孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア 政府軍優位のもとで相変わらずの混戦模様 イラン対イスラエルの緊張が高まる懸念も

2018-04-30 22:44:02 | 中東情勢

(シリア・ダマスカス南部で、ヤルムークのパレスチナ難民キャンプに潜伏するIS戦闘員を標的にした政府軍の空爆を建物の屋上から見る人々(2018年4月28日撮影)【4月30日 AFP】)

反体制派拠点を潰す政府軍
IS支配崩壊後のシリアでは、従来からの政府軍と反体制派の争い、IS残存勢力に対するアメリカ・クルド勢力等の掃討に加え、北部トルコ国境付近ではクルド勢力とトルコの衝突、東部ではアメリカが支援するクルド勢力とロシアが支援する政府軍の対立、さらにはシリア各地で勢力を広げるイラン・ヒズボラに対するイスラエルの攻撃・・・と、各勢力・周辺国入り乱れての多彩な戦闘・対立が同時進行しており、それらは互いに関連しあってもいます。

これらの対立・衝突のうち、クルド人勢力とトルコの衝突については、アフリン地区をトルコが制圧した後、エルドアン大統領は「次はマンビジュだ」と、米軍が駐留するマンビジュ方面への戦線拡大を公言していましたが、さすがに、アメリカとの軍事的衝突ともなるマンビジュ侵攻は“今のところは”聞いていません。

政府軍と反体制派の戦いは、化学兵器使用がされたとして英米仏が政府軍基地をミサイル攻撃するという展開はあったものの、基本的には政府軍優位の状況は変わらず、首都ダマスカス近郊の東グータ地区を政府軍が制圧し、反体制派を残った最大拠点イドリブへと追いやっています。

政府軍は、ダマスカス南部・ヤルムークのパレスチナ難民キャンプに潜伏するIS戦闘員を標的とした連日の空爆によって、この地からも反体制派をイドリブへ追放することに成功しています。

*****空爆1週間、シリア政府がパレスチナ難民キャンプの避難認める****
シリア政府は、1週間にわたり空爆を続けていたダマスカス南部のパレスチナ難民キャンプ、ヤルムークからの避難を認めることで反体制派と合意した。シリア・アラブ通信が29日、報じた。
 
ヤルムーク難民キャンプの一部と周辺地区は、2015年からイスラム過激派組織「イスラム国」が掌握しており、シリアとイラクの大半で支配地域を失ったISにとって都市圏としては最大の牙城となっている。
 
シリア政府軍は首都南部からISを追放するため、1週間にわたってヤルムークへの空爆を続けていた。(中略)

SANA(国営シリア・アラブ通信)は、シリア北西部の反体制派支配地域への「テロリスト集団」の移送を30日に開始すると伝えたが、ISには言及しなかった。
 
これに先立ちシリア政府と反体制派は、同じくダマスカス南部のヤルダ、バビラ、ベイトサヘムの各地域でも、反体制派の戦闘員らの撤退で合意していた。SANAによると、反体制派の戦闘員らは家族を伴って同地を離れるか、武器を政府軍に引き渡して留まるかを選ぶことになるという。【4月30日 AFP】
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明確な反体制派戦闘員家族以外の住民でも、残ると政府軍によって反体制派協力者として拷問等をうけるとの恐怖からやむなくイドリブ等に移住する者も少なくないようです。

いずれ、反体制派が各地から集まるイドリブに対する政府軍による激しい制圧作戦が実行されるものと思われます。

東部では米ロ衝突の危険性も
一方、シリア東部のデリゾールではロシアを後ろ盾とする政府軍が、アメリカの支援を受けるクルド人勢力を攻撃し、意図的あるいは偶発的な米ロの衝突といった事態も懸念されています。

****政権軍、クルド勢力と交戦=シリア東部で攻勢****
シリア国営メディアによると、アサド政権軍は29日、東部デリゾール県でクルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)が支配していた複数の村を制圧した。

デリゾール県の大半はかつて過激派組織「イスラム国」(IS)が占領していた。その掃討作戦で米国の支援を受けたSDFと、ロシアが後ろ盾の政権軍が衝突するのは異例。軍事的緊張が高まる恐れがある。【4月29日 時事】 
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2月8日にも、この種の攻撃に対しアメリカが反撃し、結果、多数のロシア人民間軍事会社戦闘員が死傷した件は、4月17日ブログ“ロシア 政府の陰の組織として活用される民間軍事会社を調査していたジャーナリストが転落死”でも取り上げたところです。

今回もアメリカ等の有志連合は反撃の空爆を実施し、政府軍か制圧した地域を奪還したようです。
こうした軍事行動は、常に米ロの衝突という危険性をはらんでいます。

****シリア情勢(デリゾル等****
・・・・29日にはシリア東部のデリゾル近辺で、政府軍とシリア民主軍との激し戦闘が行われ、米軍機等有志連合が介入したし、また仏がエジプトに対してシリアへの派兵を要請したかどうかの議論も起きており、シリア情勢は国際化し、混迷の度を深めている気がします。
取り敢えずのところ

・al arabiya net は、29日政府軍と同盟の民兵はデリゾル近辺でユーフラティス川の東岸のシリア民主軍(YPG主体)を奇襲攻撃し、6つの村落を奪取したと報じています・

・この事件に関し、al qods al arabi net は、その後米軍機等有志連合空軍が政府軍等を激しく空爆し、シリア民主軍との間で激しい戦闘があり、その結果政府軍等は占領地から追い出され、シリア民主軍がこれらの地域を奪還したと報じています

またシリア民主軍は、戦闘地域に大量の増派部隊を送り込んだ由

・他方具体的な時期は不明だが、ロシア機はデリゾルの東のISの家族や女性のキャンプ地を攻撃し、女性4名が死亡し、複数が負傷したよし。死亡した女性の中にはモロッコ人IS幹部の妻の仏人が含まれている由

(具体的に上記戦闘のあった地域と、このIS家族キャンプ地の位置関係は不明だが、おそらくかなり狭い地域で米、ロシア機が活動しているとすれば、偶発事故を避けるために非常に密接な連絡があるのではないでしょうか)(後略)【4月30日 「中東の窓」】
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シリア国内のイラン拠点を攻撃するイスラエル
更に、中部ハマでは、イランを標的としたイスラエルの攻撃とも推測されるミサイル攻撃があったようです。

****シリア、ミサイル攻撃受け親政府派勢力26人死亡 NGO****
シリア中部ハマ県で29日深夜、政府軍基地にミサイルが撃ち込まれ、一晩で親政府派勢力のイラン人戦闘員ら26人が死亡した。在英NGO「シリア人権監視団」が30日、明らかにした。
 
シリア人権監視団によれば、戦闘員らはハマ県にある第47部隊の基地に対するミサイル攻撃によって死亡した。攻撃を仕掛けたのは「恐らく」イスラエルとみられるという。
 
国営シリア・アラブ通信は夜間に、ハマおよびアレッポ両県にある政府軍基地が「敵側のミサイル」による攻撃を受けたと報じていたが、死傷者の有無や、攻撃主体の国については明言していなかった。
 
シリア政府と同盟国のイランは、今月9日にイスラエル軍がシリア中部にある軍事基地を空爆したと非難しており、緊張が高まっていた。【4月30日 AFP】
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イスラエルはかねて、イランからの武器搬入を警戒していました。

****イランからシリアへ貨物機、武器搬入か 米・イスラエルが警戒****
米情報当局が最近、イランとシリアの間で確認された複数の貨物便に注目しているとの情報をCNNが入手した。シリアでアサド政権軍やイラン軍部隊が使うための武器を運んでいた可能性があるとして、米国とイスラエルが懸念を示している。

航空機追跡サイトによると、イランとシリアの間では今週、シリア空軍の貨物機が少なくとも2回飛んだ記録がある。米当局はこのほかにも、イランの貨物機少なくとも1機の飛行などを確認したという。

シリアへ武器が運び込まれるのは珍しいことではない。しかし一連の貨物機は米国が今月13日、アサド政権軍の施設を空爆した後で発着したために、米当局の注意を引いたとみられる。

また、イランとイスラエルの間ではこの数週間、シリア領内でのイランの活動をめぐって激しい非難の応酬が続いている。イランがアサド政権を支援する一方で、イスラエルは敵対国のイランがシリアに拠点を設け、自国を脅かしていると主張してきた。

イスラエルは今月、シリア中部ホムスでイラン軍が対空ミサイルや無人機の基地として使っていたとされる施設などを空爆。イラン側はこれを非難し、報復を予告している。

イスラエルは2月にも、シリア軍に戦闘機を撃墜され、イラン軍の無人機に領空を侵犯されたとして、シリアにあるイラン関連とされる施設などに報復攻撃を仕掛けていた。

米当局は、新たにシリアへ運ばれた武器の中に、イスラエル機の撃墜に使われたような対空ミサイルが含まれている可能性もあると懸念している。【4月25日 CNN】
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いつもどおり、軍事行動に関するイスラエル側からの発表はありません。

5月半ばにはロシア主導の和解協議も それより核合意破棄等による緊張の高まりの懸念が
IS後のシリアでは、上記のような各勢力・関係国入り乱れての乱戦模様で、ぐつぐつ煮立った鍋のようでもあります。いつ、ふたが吹き飛ぶのか・・・。

トルコは、おいそれとは米軍駐留地域には手をださないでしょうし、米ロの衝突も両国とも極力回避しようとするでしょう。(ただ、偶発的衝突の危険性はあります)

イラン対イスラエルの方は、5月にトランプ大統領のイラン核合意廃棄ということになれば、一段とヒートアップする可能性があります。

アサド政権を支援してシリアでの優位な地位を手にしたロシア・プーチン大統領も、これ以上の混乱拡大でシリアの泥沼に引きずり込まれるのは避けたいところでしょう。

5月半ばにはロシア主導の和解協議が再開されるようです。
ロシア・イラン・トルコの三か国大統領は4月4日にトルコ・アンカラで会談を行っています。

****ロシアなど3国仲介のシリア和解協議、5月半ばに再開へ****
ロシアとトルコ、イランの3カ国外相が28日、シリア内戦をめぐってモスクワで会談し、3国の仲介でカザフスタン・アスタナで続くアサド政権と反体制派の和平協議の次の会合を5月半ばに開くことを決めた。英米仏によるシリア攻撃後初めて。

欧米はアサド政権による化学兵器使用疑惑を受け、和平協議と距離をおく姿勢を強めるが、3カ国の外相は「事実上唯一話し合いが進むプロセスだ」と意義を強調した。
 
3カ国の外相は会談後の記者会見で、会合に向けて捕虜の解放や行方不明者の捜索をめぐる作業グループを立ちあげることを明らかにした。
 
ロシアのラブロフ外相は、アスタナでの和平協議の目的は(1)緊張緩和地帯の維持(2)人道支援(3)政治対話――などにあると協調。「協議を批判する人々には別の目的がある。世界のすべてのことを自分たちが決めているかのように見せかける目的だ」と話し、米国などを批判した。
 
米英仏は今月14日、アサド政権が首都ダマスカス近郊の東グータ地区ドゥーマで化学兵器を使用したとして、シリア国内の3地点をミサイル攻撃。同政権を支援するロシアやイランを強く非難した。

これにロシア、イランは強く反発した一方、米英仏と同じ北大西洋条約機構(NATO)加盟国のトルコは「適切な対応だった」としている。【4月29日 朝日】
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現状では、この協議で和解が進むことは期待できません。
5月半ばという時期は、アメリカ・トランプ大統領のイラン核合意に対する判断が示される時期でもあり、そちらの影響の方が懸念されます。

また、5月14日には、在イスラエル大使館のエルサレム移転に合わせ、トランプ大統領が同地を訪問する可能性も、メルケル首相との共同記者会見で言及されています。

5月半ばには、核合意破棄、アメリカ在イスラエル大使館のエルサレム移転ということで、火種には事欠かないシリア・中東情勢の緊張が一段と高まることも予想されます。
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女性の権利保護という現代世界の大きな流れ

2018-04-29 22:24:41 | 女性問題

(スペイン北部パンプローナで、18歳女性を集団レイプした男らに強姦罪が適用されなかったことに抗議するデモに参加する人たち(2018年4月28日撮影)。【4月29日 AFP】)

性的暴力厳罰化を求める動き
“第三代台湾総督で「軍神」と呼ばれた乃木希典の母親・寿子は、息子と共に台湾へおもむく際に「台湾の女子は幼いころから纏足を強いられていると聞く。わたしは、その足を自由にしてあげたいのです」と語り、明治天皇を感激させたとの逸話が残っている。”【4月17日 WEDGE】

乃木希典が母と妻を携えて台湾に渡ってから、およそ120年の歳月が流れ、周知のように今の台湾は女性総統だけでなく、官房長官にあたる総統府秘書長に南部の高雄市長を務める陳菊氏(67)を起用する発表があり、総統府の「ツートップ」である総統と秘書長が共に女性となっています。

一方、日本では相撲協会が「女人禁制」で揺れ、福田淳一財務次官のセクハラ問題が国政上の大きな問題ともなっています。

女性を“穢れ”とみなすところから生まれた“伝統”なら、それは“伝統”ではなく“悪弊”と呼ぶべきもので、早急な見直しが必要と、個人的には考えています。

日本が世界第114位の“ジェンダー後進国”であることは4月19日ブログ「注目される“保守的”日本のセクハラ騒動 インドの性暴力 フランスのレイプ実態 スウェーデンでは・・・」でも取り上げましたが、同時に、世界各地で女性への性暴力など、女性の権利保護が未だ不十分な状況であることも併せてとりあげました。

そうした状況にあって、女性の権利保護をもっと進めていこうという動きが、現代世界の大きな流れともなっています。

****集団レイプ、強姦ではなく性的虐待で有罪 各地で抗議デモ スペイン****
スペインで、裁判所が26日に同国北部パンプローナで2年前に開かれた牛追い祭り「サン・フェルミン祭」で18歳の女性を集団レイプした5人の男に対し、強姦(ごうかん)罪ではなく性的虐待の罪で禁錮9年を言い渡したことから、各地で同日から2日間にわたって大規模な抗議デモが行われている。
 
27歳から29歳までの男5人は2016年7月7日、サン・フェルミン祭初日にパンプローナのアパートの入り口で、当時18歳だった女性を集団レイプした罪に問われていた。(中略)

男たちは女性の携帯電話を盗み、女性をその場に放置した。男たちは事件の様子を自分たちのスマートフォンで撮影し、その後、メッセージサービスの「ワッツアップ」で自分たちを「La Manada(「一味、群れ」の意)」と名乗り、犯行について自慢するなどしていたという。
 
裁判所は被告の男5人に対し、本件では「暴力や脅迫」は認められなかったと判断し、強姦罪を含めた性的暴行の罪に関しては無罪とし、さらに、被害者の女性は同意したわけではないが拒絶する意思表示もしなかったとの裁定を下した。
 
セクハラ告発運動「#MeToo(私も)」が世界的に広がる中、今回の判決に対して激しい怒りの声が上がり、判決が言い渡されたパンプローナ裁判所の外では27日、デモに集まった人々が「性的虐待ではない、レイプだ!」と叫んだり、「(ここは)不正の館」と書かれた横断幕を掲げたりした。

女性の人権団体によれば、同市内では28日にも抗議デモが予定されている。デモは他にも、バルセロナやマドリード、さらには男たちの出身地セビリアなどでも行われている。
 
スペイン政府は27日、性犯罪関連法の改正について検討する考えを発表した。【4月28日 AFP】
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抗議デモは三日目の28日も続いており、“警察当局によると、パンプローナだけでも28日に女性を中心とする3万2000〜3万5000人が「性的虐待ではない、レイプだ!」をスローガンとする抗議デモに参加した。デモ行進は平和裏に行われたという。このほか、5人に性的虐待での判決を下した判事らの罷免を求めるオンライン署名は、28日までに120万の署名を集めた。”【4月29日 AFP】

4月19日ブログでも取り上げたインドの“8歳少女のレイプ殺人”も、世論の激しい怒りが政治を動かすことにもなっています。

****インド8歳少女のレイプ殺人で、少女への性的暴行を死刑に****
<少女を狙った残虐な事件が相次ぎ世論の怒りは高まっているが、レイプが減る気配はない>

4月21日、インド政府は閣議で12歳未満の女児への性的暴行罪に死刑を適用することを認める政令を承認した。背景には、相次ぐ性的暴行事件に対する世論の激しい怒りがある。

ロイター通信によれば、今回の政令はナレンドラ・モディ首相が招集した緊急閣議で決められた。16歳以下の少女への性的暴行の厳罰化という刑法の修正条項も含まれている。

インドでは8歳の少女が性的暴行された末に殺されるという残虐な事件が起き、社会に衝撃を与えたばかり。

ワシントン・ポストが当局者の話として伝えたところでは、被害者は自分のスカーフで縛られ、男たちに繰り返し暴行されたあげく、頭蓋骨を石で打ち割られていたという。この事件はインドで深刻になりつつある宗教的・民族的分断をも浮き彫りにした。被害者の少女はイスラム教徒で、容疑者の男たちはヒンズー教徒だったのだ。

与党の政治家が関与したとされる事件も
またワシントン・ポストによれば、モディ首相の与党インド人民党(BJP)の政治家も未成年者に対する性的暴行で逮捕・起訴された。これに対してインド全土で抗議運動が起き、モディが女性を守るために十分な対策を採っていないとの批判が多くの人々から上がった。怒りの声は同じ与党内部からも聞かれた。

「BJPはこうした犯罪者たちの弁護役ばかり務めてきた。まったく許されることではない」と、ヤシュワント・シンハ元財務相は同紙に述べた。

国民からの激しい突き上げを受けてモディは「幼い少女への性的暴行というのは本当に胸が締めつけられる事件だ。これほどひどい道の踏み外し方はないと思う。性的暴行は性的暴行だ。娘に対するこんな不正義を許しておくことがどうしてできるだろう」と述べた。

こうした事件から思い出されるのが、12年にデリーのバスの車内で、理学療法を学んでいた23歳の女子学生が6人の男に輪姦された痛ましい事件だ。

世論の怒りにもかかわらず、インドの性的暴行事件が減る気配はない。16年の発生件数は4万件を超え、被害者の40%は子供だったとロイターは伝えている。

地元紙タイムズ・オブ・インディアによれば、政令は承認を得るためラム・ナト・コビンド大統領のもとに送られる。【4月23日 Newsweek】
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もっとも、女性への性暴力がなくならないだけでなく、上記“8歳少女のレイプ殺人”の結末もインド社会の深刻な問題を明らかにしています。

****ヒンズー教徒による8歳女児の集団レイプ殺人、イスラム教徒が離村 印*****
インド北部ジャム・カシミール州で今年1月、8歳になるイスラム教徒の少女がヒンズー教徒の男らに集団レイプされた末に殺害された事件以降、少女の家族が住んでいた村ラサナではイスラム教徒が一切いなくなってしまった。
 
現地警察によると、少女はバカルワルと呼ばれるイスラム教徒の遊牧民出身で、村の多数派を占めるヒンズー教徒たちの一部が、夏季には丘陵地帯で放牧を行うバカルワルの人々を追い出すべく、少女をレイプし殺害したという。
 
