月に少なくとも4回、武装集団の攻撃があった。

IS系組織の犯行とされるが、正体ははっきりしない。11月には北部のカボデルガド州で住民50人以上を斬首したと報じられた。同国政府は、過激派の台頭で住民57万人が家を追われたとしている。

西アフリカのナイジェリアでは12月、男子寄宿学校が襲撃され多数の生徒が拉致された。後に344人が解放されたが、イスラム過激派のボコ・ハラムが「非イスラム教的な行いをやめさせるためだ」と犯行を主張した。欧米式の教育を否定している。

サハラ砂漠の南の縁に当たるサヘル地域でもテロが相次ぐ。ニジェールでは21年1月2日、イスラム過激派が2つの村を襲い住民100人を殺害したと報じられた。マリ、ブルキナファソでも活動する「大サハラのイスラム国」(ISGS)の犯行との見方がある。

マリでは2日、過激派掃討の任務中のフランス兵2人が簡易爆発装置で殺害された。直前に仏兵3人が死亡した別のテロは、アルカイダ系組織が犯行を主張した。

イスラム過激派がアフリカで勢いを増したのは、中東で掃討され足場が縮小したのが大きな要因だ。「ISはシリアとイラクで敗北後、イデオロギーを広げる代替地とみたアフリカに向かった」とアラブ首長国連邦(UAE)のシンクタンク未来先端調査研究所は分析する。IS系とアルカイダ系がアフリカで勢力争いをしているとも指摘した。

新型コロナウイルスの流行を利用している可能性もある。「パンデミック(世界的大流行)で過激派組織がサヘル地域で支持を広げている」とデンマーク移民統合省は昨年の報告書で指摘した。行政サービスが届かない地域で医療を提供し、住民を取り込んでいるという。

テロの発生は局所的だが、治安の悪化は経済活動や企業進出に影を落とす。1日には大陸全体の共通市場化を目指すアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)が始動した。5年以内に9割の関税を撤廃する目標を掲げている。物流インフラの不足がかねての課題だが、過激派の暗躍も経済統合を遅らせる恐れがある。【1月19日 日経】
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【フランスの関与縮小の空白を埋めるロシア民間軍事会社の傭兵】
アフリカにあまり関与したがらないアメリカに代わって、この地域へ関与してきたのは旧宗主国でもあり、権益も多く持つフランス。

マリを中心に軍事介入してきましたが、いつになっても改善しない状況に「これ以上は・・・」という感もあるのでしょう、“派兵を「再構成」する”という形で、事実上関与を減らしていく方針です。

****仏、アフリカ派兵2千人超削減へ 対テロ作戦を見直し****
フランスのマクロン大統領は9日、同国がアフリカ・サハラ砂漠南部のサヘル地域で2013年以降続ける対テロ作戦の見直しで、来年初めまでに西アフリカ・マリの複数の拠点を閉鎖し、軍の派遣要員を現在の5100人から2500〜3千人に減らす方針を発表した。ニジェールやマリなど地域5カ国の首脳とのオンライン会合後に記者会見した。
 
マクロン氏は、国際テロ組織アルカイダなどイスラム過激派による戦略が「支配地域の確保から脅威の拡散」に変化したことに対応し、派兵を「再構成」すると説明。過激派の司令部壊滅と地元部隊の能力強化支援を主要任務とするとした。【7月10日 共同】
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アメリカ・フランスの関与が低下して「空白地帯」が生じれば、そこに入り込もうとする勢力も。
経済的にはアフリカへの中国進出は著しいものがありますが、軍事的にはロシア。
それも、国際的に問題となる正規軍ではなく、民間の軍事会社による「傭兵」の展開。

欧米諸国はロシアの「傭兵」派遣が地域を不安定化させると非難しています。

****英仏伊など「マリにロシア民間軍事会社ワグネル・グループが展開」と非難****
イギリス・フランスなどは西アフリカ・マリにロシアの民間軍事会社が展開しているとして、非難する声明を出しました。

イギリス・フランス・イタリア・カナダなど16か国は23日、共同で出した声明で、ロシアの民間軍事会社ワグネル・グループがマリに展開しているとして、「西アフリカの安全保障状況をさらに不安定化させる行為だ」と非難しました。

その上で、「マリの暫定政府が、もともと乏しい公的予算をマリ政府軍や公的サービスに使うのではなく、外国の傭兵部隊に支払う選択をしたことに対して、深い遺憾の意を示す」と述べ、ロシアに対しては「ワグネル・グループのマリでの展開をロシア政府が支援していることは認識している。ロシアに対して、この地域での責任ある建設的な振る舞いに立ち戻るよう呼び掛ける」としています。

ワグネル・グループはロシアの外交政策に連動する形でシリアやリビア、ウクライナ東部の紛争に関与してきたほか、ダイヤモンドなど天然資源の豊富な中央アフリカ共和国でも活動しているとされ、EUは13日、「暴力を煽り、天然資源を奪い、市民を威嚇している」などとしてワグネル・グループと関連する個人らを制裁対象に指定しました。

一方で、マリ北部など、いわゆるサヘル地域ではフランスが8年前からイスラム過激派武装勢力の掃討作戦を行い、リーダーを殺害するなどしてきましたが、武装勢力はニジェールやブルキナ・ファソなどにも拡大するなど、作戦は全体としては成功しているとは言えません。

マクロン大統領は今年7月、サヘル地域におけるフランス軍の段階的縮小を宣言、これについて、去年と今年、二度のクーデターの末に樹立されたマリ暫定政府の首相は9月の国連総会で「一方的な決定だ」と批判、「安全保障のために他のパートナーを探さざるをえない」と述べていました。

今回のワグネル・グループの展開とヨーロッパ各国の反発は中東やアフリカを舞台に関与が弱まりつつある欧米と、そこに入り込もうとするロシアとのせめぎ合いの一つと見ることができます。【12月25日 TBS NEWS】
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マリ暫定政府としては、フランスが支援してくれないならロシアに・・・というところ。

****ロシア民間軍事会社に制裁=紛争地帯で破壊活動―EU****
欧州連合(EU)は13日の外相理事会で、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」と関連3企業、創設者ら8人に対する制裁措置に合意した。ウクライナやアフリカなど各地の紛争地帯に傭兵(ようへい)を送り込み、人権侵害や破壊活動を行ったとして、域内の資産を凍結しEUへの渡航も禁じる。
 
制裁は即日発動された。ワグネルはロシアのプーチン大統領に近い実業家エブゲニー・プリゴジン氏が黒幕とされ、政権とのつながりが指摘されている。制裁で活動の押さえ込みを図る。【12月14日 時事】
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【ロシアは関係を否定するも「ハイブリッド」戦争の一翼を担う傭兵 ウクライナでも】
ロシアは民間軍事会社との関係を否定していますが、上記記事に“ワグネルはロシアのプーチン大統領に近い実業家エブゲニー・プリゴジン氏が黒幕”とあるように、プーチン政権の意向を受けての傭兵展開でしょう。

****ロシアの傭兵、アフリカで勢力拡大 欧米の隙突く****
欧州各国の政府によると、ロシアの傭兵(ようへい)がアフリカのマリ共和国に派遣されている。ロシア政府がウクライナ周辺に軍を集結させる中、西側と対立する新たな前線になっているという。

傭兵派遣は、マリのトンブクトゥにある基地に駐留していたフランス軍部隊が今月になって撤退した後のこと。この撤退はイスラム系武装勢力の制圧に苦労した末の軍縮の一環だ。

アフリカでの国際テロ組織アルカイダとの戦いを支援してきたフランス率いる欧州諸国のグループは12月23日、「(ロシアの傭兵は)西アフリカの治安状況を一段と悪化させるだけだ」と述べた。

英国、ドイツ、イタリアを含む欧州諸国は、傭兵派遣の物資を支援しているとしてロシア政府を非難、「西アフリカで責任ある建設的な行動に戻る」よう求めている。

ロシア大統領府は、自国の軍事企業がマリで活動していることについて何も把握していないとし、そうした企業とのつながりを否定している。

西側の当局者によると、ロシアの民間軍事企業ワグナー・グループは、マリ政府と月間1000万ドル(約11億円)で傭兵派遣契約を結んでいる。ロシア政府が自ら手を下さずにアフリカに影響力を拡大させる試みの一環だとみられている。

米国によると、ワグナーはロシアのウラジーミル・プーチン大統領に近い実業家が経営しているとみられ、中央アフリカ共和国からシリアに至るまで傭兵を派遣している。同時に、天然ガスやダイヤモンドなどの資源を開発する契約を現地で結んで利益を得ようとしている。

西側諸国がアフガニスタンや中東、アフリカの一部で起きている紛争から撤退もしくはそれらを回避する中で、マリでのこうした状況は困難な問題を浮き彫りにしている。その問題とは、イスラム急進派などの武装勢力からぜい弱な政府を守るために、特にロシアからの傭兵が介入を一段と強めていることだ。

「自然は真空を嫌うものだ。ロシアはそれを埋めようとしている」。こう話すのは、かつてイラクとアフガニスタンへの派遣で米軍と契約していた米民間軍事企業ブラックウォーターの創業者、エリック・プリンス氏だ。

中国やロシアに対抗するために、米国と同盟諸国が空母や潜水艦、高性能ミサイルといった先端技術に注力する一方、傭兵やドローンなどの安価な機材は、今後の紛争においてローテクな攻撃手段を担うとみられる。

米シンクタンク、アトランティック・カウンシルのシニアフェロー、ショーン・マクフェイト氏は「辺境での戦いはワグナーのような集団を使ったものになるだろう」と指摘する。

欧米諸国はワグナーの所有者をエフゲニー・プリゴジン氏と特定している。西側の治安当局者によると、この人物は今年夏、マリの首都バマコに使者を送った。フランスが同地域で展開する軍の規模を縮小すると発表した後のことだ。

それからまもなくしてワグナーと関係のある地質学者の一行もマリを訪問。アルカイダの拠点であるマリ中央部の都市モプティにある金鉱を訪れた。最初に派遣されたロシアの傭兵の数は約300人に上るという。

プリゴジン氏はワグナーとのつながりを繰り返し否定している。マリへの派遣団に関する質問に対し、同氏は自身の持ち株会社の広報を通じて次のように答えた。「質問は、いわゆる西洋世界の政府機関に見受けられる慢性的な統合失調症を物語っている」(中略)

2014年、ロシア政府に近い実業家らがウクライナに派遣した傭兵は(親ロシア派の)ウクライナ軍との戦いを支援し、同国東部で2つの共和国創設を宣言するのを後押しした。

欧州の治安当局者によると、ワグナーは政府とのケータリング契約のほか、プリゴジン氏とつながる企業との契約から資金を得ていた。同社はその後、シリアに傭兵を派遣し、アフリカへと進出していった。

フランスが2016年に中央アフリカ共和国から軍を撤退させた後、ワグナーの傘下企業は軍事支援と引き換えに、中央アフリカ共和国政府から鉱業権を与えられたと、前出の欧州治安当局者は話す。一時は同国でダイヤモンドの密輸にも関与し、税関収入の半分を手にしていたという。【12月27日 WSJ】
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欧州において緊張が高まっているウクライナについても、ロシア民間軍事会社を傭兵を派遣しています。

****モスクワと西の緊張が高まる:ウクライナ東部に配備されたロシアの傭兵、シリアでの戦争を経験***
ロシアの傭兵はここ数週間、ロシア政府と西側の間の緊張が高まる中、ウクライナ政府軍に対する防衛を強化するために、分離主義者が保有するウクライナ東部に配備されている、と4人の情報筋がロイターに語った。(中略)

これとは別に、ロシア政府は、その作戦が国と関係のないボランティアと説明された民間のロシアの軍事請負業者とは何の関係もないと述べた。

「このことを聞いたのは初めてで、この声明がどれほど信頼できるのか分からない」とクレムリンのスポークスマン、ドミトリー・ペスコフは言った。(中略)

情報筋の一人で、海外でロシアの作戦に参加し、ウクライナ東部に到着した請負業者は、配備は防衛目的であると述べた。最初の傭兵も同じことを言った。

これとは別に、別の情報筋は、彼は配備に直接関与していないが、特別な訓練を受けていた地上の人々と連絡を取っていると言いました。彼は、配備の目的は、彼がウクライナの安定を損なうために破壊活動と呼ばれるものであると言いました。(後略)【12月24日 VOI】
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民間軍事会社の傭兵は、ロシア連邦軍が公式には介入していない状況で、特殊部隊や民兵、サイバー戦争、プロパガンダ工作などを組み合わせて展開される(クリミア併合で一躍注目されるようになった)「ハイブリッド戦争」に従事しているとみなされています。

民間軍事会社による戦争の下請けはロシアだけでなく、アメリカもイラクやアフガニスタンで大規模に行ってきました。

結果、民間人殺害などの弊害も。

マリについても、フランスならよくてロシアはダメ・・・とは一概に言えないところで、その関与の中身次第ですが、民間傭兵の場合、往々にしてその活動は「水面下」の隠れたものになりがちで、ときに国家責任が明確でないところでの「汚い仕事」も多くなりがちなところが懸念されるところです。
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ウクライナ周辺に軍事展開するロシア 「侵攻」はあるのか? 緊張下での米ロの綱引き

2021-12-27 22:50:54 | 欧州情勢
(【2018年5月1日 SPUTNIK】 対戦車ミサイル「ジャベリン」 アメリカはウクライナに2018年に供与 最近ウクライナ軍は東部ドネツク州でこのジャベリンの射撃訓練を行いロシアを牽制しています。また、ウクライナ軍はトルコ製ドローンも親ロシア派攻撃に使用しています。最新兵器への過信はジョージアの二の舞の危険も)

【懸念される緊張下での不測の事態】
東アジアにおけるホットスポットが米中対立の舞台ともなっている台湾なら、欧州における最も危ういホットスポットはロシアとNATO・アメリカの対立の舞台となっているウクライナです。

ウクライナ東部をめぐるウクライナ・ロシアの緊張が高まっていること、ロシアが軍事展開して最大限の圧力をかけていることなどは、これまでも取り上げてきました。

後述のように、若干の動きは見られるものの、現在もギリギリの緊張が続いています。

そうした状況で、いかにプーチン大統領がNATOに不信感を抱いているとはいえ、あるいは国内求心力を高めるためには軍事的「有事」が最高の戦略とはいえ、一部で言われているような「年明け1月にもウクライナへ軍事侵攻」といった作戦はロシアにとってもリスクが大き過ぎ、個人的には賢明でも現実的でもないと思います。

