孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  習近平国家主席が目指す完璧に設計された社会、抵抗しない市民には安心と利便性を提供

2022-09-11 23:22:27 | 監視社会

(アリババが開発した「シティー・ブレイン」【9月9日 WSJ】)

【中国情報管理の二つの顔 ディストピア的な悪夢の新疆 ユートピアを目指す杭州】
中国が国民の個人情報をリアルタイムに把握し、AIを駆使した技術も活用して“安心・安全な社会をつくろうとしている”あるいは“国家への反抗・不満を許さない監視社会をつくろうとしている”というのは今更の話でもあります。

この問題には、常に市民生活の利便性・安全性を高めるユートピア的側面と、監視というディストピア的側面が同居しています。

****中国の監視国家モデル、相反する二つの顔****
習氏が目指す完璧に設計された社会、抵抗しない市民には安心と利便性を提供

何か劇的な不測の事態が起こらない限り、中国の習近平国家主席は今秋、北京の人民大会堂で3期目続投を決める見通しだ。おそらく終身制への布石となるだろう。3期目の新体制では、習氏の壮大なる野望の一つに注目が集まりそうだ。習氏はデータと大量のデジタル監視が支える新たな政府の在り方を目指しており、世界の民主国家に対抗する存在になるかもしれない。

中国共産党は完璧に設計された社会という未来像をちらつかせている。具体的には、人工知能(AI)企業と警察が連携して犯罪者をとらえ、誘拐された子どもを発見し、交通規則を無視して道路を横断する者を戒める社会だ。つまり、当局は市民の善行に報い、悪行には罰を与え、しかも数理的な精密さと効率性を持って実行する。

習氏がこの構想の実現にこだわるのは、必要にかられてのことだ。毛沢東が死去した1976年以降の約30年間、共産党は市民の生活から離れ、インフラ投資にまい進。歴史的な高度成長を遂げ、中国を貧困国から中所得国へと引き上げた。ところが、ここ10年は成長が鈍化。爆発的な債務の伸びや新型コロナウイルス禍に絡む厳格な規制、高齢化など人口動態の問題によって急激に失速する恐れが出てきた。

習氏はここにきて、新たな社会契約を結ぼうとしている。豊かな未来像を示すのではなく、安全と利便性を提供することで市民の心をつかむのだ。数千のアルゴリズムが脅威を制圧し、円滑な日常生活を阻害する摩擦を排除する予測可能な世界だ。

だが、世界は中国の国家監視プロジェクトの暗闇も目の当たりにした。新疆ウイグル自治区で行われているウイグル族などイスラム系少数民族に対する強制的な同化政策だ。

ウイグル人らは顔や声、歩き方まで検出され、デジタル上で徹底的に追跡される。警察が常にスマートフォンをスキャンし、宗教上のアイデンティティーや外国とのつながりを調べる。問題を引き起こすと判断されたウイグル人は刑務所か、地域にある「教育センターを通じた変革」のための施設へと送られる。その結果、第二次世界大戦以降、最大規模となる宗教マイノリティー(少数派)の投獄が起こった。

新疆が共産党の大衆監視によるディストピア(反理想郷)的な悪夢に陥っている所だとすれば、経済的に豊かな浙江省の省都、杭州はユートピア(理想郷)の極みを必死で目指している場所かもしれない。

杭州でも、新疆と同じように至る所に監視カメラが設置されている。だが、これらの監視網は市民を管理するとともに、生活を改善するためにある。集められた膨大なデータはアルゴリズムに送られ、交通渋滞の解消や食品の安全性の徹底、救急隊員の迅速な派遣に寄与している。杭州は、習氏の野望の中でも、世界に変革をもたらし得る、魅力的な一面を体現しているのだ。

杭州の中心部には、慎重に育成され、異例の成功を遂げたテクノロジー企業が集積している。(中略)ハイテク企業がタッグを組んだことで、杭州市は中国で「最もスマート」な都市に変身し、世界が追随を目指すようなひな形になった。

市が収集するデータが観光地の人の流れを管理するとともに、駐車場のスペースを最適化し、新たな道路網を設計する。市内の随所にある監視カメラは、長らく産児制限が続いた中国ではとりわけ、行方不明になった子どもの発見に寄与したとして高く評価されている。

杭州市内の「リトル・リバー・ストリート」として知られる地区で行われている「シティー・アイ」という取り組みは特に注目に値する。ここでは「城管」と呼ばれる都市管理部隊の地元支部がAIツールを使い、警察がわざわざ介入しないような任務に当たっている。具体的には、露天商人を追い払う、違法なゴミ放棄者を処罰する、駐車違反者にチケットを切るといった仕事だ。

リトル・リバー・ストリートにあるシティー・アイの司令部を訪れた。周辺の住民は、中流階級に上がりつつあるところか、中流階級から落ちこぼれないように必死に取り組んでいるかのいずれかだ。こうした中間層の間では、一定の幸福感も感じられるが、もろさも漂う。

中国共産党が懸念するのは、このような地域だ。富裕層は問題を起こす動機がなく、貧困層にはその力がないが、中間層はちょうどその両方を持っている。容赦のない長時間労働、未整備の医療制度、絶え間ない物価高騰、環境汚染に食品安全の問題、そして乱高下する株式市場――。今の中国を生き抜く上で、相当なプレッシャーにさらされている彼らは時に「キレ」やすくなる。

シティー・アイは、ハイクビジョンがリトル・リバー・ストリートに警察の監視カメラ約1600台を設置し始めた2017年に運営が開始された。カメラの映像とAI技術をつなぎ、24時間体制で監視しており、何か不審な動きがあるとスクリーンショットともに自動で警告を送る。

都市管理部隊の城管はこれまで、露天商人への攻撃的な対応がネットに出回るなどして市民から嫌われる存在になっていた。

シティー・アイの司令部責任者、チュウ・リクン氏は、同プロジェクトで地元住民と城管との関係が改善したことを特に評価している。監視カメラと対話アプリ「微信(ウィーチャット)」の報告システムの透明性により、城管が介入するのは最終手段であることが証明されたという。

しかも、シティー・アイによって城管の汚職も減った。その結果、城管は憎むべき国家の残忍さの象徴から、リトル・リバー・ストリートの社会秩序を守る、尊敬される存在へと変わったと同氏は感じている。

ハイクビジョンが杭州市の路上に監視の目を提供したとすれば、アリババは頭脳を提供した。AIを駆使した「シティー・ブレイン」と呼ばれるプラットフォームが、交通量から水資源管理まであらゆる政府の任務を最適化する手助けをする。同時に、アリババのサービスやプラットフォームは、光熱費の支払いや公共交通機関の利用、融資取得といった市民生活の利便性を高め、ネット裁判所の登場で地元企業を提訴することさえも容易にした。