その企ては目論み通りになったようにみえる。事件後、少女の家族は警察の保護の下で村から丘陵地帯へ移動し、また他のイスラム教徒およそ100人全員が村を離れた。
 
犠牲となった少女の家族が暮らした家は空き家となり、武装した警官5人が警備に当たっていたものの、その半数は外で椅子に座り眠っていた。
 
警察によると少女はヒンズー教の寺院に5日間監禁され、繰り返しレイプされた末に撲殺された。
 
ジャム・カシミール州はインドで唯一イスラム教徒が多数派を占める州だが、事件が起きた南部ジャム県はヒンズー教徒が多数を占める。ただ当局の文書によると、ラサナではヒンズー教徒とイスラム教徒はしばしば、お互いについて警察に訴え出ることはあったものの、事件までは比較的平和に共存していたという。
 
少女の家族にお金を寄付しようとパンジャブ州からやって来たイスラム教徒グループの男性は、事件がナレンドラ・モディ首相率いるヒンズー至上主義の政権があおったイスラム教徒に対する敵意を反映していると非難。
 
ただ一方で、「インドでは今、この事件を機に考え方が変わりつつある。みんなが病的な考え方に立ち向かっている」と語った。【4月24日 AFP】
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“この事件を機に考え方が変わりつつある”・・・・そうであることを願います。

ウガンダや中国でも女性への暴力・差別が問題視
一方、アフリカの多くの国々では、女性への性暴力はおろか、住民の生命さえいともたやすく奪われるような現実がありますが、そんなアフリカにも多少は女性権利保護の波は及んでいるようです。

****妻は殴れ」発言のウガンダ議員、抗議殺到で謝罪****
アフリカ東部ウガンダで、男性たちに妻を殴って「しつける」よう勧める発言を行った議員に抗議が殺到し、同議員は14日、謝罪に追い込まれた。
 
オネスマス・トゥイナマシコ議員は議会への書簡で、本心では「女性に対するあらゆる形態の暴力を憎んでいる」とし、「議員各位、世間一般の皆様、とりわけ女性の方々に私の心からの率直な謝罪を受け入れてほしい」と陳謝した。
 
トゥイナマシコ議員は8日の「国際女性デー」の翌日、地元テレビ局NTVのインタビューで「男たるもの、妻をしつけなければならない。本気で妻をしっかりさせたければ妻に触れ、組み合い、何なら殴る必要だってある」と発言し、女性たちの怒りを買った。
 
ただ、このような考えはウガンダでは珍しくない。政府が2016年に発表した報告書によると、同国の14〜49歳の女性の5人に1人が過去1年以内に身体的、または性的な暴力を受けたと明かしたという。【3月15日 AFP】
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もっとも、ウガンダでは2013年に同性愛行為に対して最高刑で終身刑を科すと定めた「反同性愛法案」が成立し、人権保護の面では国際的にいつもやり玉にあがる国のひとつです。

人権保護とは縁遠い中国にあっても、大手企業が求人広告などにおける女性差別を国際人権団体から批判され、謝罪する事態に。

****女神」募集・・・・中国アリババなど性差別的な求人広告を謝罪**** 
アリババやテンセントなど中国の大手IT企業数社が、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が23日公開した報告書を受け、求人広告に含まれる性差別について謝罪し、問題に対処することを約束した。(中略)

中国のIT大手や政府機関は「男性限定」の求人広告を出す一方、他の広告では女性の応募者に「整って」おり「見た目がよい」ことを求めていた。

電子商取引大手のアリババは今後「より厳格な審査を実施する」とし、ネット大手のテンセントは謝罪した。

アリババは魅力的な女性従業員を雇用するキャンペーンで、ソーシャルメディア上で求める人員の表現に「アリ・ビューティーズ」(アリババの美人の意)や「女神」といった言葉を繰り返し使ったと非難された。

中国で最も一般的なメッセンジャーアプリWeChatを運営するテンセントや同じくネット大手のバイドゥ、中国最大の通信会社ファーウェイなど他の大手企業も、女性従業員の美しさについて広告を出したことで責任を問われた。

HRWは広告が、女性は男性よりも能力が低いとか、家族介護者など中国女性に関する型にはまった役割からくる女性は自らの仕事に全力を傾けないだろうといった「伝統的かつ深く差別的な視点」を反映したものだと指摘した。

アリババの広報担当者は23日、BBCに対し「雇用だけではなく、指導的役割に女性を就かせてきた我々の実績は、自社を物語っている」と語った。

同社は創業者と管理職の3分の1が女性だとの事実を示したものの、「性別に関係なく平等な機会」を提供するという「ポリシーの遵守」の保証を今後より徹底するとも述べた。

テンセントはBBCに、報告書で強調された取り組みは「我々の価値観を反映していない」と話した。
同社の広報担当者は「広告が生まれたことを申し訳なく思う。再びこのようなことが起こらないよう迅速な対応を取る」とした。

CNNによるとバイドゥの広報担当者は「女性従業員が組織全体で果たしている重要な業務を評価しており、我々の求人広告がバイドゥの価値観に沿わなかったというこの事例を深く後悔している」と述べたという。
CNNはまた、バイドゥがHRW報告書の発表前に問題の求人広告を確認し削除したとも報じた。

スマートフォン製造の世界的大手、ファーウェイは、疑惑について再検討し、同社の求人資料が「性平等性に完全に配慮」されることを確実にするよう取り組むと語った。

「男性のみ応募可能――中国の求人広告における性差別」と題された報告書は、公的機関の雇用慣行にも焦点を当てた。

HRWのソフィー・リチャードソン中国部長は、「中国で2018年に出された国家公務員を募る求人広告の5分の1が、『男性限定』または『男性が好ましい』としていた」と話す。

「中国当局は、女性を明白に差別している政府機関や私企業による雇用慣行を終わらせるため、既存の法律をただちに執行する必要がある」

99ページにわたる報告書は、2013年から2018年の間に中国の求人サイトおよび企業サイト、そしてソーシャルメディア上に出された3万6000件以上の求人広告を分析した。【4月24日 BBC】
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まあ、問題となった大手企業は外国でも活動をしていることから、こうした批判が事業への悪影響を招くことを警戒して謝罪等を行っているのでしょう。中国国内だけに限れば、そうした問題意識も共有されてはいないのでは。

反作用として、伝統回帰を重視する動きも
女性の権利保護を進める動きが世界で大きな流れに・・・とは言いつつも、何事においても、作用があれば反作用もあります。

カトリックなどの宗教右派には、こうした流れを伝統破壊とみなす考えも根強く、巻き返しの動きも。

****クロアチア首都で大規模デモ、女性への暴力防止条約の批准に反対****
クロアチアの首都ザグレブで24日、女性に対する暴力防止を目指す「イスタンブール条約」の批准に反対するデモが行われ、報道機関の推計で最大1万人が参加した。
 
イスタンブール条約は配偶者による性的暴行から女性器切除まで女性へのさまざまな暴力行為の防止を図る法的拘束力のある取り決めとしては世界初のもの。欧州評議会が策定し、これまでに欧州連合加盟17か国を含む28か国が批准した。

クロアチアでは22日にアンドレイ・プレンコビッチ首相が率いる連立政権が議会に批准を求めていた。
 
この条約をめぐりクロアチアの世論は割れている。カトリック教会が支援する保守派は、中道右派の与党「民主同盟」の強硬派とともに批准反対を表明。

女性の保護を装って伝統的な家族を台無しにする「ジェンダーのイデオロギー」を奨励しているなどと主張している。

批准反対の立場を取るカトリック教会はここ数週間、聖職者がミサの後に抗議するなど激しい活動を展開していた。
 
2013年に最も新しいEU加盟国となったクロアチアは人口約420万人の90%近くをカトリック教徒が占めており、教会が社会で大きな役割を果たしている。【3月25日 AFP】
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日本でも“サザエさん一家”に見られるような“伝統的家族観”は根強く、未婚化や少子化を若者の価値観の変化や共働きの弊害だとして“伝統的家族観”への回帰を唱える人々も少なくないようです。

伝統回帰で今後の少子高齢化を乗り切れるのか・・・という問題もありますが、何よりも、そこに生きる人々が幸せになれるのか?という問題でしょう。
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台湾  軍事的圧力を強める中国

2018-04-28 22:42:31 | 東アジア

(中国海軍のソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦(上)、056型コルベット(下)【4月9日 Newsweek】 
南京軍区副司令員、王洪光中将によると、中国軍は6種の戦い方(火力戦、目標戦、立体戦、情報戦、特殊戦、心理戦)を駆使することにより、台湾を3日で占領してしまうことができるとのこと。

地上軍を使わずとも、短距離弾道ミサイルを800〜1000発、長距離巡航ミサイルを1000発以上、それらに加えてミサイル爆撃機や駆逐艦、それに潜水艦などから発射する対地攻撃用ミサイルも数百発保有しており、各種ミサイル集中連射攻撃による「短期激烈戦争」で、3日といわず半日で台湾の軍事拠点や戦略拠点を徹底的に破壊することも可能とみられているとか。

さらに言えば、そうした軍事力を実際に使わずとも、現実の脅威と思わせることができれば「戦わずして勝つ」ことも。【4月5日 BIGLOBEニュースより】)

実弾射撃訓練、空母「遼寧」を台湾東側に
朝鮮半島で(どういう結果になるかは別にして)融和ムードが高まる一方で、もうひとつの分断国家を分かつ台湾海峡周辺では、大規模演習行うなど中国側の圧力が強まっています。実弾射撃訓練も行ったとか。

****演習常態化でプレゼンス強化 中国、米の“空白”突き台湾威圧****
中国軍は今月に入り、近海で演習を相次いで実施し、3日連続で爆撃機を台湾周辺に飛行させるなど軍事行動を活発化させている。

強国」「強軍」路線を掲げる習近平指導部が、「一つの中国」原則を認めない台湾の蔡英文政権を軍事的に威圧すると同時に、南シナ海などアジアにおける軍事戦略がいまだに定まらないトランプ米政権の“空白”を利用して周辺海域での軍事プレゼンス拡大を図っている側面もありそうだ。
 
中国国防省によると、陸軍航空隊所属の攻撃ヘリ部隊が18日、昼夜にわたる実弾射撃訓練を実施。海上の模擬艦船などの目標に対してミサイルやロケット弾による攻撃を行った。場所は「東南沿海」としか言及していないが、台湾海峡での実施を公表していた演習の一部とみられる。
 
さらに同省は19日、空軍の轟(H)6K爆撃機やスホイ30戦闘機、偵察機が宮古海峡を通過するなどして台湾の周囲を飛行する訓練を2日間にわたって実施したことを明らかにした。防衛省統合幕僚監部によると、中国の爆撃機2機は20日も同様の飛行を行った。
 
いずれも蔡政権へのあからさまな圧力だが、台湾に接近するトランプ米政権への対応を“口実”に、軍事行動を拡大させている面もある。

中国当局は特に強硬派のボルトン米大統領補佐官が訪台する動きを牽制しており、徐光裕退役少将は「もし米国が過ちを犯し続けるのであれば、さらなる軍事演習につながる可能性は否定できない」と環球時報(英語版)に語った。

羅援・中国戦略文化促進会副会長も同紙に「演習は武力統一への準備だ」と寄稿し、軍事演習や飛行訓練の「常態化」を求めた。(後略)【4月20日 産経】
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台湾側は、中国は小規模な定例訓練を過大に宣伝し、台湾を動揺させる心理戦をしかけていると、国民が動揺しないように呼び掛けています。

****台湾・蔡政権、24時間態勢の警戒強調 中国の心理・世論戦に対応腐心****
台湾の蔡英文政権は、中国が軍事的な「心理戦」と「世論戦」で圧力を強めていることで対応に腐心している。国防部(国防省に相当)は20日、中国が18日の「実弾演習」から3日連続で爆撃機を台湾周辺に飛行させたことを受け、24時間態勢の「領空侵犯対処」を強調する動画を公開。外遊中の蔡総統も中国側の「情報操作」を「簡単に信じないで」と呼びかけた。
 
中国は18〜20日、空軍の轟(H)6K爆撃機2機などを宮古海峡から西太平洋、バシー海峡を経て台湾を「周回」する経路で飛行させた。

台湾紙は、19日には台湾南東の防空識別圏(ADIZ)に2時間にわたり進入し再三の警告を無視したと報じたが、国防部は確認を避けた。

国防部は、中国国営中央テレビが報じた、陸軍の攻撃ヘリが18日に実施した海上射撃訓練とする映像も「新旧の映像を編集した可能性がある」(報道官)としている。(後略)【4月20日 産経】
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一方、中国は、台湾の防御が比較的手薄な南東側に空母「遼寧」を中心とする「空母編隊」を送り込んで台湾を牽制する動きも見せています。

****中国空母「遼寧」が台湾南東沖で対抗演習 国防省発表****
中国国防省は21日、空母「遼寧」を中心とする「空母編隊」がバシー海峡以東の西太平洋で対抗演習を20日に実施したと発表した。空母打撃群の本格的な運用に向けた演習とみられる。

演習では、艦載機の殲(J)15による発着艦訓練を太平洋上で初めて実施した。演習海域は台湾の南東とみられ、台湾への脅威が一段と増した形だ。(中略)

遼寧が西太平洋に進出し、台湾の東側を航行するのは2回目だが、2016年12月に南下ルートで通った際には台湾を「高速で通り過ぎた」(台湾の元国防部長)とされる。
 
台湾の防衛体制は、西側の中国大陸方面に重点があり、山脈で隔てられた東部は、後方支援機能や緒戦での損害を避けるための「戦力保存基地」が置かれている。

特に南東部は防空体制が薄く、遼寧が東側に進出することは「背中から挟み撃ちに遭う」(台湾海軍少佐)ことを意味する。このため、17年1月には東部と南東部に地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を配置したことが判明している。
 
防衛省は21日夕、遼寧など7隻が宮古海峡を通過し東シナ海方向に北上したと発表した。山東省青島の母港に帰港するとみられる。【4月22日 SankeiBiz】
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中国が苛立つアメリカの「台湾旅行法」、台湾行政院長の独立発言
中国側が圧力を強めている背景には、ひとつはアメリカ・トランプ政権の「台湾旅行法」による台湾接近があります。

****米高官、台湾を相次ぎ訪問 中国側は強く反発****
米国と台湾の高官の往来を促す米国の台湾旅行法が(3月)16日に成立して以降、米国の国務省や商務省の高官が台湾を相次いで訪れ、米台関係の強化をアピールしている。

貿易問題で中国への圧力を強めている米国が、台湾問題でも牽制(けんせい)しているとみられ、中国側は強く反発している。
 
米国務省で東アジアを担当するアレックス・ウォン次官補代理が20~22日に訪台。商務省の次官補代理も22日に訪れ、27日まで滞在する予定だ。ウォン氏は21日夜、台北で開かれた米系企業の集まりで、「民主主義を守る台湾の能力を強化していく。米国の関与はこれまでに無く強い」とあいさつし、同席した蔡英文(ツァイインウェン)総統と握手を交わした。
 
米国は1979年に中国と国交を結び、台湾と断交して以降、米台高官の相互訪問を自主規制してきた。16日にトランプ米大統領が署名した台湾旅行法は高官の相互訪問を促している。トランプ氏の訪台や蔡氏の訪米が可能となる内容で、中国側は即時に「断固反対」を表明した。
 
台湾外交部は法の成立当初、「台米関係を向上させる」と歓迎を表明したものの、蔡氏らの訪米の可能性に関心が集まると、「総統や副総統らが訪米するいかなる計画もない」と火消しの談話を19日に公表した。
 
台湾は中国の一部であるという「一つの中国」原則を主張する中国側はその後も反発を強めており、連動するように、中国海軍の空母遼寧が20~21日に台湾海峡を通過した。

中国外務省は22日、米高官の台湾訪問について、「台湾カードを切ろうとする者は、中国の領土分割を絶対に認めないという習近平(シーチンピン)国家主席の講話を読み込むべきだ」と警告した。【3月24日 朝日】
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「台湾旅行法」に加え、アメリカ政府は、台湾の潜水艦自主建造計画に米企業の参加を許可したことで、米台の安全保障関係の強化をアピールする姿勢も見せています。

台湾にとってアメリカとの関係強化は歓迎すべきものですが、野党を中心に、中国からの圧力強化やトランプ政権が台湾を対中交渉のカードとするのではないかとの懸念もくすぶっています。

台湾がトランプ大統領によって対中国“貿易戦争”の「カード」として利用されるという懸念は、もっともな心配でしょう。また、蔡総統らの訪米など“過度の期待”が高まるのも避けたい様子です。

中国を苛立たせているもうひとつの要因は、台湾の頼清徳(ウィリアム・ライ)行政院長(首相に相当)の“独立発言”です。

****台湾行政院長の独立発言、中台で非難の応酬****
台湾の頼清徳(ウィリアム・ライ)行政院長(首相)が議会で台湾の独立に言及したことを巡り、中国と台湾で非難の応酬が続いている。

中国共産党機関紙「人民日報」傘下の新聞は中国は頼氏に国際逮捕状を発行すべきと主張、台湾側は中国政府が国内メディアに台湾批判をあおっていると反論した。

中国は台湾を自国の領土とみなしており、台湾の総統に独立派・民主進歩党の蔡英文氏が選出されて以来、独立機運への警戒を強めている。

頼院長は30日、議会で、自身が台湾独立派だと述べ、台湾は主権を持つ独立国家との考えを示した。

これを受け、人民日報傘下の有力国際情報紙である環球時報は31日、頼氏は中国の反国家分裂法に基づいて起訴されるべきと主張。「頼氏の犯罪の証拠が確固たるものならば、国際逮捕状の発行が可能だ」とした。

中国国務院の台湾事務弁公室は2日、頼氏の発言は中台関係の平和と安定を損なうもので「危険でおこがましい」と非難した上で、台湾は中国から切り離されないとの見解を示した。

台湾で対中問題を扱う大陸委員会は3日、環球時報と中国政府の見解は「脅迫的で理不尽だ」と反論。「台湾は民主主義に基づく多元的社会だ」とし、頼氏は台中関係の平和と安定を維持するという総統の政策に従っていると擁護した。

委員会はまた、「中国が繰り返し、台湾当局と台湾人を脅迫、抑圧するためにメディアやインターネットを利用してきたと」し、「軍事力や法的な脅しによって台湾の尊厳と利益を侵害しようとしている」と主張した。【4月3日 ロイター】
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中国「台湾の独立勢力が引き続きやりたい放題やればわれわれはさらなる行動を取る」】
中国側は、上述のような軍事的圧力の以外にもいろいろと。

****中国駐米大使「台湾の平和統一がうまくいかねば、武力統一も辞さず****
中国メディアの環球網によると、中国の崔天凱駐米大使はこのほど、中国中央電視台(中国中央テレビ)の英語国際チャンネル、CGTNの番組に出演して、中国による台湾の武力統一を肯定する発言をした。 (後略)【4月6日 レコードチャイナ】
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****<台湾>WHO総会、今年も招請されず 中国が圧力か****
5月21日からスイスで始まる世界保健機関(WHO)総会への招請状が昨年に続き今年も台湾に届いていない。台湾は中国がWHO事務局に圧力をかけているとみて、国交がある国や友好国に対し、台湾の参加をWHO事務局に働き掛けるよう求めている。(後略)【4月23日 毎日】
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今後は、台湾側の対応しだいでは軍事的な圧力をさらに強める考えも示しています。

****台湾がやりたい放題ならさらなる行動」中国 独立志向に反発****
中国政府は、台湾周辺の海域で活発化させている中国軍の演習について「台湾の独立勢力がやりたい放題やればさらなる行動をとる」として、台湾の蔡英文政権の対応しだいでは軍事的な圧力をさらに強める考えを示しました。

