孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ経済の先行き FRB議長とトランプ大統領、分けれる見方 広がる格差 高齢者の状況悪化

2018-12-31 23:24:31 | アメリカ

【10月16日 安田 佐和子氏 アゴラ】

【トランプ大統領「FRBは、マーケットを感じ取っていない」】
日本を含めた世界の来年の景気がどうなるのかに大きく影響するアメリカの景気は、微妙な段階にあります。

パウエルFRB議長率いる米連邦公開市場委員会(FOMC)は、「経済活動は力強いペースで拡大している」という見方を基本として4回目の利上げを行いつつ、2019年の利上げ見通しは前回予測の3回から2回に減らす形で、引き締め休止が近づいている可能性を示唆しています。

****FOMCが今年4度目の利上げ、来年の利上げ予測は2回に減少****
米連邦公開市場委員会(FOMC)は18-19日に開いた定例会合で、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を2.25-2.50%のレンジへ引き上げた。2019年の利上げ見通しは前回予測の3回から、2回に減少した。

利上げは今年に入ってから4度目。最近の株価急落を無視し、トランプ大統領からの圧力に逆らう格好となった。

金融当局は来年の利上げ回数予想を減らすことで引き締め休止が近づいている可能性を示唆したが、予想中央値では2020年にはなお1回の利上げを見込んでいる。

パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長率いるFOMCは声明で、「経済活動は力強いペースで拡大している」と指摘。見通しに対するリスクは「おおよそ均衡している」としながらも、世界経済の軟化が及ぼす脅威に注意を促した。
  
声明には「引き続き世界の経済・金融情勢を注視し、経済見通しへの影響を精査する」と記述されている。今回の利上げは賛成10、反対ゼロの全会一致での決定だった。
  
パウエル議長は記者会見で、力強い労働市場や賃金上昇など経済のプラス面と、成長鈍化を示唆する動向の両方を指摘。比較的落ち着いた物価動向により、政策決定には忍耐強くなれる余地があると話した。
  
トランプ大統領はツイッターで前日まで2日連続でFOMCを批判し、金利据え置きを求めていた。景気への不安も強まり、S&P500種株価指数は最近数週間、下落基調にある。
  
パウエル議長は記者からの質問に対し、政治的な配慮は政策決定に一切影響しないと言明。ホワイトハウスからの圧力について問われると、「われわれは、これまで常にやってきた方法で責務を遂行する」と答えた。さらに、金融当局は独自に分析し、「その分析から逸脱すべき根拠は一切存在しない」と話した。(後略)【12月20日 Bloomberg】
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先行きに警戒感を強める市場動向よりも、経済指標が示すものを重視した決定とも評されています。

****FRB議長の賭け:市場より指標が正しい****
経済指標は米経済が好調だと言い、市場は景気後退(リセッション)に向かっている可能性があると話す。
 
米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを決定し、回数は減らしたものの追加利上げを示唆したことは、ジェローム・パウエル議長が他の要素よりも経済指標をずっと重視していることを示す。(中略)

データだけを基にすれば、パウエル氏の選択は簡単だった。経済成長と失業率はFRBの予想した通りに動き、住宅着工や失業保険申請といった比較的弱い一部のデータは最近改善している。
 
来年は成長が鈍化するとみられるが、FRBはそれを見込み、必要としている。でなければ、現在3.7%と既にかなり過熱の領域に入っている失業率は3%近くかそれ未満に低下しそうだ。(中略)
 
FRBに利上げ停止を求める主な根拠は、世界経済成長のつまずきや目標の2%をなお小幅に下回るインフレ率、株価下落やイールドカーブのフラット化がエコノミストの予想以上に急激な景気減速を示唆しているというものだ。

パウエル氏はこうした不安を全て認識している。だからこそFRB当局者らは来年の経済成長と利上げ回数の見通しを後退させた。株価下落と社債利回り上昇を金融環境の引き締まりと表現し、金融政策引き締めをやや緩めることで対応する必要があるとした。
 
だがパウエル氏は、データや各種事例からは読み取れない何かを市場が示しているとは考えていない。「マクロ経済的な見地からすると、1つの市場は単一の圧倒的な指標にはならない」と話している。
 
パウエル氏は、市場が正しく、指標が悪化しかけている可能性にFRBが備えている印象を与えるため、将来の利上げに関してずっとあいまいな声明を発表することもできた。
 
だがそうしなかったことは、経済にとってもパウエル氏個人にとってもリスキーだ。リセッションに陥ったらドナルド・トランプ大統領は責任を同氏に負わせる公算が大きい。

市場と経済指標がかけ離れることはよくある。株式市場は過去5回の景気後退のうち9回を予想したというのは古いジョークだ。だが実際にはかなりの好成績である。FRBは1回も予想していないのだから。【12月20日 WSJ】
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このFRB・パウエル議長の判断に、“直観”を重視するトランプ大統領が「アメリカ経済が抱える唯一の問題だ。FRBは、マーケットを感じ取っていない」、「FRBは、勘が悪くてパットが下手な力任せのゴルフ選手のようだ」と激しく反発し、議長の解任まで云々される状況にあることは報道のとおりです。

****トランプ氏「FRBは利上げ急ぎすぎ」 株急落で改めて非難****
ドナルド・トランプ米大統領は25日、連邦準備制度理事会による金利引き上げが株価急落の原因だとし、FRBの通貨政策を改めて非難した。

株式相場が12月としては世界恐慌以来の急ペースで下落する中、トランプ大統領はFRBによる米経済のかじ取りに批判を続けている。

トランプ大統領は毎年クリスマスに行われる米兵との電話会議の後、記者団の質問に答え、FRBは「利上げを急ぎすぎている。経済がとても好調だと考えているからだ」と指摘。その上で「だが、彼らもすぐに分かるだろう」と述べた。

中央銀行として政府からの独立が建前とされるFRBだが、トランプ大統領は「常軌を逸している」「制御できていない」などとこき下ろしている。

休日明けのアジア市場はトランプ大統領の発言に先立ち、米国の経済情勢や政府機関の閉鎖への不安から大幅に下げ、4日続落を記録していた。(後略)【12月26日 AFP】
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来年がどうなるかはわかりませんが、ほかのことに関してはともかく、こと景気動向に関しては“ビジネスマン”トランプ大統領の「直観」もそれなりのものもあるかも。

と言うか、市場が先行きに不安になっている原因は、トランプ大統領の仕掛けている米中経済戦争の行方であり、また、最近では政府機関閉鎖です。さらに、トランプ大統領のFRB議長解任云々といった介入姿勢もそのひとつです。

要するに、市場の不安の根源はトランプ大統領の存在自体にあるといってもよく、その張本人のトランプ大統領が「FRBは、マーケットを感じ取っていない」云々と批判するのも奇妙な話です。

世界経済のもうひとつの牽引車、中国でも米中貿易戦争を受けて、悪化の兆しが出ています。

****中国製造業の景気悪化、2年10カ月ぶり低水準 米中貿易戦が影****
中国国家統計局は31日、製造業の景況感を示す12月の購買担当者指数(PMI)が前月比で0・6ポイント低い49・4になったと発表した。PMI悪化は4カ月連続。2016年2月以来、2年10カ月ぶりの低水準だった。
 
好不況を分ける節目の50を割り込んだのは16年7月以来、2年5カ月ぶり。
 ト
ランプ米政権が中国からの輸入品に追加関税を課し、中国側も報復関税をかけるなど米中貿易戦で輸出入が振るわず、製造業が設備投資や資材調達を縮小したことが影を落とした。(後略)【12月31日 産経】
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【世界ナンバーワンなのかと思えるほど足元は脆弱】
話をアメリカに戻すと、好景気が続き、失業率は現在3.7%と既にかなり過熱の領域に入っています。
その一方で、経済格差が深刻化しているのは従前から指摘されているところです。

****経済好調も増えるホームレス、病魔に侵された米社会 ****
年の瀬になって、米政府から暗い内容の報告書が公表された。米住宅都市開発省(HUD)がまとめた「2018年版ホームレス評価報告書」である。
 
2年連続で米国内のホームレス人口が増えたという内容だ。いまさら米国のホームレス人口が増えたことに驚かれる方は少ないかもしれない。ただバラク・オバマ政権時代が終わるまで、ホームレス人口は減少傾向にあった。

低失業率なのになぜか増えるホームレス
改善の流れがあったにもかかわらず、ドナルド・トランプ政権になって再びホームレスが増え始めたのだ。
実数にすると55万3000人。
 
ホームレス人口は経済と密接にかかわっている。不景気になり、企業倒産が増えて失業者が町に溢れればホームレスも増えることになるが、今年の米経済は悪くない。
 
12月に入って株価の急落はあったが、GDP(国内総生産)は年3%成長を達成できそうだし、失業率も現在3.7%と低率である。
 
ほかの経済指標も良好で活況と言っても差し支えない。それなのにホームレスが増えているのはなぜなのか。
 
同報告書によると、トランプ政権になっても米社会の格差は埋まらず、低所得者層の賃金が増えていないばかりか都市部での住宅価格が高騰し続けているからだという。
 
さらに約4300万人が貧困ラインから下の経済環境で生活している。給料が1回から数回滞っただけでホームレスに転落する危険性がある人たちだ。
 
いまでも米国の経済規模は世界一だが、本当に世界ナンバーワンなのかと思えるほど足元は脆弱なのだ。

11万円が払えない米市民が約4割
さらに驚くべきことは、医療費や自動車修理代などで1000ドル(約11万円)の出費が発生した時に支払えない米市民が39%もいるという。
 
一般的に、米国人は日本人より貯蓄をしない国民であると言われているが、こうした数字に如実に表れている。
 
ホームレスといっても、すべての人が失業者というわけではない。約25%は仕事をしている。
収入はあるが、家賃を払い続けるだけの稼ぎがないことから路上やホームレス支援センター、自動車の中などで寝起きをせざるを得ないのだ。
 
全米低所得者住宅連合の調査によると、「最低時給賃金の仕事だけでは大都市で2LDKのアパートを借りることはできない」という。(中略)

それでは55万3000人というホームレス数をどう解釈すべきなのだろうか。
 
米国の人口が約3億2000万。その中の約55万人なので、580人に1人だけがホームレスという言い方もできる。だが日本との比較では多いと言わざるを得ない。

ホームレス比率は日本の100倍
厚労省が今年6月に発表した2017年のホームレス人口は5534人。自立支援策などが功を奏して近年は減少傾向にある。ただネットカフェなどで生活している人を含めると実数はもっと多い。
 
米国でも数字の漏れはあるが、それを考慮しても米国の55万人は多い。単純比較するとほぼ100倍である。米国の人口が日本の約3倍であっても相当な数字である。
 
実は日本でも2000年前後は約2万5000人のホームレスがいた。だが減少している。
 
全国の自治体が施策を講じて自立支援センターを設置して、寝る場所や食事を提供してもいるので、米国とでは状況が変わってきた。(後略)【12月31日 堀田 佳男氏 JB Press】
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【高齢者の就職難 音楽が止まったとき、経済のクレバスが大きな口を・・・】
“本当に世界ナンバーワンなのかと思えるほど足元は脆弱な”アメリカ経済社会ですが、特に脆弱なのが退職年齢の高齢者です。

****アメリカ人の中間層、850万人が退職年齢時に貧困レベルへ?****
米国は4%成長を謳歌し、経済は絶好調そのものいった感が漂います。

しかし、シティグループのチャック・プリンス元最高経営責任者(CEO)の言葉を借りれば、音楽はいつか鳴り止むもの。その時には、現状見過ごされている経済のクレバスがさらに大きな口を開けていないとも限りません。

労働市場の指標が最大限の雇用の接近あるいは到達を示唆しても、働き盛りの労働参加率がなかなか改善しないのは、経済のミスマッチの現れといっても過言ではないでしょう。

2017年の家計所得が2年連続で過去最高を更新したものの、中間層の50%と上位5%の格差が過去最大を記録したことも、記憶に新しい。

中間層のアメリカ人に対し、こんな調査結果も飛び出しました。シュワルツ・センターによれば、アメリカ人の4割を占める中間層で、退職年齢に差し掛かると共に貧困層に陥るリスクが高まっているというではありませんか。

調査によれば、50〜60歳の労働者が仮に62歳で退職した場合、同年齢ゾーンの中間層のうち約4割の850万人の所得レベルが、独身世帯で1万8,000ドル、夫婦の世帯で2万9,500ドルへ下がるといいます。

そのうち、260万人が貧困層の分水嶺(独身世帯で1万1,670ドル、夫婦で1万5,730ドル)を割り込むとの試算も。①賃金の下落、②資産の下落、③医療費の上昇——がその背景にあります。

米国では公的、民間ともに年金制度は資金不足も深刻化の一途をたどります。同調査では、退職年齢とされる65歳以上になっても、アメリカ人の74%が労働を余儀なくされると指摘していました。

事実、働き盛り世代の労働参加率が低下する半面、55歳以上の労働参加率は高止まり中。9月は40.1%と、約5年ぶりの高水準を示します。さらに65歳以上に至っては9月に19.9%と、1961年以来の20%乗せに迫りました。

リカレント教育の必要性が指摘される半面、高齢者の労働環境は改善の余地を残します。こちらで紹介したように高齢者の働き口が必ずしもそれなりの賃金を約束するものではありません。(後略)【10月16日 安田 佐和子氏 アゴラ】
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4%成長(第2四半期 年間では3%程度)のアメリカ、一方で長期的経済拡大といわれながらも、ここ20年間実質ほとんど横ばいのような日本・・・何が違うのか?そこらは、また別機会に。

年金をもらって広場でダンスを踊るのが理想(?)の中国人が日本社会に感じる疑問の一つは「なぜ、豊かな日本の高齢者は働いているのか?」ということですが、アメリカの高齢者も年金をもらって優雅な退職後の生活を・・・とはいかなくなっているようです。

****米高齢者の就職難、崩壊する老後モデル ****
800万人近い高齢労働者が失業中か低賃金に甘んじている状況

年配の米国人の中には、引退前の数年で貯金を増やしたり債務を減らしたりして老後に備えようとする人もいる。その機会を得られない人は多い。
 
環境エンジニアや契約管理の仕事をしていたグレッグ・ミラーさん(65)は、2017年に解雇された。400通を超える履歴書を送ったが、正社員になることを最近あきらめた。(中略)

こうしたキャリア終盤の就職難が目立つ一方、老後資金の不足は数十年で最悪の状況にある。
 
高齢労働者の失業率は公式には3%だが、実際の雇用環境は驚くほど悪い。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が公式統計を分析したところ、800万人近い高齢労働者が、失業しているか、老後の備えがほとんどできない質の低い仕事に甘んじていた。
 
この数字には、失業者、正社員の仕事が見つからずパートタイムで働いている人や、求職を断念した人が210万人近く含まれている。

残りの580万人(55歳以上の正社員の23%)は、エコノミストの言う「悪い仕事」に就いている。医療保険を提供せず、多くは賃金が低い仕事だ。ミネソタ・ポピュレーション・センターがまとめた国勢調査データによると、この割合は10年前には約20%だった。
 
ボストン大学退職研究センターのアリシア・マンネル所長は「こうした仕事は、合っている人もいるだろうが、賃金が低く、引退に向けた貯金の機会にはほとんどならない」と述べた。

失業した年配者は職探しに長い時間がかかり、家計が悪化するケースが多い。
 
ストーニーブルック大学の経済学者デービッド・ウィクサー氏の分析によると、1カ月以上失業していた労働者が新しい仕事で得る賃金は、30歳未満では平均7%増えるのに対し、56歳以上では27%減る。(中略)

年配者にとって最大のセーフティーネットも消えつつある。ボストン大学退職研究センターによると、年金制度に加入している55~64歳の労働者の割合は16年には17%と、1992年の33%から減少している。(後略)【12月31日 WSJ】
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“音楽はいつか鳴り止むもの”・・・・もし来年、景気が悪化すると“その時には、現状見過ごされている経済のクレバスがさらに大きな口を・・・・”という深刻な不安を抱えるアメリカ経済です。
もちろん、日本経済の方も他人事ではありませんが。

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バングラデシュ総選挙  荒れ模様の展開のなかで、「何らかの方法で」与党勝利の見込み?