ただし、下記のようなニュースを目にすると、「突発的な不測の事態」の危険性も否定できないように思えます。

****ウクライナ西部の露総領事館に火炎瓶…露外務省、「テロ」と非難し謝罪求める****
ロシア外務省は24日、ウクライナ西部リビウにある露総領事館に向けて何者かが火炎瓶を投げ込む事件が発生し、ウクライナ側に強く抗議したと発表した。
 
露外務省によると、事件は24日未明に発生し、けが人はいなかった。露外務省は事件を「テロ」と非難し、総領事館の安全を確保できなかったウクライナ政府に謝罪を求めた。
 
地元警察は捜査に着手した。リビウはポーランドと歴史的なつながりも深く、反露感情が根強いことで知られる。【12月25日 読売】
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現実にロシア、ウクライナ・NATOが「有事」を睨んだ軍事展開している状況では、「一発の銃弾」であっても両者の行動をエスカレートさせ、軍事的衝突に誘うに十分でしょう。
今回は人的被害などなかったようですが、仮にロシア人職員に被害があったときは・・・背筋が寒くなります。

今日言いたかったのはそれだけですが、一応ここ数日の状況を簡単に整理しておきます。

【根深いプーチン大統領のNATO不信】
プーチン大統領の視野にあるのはウクライナ東部というより、NATOの東方拡大戦略のようにも見えます。
東方へ拡大するNATOへの不信感を募らせているロシア・プーチン大統領は、NATO側に強硬な要求を突きつけています。

****露「NATO弱体化」へ揺さぶり 米、主導権奪われる****
ウクライナをめぐり軍事的緊張を高めるロシアのプーチン政権に対し、バイデン米政権の守勢が目立ってきた。

ウクライナ国境付近に大規模部隊を集結させるロシアは、さらに米国が盟主の北大西洋条約機構(NATO)の弱体化を図る要求を突きつけた。ロシアとの衝突を避けたい米・NATO側は主導権を奪われる形で外交交渉に臨まざるを得ない状況に追い込まれた。

露メディアによると、ラブロフ露外相は22日、来年1月初めにも米国とNATOがそれぞれ、ロシアと協議すると明らかにした。議題は、露側が17日に公表したロシアの「安全保障」に関する要求だ。米国とNATOもおおむね協議の見通しを示している。

要求内容は事実上、①ウクライナなど旧ソ連構成国の今後のNATO加盟拒否②ポーランドやバルト三国など旧共産圏に展開中のNATO部隊の撤収③欧州に配備した米国の核兵器の撤去などで、露側は米国、NATOとそれぞれ条約、協定として締結するように求めている。

NATOは東西冷戦後の1997年、敵対関係を終わらせる基本文書に署名。東欧に恒久的な大規模戦力を追加配備しないとした。その後、東方に加盟国を拡大。2014年のロシアによるウクライナ・クリミアの併合後にはポーランドなど東欧に部隊を常駐させ、ロシアが反発していた。

ロシアの要求は米欧としては到底受け入れられない内容だが、ロシアのウクライナ侵攻が懸念される中、米国とNATOは緊張緩和のため協議に引き込まれた形で、具体的提案などが描けているか不透明だ。

米国は現在、中国対応に注力するためにロシアとは「予測可能な関係」を築くことを目指し、中露との二正面競争を避けようと腐心しているのが実情だ。

バイデン大統領は今月上旬、露軍がウクライナに侵攻した場合、同国に米軍を派遣する可能性を問われ、「ウクライナは(NATOの集団防衛の義務の)範囲外」と否定。ウクライナが希望するNATO加盟にもかねて否定的見解を示してきた。ロシアを刺激しないためであり、米側は欧州側による主体的な関与への期待も強いとみられる。

ただ、欧州もロシアに強く出られない事情がある。イタリアのドラギ首相はロシアのウクライナ侵攻に懐疑的な見方を示すが、ロシアへの不信が強いリトアニアは「本当に戦争の準備を進めている」(ランズベルギス外相)と強調。各国に温度差がある中で、侵攻時の厳しい経済制裁などで連携できるかが疑問が残る。

欧州には価格が高騰する天然ガスの輸入をロシアに大きく依存している弱点もある。米国はロシアによるウクライナ侵攻時には、建設が終えた独露間のガス・パイプライン「ノルドストリーム2」の稼働阻止も検討するが、ドイツのショルツ首相は16日、「民間のプロジェクトだ」とし、稼働承認手続きは政治と関係がないとの認識を示した。【12月23日 産経】
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プーチン大統領は「(ロシアの)安全は西側が速やかに保障しなければならない」「ボールは向こうにある」と述べ、緊張緩和に向けて、NATOの拡大停止などロシアの要求に応じるよう求めています。

****プーチン大統領「今、すぐにだ」 米欧に安全保障の確約を迫る****
ロシアのプーチン大統領は23日、年末恒例の記者会見を開いた。

ウクライナ情勢を巡って米欧との軍事的緊張が高まる状況について「紛争を望んでいない」と語る一方、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を「受け入れられない」と改めて主張。米欧に対し「我々に(安全の)保障を与えなければならない。今、すぐにだ」と迫った。
 
ロシアは米国とNATOに対し、ウクライナを含む旧ソ連圏へのNATO不拡大などを盛り込んだ条約案と協定案を送り、対応を求めている。

プーチン氏は会見で、冷戦終結後にNATOが東欧諸国に拡大してきたことについて「だまされた」と述べ、米欧を改めて批判。「我々は米国の国境にミサイルを配備したか。違う。米国が自分のミサイルを持って我々の家の近くまで来た」と訴えた。
 
一方でプーチン氏は、米国との安保問題に関する実務者協議が2022年1月初めに開催されることへの期待を表明。「今のところは(米国が)前向きな反応を示している」と語り、「ボールは彼ら(米欧)の側にある」としてロシアの提案への早期回答を求めた。
 
ロシアが支援する親露派武装勢力との紛争が続くウクライナのゼレンスキー政権については「極右勢力の影響下に陥った」と述べた。ロシアはウクライナ国境周辺に部隊を集結させているが、プーチン氏はウクライナが「軍事作戦の準備をしている」と主張。ゼレンスキー政権と友好関係を築くのは「不可能だ」とし、直接の和平協議には否定的な考えを示した。(後略)【12月24日 毎日】
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【バイデン大統領 米軍を一方的に派遣することは「検討していない」】
状況をBBCは以下のように解説しています。

****ロシアはウクライナを侵攻するのか 現状について数々の疑問****
ロシアはウクライナで戦争をする準備を進めているのか――。西側各国とウクライナの指導者はそれを懸念している。
ロシアがウクライナ南部の一部を併合し、同国東部の広い範囲で紛争を起こした「分離派」を支援したのは、つい7年前のことだ。

ロシアは現在、軍事行動をちらつかせている。これに対しアメリカは、ロシアが侵攻すれば、前例のない規模の制裁で報復すると言明している。衝突が起こるリスクはどれくらい深刻なのか。(中略)

侵攻は現実的なのか
ウクライナ東部における衝突は、2020年の停戦合意をよそに、今も続いている。
最も懸念されているのは、ウクライナ国境の外側にいるロシア軍だ。その規模は最大10万人に達すると、西側の情報当局はみている。

差し迫った脅威は感じられない。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が侵攻を決断したわけでもない。ただプーチン氏は、彼の言う「西側の攻撃的な姿勢」が続けば、「相応の報復的な軍事技術措置」を取ると表明している。

ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官は、緊張悪化によっては、1962年のキューバ・ミサイル危機のような状況に陥ると警告している。(中略)

西側やウクライナの情報当局は、来年の早い時期にも侵入や侵攻が起こり得るとみている。「情勢激化へロシア側の準備が整うのは、1月末の可能性が最も高い」と、ウクライナのオレクシイ・レズニコフ国防相は話す。

米中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官は、プーチン大統領が「ロシアの軍と治安部隊を、一気に動ける場所に配置している」とみている。

こうしたロシアの動きは、自国の裏庭からNATO軍を追い払うための、ポーズに過ぎない可能性もある。

今年4月にも似たような状況があった。ロシア部隊の小規模な移動が確認されたが、ロシアは単なる訓練だと言い、その後に撤収した(ただ、部隊の一部しか撤収していないとみる専門家もいる)。目立った譲歩はなかった。

ロシアとアメリカは、話し合いを続けている。アメリカのジョー・バイデン大統領とプーチン氏は、12月7日にビデオ会談をし、緊張を和らげようとした。

NATOにロシアの安全の保証を要求し、その実現を重視するプーチン氏は、来年1月にスイス・ジュネーヴで予定されるアメリカとの協議に期待感を示している。

ロシアの主張
(中略)ロシアはウクライナについて、軍全体の半数に当たる12万5000人の兵士を東部に集結させていると非難。ロシアの支援を受ける分離派が支配する地域を、ウクライナが攻撃する予定だと主張している。

一方のウクライナは、ロシアの言い分について、自分たちの計画を隠すための「プロパガンダのばかげた主張」だとしている。

ロシアはまた、NATOの国々がウクライナに武器を「大量供給」していると批判を重ねている。プーチン氏は、緊張をあおっているのはアメリカの方だと非難し、ロシアには「これ以上後退できる場所などない。我々がただ手をこまねいて座視するとでも(アメリカは)思っているのか」と述べた。

ロシアのこの言い分は、軍事行動の正当化にもなり得る。(中略)

ロシアの思惑
プーチン大統領は西側に対し、ウクライナ問題でロシアにとっての「最後の一線」を越えてはならないと警告している。では、その一線とは何なのか。

NATOの一層の東方拡大が、その1つだ。ウクライナやジョージアへの拡大も、これに含まれている。
ロシアはNATOに対して、東欧での軍事活動を中止するよう要求している。これは、NATOがポーランドやバルト三国(エストニア、ラトヴィア、リトアニア)から部隊を撤収させ、ポーランドやルーマニアなどの国々にミサイルを配備しないことを意味する。

要するに、ロシアはNATOに1997年以前の境界まで後戻りしてほしいと思っている。ロシアは流血を避け、外交による解決を望んでいるとプーチン氏は言う。

この要求は実現しようもない。しかしプーチン氏はアメリカとの協議でも、この要求を議題の中心に据えるつもりで、これについて「ボールは西側にある」と述べている。

ロシアは、自国が支援するウクライナ東部の勢力に対してウクライナがトルコのドローンを飛ばしていることや、黒海で西側が軍事演習をしていることを懸念している。プーチン氏の目には、「自分たちの家の玄関先で」アメリカがウクライナに軍事支援を行っていると映っている。

プーチン氏は今年7月、政府ウェブサイトに長文を掲載。ロシアとウクライナを「1つの国」と呼び、ウクライナの現指導部について、「反ロシア計画」を実行中だと決めつけた。(中略)

ロシアはまた、ウクライナ東部の紛争停止を目的とした2015年のミンスク和平合意がほとんど履行されていないとして、不満を募らせている。分離派が優勢な地域では、独立監視団を受け入れた選挙がまだ予定されていない。

紛争の長期化について、ロシアが原因の一部となっているとの批判があるが、ロシアはこの見方を否定している。

NATOのウクライナ支援
西側軍事同盟のNATOは防衛が目的だ。イエンス・ストルテンベルグ事務総長は、すべての軍事支援は純粋に、この目的に沿ったものだと明確にしている。

イギリスは、ウクライナの2カ所で海軍基地建設の支援を予定している。黒海のオチャキフと、アゾフ海のベルジャンスクだ。アメリカは、対戦車ミサイル「ジャヴェリン」をウクライナに供給。米沿岸警備隊の警戒艇2隻もウクライナ海軍に提供している。

ロシアは、ウクライナのNATO加盟を断固認めない方針だ。一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、NATOによる明確なスケジュール提示を求めている。(中略)

西側はウクライナのためどこまでやるのか
アメリカは、ウクライナによる「主権領土」の防衛を支援する姿勢を明確にしている。もしウクライナが攻撃されれば、「かつて見たことがないような」措置を実施すると、バイデン大統領は表明している。

ただバイデン氏は、米軍を一方的に派遣することは「検討していない」とも強調した。
ウクライナは、自力で自衛する準備はできていると言う。「この戦争は自分たちで戦う」と、ドミトロ・クレバ外相は述べた。

たとえアメリカがロシアの「最後の一線」を無視するとしても、アメリカが言う「強力な経済的および他の対応策」は、どれくらいウクライナ政府を支えることになるのだろうか。

西側にとって最大の武器は、制裁措置とウクライナ軍に対する支援のようだ。イギリスのヴィッキー・フォード外務次官は、同国の当局が防衛支援の延長を検討しているとしている。

経済対策として最大のものは、ロシアの金融機関を国際決済システム「スイフト」から切り離すと脅すことかもしれない。常に最後の策と考えられてきたが、ロシア政府に強いメッセージを送ることになると、ラトヴィアは支持している。

もう1つロシアに圧力をかける重要手段としては、ドイツを通るガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」を開通させないというものがある。同パイプラインをめぐっては現在、ドイツのエネルギー規制当局が承認について検討中だ。ドイツのアンナレーナ・ベアボック外相は、ロシアが今後さらに事態を悪化させるようなら、「このガスパイプラインは稼働できないかもしれない」と明言している。

ロシアの政府系ファンド、ロシア直接投資資金(RDIF)を標的とする措置や、ロシアの通貨ルーブルを外貨に両替する銀行への規制なども考えられる。【12月24日 BBC】
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【ロシア軍徹種はあくまでも一部】
こうした状況で、ロシアは部隊の一部を撤収。

****露、ウクライナ周辺から部隊1万人超撤収****
米国や北大西洋条約機構(NATO)がロシアによるウクライナ侵攻を警戒している問題で、ロシア軍の南部軍管区は25日、ウクライナ国境周辺を含む地域で「訓練」を行っていた部隊1万人以上を撤収させると発表した。インタファクス通信が伝えた。(中略)

発表によると、同軍管区は1カ月にわたり、ロシアが2014年に併合したウクライナ南部クリミア半島やウクライナ国境付近を含む地域で訓練を実施。「訓練は完了した。1万人以上の兵員が本来の配備地点に帰還中だ」とした。

ロシアは今年秋以降、ウクライナ周辺に9万人規模の兵力を集結させ、NATO側が侵攻を警戒。ロシア側は兵力集結の事実や侵攻の意図を否定する一方、自国内での部隊移動は自由だとも主張してきた。【12月25日 産経】
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この撤収については、“ロシアの安全保障に詳しい東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠特任助教は「ロシア軍は、全体で10万人や12万人と推定されており、そのうち1万人が撤収することは評価できるかもしれないが、ウクライナ周辺にロシア軍が多く集結している状況は変わらない」と述べ、直ちに緊張緩和にはつながらないという見方を示しました。”【12月27日 NHK】とも。

【NATO 来年1月12日に「NATOロシア理事会」開催をロシアに提案】
プーチン大統領の強硬な姿勢は、アメリカ・NATOを交渉の場に引っ張り出すことには成功しています。

****NATO 「ロシア理事会」開催提案 ウクライナ情勢巡り****
タス通信は26日、緊迫するウクライナ情勢を巡り、北大西洋条約機構(NATO)が来年1月12日に「NATOロシア理事会」を開催することをロシアに提案したと報じた。
 
NATOロシア理事会は2002年に設立されたNATO加盟国とロシアとの対話の枠組み。開催すれば2年半ぶりとなる。タス通信はロシア外務省当局者の話として、理事会開催の提案についてロシアが「検討している」と伝えた。(中略)
 