シティー・ブレインはとりわけ、ひどい交通渋滞で知られる杭州を変えたと言われ、国内ワーストランキングでは5位から57位へと改善した。アリババは交差点の動画データやリアルタイムの全地球測位システム(GPS)位置情報を解析するシステムを開発。同市の交通当局が信号を最適化し、老朽化する交通網の混雑を緩和できるようにした。

2019年10月には、農村地区で77歳の住民女性が洗濯中に小川に転落する事故が発生。女性を救急車に乗せた隊員は近くの病院まで最速で到着できるよう、シティー・ブレインの道案内ツールを作動させた。アルゴリズムにより、病院まで14カ所ある交差点がいずれも通過時に青信号になっていたことで、通常ではよくても30分かかるところを、12分で病院に搬送することができたと報じられた。(中略)

ウイグル人への組織的な弾圧が行われている新疆と同じように、杭州も社会管理のいわば実験場であり、何が機能して、何が機能しないのかを理解する材料を共産党に提供する。2カ所で行われている実験からは、共産党の権威に抵抗すると思われる人物を脅し、強制的に変えようとするまさに同じ技術が、党の支配を受け入れる人々を大事に扱い、安心させる手段にもなることが分かる。

習氏によるAIと独裁主義の融合は、戦争や新型コロナウイルス禍、経済減速、崩壊寸前の組織制度に見舞われる時代において、安心と効率性の世界を提供できるかに見える。

完璧につくられた社会の魅力は現実のものだ。このモデルがどこまで浸透するかは、習氏の野心とパフォーマンスのみならず、世界の民主国家が同じ問題にどううまく対処できるかにもかかっている。【9月9日 WSJ】
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嫌われ者の城管が“社会秩序を守る、尊敬される存在へと変わった”・・・俄かには信じがたいことです。

「ブレグジット、トランプ大統領の登場などによって、『民主主義って機能しているの?』というイメージを中国人は持っています。人に任せるよりデータに任せたほうが良いのではないかという。日本にも民主主義が機能不全だと考えている人は増えているのではないでしょうか。だからといって、中国と同じになるのがいいとは思いませんが、民主主義をバージョンアップさせるためにも、中国がどう課題に取り組んでいるかを知ることは必要不可欠でしょう」【『幸福な監視国家・中国』著者・高口康太氏 2021年8月23日“中国人が監視国家でも「幸福」を感じられるワケ”WEDGE】

中国のような政治体制とAIによる情報管理は親和性がいいようにも見えます。
中国の実験が成功すれば、限界・欠陥が意識されるようになった欧米民主主義に変わる価値概念になる可能性も。

ただ、“抵抗しない市民には安心と利便性を提供”ということの“抵抗しない”という条件には、どうしても国家(という悪魔)に魂を売り渡してしまうような“譲れないもの”を感じてしまいます。

【ディストピア的負の側面のいくつかの事例】
今のところ比較的話題になりやすいのはディストピア的負の側面。
コロナ対応の健康コードが地方当局によって経済問題での抗議行動抑制に流用されたことも大きな話題になりました。

中国当局もこうした軽率な個人情報利用が健康コードシステムの信頼を損なうという認識はあるようです。

****中国 コロナ対策アプリで「健康コード」不正しないよう呼びかけ****
中国の衛生当局は(6月)24日、新型コロナウイルスの感染対策アプリで市民の移動制限にもつながる「健康コード」について、不正行為をしないよう呼びかけました。

衛生当局の幹部は会見で、「感染予防以外の理由で、市民の健康コードを操作してはならない」と述べ、アプリの運用ルールを徹底するよう求めました。

中国のコロナ対策アプリ「健康コード」をめぐっては、河南省の銀行から預金を引き出せなくなった人たちが抗議しようとした際、アプリを不正に操作され隔離措置を受けたことが明らかになりました。

その後、地元当局の幹部らが処分されていますが、感染対策の柱でもある健康コードを当局が恣意(しい)的に操作し、足止めに使っていたとして批判の声が広がっていました。【6月24日 日テレNEWS】
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もっとも、処分が軽すぎるということで、ことの重要性が認識されていないのでは・・・との声も。

****「処分軽すぎ」の声も…“コロナアプリ悪用”で中国が幹部処分【ネタプレ国際取材部】****
(中略)中国で、預金が引き出せなくなった人が抗議しようとしたところ、次々と連行されました。
実は、地元政府が抗議を封じ込めるため、1300人以上のコロナ対策アプリを改ざんし、隔離が必要な状態にしたことが発覚。これにより、共産党幹部ら5人が処分を受けました。(中略)

河南省鄭州市の発表によりますと、処分されたのは、地元政府でコロナ対策を担当する幹部や共産党幹部ら5人。
中国河南省の複数の銀行で、8000億円規模の預金が引き出せなくなったトラブルを巡り、抗議に訪れるなどした預金者たちは、ホテルなどへ連行される事態となっていました。

処分された5人は、抗議を封じ込めるため、1317人の預金者のコロナ対策アプリを不正に操作し、隔離が必要な状態に改ざんにした疑いが持たれています。

鄭州市は、処分した5人について「権力の乱用で社会に深刻な影響を及ぼした」と厳しく批判。

5人は、共産党や政府の職務を解かれましたが、中国のSNSでは「身分や階級のみで、処分が軽すぎる」「刑事罰を与えるべき」などの声も上がっています。【6月27日 FNNプライムオンライン】
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膨大な個人情報の管理が適正になされているのかという問題もあります。
中国の個人情報が闇市場に流出していることが問題になりましたが、中国政府も情報管理に無関心という訳でもありません。

****中国「監視国家」の副作用、流出情報を闇取引****
中国政府は世界有数の徹底したサイバーセキュリティーとデータ保護体制を築き上げてきた。だが、こうした取り組みにもかかわらず、中国市民の個人情報を売買する国境を越えた闇市場が広がっている。

データの大半は、中国政府がこれとは別に注力する大型セキュリティー対策から来ている。巨大な市民の監視網だ。

今月(7月)初め、人気のサイバー犯罪フォーラムで、ある匿名ユーザーが上海警察から盗んだとする推定10億人の中国市民の個人情報を売りに出していた。これは史上最大級の個人情報漏えいとされ、公民身分番号(国民識別番号)、犯罪歴といった極めて扱いに慎重を要する個人情報が含まれていた。

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はこの問題が発覚して以降、サイバー犯罪関連の投稿フォーラムやチャットツールのテレグラム上で中国市民の個人情報が売りに出されているのを数十例発見した。無償で提供されているものもあった。

WSJが分析したところ、盗まれたキャッシュのうち、4つは政府から流出したデータである可能性が高いことが分かった。政府データが含まれているとして売りに出されているものも複数あった。