2018-12-30 22:55:26 | 南アジア(インド)

(ダッカで遊説中に与党支持者とみられる数十人の集団に襲われ、重傷を負った父親の血まみれの服を手に、「これで公正な選挙といえるか」と糾弾する野党関係者【12月29日 読売】)

【「女帝」の対立】
バングラデシュでは今日30日が総選挙投票日ですが、多くの死傷者を出す荒れ模様の展開になっていることが、連日報じられています。

****与党優位か、衝突で12人死亡=治安一層悪化も―バングラデシュ総選挙****
バングラデシュで30日、総選挙(定数350)の投票が実施された。

有力野党の指導者が収監されたり、支持者が拘束されたりする中で投票日を迎え、与党アワミ連盟(AL)の優位が予想されている。

与党支持者や警察と野党支持者との間で衝突が頻発し、AFP通信によると30日、12人が死亡。11月に選挙実施が決まって以降の死者は少なくとも25人に達した。
 
即日開票され、同日中にも大勢が判明する見通し。地元メディアによると、与党関係者が投票を妨害したという訴えがあり、選管が調査を行う方針。ただ、与党が勝利すれば公正な調査が進むかは不透明だ。投票結果を受け、治安がさらに悪化する懸念もある。【12月30日 時事】 
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バングラデシュの政権を交互に担当してきた与党ALと野党BNPの両女性党首は、よく似た経歴・境遇とも言えます。

現首相であるアワミ連盟(AL)のシェイク・ハシナ氏は初代大統領であるシェイク・ムジブル・ラーマンの娘です。一方、野党第一党のバングラデシュ民族主義党(BNP)の党首であり元首相のカレダ・ベグム・ジア氏は、ムジブル・ラーマンの暗殺後に就任した二代目大統領ジアウル・ラーマン氏の妻です。

ハシナ首相の父も、ジア元首相の夫も政治的な非業の死を遂げており、二人の女性リーダーは、それぞれ相手のことを「自分の父親と家族を殺した」、あるいは「自分の夫を暗殺した」と憎みあう犬猿の仲だと言われています。

両者の対立は、「女帝」の対立とも言われています。

二大政党が政権を交互に担当するという“一見民主的な”政治動向にもかかわらず、政争による混乱が収まらないのは、背景に両女性リーダーの間の根深い“私怨”が存在していることもあります。

こうした政治状況を一掃しようと、2007年1月には、軍を後ろ盾とする暫定政府が全権を掌握、政治的混乱を招いてきたハシナ、ジア両氏が汚職容疑で相次いで逮捕され、各政党では党内改革も同時に実施されましたが、有力指導者が現れず、結局、ハシナ、ジア両氏とも釈放されて、「女帝」の対立が再現しています。

ただ、両者の現時点での明暗ははっきりしており、2009年からの長期政権を担い、さらに3期目を目前にしているハシナ氏に対し、ジア氏は資金横領で有罪判決を受けて収監されています。

****ジア元首相に禁錮7年=4000万円を横領―バングラ****
バングラデシュの裁判所は29日、ジア元首相に対して、運営に関与していた慈善団体の資金を横領した罪で禁錮7年を言い渡した。ジア氏は既に今年2月、別の孤児院向けの基金から現金を横領した罪で禁錮5年の判決を受けており、年内に行われる見通しの議会選には出馬できない。
 
判決によると、ジア氏は首相在任中の2001〜06年、同じく有罪判決を受けた側近ら3人と3150万タカ(約4160万円)を横領した。二つの禁錮刑の刑期は統合されて計7年間となるが、ジア氏側は上訴する可能性もある。【10月29日 時事】
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【「(選挙管理員会も味方についている)ALは何らかの方法で議席の70%を取る」との予想も】
選挙予測は、与党側による合法・非合法の厳しい対応・工作によって野党側は十分な選挙活動ができず、与党が勝利する・・・という見方が一般的です。選挙管理委員会も味方についているし・・・・。

ただ、選挙後の混乱も必死とも見られています。

****バングラデシュ総選挙、与党一色で投票始まる****
野党支持者らの相次ぐ逮捕に批判も

バングラデシュで30日午前8時(日本時間同11時)、5年に1度の総選挙(定数350議席)の投票が始まった。選挙戦期間中に野党支持者らの逮捕が相次ぎ、首都ダッカの投票所にはハシナ首相率いる与党アワミ連盟(AL)の支持者ばかりが並んだ。公平性に疑問符が付くなか、ハシナ首相が3期連続で政権を握るとの見方が多い。

バングラデシュの首都ダッカの投票所前には30日、与党候補者のポスターの下、与党支持の有権者らが並んでいた
投票所となったダッカの高校前には、投票開始時点で160人の有権者が列をなしていた。

一時間前から先頭で待ったムスリム・シッダさん(56)は「ALに投票する」と話し、胸に付けたバッジを指さした。ALのシンボルである小舟の印と、この小選挙区の候補者の顔写真が写っていた。後ろに続く人々の多くも同じバッジを胸にし「ALだ」と口をそろえた。

野党連合によると「過去1カ月半で1万5千人以上の野党候補・支持者らが不当に逮捕された」。警察側は暴動容疑などが理由だと、逮捕の正当性を主張する。ALの党関係者は「暴力は与野党双方が総選挙のたびにやる恒例行事だ」として、与党による公権力を用いた一方的な弾圧ではないと強調した。

選挙前のバングラ議会では、ALが8割の議席を握り、一党支配に近い構図だ。最大野党バングラデシュ民族主義党(BNP)などが前回選挙をボイコットしたことが主因だ。

今回はBNPを含め10以上の政党が参加するが、BNPのジア党首が汚職罪で収監されているうえ「野党はポスターの張り出しも許されなかった」(ダッカ在住の野党支持の大学教授)。

ある企業経営者は「公正に投票を実施すれば、BNPが議席の50%を取り、ALは30%にとどまる」と話す。選挙戦期間中の暴力や不当逮捕で「ALは庶民の多くの支持を失った」からだ。ただ「警察だけでなく選挙管理委員会もハシナ首相の側に付いており、ALは何らかの方法で議席の70%を取る」と予想する。

1971年の独立直後に外相や石油相を歴任し、90年代までALに属していたカマル・フセイン氏は、いまは野党連合に加わる。29日にダッカで開いた外国人記者向けの会見で「人々(野党支持者)が投票を妨げられたり、一方的な投票(与党支持)を強要されたりすれば、選挙無効や再選挙の要求など、あらゆる選択肢を視野に入れている」と話した。【12月30日 日経】
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【暴力的な政治風土】
「暴力は与野党双方が総選挙のたびにやる恒例行事だ」・・・・確かに、そういう面があります。

前回2014年1月の選挙では、ボイコットしたBNPなどによって、各地で投票所や車両に放火するなどの暴力的投票妨害がなされ、投票日だけで警察の発砲などによって19人が死亡しています。

選挙に限らず、バングラデシュでは政治活動に暴力が伴うことが多く、野党主導の反政府ゼネストは「ハルタル」と呼ばれる暴力状態になります。

****バングラデシュのホルタル(ハルタル)について*****
(中略)ホルタルと言うのはいわゆる「ゼネラル・ストライキ」に当たる活動で、主にインドやバングラデシュ、スリランカやネパールなど南アジアで行われる政治活動の一環です。

地域ごと呼び名は違いますが(例えばネパールでは「バンダ」と呼ばれる)、目的はたいがい「時の政府に対しての反対活動」を行う事です。

この活動の主な方法は、「商店や学校、オフィスなどの機関の活動を停止せよ」「列車やタクシー、電動式の乗り物の通行を自制せよ」というものです。

これはホルタル賛同者だけでなく、普通の住民にも影響が出ます。

このホルタル宣言に反して、「事業の運営」や「バスなどの運行」を強行すると、ホルタル賛同者から強力な妨害行為を受ける事もしばしばです。

時には「放火」や「投石」などの手段に出るホルタル賛同者もあり、結局ホルタルの賛同者でない者も商店を閉めたり、バスの運行をやめたりする事が多く、結局は大きな範囲でのストライキに拡がってしまいます。

政府事務所や、政党事務所が集積する地域ではシュプレヒコールを上げた行進などが行われ、たびたび警察との衝突も起こります。

渋滞の激しいバングラデシュの首都ダッカでも、この日に限っては道路も交通がほとんどありません。
かといって、車などで動こうとするとホルタル賛同者からの襲撃がある可能性があり、動けない状況です。
もちろん運輸もストップするため、経済人にとっては大きな痛手となる政治活動です。

もともとはイギリス統治下にあったインドでマハトマ・ガンジーがイギリス政府に対して提起した「非暴力・非協力」という静かなる反対運動でしたが、最近では上記に掲げたように「強制的なホルタル賛同」を求められ、決して「非暴力」とは言い難くなってきました。(後略)【国際人材交流機構ホームページ】
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ホルタル(ハルタル)は、ALが政権を握っているときはBNPが、BNPが政権を握っているときはALが主導します。

【若者の政府への不満が募っている 「こうした不満が一気に表面化すれば、野党の勝利も」】
こうした政治風土もあって、今回、与党・政権側の選挙工作はし烈なものになっているようですが、そういうものがなければ、与党側は苦戦するのでは・・・とも指摘されています。

であればこそ、政権を維持したい与党側はし烈な工作を行っている、その結果「(警察・選挙管理委員会を味方につける与党)ALは何らかの方法で議席の70%を取る」とみられる状況にもなっています。

****バングラデシュ 経済安定成長も若者ら政権に不満 30日総選挙****
5年間の任期満了に伴うバングラデシュ総選挙(定数350)が30日、投開票される。

2009年から政権を担うハシナ首相の与党・アワミ連盟(AL)は高い経済成長を実現する一方、野党・バングラデシュ民族主義党(BNP)の政治家や支持者を多数拘束するなど強権的な姿勢を強めてきた。

ALが優位とみられるが、BNPは若者を中心に広がる政権への反発を支持拡大につなげたい考えだ。
 
「今は事実上の独裁政権だ。私だっていつ殺されるか、逮捕されるか分からない」。BNP幹部は電話取材に声を潜めた。BNP党首のジア元首相は2月、汚職罪で有罪判決を受け、総選挙に出馬できなかった。BNPによると、12月だけでBNP関係者約2000人が当局に拘束された。
 
ハシナ政権が5月に始めた麻薬「ヤーバー」の撲滅作戦で摘発されたり殺害されたりした容疑者の中に、BNP関係者が多数いたとの指摘もある。
 
バングラでは1990年代から、ALとBNPがほぼ交互に政権を担い、時の与党が野党を締め付ける状況が続いてきた。BNPは14年の前回選を「公平ではない」としてボイコットした。
 
一方、ハシナ政権下では安定した経済成長が実現。16年以降は国内総生産(GDP)の実質成長率が7%を超え、失業率も低下した。

しかし、71年のパキスタンからの独立時の功労者の親族らが公務員採用で優遇される「クオータ制」に対する反発から、今春に大学生による大規模なデモが起きた。高学歴者の失業率が高いとも指摘され、若者の政府への不満が募っている。
 
有権者の10%程度を占めるとされるイスラム保守層の動向も注目される。ALは世俗主義を掲げ、特に16年のダッカテロ事件以降は過激派掃討に力を入れてきた。

だが、ALは近年、BNPの支持層だった保守票を取り込むため、イスラム教宗教学校の学位を公的に認定したり、イスラム団体との連携を強化したりしてきた。
 
地元ジャーナリストは「一定の保守票はALに流れるだろう。だが、選挙目当ての政策が過激主義を広めることにもつながりかねない」と懸念を示す。【12月27日 毎日】
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その不満を募らせる若者の動向が選挙結果に大きく影響します。
(本来は、そういう話ですが、「ALは何らかの方法で議席の70%を取る」という状況は、また別次元の話になります。)

****12月30日にバングラデシュ総選挙、行方を占うカギは若者の動向****
バングラデシュ総選挙が12月30日に実施される。バングラデシュは一院制(300議席)の小選挙区制で、前回2014年の際は最大野党バングラデシュ民族主義党(BNP)が選挙をボイコットしたため、今回は10年ぶりに野党が参加する。

政権与党のアワミ連盟(AL)は7%超と好調な経済成長率と国民所得の向上を成果としてアピールし、BNPは民主主義を取り戻すことを掲げている。

特にBNPは、前回選挙で大規模な抗議活動を行ったことにより、多くの死傷者を出した反省から、2018年2月にカレダ・ジア党首が収監された後も、主だった抗議活動はしていない。

そのジア党首は3選挙区で立候補を届け出たが、いずれも選挙管理委員会から却下され、立候補できていない。そのため、BNPは1971年の建国時に憲法草案に携わった、独立時の英雄の1人であるカマル・ホセイン氏を候補者に担ごうとしたが、最終的に同氏は立候補していない。

BNPを中心とする野党連合の求心力が弱まっている一方で、バングラデシュは伝統的に反現職傾向が強いといわれている。

地場の政治アナリストは「地方の農村部に住む多くの貧困層は経済成長の恩恵にあずかっておらず、10年間の政権に飽きており不満が鬱積(うっせき)している」とした上で、「こうした不満が一気に表面化すれば、野党の勝利も十分にあり得る」と指摘する。

また、今回の選挙の行方を占う上で、重要な点が若者の動向だ。全有権者のうち、35歳以下が70%を占めている。こうした中、与党ALは2018年7月末の学生を巻き込んだバス事故による学生運動を受けて、道路交通法を改正した。

また、独立時に貢献した子孫の就職を優遇するクオータ制度の一部について、長らく続いた学生からの批判を受けて廃止した。

さらに、与野党ともに高齢となった党員の公認を取りやめ、新たに若い候補者を擁立することによって若者票の取り込みに注力している。

総選挙の結果は、バングラデシュにおける日本の円借款による大型インフラプロジェクトの計画や進捗にも大きな影響を与える可能性があり、その動向から目が離せない。【12月21日 JETRO】
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“日本の円借款による大型インフラプロジェクトの計画や進捗”には影響するかもしれませんが、越年したロヒンギャ難民の帰還問題にはどうでしょうか?多分、どっちが勝っても、ミャンマー側の対応が変わらないかぎり、大きく進展することはないのでしょう。
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シリア  米軍撤退発表で、ロシアを軸に進むトルコ・クルド・アサド政権のバランス調整

2018-12-29 22:55:47 | 中東情勢

(【12月29日 CNN】 グレーが政府軍、緑がクルド人勢力、オレンジがトルコ系民兵組織、青が反体制派支配地域)

【米軍撤退を引き出したエルドアン大統領】
トランプ大統領による米軍のシリア撤退の決定には、14日に行われたトルコ・エルドアン大統領との電話会談が大きく影響したと報じられています。

****エルドアン氏との電話で決断?=シリア撤収で米大統領―トルコ紙****
トルコ紙ヒュリエト(電子版)は21日、トランプ米大統領がシリアからの米軍部隊撤収を決断したのは、14日に行われたエルドアン・トルコ大統領との電話会談の最中だったと報じた。
 
それによると、トランプ氏は電話の中で、「われわれが撤収したら、(トルコが)過激派組織『イスラム国』(IS)の残存勢力を一掃できるのか」と質問。エルドアン氏は、IS掃討でトルコがテロ組織とみなすクルド人勢力に頼る必要はないと強調し、「われわれがやる」と答えた。
 
この直後、トランプ氏は電話会談が続く中で、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)に撤収に向けた準備に取りかかるよう指示したという。
 
トルコのアナトリア通信はこれより先、14日の電話会談について、両首脳がシリア情勢をめぐり調整を行うことで合意したと伝えていた。トルコのチャブシオール外相は21日、撤収を歓迎すると述べた。【12月21日 時事】 
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上記はトルコ・エルドアン大統領の存在感を大きく見せたいトルコメディア報道ですから、その点は考慮する必要がありますが、本当に電話会談最中にトランプ大統領が撤退指示を出したとしたら、当のエルドアン大統領も驚いたのではないでしょうか。

****トルコしたたか外交 対米関係改善、露とも連携密に****
トルコが外交巧者ぶりを発揮している。特に最悪レベルといっていいほど冷え切っていた米国との関係は秋以降、急速に改善した。その一方で、米国が敵対するイランやロシアとも連携を密にし、中東地域での存在感を増している。(中略)
 
こうした事態の推移と同時に起きたのがサウジアラビア人ジャーナリスト殺害事件だ。現場はトルコの最大都市イスタンブールのサウジ総領事館。

トルコはイスラム世界で影響力を争うサウジの権威を失墜させようと、ムハンマド皇太子の関与を示すような捜査情報をメディアにリークし続けた。
 
サウジへの圧力はその同盟国である米国への揺さぶりとなる。トルコが求め続けてきたギュレン師引き渡しに関し、トランプ大統領は「考えてみる」と述べるなど、それまでの姿勢を和らげた。
 
トルコが米国から勝ち取った最大の譲歩は米軍シリア撤収だ。トルコにとってシリアのクルド人勢力は、自国内の非合法組織・クルド労働者党(PKK)と連携する「テロ組織」だ。トルコは、対「イスラム国」(IS)戦でクルド人勢力と協力する米国に関係を断つよう求めていた。
 
トランプ氏の撤収決断を後押ししたのは、トルコのエルドアン大統領の一言だったとされる。エルドアン氏は今月14日、トランプ氏との電話協議でISが支配地域の大半を失った以上、「米国が駐留し続ける理由があるのか」と問いかけた。安全保障より、巨額の軍事費支出という損得勘定を重視するトランプ氏は側近にISが支配地域をほぼ失ったことを確認すると、その場で撤収を確約した。
 
米国との関係を改善しつつ、トルコはシリアでの影響力を強めるロシアやイランとも連携している。10月下旬にはイスタンブールでのシリア情勢会議に独仏を招き、ロシアとトルコとの4カ国首脳で永続的な平和のために憲法起草委員会を年内に開催するよう呼びかけた。トルコとロシアの外相・国防相は29日にもモスクワでシリア情勢を協議する。
 
トルコはこれまでも北大西洋条約機構(NATO)加盟国ながら、ロシアの最新鋭地対空ミサイル「S400」を購入する意向を示し、米国を揺さぶってきた。

米国務省は今月18日、トルコにS400に代わる防空システムとしてパトリオットミサイルを輸出することを承認したが、トルコはロシアからの購入計画も「決定に変わりはない」と強調。今後も全方位的な外交を展開しながら国益を追求する構えだ。【12月29日 毎日】
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【トランプ大統領「我々に戦ってほしかったら金銭的な支払いをしなければならない」】
引き金になったのがエルドアン大統領との電話会談だったとしても、中東情勢に関心がないトランプ大統領が“カネのかかる”シリアから撤退したがっていたのは間違いありません。

イラクの駐留米軍を訪問した際の発言には、そのあたりの心情が露骨に出ています。

****イラクを電撃訪問、トランプ氏が演説 「戦って欲しければ支払いを」負担増要求****
トランプ米大統領は26日、事前の予告なしにイラクを初めて訪問し、駐留米軍部隊の前で演説した。マティス国防長官の辞任表明を招いたシリアからの完全撤退の正当性を強調し、世界中に展開する在外米軍の意義には疑問を呈した。
 
「我々は、もう『カモ』ではない。我々に戦ってほしかったら金銭的な支払いをしなければならない」。トランプ氏はイラク中西部アンバル州の基地で、数百人を前に訴えた。
 
トランプ氏は19日、シリアで過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦を担う約2千人の米兵の全面撤退を表明。反発したマティス国防長官が辞表を提出した。ISの復活や、ロシアやイランの影響力の増大を懸念する声は政権内で根強い。アフガニスタンの駐留米軍も1万4千人から半減させるとみられている。
 