米国のブリンケン国務長官は22日、EUのボレル外務・安全保障政策上級代表(外相)と電話協議し、米欧の協調や、対話を通じた問題解決の重要性を確認した。ただ、ロシアの軍事的脅威を警戒する東欧諸国などは、ロシアに対し強硬姿勢を取るよう求めており、協議を巡ってはNATO内でも温度差があるとみられる。【12月27日 毎日】
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キューバ危機再来となるのか、不測の事態が起きるのか、双方が矛を収めるのか・・・未だ不透明です。
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日本  入管法改正案の再提出に向けて、収容中に死亡したスリランカ人女性の監視映像開示

2021-12-26 22:32:36 | 人権 児童
(映像では当初、入管側が「なかった」としていたウィシュマさんが点滴など訴える音声もはっきり記録されていた【12月24日 TBS NEWS】)

【入管法改正案の再提出目指すも、スリランカ人女性死亡問題で曲折が予想】
在留外国人の長期収容が国際的にも問題視されるなかで提出された収容や送還の規則を見直す入管法改正案が、収容中に死亡したスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(33)の入管対応への批判が高まる中で廃案になった件は、5月18日ブログ“入管法改正案は廃案へ 難民認定、入管制度のあり方の議論は今後も必要”で取り上げました。

****入管法改正案が廃案へ、「人権侵害」と野党や国内外から批判****
在留外国人の収容や送還の規則を見直す入管法改正案を巡り、野党の反対や国内外の批判を受け、政府は18日、今国会での成立を断念、法案を取り下げて廃案にすることを決めた。

同法案は、難民申請をしている外国人でも強制的に母国に送還されることや、退去命令に従わない人に罰則を設けるなどの点が難民条約違反、人権侵害であるとして弁護士団体や学者など国内外から批判を浴びていた。

入管法に詳しい児玉晃一弁護士は「たくさんの声が集約され、入管法の改悪が阻止された。SNSやネットニュースを通じていろいろな人に声が届き、みんなの声が勝ち取った成果」と述べた。

国会では、法務委員会で野党議員が法案の問題点を指摘、修正協議も行われていた。しかし、入管施設で3月、収容中に死亡したスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(33)に関し、遺族に監視カメラ映像を開示するよう野党が求めたのに対し、出入国在留管理庁がこれを拒否、野党側は法務委員長の解任決議案を提出して与野党間の対立が深まった。

このため与党は18日、今国会での成立を断念することを決めた。ある与党幹部は「国際社会の批判もあり、強行採決はメリットがない」と語った。

昨年8月から不法滞在で名古屋出入国在留管理局に収容されていたウィシュマさんは、今年になって体調を崩し1月下旬から嘔吐を繰り返し吐血もしたが、入院などの措置はとられず3月6日、職員が死亡しているのを発見した。

支援団体と遺族は5月16日午後、名古屋市でウィシュマさんの葬儀を行い、約80人が参列した。支援団体は国会前で断続的に抗議活動を行い、法案の廃案とウィシュマさんの死亡についての真相究明を訴えてきた。

上川陽子法相はウィシュマさんの遺族と18日午後に面会することを明らかにした。

2019年末時点で、全国で収容されていた外国人は1054人。本来、収容所は退去強制令書を発出された人が退去するまでの間一時的に収容される場所だが、実際には1054人のうち約400人が6カ月超収容されていたという実態がある。

国連の「恣意的拘禁作業部会」は20年9月に、日本の入管収容制度における長期収容について、申し立てを行った被収容者2人の事案は国際法に違反し「恣意(しい)的」であるとし、日本政府に意見書を送付し必要な措置をとるよう求めた。

こうした長期収容の問題を改善するために政府は同改正法案を策定したが、内容について理解を得られなかった。【5月18日 ロイター】
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廃案となった入管法改正案について、法務省は来年の通常国会に改めて提出する準備を進めていますが、収容中に亡くなったスリランカ女性の問題が未だ解消されていません。

****スリランカ人遺族、名古屋入管幹部を刑事告訴 殺人容疑で****
名古屋出入国在留管理局(名古屋市)に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が3月に死亡した問題を巡り、ウィシュマさんの妹、ポールニマさん(27)らが9日、当時の局長など幹部に対する殺人容疑の告訴状を名古屋地検に提出した。
 
告訴状によると、ウィシュマさんは生前、体調不良を訴えて点滴治療や外部への通院を求めていたが、入管職員らは適切な医療を提供する措置を講じず、保護する責任と義務を怠り、「ウィシュマさんが死んでも構わない」という未必の故意があったとしている。

告訴状の提出後、報道陣の取材に応じたポールニマさんは「名古屋入管の中で姉の件に携わったすべての人に責任があり、ちゃんとした措置をしなかった職員に責任がある」と語った。地検に対しては「大事な書類を提出した。きちんと目を通して真剣に取り組んでもらいたいと強く願う」と話した。
 
遺族代理人の指宿昭一弁護士は「助けなければならない強い法的義務があるのに、それに反しているので殺人罪だ」と説明。10月に確認したウィシュマさんが死亡する直前の映像については「助けられたのに何もしないで見殺しにしたことがよく分かった」と判断し、保護責任者遺棄致死ではなく殺人罪で告訴したことを明らかにした。

(中略)出入国在留管理庁は8月に医療体制や情報共有、職員への教育が不十分だったとする最終報告書を発表し、当時の名古屋入管局長と次長を訓告、警備監理官ら2人を厳重注意の処分にした。
 
ウィシュマさんの死亡を巡っては、愛知県の大学教員が6月、名古屋入管職員を名古屋地検に告発し、保護責任者遺棄致死傷容疑で受理されている。同局は「お答えする立場にない」として、コメントを控えている。【11月9日 毎日】
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****入管法改正案、再提出急ぐ 法務省準備、くすぶる収容死問題****
今年の通常国会で成立が見送られた出入国管理法改正案について、法務省が来年の通常国会に改めて提出する準備を進めている。14日には自民党に法改正の必要性を説明した。

強制退去処分となった外国人の収容長期化の解消が狙いだが、スリランカ国籍の女性が収容施設で亡くなった問題もくすぶり、法案提出には曲折も予想される。
 
現行法では、強制退去処分が決まっても、難民認定を申請すれば何度でも理由を問わず一律に送還が停止される。送還まで原則施設に収容され、その期間に上限はないため、収容の長期化が問題になっている。
 
今年の通常国会に提出された入管法改正案では、難民認定手続き中の送還停止規定の適用を、新たな相当の理由がなければ2回までに制限する一方、入管当局が選定する「監理人」の監督のもと施設外での生活を可能にする「監理措置」を設けるなどとしていた。(中略)

先の国会中には自民党と立憲民主党の間で修正協議が行われ、逃亡の恐れがなければ監理措置▽収容は上限6カ月とし、その後は監理措置か収容継続か個別に判断――などの内容で合意しかけた経緯があり、こうした点を踏まえることも検討されている。

 ■「審査の改善が先」 専門家
法務省が出入国管理法の改正を急ぐのは、強制退去処分となった外国人を法の不備により送還できず収容の長期化を招いていると考えるからだ。
 
在留期間を超えて不法に滞在している外国人は約8万3千人。近年は年平均約1万7千人が摘発されたり出頭したりしているが、強制退去処分が決まっても3103人(昨年末時点)が送還に応じていない。

うち1938人が難民認定を申請しており、申請が2回目は744人、過去に難民に認定された例がない3回目以上も481人いる。
 
一方、改正には厳しい目も向けられる。
「ウィシュマさんの死によって市民の反対の声が高まった。なぜ法案が通らなかったのかしっかり検証がされていないのでは」。外国人政策に詳しい鈴木江理子・国士舘大教授は、廃案になった法案に収容判断への司法の関与や収容期間の上限が盛り込まれなかった点に触れ、「収容の恣意(しい)的な運用が是正されない限り、人命にかかわる重大な事態が再び起きかねない」と批判する。
 
NPO法人「難民支援協会」の石川えり代表理事は、「難民と認められるべき人が認められていない」と指摘。送還停止規定の制限より「適切な認定ができるよう審査を改善するのが先だ」と訴える。
 
こうした意見があることなどから、与党内からは来夏に参院選を控えて影響を懸念する声も上がる。【12月16日 朝日】
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【死亡前の悲惨な状況 「入管という組織はいったい人間の命を何だと思っているのか」】
亡くなったスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんの悲惨な状況について、身元引受人となる予定だった眞野明美さん(68)は以下のように語っています。

****《今日カメラ映像開示》「私をここから連れていって…」ウィシュマさんの“最後の3カ月”を目撃した人が語る入管の壮絶な実態*****
(中略)ウィシュマさんが入管に収容されるきっかけになったのが、同じスリランカ人の同居男性からのDV被害を警察に届け出たこと。スリランカに戻れば夫に追いかけてこられる危険があったため、日本での仮放免(日本滞在が適法化するわけではないが、一時的に収容を停止し身柄の拘束を解くこと)を目指していた。

その際に、ウィシュマさんの身元引受人となる予定だったのが、今年10月に『ウィシュマさんを知っていますか? 名古屋入管収容場から届いた手紙』(風媒社)を上梓した眞野明美さん(68)だ。

第一印象は「あまりにも痩せていて」
(中略)「ウィシュマさんはすでにだいぶ衰弱していて、大きな声は出せない状態でした。私たちは必死に耳をアクリル板に近づけて彼女の声を聞き取っていました。

それでも、救急車が通るときの『ご注意ください』というアナウンスが『50円ください』にしか聞こえなかったという話で私たちを笑わせてくれたり、まだ明るい表情を見せてくれました。人が面会に来たことに安心したのだと思います」(中略)

しかし2021年が始まると、手紙に綴られる内容は徐々に暗転していった。
「1月10日付の手紙では、年末に体調を崩して3日間個室で過ごしたと書かれていました。さらに1月13日付のものには『あなたが入管に来る日付は早くこないから、時間も長――いです。待っている…待っている…待っている…だけです』と。精神が不安定になっていると感じました」

そして入管収容者の支援をしている男性から「ウィシュマさんが食事ができなくなっているようだ」と聞かされた眞野さんは、1月14日に2回目の面会へと赴いた。

「初回よりも憔悴していましたが、私たちが面会に来たことをとても喜んでいたように思います。入管に収容されると人間的な会話はほとんどできませんから、孤独感が募っていたのでしょう。私が作った曲を歌ってあげたら、彼女は目を初めて大きく見開いて嬉しそうな表情をしてくれました。あの顔が今でも忘れられません」(中略)

「1月18日付の手紙に、『わたしは12.5kgぐらいやせています。ほんとうにいまたべたいです』とひらがなで記されたポストカードが添えられていたんです。体調が気がかりだったので、2回目の面会から6日後の1月20日に再び入管へ行くことにしました。

バケツを両手で抱えさせられ
しかし面会室に現れたウィシュマさんは、明らかに何か異変が起きていました。足取りはフラフラだし、『喉に髪の毛が絡まっている感じがする』『髪の毛が抜ける』と体調不良を訴えていて、負担をかけないために40分を待たずに面会を切り上げることになりました」

ウィシュマさんの異変に不安を感じた眞野さんは、入管に対して必要な治療をするよう電話で強く申し入れた。しかし、担当職員は『電話では話せない』というばかりで、聞き入れてはもらえなかったと言う。そして4度目の面会となった2月3日、眞野さんの前に、ウィシュマさんはさらに弱りきった姿で現れた。

「入管の職員がウィシュマさんを車椅子に乗せて連れてきたんです。しかも、ウィシュマさんは青い大きなバケツを体の前に両手で抱えさせられていました。職員は、すぐに吐いてしまうから持たせていると言うんです。もう自力で身体を起こしていることも辛いようで、バケツにぐったりと寄り掛かるようにして、なんとか座っているような状態でした」
 
ウィシュマさんの口はぽっかりと開き、呼吸もしづらくなっているようだった。「話し方からも、明らかに脱水症状が進んでいました」と眞野さんは語る。

「このときが命を救うギリギリのポイントだった」
その場で面会は打ち切りになり、眞野さんが帰宅すると自宅にはウィシュマさんからの手紙が届いていた。そこには「食べることも飲むこともできません」「食べなきゃいけないのに食べられない。どうしていいかわからない」と綴られていた。

「ひらがなで綴られていた文章もローマ字や英語になり、字も乱れていて、やっとの思いで書いたんだろうというのが見て取れました。2日後の2月5日に再び入管へ行った際にはウィシュマさんが検査を受けていて面会ができず、そのことを謝る2月8日付の手紙が後に届きました。それが、彼女から届いた最後の手紙になりました」

入管のケア体制に不信感を覚えた眞野さんは、ウィシュマさんの体調をチェックするために面会の頻度をさらに増やした。2月10日の面会では、ウィシュマさんの“手”に異変が起きていることに気がついたという。

「指が曲がったまま固まってしまっていたんです。身体の他の場所も思うように動かせなくなっていたようで、『トイレに行こうとしてベッドから落ちたけど、誰も助けてくれなかった』と悲しそうに話していました。

2月15日からの仮放免を申請していたのですが不許可になったのも同時期でした。いま思えば、このときが彼女の命を救うギリギリのポイントだったのだと思います」
 
眞野さんは2月17日と26日にも面会を行なったが、この頃になるとウィシュマさんは常に吐き気に襲われているような状態で、ほとんど会話にならなかったという。

それから3日後の3月6日、ウィシュマさんは息を引き取った。入管から眞野さんら支援者に連絡はなく、眞野さんはニュースを見た知人からの連絡で彼女の死を知った。「もしかすると『彼女が死ぬまで放っておくはずがない』と、ギリギリのところで入管を信じていたのかもしれません。

彼女の死を聞いて、自分の想像力が全く足りていなかったことに気がつきました。もっとできたことがあったはず、彼女の命を救えたはずなんです」と眞野さんは悔いを滲ませる。そして入管職員の対応には、今も憤りを隠さない。

「入管という組織はいったい…」
「私は何度も何度も、職員にウィシュマさんが脱水症状であること、適切な治療を施すことを申し入れました。それを無視し続けた結果、ウィシュマさんは命を落としてしまった。それをどう考えているのか。

2月5日の面会にウィシュマさんが現れず、『大丈夫なの?』と尋ねたとき、笑いながら『生きてますよー。大丈夫ですって』と言われました。調査で明らかになったウィシュマさんへの虐待まがいの行為や、遺族の方への『鼻から牛乳は日本のジョーク』という説明など、入管という組織はいったい人間の命を何だと思っているのでしょう……」(後略)【12月24日 文春オンライン】
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【監視カメラの映像 衆議院法務委員会の理事と遺族に公開】
ウィシュマさんが亡くなる直前の約6時間半に及ぶ監視カメラの映像が、24日に国会で理事らに開示されました。