中国は、台湾の蔡英文政権を「1つの中国」の原則を受け入れず独立志向が高いと見なし、批判を続けています。
台湾の首相にあたる頼清徳行政院長が「台湾は独立主権国家だ」などと繰り返し発言していることにも中国は激しく反発しています。

今月、中国軍は台湾海峡とみられる海域で実弾射撃演習を行ったほか、台湾の東の西太平洋の海域で初めて空母や艦載機が訓練を行うなど圧力をかけています。

これについて、中国政府で台湾問題を担当する国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官は25日の記者会見で「台湾の独立勢力が引き続きやりたい放題やればわれわれはさらなる行動を取る」と述べ、台湾側の対応しだいでは軍事的な圧力をさらに強める考えを示しました。

また、このところ台湾と関係を深め、閣僚の相互訪問を促進する法律を成立させたアメリカについて「台湾問題は中国の内政で外部の勢力が介入して干渉することに断固として反対する」と述べ、改めてけん制しました。【4月25日 NHK】
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“やりたい放題”なのは中国の方に見えるのですが、立場が違うと上記のような話にもなるようです。

台湾世論:中国による台湾侵攻の可能性は「ない」が、戦争になれば勝てない 独立より現状維持を
軍事的圧力を強める中国に関し、台湾の与党寄りの自由時報は、一連の中国側の言動は実体のない情報操作も含めて世論に影響を及ぼす「シャープパワーの新事例だ」(20日付)と指摘、一方、中国寄りの中国時報は「(台湾への)警告の雰囲気がさらに強まった」(25日付)とするなど、評価は両極化しています。【4月26日 産経より】

台湾世論は、あまり大きくは反応せず“様子見”の状況です。

****台湾の世論調査、6割強が中国による侵攻「あり得ない****
2018年4月27日、台湾周辺の海域や空域で中国軍の動きが活発化している。一連の軍事活動について、中国側は独立志向の蔡英文政権に明確なメッセージを送るため、と警告。それでも台湾の世論調査では中国による台湾侵攻の可能性は「ない」と考える人が6割強に上っていることが分かった。(中略)

台湾メディアによると、民間団体の台湾民意教育基金会が23日に発表した最新の世論調査の結果で、中国による台湾侵攻の可能性は「ない」と考える人は64.5%。「ある」と答えた人の割合を大きく上回った。調査は今月15〜17日、台湾に住む20歳以上の男女を対象に電話で実施。有効回答件数は1072件だった。

台湾側が中国軍に打ち勝つ見込みは「ない」とした人は65.4%。中国が台湾を攻めてきた場合、米軍が台湾を助けるために「出動する」と思う人は47.4%で、「出動しない」と思う人は41.0%だった。

18日の台湾海峡での実弾射撃演習については、両岸関係の改善に「寄与しない」と答えた人は86.1%に達した。

台湾の現在の国際的地位に関して、「不満」だとした人は69.9%。「両岸関係は外交関係より重要であり、中国側を刺激しないよう、国際的地位の向上に向けた努力をやめるべきだ」とする項目に「反対」と答えた人は65.6%に達し、「賛成」の人は23.5%にとどまった。(後略)【4月28日 レコードチャイナ】
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****緊張のなか台湾が軍事演習──中国が攻めてきたら7割が「戦う****
・・・台湾民主基金会が2018年1月に行った世論調査によると、中国が侵攻してきた場合、軍隊に志願するか、その他の手段で抵抗すると回答した人の割合は68%に達している。

また台湾の独立を懸けた戦争が起きた場合、55%が参戦すると述べたものの、その一方で91%が、独立よりも実質的に主権が保たれた現在の状態の維持を望むと回答した。

台湾が中国と再統一されるべきだと考える人は、アメリカの外交専門誌ナショナル・インタレストによれば、わずか1.5%にすぎなかった。【4月25日 Newsweek】
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中国が攻めてくることはないとは思うが、もし攻めてきたら戦う、しかし勝機はあまりない・・・・そうならないためにも独立云々より“現状維持”で・・・・というのが台湾世論の多数です。

ただ、“現状維持”は座して得られるものでもありません。大陸から押し寄せる波に対して、どうすれば“現状維持”が可能なのか・・・。

朝鮮半島では、実現可能性や実現した場合の問題などは別にしても、一応「民族の平和的統一」が南北双方で“大義”として語られるのに対し、中台間では“戦争”が現実の脅威として消えていません。

この差は、これまでの歴史的経緯の差を反映したものですが、ただ、朝鮮半島でも40年ほど前、朴正煕大統領の時代は38度線は一触即発のピリピリした状態で、韓国は臨戦態勢にもありました。(さらに10年ほどさかのぼれば、日韓の間にも李承晩ラインなんてものがあって、日本の漁船328隻が拿捕され、漁師3929人が拘束、そのうち44人が死傷するといった関係にもありました)

それが、今では南北首脳が手をつないで38度線を行き来する・・・・状況は変化するものです。

30年後、40年後には、中台首脳が海峡を越えて相互訪問する、そんな時代がくる・・・・のでしょうか?


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歴史的な韓国・北朝鮮の南北首脳会談 その先に「統一」はあるのか?

2018-04-27 22:02:43 | 東アジア

(韓国の文在寅大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長のポスターを掲げる統一を支持する学生ら。ソウルで26日撮影 【4月26日 ロイター】)

【「統一」については、今回はそれほど時間がさかれることはない
今日の最大の話題は、言うまでもなく韓国・北朝鮮の南北首脳会談です。

あくまでも“本番”は米朝首脳会談であり、南北の首脳会談はそこへ向けて融和ムードを高めていくのが役割という位置づけですから、難題をつきつめることは避け、非核化や平和協定への期待感をたかめればその目的を果たせますので、ある意味“成功”は約束された会談とも言えます。

逆に言えば、「非核化に向けた踏み込んだ発言がなかった」等は当然のことでもあります。

そうした性格の会談であるにしても、南北首脳が手を携えて境界線をまたぐシーンは印象的であり、両者が屋外で長時間話し込む姿もまた同様です。

なんだかんだ言われながらも、金正恩朝鮮労働党委員長はうまくソフトイメージを発信するのに成功しています。

また、文在寅大統領についても、平昌五輪の南北統一チームの頃、日本国内では「左翼の性(さが)で、北にすりよっている」と評判はよくありませんでしたが、アメリカによる北朝鮮攻撃がささやかれるような厳しい状況にあって、「新しい歴史が始まる」【CNN】というこの現実を生み出した功績は大きいと認めざるを得ないでしょう。

安倍首相に記者団から「日本が蚊帳の外に置かれるのでは・・・」との質問が投げかけられるような状況ともなっています。

上記のような会談をとりまく情勢を受けて、今回会談では「非核化」や「平和協定」が主なテーマとなり、従来の2回の南北首脳会談で語られた「南北統一」はあまり前面に出てきていません。

経済力に格段の差がある現状にあって、韓国の国内、特に若い世代では、韓国に経済的負担をもたらす「統一」への思いは薄れている・・・というのは再三指摘されるところです。

****分断が固定化 韓国、若い世代の関心薄れて****
・・・・ソウル大統一平和研究院が毎年実施している「統一意識調査」でも、北朝鮮との統一に関して「現状のままがいい」と答えた割合は、07年の11.8%から17年には24.7%に急増した。特に30代以下は3割以上が現状維持を希望した。
 
「南北統一のための定期的な会談は必要だと思うか」との質問にも、「思わない」と答えた人は31.8%で、07年の25.3%より増加した。【4月25日 毎日】
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ただ、やはり「統一」を願う人々も多くいるのも事実でしょう。(上記のような数字も、会談“成功”が大きく扱われる社会雰囲気で大きく変化することも予想されます)

****大阪のコリアンタウン、統一に期待と警戒****
「実現できたら」「言うことがころころ変わる」

韓国と北朝鮮による南北首脳会談について、在日韓国・朝鮮人が多く暮らす大阪市生野、東成両区のコリアンタウンでは朝鮮半島の統一に向けた進展を望む声が上がる一方、金正恩朝鮮労働党委員長への不信感を口にする声も漏れた。
 
「会談でどんな話が出るのか楽しみ」と関心を寄せるのは、飲食店で働く50代の女性。同市西区で韓国料理店を営む在日4世の男性(34)も「自分たちは一つの民族だという思いがあるので、朝鮮半島の統一が実現できたらうれしいというのが正直な気持ちだ」と語った上で、「過去の会談でも関係改善に向けた進展はみられなかった。南北統一に向けた進展を期待している人もいるが、冷静にみている人も多いのでは」と分析した。
 
一方、否定的に見る人も。キムチ店を営む女性(66)は「言うことがころころ変わり、どこまで本気なのか分からない」と金委員長への不信感をあらわにし、「もちろん南北統一は実現すればよいが、可能性は低いのでは」と指摘。非核化についても、「北朝鮮が核を廃棄すれば交渉力は弱くなる。手放すことはないのではないか」と話していた。【4月27日 産経WEST】
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文在寅大統領の心中には「統一」に向けた強い思いが
これまでの経歴や信条からして、文在寅大統領の心中に「統一」に向けた強い思いがあるのも間違いないでしょう。
今後の米朝会談成功でトランプ大統領に“花を持たせて”、その後の「統一」へ向けたシナリオを描いている・・・といった見方も。

****アメリカの「裏方」をアピールする南北朝鮮の本心は?****
<トランプに花を持たせようと躍起になる文在寅と金正恩が描く統一へのシナリオ>

4月27日、韓国と北朝鮮は史上3度目の南北首脳会談を開く。過去2回と異なるのは、今回はメインイベントである米朝首脳会談の事前会談という位置付けであること。つまり前座だ。

これは文在寅(ムン・ジェイン)政権も認識している。韓国大統領府は米朝会談に向け「南北会談でしっかり地ならし」すると裏方ぶりをアピール。韓国メディアも南北会談を米朝会談への「仲介」と表現している。

北朝鮮問題の最終章が米朝の雪解けであることを考えれば、韓国が脇役に回るのは自然だ。しかし文の手法を見ると、米朝会談こそ脇役であり、南北朝鮮がそれを踏み台にして主役にのし上がる裏のシナリオを描いているように見える。

米朝会談を控えて世界の関心が北朝鮮の非核化に集まるなか、文が本当に狙っているのは何か。それは、非核化の先にある南北統一だろう。それこそが最大の関心事と思わせる行動が、南北両政権には見え隠れする。

文にとって南北統一は付け焼き刃の政策ではない。07年の第2回南北首脳会談で締結された10.4宣言の冒頭には「民族同士の精神にのっとり、統一問題を自主的に解決していく」とある。

当時の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権でこの宣言作りを主導したのが盧の秘書だった文だ。文はこの時、南北会談推進委員長も務めていた。

南北統一実現のためには、朝鮮半島問題に強く干渉するアメリカの影響力を排除することが不可欠。そこで南北は手始めに、米朝会談の成果をトランプ米政権の手柄にしようと躍起だ。

(中略)「平和協定」「非核化」が米朝会談で実際に発表されれば、トランプ政権は歴史に名を残すだろう。

南北双方が「時間稼ぎ」
北朝鮮は4月20日、北部の核実験場の廃棄と核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験の中止を決めた。ただし、「平和協定」「非核化」の文言が米朝会談で発表されたとしても、現実の非核化や和平の実現には相当な時間がかかるという見方が大勢だ。

それでも、初の米朝会談実現とその成功に浮かれたトランプが朝鮮半島から気をそらしてあれこれ言わなくなれば、南北は自らの統一へ向けたシナリオを進めやすくなる。

非核化に時間がかかるとなれば、国連の制裁解除も段階的なものになる。となれば、北は韓国に援助を求めるだろう。

韓国は国連の制裁とは別に独自の制裁を北朝鮮に科している。なかでも制裁前の水準のコメ支援が再開されれば、平壌首都圏の軍や党幹部の胃袋を安定的に満たすことができるとみられている。

一方、韓国にとっても制裁で禁じている開城工業団地の操業が再開すれば、統一に向けた国内の不安を緩和できる。韓国の若者世代では統一した際の韓国の経済負担を嫌う声が強いが、北朝鮮経済に自力を付ける機会を与えればこうした不満を緩和できる。

北朝鮮の態度の軟化は金の時間稼ぎだとする指摘は多いが、時間が欲しいのは文も同じだ。その間に南北間の経済活動が活発になれば、統一の青写真は単なる青写真でなくなる。

トランプを目先の栄誉に浴させておけば統一戦略で主導権を握れる――。南北が目指すのは、「脇役」の下剋上かもしれない。【4月26日 前川祐補氏 Newsweek】
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“トランプに花を持たせて”云々の表現はともかく、南北関係が安定すれば、その先にあるのは・・・という思いが文在寅大統領の心中にあるのは当然でしょう。

実際には、問題の多くは統一を求めることから生じている」】
しかし、「統一」が非常に困難な課題であるだけでなく、仮に実現すれば韓国にとって大きな負担をもたらすものであることも言うまでもないところです。

「統一は結局、喫緊の短期目標の多くを達成困難にする」との指摘も。

****統一は「かなわぬ夢」か、南北朝鮮がドイツになれない訳****
南北統一は解決策なのか、あるいはそれこそが問題なのか──。北朝鮮と韓国の最近の緊張緩和によって、1950年代から分断している南北の統一に新たな可能性が浮上している。

統一という言葉は、東西ドイツを隔てるベルリンの壁が崩壊して家族が再会し、軍が武装解除したときのことを思い起こさせる。

韓国と北朝鮮は平和的な統一を繰り返し訴え、韓国で開催された平昌冬季五輪では統一旗を掲げて共に入場行進を行った。また最近にK─POP歌手らの一行が北朝鮮を訪問した際、彼らは北朝鮮人と手をつなぎ、「われらの願いは統一」を歌った。

だが70年にわたり緊張状態が続く朝鮮半島において、「統一」の理念ははますます複雑さを増し、非現実的だと考えられるようになった。両国の格差がかつてないほど広がる中、少なくとも韓国ではそのように捉えられていると、専門家や当局者は言う。

韓国はテクノロジーが発達し、民主主義の下で活気に満ちた主要経済大国となった。一方、北朝鮮は金一族の支配下にあり、個人の自由がほとんどない、貧しく孤立した国である。(中略)

27日の南北首脳会談では、平和と核武装解除が韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の最優先事項になると、大統領府の文正仁(ムン・ジョンイン)統一外交安保特別補佐官は説明。統一は2000年と2007年の過去2回の首脳会談において主な議題だったが、今回はそれほど時間がさかれることはないとの見通しを示した。

「平和が実現しなければ、統一もない」と、同補佐官はロイターに語った。

過去には、北朝鮮の独裁政権が崩壊し、韓国に吸収されるという前提に基づいた統一計画を描く韓国の指導者もいた。

しかしリベラルな文政権はそうしたアプローチを和らげ、最終的に統一へとつながるであろう和解と平和的共存を強調していると、現旧当局者は語る。

<3つのノー>
韓国では、統一を支持する世論も低下している。韓国政府系シンクタンク・韓国統一研究院(KINU)の調査によると、2014年には70%近くが統一が必要と回答したのに対し、現在は58%に低下している。1969年に政府が実施した別の調査では、90%が統一を支持すると答えていた。

統一した場合、韓国が被る経済的損失は大きすぎると、首都ソウルの男性会社員(35)は言う。
「統一には大反対。同じ民族だからという理由だけで統一すべきとは思わない。現在の緊張状態から開放されて暮らしたいだけだ」

敵対意識を緩和するには、「政府は、中国や日本のような平等な隣国として北朝鮮を認識すべきだ」とこの男性は語った。

統一にかかる費用は最大5兆ドル(約550兆円)と試算されており、そのほとんどが韓国の肩にのしかかることになる。

昨年7月にベルリンで行ったスピーチの中で、文大統領は「朝鮮半島平和構想」について説明。北朝鮮の崩壊を望まない、吸収による統一を追求しない、人為的な方法による統一を追求しない、ことを明らかにした。
「求めているのは平和だけだ」と、同大統領は語った。

<最重要課題>
両国とも、統一についてそれぞれの憲法で明記しており、北朝鮮は「国家の最重要課題」と表現している。
韓国統一省のように、北朝鮮にも「祖国平和統一委員会」がある。(中略)

「統一は結局、非核化であろうと人権問題であろうと、あるいは、単に南北間で安定したコミュニケーションを築くことであろうと、喫緊の短期目標の多くを達成困難にする」と、韓国シンクタンク「峨山(アサン)政策研究所」のベン・フォーニー研究員は語った。

<つまづき>
両国は、開城(ケソン)工業団地のような小規模の協力でさえ、問題にぶつかってきた。(中略)最近では、両国は離散家族の連絡事業再開で合意には至らなかった。

不信感は根強い。朝鮮半島を支配するための長期計画の一環として、北朝鮮の指導者、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は核兵器を開発したと、一部の韓国人と米国人は信じ続けている。一方の北朝鮮は、韓国の駐留米軍について、金氏の転覆を狙った侵略部隊だと懸念している。

1990年に東西ドイツが統一したとき、朝鮮半島のモデルになることを期待する向きもあった。
だが、東西ドイツの場合は内戦を経験しておらず、東ドイツは北朝鮮と比べて国民に対する統制がはるかに弱かったと、元韓国統一省の当局者は2016年のリポートで指摘した。

最も大きな障害は、金正恩氏自身かもしれない。平和的な統一に必要な妥協を受け入れる動機が、同氏にはほとんどないと専門家は言う。韓国も、同氏に実権を許すような取り決めに合意する可能性は低い。

北朝鮮を独立国として、また米同盟国である韓国との間の緩衝地帯として維持することに、中国も既得権を有している。

長期的に見れば、完全な統一を強硬に求めることを放棄すれば、両国は関係を修復できる可能性があると、朝鮮半島情勢について複数の著書があるマイケル・ブリーン氏は指摘する。

「矛盾しているようだが、統一はある種、ロマンチックで、健全で、民族主義的な夢として考えられている」と同氏は言う。「だが実際には、問題の多くはそこから生じている」【4月26日 ロイター】
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脱北者が差別・排斥される韓国社会にあって「統一」とは?】
「統一」(どんな形でおこなわれるかが問題ですが)を北朝鮮・中国が受け入れる余地があるか、仮に実現したら膨大な負担が韓国にのしかかる・・・といった問題のほかに、韓国国民に北朝鮮国民を受け入れる寛容さがあるのか・・・という疑問も。

****脱北者を待ち受ける韓国での新たな抑圧と偏見の壁****
北朝鮮のエリート士官だったチュ・スンヒョンさんは、自分が地雷原や監視塔を避けながら非武装地帯を渡って韓国に亡命したときは、これから希望に満ちた新生活が始まるのだと信じて疑わなかった。だが現実は、予想以上に複雑なものだった。
 
チュさんはこれまで、単純労働の仕事を得るため数え切れないほどの面接に臨んだが、強いなまりが出た途端に断られてきた。ようやく仕事に就いたレストランでは、給与を韓国人の半分しかもらえなかったこともある。

韓国人は「北の同胞」を「貧しく、文明を知らない野蛮人」と見なし、社会から排斥しているとチュさんは話す。(中略)

朝鮮戦争の休戦協定が結ばれてから、北朝鮮の貧困と抑圧から逃れるために危険を冒して韓国に亡命した人々は3万人を超える。そんな彼らを、自由を切望する人間の象徴とする見方も多い。
 
統一という目標は、大韓民国憲法に明文化されており、韓国は大々的な宣伝活動を展開して脱北者を歓迎した。1970年代や1980年代には、「英雄」として全国的に有名になった脱北者もいる。
 