流出データを追跡するLeakIXによると、数万件に及ぶ中国のデータベースがネット上で無防備な状態で放置されている。合計のデータ規模は700テラバイト以上と、世界最大だという。

中国公安省と中国サイバースペース管理局(CAC)、上海政府はコメントの要請に応じていない。

とはいえ、世界各国がデータ保護に苦慮している。LeakIXによると、中国の次に多いが米国で、ネット上で公開された状態にあるデータが540テラバイト近くに上った。

ただ、無防備に放置されているデータが広範に及び、かつ扱いに慎重を要するデータであるという点で、中国は突出する。背景には、国家運営の監視プラットフォーム上で政府機関や企業など複数のデータ元から流れてくる個人情報を一元管理しているとの事情がある。

サイバーセキュリティーの専門家は、これだけの膨大なデータを1カ所に集約すれば、それだけ流出のリスクも高まると指摘する。パスワードが1つでもぜい弱だったか盗まれた、あるいは誰かがフィッシングに引っ掛かる、不満を抱えた社員が1人でもいるという状況になれば「システム全体がやられる」。ダークウェブ分析会社シャドーバイトの創業者、ビニー・トロイア氏はこう指摘する。(中略)

中国政府は2013年以降、国家のデータ保護を国家安全保障の最優先課題と位置づけてきた。米国家安全保障局(NSA)の元契約職員エドワード・スノーデン氏が、中国のネット基盤に米政府がハッキングで不正侵入していると暴露したことがきっかけだった。

当時国家主席に任命されたばかりの習近平氏を含め、スノーデン氏の暴露は中国の政府高官に衝撃を与えた。習氏はそれから程なく、すでにネット利用者が5億人に達していた国内のサイバー空間を封鎖した。

その後数年で、ネット利用者がさらに数億人増えるのに伴い、中国当局は国内データの安全対策に不備が多いことを発見する。闇市場では、大半が政府のコンピューターネットワークから盗まれたとみられる個人情報が売買されていた。その結果、電話を通じた詐欺で多額の資金をだまし取られる事件が起きるなど、国民の間で怒りが高まっていた。

中国政府は21年、世界で最も厳格とされる欧州連合(EU)のプライバシー保護法をひな形とする個人情報保護法を成立させた。個人情報の収集やクロスボーダーのデータ移転を制限した。17年には重要データの国外流出を阻止する「サイバーセキュリティー法」を可決するなど、入念なデータ保護規制の枠組みを整備しており、個人情報保護法はその集大成に相当する。(中略)

中国ハイテク政策の専門家によると、中国のデータセキュリティー規制はまだ日が浅く、執行状況も均一ではないため、問題をさらに難しくしている。政府自身の活動を制限する場合には、特にこうした傾向が強いという。

また、ネット上でこれだけ膨大なデータが売られているという実態は、まさに中国政府が避けたいと考える国家安全保障上の脅威だと専門家は話している。

米外交評議会(CFR)のデジタル・サイバー空間政策プログラムの責任者アダム・シーガル氏は、政府の監視データベースには本質的に、個人の弱みや国家のぜい弱性を外国の情報当局者が把握できるような機密情報が含まれていると指摘する。

中国政府は上海警察の情報漏えいについて公の場でコメントしておらず、ソーシャルメディア上では関連の投稿が削除されている。【7月22日 WSJ】
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一方、当局が求める「監視機能」とユーザーの反発の間でIT企業が板挟みになることも。

****中国当局がIT企業に押し付ける「監視機能」...板挟みの企業が見せたギリギリの抵抗****
6月下旬、中国IT大手キングソフトが提供するクラウドベースのワープロソフト「WPSオフィス」に検閲疑惑が浮上した。中国の作家が原稿をクラウドに保存したところ、「違法な」情報が含まれているとしてアクセスできなくなったと告発したのだ。

同社は当初、検閲を否定しつつも、7月13日には中国のサイバーセキュリティー法に従っているだけだと発表。来年末までに無料版WPSから広告を排除すると告知するなど、ユーザーのつなぎ留めに必死になっている。

1989年のリリース以来、WPSは中国においてマイクロソフト・オフィスに代わる業務ソフトとなってきた。今回、国内法に従わざるを得ない状況をユーザー離れのリスクを冒してまで認めたことは、同社がユーザーと当局の板挟みになっている証拠でもある。

国内法の縛りを受け自社製品に監視機能を付けているとみられる中国IT大手は少なくない。リスクを冒した声明は、キングソフトなりの「告発」だったのかも。【7月29日 Newsweek】
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キングソフトは私も重宝していますが・・・
コメント
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監視社会  中国で「健康コード」を乱用した抗議行動抑圧が物議 「幸福な監視社会」の実態

2022-06-16 22:39:54 | 監視社会
(【6月14日 ANN NEWS】中国・河南省 預金の引き出し停止状態が続く銀行に抗議する市民らが新型コロナウイルス対策アプリ「健康コード」を恣意的に悪用されて連行される事態に)

【中国人の中には、国家や政府は自分たらを守ってくれる「お父さん」や「お母さん」と考える人が一定数いる】
周知のように中国では個人情報が政府によって管理されており、至るところで「身分証」の提示が求められます。

****怖い?安心?中国の徹底した個人情報管理 生まれた日に18桁の個人番号、至る所で身分証の提示****
日本ではマイナンパーカードについて「個人情報を管理されるのでは」との懸念などから普及が進んでいない。一方、中国では生まれた時から個人番号などで管理される。身分証は様々な場面で求められるが多くの国民は受け入れているのが現状だ。中国が進める個人情報の管理は行き過ぎなのか?FNN北京支局の河村忠徳記者が解説する。

中国の個人情報驚きの実態  
FNN北京支局・河村忠徳記者:中国で国民の個人情報がどれほど政府に管理されているかをお伝えします。まずその象徴が身分証です。これは中国の国民全員が16歳になると作るもので、個人番号などの情報が記されています。

そして、登録時には指紋情報と顔写真が撮影されます。この身分証は多くの人が常に携帯していて、実際に至る所で身分証の提示が求められます。

例えば公園に入る際にも「身分証」の提示が必要になります。他にも飛行機や高速鉄道、そして長距離バスの移動、銀行口座の開設、ホテルの宿泊、携帯電話の契約の手続き、学校の入学、就職、結婚届けなど、人生のあらゆる場面で身分証が必要になります。

この「身分証さえ1枚あれば」、ほとんどの手続きができて便利という声もありますが、言い換えると、この身分証によって個人情報が確認されないと、生活できないのが現実とも言えます。