****入管施設でのスリランカ人女性死亡 法務委理事らに映像を開示****
入管施設に収容されていたスリランカ人女性が死亡した問題をめぐり、衆議院法務委員会の理事らに女性の施設内での様子を写した映像が開示されました。(中略)

出入国在留管理庁によりますと、映像は女性が亡くなる直前の2週間の様子について就寝時間などを除いておよそ6時間30分に編集したものだということです。

映像を見る議員はメモを取ることは認められましたが録音や録画は禁止され、映像の開示は午前9時から休憩を挟んで午後4時すぎまで行われました。

このあと開かれた理事懇談会で与野党は、今回の開示を踏まえて出入国在留管理庁の体制などについて来年の通常国会で引き続き議論していくことを確認しました。

古川法相「求められた範囲と方法のもとで閲覧」
古川法務大臣は閣議のあとの記者会見で「ビデオ映像については保安上の理由や亡くなった方の名誉や尊厳という観点から情報公開法に基づいて不開示情報という扱いをしていた」と述べました。

そのうえで「衆参の法務委員会理事会の判断として、ビデオ映像の一部について保安上の問題にも配慮したうえでの閲覧の求めがあったことを踏まえて検討した結果、求めがあった範囲と方法のもとで閲覧していただくことにした」と述べました。

自民 葉梨氏「最終報告とのそごはない印象」
衆議院法務委員会で与党側の筆頭理事を務める自民党の葉梨康弘氏は「映像を見た結果、出入国在留管理庁の最終報告とのそごはない印象を受けた。ただ、入管施設の医療などの体制で非常に弱い面があり、しっかりと強化していかなければならない。来年の通常国会で建設的な質疑を行いたい」と述べました。

立民 階氏「法務委で集中審議を」
衆議院法務委員会で野党側の筆頭理事を務める立憲民主党の階猛氏は「映像を見てよかった。出入国在留管理庁の最終報告にうそは書いていないが、なるべく事実をわい小化しようという意図が透けて見え、最終報告だけではとても実態に迫れなかった。入管施設の抜本改革の必要性をより強く認識した。施設の在り方について法務委員会で集中審議を行うべきだと考えている」と述べました。【12月24日 NHK】
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映像は24日、名古屋地裁でもウィシュマさんの遺族に開示されました。

****「点滴を」ウィシュマさん映像 遺族・国会に開示****
遺族代理人 指宿昭一 弁護士
 「画面があって、左のほうにベッドがあります。ウィシュマさんが寝ている、毛布がかかっている。この日の最後の方で私が印象的だったのが『ちょっと待って、私死ぬ』という風にウィシュマさんが言っていました」

映像では当初、入管側が「なかった」としていたウィシュマさんが点滴など訴える音声もはっきり記録されていたといいます。

遺族代理人 指宿昭一 弁護士
 「『嘘じゃない。点滴お願い、点滴お願い』、『お願いします、お願いします』という風に言っていました」

ウィシュマさんの妹 ポールニマさん(27)
 「『私を病院へ連れて行って下さい』と何度もお願いしている。『お腹が痛い』とも。でも職員は全然聞いてくれていない」

一方、24日は国会でも、遺族が見たビデオと同じものが初めて開示されました。映像を見た議員は・・・

立憲民主党 階猛 衆院議員
 「無理やり口の中に食べ物や薬を押し込むのを繰り返していた。とてもじゃないけど正視できない、そんな場面も多くありました。この組織は常識からあまりにも逸脱しているのではないか」

遺族は「まだまだ分からないことがたくさんあり、これで終わりではない」と訴えました。

ウィシュマさんの妹 ポールニマさん(27)
 「スリランカにいるお母さんも見なくてはならないし、(もう1人の)姉も見なくてはならない。日本の全ての人にも見てもらいたいです」【12月24日 TBS NEWS】
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中国のウイグル族弾圧問題 背景に人権意識の欠如 米「ウイグル強制労働防止法案」 自治区トップ交代も

2021-12-25 23:35:13 | 中国
(5月、中国新疆ウイグル自治区カシュガルの縫製工場で働くウイグル族の作業員ら=共同【12月25日 中日】)

【中国政治体制における人権意識の欠如】
中国の女子テニス選手、彭帥(ホウ・スイ)さんの件については、北京五輪を前にして中国政府は、本人が上海でシンガポール紙の取材に応じて性的暴行の事実を否定し、自由の身だと主張した(させた?)ことで幕引きを図りたいようですが・・・。

****女子テニス「彭帥さん」は北京五輪開催を前に軟禁中 一蓮托生のIOC・バッハ会長と中国当局の思惑とは?*****
中国の有名女子テニス選手、彭帥(ホウ・スイ)さんが、中国共産党元最高指導部メンバー(中央政治局常務委員)で中国元副首相の張高麗氏から性的関係を強要されたことをソーシャルメディアで公表してから1カ月半。

その動向に注目が集まる中、19日には上海でシンガポール紙の取材に応じ、性的暴行の事実を否定し、自由の身だと訴えた。北京五輪を前に国際的な批判を避けるべく、中国当局は必死なのだという。
 
11月頭、彭帥さんは中国版ツイッターのウェイボーで、張氏と男女関係にあったことなどを告白した。投稿は配信間もなく削除され、彭帥さんも行方不明となった。
「彭帥さんは中国当局に身柄を拘束され、取り調べ施設で尋問も受けていたようです」(事情に詳しいジャーナリスト)
 
その後、共産党系のメディアは彭帥さんが市内のレストランで食事をしたり、テニスの大会に来賓として招かれたりする場面を動画で公開したが、彭帥さんの肉声が聞き取れないなど、編集・検閲のあとがありありと見えた。
 
それからIOC(国際オリンピック委員会)は、バッハ会長とテレビ電話を通じて彭帥さんが会話している画像を公開し、「北京市内の自宅で暮らしており、安全だと説明した」と発表していた。

ノーベル平和賞を狙う
「新疆ウイグル自治区の少数民族弾圧など人権問題で国際的批判が高まり、五輪を外交ボイコットする国が拡大していますよね。そんな中、もう1つの人権問題は抱えたくないし、批判されそうな材料はできるだけ摘んでおきたいというのが、五輪成功が至上命令の当局とバッハ会長の本音でしょう」(先のジャーナリスト)
 
本当に彭帥さんが安全なら先に触れたようなまどろっこしい発表をする必要などないはずだから、中国当局にとって不都合な状況が続いていることは容易に察せられる。
 
12月に入ってから、女子テニス協会は彭帥さんの身柄について憂慮していること、中国でのトーナメントを全て中止することを発表している。

「彭帥さんは反体制指導者やテロ主導者とは違って、言論封殺を続けるにも限界がある。当局には罪をでっちあげるなど強権発動をしてきた黒歴史がいくつもありますが、そうしたところでメリットはなく、五輪成功が危ぶまれるだけ。彭帥さんの機嫌を逆なでしないように、釣魚台国賓館などの施設で丁重に扱っているとされています」(同)(中略)

今回のシンガポール紙の取材で彭帥さんは、「当局の監視下に置かれていない」と述べる一方で、張氏との不倫の事実には言及しなかった。女子テニス協会は「重大な懸念の解消にはつながっていない」と主張したが、世界の反応はそれと同じものだろう。【12月21日 デイリー新潮】
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訴えた女性がどのような処遇を受けたのか・・・政治的観点で言えば、性的暴行の有無よりはるかに重要な問題です。

権力を笠に着て、自身の下半身をコントロールできない馬鹿な男はどこにでもいます。中国にも、日本にも、世界中に。

もちろん、そうしたことの背景にある女性の地位・権利などに関する議論・改善は必要ですが、政治問題としては当該政治家のスキャンダルであり、首を切ってしまえば一応のケリはつきます。

しかし、その事件を隠蔽するために訴えた女性を拘束し、国家のメンツを保つために事実とはことなる証言をすることを強い、監視下におくとしたら・・・それはもはや「国家の犯罪」であり、国家権力による人権蹂躙です。単なる「一個人のスキャンダル」とはレベルが異なります。日本・欧米で同様のことが行われれば、政権は崩壊します。

おそらく中国にあっては、そうした国家権力のメンツのために一個人を“黙らせる”ことは「日常茶飯事」であり、当たり前のことと理解されており、中国共産党にしても、習近平主席にしても、日本や欧米が問題にする人権の概念が基本的に理解できないのでしょう。

相次ぐ人権派弁護士弾圧も同様でしょう。

****中国「人権派」2人、所在不明に 当局拘束か****
中国の人権活動家として知られる元弁護士ら2人が12月上旬から相次ぎ半月以上も所在不明となり、「当局に拘束された」との見方が強まっている。

2人は国外にいる重病の家族を見舞うため出国を希望していたが、「国家安全」を理由に当局に阻止されていた。23日には有志でつくる中国人権弁護士団が、自由や出国の権利を奪うのは「政府が負う人道主義に反する」との抗議声明を発表した。

関係者によると、所在不明の2人は元弁護士の唐吉田氏(53)と、作家の郭飛雄氏(55)。過去に体制批判などで当局側に拘束されたことがある。

今月10日の国際人権デーに、唐氏は北京市内の欧州連合(EU)代表部でイベントに出席予定だった。だが同日、知人に「代表部周辺は安全ではない」と連絡し、所在不明となった。

日本留学中の唐氏の長女が5月、意識不明の重体となり、都内で入院中。唐氏は長女に会うため6月に来日を試みたが、福建省の空港で「国家の安全と利益に害を及ぼす恐れがある」と当局に阻止されていた。

唐氏を支援している東大の阿古智子教授は、「拘束されたとみてほぼ間違いない」と指摘。北京冬季五輪を前に「国際的な騒ぎになると困るため、監視下に置いたのだろう」と話す。

唐氏は今月20日、「10年前と同じだ」と一度だけ知人に短い連絡を寄せた。民主化運動を組織した疑いで連行された2011年2月を指すとみられる。当時は拷問に近い仕打ちを受けて肺結核を患っており、阿古氏は「今回も十分な食事も与えられず、尋問されている恐れがある」とみる。

一方、郭氏は「また逮捕された」との発信後、今月5日頃、所在不明に。末期がんの妻が住む米国に向かう際、上海の空港で1月に出国を阻止された。李克強首相に手紙を出すなど渡航の許可を求めていたが、認められないままだった。

23日に声明を出した中国人権弁護士団は、「中国の国際イメージのさらなる悪化につながる。考えを改めるべきだ」と非難した。また、民主派を支援する台湾の「華人民主書院協会」も24日、記者会見で「親の情や人権は国家安全に優先する。2人の出国を認め、家族に早く会わせて」と要求した。【12月25日 産経】
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国家・社会の秩序を乱す輩はテロリストの類であり、そうした連中に人権はない・・・という理解でしょうか。

【ウイグル族弾圧問題への習近平主席の関与も】
こうした人権に関する基本認識を欠如した政治体制のもとで、新疆ウイグル自治区における100万人が収容施設に拘束されたとも言われるウイグル族弾圧が起きています。

共産党・習近平氏にとっては、国家の治安を守り、(漢族価値観での)統一を進め、ひいてはウイグル族住民の雇用などの改善にもつながる・・・どこが悪いのか?・・・といったところでしょう。

“中国の元警官がウイグル拷問証言 「殴って蹴った」、米CNN報道”【10月9日 共同】
“子供の名前を自由に付けられない、家の中でもウイグル語は禁止…中国政府による“ウイグル人弾圧”のヤバい実情”【11月3日 文春オンライン】

ウイグル族弾圧に関しては、習近平主席自身の発言がその後の展開に大きく影響しているとの「証拠」も明らかにされています。

****ウイグル問題の文書流出、習氏の強い関与裏付け***
中国による少数民族ウイグル族への人権侵害疑惑を巡り、習近平国家主席が先頭に立って弾圧を指示していたことを示す新たな証拠が浮上した。英国を拠点とする非政府組織「ウイグル・トリビューナル」(独立民衆法廷「ウイグル法廷」)が中国政府の流出文書の写しをウェブサイトに掲載した。
 
その文書は、新疆ウイグル自治区の動向を巡り、2014~17年に習氏や共産党幹部が非公開で行った演説の内容などが含まれ、一部は最高機密扱いとなっている。ウイグルへの強制的な同化政策はこの時期に策定・導入された。
 
それによると、習氏は少数民族に関して宗教の影響や失業問題の危険性について警告しており、新疆の支配を維持する上で、主流派である漢民族と少数民族の「人口割合」の重要性を強調している。
 
ウイグル・トリビューナルはロンドンで、ウイグル族に対する人権侵害の疑いについて審問を開催している。
米ミネソタ在住の中国民族政策専門家、エイドリアン・ゼンツ氏は、ウイグル・トリビューナルから文書の真偽を調べるよう依頼され、他2人の協力者とともに鑑識を行った。

ゼンツ氏によると、今回の文書はニューヨーク・タイムズ紙(NYT)が2019年に報じた流出文書では明らかにされなかった一部とみられる。NYTは十数ページの内容について報じたが、完全な文書ではなかった。

同氏は、NYTの報道について習氏がウイグルの同化政策の策定に直接関与していたことを示していたが、完全な文書で真相は一段と明らかになると述べている。(中略)

習氏が14年の演説で最初に触れた発言がその後、政府の政策文書にも記され、党幹部らも度々その文言を言及しているなどとゼンツ氏は指摘する。
 
例えば、習氏は14年5月に新疆に関する会合で行った演説で、共産党は「人民の民主的独裁という武器の使用を躊躇(ちゅうちょ)すべきではなく、(新疆の宗教的な過激派勢力に対して)破滅的な打撃を与えることに注力すべきだ」と述べている。
 
さらにこの演説では、強制労働の疑いが持たれているウイグル族への労働プログラムの前触れともとれる発言があった。米国はこの強制労働疑惑を理由に、新疆綿を使った中国品の輸入を禁止している。

文書によると、習氏は「新疆の雇用問題は顕著だ。暇を持て余した大量の失業者が問題を起こす傾向がある」と指摘。その一方で、組織で働けば「民族の交流や融合につながる」と述べている。
 
また今回明らかになった別の演説で、習氏は「人口の割合と安全性は長期的な平和と安定の重要な基礎となる」と述べている。その6年後、新疆における漢民族の割合が15%にとどまるのは「低すぎる」として警告した同地域幹部はその際、習氏のこの発言をそのまま繰り返している。
 
ゼンツ氏は「習氏が発したたった一文が、政策全体に影響を与えるだけの威力を持つ」と話す。

同氏によると、ウイグル・トリビューナルは合計300ページにわたる11文書を入手した。このうち30日に公表したのは3文書のみで、残りは今後公表される見通しだ。【12月1日 WSJ】
**********************

【米中間の対立軸となったウイグル族弾圧問題 米「ウイグル強制労働防止法案」 企業は対応に苦慮も】
こうしたなかで、中国のウイグル族弾圧への批判を対立軸の一つとして前面に押し出すアメリカのバイデン大統領は23日、中国新疆ウイグル自治区からの物品輸入を原則禁止する「ウイグル強制労働防止法案」に署名しました。同法は成立し、輸入禁止の対象が同自治区での全製品に広がります。