トランプ氏は演説で、トルコのエルドアン大統領がISの残党を壊滅させることを約束し、サウジアラビアがシリア復興資金を拠出するとして、「彼らに払わせればいい」と語った。
 
トランプ氏はシリア以外も念頭に、「何千億ドルも使い、戦うべき場所でない所で米軍は戦っている。意味のある戦いをしたい。我々を守る国は守ってあげよう」とも述べた。
 
トランプ氏は記者団にも、「米国は世界の警察官であり続けることはできない。嫌だ。我々は米国を守りたい」と強調。「裕福な国が、米国を自国の防衛に利用することはできない。世界中でのことだ。(代価を)支払えるだろう」として駐留先の国々に負担増を求めた。さらに、「世界中に(米軍展開が)広がっている。そんな軍隊はほかにない。大半の人が聞いたことがないような国にまで駐留している。正直言って、馬鹿げている」として、さらなる米軍撤退も示唆した。(後略)【12月28日 朝日】
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個人的には、シリアはシリア政府にまかせるしかない(本来は“(将来的には)アサド抜き”のシリア政府であるべきですが、現状では(当分は)アサド政権ということになりそうです)と考えますので、外国勢力が手をひくというのは英断でもあります。

ただ、現状で手を引いて、これまで協力したクルド人勢力はどうなるのか?トルコ・ロシア・イラン・イスラエルなどが割拠する状況はどうなるのか?といった問題は残ります。

それと、“カネ”を前面にだされると・・・・。
まあ、何をするについても資金的な面が重要であることは言うまでもありませんが(日本も「思いやり予算」を負担していますが)、世界最大の権力者に「すべては銭や!ムダ金など使う気はない!アホか!」と真正面から言われると、いささか鼻白むところも。

以前も書いたように、“我々に戦ってほしかったら金銭的な支払いをしなければならない”というのは、同盟関係でも、価値観に基づくものでもなく、世間で言うところの単なる“用心棒”です。

“用心棒”であれば、カネを払っていても、自分の都合で“寝返る”あるいは“手を引く”ことも十分にあることを念頭に置いておく必要もあります。

同盟関係とか、民主主義や人権に関する価値観云々は多くの場合“建前”でもありますが、そのなかに幾ばくかの真実も含まれているでしょう。

そうしたものを大切にすることで、アメリカはこれまで世界における“特別な地位”を得て、パックス・アメリカーナとも言われる国際秩序を確立、そこからアメリカ自身が有形無形の大きな利益を得てきたとも思われますが、トランプ大統領は現実の札束にしか関心がないようです。

【クルド・シリア政府の連携に対峙するトルコ】
米軍に協力する形でIS掃討にあたることでトルコ国境に勢力を拡大してきたクルド人勢力を叩きたいトルコ・エルドアン大統領としては、米軍撤退に大喜びしたところでしょうが、さすがにすぐにクルド人勢力掃討にはいるとアメリカのメンツも潰すことにもなりますので、多少は慎重な姿勢を見せています。

****シリア作戦「数カ月内に」=トルコ大統領、米軍撤収受け****
トルコのエルドアン大統領は21日、イスタンブールで演説し、シリア北部のユーフラテス川東岸で計画しているクルド人勢力の掃討作戦を今後「数カ月以内」に開始する考えを示した。アナトリア通信などが伝えた。
 
エルドアン大統領は、クルド人勢力をテロ組織と見なし、作戦を急ぐ方針を示してきた。しかし、トランプ米大統領がシリアでクルド人勢力を支援してきた米軍部隊の撤収を決めたことを踏まえ、まず情勢の推移を見守る姿勢に転じた。
 
大統領は演説で「トランプ氏との電話や米側が出した声明を受け、しばらく待つことにした」と説明した。一方で、いつまでも先送りし続けるわけではないとも強調した。【12月21日 時事】 
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しかし、クルド人勢力への圧力を強めており、“アメリカに見捨てられた”と悲憤する(前にも書いたように、そうした流れは当然に予想されたところで、今になって悲憤するというのはナイーブに過ぎるでしょう)クルド人勢力は、アメリカに代わる連携相手としてアサド政権を選択しています。

当面は、米軍が駐留し、クルド人勢力が支配してきたマンビジュが焦点となります。

****シリア政府軍、クルド部隊支援で北部マンビジに展開 同盟関係に変化****
シリア政府軍は28日、同国北部の対トルコ国境付近の要衝マンビジ周辺に部隊を展開させた。クルド人勢力を支援するための動き。米軍のシリア撤退が先週発表されたことを受け、同盟関係が急速に変化している。
 
マンビジには2016年からクルド人勢力が部隊を配置し、米国主導の有志連合軍も駐屯している。マンビジ当局の幹部はAFPに対し、シリア政権側の展開はロシアが後押しした交渉の結果だと述べた。
 
シリア政府軍は市内に旗を掲げたと発表したが、マンビジ幹部は、政権側部隊は市内に入らず、トルコが支援するシリア人部隊との境界線上に展開すると説明。米軍も、政府軍は市内には入っていないと言明した。
 
トルコはシリア政府軍の展開に対し、「すべての側が挑発的な行動を自制しなければならない」と警告。一方、マンビジ西端では28日のうちに、トルコが支援するシリア人部隊の大規模な車列が見られた。
 
シリアをめぐっては、ドナルド・トランプ米大統領が先週、米軍撤退という衝撃の発表をしたことで、クルド人勢力が孤立する情勢となっていた。
 
米国がシリア国内でのイスラム過激派組織「イスラム国」との戦いを支援する間、クルド人民兵組織「クルド人民防衛部隊」は先鋒役として同盟勢力の主軸となってきた。
 
クルド側は今回の政府軍の進軍を歓迎。自治獲得の希望は大きく後退することになるが、損害を抑えるため、同盟相手を変える現実的な選択をした形。
 
YPGは「われわれの部隊が撤退した地域、とりわけマンビジにおける支配を奪還するとともに、これらの地域をトルコの侵略から防衛するため(中略)われわれはシリア政府軍を招き入れる」と表明した。 【12月29日 AFP】
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クルド人勢力YPGは、政府軍に委ねる形で、マンビジュからは撤退を表明しているようです。
トルコの支援を受ける反体制派(事実上はトルコの民兵組織)もマンビジュに結集しています。

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YPGは28日の声明でマンビジュからの撤退を表明し、「我々の撤退後、トルコの攻撃から地域を守るため、政権軍が入るように依頼した」とした。
 
一方、28日に朝日新聞の取材に応じたシリアの反体制派武装組織の報道官は、「トルコ軍と連携し、分離主義者のテロリストからマンビジュを解放する軍事作戦の準備は整っている」と話し、各地から反体制派の部隊がマンビジュ方面に向かっていると述べた。【12月29日 朝日】
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【トルコもクルドもモスクワ詣で ロシアを軸に展開するバランス調整】
一見、各勢力がマンビジュに集結して一触即発のようにも見えますが(実際にも十分に危険な状況ですが)、トルコ・シリア政府軍双方ともマンビジュ市内には入らない・・・といった内容で、衝突回避に向けたトルコ・ロシア間の協議がなされているとも。

****トルコ・シリア国境地帯情勢****
米軍のシリアからの撤退決定に伴い、現在シリア民主軍(主力はYPG)が支配している地域が今後どうなるかが、取りあえずの焦点となっていますが、al qods al arabi net は、トルコとロシアが交渉中の、manbijに関する作業ペーパーを入手したとして、トルコとしては米国は相手にせずに、ロシアとの間で国境地帯からのYPGの排除、クルド自治領設置阻止を目指していると報じています。

・外務、国防両大臣及び情報長官を含むトルコ代表団のモスクワ訪問が発表された(時期不明)が、トルコとしては米国が撤兵後はトルコに大きな役割が与えられるとした声明にもかかわらず、米国と調整することはせずに、ロシアとの間で、北部シリア問題の了解に達し、調整していこうとしている。

その最初の焦点がmanbijに対する取扱いである。

・トルコ代表団はモスクワで、国境地帯からPKK系統のクルドを排除し、クルド自治区の設立を阻止するとの、長年の戦略の確認とロシアとの調整を狙っている。

・その両国の了解の最初の結節点がmanbij であるところ、未だ交渉中の問題で勿論最終的なものではないが、流出してきたワーキングペーパーを入手したところその要点は次のような所である
    シリア民主軍はすべての要員と武器とともに、tishereen ダムまで撤収する
    政府軍は南部からmanbij へ3㎞地点まで接近するが、市内には入らない
    トルコ軍は北から、同じく3㎞地点まで接近するが市内には入らない
    トルコは市内に存在するというPKKの要員のリストを提出する
    トルコ委員は自由シリア軍とともに市内に入り、これらクルドが撤収したことを確認する
    政府軍はmanbij-al bab-アレッポ道路の完全な管理権をうる

記事にもある通り、この地域の今後についてはトルコとロシアで協議中で、未だどうなるかは不明ですが、米軍撤退決定で、米国抜きで(勿論英仏などの西欧諸国など見向きもされていない)トルコとロシアが中心となり、これに政府軍とイランが協力しつつ、シリア・トルコ国境地帯の今後を形作っていくという図式ができつつあるように思われます。

要するに米軍撤退で最大の被害者はクルドで、最大の裨益者はロシアとアサド政府(要するに濡れ手に粟)ということになるのでしょうか?
勿論今後の動きを見ないと、確たることは言えませんが・・・・【12月28日 「中東の窓」】
******************

トルコ代表団もモスクワを訪問していますが、クルド人側もモスクワ訪問で、今後の枠組みについて協議しています。

ロシアはクルド側に、国境線に沿ってロシアの監督下でのシリア政府の国境警備隊を配置する案を提示しているとも報じられています。【12月24日 「中東の窓」より】

まあ、これだけ各勢力が押っ取り刀で結集すれば、トルコとしてもおいそれとは動けませんし、“おそらくはトルコにとってはPKK系のクルド勢力YPGの国境地帯からの放逐が最優先で、シリア政府とはある意味では共存できないこともなく、ましてロシアとは衝突などしたくない”【12月29日 「中東の窓」】といったところで、ロシアを軸として、なんらかの調停・合意がなされるのでは・・・と推測しています。

シリアを二分するクルド人勢力とアサド政権の関係は、いずれ問題となるところであったもので、シリアからの分離独立といった更なる流血を招く選択よりは、一定にシリア政府の主権を認める形で、何らかの自治権を得る方向で調整するのが現実的でしょう。

その意味では、今回のクルド人勢力とアサド政権の連携は、シリアの今後にとってはそう悪くないもののようにも思えます。(ただ、いわゆる“自治政府”みたいなものは(アサド政権以上に)トルコが容認しないでしょうから、自治の程度・形状は今後の問題となります)

いずれにしても、アメリカ・トランプ大統領が手を引くことを公言した現在、これまで以上にシリア問題の中心にいるのはロシア・プーチン大統領ということのようです。

シリアについては、イドリブやシリア・イラク・ヨルダンの国境地帯にあるal tanafの反体制派の今後、イラン・ヒズボラとイスラエルの対立などもありますが、そこらはまた別機会に。
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中国  文革・毛沢東に共感する薄熙来と習近平 一種のストックホルム症候群?

2018-12-28 23:17:48 | 中国

(毛沢東の像を背景に記念撮影をする女性ら=26日、中国・韶山【12月26日 共同】)

【広がる「貧しくとも平等」だった毛時代へのノスタルジー 厳しく対応する当局】
中国において、文化大革命および毛沢東に関する評価は“1981年6月に第11期6中全会で採択された「建国以来の党の若干の歴史問題についての決議(歴史決議)」では、文化大革命は「毛沢東が誤って発動し、反革命集団に利用され、党、国家や各族人民に重大な災難をもたらした内乱である」として、完全な誤りであったことが公式に確認された。 毛沢東についても、「七分功、三分過」という鄧小平の発言が党の見解だと受け止められている”【ウィキペディア】というところですが、後でも触れるように非常に微妙なところもあって、近年の習近平政権のもとで評価に変質もあるのではとも指摘されています。

共産党の公式見解はともかく、国民一般の間では、格差の拡大に伴って「貧しくとも平等」だった毛時代へのノスタルジーも垣間見えるようです。

*****中国、文革の過ち希薄化の動き 毛沢東生誕で記念行事****
中国の毛沢東生誕から125年となった26日、故郷の湖南省韶山市で記念行事が行われた。

中国では格差拡大への不満から「貧しくとも平等」だった毛時代を評価する人が増加。習近平国家主席が毛を目指すかのように権力集中を進める中、毛が発動し、社会が大混乱に陥った大規模政治運動「文化大革命」の過ちを希薄化する動きが強まっている。
 
毛の生家近くの広場では26日早朝、毛を支持する左派(保守派)や観光客ら約千人が集まり、毛を礼賛する革命歌「東方紅」を合唱して功績をたたえた。
 
文革は1966年、毛が権力闘争のために大衆を動員して発動、死者は1千万人以上ともされる。【12月26日 共同】
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確かに、権力と結託した資本の横暴、産業革命期を彷彿とさせる貧富の格差などを見聞きすると、今の中国には“本当の”共産党・共産主義革命が必要なのでは・・・なんて思ったりもします。

ただ、文革について言えば、“死者は1千万人以上”となれば、その評価は自ずと決まってきます。(もちろん文革は死者だけでなく、政治・経済・文化・社会の多方面での甚大な被害をもたらしました。)

個人的には、イナゴの大群のような大勢の群衆が憑かれたように赤い毛沢東語録を掲げて行進する様子、楽隊とともに紅衛兵と呼ばれた若者たちが我が物顔に闊歩する様子、公衆の面前で自己批判を迫られる“つるし上げ”の様子・・・・などを、ときおりTVニュースでリアルタイムで観ていた記憶がありますので、「貧しくとも平等」というより、「反論・異論を許さない非合理とも言える群衆による暴力」という“怖い”イメージがあります。

なお、共産革命の発祥の地である江西省では、かつて毛沢東らがゲリラ戦の根拠地とした山岳部にまで高速道路や宿泊施設、博物館などの参観施設が整備され、「紅色旅遊(赤い旅行)」と呼ばれる革命拠点の聖地めぐりの旅行が中国では人気になっているとも伝えられます。

しかし、「貧しくとも平等」だった毛時代の再評価・ノスタルジーは、現在の政治への不満と表裏一体でもあり、そうした不満・抗議の側面が強いものに対しては当局は厳しい取り締まりを行っています。

****中国当局が北京大学の学生拘束、毛沢東の生誕125周年イベントを計画****
中国トップレベルの名門として知られる北京大学で26日、建国の父とされる毛沢東の生誕125周年を祝おうとした学生活動家が警察に身柄を拘束された。現場を目撃した学生がAFPに明らかにした。
 
目撃者によると、拘束されたのは北京大学マルクス主義研究会の会長、邱占萱氏で、大学東門の外にある地下鉄駅近くで7〜8人の私服警官の手で黒い車に押し込まれた。「私は邱占萱だ」「法律違反はしていない。なぜ私を連れ去る? 何をしている?」などと叫びながら抵抗していたという。
 
私服警官らは、騒ぎを聞きつけて集まった人々の質問に「公安部の書類」を提示したという。北京大学と中国公安部は共に取材に応じていない。
 
北京大学には学生運動の歴史がある。1989年に北京の天安門広場で起きた「天安門事件」でも、軍に武力弾圧された民主化運動を指導したのは北京大学の卒業生たちだった。
 
しかし、習近平国家主席の体制下で、学生運動は厳しく取り締まられている。今年8月には国内の複数の大学で警察が学生運動家の一斉摘発を行い、広東省の工場で組合を設立しようとした労働者たちを支援したとして学生数人を暴行のうえ携帯電話を押収した。
 
北京大学マルクス主義研究会に所属する学生の一人は、「ばかげている。毛沢東を記念して何が悪いのか」と憤りを口にした。この学生によると、大学側は研究会の活動を日常的に妨害し、学内オンライン掲示板への投稿が削除されたり、微信(ウィーチャット)のアカウントへのアクセスができなくなったりしているという。今回の邱氏拘束の情報も、拡散を大学側に阻止されたという。
 
かつて「偉大なる舵取り」とたたえられた毛沢東だが、その功罪をめぐっては中国国内に今も議論がある。中国共産党は近年、毛沢東の「遺産」から距離を置こうと努めており、26日には生誕125周年の公式行事は一切行われなかった。

人権団体によると、北京市内ではマルクス主義を信奉する学生たちが「フラッシュモブ」形式の記念イベントを行ったという。 【12月27日 AFP】
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労働争議への学生支援については、以下のようにも。

***“左翼”学生の登場は習政権瓦解の兆しか? - 澁谷 司****
(中略)労働争議自体は、全国各地で頻発しているので、決して珍しい事ではない。
 
『中国労工通訊』のデータでは、今年(2018年)8月までの過去1年間、全中国で発生した労働者のストライキや抗議活動は1860回を超えるという。また、同データでは、2015年から2017年まで、労働者の集団抗議行動が6694回起きているという。その中では、5177回が賃金未払いのため、そして、303回が賃上げのためだった。両方の合計で80%を超える。(中略)

中国共産党は、仮にも社会主義を掲げる以上、会社内の労働組合結成を認めるのが筋だろう。ところが、本来、中立であるはずの公安は、必ず会社サイドに立つ。(中略)

興味深いのは、今回、マルクス・レーニン主義・毛沢東思想に心酔する“左翼”の学生が、労働者の味方になっている点である。
 
本来ならば、“左派”の習近平政権と彼ら学生とは同じ思想を持つはずではないか。ところが、北京政府は労働者を弾圧し、一方、学生らは労働者の権利保護を謳う。両者の考え方は180度異なる。
 