しかし1990年代に北朝鮮で数十万人が死亡する飢饉(ききん)が発生すると、韓国にはそれまで数える程度だった脱北者が雪崩を打って押し寄せるようになり、歓迎ムードはぷつりとやんだ。
 
国民感情は悪化し、今では多くの脱北者がまともな仕事を見つけることや友達をつくることの難しさを嘆く。彼らの知識や技能の大半は韓国では時代遅れか不適切と見なされ、白い目で見られたり、うさんくさく思われたりすることもしょっちゅうだ。

■「脱北者の『汚名』をすすぐことはできないのかもしれない」
脱北者の失業率は韓国全体の割合の2倍近い7%に上り、その一方で、月収は全国平均の約半分程度。

ある研究では、脱北者の約20%が詐欺や窃盗、その他の犯罪の餌食になっていることが明らかにされ、定着を支援する目的で国から支給された約1万9000ドル(約200万円)の助成金を失う人も多いことが指摘されている。

(中略)だが韓国社会が強いる抑圧は、チュさんにとっては衝撃的だった。
「私が突然、身を置かれたのは、適者生存のルールに支配された超競争社会だった」とチュさんは書きつづっている。「この現実は、私が一人で軍事境界線を越えたあの凍える夜よりも冷たかった」「私は、脱北者という『汚名』をすすぐことは決してできないのかもしれないと悟った」

(中略)脱北者を「関わりを持ちたくない相手」と見なす人々もおり、ある男性は、子どもを通わせていた学校で韓国人の保護者たちから、うちの子と付き合わせるなと公然と抗議する声が上がったことから、他国への移住を余儀なくされた。
 
(中略)「(亡命した)兵士の多くは、韓国に来たことを後悔していると話す」とチュさんはAFPに明かした。

■北朝鮮に戻った脱北者のその後は分からない
しかしチュさん自身は、そうは思っていない。10代や20代の若い脱北者は「とてつもなく大きな希望」を抱き、年長の脱北者たちよりもはるかに早く韓国社会に溶け込むことに成功しているようだとチュさんは言い添えた。

(中略)「私は、韓国社会を地獄だと思ったことは一度もありません」とチュさん。「でも命の危険を冒して韓国にやって来たのに、社会的な差別や偏見のせいで自殺したり外国に移住したりする人たちを見ると、胸が痛みます」と続けた。【4月26日 AFP】
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ドイツでも東西間に経済格差があり、国民感情のうえで微妙な問題があることはよく指摘されますが、韓国の場合、脱北者に対する(“微妙”ではない)「露骨」な差別があります。

こうした状況で、「統一」がなされても、新たな、かつ、深刻な問題を生み出すことになるでしょう。


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フランス・マクロン大統領  イラン問題でトランプ氏をなだめつつ、米議会演説では異なる世界観をアピール

2018-04-26 22:26:47 | 欧州情勢

(【4月26日 BBC】 米議会で、トランプ大統領とは異なる世界観を語るマクロン仏大統領)

【「これはブロマンスだ」「今までメラニア夫人に示した愛情より愛にあふれている」】
フランスのマクロン大統領とアメリカのトランプ米大統領、年齢が親子ほども違い、政治姿勢もマクロン大統領のグローバリズム・自由貿易重視に対し、トランプ大統領はアメリカ第一で、保護貿易傾向も・・・と、対照的なな二人ですが、既成政党・既成政治の枠組みの外から、大方の予想に反する形で一気に権力の座のついたという点では、共通点もあります。

この二人、マクロン大統領の就任直後の“握手対決”と、その対決でマクロン大統領が一歩も引かなかったことで話題ともなりました。

****マクロン氏、トランプ氏と「握手対決****
ドナルド・トランプ米大統領は、相手の腕を引き寄せてバランスを崩してしまうほど力強い握手で有名だが、39歳の仏政界の神童、エマニュエル・マクロン大統領は、準備万端だったようだ。
 
両大統領は(2017年5月)25日、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議を前に、ベルギー・ブリュッセルの米国大使館で会談。

トランプ大統領と並んで座ったマクロン大統領は、世界各国のメディアのカメラを前に、口元を硬く閉じ、トランプ氏の細めた目をしっかりと見据えて握手に臨んだ。

握手の間、両大統領は歯を食いしばり、2人の顔はこわばり、こぶしは白くなった。握手がようやく終わると、両者は子牛のメインディッシュとベルギーチョコレートのムースのデザートの昼食へと向かった。(後略)【2017年5月26日 AFP】
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こうした“握手対決”で見せた同じような負けん気の強さに互いに感じるものがあったのか、ともに既成政治を突きくづしたという共通項のせいか、政治姿勢の違いにもかかわらず、個人的には極めて良好な関係にあることもよく知られています。

そのマクロン大統領が、トランプ大統領就任以来の初の国賓として23~25日に訪米。
イラン核合意破棄に向かって突き進むトランプ大統領をなだめられるとしたらマクロン氏以外にいないということもあって、両者の会談が注目されました。

良好な個人関係は健在のようです。

****トランプ氏、マクロン氏の「ふけ」払い「特別な関係」を強調****
ドナルド・トランプ米大統領は24日、訪米中のエマニュエル・マクロン仏大統領のスーツの襟から「ふけ」を払うしぐさを見せ、これも両首脳が「とても特別な関係」にある証しだと強調した。

トランプ氏は、首都ワシントンを訪問したマクロン氏を、昨年の大統領就任以来自身の初めての国賓として迎えた。

トランプ氏が意外なジェスチャーをして見せたのは、ホワイトハウスの大統領執務室で、写真撮影のためマクロン氏と並んだ時だった。

トランプ大統領は、「われわれはとても特別な関係にある。その証拠に私はこの小さなふけのかけらを払ってあげよう」と言って、マクロン氏の襟元から小さな白いほこりを取り除いた。そして「彼(マクロン氏)を完璧にしてあげないと、彼は完璧なんだから」と続け、マクロン氏の笑いを誘った。【4月25日 AFP】
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この“特別な関係”「ブロマンス」は、アメリカでも深夜番組の格好のネタになっているとか。

****米仏大統領の「ブロマンス」 米深夜番組の格好のネタに****
固い握手から温かい抱擁、ちょっとした身繕いまで──訪米中のエマニュエル・マクロン仏大統領とドナルド・トランプ米大統領の「ブロマンス」が、米国の深夜トーク番組で司会者を務めるコメディアンたちの格好のネタを提供した。

ブロマンスはブラザー(兄弟)とロマンスをかけた造語で、男性同士のプラトニックな親密さを意味する。

「トランプ氏とマクロン氏は、興味深い関係にある」。ジミー・キンメル氏はABCテレビの冠番組でこう評した。「トランプ氏は本当に友達を必要としている。旧友のほとんどは刑務所行きだからね」(中略)

マクロン氏との熱い友情ぶりを、メラニア夫人との冷え切った夫婦関係と対比するコメディアンも相次いだ。
 
スティーブン・コルベア氏は、CBSテレビのトーク番組「ザ・レイト・ショー・ウィズ・スティーブン・コルベア」で、「メラニア夫人の手を握るのと比べたら、カーマスートラ(インドの性愛論書)を実践しているようなものだ」「どっちと結婚しているんだ?」と米仏首脳の関係をやゆ。
 
トレバー・ノア氏はコメディ・セントラルの「ザ・デイリー・ショー」で、マクロン氏について「トランプ氏の取扱説明書でも持っているのかな」と評した。

「マクロン氏がトランプ氏と気持ちを通じ合っているのは実感できただろう」とノア氏はコメント。「皆も知っての通り、トランプ氏は情にもろいたちではない。だがマクロン氏は明らかに、トランプ氏がこれまで感じたことのなかった人間らしい思いやりを呼び起こした」と続け、「陳腐な表現だと分かってはいるが、これはブロマンスだ」「今までメラニア夫人に示した愛情より愛にあふれている」などと語った。【4月26日 AFP】
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実現不可能な“新提案”でトランプ氏つなぎ止め
与太話はともかく、5月12日にはトランプ大統領がイランへの制裁を再開を発表し、合意破棄が現実のものとなるかも・・・というイラン核合意、マクロン大統領など欧州諸国は、「ひどい合意だ。合意すべきではなかった」とするトランプ大統領に対し合意維持を強く求めています。

マクロン大統領は、トランプ氏との会談前、「プランB(代替案)はない」と語っていました。

****仏、イラン核合意「代替ない」 マクロン大統領、米に維持要求****
フランスのマクロン大統領は22日放送の米FOXニュースとのインタビューで、トランプ米大統領が見直しを求めるイラン核合意について「代替案はない」と述べ、イランの核開発再開を阻止するために米国は合意にとどまるべきだと主張した。
 
マクロン氏は23日からの訪米でトランプ氏と会談。オバマ前米政権時に米欧など6カ国とイランが結んだ核合意が主要議題となる見通しだ。

トランプ氏は、イランの核開発制限の期間が限られ、弾道ミサイル開発を黙認していると合意を批判、修正できなければ、離脱する意向を示している。【4月23日 共同】
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ただ「プランB(代替案)はない」とは言いつつも、トランプ大統領の意向は固く、今回の会談で“決裂”となれば、離脱に向けての導火線に点火されることにもなりますので、マクロン大統領としても、なんとか今後に向けた方向性を示す必要があります。

****仏大統領、イラン核合意で新提案 トランプ氏も前向き****
トランプ米大統領は24日、マクロン仏大統領とホワイトハウスで会談し、イランが2015年に米欧など6カ国と結んだ核合意について協議した。

マクロン氏は合意維持のため、弾道ミサイル開発規制などを追加する「新たな合意」を提案。トランプ氏は「可能かどうか見てみよう」と前向きに検討する姿勢を示した。

マクロン氏は共同記者会見で、トランプ氏に「新たな合意」を提案したことを明かした。イランの核開発を制限する既存の合意に加え、①弾道ミサイル開発への規制②核開発制限の期限の延長③シリアなど周辺国への干渉の阻止、を追加することを目指すという。

トランプ氏はこれまで核合意に「破滅的な欠陥がある」とし、5月12日までに合意を修正できなければ離脱すると明言してきた。提案はトランプ氏の要求に対応した形だ。

ただ、「新たな合意」をどのような国々の枠組みで進めるのかは不明で、イラン側に応じさせるのも困難だ。

ログイン前の続きマクロン氏は共同会見で「核合意は十分なものではないが、少なくとも25年まではイランの核の活動を制御できる」と重要性を強調。その上で、「核合意を破棄するのではなく、我々の懸念に対応する新たなものを作る」とした。

一方のトランプ氏は「大きな試みをしてみる。ディール(取引)がうまくいくかどうか、見てみよう」とした。核合意からの離脱の明言は避け、「(修正期限の)12日に私がどうするかは誰も知らない。確固とした基盤のある新たな合意が可能かどうか見てみる」と語った。

また、トランプ氏はイランが核計画を再開した場合を念頭に「もしイランが何らかの脅しをするならば、ほとんどの国が経験したことがない代償を払うことになる」と強く警告した。【4月25日 朝日】
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①弾道ミサイル開発への規制②核開発制限の期限の延長③シリアなど周辺国への干渉の阻止、を追加することを目指す・・・・ほとんどトランプ大領の主張を取り込んだものですが、新たな合意が得られる可能性はありません。これが“新提案”と言えるのか・・・・。

(イランがミサイル開発をやめない背景、合意が破棄された場合の、イラン国内、サウジアラビアやイスラエルなど中東への影響については、4月16日ブログ“イラン核合意 5月にトランプ大統領は制裁再開・合意破棄の流れ 懸念されるイラン国内・中東への影響”参照)

イランはもちろん、ロシアも同意しないでしょう。

“仏テレビ「フランス2」は、一貫して核合意に批判的なトランプ氏の説得に失敗したマクロン氏が、新合意という「プランB(代替案)」を出さざるを得なかったとの見方を示した。”【4月25日 毎日】

****イラン、新合意を拒否 マクロン氏、核開発の絶対阻止宣言****
イランのハッサン・ロウハニ大統領は25日、欧米など6か国と2015年に交わした核合意に変更を加える可能性を退けた。

(中略)イランのロウハニ大統領は強硬姿勢を強め、同国は核合意に対するいかなる変更も受け入れないと表明。

熱のこもった演説で、核合意の正式名称であるJCPOA(包括的共同行動計画)を使い、「われわれにはJCPOAと呼ばれる合意がある」「それが継続されるのか、されないのかのいずれかだ。JCPOAが継続されるなら、完全にそのままの形で継続される」と強調した。【4月26日 AFP】
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イランが同意はするはずもない提案ですが、とりあえず“交渉”の場にトランプ大統領を引き留めておくための提案・・・とも思えますが、そんなもので事態が収まるのか?マクロン大統領も見通しは立たないようです。

****トランプ米大統領、イラン核合意を破棄する見込み=仏大統領****
フランスのマクロン大統領は25日、トランプ米大統領は2015年にイランと欧米など6カ国が結んだ核合意を破棄するだろうと述べた。

トランプ大統領は、5月12日までに核合意における欠陥を修正するよう欧州の当事国に求めている。

訪米中のマクロン大統領は記者会見で、この日までに破棄が決定されるかどうかは分からないとした。「米国の判断がどうなるかは不明だが、トランプ大統領の全発言を理論的に分析した結果では、包括的共同作業計画(JCPOA)にとどまるよう全力で努力するとは思えない」と述べた。【4月26日 ロイター】
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議会演説では一転、トランプ主義を批判 異なる世界観を示す世界の指導者として出現
ここまでの話は、トランプ大統領が少なくとも現時点では合意破棄の姿勢を崩していないこと、マクロン大統領も説得できなかったこと・・・といった予想された話ですが、意外だったのはマクロン大統領がアメリカ議会で行った演説です。

それまでのトランプ大統領をなんとかなだめようとする姿勢から一転、イラン核合意破棄、保護貿易、アメリカ第一、温暖化否定・・・といった“トランプ主義”をことごとく否定するような極めて“ストレート”なスピーチでした。
一気に権力をつかんだマクロン大統領はさすがに只者ではないことを示すものでもありました。

****マクロン仏大統領、国家主義を攻撃 米議会での演説で****
マクロン氏は、国家主義的、米国単独主義的政策は世界的な繁栄に対する脅威だと述べた。
同氏の言葉は明示的ではないものの、ドナルド・トランプ米大統領の掲げる米国第一主義的政策に対する事実上の攻撃だと広く解釈されている。

マクロン氏は演説で「自由と寛容さ、平等な権利」を掲げる米国とフランスの「壊すことのできない絆」を称賛しつつ、国際貿易やイラン問題、環境問題などでも立場の違いを鮮明にした。

今回の訪米で見せてきたこれまでの温かい愛想のよさとは対照的だった。(中略)

同氏は米国単独主義や孤立主義、国家主義は「恐怖に対する一時的な救済策として魅力的に思えるかもしれない。しかし、世界への扉を閉ざしても世界の進歩は止まらない。それは市民の恐怖をなくすのではなく、あおるのだ」と述べた。

BBCのジョン・ソープル北米編集長はツイッターで、「『我々は単独主義や孤立主義、国家主義を選択できるが、それは市民の恐怖をあおるだけだ』。この言葉は、マクロン氏からトランプ氏への、明示的でないが事実上の非難だ」と述べた。

「我々は、より素晴らしい繁栄への希望に満ちた世界を揺るがすような、急進的国家主義の始末に負えない働きを許さない」とマクロン氏は付け加えた。

マクロン氏はさらに、米国が多国間協調主義を発明したのであり、今それが21世紀の世界秩序を作り出すために再発明される必要があると述べた。

同氏は、西洋諸国が世界で生じている新たな危機を無視するなら、国連と北大西洋条約機構(NATO)は負託に応えたり安定性を保証したりできないだろうとした。

貿易については、マクロン大統領は「商業戦争は適切な答えでない」と述べた。同氏は商業戦争が「雇用を破壊し、物価を上昇」させるだろうとし、「世界貿易機関(WTO)を通じて交渉するべきだ。我々が規則を書いたのだから、それを順守すべきだ」と付け加えた。

トランプ氏は過去に、貿易戦争は良いことで簡単に勝利できると語っている。トランプ氏は米国が不公平な貿易慣行に苦しんできたとし、欧州と中国に新たな貿易関税を課している。

イランについては、マクロン氏はバラク・オバマ前米大統領時代に結ばれたイランとの核合意をフランスが破棄することはないだろうと述べた。トランプ氏はこの核合意を「ひどい」ものだとみなしている。

「イラン核合意は全ての懸念、そして特に重要な懸念に対処していないかもしれない。それは事実だ。しかし、より実質的な何かを持たないまま、核合意を破棄すべきではない」とマクロン氏は述べた。

ただ同氏は、「イランは絶対に核兵器を持つべきではない。今だけではない。今後5年でもない。今後10年でもない。永遠にだ」とも付け加えた。

マクロン氏は環境問題については、「海洋を汚染したり、二酸化炭素(CO2)排出量を減らさなかったり、生物多様性を破壊したりすることによって、我々は地球を殺そうとしている。代替となる惑星Bは存在しないということに向き合おう」と述べた。(中略)

<解説>愛想の良さと不意の攻撃  ジョン・ソープル BBC北米編集長
マクロン氏はトランプ氏を操縦する方法についての特別授業を世界の他の指導者たちに提供した。近くに寄り添い、必要な場面ではお世辞を言う。

しかしそれは、大きな一撃を浴びせることを可能にすることにも使える。(中略)

マクロン氏は巧妙に練り上げられた演説を、友好的すぎると評する声もあった同氏とトランプ氏との協調に触れることから始めた。

しかしその後、攻撃は繰り出された。攻撃は強力なジャブで、トランプ氏の政策方針を直接的な目標にするものだった。自由貿易について、科学の重要性について、不平等について、そしてトランプ氏の米国第一主義的政策について。

そして、マクロン氏はトランプ氏のアメリカを再び偉大にというスローガンを大胆に借用し、環境や米国が脱退した気候変動に関する協定の重要性について語った。マクロン氏は、今こそ地球を再び偉大にするときだと述べた。

演説は、拍手と喝采で何度も中断された。米議会にとって重要な瞬間だった。マクロン大統領は、常にトランプ大統領への愛想の良さを維持しながら、トランプ氏と競合しはっきりと異なる世界観を示す世界の指導者として出現した。驚くべき政治的偉業だ。【4月26日 BBC】
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アメリカ議会でのスピーチには、議員たちのわざとらしいスタンディングオベーションが繰り返されるウザい習慣がありますが、途中から共和党議員には困惑も。

やはりトランプ大統領と良好な関係があるとされる安倍首相は、アメリカ側の意向で今回も“ゴルフ外交”を行いました。もちろん、ゴルフを楽しんだだけでなく、その間、日本の利益のためにトランプ大統領に多くのアピールをしたのでしょう。表に出てこない話を含めて。

ただ、“ゴルフ外交”とか、国内政治における“料亭での談合”とか、国民から見えないところで“寝技”的なものを駆使するような政治に、国民はいささかうんざりもしています。ポピュリズムが台頭する背景としての政治不信を生む土壌ともなっています。

マクロン大統領がアメリカ議会に乗り込んで、トランプ主義のことごとくについて、その誤りを(礼を失さない範囲で)ストレートに指摘する姿勢には、うらやましさを禁じえません。

もちろん、こうしたマクロン大統領・フランスの姿勢は、シリア攻撃に積極的に参加するといったアメリカとの軍事協調をも含んだ総合的な関係から生まれるもので、単純に日米関係にあてはめることはできませんが・・・・。