****強制労働阻止「あらゆる手段」=世界に影響波及へ―米ウイグル禁輸法****
中国の人権侵害を理由に新疆ウイグル自治区からの輸入を全面的に禁止する「ウイグル強制労働防止法」が23日、米国で成立した。180日後の2022年6月下旬に発効する予定だ。

北京冬季五輪を控える中国に人権問題で最大級の外交圧力を加える狙いで、日本を含め世界各地の企業が影響を被りそうだ。
 
バイデン大統領は法案に署名後、ツイッターに「強制労働をなくすため、あらゆる手段を行使し続ける」と投稿。米国が認定する新疆ウイグル自治区でのジェノサイド(集団虐殺)の阻止に向け、先進7カ国(G7)を軸に多国間連携を図る決意を表明した。
 
同法は新疆ウイグル自治区で「全部または一部」が生産された製品の米国への輸入を原則禁止。輸入企業に対し、強制労働に関与していない証拠の提示を義務付けた。米政府は発効までに重点審査品目や強制労働に関わる企業などの制裁リストを明示。同自治区以外を経由した迂回(うかい)輸入品にも目を光らせる。【12月24日 時事
】 
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当然に日本企業を含めた企業活動に大きく影響します。米中のせめぎあいの渦中で企業は苦慮する場面も想定されます。

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中国も主要市場の一つのため「中国が強制労働を否定している以上、『新疆綿を使わない』と宣言すること自体による(中国での)事業活動への影響が心配」という。

ある商社の担当者は「米国による輸入禁止の商品や地域が広がったり、中国が報復措置に出たりするのではないかと心配している」と話す。【12月25日 朝日】
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中国の圧力に民間企業がどこまで抗することができるか・・・難しいようにも。あの巨大企業インテルさえも、中国の圧力には抗えないようです。

****米インテルが中国で謝罪 新疆製品の不使用要請で****
米半導体大手インテルは23日、仕入れ先に中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区の製品や労働力を使わないよう求めていたことについて「尊敬する中国の取引先や協力パートナー、公衆を困惑させた」と中国の会員制交流サイト(SNS)で謝罪した。中国国内で同通知に対する批判が高まったことで、対応を余儀なくされた形だ。

ロイター通信によると、インテルは仕入れ先に対して同自治区の労働者を使用したり、関係する製品やサービスを調達することがないよう求める公開文書を出していた。これに対し、中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報が23日付の社説で「荒唐無稽で目障りだ」と反発。中国のインターネット上では同社に謝罪を求めたり、不買運動が呼び掛けられたりしていた。

同社は、中国のSNS「微博(ウェイボ)」で発表した中国語の声明で、文書は「米国の法律の順守」を表明したものだと説明。同自治区に関する記述は「他意や立場を表明したものではない」と釈明した。

米議会上院は16日に、同自治区を産地とする物品輸入を全面的に禁じる「ウイグル強制労働防止法案」を全会一致で可決している。

中国外務省の趙立堅報道官は23日の記者会見で、インテルの問題に関して「新疆の製品は品質が優れている。企業が使わないことを選ぶなら、彼らにとって損失だ」と発言。同自治区の強制労働問題については「完全に米国の反中勢力がでっちあげた噓だ」と反発した。【12月23日 産経】
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なお、欧米の対応に配慮して中国企業が中国国内でのウイグル族労働者を解雇する現象も出ているようです。
労働移動施策抑制と評価すべきか、ウイグル族労働者の雇用機会喪失と危惧すべきか・・・

****ウイグル族の解雇じわり、中国の工場で方針転換****
アップルのサプライヤーを含め、米国に製品を輸出する中国の工場で、新疆ウイグル自治区出身の労働者を避ける動きが出てきた。イスラム系少数民族に対する「ジェノサイド(民族大量虐殺)」だと糾弾する西側諸国が、強制労働への監視の目を強めていることが背景にある。(中略)

藍思科技は昨年に新疆の労働者を戻すまで、地元政府の労働移動施策を積極的に活用していた。
同社は2017年以降、国家主導の貧困撲滅プログラムを通じて新疆南西部のカシュガルから、少なくとも2200人の労働者を受け入れてきた。中国民政部管轄の政府部署が掲載した資料から分かった。
 
だが昨夏、新疆に関する追及が厳しくなると、同社は主要施設から400人余りを解雇した。
解雇された従業員は、労働契約が定める期間より前に解雇されたため、1万~1万9000元(約17万~32万円)の手当てを受け取ったという。解雇された元従業員の一人が明らかにした。(中略)

中国の工場は通常、漢民族の雇用を望むことが多く、求人広告ではチベット族やウイグル族をあからさまに差別している。これら少数民族は標準中国語があまり話せないと雇用主は考えており、追加の管理が必要であるほか、安全面でのリスクもあるためだという。労働者の権利擁護を唱える団体への取材で分かった。
 
国家主導の労働移動施策は、安定的な労働力だけではなく(離職率が高い工場には魅力)、雇用した人数に合わせて補助金を提供することで、工場の関心をひきつけてきた。ネットの求人広告や労働移動施策の指針によると、新疆の地元政府は当局幹部や治安当局者を同伴させ、集団で少数民族を工場へと送ることが多い。
【7月21日 WSJ】
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【新疆ウイグル自治区トップが交代】
今後の中国側の対応・報復が注目されていますが、中国から興味深い人事も発表されています。

****新疆ウイグル自治区トップが交代 少数民族収容策「一定の区切り」か****
中国国営新華社通信は25日、新疆ウイグル自治区トップの陳全国・共産党委員会書記が退任し、後任に広東省副書記などを務めた馬興瑞氏が就いたと報じた。

陳氏は2016年の書記就任後、中国側が「職業技能教育訓練センター」と呼ぶ施設にウイグル族など少数民族を収容する政策を急拡大させた。昨年7月には当時のトランプ米政権が、人権侵害に関与したとして陳氏らに対して米国内の資産を凍結するなどの制裁措置を決定していた。
 
同センターには宗教心が強かったり、外国との関係があったりする少数民族住民が多く収容され、その後に国外に出た住民らが人権侵害を告発するケースが相次いでいる。

中国政府は同センターの運用は19年後半に終了したとしており、今回の陳氏の退任の背景には、こうした政策に一定の区切りがついたと中国政府が判断した可能性がある。
 
陳氏は11年から16年までチベット自治区トップを務めた後、新疆ウイグル自治区トップに就任した。【12月25日 毎日】
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自治区トップの交代・・・これ以上ことを大きくしたくないとの中国側のメッセージのようにも解釈できますが、どうでしょうか・・・(もちろん、前述のようにウイグル族政策には習近平氏自身が大きく関与しており、自治区トップだけの問題ではありませんが)・・・米中の緊張緩和につながるのか?
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ミャンマー  人権・民主主義への認識が問われる権力との距離感

2021-12-24 23:03:46 | ミャンマー
(ミャンマーの首都ネピドーで2021年2月、ミャンマー国軍トップのミンアウンフライン最高司令官(右)の訪問を受けたゼーゴウン僧院のカウィサラ師=国軍のウェブサイトから【12月19日 朝日】)

(ミャンマー・ヤンゴンでクリスマスケーキを切る、ミン・アウン・フライン国軍総司令官(右)とカトリック教会のチャールズ・ボ枢機卿。国軍情報班提供(2021年12月23日撮影)。 【12月24日 AFP】)

【国境地帯での戦闘で多数の避難民 国軍による住民拷問・殺害も】
クーデターで実権を掌握した国軍が支配するミャンマーでは、依然として国軍と民主派勢力・少数民族武装勢力の戦闘が報じられています。

****ミャンマーのカレン州で戦闘 住民2500人がタイへ避難****
ミャンマー東部カレン州で、ミャンマー国軍と少数民族カレンの武装勢力の間で戦闘が起き、住民約2500人がタイに避難した。国軍が民主派を摘発したことをきっかけに戦闘に発展したとみられる。
 
ミャンマーのクーデター後に国軍に免許を剝奪(はくだつ)されたメディアなどによると、武装勢力「カレン民族同盟」(KNU)が支配するレイケイコー村で14日、ミャンマー国軍が、国民民主連盟(NLD)の元国会議員を含む30人余りを逮捕したのが発端。

15日には国軍とKNUなどカレン民族の武装組織の間で戦闘が起きた。国軍は民主派勢力による「統一政府」の武装組織が駐留しているとみなす一帯に砲撃したという。
 
ロイター通信はタイの地元当局者の話として、戦闘は国境から約500メートルのエリアで起き、砲弾がタイ領内にも着弾したと伝えた。戦闘で国軍兵士十数人が死亡したとの情報がある。
 
タイのメディアによると、17日までに少なくとも2500人が川を渡ってタイに避難した。人道支援団体によると、このうち545人は子どもだという。
 
国軍は3月にもクーデターを批判して市民の抗議デモを支持するなどしたKNUの支配地域に空爆をしている。【12月19日 朝日】
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こうした混乱の中で国軍による残虐行為も表面化しています。
詳細は明らかではないものの、イスラム系少数民族ロヒンギャへの殺害・レイプ・放火など“民族浄化”的な非人道的行為を行ったとされるミャンマー国軍ですから、さもありなん・・・という感も。

****ミャンマー軍、村民らを拷問にかけ集団殺害=BBC調査報道****
ミャンマー軍が7月、数カ所の村で一般人を集団殺害し、少なくとも40人の男性が犠牲になったことが、BBCの調査報道で明らかになった。

目撃者や生存者によると、軍兵士たちは村で住民たちを整列させ、男性を選んで殺害した。兵士には17歳ほどの若者もいたという。当時の動画や写真からは、男性たちの多くは拷問を受けてから殺害され、浅い墓地に埋葬された様子がうかがえる。

殺害は7月に、ミャンマー中央部サガイン地域にある反政府勢力の拠点、カニ郡の4カ所で実行された。(中略)

BBCはカニ郡で目撃者11人に話を聞き、イギリスに本部を置くNGO「ミャンマー・ウィットネス」が収集した携帯電話の動画や写真と照らし合わせた。同NGOは、ミャンマーにおける人権侵害を調べている。

ロープで縛られ
集団殺害の規模が最も大きかったのは、イン村で実行されたものだった。男性14人が拷問や殴打を受けて死亡した。死体は森の中のくぼみに投げ込まれた。

目撃者の1人(特定されないよう名前を伏せた)はBBCに、男性たちがロープで縛られ、殴打された後に殺害されたと話した。

兄弟、おい、義理の兄弟を1人ずつ失ったという女性は、「見ていられなかったので頭を垂れ、泣いていた」と話した。「やめてほしいとお願いした。兵士たちは聞く耳を持たなかった。兵士たちは女の人たち向かって、『夫はこの中にいるか? いるなら最後の弔いをしてやれ』と言っていた」

何とか生き延びた男性は、兵士たちが男性たちを、何時間も恐ろしい残虐行為を加えた末に殺害したと話した。
「男性たちは1日中、縛り上げられ、石やライフルの銃床で殴打され、拷問を受けた」
「兵士の一部は見た目が若く、たぶん17歳か18歳だった。反対に、かなり年を取った人もいた。女性も1人いた」

近くのジー・ビン・ドゥイン村では7月下旬、浅い集団墓地から、切断された12人の死体が見つかった。子どもの可能性もある小さな死体や、障害者の死体が含まれていた。

60代男性の死体は、付近のスモモの木に縛り付けてあった。BBCはこの死体を映した動画で、男性が拷問を受けたことを明確に示す形跡を確認した。男性の家族によると、軍が村に入ってきた時、男性の息子と孫は逃げたが、男性は高齢だから危害は加えられないだろうと考え村に残ったという。

一連の集団殺害は、民主政府の復権を求める武装市民グループが軍を攻撃したことに対する罰とみられる。武装市民グループの集合体である国民防衛隊(PDF)と軍の戦闘は、集団殺害前の数カ月間、この一帯で激化していた。

男性が殺害の対象となったのは、BBCが集めた映像や証言などから明白だ。ミャンマー各地で最近、男性の住民たちが集団で「罰」を受けている。

犠牲者の家族は殺された男性たちについて、軍への攻撃と無関係だったと訴えた。イン村で兄弟を失った女性は兵士に対し、自分の兄弟は「パチンコ(投石機)すら扱えない」と言って懇願したという。すると兵士は、「黙れ。私たちは疲れている。お前を殺すぞ」と答えたという。

「起こりうる」と軍報道官
ミャンマーではクーデーター以降、外国人記者の活動は禁止されている。民間メディアのほとんどは閉鎖され、現地での取材はほぼ不可能になっている。

BBCは今回の疑惑について、ミャンマー情報省の副大臣で軍報道官のゾーミントゥン将軍にただした。将軍は、兵士らが集団殺害を実行したことを否定しなかった。

「起こりうることだ」と彼は言った。「私たちを敵として扱うなら、私たちには自衛権がある」。
国連は現在、ミャンマー軍が犯したとされる各種の人権侵害について調査を進めている。【12月20日 BBC】
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“将軍は、兵士らが集団殺害を実行したことを否定しなかった。”・・・・恐怖を広めることによって事態を鎮静化させようとの考えでしょうか。

拘束して裁判にかけているスー・チー氏についても、国民への“みせしめ”的な対応を強めています。

****スーチー氏、囚人服で出廷 国軍、権威失墜狙いか****
ミャンマー国軍のクーデターで政権の座から追われ、社会不安をあおった罪などで有罪判決を受けたアウンサンスーチー氏が17日、首都ネピドーの特別法廷で開かれた審理に囚人服姿で出廷した。法曹関係者が明らかにした。国軍は司法も統制下に置いており、スーチー氏の権威をおとしめる狙いがあるとみられる。
 
17日は汚職の審理だったが、スーチー氏は白いシャツに茶色のスカートの囚人服で、英BBC放送ビルマ語版によると、毅然とした様子で審理に臨んでいたという。スーチー氏は10件以上の容疑で訴追されている。【12月17日 共同】
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なお、20日は無線機を違法に輸入したとされる罪について判決が予定されていましたが、特別法廷は判決言い渡しを27日に延期しています。

【市民の心のよりどころになっている僧侶 ただ、そうした信仰に頼る姿勢に批判の声も】
出口が見いだせない状況にあって僧侶たちの存在が市民の心のよりどころになっていますが、そうした信仰に頼る姿勢に批判の声も。

****「僧侶に会ってる場合か」批判も 葛藤深まるミャンマーのお坊さん****
国軍がクーデターで権力を握り、多くの市民が犠牲になっているミャンマーで、僧侶たちの存在が市民の心のよりどころになっている。国民の約9割を占める仏教徒にとって、尊敬の対象である僧侶との触れ合いは「心の平和」を取り戻す数少ない機会だ。

ただ、国軍と武力闘争を続けている一部の市民からは、信仰に頼る姿勢に批判の声も上がっている。

■戻ってきた「日常」の風景
日の出前の午前5時。最大都市ヤンゴンの通りを約60人の僧侶がひたひたと裸足で歩く。手には金属製の器「鉄鉢」を抱えている。僧侶の到着を知らせる鐘の音が鳴ると、住民が一人、また一人と現れ、皿に盛った野菜や米を鉄鉢によそった。托鉢(たくはつ)の僧侶に食事をお裾分けする場面だ。
 