実は、“左翼”青年のウェブサイト「時代先鋒」は一旦当局によって閉鎖された。だが、すぐさま復活している。
 
北京や南京でも大学生が深圳の佳士科技公司の労働者を支援する動きが出て来た。そのサイトを見ると、北京語言大学、北京科技大学、南京大学、南京中医薬大学等で佳士科技公司への「声援団」が組織されている。
 
現時点で、彼ら“左翼”学生は、労働者を支援するため、経済的要求を行っている。だが、将来、政治的要求へステップアップする可能性も十分考えられよう。習近平政権にとっては、脅威になるかもしれない。(後略)【8月29日 BLOGOS】
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“左翼”青年のウェブサイトが一旦当局によって閉鎖されても、すぐさま復活するあたり、単に“左翼”学生の活動というよりは、背後にもっと大きな政治勢力の動きがあるようにも思えます。(表立っての自由な政治活動が許されていない中国では、水面下の権力闘争が政治活動の実態となります)

いずれにしても、毛沢東を掲げながらの現状批判は当局・政権にとっては座視できないもので、冒頭記事がとりあげた毛沢東故郷の湖南省韶山市で生誕125年記念行事も、当局規制によって“控え目”だったようです。

****貧富の差が拡大する中国「毛沢東信奉」に警戒感****
中国建国の父、毛沢東の誕生から125年の26日、信奉者らによる自発的な記念活動が毛の故郷の湖南省韶山市などで行われた。香港紙・信報などは、記念活動の規模は例年より控えめだったと報じた。

信奉者は貧富の差の拡大など現状に不満を持っている傾向が強いことから、当局が警戒感を強めているとみられる。
 
工場労働者らを支援する大学生らの組織によると、記念活動を企画していた北京大学マルクス主義学会会長の男子学生は26日午前に校門から車に押し込まれて連れ去られ、27日朝まで北京市の公安当局に拘束された。学生は全国の仲間に、北京で記念活動を行うことを呼びかけていたが、大学当局は中止を求めていた。
 
格差拡大を問題視し、マルクス主義や毛沢東思想を信奉する学生らの一部が今夏から、深センの工場の労働争議で拘束された労働者らを支援する活動を行っている。これに対し、学生と労働者が共闘する動きを警戒する当局は、関係する学生らを拘束するなど、締めつけを強めている。【12月28日 読売】
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【「毛沢東信奉」で失脚した薄熙来 一方で、習近平主席にも同傾向 その差は?】
「毛沢東信奉」ということでは、毛沢東を掲げて民衆の大きな支持を集め、中央政治に乗り込もうとしていた重慶市トップだった薄熙来前共産党委員会書記の失脚が想起されます。

****毛沢東を徹底的に模倣した薄熙来の政治手法****
薄熙来は重慶で何を画策したのか。一言で言うと、「毛沢東を徹底的に真似る」ことだった。毛沢東の政治手法について、毛が主導し、中国社会を混乱の淵に陥れた文化大革命(1966~76年)の研究で有名な北京の政治学者はこう解説する。
 
「文革初期、大衆は毛沢東を非常に支持し、毛沢東を『好』(良い)と思った。毛は大衆に劉少奇や鄧小平を『悪者』と思わせ、2人を打倒した」。つまり毛は民衆の絶大な支持の下で独裁政治を敷いた。
 
薄熙来が重慶市民の人気が高いのは事実だが、それは「重慶の毛沢東」を目指したからである。先の政治学者はこう続ける。
 
「『平等』『公平』と訴えて大衆の支持を得ることに成功した毛沢東に学び、そして模倣し、重慶の大衆に薄熙来を『好』と思わせた」
 
見逃してはいけないのは、薄熙来は、貧富の格差が深刻で、腐敗した役人や警察ら権力者が威張り散らし、それに大衆の不満が爆発している重慶社会の危険な現実を的確に把握していたことである。(中略)

「重慶モデル」の宣伝で市民を惹きつける
そして「打黒」「唱紅」「共同富裕」という「重慶モデル」という政治キャンペーンを展開するのである。
 
自分の政敵を、大衆の忌み嫌う「腐敗幹部」として「打黒」の対象とし、法を無視してでも打ちのめす。大衆を動員し、毛沢東時代の革命歌(紅歌)を熱唱する「唱紅」では熱狂的雰囲気の中で、大衆に嫌な現実を忘れさせる。格差是正や平等・公平という政治スローガンを唱える「共同富裕」では毛時代に郷愁の念を抱く大衆を引きつけていく――。(中略)

薄熙来は毛が文革時に実践したように、法やルールより、大衆からの喝采を重視した。
 
逆に大衆から見れば、かなり強引でも「豪腕」を自分たちに示せる指導者でないと、社会矛盾を抱えた中国を統治することは難しい、という現実を知らしめたのが、毛沢東であり、今の薄熙来ではなかったのだろうか。【2012年4月11日 城山英巳氏(時事通信社外信部記者) “「毛沢東」になれなかった薄熙来の悲劇” WEDGE Infinity】
******************

“中国で自由派(右派)と呼ばれる知識人らは、西側の自由・民主など普遍的価値を標榜して一党独裁を全面否定。さらに改革を阻む既得権益層を解体し、共産党に集中しすぎる権力構造を見直す政治改革を推進しない限り、今の中国にのしかかる腐敗や格差などの問題は解決しないと主張する。
 
一方、新左派と呼ばれる知識人らは、行き過ぎた市場経済を追求した改革の結果、平等・公平という社会主義の本質が失われたと批判し、毛沢東時代への郷愁を前面に出している。
 
言うまでもなく、前者の代表が温家宝であり、後者の旗手が薄熙来である。中国は「毛沢東路線の回帰」か「鄧小平路線の進化」かの分岐点に来ているのだ。”【同上】

微妙なのは、上記のような左右の路線対立のなかで失脚した薄熙来と、「トラもハエも・・・」という粛清で政治権力と国民支持を固めて毛沢東以来ともいわれる政治権力を集中した習近平国家主席の言動がオーバーラップすることです。

両者の違いは、薄熙来は地方権力に過ぎず、全国的な批判に対抗できなかったのに対し、習近平はそうした批判を封じ込めるだけの力を有しているという差があるだけで、ともに毛沢東の“生徒”である・・・との指摘も。【2015年2月24日 何清涟氏 「毛沢東の二人の生徒、花マルの習近平とペケの薄熙来」より】

【習近平政権下で変質する文革・毛沢東評価】
実際、毛沢東時代にノスタルジーを持っているとも言われる習近平政権のもとで、文化大革命の評価も変質しています。

****教科書改訂で毛沢東の文革再評価、習政権の狙い****
「誤った認識」は「必要な苦労」へと改変

毛沢東がこの世を去ってちょうど42年目の9月、党中央教育部傘下の人民教育出版社が中学校二年生用の歴史教科書下巻の改訂版を出した。

この教科書では文化大革命が毛沢東““錯誤”であったという表現を、毛沢東の“苦労と探索”という表現に書き改めていた。

文化大革命は「十年の大災難(浩劫)」から「十年の艱難辛苦の探索と建設成就」に言い換えられた。これは2月に出版された歴史教科書上巻に続く改変である。教育部によると、2017年秋の国家教育重大改革の方針に従った改変という。(中略)

これまでの旧教科書では、文革について「20世紀60年代、毛沢東は党と国家が資本主義の復活の危険に直面しているという誤った認識を持った。資本主義の復活を防止するために、彼は文化大革命の発動を決定した」と説明している。
 
これに対して新教科書では、「誤った認識(錯誤認為)」の錯誤の二文字を削除し「20世紀60年代なかば、毛沢東は党と国家が資本主義復活の危機に直面していると認識し、『階級闘争をもってこれを改める』と強調し、文化大革命を通じて資本主義の復活を防止しようと考えた。それで1966年夏、文化大革命が全面的に発動したのである」と書き改めた。

つまり毛沢東の認識は間違っていなかった、と言うのが中国共産党の正式な見解となった。「文化大革命の十年」という旧教科書での章名も、新教科書では「艱難辛苦の探索と建設成就」と改められた。文革は、中国において近代建設成就のために必要な苦労であったというわけだ。
 
これ以外にも、新教科書では文革について「動乱と災難」という表現を削除したり、「世の中には順風満帆で事業が進むことはないのだ」といった文革の罪悪を言い訳するような修飾表現が付け加えられたりした。

文革小組ができたいきさつの中での党中央の役割や二月逆流に関する記述なども削除された。(後略)【9月26日 福島 香織氏 日経ビジネス】
**************

“習近平が文革について、非常に深い思い入れを持っていることはかねてから指摘されていた。習近平が愛用するスローガンやキメ台詞には「党政軍民学、東西南北中、党が一切を指導する」といった文革時代に使われたものが多く、習近平が下放された先の陝西省北部の梁家河の経験を美化するようなラジオドラマを作らせたりもしている。また、毛沢東時代の前半30年、後半30年ともに過ちはなかったという発言もしており、毛沢東を完璧な英雄だと見ているようでもある。”【同上】

【ともに文革に翻弄された薄熙来と習近平がなぜ文革・毛沢東に共感するのか?】
興味深いのは、薄熙来にしても習近平主席にしても、文革で父親が迫害にあい、本人も大きな苦労をしているという経歴を持っていることで、にもかかわらず何故文革・毛沢東にノスタルジーを持つのか・・・というあたりです。

この理由について、“一種のストックホルム症候群”との指摘も。

****一種のストックホルム症候群****
文革時代、習近平の父親の習仲勲は迫害に遭い、習近平自身も下放先で苦労しているはずだ。なのに、なぜここまで文革と毛沢東に対して強い思い入れをもちうるか、については、米国のニューヨーク市立大学政治学教授の夏明がラジオ・フリー・アジアの取材に次のように分析している。
 
「習近平とその取り巻きたちは、彼らのなじんでいるロジックで中国の歴史と未来を見ている。つまり彼らの思想形成期は中国史上最も暗黒で貧しく野蛮な人類の悲劇の中で形成された。

習近平ら50年代生まれのイデオロギーと思想、世界観は一種のストックホルム症候群(人質が犯人に過度の好意や共感を持つこと。無意識の生存戦略)的なもので、迫害時代のいけにえのようなものではないか。

あの時代にのみ理解可能な生命の意義、あの時代の枠組みでのみ解釈できる生存の価値というものがあり、それに一種の懐かしさを覚えるのだ。

習近平のいかなる行動、思想もあの時代の結果として培われたもので、あの時代を超えるものにはならない。……

我々にとってより大きな悲劇は、そういうあの時代が生んだ指導者が、50年前の思想をもって、未来を見ていることだ。すでに歴史が過ちであったことを証明している毛沢東のやり方を維持して、未来の新時代の人々の上に用いようとしていることだ」【同上】
***********************

カンボジアの悲惨なポル・ポト時代を生き抜いたフン・セン首相が、国外に逃げていた野党指導者サム・ランシーと絶対に相いれないのは、そうした精神構造もあるのかも。(だからといって、政治弾圧していいという話にはなりませんが)

こうした文革・毛沢東にノスタルジーを持つ習近平主席が、同様の傾向を持つ左翼学生を取り締まる・・・というあたりは、自身の権力基盤を危うくする政権批判につながる言動は許さないということでもありますが、サウジアラビアで女性活動の開放を進めたムハンマド皇太子が、一方で活動家を厳しく弾圧・投獄したあたりともダブります。

自分が主導する形ならかまわないが、自分の批判につながるような下からの改革は許さない・・・といったところでしょうか。

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アラブ世界で広がる国民不満による混乱の兆し  チュニジア、イラク、ヨルダン、スーダン、エジプト

2018-12-27 22:55:57 | 中東情勢

(25日、チュニジア西部カセリーヌで警官隊と衝突するデモ隊=ロイター【12月27日 朝日】)

【「アラブの春」のきっかけとなったチュニジアで、再び抗議の焼身自殺】
2010年から2012年にかけてアラブ世界において「アラブの春」と称される大規模反政府デモを主とした騒乱が起きたこと、その「アラブの春」のきっかけが、2010年12月17日に焼身自殺した北アフリカ・チュニジアの一人の若者であったことは周知のところです。

シリアやイエメンのように内戦状態に陥るなど、多くの国で「アラブの春」が“失敗”に終わったとされるなかで、かろうじてチュニジアは民主的な政治をなんとか維持し、唯一の成功例とされてもいます。

しかし、そのチュニジアでも、イラク・シリアのIS参加者が非常に多かったことにも示されるように、経済状態の改善を実現できない現状政治への若者らの強い不満が今も存在しています。

「アラブの春」を引き起こした焼身自殺から8年が経過して、再び抗議の焼身自殺が起きています。

****ジャーナリストが焼身自殺、治安部隊とデモ隊が衝突 チュニジア****
チュニジア内務省は25日、西部の都市カスリーヌでジャーナリストが生活難に抗議して焼身自殺したことを受けて発生したデモ隊と警官隊の衝突で、警察官6人が負傷、デモに参加した9人が拘束されたと発表した。

ジャーナリストのアブデル・ラザック・ゾルギ氏は生前公開した映像で、「生活の糧を得るすべがないカスリーヌの人たちよ、今日私は革命を起こす。自らに火を付けるのだ」と語っていた。ゾルギ死は焼身自殺し、24日に死亡した。

ゾルギ氏の死を受けてカスリーヌ市内では24日夜から25日にかけてデモ隊と警官隊が衝突。タイヤを燃やしたりメインストリートを閉鎖したりした数十人のデモ隊に対し警察は催涙ガスを発射した。

現地のAFP記者によると、25日朝は一時落ち着いたものの、午後になるとゾルギ氏の葬儀を終えた人たちが再び市内の通りに繰り出し、カスリーヌ県庁前で警察と衝突した。警察は再び催涙ガスを発射してデモ隊を排除した。

チュニジア全国ジャーナリスト組合は、ゾルギ氏は「困難な社会情勢と希望がない状況」に死をもって抗議したとして、報道機関の大規模ストライキを検討していると明らかにした。

2010年12月、生計を立てるために行っていた路上での野菜売りを警官に禁じられた若者が焼身自殺したのをきっかけに、騒乱が瞬く間にチュニジア全土に広がった。

カスリーヌはこの野菜売りの男性の死を受けて立ち上がった最初の町の一つで、抗議デモで警察によって殺された人もいた。

当時のジン・アビディン・ベンアリ大統領は失脚し、翌年から中東の広範囲に広がった民主化運動「アラブの春」につながった。

ベンアリ氏失脚後のチュニジアは民主化し経済も成長したが、政府は今も貧しい国民生活の改善に苦慮している。 【12月26日 AFP】
********************

チュニジアでは幾度かの政治勢力間の争いはなんとかしのぎ、民主政治を維持してはいますが、経済状況は改善せず、以前から国民不満は募っています。下記は、そうした国民の不満を取り上げた、今年年初の記事です。

この今年一月の混乱のきっかけも、やはり一人の若者の自殺でした。チュニジアには、以前からのものかどうかは知りませんが、抗議の意思を込めた一人の自殺が広範な人々による抗議活動につながるという風潮が存在するようです。

****「アラブの春」発祥の地、再燃する民衆の怒り****
チュニジアで経済的苦境に不満の声を挙げる若者が増えている

約7年前、チュニジアの果物売りの男性が焼身自殺したことが、アラブ世界で独裁政権を打倒する革命の波「アラブの春」を生んだ。
 
そのチュニジアでは現在、物価の高騰や生活必需品の増税を含む政府の新年度予算に抗議の声を挙げる若者が増えている。こうした抗議行動は、チュニジアの経済的な苦境をめぐる国民の強い不満を反映している。

活動家らは、失業中の修理工が生活苦から自殺したとの話を聞いて抗議行動への参加を決めた人が少なからずいると語る。
 
2011年の「アラブの春」により、チュニジアでは広範な表現の自由と民主的選挙が実現した。しかし同国の革命は繁栄をもたらさず、追放されたジン・アビディン・ベンアリ元大統領が創設した警察国家も解体されなかった。
 
修理工のラドワン・アッバシさん(29)は、アルジェリアとの国境に近いサキエシディユセフでコンクリートの小さな家に母親(74)と住み、何年も職探しをしていた。母親によると、アッバシさんは1月5日に職業紹介所から怒りながら帰ってきたが、翌日に自宅近くの交差点で木に首をつっているのが見つかった。

その日、当地では多くの人が道路にテントを設営し、アルジェリアとの国境を閉鎖。その状態は数日間続いた。
翌週、10カ所以上の都市や町で、新年度予算に抗議するデモが起こった。800人近くが逮捕され、少なくとも1人が死亡した。

活動家らによれば、アッバシさんの自殺のニュースはソーシャルメディアで拡散され、さらに多くの人が街頭に繰り出すことにつながったという。
 
「人々の希望は壁にぶち当たっている」。首都チュニスで腐敗撲滅活動を行っているハシェム・スハイリ氏はこう語り、「革命は道である。我々は今もなおその途上にある」と続けた。
 
中東各地で、貧困層や労働者層が体制への怒りを口にしている。昨年末にはイラン各地で反政府デモが起こった。デモ発生の一因は、評判の良かった生活補助プログラムの削減を盛り込んだ予算案が発表されたことだった。

モロッコでは昨年、警察が没収し廃棄した魚を取り戻そうとした魚売りの男性が、ゴミ収集車に巻き込まれて死亡したのをきっかけに、抗議行動が広がった。
 
国際労働機関(ILO)によれば、チュニジアの若年層失業率は35%超で、2010年の29%から上昇している。一方、世界銀行によると、同国の2017年上半期の経済成長率は1.8%にとどまり、10年の3.5%を下回った。(後略)【1月25日 WSJ】
********************