それにしても、“敵役”トランプ大統領のおかげで、中国・習近平国家主席は自由貿易の守護者となり、マクロン大統領も異なる世界観を示す世界の指導者としての存在をアピール・・・といった昨今です。
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インド  モディ首相が訪中して習主席と会談 国際情勢変化を受けて関係改善に向けた動き

2018-04-25 23:02:09 | 南アジア(インド)

(2016年10月、インド南部ゴアでのモディ首相と習主席【4月23日 日経】 27、28両日の武漢での会談で緩解改善の方向が明確化されるのか)

インド:世界の対中情勢が変化する中で、緊張の継続は好ましくない
インドのモディ首相は27日から訪中し、27、28両日に湖北省武漢市で習近平国家主席と非公式会談を行う予定とされています。

国境問題を抱える中印両国は、昨年5月にはドクラム地区で両軍が2カ月半にわたって対峙する事態ともなっています。

また、中国の著しい海洋進出・伝統的インド勢力圏を含む各地での国際的影響力拡大という情勢のなかでライバル的な対立関係を強め、インド・モディ政権は中国の“一帯一路”に賛同せず、日米とも協調して、中国に対抗する姿勢をもとっています。

ただ、大きな“潜在能力”を有するインドですが、現時点においては、経済的にも、国際影響力の面でも、中国の優越性・攻勢が目につくように思えます。

2017年8月10日ブログ「ブータン・中国国境でにらみ合いが続く中印両国 南アジア全体では中国の攻勢 停滞するインド経済
2018年1月13日ブログ「インド 国境問題でも、国際戦略でも中国の勢いに押され気味 原子力潜水艦ミスで“大丈夫?”」

インド・モディ政権としては、「このままではジリ貧に落ち込んでしまう」という思いもあるでしょう。
また、中印両国とも、アメリカ・トランプ政権という“不確定要素”の影響を考えると、対立するよりは協調した方が得るものが多い・・・という考えも強まります。

チベット亡命政権を抱えるインドですが、中国が敵視するダライ・ラマ14世に対し、従来とは異なる“一定の距離を置いた”接し方をし始めているあたりにも、インドの中国との関係改善に対する思いが透けて見えます。

****モディ印首相、27日から訪中し習近平氏と会談 緊張緩和へ一帯一路や国境問題で歩み寄れるか****
ンドのモディ首相が、27〜28日の日程で中国湖北省武漢を訪問し、習近平国家主席と非公式首脳会談を行う。

モディ氏は6月にも上海協力機構(SCO)首脳会議出席のための訪中が予定され、集中的に会合を設定することで緊張緩和を早期に実現したい意向がうかがえる。

だが、南アジアで影響力を強める中国とは利害の対立もあるだけに“雪解け”に向けて、どれほど歩み寄れるかは不透明だ。
 
非公式会談は、インドのスワラジ外相が22日、北京で中国の王毅外相と会談した際に決まった。首脳会談は昨年9月以来で、インド外務省は目的について「パートナーシップをより強化するため」としている。
 
1962年には中印紛争が起きるなど領土問題を抱える両国だが、中国が現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を通じて南アジアやインド洋地域への進出を強めて以降、関係は急速に悪化している。

インドは昨年5月の一帯一路関連フォーラムへの代表団派遣を拒否。直後に中国、インド、ブータンが国境を接するドクラム地区で、中印両軍が2カ月半にわたって対峙(たいじ)する事態が発生し、関係はいっそう冷え込んだ。
 
一方で、モディ政権内部には「緊張の継続は好ましくない」(外交筋)という判断があった。

別の外交筋は「日中関係に好転の兆しが見えるなど、世界の対中情勢が変化する中で、潮流から取り残されてしまうという危機感がある」と指摘する。

また、中国は輸入相手国のトップであり、2016年度には510億ドル(約5兆5千億円)に達する貿易赤字も抱えており、摩擦の継続は経済にマイナス材料という判断も働く。
 
モディ政権が打った関係改善への布石の一つが、インド亡命中のチベット仏教最高指導者、ダライ・ラマ14世への対応だ。今年2月、政府職員にダライ・ラマ関連行事への参加自粛を促した。

最終的にシャルマ文化相が亡命60周年を記念した講話の会に出席したが、ダライ・ラマを「分離主義者」と批判する中国に配慮を見せた格好だ。
 
今回の会談で何が話し合われるか不明だが、ネール大のアルカ・アチャリャ教授は「第一の目的は両国関係のリセットだ」と指摘。両首脳の関係構築に主眼が置かれるだろうと見る。
 
ただ、両軍撤退で合意したはずのドクラム地区付近で中国は兵舎建設やトンネル掘削を継続しており、国境での火種はくすぶり続ける。インド国内では、宿敵パキスタンに巨額の資本投下を行う中国とは「そもそも相いれない」という声も根強い。【4月24日 産経】
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保護貿易色を強める米国への対抗軸構築を急ぐ中国
アメリカとの貿易戦争という火種を抱える中国としても、インドとの関係改善は望むところで、今回の両首脳の会談が北京ではなく武漢で行われるということにも、中国側のインドへの配慮が表れているも指摘されています。

****習近平氏、モディ印首相との会談は異例の形式 米牽制へ関係修復アピールなるか****
27日からのインドのモディ首相訪中で、中国の習近平国家主席は今回、北京ではなく湖北省武漢で会談する異例の形式を取った。

中国側には、モディ氏も出席する6月の上海協力機構(SCO)首脳会議まで待てない事情があった。保護貿易色を強める米国への対抗軸構築を急がなければならないためだ。
 
中国外務省の陸慷報道官は24日の記者会見で、中印首脳会談について「この100年間なかったような世界情勢の変化を前に、長期的かつ戦略的な問題に関して突っ込んだ意見交換を行う」との見通しを示した。
 
今回の首脳会談は、中・印・ブータン国境付近で中印両軍が対峙(たいじ)するなど、ぎくしゃくした両国関係を修復し、それを内外にアピールする機会となる。王毅国務委員兼外相は中印の「新たなスタートライン」と位置付けている。
 
中国外務省は武漢で開催する理由について「両国が調整して決めた」としか説明しないが、「北京に呼ぶのでなく、習氏も出向く形にすればモディ氏も訪中しやすい」と外交筋はみる。
 
ただ当初、習氏とモディ氏の会談は6月に山東省で開かれるSCO首脳会議の際に行われる予定だった。前倒ししたのはなぜか。
 
関係改善を急いだ背景には、貿易問題で対立するトランプ米政権を牽制(けんせい)しなければならない中国側の事情があったとの見方が強い。

中国紙、環球時報は社説で「人類の4割を占める中印の協力関係が強化されれば、世界にとって積極的な意義がある」と強調した。
 
習外交の要である王岐山国家副主席も23日、北京を訪問したスワラジ印外相との会談で、「(中印両首脳が)戦略的な共通認識を得るものと確信している」とし、「ともに多国間貿易体制を擁護することを期待している」と述べている。【4月24日 産経】
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貿易問題でアメリカと対立するのはインドも同様です。

****インド、米鉄鋼・アルミ輸入制限の対象ならWTOに異議申し立て****
インド政府は、米政府による鉄鋼・アルミニウム輸入制限の対象となった場合、世界貿易機関(WTO)に異議申し立てを行う見通し。貿易交渉に関与する政府関係者3人が匿名でロイターに明かした。

インドは、米国への鉄鋼・アルミの輸出が米国の安全保障上の懸念に当たらないとして、インドを制限措置の対象外にするよう求めていた。

インドのシン鉄鋼相は、要求が拒否された場合のインド政府の対応についてコメントを控えた。
ただ、ロイターが入手した内部文書によれば、インド政府は要求が拒否された場合、米国からの輸入品の一部に係る基本的な関税を一時的に引き上げることを検討している。【4月23日 ロイター】
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中国側のインドとの関係改善に対する期待感は、以下の中国メディアの論調にも見てとれます。

****中国とインドが急接近、長期安定発展を先導する上層部交流****
中印双方は中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席とインドのモディ首相が27、28両日に湖北省武漢市で非公式会談を行うことを決めた。新華社が伝えた。

両国首脳が会うのは2017年9月のアモイ会談以来だ。両国首脳が非公式会談のくつろいだ雰囲気の中で戦略面の意思疎通を行い、両国関係の今後の発展を政治的にリードすることは、中印の政治的相互信頼の増進、利益融合の拡大、溝の適切な管理・コントロール、共同発展の実現に資する。

中印関係は21世紀の最も重要な二国間関係の1つだ。両国民は隣人であり、数千年の友好的交流の歴史を持ち、古くは相互参考の歴史的事実があり、現在では共同発展を待ち望んでいる。(中略)

2017年に中印関係は国境問題のために困難と試練に直面した。これは最終的に外交的手段によって平和的に解決され、両国関係は健全な発展という正しい軌道に戻った。

これは戦略面の意思疎通の強化、政治的相互信頼の増進、溝の管理・コントロールの重要性と緊迫性を一層浮き彫りにすると同時に、平和共存、協力・ウィンウィンが中印両国にとって唯一の正しい選択であることを改めて示した。

習主席はかつて「中印が同じ声を発せば、全世界が耳を傾ける」と表明した。モディ首相はかつて「インチからマイル」への精神で印中関係の前向きな発展を推し進めるべきだと表明した。

二国間、地域、さらには全世界のいずれのレベルで見ても、中印は長期的な戦略協力パートナーであり、経済的補完性が高く、協力に大きな潜在力があり、共通の利益が溝を遥かに上回る。

両国は互いが発展のチャンスであり、脅威ではないとの基本的判断を堅持し、この重要な判断を確実に実行に移し、より広範な共通認識を形成し、より具体的な措置に変え、たゆまず両国関係のプラス面を拡大し、両国交流にプラスのエネルギーを蓄積し続ける必要がある。

現在、国際情勢には複雑で深い変化が生じている。多極化のプロセスにおける2つの重要なパワーである中国とインドが長期に着眼し、肩を並べて歩むことは、両国が発展し、両国の26億人がより良い生活を送る助けとなるだけでなく、世界の平和・安定の維持、共同発展の促進への貢献ともなる。

中印の友好はアジアにとっても世界にとっても幸いだ。両国首脳の戦略的先導の下、双方には互いの関係をうまく処理し、対話によって溝を管理・コントロールし、協力によって未来を切り開くのに十分な知恵と能力があると信じる。

二大文明の融合と相互参考は新たな時代の活力を引き出し、二大市場の強みによる相互補完は新たな発展の潜在エネルギーを解き放ち、二大隣国の互恵協力は新たなウィンウィンの構造を切り開く。(提供/人民網日本語版・編集/NA)【4月24日 Record china】
****************

注目されるモディ首相の「一帯一路」への対応
関係改善に向けた強いインセンティブを持つ両国ですが、特に、インド側には中国の拡大路線への警戒感も根強く、一気に・・・とはいかないようです。

****上海協力機構が外相会議、中国「一帯一路」にインドは支持表明せず****
中国、ロシア、インドなど8カ国が加盟する上海協力機構(SCO)は24日、北京で外相会議を開いた。会合後に発表された声明でインドは、中国が提唱する広域経済圏構想「一帯一路」への支持を表明しなかった。

インド以外の外相は全て「一帯一路」への支持を改めて表明した。

中国の一帯一路構想における主要プロジェクト「中国・パキスタン経済回廊」に関してインドは、パキスタンと領有権を争うカシミール地方を通過するため、支持していない。

インドのモディ首相と中国の習近平国家主席は、中国湖北省の武漢で27─28日に非公式の会談を行う。

中国がインドから一帯一路への支持を取り付けられるかどうかは、首脳会談が成功したかどうかを判断する上で重要な基準となる。

加盟国はまた声明で、イランの核開発問題や過激主義拡散への対策などで結束することを表明した。【4月25日 ロイター】
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「一帯一路」への支持に関してモディ首相が、武漢での習主席との会談で、これまでより踏み込んだ発言をするのか・・・注目されます。

日本も、先日の王毅外相訪日に見られるように、中国との関係改善の動きが進んでいますが、アメリカ・トランプ大統領の不確実性、あるいは強引な“アメリカ第一”は、日本・インドを中国との関係改善に向かわせる方向で作用しているようです。

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イエメンで激化するフーシ派のミサイル攻撃 サウジは本当にパトリオットで防衛できているのか?

2018-04-24 22:13:11 | 中東情勢

(PAC-3を警備する自衛隊員。REUTERS/Issei Kato【2017年12月6日 BUSINESS INSIDER】)

【“和平模索の動き”は進んでいるのか? サウジへのミサイル攻撃を強めるフーシ派
中東最貧国イエメンの内戦が本格化してから3年以上が経過しています。
サウジアラビアとイランの代理戦争とも言われる内戦に加え、飢餓、コレラの惨禍も加わって、国連等からは人道上の危機が叫ばれてはいますが、犠牲者は増えるばかりです。

下記記事にあるように、一部では和平を模索する動きがあるとも報じられてはいますが・・・・どうでしょうか?

****<イエメン>内戦3年、惨禍続く 米で和平模索の動き****
サウジアラビア主導の連合軍による空爆開始でイエメン内戦が本格化してから26日で3年を迎える。

国連によると、この間に約6000人の市民が巻き添えで死亡し、国民全体の約8割の約2200万人が食料などの人道支援を必要とする。

対イランでサウジとの連携を強めるトランプ米政権だが、内戦が「今世紀最悪の惨禍」(国連)と言われる中、米議会にはサウジへの軍事協力停止を求める声があり、和平模索の動きも出ている。
 
「平和的解決に向けて緊急の努力が必要だ。この紛争を終わらせなければならない」。マティス米国防長官は22日、国防総省で会談したサウジのムハンマド皇太子兼国防相に語った。また、2月に国連事務総長の新たなイエメン担当特使が任命されたことを踏まえ、政治的解決を一気に図ろうと呼びかけた。
 
内戦は、イスラム教スンニ派のハディ暫定政権支援を名目にサウジがアラブ首長国連邦(UAE)などと連合軍を形成する一方、反政府派でイスラム教シーア派系の武装組織フーシをイランが支援する構図。

サウジとイランの「代理戦争」とも言われており、サウジはムハンマド氏の国防相就任直後の2015年3月26日、威信をかけて空爆を開始した。
 
サウジに対し、米国は精密誘導弾などの武器売却や偵察情報の提供で協力してきた。

だが内戦の泥沼化と民間人の被害拡大を受け、与党の共和党議員も加わる上院の超党派議員がサウジへの軍事協力を止める決議案を提出。ムハンマド氏の訪米に合わせた20日の採決では決議案見送りに賛成55票、反対44票という結果になったが、議会内で今後、内戦終結をサウジに求める声が高まる可能性がある。
 
和平実現に向けた交渉は水面下で始まっている。サウジ、イラン双方と良好な関係を築くオマーンが仲介し、中東メディアはサウジとフーシが直接協議していると伝える。

マティス氏も今月13日にオマーンを訪問してカブース国王と会談するなど、紛争解決に向けた努力を続ける。
 
トランプ大統領は20日のムハンマド氏との会談で、サウジが武器を中心に大量の米国製品を購入していることに触れ「4万人以上の雇用増を米国にもたらしている」と評価。

その一方、イエメン国民が人道危機にさらされていることもあり、ポンペオ中央情報局(CIA)長官によると、毎朝のブリーフィングでもイエメンの状況について詳しく質問するという。
 
イエメンでは気温の上がる春以後、コレラなど伝染病の拡大も懸念され、紛争解決が急務となっている。【3月24日 毎日】
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サウジアラビアに大量の武器を売り込み、基本的に中東に関心がないトランプ大統領が“毎朝のブリーフィングでもイエメンの状況について詳しく質問する”・・・・何を気にかけているのか、ぜひ知りたいところです。

上記は約1か月前の記事ですが、その後、オマーンを仲介とした和平の動きについては進展を聞きません。(水面下の話は知りようがありませんが・・・)

聞こえてくるのは、激しさを増す戦闘とイエメン国民の悲惨な状況に関するニュースばかりです。

“内戦下のイエメン、子ども50万人が通学断念 教育機会の欠如は200万人に”【3月27日 AFP】
“イエメン火災でWFP倉庫燃える、支援物資が焼失”【4月1日 AFP】

戦闘状況に関しては、反政府勢力フーシ派が、暫定政権を支援して空爆を主導しているサウジアラビア本国に対するミサイル攻撃を強めていることです。

“サウジへ再びミサイル、1人負傷=イエメンから発射”【3月31日 時事】
“サウジ軍、イエメン反政府組織フーシ派のミサイル迎撃に成功”【4月1日 AFP】
“イエメン武装組織、紅海で石油タンカー攻撃=サウジ敵視強める”【4月3日 時事】
“イエメン反政府組織、サウジにミサイル・無人機攻撃 軍が撃墜”【4月12日 AFP】

フーシ派の対決色を強めさせる出来事も
ここにきて、フーシ派の攻撃をさらに激化させそうなサウジアラビア等のふたつの攻撃がありました。

ひとつは“誤爆”が疑われる空爆による民間人犠牲。

****結婚式場に空爆、少なくとも20人死亡 イエメン****
内戦が続く中東イエメンの北西部で22日、結婚式の会場が空爆され、ロイター通信によると、出席者ら少なくとも20人が死亡し、数十人が負傷した。

同通信などは、イエメンに軍事介入しているサウジアラビア主導の有志連合軍による攻撃だと報じている。
 
同通信は、地元の病院関係者の話として、けが人には子ども30人が含まれていると伝えた。有志連合軍の報道官は「報道を重く受け止め、十分な調査がなされる」と語った。(後略)【4月23日 朝日】
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被害者数については“少なくとも33人が死亡、41人が負傷した。死者には女性と子どもが少なくとも17人含まれていたとされる”【4月24日 CNN】とも。

サウジアラビア等有志連合の空爆による民間人犠牲者の多さは、以前から指摘されているところです。
“国連の報告によると、内戦でこれまでに死亡した民間人のうち、有志連合の空爆による死者は61%を占めている。”【4月24日 CNN】

トランプ大統領は、アメリカがシリアから撤退した際の穴埋めにサウジアラビア等のアラブ連合軍を配置することを考えているようですが、民間人犠牲を減らせない、あるいは、減らす気があまりない国をこれ以上シリアに呼び込むことは、新たな火種をつくることにもなりかねない気もします。すでにアサド政権側は民間人犠牲をかまうことのない攻撃を行っています。

サウジアラビア等によるもう一つの攻撃は、フーシ派政治指導者の殺害です。

****イエメンのフーシ派、空爆で政治指導者死亡 サウジ連合軍を非難****
イエメンのイスラム教シーア派反政府武装勢力「フーシ派」は23日、サウジアラビア主導の連合軍が行った先週の空爆でフーシ派の政治部門指導者サレハ・サマド氏が死亡したと発表し、連合軍を非難した。
 
フーシ派はサバ通信を通じ声明を発表。フーシ派最高政治評議会議長であるサマド氏が19日、イエメン西部ホデイダ県で「殉教」したと発表した。
 
2015年3月以来、イエメン政権軍と内戦状態にあるフーシ派にとってサマド氏の死亡は大きな打撃となる。フーシ派はイランと同盟関係にある一方、イエメン政権はサウジアラビア主導の連合軍の支援を受けている。
 
フーシ派全体の指導者であるアブドゥルマリク・フーシ氏は、「この犯罪が報復されずにいることは決してない」と警告した。(後略)【4月24日 AFP】
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政治部門指導者殺害はサウジアラビアにとって“大きな成果”かもしれませんが、フーシ派の報復攻撃を招くことも確かです。

****対サウジ、ミサイル発射激化=幹部殺害で報復も―イエメン武装組織****
イエメン内戦に軍事介入しているサウジアラビアに対し、イエメンのイスラム教シーア派系武装組織フーシ派が弾道ミサイル攻撃を強めている。

22日はサウジ南部ナジュラン、23日も南西部ジザンを狙って連日発射し、いずれもサウジ軍が迎撃した。

フーシ派掃討を名目としたサウジの介入から3年が過ぎても内戦終息の兆しはなく、対立は激化の一途。サウジは防空態勢強化を余儀なくされている。
 
フーシ派支配下のイエメン北西部では22日、結婚式会場が空爆に遭い、現地当局によれば約30人が死亡した。20日には民間車両が爆撃され乗客ら20人が死亡。いずれもサウジ主導の連合軍の攻撃とみられ、フーシ派が報復としてミサイル発射を繰り返している可能性が高い。
 
フーシ派は23日、系列メディアを通じ、西部ホデイダで19日に行われた空爆で政治部門トップのサレハ・サマド氏が死亡したと明らかにした。サマド氏には、連合軍が拘束につながる情報提供に2000万ドル(約22億円)の報奨金を用意していた。
 
ただ、サマド氏は内戦終結に向けた交渉に前向きとも伝えられていた。フーシ派指導者アブドルマリク・フーシ氏は「この犯罪に必ず報復する」と宣言しており、フーシ派は一段と対決色を強めそうだ。【4月24日 時事】 
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サウジの迎撃への疑問 「PAC2」なのか「PAC3」なのか?】
サウジアラビアが迎撃に使用しているのはパトリオット。日本も対北朝鮮ミサイルのために配備しています。
サウジアラビアがパトリオットで有効に迎撃できているなら、日本も・・・という話にもなります。

フーシ派が強める(イラン製とされる)ミサイルによるサウジアラビア攻撃、サウジラビアによるミサイル迎撃については、疑問点がふたつあります。

ひとつは、サウジラビアが使用しているパトリオットのタイプ。報道やネット情報など、“PAC2”とするものと、日本が配備している“PAC3”とするもの・・・が混在しています。

サウジアラビアが両方アメリカから購入しているのは間違いありませんが、実際に使っているのはどっちなのか?