2月1日に起きたクーデターの直後は、市民のデモを国軍が武力で抑えつけた。一時はヤンゴンの通りから人影が消えたが、10月下旬ごろから徐々に人出が戻り、托鉢が再開した。
 
カレーを振る舞った会社員の男性(57)は「クーデター後に貧困が広がり、食事を振る舞う住民の数は減った。私も生活は苦しいが、10年続けてきた習慣を再開できて、穏やかな気分だ」と笑顔を見せた。
 
ヤンゴンの僧院では200人以上の市民が袈裟(けさ)や食事の寄付に訪れていた。僧侶への寄付は功徳を積むための善行と信じられている。
 
この僧院の僧侶ワジラ師によると、クーデター後の景気の悪化で寄付金は減ったが、「クーデター後、怒りや不安を抱えた多くの人が、できる範囲の寄付を持ち寄っている」と語る。
 
デモに参加して拘束された僧侶も少なくない。ワジラ師の僧院はデモの参加を禁じたが、社会の混乱を目の当たりにし、僧院を出て森の中で瞑想(めいそう)を始めた若い僧侶もいるという。

市民癒やすため? 現れた老僧に群がる人々
北西部ザガイン管区では、めったに公に姿を見せない著名な僧侶マハボディミャイン師(80)が、クーデター後に連日托鉢に現れ、話題になっている。この僧侶は森の中で数十年瞑想したと言われ、国内で知らない人はいない存在だ。多くを語らず、取材に応じないため、真意は明らかではないが、ネットでは傷ついた市民を癒やすためとの解釈が広まった。その姿を一目見ようと、連日数千人が僧院を訪れている。
 
約800キロ離れたヤンゴンからバスに揺られてやってくる人も。数十分ほどの托鉢の姿を見るため、舗装のない森の一本道は砂ぼこりをあげて走る車で混雑している。
 
批判も起きた。ザガインでは若者が武器を手に国軍と戦い、大勢が犠牲になった。そのザガインに見物客が集まる事態に、SNS上では「クーデターが起きたのに僧侶に会いに行っている場合か」「国軍との戦いに集中すべきだ」などの投稿が拡散した。
 
批判は僧侶にも向くことがある。ミンアウンフライン国軍最高司令官は、クーデターでアウンサンスーチー氏を拘束した翌日、スーチー氏と関係の深いゼーゴウン僧院のカウィサラ師と面会した。スーチー氏の状況などについて説明したとされるが、面会は国軍の統治を認める行為とみなされ、SNSで非難が集中した。6月、乗っていた国軍機が墜落し、カウィサラ師は亡くなった。
 
国軍の武力弾圧による犠牲は、社会の分断ももたらした。国軍と徹底抗戦する道を選んだ人もいれば、日常生活に戻ることを選んだ人もいる。「国軍寄り」とみなされた市民が殺害される事案も相次いでいる。
 
僧侶たちの胸の内は複雑だ。北東部シャン州の僧侶(36)は、もともとスーチー氏を支持していたが、今は迷っているという。「政治努力でクーデターを防いでいたら、市民が死ぬことも武器を手に戦うこともなかったかもしれない。僧侶は政治と距離を置くべきだが、政治について日々思い悩まずにいられない」【12月19日 朝日】
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【権力にすり寄る動きも】
国軍側が住民統治の一環として強い影響力を持つ宗教界に接近するのは当然のことでしょう。宗教界の側がその誘いにどのように対応するのか・・・。

信徒の安全を考えれば無碍には断れない・・・という側面もあるのでしょうが、ただ、無批判な権力へのすり寄りとも見えるような行為には批判も。

****ミャンマーのカトリック枢機卿に批判 国軍総司令官とクリスマス祝う****
ミャンマーで、カトリック教会のチャールズ・ボ枢機卿がミン・アウン・フライン国軍総司令官と共にクリスマスケーキを切っている写真などが公開され、24日にはボ氏に対する怒りの声が広がった。総司令官は国軍に対する抗議デモや衝突の弾圧を指揮し、キリスト教徒が多い地域でも多数の死者が出ている。
 
国営英字紙「ミャンマーの新しい灯」によると、ボ氏は23日にミン・アウン・フライン氏と面会。両氏はクリスマスキャロルに耳を傾け、「平和と繁栄に関する事柄について話し合った」という。
 
2015年にフランシスコ教皇によって枢機卿に任命されたボ氏は、自身のツイッターアカウントに、笑顔の両氏が一緒にナイフを持ち、クリスマスケーキを切る写真を投稿した。
 
国営メディアも、両氏がクリスマスツリーの前に並んで座る様子や、ミン・アウン・フライン氏が2000万チャット(約130万円)の寄付をボ氏に手渡す様子を捉えた写真を公開した。
 
2月の軍事クーデターで、国家顧問だったアウン・サン・スー・チー氏が拘束されて以来、ミャンマーは混乱の中にある。現地の監視団体によると、抗議デモの弾圧により1300人以上が死亡している。
 各
地で国軍と戦うための武装集団が結成され、キリスト教徒が多い地域で起きた戦闘でも多数の死者が出ている。 【12月24日 AFP】
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権力掌握が続けば、その権力になびく動き、現実支配体制への接近で実益を得ようとする動きも出てきます。

****ミャンマー国軍トップと会談=影響力維持狙いか―インド高官****
インドのシュリングラ外務次官が22、23の両日、隣国ミャンマーを訪れ、クーデターで権力を握った国軍のミンアウンフライン総司令官と会談した。市民弾圧が国際的な批判を浴び、孤立を深める国軍と関係を維持することで、影響力を保つ狙いとみられる。
 
インド外務省によると、シュリングラ次官は民主体制への早期復帰や政治犯の解放を呼び掛けた。また、インド製の新型コロナウイルスワクチン100万回分を供与したほか、食料支援を表明した。次官は拘束されたアウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)の関係者とも会談した。【12月24日 時事】
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“民主体制への早期復帰や政治犯の解放を呼び掛けた”とは言っても、現時点で司令官と会談すること自体が、国軍支配を正当化し、“民主体制への早期復帰や政治犯の解放”を遠のかせることにもなります。

【「23年8月」にやり直し総選挙 おそらく「香港型」】
今後については、国軍のミンアウンフライン総司令官は23日、最大都市ヤンゴンで演説し、総選挙を2023年8月に行う考えを明らかにし

****ミャンマー選挙は「23年8月」、国軍トップ言及 スーチー氏排除か****
ミャンマー国営紙は24日、ミンアウンフライン国軍最高司令官が2023年8月に総選挙を実施すると述べたと報じた。今年2月にクーデターを起こし、実権を握った国軍はこれまで、23年8月までに総選挙を実施するとしていたが、具体的な実施時期は明言していなかった。
 
国営紙によると、ミンアウンフライン氏は最大都市ヤンゴンで23日、国軍幹部らを前に演説し、「23年8月に複数政党による民主的な総選挙を実施するよう、できる限りの努力をしている」と述べた。ただ、「国の平和と安定に応じて」実施するとの条件もつけており、治安の悪化などを理由に先延ばしする可能性もある。
 
ミャンマーでは、アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)が20年11月の総選挙で圧勝したものの、国軍は不正があったと主張してクーデターを決行。国軍は将来的に総選挙をやり直すとしていた。
 
ただ、国軍は次の総選挙にスーチー氏らNLD幹部を参加させない方針とみられる。スーチー氏は10件以上の罪で訴追され、一部の罪について今月6日、禁錮刑の有罪判決を言い渡された。裁判は続いており、最近は囚人服姿を着て出廷するようになった。国軍報道官によると、スーチー氏は刑務所には送られず、軟禁生活が続いているという。
 
国軍統制下の選挙管理委員会は5月、NLDを解党する方針も表明。国軍系の政党が議席を得やすくするため、現在の小選挙区制から比例代表制への選挙制度の変更も進めている。【12月24日 朝日】
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“総選挙”とは言いつつも、要するに「香港型」の管理された選挙、結果のわかった選挙、批判勢力は排除された“儀式・パフォーマンス”としての見せかけの選挙でしょう。

もちろん、スー・チー氏の勢力は排除されますし、香港のように、国軍支配体制への忠誠が立候補資格になるのかも。
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トヨタは日本沈没時の切り札となりうるのか? それともコダックと化すのか?

2021-12-23 23:19:35 | 日本
(【12月16日 MOBY】トヨタが投入するEVの開発車両を前にEV加速をアピールする豊田章男社長)

【「日本の自動車業界が、日本のパソコンや携帯電話と同じ道をたどらないなど、誰も保証できない」】
私は原付免許しかもっておらず、車の知識・車への興味はゼロですが、自動車の話。

先ごろ終了したTVドラマ「日本沈没」のなかで、難航が予想される日本人移民受入れをアメリカまたは中国に認めてもらうための交渉で、日本が世界に誇る、そして各国が欲しがる自動車会社の移転をセットにして交渉打開にあたるという展開がありましたが、誰しも考えるようにこの自動車会社は「世界のトヨタ」がモデルでしょう。

その「世界のトヨタ」については、現在世界の主流となりつつあるEV(電気自動車)に関して消極的なのでは、このままでは世界の流れに遅れをとるのでは・・・という声も聞かれます。

****世の流れは電気自動車なのに…トヨタはガソリン車に未練―華字メディア****
日本の華字メディア・日本華僑報網はこのほど、電気自動車(EV)の世界販売計画拡大を発表したトヨタについて「今なおガソリン車に未練を持っている」とする評論記事を掲載した。

記事は、自動車業界のリーディングカンパニーであるトヨタが14日に「ついに重い腰を上げて、EV開発計画の発表を行った」とし、豊田章男社長が2030年のEVの世界販売台数見通しを従来の200万台から350万台にまで拡大し、北米、欧州、中国ではレクサスブランドの自動車を全てEVとし、同社の最新技術を駆使することを発表したと伝えた。

また、同社は30年までにバッテリーに2兆円、車両本体の開発に2兆円の計4兆円を投資することを打ち出したと紹介。日本企業にとってこれほどの規模の投資は久しぶりであり、技術開発や新製品に取り組む一方で設備投資に消極的だった日本企業の印象が、トヨタの変化に伴って変わるかもしれないと評した。

一方で、14日のトヨタの発表は「奥歯に物が挟まった物言いだった」とも指摘。海外のメディアや環境保護団体から「新エネルギー車の発展を阻害している」「環境保護に消極的」と評される中で、トヨタが依然として「全方位戦略」路線を変更せず、化石燃料車も戦略の中に組み込んでいたことを理由に挙げた。

そして「トヨタは全精力をEVに注ごうとしているわけではない。何しろ毎年数百万台を打っている化石燃料車は今のトヨタにとっては非常に重要であり、EVに大きな未来があると言えども、現時点で化石燃料車を捨てるほどの価値はないと考えている」と伝えている。

その上で、トヨタがもしリソースをEVに集中させなければ、今後トヨタの経営は巨大な困難に直面し、ブランドの影響力は大きく低下するだろうと予測。

「日本の自動車業界が、日本のパソコンや携帯電話と同じ道をたどらないなど、誰も保証できない。ノートパソコンは日本企業が発明し、携帯電話も基本的には日本企業が開発した。しかし今や世界の市場でこれらの日系ブランド製品を見ることはほぼなくなっている。失敗例は身近に存在する」と結んだ。【12月23日 レコードチャイナ】
*********************

【トヨタ EV加速に転換も、資金的余裕もあって全方位戦略は維持】
上記記事前半にあるトヨタのEV販売拡大および「全方位戦略」路線維持、EV普及の課題等については以下のようにも。

****トヨタ一転、EV急進 HV主力の戦略、逆風 脱炭素「敵は内燃機関ではない」****
トヨタ自動車が電気自動車(EV)の2030年の世界販売目標を350万台に引き上げた。これまで、「脱炭素」の切り札としてEV一辺倒に偏りがちな政策の潮流と距離を置いてきた。それが、EVシフトを加速させる戦略に転じた。今後、本格的な競争に入る。ただ、日本ではEV普及の課題は少なくない。(中略)

EVを強調したトヨタだが、実はEVの急速な普及には慎重な見方だった。

政府が50年までの脱炭素を宣言し、1月には35年までに乗用車の新車販売で純粋なガソリン車をゼロにする目標を掲げた。トヨタにとってEV化を強く迫るものと映り、警戒心を抱かせた。

トヨタの戦略は、EVやハイブリッド車(HV)、燃料電池車(FCV)と「全方位」でエコカーをそろえ、国や地域に応じた車種を投入することだ。資金に余裕があるからできる手立てだ。

今年5月に発表した30年の世界販売1千万台の内訳で、HVとプラグインハイブリッド車(PHV)が600万台。EVは、FCVと合わせて200万台を目標とした。主力はHVだ。

そして、豊田社長は記者会見などで、「敵は炭素で、内燃機関(エンジン)ではない。技術の選択肢を狭めないでほしい」と、EVに偏りがちな政策の潮流をしばしば牽制(けんせい)。

会長を務める日本自動車工業会の記者会見では9月、「一部の政治家から、すべてEVにすれば良いだとか、製造業は時代遅れだという声を聞くが、違う」と主張した。

実際、EVは脱炭素の「切り札」と言い切れない。化石燃料由来の電気を使って走れば、間接的に二酸化炭素(CO2)を出す。電池生産に大量のエネルギーを使うため、製造から廃棄までの「車の生涯」で見ると、CO2を簡単には減らせない。

EVシフトが進めば、エンジン関連産業は要らなくなる。豊田社長が「脱炭素は雇用問題」と主張するのはこのためだ。

しかし、トヨタの「正論」は時に、気候変動対策に後ろ向きとみられた。
米紙ニューヨーク・タイムズは今夏、「クリーンカーを主導したトヨタが、クリーンカーを遅らせている」と報じた。環境保護団体グリーンピースは11月、世界の自動車大手10社の気候変動対策の評価で、トヨタを最下位にした。「EVの全面移行に対する業界最大の障壁」と酷評した。

一方、市場では「EV銘柄」が高騰している。販売規模でトヨタの10分の1ほどのEV専業の米テスラは、株式の時価総額が1兆ドル(113兆円)超。トヨタの3倍超の水準だ。

トヨタ内からは、「EV反対派ではないかと言われる。思ったことが伝わらない」(長田准執行役員)との声が漏れていた。

世界のEVシフトを背景に今回、トヨタはEV戦略を加速させる方向に転じた。イメージを刷新する必要にも迫られていた。

豊田社長はこの日の説明会で、「EV350万台という台数で評価してほしい」と訴えた。「EVにも強いメーカー」へ、巻き返しを本格化させる。

 ■主要メーカー、次々シフト
EVシフトは世界的な流れだ。今年に入って、トヨタ以外の主要メーカーも旗幟(きし)を鮮明にしてきた。

ホンダは4月、40年に新車販売を全てEVとFCVにすると発表した。日産自動車も11月、EV競争のカギを握る「全固体電池」を28年度に投入することを表明。今後5年で2兆円を投資するとしている。