スマホを通じた個人情報管理
さらに、スマートフォンのアプリを使った個人情報の管理も進んでいます。その1つが電子マネーです。中国ではスマホで電子マネーを通じて全ての支払いが完了し、現金を使うことがほぼありません。実際に私も2021年9月に赴任し、今日に至るまで現金を使ったことがありません。こうしたスマホの電子マネーを通じてお金の流れも当局に一目瞭然となっています。

コロナ対策アプリで行動履歴を
また、北京では一般のコロナ対策として、「健康宝」というアプリが導入されています。これはコロナ対策という名目で導入されたアプリですが、人の「健康」だけでなく「行動」まで管理します。

今は、建物などに入るたびにアプリのQRコードの読み取りなどが求められています。ただ、この健康宝には日本のコロナアプリとの大きな違いがあります。それは身分証番号など個人情報と紐付けられていることです。そのため、誰がどの建物に入ったかなど個人の行動履歴が記録され、当局はこれを確認することができるんてす。

生まれた日に18桁の個人番号
このように、中国の国民は徹底した個人情報の管理下に置かれていますが、それは生まれた日から始まっています。中国人は生まれた日に18桁の個人番号が国から与えられ、この番号は一生変わることはありません。そして子どもが生まれた際の「出生届」をどこに提出するかというと、日本では自分が住む最寄りの役所に提出しますが、中国の場合は最寄りの「公安局」、日本でいう「警察署」に提出するんです。

生まれてすぐに個人情報を警察が管理するというのは、日本人にとっては違和感がありますが、これは中国では当たり前のことなんです。ある中国人は、「人間は悪いことをしてしまう生き物で、最初に警察が管理しておけば、悪い事件が起きてもすぐに解決できる」とメリットを語っていました。

確かに、治安の維持という面では役立っているんです。中国では警察が「身分証」の提示を求めた場合、国民は必す応じなけれはいけないと法律で決まっています。

犯罪者の検挙につながることも
これにより、2018年には北京市だけで殺人など様々な犯罪を起こし逃亡していた6000人余りの摘発に繋がったということです。

身分証が捜査に役立った例としては、ほぼ強制的に行われているコロナのPCR検査で、身分証の提示を拒んでいた男がいて、警察が確認すると、実は指名手配中の男だと判明し逮捕されたという例があります。

また、ある女性は、身分証の提出が必要な鉄道に乗る際、偽造した身分証を提示したことで、検挙されました。この女性が、なぜ身分証を偽造する必要かあったのかというと、実は当時交際していた男性に対し、年齢をさば読みしていて、「本当の年齢が分かってしまう正式な身分証を使用できなかった」という事でした。

このように完全に個人のプライバシーが全て筒抜けになる中国の身分証に対して、中国国民はどう感じているのか、街で聞いてみました。

「色々な物を持たなくてよいので便利です。身分証とスマホがあれはどこにも行けます」(中国人女性)
「私は良いと思います。身分証で管理すると、どこかで、事故に遭っても全て判明するので」(中国人男性)

男性が話したように、先月、中国の広西チワン族自治区で起きた旅客機の墜落事故の際、乗客はこの身分証を提示していたことから、すぐに特定に繋がり、家族への連絡もできたと言います。

実際に話を聞いた中国の人たちは個人情報を政府が管理することに抵抗はありませんでした。それはなせかというと、中国人の中には、国家や政府は自分たらを守ってくれる「お父さん」や「お母さん」と考える人が一定数いるからです。

中国では街の至る場所に防犯カメラがあり、地下鉄に乗る時でさえ、持ち物検査がされます。こうした中国の徹底した個人情報管理は、私たち日本人や欧米諸国から見るとマイナスに見える部分がありますが、多くの中国人はこれを社会の安全にとって、「必要なこと」として受け入れています。

では日本は国民の個人情報をどう扱っていくのか。治安の維持や、便利さの一方で、プライバシーが犠牲になることをどこまで許容するのか、日本と中国の政治や社会の体制は違いますが、色々と考える必要があると思います。

加藤綾子キャスター:中国では、徹底した個人情報管理とかが、便利だとか、安全だという認識につながっているんですね。

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹・宮家邦彦氏:僕は、この間、マイナンバーカードのアプリを初めてやったんだが、それは便利ですよ、色んなものが、情報があってね。だけどね、今の話を聞いてたら、どっちがいいのかなと思いますよね。こういうカードを見た時に、思い出すのは、エストニア。全員がこういうカードを持っていて、色んな情報が入ってるんですよ。

だけど、エストニアは、面倒な行政手続きから、国民をどうやって解放するか、という観点で作られている。だけど、中国の話を見ると、どうも個人を解放するというよりは、行政が、個人をどこまでコントロールするか、そのために使われているような気がする。そうであれば困るなと思います。

中国人は勝手な人も多いけど、本当の自由を知らないんじゃないですか。本当の自由を知ったら、そんなことは言えませんよ。(イット!4月5日放送分より)【4月5日 FNNプライムオンライン】
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【個人情報を使用した“行政による個人のコントロール”】
個人情報を使用した“行政による個人のコントロール”の実例が問題にもなっています。

****中国当局、コロナ対策名目で抗議活動封じ スマホアプリを悪用か****
中国メディアは15日までに、河南省で預金の引き出し停止が続く地元銀行に抗議する多くの利用者が、新型コロナウイルス対策の名目で行動を制限される事態が起きたと伝えた。

中国で利用が事実上義務付けられている「健康コード」と呼ばれるスマートフォンのアプリを悪用した可能性がある。中国国内からも「防疫措置への市民の支持を損なう」と批判が出ている。

河南省では複数の金融機関が違法に資金を集め、計400億元(約8千億円)規模の預金が今春から引き出せなくなり、利用者らが抗議活動を展開している。

中国メディアによると、このほど抗議のため河南省入りしたとみられる省外の預金者の健康コードが、「感染リスクが高い」ことを意味する「赤」の表示に変化。他の多くの預金者のコードも同様に変化し、専用施設に閉じ込められたり、省外に追い返されたりしたもようだ。

健康コードは、PCR検査の結果や感染拡大地域への滞在歴などから利用者の感染リスクを緑、黄、赤の3段階で表示するスマホのアプリ。自宅や商業施設、公共交通機関に入る際に提示を求められることが一般的だ。「赤」の場合は隔離が求められる。河南省の地元当局は抗議活動を止めるため、利用者のコードの表示を意図的に変えた疑いが指摘されている。

共産党機関紙、人民日報系の環球時報は15日付で「健康コードの科学性、厳粛性を絶対に守らなければならない」と題した論評を掲載。この中で「乱用された可能性があるかどうかは、決して小さな問題ではない」とし、地元当局に早急な調査を求めた。