“2018年初頭時点でサウジアラビアが保有しているパトリオットは、PAC2およびPAC3であるが、後者は実戦配備に至っていないとの観測があり、多くはPAC2にて対応したものと考えられている。”【ウィキペディア】

軍事方面の知識がないのでよくわかりませんが、話は単純ではないようにも。

Nose Nobuyuki 氏は“サウジアラビア軍はパトリオットPAC-3システムによって迎撃、空中で撃破”としたうえで、“PAC-3システムは様々なバリエーションがあり、そのまま自衛隊による弾道ミサイル迎撃と比較することはできない”とも。

****そのまま自衛隊による弾道ミサイル迎撃と比較することはできない*****
ところで、発射された弾道ミサイルに対応してPAC-3システムの迎撃ミサイルが空中での撃破に成功…という流れは自衛隊の弾道ミサイル防衛と重なって見えるが、その点については不明だ。

というのはPAC-3システムには様々なバリエーションがあり、システム構築の仕方によって迎撃ミサイルの種類や通信系統等も変わって来るからだ。

迎撃ミサイルそのものがPAC-2GEM-Tなのか、PAC-3ミサイルなのか、それともPAC-3MSEなのかが判然としていない。(ミサイル自体の名称にPAC-3があるのでPAC-3システムと混同しないように気を付けたい)

日本のPAC-3システムの場合、PAC-3コンフィギュレーション3という段階にあり、対航空機用PAC2-GEMミサイルを搭載、さらに弾道ミサイル対処能力のあるPAC2-GM-Tに限りなく近い改修を施している。さらにPAC-3MSEというPAC-3ミサイルの射程延長型の導入も予算化されているという状況だ。

サウジアラビアがどんなシステムを構築して、どんな迎撃ミサイルをどのように発射したかが注目点となる。ブルカンH2弾道ミサイルは先月もリヤドのキング・ハーリド国際空港近くまで飛来、迎撃されている。【2017年12月 「ホウドウキョク」】
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一方、サウジアラビアの迎撃の成果を分析しているジェフリー・ルイス氏(ミドルベリー国際大学院東アジア不拡散プログラム・ディレクター)は、サウジアラビアが使用しているのは「PAC2」としています。

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公正を期すために付け加えるなら、サウジアラビアに配備されているパトリオットの改良型「PAC2」は、ホーシー派がリヤドに向けて発射している「ブルカン2H」の迎撃に向いていない。ブルカン2Hの飛行距離は約1000jで、弾頭が胴体部分から分離するタイプのようなのだ。【4月10日号 Newsweek日本語版】
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Nose Nobuyuki 氏が指摘するようなシステム名とミサイル名の問題もあって、素人にはよくわかりません。
この問題にこだわったのは、二番目の疑問点、「本当にサウジアラビアは迎撃に成功しているのか?」ということに関係してくるからです。

本当に迎撃に成功しているのか?】
迎撃に成功しているなら、「PAC2」でも「PAC3」でもどちらでもかまわないのですが、実際は失敗している・・・という話で、かつ、それが日本が配備している「PAC3」だということになると、「じゃ、日本のパトリオットは役に立つのか?」ということにもなります。

****フーシ派のミサイルを撃ち落とせなかったPAC3は頼りになるのか****
<イエメンからサウジアラビアに発射されたミサイルは、アメリカ製ミサイル防衛を突破して着弾していた。これで対北防衛は大丈夫か>

北朝鮮が予想を上回るスピードでミサイルの射程と威力を増大させているというのに、アメリカが誇るミサイル防衛システムの性能に疑問が生じている。最新の報告書は、アメリカの同盟諸国にとってさえ信頼に値しないレベルかもしれないと示唆している。(中略)

(11月のミサイル攻撃に関し)サウジアラビアは、フーシ派のミサイルはアメリカ製の地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」(PAC3)よって撃ち落とされた、と発表した。アメリカが世界各地に配備しているミサイル防衛システムだ。

ところが、アナリストのジェフリー・ルイス率いるミドルベリー国際大学院モントレー校の調査チームは、最新のレポートのなかで、それとは異なる「発見」を明らかにした。サウジアラビア当局やドナルド・トランプ大統領の言葉に疑問を投げかけるものだ。

ルイスはニューヨーク・タイムズ紙に対し、「各国政府はPAC3の性能についてとかく嘘をつく。あるいは誤った情報を伝えられている」と語る。「だとすれば、大いに憂慮すべきことだ」

ブルカンH-2は防衛網を突破した
ルイスの調査チームは、ソーシャルメディアで入手した写真や動画を分析した結果、サウジアラビアのPAC3から発射された5発の迎撃ミサイルは、飛んできたミサイルに当たらなかったと結論づけた。フーシ派が発射した短距離弾道ミサイル「ブルカンH-2」は、ミサイル防衛網を突破して着弾したという。

フーシ派が発射したミサイルは目標とみられる国際空港から約0.5マイル(800メートル)逸れて着弾したが、「スカッドの場合、このぐらい逸れることはよくある」とルイスは言う。フーシ派のブルカンH-2は、旧ソ連のスカットミサイルをベースにしたものだ。

「あと一歩で空港は壊滅するところだった」と、ルイスはニューヨーク・タイムズに語っている。

イエメン周辺でフーシ派と戦うサウジアラビア連合の広報担当者は、11月4日の攻撃の直後にBBCニュースで、ミサイルは「迎撃した」と語った。

(中略)イランを敵視するトランプも、ここぞとばかりにアメリカの軍事技術の有意性を強調した。

CNNによれば、11月5日に大統領専用機エアフォースワンで会見したトランプは、「われわれは世界最高の兵器を有している」と言った。「......ミサイルが消えるのを見ただろう? アメリカの防衛システムが空中で撃ち落としたのだ。それほどアメリカは優れている。どの国もアメリカの真似はできない。アメリカはいま、それを世界中に売っているのだ」

しかしルイスの調査チームは、もしサウジアラビアの迎撃ミサイルが当たっていたとしても、フーシ派が発射したミサイルの後方部分に当たっただけで、それは弾頭から切り離された不要な部分だったと推定している。弾頭は、ほぼ間違いなく地面に着弾したという。

フーシ派は、米軍にとって大きな脅威ではないかもしれない。だが、ミサイル攻撃を阻止できなかったとされるPAC3は、それよりはるかに怖い敵、すなわち北朝鮮に対する防衛の主力として位置づけられている。【2017年12月6日 Newsweek】
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全てのミサイルをたたき壊す魔法の杖はない
ジェフリー・ルイス氏は、昨年11月、12月、そして今年3月25日のミサイル攻撃について、【4月10日号 Newsweek日本語版】で「揺らぐパトリオット神話」と、改めて“迎撃失敗”を主張しています。

自国民や関係国を安心させるため、あるいは国際的に威信をまもるための“大本営発表”は、ありがちな話でもあります。秘密主義で閉鎖的なサウジアラビアのことはよくわかりません。

****安全と信じることが危険****
危険なのは、サウジアラビアとアメリカの指導者らが、自分たちのばかげた主張を信じるようになることだ。
 
その兆候は既にある。複数の米当局者が、17年11月に迎撃成功の例はなかったと確認したにもかかわらず、ドナルド・トランプ米大統領は全く異なる考え方を示した。
 
「わが国のシステムが、空中からミサイルを排除した」と、トランプは問題の攻撃があった翌日に記者団に語った。「これはわが国がいかに優れているかを示している」
 
トランプは同様の発言を繰り返している。北朝鮮の核ミサイルの脅威について問われたときも「わが国には、97%の確率でミサイルをたたき壊せるミサイルがある。それを2発、発射すれば撃墜は可能だ」と主張。ミサイル防衛があればアメリカは安全だと確信しているようだ。
 
あまりに危険な「安全神話」だ。特に今、トランプ政権はイランとの核合意を破棄する構えに見える。

これによってイランが北朝鮮と同じように、周辺地域にあるアメリカの友好国を、そして最終的にはアメリカ自体を攻撃できる核の能力を開発する道をたどる可能性がある。

だからこそ私たちは、真実を見据えなくてはならない。ミサイル防衛システムは、ますます高性能になるミサイルがもたらす難題の解決策にはならない。核兵器の攻撃の対象となることから逃れる手段を提供するものでもない。
 
アメリカとその同盟国を狙う全てのミサイルをたたき壊す魔法の杖はない。それらの兵器を造らないよラ各国を説得することが唯一の解決策だ。それに失敗すれば、防衛システムが私たちを助けてくれることはないのだから。【4月10日号 Newsweek日本語版 ジェフリー・ルイス氏「揺らぐパトリオット神話」】
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韓国  住民・市民団体が実力阻止してきたTHAAD基地へ資材搬入に着手 民主主義における“実力行使”

2018-04-23 23:10:17 | 東アジア

(米軍のベトナム戦争への戦車搬送を実力行使で阻止しようとした、横浜市・飛鳥田市長の「村雨橋の闘争」(1972年)朝日新聞紙面より【https://twitter.com/ats_rns_2/status/778930359392018432?lang=bg】)

民間人の検問で「孤島」状態に
北朝鮮の核・ミサイルに対処するため、朴槿恵政権時代の2016年7月、米韓両軍はTHAAD配備を決め、これに激しく反発する中国が韓国に対し旅行の制限等の制裁的措置を発動してきたことは周知のところです。

ただ、地元住民の激しい抵抗や、朴槿恵大統領の弾劾罷免、左派文在寅大統領の誕生といった政治の動きもあって、最初に暫定的に配備されて以降、追加配備は中断していました。

****韓国、米THAAD追加配備に衝撃 文氏知らされず****
韓国政府は(2017年5月)30日、在韓米軍が地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の発射台4基を韓国に追加搬入していたと発表した。

文在寅(ムン・ジェイン)大統領は韓国国防省がその事実を大統領府に報告していなかったとして、真相究明を指示した。韓国でTHAAD配備を巡る混乱が長引けば、米軍のTHAAD運用構想にも影響する可能性がある。(中略)

文氏は米軍による追加搬入について、誰が国民に非公開とし、なぜ新政権に報告しなかったのかについて徹底した調査を指示した。国防省は「26日に安保室長に報告した」と弁明したが、大統領府は「その事実はない」と突っぱねた。
 
THAADは北朝鮮の核・ミサイルに対処するため、朴槿恵(パク・クネ)政権時代の昨年7月、米韓両軍が配備を決めた。

米軍は今年3月から韓国に装備の搬入を始め、4月26日には配備先である南部の慶尚北道・星州(ソンジュ)の敷地に発射台2基とレーダーを運び込み、すでに運用が始まっている。発射台は6基で運用する体系で、4基が追加配備されればシステムが完成する。(中略)
 
新政権にとって、THAAD配備はデリケートな問題だ。安保を重視する保守層が賛成する一方、中国との関係悪化を懸念する革新層が反対するなど、世論も分かれている。

文氏は大統領選の期間中「新政権が判断すること」と明確な立場表明を避け、大統領就任後も「米中との首脳会談の結果も考慮して、慎重に対応する」と語っていた。(後略)【2017年5月30日 日経】
*******************

その後の北朝鮮による大陸間弾道ミサイル発射実験を受けて、文在寅大統領もTHAAD追加配備を認める姿勢に転じ、昨年9月、発射台の暫定配備が行われました。

****THAAD暫定配備が完了 韓国に6基、中国激しく反発****
韓国への配備が遅れていた米軍の高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD〈サード〉)の残る発射台4基などが7日朝、南部・慶尚北道星州(キョンサンプクトソンジュ)の用地に搬入され、予定していた6基の暫定配備が完了した。数日内に稼働を始める見通し。

北朝鮮の弾道ミサイルに対抗し、日米韓の防衛協力を強化する措置だが、中国は激しく反発している。
 
(中略)4月末に装備が韓国に到着したが、用地の整備や電力供給が間に合わず、発射台2基が先行して暫定配備された。

5月に誕生した文在寅(ムンジェイン)政権は当初、残る4基の追加配備に慎重な姿勢を示したが、7月28日の北朝鮮による大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星(ファソン)14」の発射を契機に、追加配備を認めた。(中略)
 
配備先用地から数キロ離れた場所では、現地住民約350人が車や人垣でバリケードを作り、THAADの搬入を阻止しようとした。6日深夜から警官隊と衝突し、数十人がけがをした。【2017年9月7日 朝日】
*******************

その後も、住民らの実力で物資搬入を阻止する激しい反対運動が続います。
住民らによる超法規的“検問”で、米軍からは、食料も十分に搬入できない“孤島”のようになっているとの不満も出ていました。

****ここは本当に韓国なの?」孤立するTHAAD基地に米軍から不満の声続出=韓国ネットからも懸念の声****
2018年4月13日、韓国・朝鮮日報は在韓米軍の星州(ソンジュ)高高度防衛ミサイル(THAAD)基地について「反対派団体と一部の地域住民が昨年4月から入口で検問を行っており、米軍の『孤島』のようになっている」と伝えた。

記事によると、同基地への韓国軍の出入りは可能だが、米軍と機器の搬入は徹底的に妨害されているという。

そのため米軍はヘリコプターで基地に出入りし、燃料類もヘリコプターで空輸、非常発電機を用いてTHAADレーダーを稼動しているとのこと。調理設備もなく食料品供給も制限されているため、米軍将兵はほとんどの食事を戦闘用食糧で賄っているそうだ。

このような状況は1年近く続いているそうで、在韓米軍からは「公権力でない民間人らが部隊の前で検問し、出入りを制限する状況を到底理解できない。ここは本当に大韓民国なのか」「韓国警察が100〜200人規模のデモ隊も解散させられないなんて、韓国政府のTHAAD配備への意思を疑わざるを得ない」などの不満が続出しているという。

現在、星州THAAD基地には6基の発射台とレーダー(AN/TPY−2)、発電機など1基分の砲台設備が配備されているという。

反対団体のため、発射台1基当たり8発ずつ、最大48発の弾道弾迎撃用ミサイルのほか、予備弾(ミサイル)はまだ星州基地に搬入されておらず、慶尚北道(キョンサンプクト)倭館(ウェグァン)のキャンプ・キャロルに保管されているとのこと。

軍関係者は「THAADが臨時配備されているが、北朝鮮の弾道ミサイル発射を検出・迎撃するには問題がない」と語ったというが、専門家は「電気設備などの関連工事が全く行われておらず、安定運用に制限があるだろう」と述べているという。

この報道を受け、韓国のネットユーザーからは「国家の安全保障は一部個人の利益より国全体の利益を考慮しなければならない」「現政府はTHAAD運用に支障がないよう積極的に問題解決を」「早急に通常稼働状態に入るべき」など、THAAD反対派の活動への否定的な声が寄せられた。

その一方で「THAADごと撤退すれば全て問題は解決するぞ」「北朝鮮のミサイルが飛んで来てもどうせ役に立たない」など、THAAD反対派を擁護する意見も見られた。【4月13日 Record china】
*******************

こうした事態に、韓国国防部は「これ以上引き延ばすことはできない」として、23日、抵抗する住民らを強制排除して基地の施設工事のための資材搬入を開始しました。

****これ以上延期できない」 THAAD基地への資材搬入開始=韓国当局****
韓国軍当局は23日、米国の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD、サード)」が配備された南部・慶尚北道星州郡にある基地の施設工事のための資材搬入を開始した。

国防部はこの日、メディアに配布した資料で「現在急がれている、星州基地に駐留する兵士の生活環境改善工事をこれ以上引き延ばすことはできないと判断し、警察と協力してきょうから工事に必要な人力、資材、装備の輸送を開始することにした」と明らかにした。

警察はTHAAD配備に反対して基地付近で座り込みを行っていた市民団体や地元住民らの強制排除に乗り出し、工事資材を搬入するための進入路確保に着手した。

国防部は12日にも兵士らの滞在施設工事のための資材搬入を試みたが、これら資材がTHAAD作戦運用施設の工事に使われることを警戒する市民団体や地元住民の反発により、ひとまず搬入を保留していた。

在韓米軍はTHAAD基地の工事現場を住民代表に公開するとの立場を示したが、市民団体は反発を続け、国防部との対話では接点を見いだせなかった。

同部は16日に「兵士の生活環境改善工事をこれ以上延期できない状況であり、対話を通じて円満に解決できない場合、必要な措置を講じるしかない」として資材搬入を強行する可能性を示唆した。

国防部関係者は「住民の意見を最大限尊重して可能な範囲内で民主的手続きを順守し、透明性を維持しようとしたが、これ以上対話を通じて円満に解決するのが困難な状況だと判断し、やむを得ず警察と協力して工事を始めることにした」と述べた。【4月23日 聯合ニュース】
*****************

おそらく、アメリカ側からの強い圧力もあってのことだろう・・・とは推測されます。

THAAD問題に限らず、慰安婦少女像設置などでも、国際法・国内法や当局指示を押し切る形での市民団体の実力行使も頻繁に目にするところで、こうした行動は韓国社会・政治の現代的一面ともなっています。

慰安婦少女像に続き、釜山の日本総領事館前に、日本の朝鮮半島統治下で「強制された」という徴用工の像が設置されるという話が出ており、文政権も対応に苦慮しているとか。

****釜山に徴用工像設置計画 訪日前の文在寅大統領どう決断 息巻く韓国市民団体****
慰安婦問題をめぐる日韓合意の精神に反し、2016年12月に釜山の日本総領事館前に設置された慰安婦像のそばに、今度は日本の朝鮮半島統治下で「強制された」という徴用工の像が設置されそうだ。

これ以上の対日関係悪化を避けたい韓国政府は「設置は望ましくない」と公式に伝えたが、市民団体は「絶対に設置する」と息巻く。設置がまた強行されれば、日韓関係の一層の泥沼化は不可避だ。
                 ◇
釜山での徴用工像の設置計画は昨年3月に判明。全国民主労働組合総連盟(民主労総)などが今年5月1日の設置を目指している。
 
民主労総を中心とする市民団体は慰安婦像の横に徴用工像を設置する許可を釜山市に求めていたが、市側は今月3日、許可せず市内の「国立日帝強制動員歴史館」への設置を促した。
 
徴用工像設置の動きに、訪韓した河野太郎外相が11日、康京和(カン・ギョンファ)外相に「望ましくない」との立場を伝えた。

韓国外務省は16日に公文書を市民団体側に送付。「像の設置は外交公館の保護と関連した国際礼譲と慣行の側面で適切でなく、外交的な摩擦を呼ぶ可能性が高い」と懸念を伝えた。
 
同省報道官は19日、文書の内容を公開し、市と同じく「歴史館など適切な場所への設置が望ましい」と言及。設置の動きには「関連法令に従い政府の次元で必要な措置を検討していくことになる」と強い姿勢を示した。それでも、市民団体側は像の設置を強行する構えだ。(後略)【4月23日 産経】
******************

かつて日本では、横浜市長が米軍戦車を止めたことも
こうした住民・市民団体等の実力行使に対し、日本では「韓国という国は・・・」といった否定的な声も出るところでしょうが、私のような年寄りからすれば、日本でもかつてはよくあった話です。

成田空港建設予定地での、60年代後半から77年開業に向けての地元住民及び新左翼活動家らによる反対闘争、いわゆる三里塚闘争(反対運動は成田開業後も継続)などが、実力行使の典型例でしょう。

激しい反対運動によって開港が当初予定より大幅に遅れただけでなく、双方に死者を出す惨事となりました。また、開業も続く抵抗運動のため、空港の拡張も停滞し、成田空港の機能にも大きく影響しました。

“左翼過激派”の代名詞ともなった三里塚闘争より、個人的記憶でインパクトがあったのは、ベトナム戦争末期の1972年、のちに社会党委員長となる飛鳥田横浜市長(当時)が主導して、米軍の戦車搬送を実力で阻止した「村雨橋の闘争」でした。

****忘れてはいけない「村雨橋の闘争****
1972年、時はベトナム戦争が終盤に近づいている頃、アメリカ軍は何トンもある戦車を相模原の基地から、横浜港のノースピアまで持って行き、そこで空母などに載せベトナムへ運ぼうと計画した。ノースピアの入り口には、村雨橋という橋が架かっている.