欧州連合(EU)は自動車産業の競争力を取り戻そうと、EVを重視している。35年に新車販売をEVかFCVに限る方針。独フォルクスワーゲンは年間販売に占めるEV割合が21年は5~6%になるという。これを30年に約50%まで引き上げる方針だ。スウェーデンのボルボ・カーズは30年までに全モデルをEVとする。

米国もバイデン政権のもと、30年に新車販売の半分を排ガスゼロの車にする。ゼネラル・モーターズは35年までに乗用車からの排気ゼロをめざす。フォードも30年までに新車販売の4~5割がEVになると予想する。

中国も35年に新車販売をすべて電動車にしようとしている。

 ■本格的普及へ、課題山積み 価格・利便性・電気の大量消費
EVシフトの課題は山積みだ。脱炭素という理念は広まりつつあるが、消費者が好んでEVを選ぶ状況にはなっていない。

大きな課題は価格だ。電池の製造コストが高く、各国とも販売は補助金に依存している。「どうやってもうけていくのか、明確に見えている自動車会社はない」(アナリスト)

ガソリン車に比べ利便性も落ちる。充電スタンドの設置が十分でなく、充電への不安から、購入に踏み切れない人もいる。政府は今年度補正予算案で、購入費やスタンド整備費などを補助するため計375億円を盛り込んだ。

EVは走行時にCO2を出さないが、製造や充電には大量の電気を使う。日本は火力が電源の7割以上を占める。電源の脱炭素も進める必要があるが、太陽光や風力といった再生可能エネルギーを急増させることは難しく、原子力発電の活用には反対も根強い。【12月15日 朝日】
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【「勢い」に乗る中国自動車メーカーの日本市場参入 BYD「トヨタから学びたいことなどほとんどない。看板が欲しかっただけ」】
ときに「正論」は、「勢い」「流れ」に飲み込まれることも。いち早くEV普及を進める中国企業の日本国内での事業展開も急拡大する様相です。

冒頭記事では「日本の自動車業界が、日本のパソコンや携帯電話と同じ道を・・・」という記述がありましたが、下記記事では「もしかしたらトヨタの方が、コダックになるかもしれない」とも。

****京都の路線バスに中国製EV、圧倒的低価格で日本市場に殴り込み****
年末の日本に、衝撃的とも言えるニュースが入って来た。12月22日、京阪バスが、京都市内を走る路線で、中国の電気自動車メーカーBYD(比亜迪)製の4台の電気バスの運行を始めたのだ。これまで長く、「日本車を中国で売る」のが常態だったが、ついに日本の公共交通機関で中国製の車が採用される時代になったのだ。
 
なぜ京阪バスが、BYDのバスを買ったかと言えば、それはアメリカから制裁を喰らう前にファーウェイ(華為技術)製品が日本を席巻したのと同じ理由――「安くて性能がいい」からだ。

今回の場合、国産の電気バスが約7000万円と高価格なのに対し、BYD製は約1950万円。まるで7割引きで買うような感覚だ。BYDは今後10年内に、4000台の電気バスを日本で販売する計画だという。
 
この一件で日本では、「中国政府は不当な補助金を出しておりダンピング輸出だ」という非難の声が上がっている。この非難は一面正しいのだが、一気呵成にEV(電気自動車)シフトが進む世界の自動車業界で、日本が置かれている状況も、反省してみる必要があるのではないか。

「トヨタから学びたいことはない。欲しいのは『世界のトヨタ』の看板だけ」
いまから8カ月前の4月後半、上海モーターショーで、トヨタとBYDは、「『BYDトヨタ電気自動車科学技術株式会社』を3月に設立した」と発表した。日中の両雄が、初めて合弁会社を設立したのである。
 
このニュースは、日本でよりも中国での方が話題になった。それは、「ついに世界のトヨタがBYDに合弁会社設立を求めてきた」という文脈だった。「BYDはトヨタの何を欲しているのか?」という中国紙記者の質問に、匿名のBYD関係者はこう答えていた。

「電気自動車というのは、いわば『走る電気製品』であり、われわれがトヨタから学びたいことなどほとんどない。それでもトヨタと合弁したのは、何より『世界のトヨタ』の看板が欲しかったからだ。この看板があれば、世界市場にどこでも入っていける」

この記事を読んだ時、株式の時価総額で日本最大を誇るトヨタも舐められたものだと思った。だが今年10月には、BYDの時価総額は、トヨタの半分まで来た。この勢いが続けば、2010年に日中のGDPが逆転したように、いずれ逆転する。

携帯電話のバッテリー製造からスタートしたBYDの歴史
BYDは、漢字で書くと「比亜迪」。「ビーヤーディ」と発音する。「アジアの他社よりも道を開く」という意味に取れ、アジアでナンバー1の自動車メーカーを目指すという気概を感じる社名だ。
 
BYDは、1995年に王伝福(おう・でんふく)CEOが、香港に接する広東省深圳で創業した。現在55歳の王伝福CEOは、今年のフォーブス世界長者番付で118位、163億ドル(約1兆8600億円)という途方もない資産を誇る立志伝中の人物だ。
 
王CEOは1966年、安徽省の貧農家庭に生まれ、湖南省長沙の中南大学冶金学部を卒業。北京有色金属研究所で修士号を取得し、同研究所で金属を分析する研究者だった。
 
この頃、中国で一世を風靡していたのが、米モトローラの携帯電話だった。今後、中国で携帯電話が大量に普及していくと見込んだ当時29歳の王氏は、携帯電話のバッテリー電池を作る会社を創業した。これがBYDである。

「EV開発は大きな賭けだった」
私は3年前に、深圳のBYD本社を訪れ、王CEOと、その側近でエンジニア出身の丁海苗副社長を取材した。彼らは、いまから約20年前の日本にまつわる興味深いエピソードを話してくれた。

「当時、バッテリー電池を作っていた私たちは、自動車産業への進出をもくろんでいた。その際、行ったのが、ダイハツのシャーリーを解体して、自動車の構造を徹底的に研究することだった。日本車は、深く内部構造を理解すればするほど、その精巧さに感銘を受けたものだ。
 
2003年、われわれは重要な決断をした。それは、このまま自動車の開発を続けていても、永遠に日米欧のメーカーにはかなわない。それよりも、わが社の得意分野は電池なので、電池を動力にして走るEVを開発することにしたのだ。
 
これは大きな賭けだった。もしも将来にわたって、ガソリン車の時代が継続していくなら、私たちは敗北者だ。しかし、EVが主流となる時代が到来した暁には、BYDは世界の先駆者になれる。その時は、もしかしたらトヨタの方が、コダックになるかもしれない」
 
コダックは、世界最大のカメラフィルムの会社だったが、今世紀に入りデジタルカメラの時代が到来し、淘汰されてしまった。そのデジタルカメラでさえ、いまやスマートフォンの出現によって淘汰されつつある。
 
この時のBYD最高幹部へのインタビューで、「トヨタ」という名前は、もう一回出てきた。
「EVを世に問うていった時のわれわれの心境は、1965年のトヨタと同じだった。当時のトヨタは、自分たちは果たしてアメリカ市場で通用するのかという不安を抱えたまま、乗り込んで行った。実際、アメリカ人は当初、日本の自動車メーカーに疑心暗鬼だったが、やがて受け入れた。同様に、わが社のEVも、やがて日本を含めた世界が受け入れてくれると信じている」

人気のテスラを押しのけ中国EV市場で首位に立つBYD
結論を言えば、BYDは「賭け」に勝った。周知のように、世界の自動車産業は、脱炭素の波を受けて、いまや一斉にEVに向かいつつある。
 
トヨタも12月14日、豊田章男社長が、今後4兆円規模の投資を行い、2030年に30車種、計350万台のEVを世界で販売すると発表した。これまでの目標は200万台だったので、EVシフトを鮮明にした格好だ。
 
だが、EVに関しては、BYDに一日の長がある。昨年の中国国内でのEVの販売台数のベスト3は、BYDが1位で17万9054台、2位は上海通用五菱で16万5609台、3位がテスラで13万5449台だった(中国乗用車連合会発表)。BYDは、世界中で人気を誇るテスラを押しのけて、中国市場でトップに立っている。
 
特にBYDが有利な点は、もともと電池の会社なので、「EVの心臓部」と言える電池を自社でまかなえることだ。この点は、トヨタが電池メーカーと提携しないとEVが作れないことを考えれば、大きな経費とリスクの回避になる。
 
実際、BYDは、今年10月31日から11月13日までイギリスのグラスゴーで開かれたCOP26(国連気候変動枠組条約締約国会議)の公用車に採用されるなど、飛躍的に知名度を上げている。その意味では、「満を持して」日本市場に乗り込んで来たのである。
 
日本車を解体するところから始めたBYDにしてみれば、苦節20年。12月22日は、記念すべき日となったことだろう。【12月23日 JBpress】
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資金的余裕を背景に全方位戦略を維持するトヨタ、電池にしか生きる道はないと定めて猛進するBYD・・・その運命は?(今川の大軍を桶狭間で打ち破った織田信長の故事を連想するようなところも・・・あるいは、長篠で鉄砲の威力の前に屍を重ねた武田騎馬軍団か・・・)

日本市場への参入を目指す中国自動車メーカーはBYDだけではないようです。

****中国車の日本市場進出は「競争力確保の合図」と韓国メディア=韓国ネット「韓国車すら無理なのに…」****
2021年12月20日、韓国・ファイナンシャルニュースは「中国の大手自動車社メーカーらがハードルの高い日本市場に進撃している」とし、「これまで“メイドインチャイナ”が“安物”と認識されてきたことを考えると、隔世の感がある」「電気自動車(EV)分野で一時的な空白期間を迎えている日本車業界が虚をつかれた形だ」などと伝えている。

記事によると、中国第一汽車集団は19日、自社の高級ブランド「紅旗(ホンチー)」の日本初の販売店を大阪・なんばにオープンした。当面はハイブリッド車など計4車種を販売する予定で、550万円から1150万円台の高級セダンも取り扱う。主に欧州市場に輸出する製品ラインアップだという。来年夏からは電気自動車(EV)のスポーツ用多目的車も投入する。また、来年には東京にも販売店をオープンさせる計画という。

別の中国車メーカー・東風汽車集団はすでに日本の物流大手SBSホールディングス(HD)にEV小型トラック1万台を供給した。記事は「トヨタやホンダなど日本車業界のEV対応が遅れているため、日本企業は低価格の中国車を選んでいるようだ」と分析している。

比亜迪(BYD)もEVトラックの価格を40%ほど下げる計画で、5人乗り中型セダンEVトラックの販売も開始した。日本の企業と自治体が対象となる。さらに、日本の主要都市への販売代理店構築を検討するため、日本法人に新たな組織も新設したという。

記事は「日本の自動車市場は長年“輸入車の墓場”と呼ばれており、韓国の現代自動車も過去に進出し、数年で撤退している。現在も輸入車の割合は10%ほどにすぎない」とした上で、「中国車の日本市場進撃はそうした意味で、競争力を確保した合図と解釈できる」と伝えている。(後略)【12月23日 レコードチャイナ】
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【将来が期待される全固体電池では日本が優位を保つ】
トヨタや日本企業にとって希望の持てる話題も。

****次の競争の舞台「全固体電池」、日本は中国を「5年はリード」=中国報道****
電気自動車(EV)の心臓とされる動力電池は、現在はリチウムイオン電池が主流だが、将来的には全固体電池へと変わっていくことが予想されている。中国証券報系ニュースサイトの中証網はこのほど、将来的には「全固体電池」を舞台に激しい競争がぼっ発することは必至だと指摘する一方、「日本は全固体電池の分野で中国より5年は進んでいる」とする記事を掲載した。(中略)

なかでも、トヨタは2020年代前半に全固体電池の実用化を目指し、まずはハイブリッド車に搭載する予定のほか、日産も2028年に実用化する計画だと記事は紹介した。欧米の自動車メーカーも全固体電池への投資を強化しているという。しかし、中国企業は海外企業と比べると全固体電池への投資意欲が小さいそうだ。

記事は、将来的に全固体電池が実用化されれば電池市場における市場シェアは大きく変わるかもしれず、日本や韓国、欧米のメーカーにも大きなビジネスチャンスが広がっていると主張した。全固体電池にはまだ解決すべき課題も多いと言われているが、日本の技術力で問題を克服し、市場をリードすることに期待したい。【12月23日 Searchina】
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「日本沈没」のとき、「世界のトヨタ」は日本にとって「切り札」的存在であり続けるのでしょうか・・・それとも「コダック」と化しているのか。
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サプライチェーンの混乱 フライドポテトから自動車まで 脱炭素や人権・環境へ配慮という問題も 

2021-12-22 23:03:50 | 経済・通貨
(コロナ禍を経てコンテナ需要が急回復し、輸送費が高騰している【12月20日 日経ビジネス】)

【フライドポテトにヘリウム風船も】
最近、供給体制・物流のトラブルから商品が円滑に入手できないサプライチェーンの混乱に関する報道を頻繁に目にします。原因は新型コロナによる供給の乱れ、急激な需要回復、コンテナやトラック運転手の不足による物流の滞留など。更に、脱炭素や人権・環境への配慮といった今日的な要因も。

まずは身近なところから。(なぜBBCが日本のマクドナルドを取り上げているのかは知りませんが・・・「チップ」つながりでしょうか)

****日本のマクドナルドでフライドポテトが不足、サプライチェーン危機の影響****
世界規模のサプライチェーン危機で半導体チップ不足が深刻化する中、世界最大のファストフード企業マクドナルドも、日本で「チップ」不足に直面している。 ただ、マクドナルドで問題となっているのは半導体ではなく、フライドポテトだ(イギリスではフライドポテトを「チップス」と呼ぶ)。 

マクドナルドによると、看板メニューのフライドポテトの材料となるジャガイモに、輸送の遅れが出ている。 これを受け、今月24~30日の間、フライドポテトの販売を一部に限定するという。 

マクドナルドはBBCに、「日本マクドナルドは一時的に、フライドポテトのミディアム(M)とラージ(L)サイズの販売を制限する。お客様にマクドナルドのフライドポテトを味わい続けてもらうための積極的な措置だ」と説明。(中略)

■今後は空輸も
マクドナルドが21日に発表した声明によると、材料のジャガイモは通常、カナダ・ヴァンクーヴァー近郊の港を経由して日本に輸送される。 しかし、カナダで先月発生した洪水被害の影響と、新型コロナウイルスのパンデミックによる世界的なサプライチェーン危機により、船舶に遅れが生じている。今後、空輸などの代替策を取るという。(中略)

一方、イギリス国内の1250店舗では今年8月、シェイクやボトル入り飲料の販売に影響が出た。供給面で問題が生じたためだった。 マクドナルドは、トラック運転手の不足が原因の1つだと説明。ブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)によって商取引のルールが変更されたことで、問題が悪化したとした。【12月22日 BBC】
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東京ディズニーランドでは風船が・・・風船だけならまだしも、病院のMRIとか、半導体・ヒカリファイバー生産にも影響するとか。