健康コードは、中国政府のコロナ対策の主要な柱となっている。習近平政権は「ゼロコロナ」政策を堅持しており、対策の正当性に疑念が生じかねないと警戒しているとみられる。【6月15日 産経】
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以前から「健康コード」の緑、黄、赤判断がどのように行われているのか・・・その曖昧さを懸念する声がありましたが、今回は行政によって抗議行動封じ込めに悪用(活用?)された事例のようです。

国家による情報管理のあり方、監視社会の実態を問う非常に憂慮すべき事件で、さすがに政府系メディアが「決して小さな問題ではない」としているように、「乱用」に対する批判はあるようで安心しました。

一方で、当局が積極的に個人情報管理の在り様を個々人に見せつけて、社会コントロールをしようという動きも。

****IP情報を中国SNSへ公開した目的とは?「お前はもう知っている」****
省や直轄市、国名で表示
中国の主要SNSでIP情報が公開されるようになって1か月半が経った。IPといっても、198.51…のようにアドレスとして表示されるのではなく、広東省や北京など省や直轄市単位で表示され、中国国外だと日本などと国名で表示される。

IP情報公開は、4月28日に微博(ウェイボー)で始まり、翌29日にはWeChat(ウィーチャット・微信)、TikTok(ティックトック)の中国国内版である抖音(ドウイン)でも始まった。

中国メディアによると、国が強制したものではないと伝えているが、ほぼ開始タイミングが同じなので、中国政府が主導して始めたと考えて良い。IP情報公開の目的について、ウェイボーは、「悪意あるデマやアクセス稼ぎを減らすため」と説明している。

中国在住者に聞くと、これまでウェイボーで、プロフィール上に日本在住と記載し、日本の情報を発信していた著名なインフルエンサーが、実は日本でなく、中国国内の山東省在住だったことが明らかになった例があるそうだ。

「このタイミングでのIP情報公開が始まったのは、上海のロックダウンが影響していると思われます。『全員の情報を政府は監視しているぞ』との警告もあるのではないでしょうか」(深セン在住者)

というのも中国政府は、わざわざ表示させなくても最初からすべての情報を把握しているからだ。中国は、SNSが登場した当初から利用ユーザー全員のIPアドレスを政府がすぐに確認できる仕組みになっている。中国政府は、登録情報を瞬時に取得でき、公安と連携して簡単に拘束できる体制で監視を強化してきた。

今回、政府が最初から把握しているIP情報をアプリ上に表示させたのは、抑止効果を狙ったものと言えそうだ。【6月16日 コリアワールドタイムズ】
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【改めて「幸福な監視社会」を考える】
冒頭【FNNプライムオンライン】にあるように、多くの場面では国家による個人情報管理は効率・治安などの面で大きなメリットがあります。

しかし、国家がどのような意図で情報管理するのか、情報をどのように使うのか・・・必ずしも“国家や政府は自分たらを守ってくれる「お父さん」や「お母さん」”ではすまないケースも生じます。
ときに、弾圧・抑圧に利用されることも。そうした場合、国民の側には身を守るすべがありません。

そうした中国における情報管理、監視社会を取り上げて3年前に話題になったのが「幸福な監視社会」

****中国人が監視国家でも「幸福」を感じられるワケ
『幸福な監視国家・中国』梶谷懐氏、高口康太氏インタビュー****
アリババの「芝麻信用(セサミクレジット)」などに代表されるように、日常における個人の消費行動が「信用スコア」のレイティング(等級分け)に利用される中国。レイティングが高ければ、様々なサービスを受けることができる特典が与えられることから、スコアを付けることが日常化している。

ここにきて地方政府などが運用する「社会スコア」というものまで登場している。これには交通違反、ゴミの分別などがレイティング対象となり、スコアの悪い人はブラックリストに載せられたり、航空機などの公的サービスが利用できなかったりするなどのペナルティがある。

個人情報によってレイティングされたり、個人の行動が監視カメラで監視されていたりするなど、日本人が聞くと「どうせ、中国は専制国家だから、プライバシーに無頓着で、監視されることにも慣れているんでしょ……」などと思ってしまいがちだ。しかし、実はそうではない。

そんな中国の実態を、中国経済論が専門の神戸大学経済学部教授・梶谷懐さんと、中国問題が専門のジャーナリスト・高口康太さんが現地取材を交えながら執筆したのが『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)だ。お二人に、「監視=幸福」という、一見、相反することがなぜ中国で成立しているのか? 聞いてみた。(中略)

強制ではなく、インセンティブを与える
「社会スコア」が導入されつつあるのも、強制力で従わせるのではなく、お行儀の良い行動をとったほうが「得」というインセンティブを与えることで、自然にその方向に向かわせるという狙いがある。

こうしたことから、中国では「便益(幸福)を求めるため、監視を受け入れる」、「プライバシーを提供することが利益につながる」という考え方が一般化している。

二人はどのような場面でそれを最も実感したのか?
「中国では、医療体制に問題を抱えていました。オンライン診療ができることになったことで、何時間も並んで診察を受けるといったことがなくなりました。サービスを提供しているのは大手保険会社で、個人が差し出す医療情報をビッグデータとして蓄積・解析することでビジネスに活用しています。これにより、迅速かつ低コストで、医療サービスを提供することが可能になっています」(梶谷さん)

「一つだけあげるのは難しいですが、梶谷さんのおっしゃる医療でもそうですし、顔認証だけで様々なサービスが受けられたり、自動車を駐車場に停めても勝手に精算が済んでいたりと、生活するなかでの面倒が日々少なくなっていくのを実感することができます」(高口さん)(中略)

信用スコアはもちろん、QRコード決済など、中国で新しいサービスが急速に普及する背景には、もともとそうしたインフラが整っていないということも関係している。(中略)

日本など先進国だと、先に整ったインフラや規制(ルール)が弊害となって新しいサービスがすぐに社会実装化されることは少ない。米ウーバーのサービスが「白タク」として許可されていないのは、その典型例だ。

「レギュラトリー・サンドボックス方式」と呼ばれる、規制緩和を行って新技術の実証事件を行う仕組みが、イギリスやアジアで導入されているが、中国ではまさにそれを地で行き「先にやって後で許可を得る」という形で、日常的に新しいサービスの試行錯誤が行われている。こうした環境がベンチャー企業を育み、中国発の新サービスを生む土壌となっている。(中略)

新疆ウイグル自治区というディストピア
一方で、デジタル・監視国家の負の側面もある。代表例として本書でも挙げられているのが、ウイグル人の問題だ。彼(女)らは日常生活を監視カメラやスマホのスパイウェアで管理されている。(中略)一般の中国人(漢民族)はこの問題をどのように考えているのだろう。