そして、沢山の日本人が「ベトナム戦争反対」の活動をしていた。当時の横浜市長、飛鳥田一雄は元々弁護士でもあったので、道路交通法を使い阻止しようとした。重たい戦車が村雨橋を通るのは重量制限違反とした。

しかし、国は直ぐさま国会で道路交通法の重量制限を改訂し、戦車でも村雨橋を通過できるとしてしまった。
市長はあらゆる策を考慮したが、残るは実力行使しかないという結論に達した。

そして、相模原や横浜などの市民団体や学生、横浜市の職員など沢山の人々が、連日村雨橋に座り込みをした.小競り合いで多数のケガ人を出し、数百人が逮捕された。この闘争は100日間に渡り続いた。(中略)

現実には村雨橋の闘争の1972年には、私は欧州へ行ってしまっているが、60年代(それ以前から始まっていただろうけど)から70年代にかけて、人々はもっと個人で考え行動する自由があったような気がする。

言論と表現の自由ももっとあったように感じる。マスメディアも今より"ジャーナリズムとは?"という哲学を真剣に考えていたのではないか?大学生は議論や討論に情熱をもやし、何が正しいことかを真剣に考えていたはずだ。

時代は、高度経済成長の負の象徴である、水俣病、四日市病、イタイイタイ病などで、日本は一大公害大国として知れ渡り、経済成長のためなら住民の健康や命の犠牲をもいとわないという政府のやり方に、世界中から非難された。それに立ち向かった人々、学生運動、浅間山荘事件、ハイジャック事件など、例を挙げたら切りがないが・・・

多分、1972年頃から急に政府の弾圧は強くなったのではないかと思う。市民や学生が集会を開いたり政治活動をしないような仕掛け、教育は企業戦士養成所としての機能しかない。

いつのまにか市民は人ではなく、消費者としての価値しか認められなくなった。私自身は時々横浜に戻ってくる度に、日本社会が遠のいていくような気がした。高校の時の友人達は、おカネの話とバーゲンの話しかしなくなった・・・・【2011年9月6日 BLOGOS】
********************

こうした話に、今度は「サヨクの連中は・・・」という批判も出るのでしょうが、おそらく右でも左でも関係ない、政権・国家の意図するものと考えが異なるとき、通常の手段では阻止できないと考えるとき、どうするのか?という、民主主義の現実政治における選択の問題でしょう。

微妙な問題で、ケースバイケースとしか言いようのないところもありますが、いずれにしても、現在の日本ではそうした“実力行使”のような空気は希薄になっています。

それが、社会の成熟というものなのか、“個人で考え行動する自由”が形骸化した社会の衰退・老化を意味するのか・・・・。
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シリア  「ミッション完了」でも変わらない内戦 悪化する米ロ関係 新たな過激派組織の台頭も

2018-04-22 22:55:04 | 中東情勢

(シリア政府軍との戦闘で発射される新たな過激派組織HTSのミサイル【4月19日 WSJ】)

戦略なき「ミッション完了」で、シリア戦線に変化なし
4月14日にシリアに対してトランプ大統領主導の米英仏によって行われた極めて限定的な攻撃については、おおよそ以下のように総括されています。

・この攻撃でシリアの化学兵器に関する能力が完全になくなった訳ではない。ただし、次にまた使ったら・・・という一定のレッドラインをシリア側につきつける形にはなった。

・しかし、そのことは逆に言えば、化学兵器さえ使わなければ、これまで同様の反体制派への攻撃は許容されるということをシリア側に示すことにもなった。

・いずれにしても、シリアの後ろ盾となっているロシアとアメリカの対立が厳しいものになってきている。

・アメリカ・トランプ大統領には、今後シリアにどのように関与していくのかについての明確な戦略がない。

・結論的には、シリア情勢を変えるような攻撃ではなかった。

****シリア攻撃はトランプの“茶番” 被害は3人のけが人だけ****
米英仏3カ国が4月14日未明、シリアのアサド政権が化学兵器を使用したとして武力行使に踏み切った。

しかし、アサド氏に対するトランプ米大統領の強硬な言葉とは裏腹に、攻撃はロシアやイランに被害が出ないよう抑制された出来レースのような趣が強く、アサド政権の戦争継続能力に「なんら影響のない“茶番”」(ベイルート筋)。かえって米欧の及び腰が浮き彫りになった。

新しいレッドライン
(中略)英仏が攻撃に賛同し、西側主要国の結束を示すことができたのはトランプ大統領にとっては大きな成果だった。
 
しかし、ダンフォード米統合参謀本部議長によると、ロシア側にはシリアでの衝突を回避するホットラインを通じて、事前に通告していたといい、ロシア軍は標的周辺から退避するなどして被害はなし。イラン関係者やアサド政権軍にも大きな損害はなかった。

シナリオ通りに出来レースが実施された感が強い。“茶番”と言われても否定はできない面があるだろう。
 
とはいえ、ロシアのプーチン大統領は「国際法違反の侵略」、イランの最高指導者ハメネイ師も「戦争犯罪」と米英仏を強く非難した。(中略)

ミサイル攻撃の人的被害は3人のけが人だけとされており、この程度の攻撃ではイランやロシアなどからの報復もないだろう。

トランプ政権がロシア軍との対決激化を招ねかないよう配慮したあまり、肝心の標的だったアサド政権の戦争継続能力を削ぐ効果はほとんどなかったのが実情だ。
 
むしろ、攻撃はアサド政権に打撃を与えるというより、米欧の「レッドライン」(超えてはならない一線)を示すことが目的だったように見える。

逆に言うと、化学兵器を使用しない通常兵器であれば、どんな攻撃でも、どんなに民間人に死傷者が出ようとも米欧は容認するというシグナルでもある。

アサド氏がそのように受け取ったとすれば、今後も焼夷弾のような樽爆弾など、残虐な殺戮兵器が使われ続けることになるのは確実だ。

戦略なき「ミッション完了」
トランプ大統領は攻撃の後、「完璧な攻撃だった」「ミッションは完了した」と宣言し、攻撃が成功したことを誇示した。しかし「ミッションとはそもそも何だったのか」(米紙)、大きな疑問が残る。

アサド政権の化学兵器の壊滅に使命を限定すれば、確かにその化学兵器製造能力は今回の攻撃で弱体化したのは事実だが、化学兵器を他に隠匿していないという保証はない。
 
最も重要なことはこの攻撃が、50万人以上の国民が犠牲になり、1000万人以上が難民化しているシリア内戦を、終結に導く一助となるかどうかだ。だが、その可能性は小さい。

アサド政権だけではなく、ロシア、イランの米国に対する反発が強まり、双方の対立の激化は免れまい。
 
トランプ氏の思い描くミッションには元々、シリアの平和や安定の確保などが含まれているとは思えない。トランプ氏が米第一主義の観点から折に触れて言ってきたのは、2001年の米中枢同時テロ以降に始まった米国の中東介入は「人命とカネの無駄遣いだった」というものであり、4月に入ってからもシリアからの早期撤退論を語っていた。
 
大統領は数日前に遊説先で、シリアの内戦について「他の連中に面倒を見させておけばいい」と本音をのぞかせ、内戦終結や政治決着に主導権を発揮するつもりのないことを明らかにした。

さらに攻撃の際の発表でも「中東はやっかいな場所だ。米国は友人ではあるが、地域の運命はその国の国民自身に委ねられる」と突き放した。そこには、米国の利益にならない地域から1日も早く撤退したい、との思惑がにじむ。

包括的な戦略が欠如
厄介事に手を染めたくないというのはトランプ氏に限ったことではない。英国のメイ首相も「攻撃が内戦への介入や政権交代を目指したものではない」ことを強調している。

総じて言えるのは、特にトランプ大統領には「世界の不安定要因であるシリア問題にどう対処するのか、包括的な戦略が欠如している」(アナリスト)ことだ。今回攻撃に踏み切ったのは、シリア政策での弱腰を非難してきたオバマ前大統領に単に対抗するためだったのではないか。(中略)
 
トランプ氏が思惑通り、シリア紛争からきれいさっぱりと手を洗うのはそう簡単ではない。【4月16日 佐々木伸氏WEDGE】
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米ロ対立の防波堤ともなっているトランプ大統領?】
ロシアとの関係でいうと、“ロシア軍との対決激化を招ねかないよう配慮した”ものではあったとしても、関係が緊張するのは避けられないところで、へイリー米国連大使が15日に出演したCBSの番組で、化学兵器が使われた疑惑について、アサド政権を支援しているロシアにも責任があると指摘。ムニューシン財務長官がロシア企業などを対象にした制裁を発表すると明らかにしました。

いよいよ米ロによる制裁合戦か・・・とも懸念されていましたが、この対ロシア制裁はトランプ大統領の意向でドタキャンされることに。

****トランプ氏、対露制裁を見送り ヘイリー米国連大使の発言に怒り****
(中略)トランプ政権は今回の事態について「ヘイリー氏の言い間違い」とする立場を決定。

ヘイリー氏は日頃、慎重居士として知られ、テレビで発言する前にトランプ氏と綿密に相談しているとされるものの、政権の一人は「ヘイリー氏がトランプ氏の意図を誤解した可能性がある」とした。
 
トランプ氏は自身を「歴代大統領で最もロシアに強硬だ」と主張し、今回のシリア攻撃でも「任務完了」などと述べて成果を誇示した。

しかし、攻撃ではロシアが提供したシリア軍の防空ミサイル網や化学兵器運搬用のヘリや攻撃機は標的から外され、シリア軍は壊滅的打撃を免れた。
 
また、複数の米メディアによれば、トランプ氏は補佐官らから提示された3つの軍事的選択肢のうち、効果が最も限定的な作戦案を選んだとされ、ロシアのプーチン政権との対立を回避する姿勢が際立つ結果となっている。【4月17日 産経】
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「ヘイリー氏の言い間違い」と、ヘイリー氏ひとりに責任が負わされた形ですが、トランプ政権内の意見の食い違い、あるいはトランプ大統領の発言が一変することは今に始まった話ではありません。

トランプ大統領が、就任前からプーチン大統領との関係強化を望んでいることは周知のところです。(ロシア疑惑で身動きが取れない状態にはなっていますが)

上記記事によれば、そうしたロシアとの関係を重視するトランプ大統領の意向が、米ロの決定的対立を未然に防止するうえで機能している・・・ともとれます。

ただ、シリア攻撃決定の内情については、まったく逆の、トランプ大統領は当初ロシア軍基地をも攻撃対象にしようとしていたとの報道もあります。

****トランプ大統領が国防長官に譲歩〜米有力紙****
アメリカなどがシリアに対して行った軍事行動について、有力紙は16日、「トランプ大統領がマティス国防長官に譲歩した結果だった」などと舞台裏を報じた。(中略)

また、大統領は安全保障チームにシリア国内にいるロシアやイランの部隊を標的にした攻撃も検討するよう求めたが、マティス国防長官が「危険な反応を引き起こすリスクが高まる」などと反対。結局、大統領が譲歩したという。(後略)【4月17日 日テレNEWS24】
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上記記事によれば、ロシアとの衝突を回避したのマティス国防長官の説得に応じたたため・・・ということになりますが、そのあたりの真相はわかりません。

トランプ大統領はロシア訪問の希望をプーチン大統領に示しているとのことで、ロシア側から「ロシア訪問の話はどうなっているのか?」とせっつかれているとか。

****トランプ大統領、プーチン大統領にロシア訪問意思を表明-ラブロフ氏****
トランプ大統領はプーチン大統領に対し、ワシントンでの会談に引き続き招待するとともに自らのロシア訪問も提案したと、ロシアのラブロフ外相が明らかにした。
  
ラブロフ外相が20日放送された国営ロシア通信(RIA)とのインタビューで語ったところでは、トランプ大統領はプーチン大統領に「ホワイトハウスで会談したい。そうなれば、今度はこちらから喜んで訪問し、(ロシアで)再び会うことになるだろう」と述べたという。「トランプ大統領は何度かこの話題に触れた」とラブロフ氏は続けた。
  
トランプ大統領は3月、プーチン大統領に選挙での再選を祝福するために電話し、その際に訪米を招請していた。

ラブロフ外相によると、プーチン大統領はトランプ大統領との会談に前向きだが、今のところ会談準備は行われていない。【4月21日 Bloomberg】
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ロシア疑惑の渦中で、北朝鮮問題などもある状況では、なかなかロシア訪問のタイミングも難しいかも。

シリアの内戦は「他の連中に面倒を見させておけばいい」】
場当たり的・思い付き的で、一貫した戦略がない・・・と批判されることが多いトランプ大統領ですが、シリア問題に関して、米軍部隊の撤収と入れ替えに中東・湾岸諸国による合同軍部隊を派遣させることを計画しているとのことです。

****シリア情勢】米軍撤収後、合同部隊派遣も トランプ政権、中東・湾岸諸国に協力要請 米紙報道****
米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は16日、トランプ政権がシリアでのイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)掃討作戦の終結後、米軍部隊の撤収と入れ替えに中東・湾岸諸国によるシリア北東部安定化のための合同軍部隊を派遣させることを計画していることが分かったと報じた。
 
米政府当局者らが同紙に語ったところでは、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が最近、エジプトの情報機関「総合情報庁」(GIS)のカメル長官代行と電話で会談した際、エジプトが部隊派遣に協力できるか打診した。
 
トランプ政権はまた、サウジアラビアとカタール、アラブ首長国連邦(UAE)に対しても、シリア情勢の安定化に向けて数十億ドルを拠出するよう要請するとともに、部隊派遣も求めているとしている。
 
トランプ大統領は、13日のシリア攻撃発表の際の演説で、シリアの周辺国が情勢安定化に貢献するよう強く要請。一方、約2千人規模のシリア駐留米軍の早期撤収を主張するトランプ氏に対し、政権内部ではイランやロシア、他の過激組織に付け入る余地を与えるとして異論が出ていた。
 
今回の構想は、米軍撤収は実現させつつ、それによって「力の空白」が生じるのを防ぐのが狙い。トランプ政権としては、イランの影響力拡大を恐れる中東・湾岸諸国が積極的に協力に応じてくるとの計算があるとみられる。【4月17日 産経】
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シリアのことなど「他の連中に面倒を見させておけばいい」という大統領の本音に沿ったプランです。

アメリカはシリアの泥沼から抜け出せ、「力の空白」を生むこともない・・・・トランプ大統領が「素晴らしい!」と自画自賛するのが目に浮かぶようなプランですが、中東・湾岸諸国による合同軍部隊に「力の空白」を埋めることを期待できるのか?

“専門家は同紙に、米軍がある程度の部隊残留に同意しない限り、アラブ諸国は派兵に前向きにならないと指摘している。”【4月17日 時事】とも。

イエメンの泥沼にはまっているサウジアラビアや、イスラム過激派のテロに手を焼くエジプトに、シリアに派兵して混乱を防ぐような意向・余力があるのか?

また、仮に実現したとして、サウジアラビアとイラン・ヒズボラの対立がシリアで火を噴くようなことにはならないのか?