絶望的な不満が怒りの温床として広く存在していますので、抗議の焼身自殺といった“点火”で、火は大きく燃え広がります。

【イラク・バスラの抗議行動も再燃】
上記記事は昨年におけるイランやモロッコにおける貧困層や労働者層の体制への怒りにも触れていますが、今現在もアラブ世界の多くの国で、同様の不満が噴出しています。

総選挙は行われたものの、各政治勢力の党利党略で一向に新政権が実現せず政治空白が続いたイラクでは、今年7月に南部の油田地帯バスラなどで、高い失業率や、電気や水道などの公共サービスが行き届かないことに対する市民の抗議デモが続きました。

その不満が,今月再び噴出しています。

****バスラでの抗議活動の再開(イラク)****
イラクのバスラでの抗議活動(水、電気の不足等のインフラ問題から始まり、失業、物価高、さらに政府の腐敗と無能等に対する抗議)については当時、何度も報告したかと思いますが、流石の抗議活動もしばらくは平静になっていた模様ですが、al arabiya net は、しばらく静かであったバスラで再び抗議活動が活発化した、と報じています。(後略)【12月3日 中東の窓】
*********************

****バスラで2週連続反政府デモ****
イラク南部バスラの地方政府庁舎前で21日、気勢を上げる反政府デモ隊。汚職や不十分な公共サービスに抗議し、職を求めるデモが2週連続で行われた【12月22日 共同】
*****************

新首相は一応10月末に承認されて新内閣はようやくスタートしましたが、その時点では、対立勢力の反対で閣僚22人のうち国防相、内相など主要閣僚を含む8ポストが空白のままの新内閣発足でした。今現在どうなっているのかは知りません。

【“奇妙な生存能力”を発揮してきたヨルダン王制でも大規模抗議デモ】
王制を保つ形で、政治的には比較的安定しているヨルダンでも大規模抗議デモが報じられています。

****所得増税めぐり大規模な抗議デモ、ヨルダン首都****
ヨルダンで(12月)13日、所得増税に抗議する数千人規模のデモ隊が首都アンマンの首相府前に集結し、治安部隊が首相府を封鎖する騒ぎとなった。
 
ヨルダン政府は公的債務の削減を掲げて緊縮政策を推進しているが、国際通貨基金の勧告に基づく当初の税制改革法案は今年6月、高い失業率と物価上昇に苦しむ国民の猛反発を招いた。

1週間続いた抗議デモを受け、ハニ・ムルキ前首相は辞任。アブドラ・ビン・フセイン国王が法案の見直しを求める中、後任のオマル・ラッザーズ首相は法案の撤回を発表していた。
 
しかし、ヨルダン議会は先月18日、税制改革改正法案を承認した。改正案でも、当初案に盛り込まれていた被雇用者の所得税を少なくとも5%、企業は20〜40%増税する点に変更はない。
 
ヨルダンではこの2週間に小規模なデモが相次ぎ、地元メディアによるとこれに関連して24人が拘束されている。
 
天然資源が少ないヨルダンは対外援助に大きく依存しており、失業率は18.5%に達している。同国は湾岸地域の安定に不可欠とみなされており、抗議デモを受けてサウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェートの3か国は10月、総額25億ドル(約2800億円)の支援をヨルダン政府に提供した。 【12月14日 AFP】
*******************

ヨルダンは“小国”ながら、政治勢力が複雑に絡み合う中東世界にあって、非常に重要な“地政学的”地位を占めています。

そのため、ヨルダンで混乱が生じると、事態の深刻化を防ぐため、アメリカやサウジなどアラブ諸国から支援の手が差し伸べれます。

また、国王が首相の首を切って新たな首相に挿げ替えて国民の怒りを鎮めるという、王制ならではの対処方法も一定に奏功します。

そもそも、ヨルダンの抗議行動自体が、流血の事態に発展する他のアラブ諸国に比べると、非常に“平和的”とも指摘されています。

****小王国ヨルダンの奇妙な生存能力****
(中略)
抗議デモは儀式のよう 
(中略)同時にアラブの春から重要な教訓を学んだ王室は、治安部隊に強硬な措置を控えるよう命じた。

そのため首都アンマンでの抗議デモは、警察と活動家の双方が抵抗の儀式を演じているような感じで、警戒する警官に市民が食べ物を振る舞う光景も見受けられる。
 
これがヨルダンの安定を維持している第3の要囚、大衆運動の自己抑制的な性格だ。この国の抗議行動は爆竹のようなもので、すぐに破裂するが、すぐに沈静化する傾向がある。
 
ヨルダンではあらゆる種類の抗議行動を含め、公共の場所での行動を支配する暗黙のルールが存在する。

抗議デモはあくまで平和的で、死者は過去10年間で1人だけ。デモ隊が警官を襲撃したり王室の正当性に異論を唱えたりしない限り、誰も傷つかない。

隣国シリアの激しい内戦に対する恐怖が、抗議行動の過激化と政治の混乱を抑止している而もある。
 
慢性的な財政危機、大規模な抗議行動、王室の対応は「危機、抵抗、政治的均衡」というヨルダンの日常的なサイクルの一部だ。

治安部隊がいきなりデモ隊に発砲するとか、外国の援助が打ち切られるといった劇的な変化がない限り、このサイクルは今後も続きそうだ。
 
結局、ヨルダンはいつものように生き残るだろう。経済的繁栄とは無縁のままで。【7月3日号 Newsweek日本語版】
*******************

今回の抗議デモも、このヨルダン的対応の範囲内に収まるのかどうか・・・・

【長期政権への不満に揺れるスーダン・バシル政権】
ひと頃はダルフール紛争における民族浄化的弾圧で非常に国際的評判が悪かったスーダンのバシル大統領ですが(国際刑事裁判所(ICC)から戦争犯罪などの容疑で逮捕状が出ています)、分離独立した南スーダンの混乱の一方で、このところはスーダン・バシル政権の話は国際的にはあまり聞かれませんでした。

しかし、さしもの長期政権も反政府活動に揺らいでいるようです。

****揺らぐスーダン デモ収まらず政権弱体化浮き彫り****
アフリカ北東部スーダンで、反政府デモが1週間以上続き、治安部隊との衝突も相次いでいる。25日には首都ハルツームの大統領官邸に向かう「数千人規模」(地元記者)のデモ隊を治安部隊が阻止。催涙弾や実弾が使われたという。

だが、29年にわたり強権支配を続けてきたバシル大統領に対する退陣要求は収まらず、政権の弱体化が浮き彫りになっている。
 
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、これまでに少なくとも37人が死亡した。25日の衝突では、白煙の中を逃げ惑う人々や銃撃を受けて運ばれる負傷者の映像がインターネット上に投稿された。
 
近年では最大規模のデモで、参加者は「国民は体制打倒を望む」と、2011年の中東諸国での民主化要求運動「アラブの春」のスローガンを唱えている。
 
デモは今月19日、物価高騰への不満が引き金となり、東部アトバラで始まった。政府補助金の削減により、パンが年初に比べ3倍に値上がりし、市民生活を直撃した。今年のインフレ率は70%。銀行では少額の現金しか引き出せず、ガソリンスタンドには長蛇の列ができている。
 
長期政権の汚職や失政に対する批判も噴出。「バシル氏の退陣を求める声が、瞬く間に各地に広がった」(政治アナリストのファイザル・モハメド・サリ氏)。医師らも抗議に呼応して、ストライキを起こしている。
 
国営スーダン通信によると、バシル氏は「わが国の発展を妨害する裏切り者や外国のスパイがいる」とデモを非難する一方、経済改革を約束した。だが、具体策は示しておらず、市民はデモを継続する構えだ。
 
スーダンは油田地帯を抱える南スーダンの分離独立によって、石油収入が落ち込んだ。17年に米国の経済制裁が20年ぶりに解除されたが、通貨下落が続いている。
 
ファイザル氏は電話取材に「人々はバシル政権こそ問題の根源と考えており、政権の正統性が揺らいでいる」と指摘。政権基盤である軍の支持も盤石ではないという。「デモが長期化すれば、軍が政権存続に見切りを付ける可能性がある」と語った。
 
バシル氏は1989年にクーデターで政権を奪取。強権支配を続け、欧米諸国から「独裁」と批判された。30万人の犠牲者を出した西部ダルフール地方の紛争を巡って、国際刑事裁判所(ICC)から戦争犯罪などの容疑で逮捕状が出ている。【12月27日 毎日】
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【「黄色いベスト」波及を警戒するエジプト・シシ政権】
中東の地域大国エジプトも、シシ政権が国民不満を抑えるのに躍起となっています。

****エジプトで「黄色いベスト」の販売規制 仏デモの波及懸念?****
エジプトの貿易業者の話によると、フランスの反政府デモ「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)」運動を受け、エジプト当局が黄色いベストの販売を非公式に規制しているという。自国へのデモの波及を懸念しているためとみられている。
 
AFPの取材に応じたある輸入業者は、「1週間ほど前、黄色いベストの販売は対企業のみに限り、個人には売らないようにと警察から指示を受けた」と証言。また首都カイロの繁華街で取材に応じた複数の販売業者によると、警察の指導により黄色いベストの販売が禁止されたという。(中略)

エジプトでは2011年、ホスニ・ムバラク大統領(当時)の退陣を求める大規模デモが全土に拡大し、長期政権を築いた同氏は辞任に追い込まれた。 【12月12日 AFP】AFPBB News
***************

各国それぞれの事情があっての混乱・抗議活動ですが、今のところはいずれの国でも政権を窮地に追い込むまでには至っていません。

ただ、こうした抗議行動は“伝染”しやすく、一つの国で政権崩壊に至ると、次々に波及する可能性があります。そうした事態を招くような不満の土壌が各国に存在しているということです。


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米中対立 通商・知的財産権では歩み寄りも アメリカ政権内部でも異なる考え “終わり方”も不透明

2018-12-26 22:45:29 | アメリカ

(G20が行われたブエノスアイレスで12月1日、首脳会談を行なったトランプ大統領と習近平国家主席【12月2月4日 アゴラ】)

【関税合戦の“ブーメラン” 通商・知的財産権では一定に歩み寄りも】
米中の「貿易摩擦」だか「貿易戦争」だかの、通商面での主要品目である大豆については、一定に歩み寄る流れも出ています。

****「一時休戦」進むか 中国、アメリカ産の大豆購入****
中国の中糧集団など国有穀物大手は19日、25%の追加関税をかけていた米国産大豆を購入したと発表した。貿易摩擦の「一時休戦」を決めた今月初めの米中首脳会談を受けた対応。
 
米農務省は今月中旬、中国による米国産大豆の大口契約があったと発表。中国への輸出用に12月13日に113万トン、翌14日に30万トンの米国産大豆の大口契約があったと公表していた。
 
中国は7月、米国が中国からの輸入品340億ドル(約3・8兆円)分に25%の追加関税をかけたのに対抗し、米国産大豆などに25%の関税をかけた。米国産大豆の穴埋めは、他国からの輸入で対応しようとしたが、国内の大豆需給が逼迫(ひっぱく)していた。
 
中国商務省は19日、米中の経済貿易問題について、副大臣級の電話協議を行ったとも発表。華為技術(ファーウェイ)の幹部逮捕を巡る対立はあるものの、通商紛争で、米中は一定の歩み寄りを進めている。【12月21日 朝日】
******************

中国国内のひっ迫する大豆需給については、以下のようにも。

****米中貿易戦争で中国に大ブーメラン “大豆ショック”で畜産崩壊寸前! *****
米国と中国の通商紛争が、世界の農業を揺るがしている。双方が輸入品に高額の関税をかけ合う“貿易戦争”になっていて、米国の大豆が中国に入らなくなったのだ。

豚のエサ(飼料)が手に入らず、中国の畜産家は廃業寸前に追い込まれている。愛知大学現代中国学部・高橋五郎教授が現地でその現状を取材した。
*  *  *
「採算割れが半年以上も続き、もう養豚経営を続けるのは限界だ。業者同士がなんとか倒産から逃れようと、我慢くらべをしている。こんなことは人生で初めての経験」
 
こう嘆くのは中国・河南省の農家Rさん。米や野菜などもつくっているが、収入の柱は養豚で約100頭を飼っている。それが飼料の高騰で、経営危機に直面しているのだ。
 
発端は米国のトランプ大統領だった。「米国第一主義」を掲げ、米国への輸出でもうけている中国をターゲットに選んだ。知的財産の侵害を口実に7月、中国からの輸入品に高関税措置を発動。中国も報復のため、米国から輸入していた食品などに高関税をかけた。
 
その影響をまともにくらったのが大豆。中国は消費量が世界1位で、2017年は1億1060万トン。そのうち9割弱を輸入しており、輸入国としても世界最大だ。輸入量の34%は米国に依存していたが、25%もの高関税をかけたことで、8月以降の輸入がほぼゼロに。米国産大豆がそっくり消えたのだ。
 
ブラジルやアルゼンチンなど米国に代わる輸入先を探したが、収穫期のずれもあって、全てはカバーできない。
 
報復するため放った矢が、自国の農家や消費者を直撃した。米国は中国に代わる輸出先を、大手食品会社が見つけているため、大豆農家は中国ほどの痛手は受けていない。中国にとって大豆への高額関税は、“大ブーメラン”になってしまった。(後略)【12月26日 AERAdot.】
*******************

なお、中国の米国産大豆輸入に関しては、以前も取り上げたイラン絡みの話もあるようです。

*****************
イランが今夏、突如として米国からの大豆輸入をスタートさせた。

それまで大豆を買ったことがなかったイランが、八月に一億四千万ドル分の大豆を購入。九月以降にも続けて輸入しているが、総額二億ドル分を同国内で消費するかは不透明。

そのため、米中貿易戦争で米国産大豆に高関税をかけた中国に横流ししているのではないかという観測が出ている。【「選択」12月号】
*****************

この話、中国に横流し云々もさることながら、そもそも激しく対立しているアメリカ・イランの間で大豆取引があること自体が「へえ・・・、そんなんだ」という感じ。

“米国は中国に代わる輸出先を、大手食品会社が見つけているため、大豆農家は中国ほどの痛手は受けていない”とのことですが、代替輸出先にイランも入っているのでしょうか。それだけ、アメリカ側農家も苦しいということでしょう。

****ブルームバーグ、「アメリカが農産物をイランに輸出」****
アメリカの国際最新金融情報サイト・ブルームバーグが、「アメリカと中国の貿易戦争、および中国が大豆の輸入を停止した後は、アメリカの生産業者は国際市場での生き残りをかけて、自らが生産した大豆をイランに輸出せざるを得なくなる」と報じました。【11月7日 Pars Today】
*************

大豆に限らず、貿易戦争の結果が“ブーメラン”として自分に戻ってくるのは、中国だけでなくアメリカも同様です。

****「関税マン」トランプが招く貧乏なアメリカ****
<トランプの対中制裁でアメリカ人が逆進税を払う羽目に――ホリデーシーズンを控え米経済の冷え込みが心配だ>

「私は関税マンだ」――。トランプ米大統領は12月4日、ツイッターでこう宣言した。「わが国の偉大な富を奪おうとする者には、相応の代償を支払わせる......目下われわれは関税の形で何十億ドルも徴収している。アメリカを再び偉大な国にする」

残念ながら、大統領、あなたは勘違いしている。関税を支払うのはアメリカの消費者だ。

あなたが既に10%の追加関税を課した2000億ドル相当の中国製品のうち、およそ半数の3000品目はほぼ完全に中国からの輸入に頼っている。つまり、今年のホリデーシーズンにはアメリカの消費者は割高な買い物を強いられるわけだ。

中国を懲らしめるための関税は、アメリカの消費者を苦しめる「税金」となる。あなたはアメリカを偉大にするどころか、困窮させているのだ。

しかも、この税金は逆進税だ。所得に占める割合で見ると、富裕層に比べ中間層と低所得層の負担が大きくなる。(中略)

対中制裁関税のブーメラン効果でアメリカは景気後退に突入する危険性がある。世界の他の主要国の経済も減速している。(後略)【12月25日号 Newsweek日本語版】
******************

通商問題について関税をかけあう対応が、双方の首を締めあげることになることは、当事者もよく承知していることですから、適当なところで“歩み寄り”がなされると思われます。

また、貿易赤字よりも大きな問題とされる知的財産権侵害の問題についても、中国側に譲歩の姿勢が見えるようです。

****外資への技術移転強制、中国が禁止へ 米側に大きく譲歩****
中国政府は23日、外資の技術を中国側に強制移転させることを禁じる「外商投資法」の立法作業に着手した。

技術の強制移転は米国などから厳しく批判され、米中通商紛争の焦点になっていた。中国政府はこれまで「強制的な技術移転はない」との立場だったが、米側に大きく譲歩した形だ。
 
この日、国会にあたる全国人民代表大会(全人代)の常務委員会に同法の草案が提案された。中国共産党機関紙・人民日報によると、草案では「外国企業の合法的な権益の保護を強める」としている。権益保護策の一つとして、行政手段による強制的な技術移転を禁じるという。
 
また、中央政府や地方政府が、法律に基づかない外資への制限を設けることも禁じる。外国企業が中国で活動する際のトラブルを訴え出るためのしくみも整備する。出資も制限がかかっている特定の業界以外は、中国企業と同じルールで対応するとしている。
 
米国は、米企業の知的財産権が中国によって侵害されているとして、3度にわたって中国からの輸入品に追加の関税措置をかけてきた。知的財産侵害の温床と指摘されてきたのが、外資に対する技術移転の強制だった。
 
中国はこれまで「政府が外国企業に技術移転を強制的に要求する政策、やり方をとっていない」(中国政府の白書)と反論してきた。だが、中国の実体経済にも悪影響を及ぼしつつある通商紛争を早期に解決するため、米国に譲歩する道を選んだとみられる。
 
中国商務省は23日、米国側との次官級電話協議が21日にあったと発表。知財保護の強化などについて意見交換を行い、進展を得たことを明らかにした。【12月23日 朝日】
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【ディールによる米中関係のリセットか、中国の超大国化阻止か・・・アプローチの違いで、終わり方も異なる】
貿易や知的財産権の問題でのこうした動きを受けて、米中間の「貿易戦争」は終息に向かうのか?
中国側がトランプ大統領に花を持たせる形で譲歩し、トランプ大統領が「偉大なディールを達成した!」とツイート、その後は二つの大国間でウィン・ウィンの関係を・・・・という話になるのか?