「私が中国に留学していた際の経験からも、マジョリティである漢民族の中には、新疆人(ウイグル人)は何をするか分からない、怖い人たちだ、という意識があるのを感じました。(中略)ですから、他地域で実施されれば激しい反発が予想される厳しい監視体制も、ウイグル人を対象にしたものである限り、抵抗なく受け入れられている面があるように思います」(梶谷さん)

「やはり、民主主義の欠如ということが問題です。同時に、99%の中国人にとって、そのリスクは捉えられていません」(高口さん)

使い方次第で、ディストピア社会も生み出してしまうが、多くの中国人にとって、それは圏外の問題なのである。

もう一点、不気味さを感じさせるのが、民意を先回りして政策を実行できるという点。
「言論の自由が保障されていないにもかかわらず、買い物の履歴やSNSの発言から情報を収集することで「民意」をくみ取り、それを政策に反映することが可能になっています」(梶谷さん)

「(中略)こうしたシステムを駆使すれば、選挙ではなく、監視によって民意を察知することも可能です。たとえば焼却場の建設計画を進めている時、住民の反発が非常に強く大規模な抗議活動が起きかねないと、世論監視システムが予測します。そうすると、地方政府は先手を打って説得したり、あるいはスピン情報を流したりという対策が打てます。場合によっては建設計画を撤回することもあるわけです」(高口さん)

これまで、社会課題などを議会で議論することで解決するという形をとってきたわけだが、情報を収集して解析すれば、そのような手間のかかる作業をしなくても、多くの人にとっての最適解が出されてしまう。

社会に対して大きな不満を持つことなく(ということは、投票率は益々下がり、今でも少ないデモなどももっと起きなくなる)、無風のまま政府によって飼いならされていく……。

テクノロジーの発達によって人の仕事が奪われるということが話題になっているが、民主主義社会を支える土台においても、人間が積極的に関与しなくてもよい状況が生まれつつあるのかもしれないと思うと、背筋が寒くなる。

中国に限った問題ではない
(中略)「ブレグジット、トランプ大統領の登場などによって、『民主主義って機能しているの?』というイメージを中国人は持っています。人に任せるよりデータに任せたほうが良いのではないかという。日本にも民主主義が機能不全だと考えている人は増えているのではないでしょうか。だからといって、中国と同じになるのがいいとは思いませんが、民主主義をバージョンアップさせるためにも、中国がどう課題に取り組んでいるかを知ることは必要不可欠でしょう」(高口さん)(後略)【2019年8月23日 WEDGE】
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監視社会  中国だけではない顔認証技術の実用化 日本のJR東日本の事例

2021-09-23 23:05:42 | 監視社会
(シンガポールのホームチーム科学技術庁による商業地区や住宅地を巡回するパトロールロボットの実証実験(2021年8月6日撮影)【9月7日 AFP】

【パトロールロボットやドローンによる監視、顔認証チェックも】
短いトピックス記事みたいなものですが、妙に印象に残ったのが下記のシンガポールに関する話題。

*****規則を守ってるかな? ロボット巡回中 シンガポール****
シンガポールのホームチーム科学技術庁は、商業地区や住宅地を巡回するパトロールロボットの実証実験を実施している。
 
期間は3週間。6日には、市中を巡回し、公の場での喫煙や5制限を超えた人数による集まりなど社会的に不適切な行動をとらないよう呼び掛ける姿が見られた。 【9月7日 AFP】
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パトロールロボットは別にシンガポールだけのものでもありませんが、規則がうるさい管理社会シンガポールのイメージと重なって印象が強まったのでしょう。

愛嬌のあるロボットではなく監視ドローンが街を飛び交うとなると、気味悪いものがあります。

実際、コロナ対策で外出・集会が制限されていた頃の中国ではドローンが監視に飛んで、何人かの集まりを発見すると「自宅に戻りなさい」と警告するようなことも昨年段階で行われています。また、マスクをはずと「マスクを着けなさい」という警告も。

そうしたドローン監視は中国だけでなくスペインなど“西側諸国”でも行われていました。

こうしたロボットやドローンにAIが利用され、顔認証技術で人々をチェックするというのも、技術的にはすでに可能でしょう。実際そういう技術がすでに稼働しているのかどうかは知りませんが、そうなると・・・・監視社会の息苦しさを感じてしまいます。

【中国 2億台の監視カメラで24時間監視 犯罪捜査で威力発揮】
もちろん、顔認証技術は犯罪捜査などでは絶大な威力を発揮します。
この手の話になると、やはり中国です。

****中国警察「4年間で1万人の逮捕に貢献」の顔認証システム。政府支援で大躍進****
友だちの結婚式で撮った集合写真をFacebookにアップロードしようとして驚いたことはないだろうか。Facebook上で友だちになっている人(のうち顔写真がプロフィールやタイムラインで公開されている人)が自動認識され、投稿へのタグ付けをうながされる。現在の画像認識技術をもってすれば、このくらいのことは何でもない。(中略)

中国の銀行400行に顔認証システムを提供
だが、顔認証分野では世界最先端を突っ走る中国では、こんなことで驚いていたら身が持たないかもしれない。香港メディアのサウスチャイナ・モーニング・ポストは3月28日、こんな衝撃的なタイトルの記事を掲載した。

「中国警察当局による1万人の犯罪者逮捕に貢献した、政府支援のAIユニコーン」

このユニコーン(非上場ながら企業価値が10億ドル=約1110億円を超えるベンチャー)は、中国南部・広州市に本拠を置き、人工知能(AI)を使った顔認証技術の開発を進めるクラウドウォーク・テクノロジー(以下、クラウドウォーク)を指す。

同社の顔認証技術は、中国31行政区(自治区・直轄市含む)のうち29の警察で使われ、1日あたり約10億人分の顔をデータベースと突き合わせ、過去4年間で1万人を検挙するのに貢献してきたという。

とりわけ大口の顧客は銀行で、中国4大銀行と呼ばれる中国銀行と中国農業銀行、中国建設銀行、中国工商銀行を含む400行のATMの顔認証システムとして採用されている。1日あたりの取引(に伴う顔認識)量は2億1600万件にものぼる。

また、同社は広州市から約3億ドルの補助金を受け取るなど(2017年実績)、行政との結びつきも深く、中国国家発展改革委員会の進める高精度顔認証プロジェクトでは、政府推奨企業にも名を連ねている。(後略)【2019年4月2日 川村 力氏 BUSINESS INSIDER】
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****中国の監視網、数秒で20億人識別 プライバシー侵害か****
中国の街頭や公共施設などには、あらゆる場所に監視カメラが設置されており、その多くが人工知能(AI)を搭載した顔認証システムと連動しているとされる。逃亡犯の逮捕や犯罪抑止に効果を上げる一方、プライバシーの侵害を指摘する声もある。