****東京ディズニーは風船休止 ヘリウム高騰の余波****
半導体製造などに使うヘリウムの輸入価格がここ50年余りの最高値を更新する水準で推移している。アジアを中心とした旺盛な需要に対し、海上輸送の停滞などで供給が追いつかない。需給の逼迫感から国内の半導体関連産業の調達不安が広がりつつある。ディズニーリゾートで風船販売が休止されるなど消費者に身近なところで影響も出始めた。

ヘリウムはガスや液体として冷却などの用途があり、半導体や光ファイバーの製造に欠かせないほか、医療現場の磁気共鳴画像装置(MRI)やデータセンターの記憶装置に使う。風船のガスでも身近だ。

天然ガスを採取する際の副産物として生産され、採算に見合うコストで生産できるガス田は米国やカタールなど世界で数カ国のみだ。日本は全量を輸入に頼る。(中略)直近で安かった17年からの上昇率は4割近くに達する。

需要はアジアを中心に伸びている。新型コロナウイルス禍で半導体や光ファイバー向けなどの需要が昨年減少したが、足元では中国などで需要が回復している。

一方、供給が戻っていない。ヘリウムは液化して専用コンテナで海上輸送するが、日本の輸入会社幹部は「世界でコンテナ船の輸送が停滞している影響で、産地に物があっても消費国には物が乏しい状況が続いている」と説明する。(中略)

ある国内ガス大手の担当者は「これまでは半導体生産が滞っていたため供給難が顕在化していなかったが、調達の状況は日に日に悪化している」と打ち明ける。足元は大口需要家である半導体産業への供給は優先しているというが、「最近半導体業界に対して供給調整を打診した同業もあると聞く」と指摘する。

あおりを受け始めたのがレジャー産業だ。風船販売のローリーズバルーンファクトリー(東京・港)の藤井純子代表は「11月からヘリウムの入荷が完全に停止し、次回入荷のめどが立っていない」と明かす。「1月中旬や2月までガスの供給が復活しなければ、在庫がなくなり次第、販売を一旦停止せざるを得ない」

オリエンタルランドもガスの品薄を受け、1日から東京ディズニーリゾート(千葉県浦安市)内でのヘリウムガスを詰めた風船の販売を休止している。「販売再開の時期は未定」(同社)という。仮に1カ月以上販売を停止することになれば、12年11月から14年1月にヘリウム不足を受けて休止して以来となる。

クリスマスの風船の需要期に消費産業に痛手となった。ヘリウム不足の影響は今後、半導体や光ファイバー、医療機器などの産業や消費生活に広がる可能性がある。【12月21日 日経】
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“天然ガスを採取する際の副産物”という性格もあって、これまでも供給がタイトになったこともあります。
偶然ですが、丁度2年前にも同じような記事がありました。

“ディズニーから風船消えた ヘリウムガス、世界的な異変”【2019年12月21日 朝日】

上記記事によれば、アメリカの冷戦時代の備蓄を取り崩して供給がなされてきたが、それも品薄になってきて買占めの対象になっているとも。

また、近年のシェールオイル採掘では地質的にヘリウムが得られないとかで、供給がタイトになっている事情もあるようです。

医薬品の供給トラブルも深刻です。
こちらは一部ジェネリックメーカーでのトラブルが発端ですが、一か所で供給が乱れると、需要が代替品に集中し、連鎖的に供給混乱が拡大していく様相は「サプライチェーン」の問題の側面もあります。

****“薬が足りない”医療崩壊にも…生産現場で一体何が****
現在、国内で価格が安いジェネリック医薬品が使われている割合は8割以上に達しています。ところが今、このジェネリック医薬品が足りないという悲痛な声が上がっています。薬局にかつてない危機感が広がっていました。医薬品の生産現場で一体、何が起きているのでしょうか。  

今、「日本の医療崩壊」にもなりかねない大きな問題が起こっています。(中略)その原因は調剤に必要な「ジェネリック医薬品」だといいます。  

(中略)ジェネリック医薬品とは特許期間が切れた後、同じ成分を使って別のメーカーなどが作った価格の安い医薬品です。医療費を抑えるために政府も推進して現在、約8割がジェネリック薬品を使用しています。  

ところが今年2月、福井県の製薬会社「小林化工」が異物混入による不祥事で業務停止処分。その後、国内最大手の日医工などでも相次いで不祥事が発覚しました。  

さらに、危惧する事態に発展…。日本薬剤師会・有澤賢二常務理事:「各医療機関や薬局等が品物が不足することで奪い合い…。在庫をたくさん抱えようとする行動が起きていて、そういったなかでも市場が混乱している」  

製薬会社の不祥事、その連鎖、そして買占め。新型コロナウイルスの影響で原料の輸入が追い付かない。そして、先月には大阪の物流倉庫での火災。  

(中略)そしてジェネリックの代用で新薬自体にも品不足状態に陥っているものがあるそうです。  

日本薬剤師会・有澤賢二常務理事:「各社それぞれ、今の品質管理体制であったり、製造管理体制を見直して、きちんと製造できる体制に人員教育を含めて設備の更新も含めて完全に回復するまでには、2年から3年はかかるだろう」【12月16日 テレ朝news】
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【日本でも起きている尿素水不足】
一時期、韓国での尿素水不足が話題になりました。(「尿素水」って初耳で、クリームなんかに入っている尿素のことだろうかと思い、なんでそんな大騒ぎするのだろう・・・美容大国・韓国のせいか・・・と訝しく感じたことも)

日本でも不足が問題になってきているようです。

****「尿素水」品薄 運送業者から物流への影響を懸念する声****
ディーゼル車の排ガスを浄化するために必要な「尿素水」が、中国の輸出規制の影響で品薄となり、物流などへの影響を懸念する声が出ています。

ネット上では通常の10倍前後の高値で転売されるケースも相次ぎ、フリマアプリ大手の「メルカリ」は利用者に冷静な対応を呼びかけています。経済産業省は、国内メーカーの増産で早ければ1月には品薄は改善に向かう見通しだとしています。

経済産業省などによりますと、「尿素水」はトラックなど大型のディーゼル車の排ガスを浄化する装置などで、有害物質の排出を抑えるために広く使用され、浄化装置が搭載された車両の多くは「尿素水」がないとエンジンがかけられない仕様になっているということです。

国内では原料となる尿素のおよそ半分を輸入でまかなっていますが、その多くを占める中国が今年10月から輸出前の検査を厳格化したため、入荷できない状況が続いているということです。

このため「尿素水」が品薄となり、一部の運送業者などは入手しにくい状況になっていて物流への影響を懸念する声も出ています。

また、ネット上では「尿素水」が通常の10倍前後の高値で転売されるケースも相次ぎ、フリマアプリ大手の「メルカリ」は21日、利用者に冷静な行動を取るようホームページで呼びかけました。(中略)
尿素を中国から輸入している商社からは戸惑いの声が上がっています。東京 千代田区の貿易商社は中国から年間およそ1000トンの尿素を輸入し、国内の尿素水のメーカーに販売しているということです。

尿素の価格は夏ごろから上昇し、中国の国内で輸出前の検査が厳格化された影響で、この会社では11月から全く輸入できない状況が続いているということです。(中略)

運送業者からは今後の影響 懸念する声も
「尿素水」が品薄になっている状況について一部の運送業者からは、今後の影響を懸念する声が出ています。

東京都トラック協会足立支部によりますと、支部には先月以降「尿素水を入手できないので協会を通じて購入できないか」などの問い合わせが10件程度寄せられているということです。

中には在庫があと1か月分しかなく、新たに購入できないと来月以降はトラックを動かせないと訴える会社もあるということです。

東京都トラック協会足立支部の鳥ノ海学副支部長は「車両台数の少ない中小企業はふだんの仕入れ先から入手できない状況で、ほかの仕入れ先から新規に購入することも難しく、よけいに手に入りづらくなっている。ライフラインを担う物流は止められないので、必死に『尿素水』を確保している状況だ」と話しています。(後略)【12月22日 NHK】
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原油・天然ガスの高値と同様に、脱炭素に向けた構造転換の過程でのトラブルという側面もあるようです。

****脱炭素・貿易摩擦、背景****
不足感が強まった主な原因は、原料となる尿素の生産大国である中国が、10月中旬から尿素の輸出を実質的に絞ったことだ。
 
中国は二酸化炭素の排出削減を目指して炭鉱を閉鎖する一方、貿易摩擦の影響で豪州からの石炭輸入が急減するなどして石炭が不足している。そのため、おおもとは石炭などから作られる尿素の生産が少なくなっているもようだ。

尿素水を扱う伊藤忠エネクスの信田(のぶた)政通・モーターソリューション部次長は、「中国製品は今、全く出ていない。日本でも多くの業者が安い中国製を使っていたので業界がパニックになっている」と指摘する。
 
日本では尿素の国内生産トップ・三井化学が、10月から定期修理で国内唯一の工場を1カ月ほど止めたことが重なった。2位の日産化学は11月以降、新規顧客の注文受け付けを停止し、既存顧客も従来の注文量に制限。市村大樹・基礎化学品営業部長は「フル生産で、これ以上は販売量を増やせない」。
 
三井化学の工場は修理を終え、今は高稼働だ。業界関係者には「品薄は徐々に落ち着くのでは」という期待もある。ただ、伊藤忠エネクスの信田氏は「中国の動きは不透明な面があり、最近の国際情勢をみると、逼迫は長期化する可能性もある」と警戒する。【12月18日 朝日】
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【自動車生産、ひいては日本経済前提への影響も】
日本経済を支える自動車生産でも。

****トヨタ、日本工場の稼働停止を延長 サプライチェーン危機の影響続く****
トヨタ自動車は13日、国内の一部工場の稼働停止期間を延長すると発表した。サプライチェーン問題が続いているためとしている。

同社は、新型コロナウイルスのパンデミックにより、東南アジアの部品工場で生産が不安定になっていると説明。高級車「レクサス」やスポーツタイプ多目的車(SUV)「ランドクルーザー」の生産に遅れが出ているとした。
生産に影響が出た台数は、今月1万4000台に上るという。

BBCへの電子メールでトヨタは、「新型ウイルスの再流行によって東南アジアのサプライヤーの出勤率が低くなっていることや、日本国内の厳しい物流状況」が、工場の稼働停止につながっていると述べた。(中略)

パンデミックによる生産の乱れに加え、日本では今年3月、自動車業界にとって最大規模の半導体メーカーであるルネサスエレクトロニクスの工場で火災が発生。同社は、注文処理の能力に「大きな影響」が及ぶ恐れがあると警告していた。

世界的なサプライチェーン危機は、日本の自動車業界だけでなく、経済にも大きな影響を与えている。(後略)
【12月14日 BBC】
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【今後必要とされる人権・環境問題への配慮】
サプライチェーンの川上や川下における、(新疆ウイグル自治区の問題のような)人権とか、あるいは環境への配慮も今後企業に求められます。

****半導体、人権…自動車・電機揺さぶるサプライチェーンパニック****
2022年は新型コロナウイルス禍で停滞したヒト・モノ・カネ・情報の移動が本格的に復活する。ただ、自動車や電機産業では資材不足やコスト高が依然、業績回復の重荷となる。ESG(環境・社会・企業統治)対応も含め、サプライチェーン(供給網)再強化が主力産業の共通課題となる。
 
コロナ禍3年目に突入する2022年、世界で消費の本格的な回復が見込まれる。だが、長い我慢の時期を耐えてきた企業の生産回復に水を差しかねない不安も残る。主力産業を襲うサプライチェーンの混乱だ。
 
21年、日本の基幹産業である自動車の業績回復の足かせとなった半導体不足。ルネサスエレクトロニクスや旭化成など国内大手の工場火災や、米国の生産地を襲った大寒波など、不幸なアクシデントが連続したことで、在庫が払底した。
 
だがそれは、自動車産業が直面した問題の表層にすぎない。半導体危機が示しているのは、世界の多くの企業が想定していた以上のスピードで、ものづくりや生活様式の「デジタル化」が急激に進んだという事実だろう。
 
(中略)「外交問題や金融危機、自然災害など様々な困難を乗り越えてきたが、『半導体』が巨大な自動車産業全体のボトルネックになるとは、コロナ禍の前には想像すらできなかった」(大手自動車部品幹部)との困惑が業界内から聞こえてくる。(中略)

そしてこの構図は、22年も大きくは変わらない。
(中略)仮に半導体危機が去ったとしても、世界で一斉増産が進めば、3万点に及ぶ自動車部品の、別の調達リスクが顕在化する恐れもある。
 
世界的な原材料価格や輸送用コンテナの不足や偏在による物流費の高騰にも、出口が見えない。
金属加工会社のトップは窮状を訴える。「コンテナ輸送費が、コロナ前の実に6~7倍で高止まりしている。(電子部品など)容積当たりの単価が高い製品を扱う企業との競争に勝てず、コンテナを確保することすら難しい」。
 
コロナ禍からの消費回復がもたらす世界的な混乱は、22年もサプライチェーンに重くのしかかることになりそうだ。

ESG対応の混乱も懸念
企業が対応を迫られる新たな課題も浮上している。サプライチェーン全体でのESG対応だ。
 
欧州連合(EU)など各国・地域が義務化に動いている「人権デューデリジェンス(人権DD)」がその代表格。人権DDとは、自社はもちろんのこと、調達先やさらにその先の現場で、ステークホルダー(利害関係者)に対する人権侵害のリスクを特定し、予防策を実施して、情報を開示する、一連の取り組みを指す。15年に制定された英国の現代奴隷法などが先駆けで、欧州各国を中心に法制化が進んでいる。(中略)
 
中国の新疆ウイグル自治区での強制労働問題や、紛争鉱物の使用や児童労働問題など、サプライチェーンの上流に潜む人権侵害リスクもきちんと把握し、調達先を選別するなどの対処をすることが、これまで以上に厳しく求められることになりそうだ。
 
環境分野でもサプライチェーンの情報開示を求める動きは加速する。企業に温暖化ガス排出量などの公表を求める気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、開示を要求する範囲の拡大に動いている。

自社の生産活動だけでなく、原材料の製造や製品の使用・廃棄といった段階での排出が多い企業は、「スコープ3」と呼ばれるサプライチェーンの川上や川下での排出量の開示も求められるようになる。上流や下流に位置する企業は、脱炭素に本腰を入れなければ、供給網の中で不利な立場に立たされる恐れがある。
 
コロナ禍で一時的に停滞した、ヒト・モノ・カネ・情報の移動が本格的に復活する22年。サプライチェーンの再強化が主力産業の共通課題となることは間違いない。【12月20日 吉岡 陽氏 日経ビジネス】
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地域的には、日本のサプライチェーンに大きな影響を持つベトナムでの感染拡大が懸念されています。
“日本企業に再び供給網混乱の現実味、ベトナムまた感染者急増”【12月22日 ロイター】

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