おそらく、トランプ大統領はそうした流れを想定しているとは思われます。
ただ、そこで収まるのかはよくわかりません。

アメリカ側には、トランプ大統領の思惑にかかわらず、そもそも中国がアメリカに対抗しうるような大国にのし上がってきたことが許せない・・・という考えもあるようです。

この際、中国を徹底的に叩いて、中国の超大国化を阻止し、世界の覇権をアメリカが握り続ける体制をつくるのだ・・・という話になると、ゴールがどこだかわからなくなります。

****劇化する貿易戦争、米国と中国と「対決の技」 もはや関税や大豆の問題ではない、米国の思考に重大な変化****
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2018年12月18日付)

教えてくれ、これはどんな形で終わるんだ――。
これはベトナムやイラクでの泥沼の戦いについて考える時に米国の将軍たちが絶望しながら問いかけたとされる言葉だ。
 
米国と中国の緊張がエスカレートしている今、米国の政策立案者は同じことを問う必要がある。
 
米中の2大大国は、貿易、技術、スパイ活動、南シナ海の制海権など様々な問題について角を突き合わせている。
大ざっぱに言えば、これらの衝突を解釈する方法は2通りある。
 
第1の解釈は、ドナルド・トランプ大統領率いる米政権は米中関係をリセットしようと固く決意しているというもの。第2の解釈は、米国が中国の台頭を阻止する行動に出始めたというものだ。
 
第1のアプローチは、中国の問題のある行動に的を絞っている一方、第2のアプローチは、中国がライバルの超大国になるという考えそのものに反発している。
 
どちらを取るかによって、潜在的な終わり方はかなり異なったものになる。
 
第1のアプローチ――リセット――は、最終的には取引で決着する。第2のアプローチ――中国の台頭阻止――なら対立は長引き、ますます深刻化するだろう。
 
米国はどちらのアプローチを追求しているのか。これについては、トランプ政権内でさえ曖昧な部分がかなりある。
 
大統領は先日、中国と「大規模で非常に包括的な取引」をまとめることについてツイートした。トランプ氏が「リセット」派であることがうかがえるエピソードだ。(中略)
 
ところがトランプ政権の上級幹部、つまり日々の政策を実際に決めている人たちから話を聞くと、米国は中国との長期にわたる対決に取り組みつつあるとの印象は避けがたいものになる。
 
彼らの分析によれば、米国は数十年もの間、誤った対中政策を取ってきた。
米国は浅はかにも、中国は豊かになるにつれて強権的でなくなっていくだろうし、台頭する超大国をルールに基づく米国主導の国際秩序に特に問題なく統合できると考えていた。
 
こうした計算違いの結果が、昨今の中国の強硬な行動パターン――南シナ海での軍事基地建設から産業スパイに至るあらゆる面での不当な行為――になって現れてきている、というのだ。
 
米国が抱いているこのような根深い不満は、中国側が自動車の関税を下げたり大豆の購入を増やしたりすることで修復できるものではない。実際、貿易交渉を手早くまとめてしまうことは逆効果になるかもしれない。
 
トランプ氏と、同氏のアドバイザーの一部との間で溝が広がっているとの印象は、中国の通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長の逮捕をめぐって続いている騒動によって強くなっている。トランプ氏は逮捕が実行されることを知らなかったらしく、情報に接して激怒したと噂されている。(中略)
 
中国における一見「報復的な」逮捕はカナダ人を標的にしたものだった。ファーウェイの孟氏がバンクーバーで逮捕されたためだ。今のところは、米国人は標的にされていない。
 
おそらく中国政府は今後数カ月間、トランプ氏を懐柔しようとし、米国の対中貿易赤字を減らす施策を打ち出し、見出しを飾るような「勝利」で花を持たせてやるだろう。
 
しかし長期的には米国も中国も、この対立が「どんな形で終わるのか」について深く考えなければならない。
 
中国側は、米国側の考え方に超党派の重大な変化が起きたことを認識する必要がある。従って、トランプ氏をたぶらかそうとする、あるいはトランプ氏の退任を待つ作戦は、最終的にはうまくいかないだろう。
 
それよりも中国の方が、進出企業に対する技術移転の強制から南シナ海での振る舞いに至るすべての面において、より大幅な方針転換を検討しなければならない。
これが米国との長期に及ぶ対立を回避する最後のチャンスになるかもしれないのだ。
 
米国側にも検討すべき課題がある。
 
ワシントンのタカ派は、中国との対決において米国の力を大っぴらに行使することを楽しんでいるが、彼らもまた、対立が「どんな形で終わるのか」を考えなければならない。
 
米国が究極的に中国の台頭を止められると考えるのは現実的ではない。実際、それを目指す取り組みはいずれも、危険な緊張の激化を招くことになる。
 
そうなれば簡単に戦争に発展する恐れがある。その一方で、今後3カ月間の交渉で大きな取引が成立し、中国側が振る舞い方を大きく変えると考えるのも、同じくらい現実的ではない。
 
米国側は、現在の中国との対立について、野心的ではあるが達成可能な目標を設定する必要がある。冷めた関係が長期間続く可能性があることを受け入れるべきだろう。
 
しかし最終的には、米国のアプローチは、孫氏が「兵法」で説いた戦(いくさ)の技よりもトランプ氏が自伝で説いた「ディールの技」に近いものであるべきだ。【12月25日 JB Press】
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ファーウェイの孟氏逮捕に関しては、12月13日ブログ“ファーウェイCFO逮捕のよくわからない背景 トランプ大統領の介入姿勢の問題点”で“逮捕公表後、トランプ大統領が「知らされていなかった!」と激怒した・・・という話も聞きませんので、知らされてなかったということはないようにも思えますが・・・”と書きましたが、上記記事によれば、実際知らされておらず、激怒したとのこと。

よく指摘されるように、トランプ大統領が好き勝手にツイートして独断で物事を進めていくというのも困ったことですが、一方で、アメリカ大統領が重大事項をしらされておらず、「大統領には好きにツイートさせておけ。その間に我々は・・・」と、大統領抜くに重要な流れが進んでいくというのも、これまた非常に困った事態です。

世界の覇権争いで中国を敵視する立場の人々に関しては、驕りというか、現状を正しく把握していないようなところも見えます。

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・・・・「中国が目指すのは人工知能(AI)をはじめとする超先端技術の分野で米国に追いつき追い越し、世界のトップの座に就くこと」

「そのためには非合法な方法ででも可能な限り先端技術関連データを入手しようとしている。中国によるハッカー攻撃はその攻撃性ではロシアや北朝鮮よりも上だ。今回逮捕したスパイは氷山の一角に過ぎない」(クリストファー・レイFBI長官)

もっとも、こうした米国のがむしゃらな「スパイ掃討作戦」には政治的な思惑が見え隠れしている。背景に「米国は世界のAIのリーダーだ」という驕りがある。【12月26日 高濱 賛氏 「AIと5G技術で、中国はなぜ米国を追い抜けたか」 JB Press】
*********************

しかし、スパイ活動の有無は別にしても、すでに中国はアメリカのコピー時代を終え、AI・通信分野で新しい特性を開発し始めています。

理由はいろいろありますが、決定的に重要なのは技術開発に不可欠なデータ量の違いでしょう。「中国人のモバイル決済は米国人の50倍、商品の注文数は米国の10倍。これがAIモデル開発のための重要な参考データになっている。」【同上】

“また貿易摩擦からハイテクや知的財産権をめぐる対立で一歩も引かぬ中国のスタンス。その底辺には並々ならぬ中国の自信がある。泰然自若としていられる理由が仄見えてくる。「AI技術では君たちより進んでいるよ」という自信なのかもしれない。”【同上】

上記の“対立で一歩も引かぬ”と言う部分は、“トランプ大統領に花を持たせて譲歩する姿勢で幕引きをはかる”と置き換えてもいいでしょう。

“中国は非合法・ずるい方法でアメリカの技術を盗み技術を進化させようとしている”と“上から目線”でいると足元をすくわれるかも。

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ブラジル新大統領に就任するボルソナロ氏 その「ブラジルのトランプ」ぶり

2018-12-25 22:29:58 | ラテンアメリカ

(ボルソナロ氏の当選が決まった夜、路上で激しく言い争う同氏の支持者(黄色男性)とアダジ氏支持者(赤色女性)【10月29日 BBC】)

【「社会の分断」から生まれた大統領ボルソナロ氏にとっては、社会の分断は深まれば深まるほど利益になる】
10月28日に行われたブラジル大統領選挙で、黒人・ゲイ・女性への差別発言を繰り返し、人権侵害があった軍事政権時代を評価し、「警察は犯罪者を殺せ」とも発言して、「ブラジルのトランプ」「ブラジルのドゥテルテ」とも称されるボルソナロ氏が当選したことは、10月29日ブログ“ブラジル 病んだ社会の不満を抱える国民が選んだ「ブラジルのトランプ」”でも取り上げました。

ボルソナロ氏は当初は泡沫候補的な存在でしたが、政権与党の労働党および支持層では人気が高かったルラ元大統領の汚職事件への関与が明らかになるなかで、そのアウトロー的な立ち位置が国民の既成政治への不満の受け皿となり、大統領職を手にすることにもなりました。

****極右を大統領に選んだブラジルの行方****
(中略)しかしブラジルは、ボルソナロ氏の登場で安定していくのだろうか。一時の熱狂に揺れたブラジル国民が、その騒ぎから醒め我に返った時、自らの国が思いもよらぬ者に支配されていることを知り愕然とすることはないのか。

アウトローゆえに「清新
ボルソナロ氏の勝因については前稿で指摘のとおり、「既成政党に対する国民の信頼喪失」にその本質があったことは疑いない。

ディルマ・ルセフ元大統領による経済失政により、2014年から2016年までのブラジル経済は7パーセンテージ・ポイント成長率が下押しされた。多くの国民は失業の憂き目にあい、またせっかく蓄えた資産を失ってしまった。
 
加えて、2014年に発覚し、現在なお捜査継続中のペトロブラス汚職事件はブラジル史上最大の疑獄事件となり、PT(与党・労働党)をはじめとするほとんどの既成政党がそれに関与していることが明らかになった。

治安の悪化や政府が提供するサービスの低下もあり、もともと政治というものに多くを期待しなかったブラジル国民も、今度ばかりは既成政党に対する信頼を失った。

「これまでの政党ではだめだ」というのがブラジル国民のコンセンサスになったといっていい。その「政治的真空」の中に現れたのがボルソナロ氏だ。
 
ボルソナロ氏は当初、泡沫候補でしかなかった。軍司令官を歴任後、28年も議員職にありながら目立った業績は皆無。その過激な言動で名前が知られていたに過ぎない。従って当初は、ボルソナロ氏の当選を予想する者はいなかったといっていい。

しかし、この真空状態の中、ボルソナロ氏は既成政治の外の「アウトロー的存在」であり、その意味で、穢れた今の政界にあって「清新」である。既存政治に対する信頼を失った国民にとり、新しい指導者は何はさておき、今までの政治とは別の世界の人物でなければならなかったのだ。
 
確かに、黒人、ゲイ、女性を差別する同氏の言動は、これら社会的弱者にとり支持をためらうものであったことは事実である。しかし、これらの人々も、PTの失政で資産を失い、汚職で既成政党に対する信頼を喪失している。

ボルソナロ氏の過激な言動は逆に、同氏の立ち位置を明確にし、「既成政治との決別」を強く印象付けるのに役立った。銃所持の自由化や、「警察は犯罪者を殺せ」との発言は、治安悪化に悩む人々にとり実効性ある政策として受け入れられていったのである。(中略)

「社会の分断」から生まれた大統領
ボルソナロ氏の勝因についてもう一つ重要な点として、「ブラジル社会の分断」を指摘しておきたい。

既成政治と一線を画し、「既成政治が生んだ社会の混乱を正すことこそが自分に与えられた使命だ」、と主張するボルソナロ氏にとり、社会の分断は深まれば深まるほど利益になる。かくてボルソナロ氏はことさら対立をあおる戦略に出た。
 
そもそも、今回の選挙は「反PT」と「反ボルソナロ」の戦いでもあった。ボルソナロ氏は勝利したが、ボルソナロ氏にだけは政権を渡したくないと考える有権者も多かった。

つまり、ボルソナロ氏とアダジ氏に投票した有権者は、その双方がともに相手にだけは政権を取らせたくないと考えて投票した。双方の有権者の間には深い亀裂ができたのである。
 
分断したブラジル社会を治癒し再び一体感を持った社会を作り上げることは大統領に当選したボルソナロ氏に与えられた重要な課題だが、同氏に分断を乗り越えようとの姿勢は見受けられない。何より同氏は分断により生まれた大統領なのである。(中略)

「熱狂」の賞味期限
最後に、改革の行方はどうか。ブラジル政治が汚職体質にあり、また、経済が財政赤字の重圧の下にあることは改めて言うまでもない。

政治の改革には選挙制度と政党の改革が不可欠であり、財政赤字の改善には、就中、年金制度改革が待ったなしである。ブラジルが再生するか否かは偏にこうした改革の成否にかかっている。
 
しかし、ボルソナロ氏が大統領に就任し、まずこういった難題から手を付けていくだろうと見る向きは少ない。これらはいずれも、その必要性を疑う向きはないが、成果が見えにくく、国民が利益を実感しづらい課題でもある。

従って、ボルソナロ氏がまず取り組むのは選挙中も強く訴えた治安対策と思われる。銃所持の自由化、犯罪の責任年齢引き下げ、治安部隊の強化等である。
 
だが、選挙が終わり、熱狂から覚めた国民は、目に見える成果がなければ容易にボルソナロ批判に廻る。ボルソナロ氏に与えられた時間は決して長くないはずだ。【11月1日 WEDGE】
******************

上記記事の「ボルソナロ」を「トランプ」に置き換えてもいいような、アメリカ社会の「分断」と類似性があります。

“ボルソナロ大統領”を生むことになったペトロブラス汚職事件の方は、テメル大統領も汚職と資金洗浄の疑いで起訴される状況となっており、その点ではボルソナロ大統領による政治刷新を求める風はまだ吹いています。

【イスラエル大使館移転、国連の移民協定から脱退、温暖化防止パリ協定からの離脱、銃規制などでトランプ的な認識】
ボルソナロ氏の大統領就任は来年1月ですが、すでに同氏らしい発言がいくつか明らかになっています。

****「大使館をエルサレムに移転」ブラジル次期大統領が表明</font>****
南米ブラジルで次期大統領に当選したジャイル・ボルソナーロ下院議員(63)は1日、自身のツイッターで、在イスラエルのブラジル大使館を商都テルアビブからエルサレムに移転すると明らかにした。

ボルソナーロ氏はイスラエルを支持するキリスト教プロテスタント福音派の信者で、信仰が影響しているとみられる。
 
ボルソナーロ氏は「選挙中に約束したように、テルアビブのブラジル大使館をエルサレムに移転するつもりだ。イスラエルは主権国家であり、尊重しなければならない」とポルトガル語と英語でツイートした。
 
福音派信者のボルソナーロ氏は当選後の勝利演説でも、何度も神への感謝を語った。「なによりもブラジル、なによりも神様」をキャッチフレーズにした選挙では、イスラエルの大使館移転のほか、首都ブラジリアにあるパレスチナ自治政府の大使館を「閉鎖させる」とも発言。支持集会では、ブラジル国旗だけでなく、イスラエルの旗が振られてもいた。(後略)【11月2日 朝日】
*******************

****「フランスは移民で苦しみ」=受け入れ反対を表明―ブラジル次期大統領****
ブラジルのボルソナロ次期大統領は18日、インターネット交流サイト(SNS)で公開した映像で「フランスは移民を快く受け入れたが、それにより苦しんでいる。ブラジルで同じことは起きてほしくない」と述べ、移民受け入れに原則反対の立場を明確に打ち出した。
 
ボルソナロ氏は「フランスの幾つかの地域は(移民流入により)生活することが耐え難く、国内に不寛容の空気が広がりつつある」と強調。「移民に反対しないが、ブラジルに入るには厳しい条件が必要だ」とした上で、来年1月1日の就任後、署名したばかりの国連の移民協定から脱退する意向を示した。【12月20日 時事】 
*****************

国連の移民協定だけでなく、地球温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」からの離脱をも示唆しており、次期外相にも温暖化対策を疑問視する人物の起用を決めるなどしています。

「温暖化に対する規制をするということは産業の発展を抑制することだと。こう考える人も結構います。アメリカは世界最大の産油国にもなったし、石炭産業も大きい。トランプ大統領はそれを利用した。温暖化対策より、大胆な開発なんだと。自分の選挙で勝つために必要だった。ブラジルも同じ。産業発展をしていきたいという人たちに向けて都合よく解釈した。温暖化など重要なものじゃないと」(前嶋和弘教授(上智大学・国際関係論))【12月9日 「サンデーモーニング」スタッフノート 】

銃規制緩和を支持しているという点でも、銃規制に消極的なトランプ大統領とダブります。

****銃支持派が期待する、ボウソナロ氏の大統領就任 ブラジル****
(護身のために拳銃2丁とショットガンを保持する)バロッソさんのようなブラジル国民は、1月1日に次期大統領に就任するジャイル・ボウソナロ氏が公約に掲げている銃規制緩和を心待ちにしている。