中国当局、ウイグル巡り監視リスト 日本人895人記載
上海市当局がネット上で管理していたとみられる、日本人も含む大量の個人情報データについて、専門家はデータから入手できる顔写真と監視カメラを利用すれば、対象者を常に監視できると指摘する。
 
中国メディアによると、2018年に中国各地で開かれた「香港四天王」と呼ばれた人気歌手、張学友(ジャッキー・チュン)さんによる全国ツアーの各地の会場で、様々な事件で指名手配されるなどして当局が行方を追っていた容疑者たちが次々と拘束された。会場内に設置された監視カメラで映し出された容疑者の顔と、警察が持つ顔写真データをAIが照合して見つけ出したもので、全国で計約60人が拘束された。

BBC記者、わずか7分後に「拘束」
「張さんの大ファンでコンサートをどうしても見たかった。大きな会場内で、まさか見つかるとは思わなかった」。経済事件で指名手配中に、江西省南昌の約6万人の会場で拘束された容疑者の男は、調べに対してそう供述したという。
 
こうした監視網は「天網(悪事を逃さないよう天が張り巡らせた網)」と呼ばれる。数秒間で20億人を識別して、対象となる人物を特定できるとされるシステムだ。英調査会社「コンパリテック」は、中国内には約2億台の監視カメラがあると推計。中国全土の公共施設をほぼカバーしているという。
 
英BBCの記者が17年、中国南部・貴州省貴陽市の警察当局の協力を得て、「天網」システムの実験をした。自身の顔写真を提供してシステムに登録。「指名手配犯」として警察署から逃亡を図ったものの、わずか7分後に「拘束」された。
 
このシステムによって検挙率は上がったものの、プライバシーの侵害も問題になっている。中国各地の警察当局は、信号無視などの交通違反をした人の顔写真や氏名、身分証番号を街頭テレビで映し出している。
 
また、当局が警戒する少数民族や人権活動家らの監視強化にもつながっている。人権活動に取り組む中国人弁護士は「かつてのような当局による尾行はなくなったが、『天網』によって24時間、居場所を把握されるようになり、活動が難しくなっている」と語る。【6月9日 朝日】
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【中国でも、無秩序な利用には批判・制約も】
ただ、「何もしていないなら、恐れる必要なない」ということで、こういう「監視」に対する抵抗がほとんどないように思われる中国でも、無秩序な利用には批判・制約もあるようです。

****急速に広がる顔認証技術に市民が不満 中国・最高裁が使用制限****
中国では生活のあらゆる場面で個人の識別に顔認証技術が導入されている。プライバシーの侵害や犯罪に悪用される不安から批判が高まり、最高人民法院(最高裁)は7月下旬、商業目的の顔認証技術の使用を制限する見解を示した。
 
スマートフォンのロック解除、飲食店での注文や支払い、勤務先への入居、ショッピングモールの買い物、銀行、空港、ホテル、さらには帰宅時のマンションの入り口…。中国の市民は朝から晩まで、1日に何度も顔認証を求められるのが当たり前となった。

中国の警察は犯罪抑止や指名手配容疑者の追跡のため街角に防犯カメラ設置を進めており、中国メディアも「社会の安定に貢献」と肯定していたが、最近は風向きが変わってきた。

顔認証で撮影された顔写真が裏ルートで流通し、本人の銀行口座などが特定されたり、本人になりすました犯罪が行われていたりする懸念が広がっている。裏ルートでは、数千枚の顔写真がわずか2元(約34円)で売買されているという。

企業が勝手に客の顔認証情報を収集する動きも目立っている。「世界消費者権利デー」の3月15日に合わせて著名企業の不正を告発する中国国営テレビの番組「315晩会」は、ドイツのBMWや米国のユニットバスメーカーのコーラー(Kohler)、イタリアのアパレル大手マックスマーラ(Max Mara)などが中国の店舗で顔認証カメラを設置し、同意を得ずに来店者情報を保存していたと報道した。
 
顔認証をめぐっては2019年、浙江理工大学法学部の郭兵副教授が、浙江省杭州市にある杭州野生動物世界を提訴した。

年間パスポートを購入した後、本人確認の方法を顔認証システムに一方的に変更され、「顧客の同意なしに生体情報の収集を強制するのは消費者権益保護法違反」と主張した。「顔認証を巡る中国初の裁判」と注目され、杭州中級人民法院は今年4月、一方的な変更は契約上のルール違反と判断を下した。
 
清華大学法学部の労東燕教授は昨年3月、自分が住む集合住宅の各入り口に顔認証出入管理システムが設置されるとの通知を見て、不動産管理会社と住民委員会に「同意なく個人の生体情報を収集することは法律に違反する」と抗議。顔認証システムは無期延期となった。
 
こうした問題を受け、最高人民法院は7月28日、人工知能(AI)で個人の顔を識別する顔認証技術の使用に関する規定を公表。

ホテルや商店、駅などでの顔認証技術の使用は違法とし、アプリなどで使用する場合は消費者の同意を得るよう求めた。「同意しなければサービスを提供しない」という規定も違法とし、マンションの出入りに顔認証を使う場合は同意しない人のために代替手段の提供を義務付けた。

顔認証装置は数万円で購入でき、個人が私的な目的のため顔情報を収集できることも可能だ。急速に広がる顔認証システムに、一定の歯止めがかけられた形だ。【8月24日 東方新報】
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上記記事タイトルは“急速に広がる顔認証技術に市民が不満 ”とありますが、紹介されている事例はいずれも法学部教授の訴え。一般市民の理解とはやや異なるかも。

【日本でも JR東日本「社会的合意・議論なし」に刑務所からの出所者、仮出所者の顔認証監視】
こうした話は、海の向こうの中国などでの話かと思っていましたが、日本でも。

****「硫酸男」スピード逮捕のウラで…実はJRが「顔認証カメラ」を導入していた****
「駅名は明かせませんが、約110の駅のコンコースなどに設置したおよそ5800台の監視カメラの一部に、顔認証機能を搭載しました。マスクをつけていても、不審者の顔を判別できる能力があります」(JR東日本広報) 

JR東日本が、ひっそりと「顔認証監視カメラ」を導入したことをご存じだろうか。駅利用者の顔と、登録されている犯罪容疑者や不審者の顔をリアルタイムで照合し、検知しているというのだ。  

五輪開幕に合わせて、7月から導入していた。顔データの出元や最終的な情報提供先は「答えられない」と言うものの、警察とみて間違いない。  

先月24日夜、東京・港区で男性に硫酸をかけた男は、JR品川駅から新幹線に乗って逃走した。男は28日にスピード逮捕されたが、この捜査にも顔認証監視カメラが活用されたとみられる。  