すんなり実現はしないような話です。

新たな過激派組織HTSの台頭も
トランプ大統領としては一定にけりをつけたと考えているISは、完全に消滅したわけではなく、復活の兆しもあるとも指摘されています。

****イスラム国」復活の兆候も****
・・・一方、シリアとイラクでIS掃討作戦に臨む有志連合軍の報道官、ライアン・ディロン大佐は17日の記者会見で、シリアにおけるISからの奪回地域をバッシャール・アサド大統領の政権軍やロシア軍が保持しきれていないと警告した。
 
ディロン大佐によれば、有志連合軍の非活動地域や現地の同盟部隊が連合軍の支援を受けていない地域に着目するとIS勢力の巻き返しがみられ、再びISに占拠される恐れのある地域が首都ダマスカス南郊を含む各地に存在する。すでにユーフラテス川の西岸でIS復活の兆候が確認されているとという。
 
米国防総省によると、米軍は現在もシリアとイラクでISから奪回した地域の監視を続けている。【4月18日 AFP】
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一方、シリア政府軍はダマスカス郊外の東グータ地区を掌握し、反体制派はイドリブへ移っています。
これまでもアレッポなど反体制派拠点を落とすたびに、イドリブへ追いやってきていますので、政権側としては、抵抗する連中をイドリブに全員を集めて一気に決着をつけよう・・・との思惑でしょう。

必然的に、次の戦いの場はイドリブになります。
そのイドリブでは、新たな過激派組織が台頭しているとの報道も。

***シリアで新たな過激派組織が台頭、IS衰退の中****
HTSはダマスカス制圧目指しシャリアを強要

シリアでは米軍が過激派「イスラム国(IS)」の残党との戦いと、アサド政権の化学兵器施設への攻撃に注力している中で、北西部で国際テロ組織アルカイダから派生した危険な新過激派組織 「ハヤト・タハリール・アルシャム(HTS)」が勢力基盤を固めつつある。
  
HTSはシリアで非常に強大な過激派グループとして台頭し、西側が支援する反体制派武装組織と戦い、イドリブ一帯で勢力を拡大している。HTSは住民に対しシャリア(イスラム法)を強要し、人や物に課税して資金を調達している。
 
アルカイダの戦闘員だったHTSの指導者アブ・モハマメド・アルジュラニ氏は、ダマスカスを制圧し、シリア全土にイスラム法を適用すると表明している。(中略)

アナリストによれば、HTSはアルカイダのシリア関連組織だったヌスラ戦線の分派で、数千人の戦闘員を動員してイドリブ一帯で足場を固めている。

これに対し米国は駐留米軍がシリアのその他の地域でISの残党との戦いに専念する一方で、ドナルド・トランプ大統領は早急にシリアから撤収する方針を打ち出している。(中略)

HTSは敵勢力とも激しく戦っている。2月には、それまで4カ月間にわたった戦闘の末イドリブのIS細胞の残党を降伏させたと発表した。3月には、アレッポ、イドリブ両県で約25の村を制圧し、戦車や装甲車を捕獲したと主張した。
  
4月に入ると、HTSはホムスやハマー、アレッポの各地域で迫撃砲や狙撃兵を使ってシリア政府軍と戦闘を展開している。
 
住民によると、HTSは支配下に置いた地域では、ISと同じように宗教警察を設置した。HTSは当初は、コーランを暗記した子供に菓子を与えていたが、すぐに禁煙の一環として水タバコを壊したり、衣料品店にはマネキンの頭を覆うよう命じたりした。イドリブの住民によれば、美容室はメイクを施さないよう指示された。(中略)

住民たちによると、HTSは婚姻関係を結ぶことなく交際した男女を投獄した。また昨年末には、男女共学のクラスがあるという理由で、北部の町アルダナの大学を閉鎖した。さらにサラケブという町では、住民たちがHTSなど過激派集団からの脅威をものともせず、シリアで1953年以来初めての直接選挙を昨年実施したが、HTSがこの町議会を管理下に置いた。(中略)

イドリブの無秩序状態に拍車をかけているのが、5万人近くの人々が最近到着したことだった。彼らはダマスカス郊外の東グータから逃げてきた人々で、反政府勢力を含んでいる。東グータは、アサド政権による残忍な弾圧の舞台となっている場所だ。
 
こうした人々の新たな到来で、イドリブの人道的危機は一段と悪化している。イドリブでは既に、国内で行き場をなくしたシリア人約100万人が生活している。

劣悪な生活環境や働き口がないことから、この地域は過激派集団による新兵勧誘活動にとって格好の舞台になっている。過激派集団は、戦闘の意欲があるのであれば、ぎりぎり生活できるだけの賃金を誰に対しても約束している。(後略)【4月19日 WSJ】
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インドネシア  庶民派と「強い指導者」・旧体制派の対立構図 イスラム主義の影響拡大は?

2018-04-21 22:21:25 | 東南アジア

(インドネシア・アチェ州の州都バンダアチェにあるモスク前で、公開むち打ち刑を受ける女性(2018年4月20日撮影)。【4月20日 AFP】)

【「30年にGDPで世界トップ10になる」対「インドネシアは30年に崩壊する」 「強い指導者」への郷愁も
周知のようにインドネシアは人口2.6億人(2016年)と世界第4位の人口大国であり、世界最大のムスリム国家です。(憲法で宗教の自由が保障されており、イスラム教を国教としている訳ではありません。観光地バリ島はヒンズー教ですし、キリスト教徒が多い島・地域もあります。)

金、スズ、石油、石炭、天然ガス、銅、ニッケルの天然資源にも恵まれています。

経済の方は、2000年以降、概ね5~6%内外のGDP成長率が続いています。

その結果どうなるのかと言えば、“プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の予測ではインドネシアは50年までに日本を抜いて中国、インド、米国に次ぐ世界4位の経済大国になる。”【4月4日 日経】とのことです。

もっとも、ジョコ政権に批判的な野党からは「インドネシアは30年に崩壊する」との指摘もあるようで、これに対しジョコ大統領は「30年に国内総生産(GDP)で世界トップ10になる」(現在は16位)と応戦しているとか。

****インドネシア、「2030年論争」過熱 大統領選控え与野党が舌戦 *****
東南アジア最大経済国のインドネシアで2030年の国家像を巡る論争が過熱している。

ジョコ大統領は4日、「30年に国内総生産(GDP)で世界トップ10になる」と宣言した。一方、野党指導者のプラボウォ氏は「このままでは30年に国家が崩壊する」と政府批判を強め、メディアで議論が連日続く。

発展か、衰退か。同国の将来を巡る「2030年論争」が19年4月の大統領選挙の争点のひとつに急浮上した。

「『メーキング・インドネシア4.0』で世界トップ10の経済をつくろう」。ジョコ氏は4日、産業育成の重点分野を示した「産業ロードマップ(行程表)」を発表した。

人工知能(AI)やあらゆるモノがネットにつながる「IoT」などを活用して産業の革新を起こし、世界10位以内の経済大国になると宣言した。
 
自動車、電機、繊維、化学、食品の5分野を重点産業と位置づけ、法人税減免や規制緩和も進める。14年に発足したジョコ政権下でこうした行程表を示すのは初めてだ。(中略)

産業省幹部は「GDPを年間1~2%加速させたい」と話す。インドネシアはGDPの規模で現在、世界16位。現在5%程度の成長率を年間6~7%程度に高めて、10位以内を目指すという。
 
ジョコ氏がこうした明るい将来像を国内外に示した背景には、再選を目指すとされる大統領選を前に、国の将来像への関心が高まっているからだ。きっかけとなったのはジョコ氏のライバルで、大統領選に出馬するとの観測が出ているプラボウォ氏の発言だ。
 
「インドネシアは30年に崩壊する」。同発言は3月中旬、同氏が党首を務めるグリンドラ党のフェイスブックに掲載された。

強いリーダーがいないため、外資に支配されて国が滅びるという米国のPWシンガー氏とオーガスト・コール氏が15年に出版した小説『ゴースト・フリート』が主張の根拠になっているという。

メディアは連日、関係者の発言への賛否を伝え、議論は熱を帯びている。
 
インドネシアではスハルト政権が1998年まで30年間続いた。強権的で経済を私物化したとの批判も強く、市民のデモをきっかけに政権は崩壊した。

一方、スハルト氏の時代は中央政府主導で経済開発が進展したこともあり「強い指導者」への郷愁を口にする人も少なくない。

グリンドラ党の幹部は「インドネシアにはプーチン(ロシア大統領)が必要だ」と主張する。軍出身のプラボウォ氏こそ大統領にふさわしいという意味合いだ。(中略)

(人口・資源にも恵まれたインドネシアの)今後の成長を疑う人は少ない。ただ、東南アジア諸国連合(ASEAN)周辺国やインドなど他の新興国との競争は激しい。規制緩和や税制改革を一層進めて、国内外の投資を活発化させて競争に勝ち抜く必要がある。【4月4日 日経】
********************

次期大統領選挙:庶民派のジョコ大統領と軍・財界・スハルト一族など旧体制勢力の対決の構図
次期大統領選挙は来年2019年で、前回と同じジョコ大統領と元軍司令官のプラボウォ氏の対決が予想されています。

****インドネシア大統領選、野党はプラボウォ氏擁立 ジョコ氏と再対決****
インドネシアの野党グリンドル党は、2019年の大統領選でプラボウォ元陸軍戦略予備軍司令官を党の大統領候補に擁立することを確認し、プラボウォ氏がこれを受け入れたことを明らかにした。

プラボウォ氏は2014年の前回選挙でジョコ大統領に僅差で敗れており、両氏が再び顔を合わせることになる。

ジョコ大統領は大半の世論調査でプラボウォ氏をリードしており、インド・バロメーターが1月下旬に実施した調査では、ジョコ氏の支持率が48.8%、プラボウォ氏が22.3%、未定が28.9%となった。【4月12日 ロイター】
*****************

プラボウォ氏は、“開発独裁”を牽引したスハルト元大統領の娘婿で、スハルト・ファミリーの一員でもありますが、スハルト元大統領の三男トミー氏も大統領選挙出馬を狙っているとか。

ただ、このトミー氏は、かつて汚職で有罪判決を受けた際に逃走し、最高裁判事を手下に命じて殺害したという“前科”の持ち主です。

****インドネシア・スハルト一族に復活の動き──3男トミーが大統領狙う****
<2019年の大統領選は、現職の庶民派・ジョコ・ウィドド大統領に対し、軍・財界・スハルト一族などの旧体制側が挑戦する構図になりそうだ>

インドネシアで32年間の長期に渡り独裁政権を率いてきたスハルト元大統領の一族が2019年の国会議員選挙、大統領選挙を前に政治の前面に躍り出てきた。

スハルト元大統領の3男、フトモ・マンダラ・プトラ(55歳、通称トミー)氏が新党を立ち上げ、その党首に選出されたのだ。今後トミー氏は2019年の国会議員選挙での国会議席確保を目指し、最終的に大統領選への出馬を虎視眈々と狙っている。(中略)

3月10日に中部ジャワの古都ソロで開催された新党「ブルカルヤ党」の全国大会で党首に選出されたトミー氏は、2019年の総選挙で定数575議席の国会で80議席獲得を目指す方針を明らかにした。

その議席数を背景に、国民の直接選挙で選出される大統領選に立候補することを視野に入れている。(中略)

汚職、殺人教唆で有罪も恩赦で釈放
トミー氏はスハルト政権時代には財閥「フンプス・グループ」を率いるビジネスマンとして父親である大統領の威光を背景に活躍。

インドネシア特産の丁子たばこ市場を独占し、優遇税制措置で安価な国民車「ティモール」の販売を手掛けるなど巨万の富を築いた。

一方ではレーシング・ドライバーとしてハンドルを握り、女優と浮名を流すプレイボーイだった。

土地の不正取引事件に関する汚職容疑で2002年に有罪判決を受けたが、収監を拒否して逃走。その間に有罪判決を下した最高裁判事を手下に命じて殺害し、殺人教唆でも有罪判決を受け、最終的に収監されて服役した。

しかし複数回の恩赦を受けて2007年に釈放、ゴルカル党に加わって政治活動を始めた。(中略)

独裁体制への回帰は否定
トミー党首は「現代は殺人や強盗が横行し、宗教指導者が襲撃される不安定な時代である。スハルト時代に逆戻りすることはないが、経済5カ年計画などよい政策は引き継ぐべきで、インドネシアをさらに発展させたい」と言った。

スハルト独裁体制への回帰は否定しながらも「古き良き時代」をアピールしている。

国民の間にはスハルト元大統領のような「強い指導者」による「安定した経済」の時代を熱望する声もあることも事実。それでも、トミー氏の求心力には限りがあるかもしれない。

「プラボウォ党首は元軍人で強い指導者のイメージがあるが、トミー氏は汚職、殺人教唆、遊び人などマイナスなイメージが先行しており、スハルト元大統領の実の息子とはいえ、もはや求心力はない」(インドネシア紙記者)との見方が有力だ。

政治評論家のトビアス・バスキ氏も「トミー氏の動きはスハルト一族の政治的復権を目指す最後の試みになるだろう。あまり拙速に大統領などを目指せば失敗に終わる可能性は高い」と分析している。

トミー党首の新党が多数の議席を確保することは厳しいとみられているが、プラボウォ党首とペアを組んで正副大統領に立候補する可能性はあると取りざたされている。

この2人にはジョコ・ウィドド大統領にない強みがある。プラボウォ党首は軍人出身、そして2人共スハルト元大統領のファミリーで、ビジネス界での経験が豊富で巨額の富をもつ。

2019年の大統領選挙は総選挙結果にもよるが、庶民派のジョコ・ウィドド大統領と軍・財界・スハルト一族による対決の構図になりそうな雲行きだ。【3月27日 大塚智彦氏】
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父親・元大統領の威光で巨万の富を築き、“有罪判決を下した最高裁判事を手下に命じて殺害”したような人物が、“複数回の恩赦を受けて”釈放され、大統領の座を目指す・・・・インドネシアの民主主義の質に関する疑念も感じます。

「現代は殺人や強盗が横行し、宗教指導者が襲撃される不安定な時代である」・・・・最高裁判事を殺害した人間が、よくもぬけぬけと・・・・という感も。

拡大するイスラム主義を象徴するアチェ州の公開むち打ち刑
インドネシア政治の不安定要素としては、これまでもブログで取り上げてきたイスラム急進主義の影響力拡大があります。

ジョコ大統領の盟友(ジョコ大統領がジャカルタ特別州知事時代の副知事)でり、次期副大統領あるいはジョコ大統領の後任とも期待されていたジャカルタ特別州知事で華人・キリスト教徒のアホック氏が再選に失敗し、イスラム教を侮辱したとして2年の実刑判決を受けた件は、ジョコ大統領とプラボウォ氏の再対決の前哨戦として、高まるイスラム主義を利用する形で“標的”とされた面もあります。
(2017年5月18日ブログ“インドネシア ジャカルタ知事への実刑判決で高まる、イスラム急進主義と批判勢力のせめぎあい”など)

イスラム主義が特に強いのがスマトラ島北部のアチェ州で、住民の98%がイスラム教徒で、シャリア(イスラム法)が法律として適用されている特殊な地域でもあります。

そのアチェ州のイスラム主義を象徴するものとして、しばしばニュースにもなるのが“ふしだら”とされれた女性や同性愛者に対する“公開むち打ち刑”。

ジョコ大統領はアチェ州に対し、この“公開むち打ち刑”の中止を求めていましたが、このほどアチェ州当局が“公開”をやめると発表しています。

****インドネシアのアチェ州、公開むち打ち刑を中止へ****
インドネシア・アチェ州の当局は12日、国際的な非難を受けていた同州の公開むち打ち刑について、今後中止すると発表した。
 
イスラム教徒が多数派を占めるインドネシアで、スマトラ島のアチェ州は唯一イスラム法が施行されている地域。保守的な土地柄でも知られるが、12日にむち打ち刑は刑務所内でのみ行うとする新たな規則を定めた。
 
ただ、規則が実施される時期については明らかになっていない。
 
アチェ州ではモスクの外で行われる公開むち打ちは一般的な刑罰で、賭博や飲酒、同性愛者間の性行為といった違反行為に適用されている。
 
むち打ちは仮設の執行台で行われ、覆面姿の執行官は顔をゆがめた受刑者の背中にむちを打ち、時にはその回数は100回に上る。大挙して押し寄せた大人や子どもがやじを飛ばしたり、暴言を吐いたりする光景も見られる。
 
ただ、人権団体からは残酷であるという非難の声が上がっており、昨年ジョコ・ウィドド大統領はアチェ州に公開むち打ちの中止を求めていた。【4月12日 AFP】
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イスラム主義の拡大に一定に歯止めをかけるものとして、個人的には喜んでいたのですが、アチェ州は本当に中止するのか・・・・?

****人前で愛情表現などした男女8人に公開むち打ち刑 インドネシア****
インドネシア・アチェ州の州都バンダアチェで20日、公共の場で愛情表現をしてシャリア(イスラム法)に違反したとして有罪判決を受けた男女8人が、公開むち打ち刑に処された。

同州は先週、多くの批判の声が上がっている公開むち打ち刑について、今後は屋内で実施すると発表したばかり。
 
刑が執行されたモスクの外には、隣国マレーシアからの観光客らも含め1000人以上が集まり、むちを打たれる男女にやじや侮辱の言葉を浴びせた。
 
むち打ちを受けた学生数人を含む男性3人と女性5人は、公の場で愛情を示す行為に及んだほか、インターネット上で性的なサービスの提供を持ち掛けていたとしてシャリア違反の罪に問われたという。
 
アチェ州はスマトラ島の北端に位置し、世界最多のイスラム教徒人口を抱えるインドネシアで唯一、シャリアが施行されている保守的な州。

むち打ち刑は同州で賭博、飲酒、同性愛者間の性行為、婚外交渉などの違法行為に適用される一般的な刑罰になっている。
 
同州では先週、今後むち打ち刑は刑務所内のみで行うとする規制案が通過したものの、新しい規則がいつから施行されるのかは明らかになっていない。

むち打ち刑はLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の人びとやイスラム教徒以外の人びとにも実施されており、国際的な批判を招いている。【4月20日 AFP】
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相次ぐ密造酒による死者 戒律強要の歪み
宗教的戒律を強要する姿勢は、人間の本姓とのかねあいでどうしても無理が生じ、ねじれた歪みを生じさせます。

世界最多のイスラム教徒を抱えるインドネシアは2015年、観光地のバリを除き、ほとんどのコンビニエンスストアや小規模店舗での酒類販売を禁止しました。
 
多くのスーパーマーケットやバー、ホテルでは現在も購入可能ですが、税率が高いためアルコール類は高額で、低賃金の労働者らは危険だが安価な自家製酒に手を出してしまうという現実も。

その結果、粗悪な密造酒で死亡する者が相次ぎ、先月末以降、違法な酒類を飲んで死亡した人の数は全国で少なくとも97人、さらに約160人が入院中で、その多くが深刻な容体です。こうした事態も“歪み”の一例でしょう。

****密造酒による死者数が90人に、一部地域で非常事態宣言も インドネシア****
インドネシア当局は10日、密造酒を飲んで死亡した人の数がさらに増加し、少なくとも90人に上ることを明らかにした。被害はここ数年で最悪規模にまで拡大し、一部地域では非常事態が宣言された。
 
世界最多のイスラム教徒人口を抱える同国の各地で、警察は有害な自家製酒を販売していた業者らを逮捕すべく強制捜査を行う一方、被害者数がさらに増加する恐れがあると警告している。
 
当局は10日、首都ジャカルタおよび西ジャワ州、さらに同国最東部のパプア州で、少なくとも90人がここ2週間で死亡したと発表。数十人が有毒な酒を飲んで病院に搬送され、深刻な容体にあるという。
 
10日の時点で少なくとも9人が逮捕されたものの、当局は現在も密造酒を流通させた業者らを捜索している。密造酒は通常、露天商らが隠れて販売しているが、露天商自らが混ぜ合わせて、有害な酒を密造していることもある。
 
警察によれば、容疑者の一人は蚊よけ剤に純アルコール、せき止め薬を自家製酒に混ぜていたことを認めた。
また、別に逮捕された業者は、純アルコールにコカ・コーラや栄養ドリンクを混ぜたと供述したという。
 
多数の死者が出たことを受け、首都ジャカルタの東に位置する主要都市バンドンとその周辺地域では10日、非常事態が宣言された。
 
セティオ・ワシスト国家警察報道官は「これは我々全員に対する警鐘だ」とコメントした。【4月10日 AFP】
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咳止めやコカ・コーラなら死ぬこともないでしょうが、メタノールや防虫剤などが混入され、意識不明や失明などの症状を起こした人もいるとも。

政治家批判を禁じる新法
インドネシア政治で気がかりなニュースとしては、「議会または議員に敬意を欠く」者に刑罰を科すことを可能にする新法が施行されたという件があります。

表現が曖昧で問題点が多いとして、ジョコ大統領は署名を遅らせていましたが、拒否権はなく施行に至ったようです。

「この法で、敬意に欠く、というのはどのように定義されるのか? 明確な説明はなく、批判を黙らせたいという政治家の利益に一致するよう緩く解釈される恐れがある」(議会監視団体のセバスチャン・サラン氏)【3月16日 AFP】
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