極右政治家のボウソナロ氏は、同国にまん延する路上犯罪の被害に遭った場合に備えて「善人」が銃を所持することを奨励している。また銃所持の年齢制限を、25歳から21歳へ引き下げることも約束している。
 
こうした犯罪により、ブラジルは犯罪多発国の一つに数えられており、昨年は6万3880人が殺害された。非営利団体「ブラジル公安フォーラム」によると、こうした殺人事件の70%は銃器によるものだという。

■「銃には銃を」
ブラジル人は、銃を所有するという考えに固執し続けてきた。2005年に実施された銃規制をめぐる国民投票では、銃器の販売を禁止する法案に投票者の64%が反対した。(中略)

バロッソさんが紙製の的を狙ってショットガンを撃つ練習をしている射撃場「コルト45」の経営者によると、会員数はこの3年間で激増し、125人から1350人と10倍以上になった。(中略)

同射撃場は、ボウソナロ氏への支持をはっきり表明しており、窓には次期大統領を支持するステッカーも貼られている。

インストラクターのジョアン・ベルクレさんは、次期大統領が「銃購入を希望する人々のために状況を改善してくれる」ことを望んでいる。「現状では犯罪者たちは、殺傷能力の高いライフルや戦闘用武器を含む密輸品に簡単にアクセスできる。公平さが必要だ」
 
銃がもっと普及すれば犯罪者も思いとどまる、というのがベルクレさんの持論だ。「目の前の人物が武装していると思えば、強盗だってもっと慎重になるだろう。今は皆が銃を持っていないことが明らかだから、強盗は平気で銃を突きつけるんだ」
 
しかし弁護士のバロッソさんは、銃の一般化には同意できない。「街中にいる皆が銃を持ち、誰かが脅かされたと感じるたびに撃ち合いが起きていたら、まるで西部劇になってしまう」「私だったら携帯電話を盗もうとした相手に対して、銃を取り出すことは決してしない。たかが電話のために、的を外して無実の人を撃ってしまうようなことが恐ろしいからだ。市民には警察の仕事はできない」【12月25日 AFP】
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【キューバ・ベネズエラ左派政権と対立鮮明化】
外交面では、就任式に反米左派政権のキューバ、ベネズエラ両国首脳を招かないことを決めて、両国との対立が鮮明化しています。

****ブラジル緊張高まる 新大統領、就任式にキューバ首脳ら招かず****
ブラジルの極右、ボルソナロ次期大統領は、来年1月の大統領就任式に反米左派政権のキューバ、ベネズエラ両国首脳を招かないことを決めた。

両国は反発し、キューバはブラジルへの医師の集団派遣を打ち切り、ベネズエラは軍備を増強する。ボルソナロ氏は米トランプ政権との連携を強めており、就任前から早くも中南米で左派政権との対立を深めている。
 
「二つの国に選挙は存在しない。あったとしても、不正(選挙)だ」。ボルソナロ氏は今月18日、ネット公開した演説で、両国首脳は民主主義に基づかない手法で選ばれた独裁者だと主張。

外務省が出していた、キューバのディアスカネル国家評議会議長とベネズエラのマドゥロ大統領に対する就任式への招待を取り下げたことを明らかにした。両国への圧力強化を宣言し、次期政権幹部は外交関係断絶も示唆する。
 
ボルソナロ氏は、政治手法が共通するトランプ米大統領を称賛し、「ブラジルのトランプ」と呼ばれる。11月、リオデジャネイロの自宅でボルトン米大統領補佐官と会談し、中南米の反米左派政権に対し、連携を深めることを確認した。
 
「キューバ政府が医師の給料の多くを受け取り、医療レベルが低い」などと改善を求めたボルソナロ氏に対し、キューバ政府は「侮辱的発言は受け入れられない」と判断。11月、ブラジルへの医師派遣を中止し、滞在中の医師約8000人を年内に引き揚げることを決定した。
 
米国による厳しい制裁が続くキューバにとって国外50カ国以上への医師派遣は重要な外貨獲得源。ブラジルはベネズエラと並ぶ最大規模の受け入れ先だった。キューバにとって、約1億2000万ドル(約130億円)の歳入減になる一方で、医師不足に悩むブラジルも帰国した医師の穴埋めに奔走している。
 
またベネズエラのマドゥロ氏は、米国やブラジルなど「帝国主義国」がベネズエラへの軍事介入やクーデターを計画していると持論を展開。今月17日、準軍事組織の構成員が160万人以上に達したとして、「(介入時には構成員に)歯まで武装させる。生きたまま帰らせないだろう」と述べ、警戒心をあらわにした。

ボルソナロ氏の就任式には、ポンペオ米国務長官やイスラエルのネタニヤフ首相が出席する。イスラエル首脳のブラジル訪問は初めてとなる。【12月23日 毎日】
***************

キューバはともかく、ベネズエラ・マドゥロ政権は南米でも批判されている存在ですから、就任式に招かないというのも驚きではありません。

それにしても、キューバの医師派遣がブラジルに8000名というのも“すごい”です。どうやれば、そんなに大量の医師を養成できるのでしょうか?

【中国依存を強めるブラジル 選挙中の対中国批判は?】
話をブラジル・ボルソナロ氏にもどすと、同氏は選挙中、中国を批判する発言を行ってきました。当然、中国は警戒はしていますが、現状維持に自信もあるようです。

近年、ブラジルで中国の影響力が急激に上昇しています。

“今世紀に入るまで、中国は南米でほとんど存在感を持たなかった。しかし、その後に急速な変化が起き、中国の過去15年の対ブラジル直接投資は540億ドル(約6兆1280億円)に上った。ブラジルは中国にとって第3の投資目的地だ。一方、中国はブラジルの最大の輸出先となった。”【12月4日 レコードチャイナ】

****ブラジル大統領選で極右ボルソナロ氏が勝利=中国で「反中」「第二のトランプ」と警戒の声****
28日に決選投票が行われたブラジルの大統領選で、極右とされるジャイル・ボルソナロ氏が当選した。ボルソナロはこれまで、経済問題などで中国を批判する発言を繰り返してきた。また、大統領選候補者として初めて台湾を訪問した。

中国メディアの環球時報は、「ブラジルにもトランプが出現」「反中」などとして警戒する記事を発表した。

ブラジルでは2011年に就任したルセフ大統領まで、長年にわたり左翼政権が続いてきた。ルセフ大統領が政治資金問題で16年に失脚すると、テミル大統領による中道政権が発足。さらに2019年1月1日に発足するボルソナロ政権で、ブラジルの政治は大きく右に舵を切ることになる。

環球時報発表の記事よると、ロイター通信は数日前にすでに、「ボルソナロ氏の反中発言に中国は憂慮」と紹介する記事を発表した。ボルソナロ氏は中国企業がブラジルのエネルギー資源、農産物、砿業資源、さらに土地まで大量に購入していることを批判し「ブラジルの物産を買っているのではない。ブラジル(そのもの)を買っている」と論じたという。記事が、「ブラジルにもトランプが出現」と評したのは、そのためだ。

そのため、ボルソナロ政権は発足後、両国の各協定を、現状よりも中国側に大きく不利な内容に修正する可能性があるという。

ボルソナロ氏は軍人出身で、1960年代の「反共政権」に好意を示す発言をしたこともある。記事はさらに、1974年に中国とブラジルが国交を樹立してから初めて、大統領選候補の身分で台湾を訪問したと紹介。極右とされるボルソナロ氏が、大統領就任後も台湾に好意を示すとすれば、中国当局にとっては「頭の痛い」問題になるはずだ。

ただし清華大学に在籍して中国・ブラジル関係を研究するオッタビオ・コスタ・ミランダ氏は、トランプ政権下の米国とブラジルでは、状況が全く異なると指摘。米トランプ大統領は、貿易赤字などを解消しようとして中国に対して強硬姿勢で臨んでいるが、ブラジルは対中貿易で、例えば2017年実績で201億ドル(約2兆2500億円)と、巨額の黒字を続けているからだ。

そのため、ボルソナロ氏の「反中発言」は、ブラジル人口の40%を占める農業従事者や、鉱業企業には歓迎されていないという。

記事によると、ブラジルFGV大学で国際関係論を先行するオリバー・シュテンケル教授は、ボルソナロ氏の反中発言が「どんどんと減ってきた」と指摘。一方で女性の権利や性的少数者の問題での超保守的な発言で、有権者を驚かせるようになったという。

また、ボルソナロ氏が選挙期間中に発表した計81ページに上る施策方針でも、外交については最後の1項目しかなかった。そのため、ボルソナロ氏の反中発言は「無知」によるもので、大統領就任後の言動には未知の部分もあるが、有権者の多くを占める農業従事者を納得させるためにも、中国とブラジルの関係が「大風大波に遭遇することはない」との見方が出ているという。【10月29日 レコードチャイナ】
*****************

「無知」なところも・・・と言うのはやめておきます。
中国は自信を持っているようにも見えますが、政治・財政・年金といった国内改革が進まないとき、中国を標的にして、外交面で即時的な変化をアピールするということはありえる話でしょう。

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インド・カシミール  今も10年前も変わらぬ混乱 負の連鎖から抜け出せない印パ関係

2018-12-24 22:37:13 | 南アジア(インド)

(インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方の主要都市スリナガルで、警備を行う治安部隊(2018年12月12日撮影)【12月16日 AFP】)

【カシミール 2009年以来では最悪の犠牲者】
インドの国際面での問題といえば、まずはパキスタンとの関係が中核になります。

両国が領有権を争うカシミールの問題は、1947年、1965年、1971年の3度の印パ戦争をも引き起こした今更の話として、最近はあまり話題になることはありませんが、現在もパキスタン側の支援を受けるイスラム過激派とインド政府軍との間の衝突、イスラム系住民とインド治安部隊の衝突は現在も頻発しており、今年の犠牲者数は民間人およそ150人を含む約550人と、2009年以降で最も多かったようです。

****カシミールで軍と反政府派が銃撃戦、4人死亡 抗議デモでは7人が犠牲に****
インドとパキスタンが領有権を争うカシミールで15日、インド軍と反政府派戦闘員との銃撃戦があり4人が死亡、これを受けた抗議デモで同軍がデモ隊に向けて発砲し市民7人が死亡した。警察と病院関係者が明らかにした。
 
警官の話によると、インドが支配するカシミール南部プルワマ地区で、インド軍が反政府派戦闘員の隠れていた住宅を包囲した直後銃撃戦となり、兵士らと戦うため住宅から果樹園に飛び出した戦闘員3人が殺害された。警察幹部によればインド軍兵士1人も死亡したという。(中略)
 
目撃者によれば、銃撃戦の間、住民数百人が凍えるような寒さのなか街頭に出て果樹園に向かって行進を始め、反政府派の支持を叫びながら軍隊に向かって投石した。
 
匿名を条件に取材に応じた警官はAFPに対し、「(現場は)大混乱になった。兵士が次々と発砲しデモ参加者6人が死亡した」と述べた。
 
病院関係者によると、7人目の犠牲者となった男性は銃撃で負傷しその後死亡。別の警官によると、軍との衝突でこの日、他にもデモ参加者数十人が負傷したという。
 
監視団体によると、15日の惨事によりカシミールでは今年、民間人およそ150人を含む約550人が死亡し、死者数は2009年以降で最多を記録した。 【12月16日 AFP】
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【宗教対立の政治利用】
“2009年以降で・・・・”ということで、2008年、2009年がカシミールにとってどんな年だったか、記憶は定かではありませんが、2008年にはヒンドゥー教の聖地を訪れる巡礼者を受入れるための土地の譲渡問題で、ヒンズー・イスラムの対立が激化し、多くの死傷者が出て、州都スリナガルでは外出禁止令も出されました。

発端は州政府が2008年5月、州内のヒンズー教聖地「アマルナート洞窟」周辺の土地を同教の関連団体に移譲すると決めたこと。イスラム教徒が反発したため、州政府は7月1日、一転して譲渡を撤回。これにヒンズー教徒のグループが撤回に激怒し、州都スリナガルなどでの暴動に発展した・・・というものでした。

このヒンズー側の暴動を扇動したのが、現在政権の座についているヒンズー至上主義のインド人民党(BJP)です。インド人民党の扇動の背景には、2009年春に実施が予定されていた総選挙をめぐり、宗教対立を利用しようとの思惑があったと指摘されています。

“暴力的な行動に出たBJPはインド各地から反感を買ったが、ジャムとカシミールの宗教・社会間の対立を煽ることには成功した。その結果、カシミールではインドからの疎外感や分離独立の機運が増している。”【2008年9月7日 IPS】

人民党・モディ政権が宗教対立を政治利用しようとしていることは、12月14日ブログ“インド 総選挙前哨戦の州議会選挙で与党敗北 宗教を前面に押し出して態勢立て直し”でも取り上げましたが、このヒンズー至上主義政党の危険な体質は今も昔も変わっていません。

【ムンバイ同時多発テロから10年 相手を批判することで国内求心力を保とうとする負の連鎖】
2008年11月にはムンバイ同時多発テロが起きて、インド・パキスタン関係は最悪にもなりました。
このテロをめぐる対立は今も続いています。

****インド・ムンバイ同時テロ10年、パキスタンとなお緊張関係****
インド西部ムンバイで起きた同時テロから10年を迎えた。インドはその後も国内で続くテロの多くにパキスタン軍の関与があると主張しており、両国の緊張関係が続いている。
 
26日朝、現場となったムンバイ市内では追悼式が開かれ、献花する人がみられた。
 
2008年11月26日にあった同時テロではホテルや駅など10カ所が襲撃され、日本人を含む160人以上が死亡した。

インド政府は、パキスタンを本拠地としてカシミールの分離独立を求める過激派組織「ラシュカレトイバ(LET)」の犯行と断定。インドは、LETはパキスタン軍情報機関(ISI)の支援を受けているとみる。
 
インド政府はテロ後、専門機関をつくるなど対策をとってきた。それでもパンジャブ州で今月18日、覆面の男2人が集会中に手投げ弾を投げ、3人が死亡、10人以上が負傷するなどテロはやまない。

同州首相は「ISIが背後にいる組織によるものだ」と批判。印パが領有権を争うカシミール地方では、親パキスタンの武装組織がインド軍兵士を標的としたテロが続く。
 
一方、パキスタンも自国内でテロが起きるたび、批判の矛先をインドに向けてきた。23日、カラチの中国総領事館が襲撃されると、カーン首相はツイッターで「パキスタンを不安定化させたい者による計画的な攻撃だ」とインドの関与をにおわせた。

地元メディアは治安当局の情報として「現場で見つかった爆発物の破片が海外製だった」と伝えた。
 
過去に3度交戦した両国は、その後のテロ対策を巡っても責任を隣国に押しつけることで求心力を保とうとする負の連鎖から抜け出せていない。【11月27日 朝日】
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上記記事最後にあるように、対外的危機や外敵を強調することで国内政治の求心力を保とうとする権力者の常とう手段によって、印パ関係はなかなか好転しません。

また、対外的緊張状態が続いた方が都合がいい勢力(軍部など)もあって、関係が改善しようとするとテロが起きて台無しになる・・・という状況が続いています。

【カシミールへのIS浸透】
カシミール地方の混乱は、イスラム過激派が勢力を伸ばすには最適な温床で、ISが触手を伸ばしているとの指摘もあります。

****ニューデリー警察 カシミールを拠点とする「イスラム国(IS)」系組織のメンバー3人逮捕  テロを計画か****
首都ニューデリーの警察は25日までに、ジャム・カシミール州スリナガル近郊で、イスラム過激派組織「イスラム国のジャム・カシミール州(ISJK)」のメンバー3人を逮捕したと発表した。

逮捕された3人はニューデリーでテロを計画していたと見られ、複数の銃や手榴弾が押収されたが、現時点でそれ以上の詳細は明らかになっていない。

IS支部はエジプト、リビア、アフガニスタン、フィリピンなど各地で活動する一方、これまでカシミール地方では大きな動きは見られなかった。

しかし、近年ISに支持を表明する組織や戦闘員の動きが目立つようになっており、インド当局は警戒を強化していた。(後略)【11月28日 SOSSkynetNews】
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これまで大きな動きがなかったのが不思議なくらいです。ISが勢力を伸ばせば、テロはさらに激化します。

【民衆抗議デモに散弾銃発砲】
一方で、イスラム過激派を取り締まるインド側の対応も、相当に苛酷なものがあるようです。

****1歳の子の目に金属片・・・ 衝突続くカシミール、物議醸す散弾銃****
インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方で、散弾銃による被害を受けた1歳8か月の幼児の目から金属片を除去する手術が行われた。

衝突が絶えない同地方ではこの散弾銃の使用が物議を醸しており、幼児が負った痛ましい傷が問題を改めて浮き彫りにした。

手術を受けたのは、ヒバ・ジャンちゃん。手術を担当した外科医らは、被弾した方の目で物が見えるようになるのかどうかはまだ分からないとしている。

イスラム教徒が大多数を占めるカシミール地方では、インドによる支配に抗議するデモが暴力行為に発展することが多い。

大規模な反インドの抗議デモと政府軍との衝突で100人以上が死亡した2010年、インド政府は「非致死性」だとして12ゲージ散弾銃を正式に導入した。

ヒバちゃんが重傷を負ったことで、市民に対し散弾銃が依然使用されていることが明らかになった。
 
2017年以降の政府統計によると、散弾銃により8か月のうちに13人が死亡。負傷者は6000人以上に上り、うち800人近くが目に損傷を負ったとされる。

カシミールでは1989年以降、インドの支配に反発する暴動により、市民を中心に数万人が命を落としている。特に今年は既に2009年以降最多となる500人以上が死亡している。 【12月14日 AFP】
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目を狙っている訳ではないでしょうが、散弾銃ですから目に当たる危険が大きくなります。ほかの部位なら弾を摘出すればすみますが、目の場合はそうもいきません。「非致死性」とは言いつつも、悲惨な結果を残します。