捜査に役立つなら、問題ないと思うかもしれない。しかし、顔の画像を無差別に収集されるのはあまり気持ちのいい話ではない。

ITジャーナリストの三上洋氏が言う。  
気がかりなのは『誰がどんな基準で顔リストを作っているのか』『集めたデータが何日間保存されるのか』が不明な点です。  

欧米では一部の国や州で同様の監視カメラの規制が始まっています。一方、日本ではまだ規制が一切なく、データの利用状況を監視する第三者機関もない。悪用されても気づけないのです」  

さらに心配なのは、情報漏洩のリスクだ。映像のデータはJR東日本が委託する警備会社が管理・チェックするという。  

「考えたくないことですが、もし委託先の会社に悪意ある人や外国人スタッフがいて、そこから情報が漏れた場合、責任をとれるのでしょうか」(前出・三上氏) 

顔認証監視カメラは、あくまでも五輪・パラリンピック期間中の警戒用というが、今後、警察がこの技術を放っておくとは思えない。日本も中国なみの監視国家になってゆくのか。  【『週刊現代』2021年9月11・18日号より 週刊現代(講談社)】
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駅構内には、「顔認証機能」が付いた防犯カメラが作動していることを伝えるステッカーが掲示されてはいるようです。

このJR東日本の顔認証システムは、刑務所からの出所者、仮出所者の一部を駅構内で検知する仕組みも含まれていましたが、21日、JR東日本は「社会的なコンセンサスがまだ得られていない」として取りやめたとのこと。

****「駅で出所者を顔認識」中止 JR東、導入に「社会的合意なし」****

(駅構内で、「顔認証機能」が付いた防犯カメラが作動していることを伝えるステッカー=JR東日本提供)

主要駅の安全対策としてJR東日本が7月から、顔認識技術を用いて刑務所からの出所者、仮出所者の一部を駅構内で検知する仕組みを導入していたことがわかった。

JR東の施設などで重大事件を起こした人を想定。国の個人情報保護委員会と相談して判断したとしていたが、同社は21日、「社会的なコンセンサスがまだ得られていない」として取りやめた。
 
同社によると、検知対象として、指名手配中の容疑者や駅で不審な行動をとった人に加え、乗客らが狙われたテロ事件などで服役した出所者や仮出所者を想定していた。痴漢や窃盗などは対象外という。
 
容疑者として逮捕された時点で報道された顔写真などをデータベースに登録。出所後、駅構内に設置した顔認識機能がある防犯カメラに映ると自動的に検知する仕組みで、駅の警備員らが声をかけ、必要に応じて手荷物を調べるケースを想定していた。
 
同社は、事件の被害者らに出所や仮出所を知らせる「被害者等通知制度」に基づき、被害者の立場で出所者情報の提供を受ける立場だという。

主要110駅や変電所などに、ネットワーク化されたカメラ8350台を設置し、東京五輪・パラリンピックへ向けた安全対策として7月6日に運用開始を公表したが、出所者情報を取り扱うかどうかなど具体的な運用方針は明らかにしていなかった。
 
JR東が一部出所者らを顔認識の検知対象にしていたことについては、読売新聞が21日に報道した。JR東は9月時点で出所者、仮出所者の登録がないとした上で「新聞報道や外部からの意見を踏まえていったん軌道修正し、当面はやらない」と説明した。指名手配者や不審者を対象とした運用は継続するという。

JR東海は「東海道新幹線などすべての駅で、顔認識機能がある防犯カメラは導入していない」とした。JR西も「具体的な検討はしていない」と説明。国の「情報通信研究機構」(東京)が過去に大阪駅の駅ビルで通行人の顔を撮影する実証実験を検討したが「プライバシー権の侵害」などと反発があったという。
また、JR九州も駅での顔認識カメラの設置はなく、「現時点で予定もない」としている。

 ■防犯目的、個人情報の扱いは
顔認識機能があるカメラで駅利用者らを撮影し、出所者を検知する仕組みに法的な問題はないのか。
 
まず、通勤客ら駅利用者の顔の特徴などの顔認識データを撮影・検知することについて、個人情報保護委員会は「本人同意は不要」と判断している。顔認識データは、本人の同意なしの取得を禁じている「要配慮個人情報」にはあたらないとの理由からだ。
 
利用目的の通知または公表は義務づけられている。同委は今月に更新したガイドラインに関する「Q&A」の中で、顔認識データを利用する際は、カメラの設置場所などにデータの利用目的や問い合わせ先の明示が必要との見解を示した。同委はこの点についても、JR東日本は7月時点で駅などで通知をしているとみて問題ないとの立場だ。
 
また、個人情報保護法では、服役していたという情報は「要配慮個人情報」にあたり、取得には本人同意が必要だが、法令に基づく場合や人の生命、身体、財産の保護のために必要な場合は同意なしに取得できるという例外規定がある。同委は被害者等通知制度に基づいてJR東が提供を受ける今回のケースはこの例外にあたる、とみる。
 
同委事務局の佐脇紀代志審議官は「個人情報保護法は保護と利用のバランスを図っており、今回の防犯という目的に限った利用であればバランスを欠くケースではない」と取材に話した。
 
欧米では近年、顔認識データの取得を禁じる動きが出ている。欧州連合(EU)が4月に発表した人工知能(AI)をめぐる規則案では、警察などによる顔認識データの取得を禁じている。米国では顔認識データの取得を禁止した州や市がある。

 ■ある程度やむなし、ルール決めて
公共施設の防犯カメラに詳しい藤井雄作・群馬大教授(安全工学)の話 
対象者の変装や整形も考慮すると、検知精度がどれくらいかにもよるが、逮捕状などが出ている指名手配の場合は問題ない。顔認識での検知は、セキュリティー上必要だ。
 
出所者や仮出所者については、刑期を終えて社会に出た人のプライバシーの問題を含めて、社会的なルールをしっかりと決める必要がある。
 
ただ、こうした顔認識での検知は、安全確保の観点からもある程度はやむを得ないのではないか。

 ■データ、緊急性高い事例のみに
個人情報の問題に詳しい宮下紘・中央大教授(憲法学)の話 
顔認識データは最も厳格に保護するべき生体情報の一つであり、人工知能(AI)など機械による判断で個人が不利益を被る事態は避けるべきだ。欧米では取得そのものを禁じる動きが増えており、JR東日本による駅利用者の顔認識データの取得は欧米の流れと逆行している。
 
服役した人の顔の情報を民間企業のJR東日本が登録し使うことも許されるべきではない。不審な行動をとった人のデータを登録する基準も示されておらず登録内容のチェックもできない。データの取得や使用は防犯目的であっても緊急性の高い事例に限定されるべきだ。【9月22日 朝日】
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いろいろ見解はあるにせよ、社会的合意はもちろん、議論もなしにこういう技術が普及するというのはやはり問題でしょう。


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