目でなければいいのか・・・という話でもありません。パレスチナ・ガザ地区での抗議行動に対しイスラエル軍は主に足を狙って発砲しています。

民衆に対し銃を発砲するような事態をなんとか改善してほしい・・・ということですが、現実政治ではなかなか実現しません。来年こそは・・・とも思うのですが、宗教対立を政治利用しようといたり、外敵の存在を強調することで国内政治求心力を保とうする政治が続く限りは難しい話ではあります。


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中国  AIとビッグデータの駆使で向かう「監視社会」はディストピアか? 日本でも不可避な流れ

2018-12-23 22:56:39 | 中国

(いつも誰かに見られている・・・ロンドン・イズリントン 区全域に設置された監視カメラからの映像が、制御室のモニターに映し出される【4月5日 NATIONAL GEOGRAPHIC】

【マイクロソフト ディストピア的未来を回避するため新たな法規制の導入を呼び掛け】
AIとビッグデータを駆使したサービス、および、そうした情報の公共利用が急速に広がった今日、利便性・公共性と個人のプライバシー(人権)をどのように両立させるのか・・・という問題が、現実的かつ重要な問題となっています。

プライバシーへの配慮が軽視された場合、いわゆる「監視社会」といった、近未来SF的ディストピア、あるいは、ジョージ・オーウェルの『1984』の世界が現実のものとなる危険性があります。

****顔認証技術に法規制を、マイクロソフト呼び掛け****
米マイクロソフトは6日、顔認証技術に関して一定の社内規定を設ける意向を明らかにした。他社にも同様の措置を講じるよう求めるとともに、ディストピア的未来を回避するため新たな法規制の導入も呼び掛けた。
 
同社のブラッド・スミス社長兼最高法務責任者は米首都ワシントンのシンクタンク、ブルッキングス研究所で演説し、ジョージ・オーウェルが小説「1984年」で描いたような監視国家の誕生を防ぐためにも顔認証に制限を加えることは急務だと訴えた。
 
スミス氏は「欠かせない民主主義の原則は常に、どんな政府も法律より上であることはないという信条だ」と述べ、各国政府が顔認証技術を使用する際は規制の対象であるようにするため、新しい法律を導入する重要性を指摘した。
 
マイクロソフトはかねて顔認証に対する規制の必要性を指摘しており、顔認証技術の導入に透明性や人間による審査、プライバシー保護の措置を義務付ける法案が2019年にも議会を通るよう、同社が働き掛けを行っていくという。

また、今後同様の社内規定を設けるとともに、他のIT関連企業にも同様の措置を取るよう呼び掛けていくとしている。
 
スミス氏は加えて、個人のプライバシーや人権、自由に影響を及ぼす可能性のある大事な判断を下す時に顔認証のアルゴリズムが利用される際には「人間による意義ある審査」が求められ、さらに差別や偏見から個人を守ることが重要な要素となると強調した。
 
また、警察による顔認証の利用についても裁判所から命令があった場合や緊急時を除き、法律によって規制されるべきと指摘した。【12月7日 AFP】
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【最先端国・中国の「イケイケ」ぶり】
AIとビッグデータを駆使したサービス、および、そうした情報の公共利用が最も急速に進んでいるのは中国ですが、中国のような権威主義的な国家においては、個人情報保護に関する企業の倫理とか「市民による政府の“監視”の監視」といったメカニズムも期待できません。

そのことが、中国で急速にこの方面が進行している理由でもあるでしょう。
まさに「イケイケ中国!」の感があります。

****チップ内蔵の「スマート制服」、児童・生徒のずる休み防止で導入 中国****
中国南部の学校が、児童・生徒の無断欠席を防ぎ出席率を向上させるため、居場所を把握できるチップを内蔵した「スマート制服」を採用していると、同国の国営メディアが報じた。
 
このサービスを運営するテクノロジー企業によると、制服にチップを用いることで、児童・生徒の居場所を監視し、学校の出入記録を取ることができるという。
 
今年11月からスマート制服を導入しはじめた、貴州省にある小学校の校長は、「児童が学校に入ると、スマート制服がその児童の写真や動画の撮影を補助する」と説明。AFPの取材に対し、児童1400人のうち半数以上がスマート制服を着用していると述べた。
 
中国の国営タブロイド紙である環球時報が20日に報じたところによると、貴州省および隣接する広西チワン族自治区では、少なくとも10校がこの技術を導入しているという。

また同紙は、児童・生徒が許可なしに学校から出た場合、自動で音声アラームが作動するとし、さらには学校のドアに設置された顔認識装置と連動し、児童・生徒同士で制服を交換した場合も感知できる仕組みになっていると説明している。
 
貴州省にある別の学校の校長は同紙に対し、「放課後の児童・生徒の居場所を確認するのではなく、いなくなっていたり、さぼっていたりする場合、スマート制服は居場所の把握に役立つ」と述べた。
 
ただ、この校長によると、ハイテク制服によって出席率は上がったものの「大幅に」とはいかないという。また制服導入の主な理由は、チップと連携するアプリを使って児童・生徒に連絡や宿題を送信するためだと説明している。 【12月22日 AFP】
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****北京市民を監視、点数化の新制度 移動やネット行動、処罰も****
中国・北京市が2020年末までに、交通などで市民が取った行動を数値で評価し、高ければ高いほど便利に行政サービスを受けられる「個人信用スコア」制度を導入する。

市民の順法意識を高める目的とされるが、政府などによる「監視社会」がいっそう強化されることにもなる。
 
北京市では、全市民を対象に公共サービスや移動、起業、求職活動などで評価がされ、ルールを守れば便利なサービスを提供するとして、具体的な内容を詰めている。
 
一方でブラックリストに載った人は記録が公開され、「一歩も歩けなくなる」(北京市)ほど厳しい処罰があるとしている。北京市は「より公平で透明で、予測可能な市場環境をつくるため」と説明する。
 
中国政府は14年、「わが国は法を守る意識が希薄だ」として、20年までに全国で信用スコア制度を整える計画を発表した。たとえば、インターネットでネット詐欺やデマの書き込みをすれば、ブラックリストに載ってネット上の行動を制限されたり禁止されたりする。
 
北京市の新制度もこの一環。ほかにも浙江省杭州市で同様の計画があり、信用評価が高ければ、家を借りるときや図書カードを作るときに保証金を免除されるといった特典を受けられる。江蘇省蘇州市や福建省アモイ市なども同様の計画を発表している。
 
中国政府は今年7月、新車のフロントガラスに電子タグをつけることを求める制度を始めた。道路に設置された読み取り機で、車がどこを通行したか分かる仕組みだ。
 
中国政府は「渋滞や公害を抑えるため」と説明しているが、交通違反の取り締まりや犯罪捜査にも使われるとみられる。【12月23日 朝日】
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****中国スマホアプリの大部分に「個人情報を過剰に収集」する機能****
中国消費者協会は11月28日、スマートフォン用アプリ100種を検査したところ、多くの製品が個人情報を「過剰に収集」している疑いがあると分かったと発表した。

同発表は当初、さほど注目されていなかったが、香港で発行される英字紙のサウスチャイナ・モーニング・ポストが取り上げ、続いて中国メディアが取り上げるなどで12月3日現在、関心を集めつつある。

中国消費者協会は、ボランティア・スタッフの協力を得て、8月から10月の期間中に、SNS、動画関連、ショッピング、決済、ナビゲーション、金融、旅行、ニュース、メール、画像関連の10ジャンルのアプリケーション100種を、米アップルが運営するApp Storeと、アンドロイド用アプリを扱う安卓市場(HiMarket)を利用してダウンロードしてもらった。それぞれのアプリを利用してもらった後に、各アプリの個人情報に関連する「挙動」を調べた。

中国消費者協会によると、10ジャンルのアプリケーションすべてで、個人情報を過剰に収集している疑いが持たれた。アプリ59種に位置情報を、28種では通信記録情報を、23種では身分情報を、22種では電話番号を不必要に収集している疑いがある。

また、大手企業が提供しスマートフォン所有者ならたいていの人が利用している「消費者常用アプリ」には問題が少なく、中小企業が提供するアプリには問題が多い傾向も顕著だった。(中略)

中国消費者協会によると、アプリ47種では利用に際しての約款に不備があり、うち34種では個人情報の扱いについての表示がなかった。

中国消費者協会は、個人情報保護のために、新しい立法措置が必要と提言。また、社会全体に個人情報保護の意識が必要と主張した。【12月4日 レコードチャイナ】
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最後の記事は、中国消費者協会による調査結果であり、中国国内にあっても一定に問題意識が持たれてはいるようです。

【「中国監視社会」の誤解・誇張の指摘も】
なお、中国の「監視社会」化に関する誤解・誇張や実態については、以下のような指摘も。

****中国の“監視社会化”は本当にコワいのか? 中国人の意識の低さをナメてはいけない****
激動の中国IT事情。「スゴい」と称賛される裏側の実態を、『 八九六四 』『 さいはての中国 』などの著書がある安田峰俊、『 中国のインターネット史 』著者の山谷剛史という、中国ライター2人組が引き続き語り尽くす。(中略)

「中国では借金を踏み倒すと飛行機に乗れない」はウソ
山谷 該当の記事(「上海で異変、日本人がどんどん逃げ出している! 」【JBPress】)は、政府のビッグデータである「社会信用システム」と、民間企業のビッグデータの「信用スコア」を混同していることで、実態以上に監視社会化への懸念を指摘する内容になってしまっているんです。

安田 (中略)信用スコアというのは、アリババ系列のセサミクレジットが提供している「芝麻信用」のような、民間企業が持つ利用者情報です。これと「社会信用システム」は別のものですよね。

山谷 はい。「社会信用システム」というのは、中国当局の価値観でいう「ダメな人」の社会生活を制限する公的なシステムです。つまり、借りたお金を返さない人に罰則処分を与えたり、政府として電車や飛行機の利用が好ましくないとみなした人にそれらを利用させない、といった処理をおこなうためのデータベースと、その運用システムのことなんです。

安田 これは当局に批判的な人権活動家などの社会生活を妨害するために使われる可能性もありますし、人権の観点からもかなり問題があります。ただ、このブラックリストに入るには、(中国の基準における)相当な「ダメな人」にならないと難しいでしょう。

山谷 そういうことです。いっぽうで「信用スコア」は、クレジットカードを通じた立て替え払いがあまり普及していない中国で、その代替として広がったアリペイなどのオンライン決済マネーを支える信販機能のデータのことです。大まかに言えば、「お金を立て替えたりモノを貸したりしても大丈夫な人か?」をジャッジするためのデータです。
 
もちろん借金を踏み倒したりすれば、当局の「社会信用システム」のデータも、民間の「信用スコア」も低下します。それに、いつかは社会信用システムと民間の信用スコアが相互につながることがあるかもしれません。しかし少なくとも現時点では、それぞれのデータ内容は影響し合っていません。

アリペイよりも「Suica」の方が便利?
山谷 中国IT関連の微妙な言説といえば「中国の都市部のキャッシュレス率は98.3%」というものもあります。でも、常識で考えてそんなわけがない。

安田 QRコードを使ったキャッシュレスの普及は事実ですが、体感として98.3%は多すぎますね。なんでこんな数字が?(中略)

山谷 ちなみにオフィシャルな数字では普及率は約43%となっています。(中略)

中国の監視社会化、どのくらい恐い?
安田 中国サイバー社会の闇として語られることが多いのは、現地の監視社会化です。世界最多の監視カメラが国内に設置され、大都市では顔認証機能やAIも活用した個人の特定や追跡も可能になっている。中国で悪いことはできない、と言われます。

山谷 ですね。確かにどの程度までかわからないけど導入されている。ただ、「危なさ」の実態を把握することも大事です。例えば昨年から話題の無人コンビニですが、社員に聞いたところ監視カメラは犯罪抑止にしかなっていないと言うんですよ。犯人逮捕を目指すとすごくコストがかかるので、実態としては簡易システムにとどまっているとか。

安田 街角に大量にある監視カメラは不気味です。しかし、中国ってメリハリの大きい国なので、監視システムが本気でマークしているのは体制の脅威になる人たちに限られているような感じはあります。例えば、ウイグル人をはじめとした少数民族や、民主化運動・人権関連運動の関係者の行動ですね。
 
あとは、外国人のジャーナリストや企業の上層部の人の行動。(中略)

でも、政治的な側面を持たない一般庶民は、体制の脅威にならないから放置に近いんじゃないかなあ。(中略)

「現場の人が中国人」という現実
安田 特定の人間を追跡するパターンはともかく、怪しい人を「人力でふるいにかける」薄く広い仕事は、実際はかなり適当にしかやっていないと思う。「中国は人間が多い(だからきっちりと調べるのはめんどくさい)」みたいな、毎度おなじみの理由で現場が動いていそうな……。

山谷 中国人、真面目にやるときとやらないときの差がものすごいですし、監視業務をそこまで真剣にやるとは思えないですよ。地下鉄の手荷物検査も、一応はあるけれど現場の人はめちゃくちゃ雑ですしね。

安田 「現場の人が中国人」という事実が、中国の監視社会化に一定の歯止めを与えているような気がします。仮に現場の人が日本人なら、常に本気でチェックするし、仕事と給料が釣り合わなくても真面目に働くので、国民の行動を一人残さず監視する恐怖のディストピア社会が出来上がりかねないんですが(笑)。

山谷 うん。中国でなにかが広範に運用されるときの、現場の人の仕事ぶりの標準化されてなさとか、意識の低さをナメちゃいけないですよね。【11月26日 文春オンライン】
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面白い指摘ではありますが、“一般庶民は、体制の脅威にならないから放置に近い”とか“意識の低さをナメちゃいけない”とか言っていると、そのうち痛い目にあうことも・・・・。権力が気にかける人々への監視は、社会全体の行き先を規定することにもなります。

【「監視社会」進行において、中国と日本・欧米の間には明確な線はない】
いろいろあるにしても、中国においてAIとビッグデータを駆使したサービス、および、そうした情報の公共利用が急速に進行しているのは事実で、中国における個人情報・プライバシーに対する配慮の欠如から、その行くつく先はディストピア「監視社会」なのか?

ただ、特異的な中国が日本や欧米とは異質なルートでおぞましい「監視社会」のディストピアに向かっているというのも、単純化に過ぎるでしょう。

これから起こる社会現象においては、中国と日本・欧米の間には明確な線はないとの指摘も。

****中国の「監視社会化」を考える(1)──市民社会とテクノロジー****
監視社会化が進む中国?
近年の中国社会における急速なITの普及、生活インフラのインターネット化は、膨大な個人情報の蓄積とそれを利用したアーキテクチャによる社会統治という新たな「管理社会」「監視社会」の到来という状況をもたらしています。

一方では町中に監視カメラが設置され、交通違反をした市民が大スクリーンで顔写真付きでさらされるなど、比較的原始的な「見せしめ」が行われている。

そうかと思うと、地方政府などが行政機関を通じて入手した市民の個人情報を統合して市民の「格付け」を行う社会信用システム、あるいはアリババ傘下の企業が提供するセサミクレジット(芝麻信用)に代表される、日常行動によって個人の支払い能力などの「信用度」を点数付けし、新たなビジネスにつなげようとする社会信用スコアなど、AIとビッグデータを駆使したサービスが急速に広がった結果、中国社会が「お行儀よく」なった、という指摘もよく聞かれるようになっています。(中略)

ビジネス誌でも相次いでこう言ったテーマでの特集を組んでいますが、いずれも中国の事例がネガティブなトーンで紹介されています。

一方で、いわゆる現代の「監視社会」をめぐっては、これまでも欧米や日本などの事例を中心に、膨大な議論の蓄積があります。

その中には、比較的単純な、「監視社会」をジョージ・オーウェルの『1984』で描かれたように人々の自由な活動や言論を脅かすディストピアと同一視し、警鐘をならすようなものもありますが、そういった議論はむしろ下火になってきています。

それに代わって、近年の議論はテクノロジーの進展による「監視社会」化の進行は止めようのない動きであることを認めたうえで、大企業や政府によるビッグデータの管理あるいは「監視」のあり方を市民(社会)がどのようにチェックするのか、というところに議論の焦点が移りつつあります。

もちろん、習近平への権力集中が強化される現代中国において、そのような「市民による政府の「監視」の監視」というメカニズムは望むべくもありません。

それでは、中国のような権威主義的な国家における「監視社会」化の進行は、欧米や日本におけるそれとは全く異質な、おぞましいディストピアの到来なのでしょうか。

しかし、「監視社会」が現代社会において人々に受け入れられてきた背景が利便性・安全性と個人のプライバシー(人権)とのトレードオフにおいて、前者をより優先させる、功利主義的な姿勢にあるとしたら、中国におけるその受容と「西側先進諸国」におけるそれとの間に、明確に線を引くことはできませんし、そのように中国を「他者化」することが問題解決につながるとも思えません。(後略)【12月5日 梶谷懐氏(神戸大学大学院経済学研究科教授で中国経済論が専門) ニューズウィーク日本版】
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上記の話は、アジア・中国における「市民社会」、「公」と「私」の関係という根本的な問題に入っていきますが、関心のある方は原文にあたってください。

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今年の漢字・単語から見る世相 中国は「奮」 台湾は「翻」 アメリカは「正義」

2018-12-22 22:57:36 | 世相

(訪英中のトランプ米大統領に抗議するロンドンっ子たち【12月18日 Newsweek】)

【中国は「奮」 国民がよりよい生活に向け奮闘した?】
例年選定されている「今年の漢字」は「災」でした。
まあ、確かに地震・台風・豪雨と、いろんな災害が続きましたので。気候変動の関係で、こうした災害が“例年のこと”にならなければいいのですが・・・・。

ところで、こうした「今年の漢字」というのは日本だけでなく、中国や台湾などでもやっているようで、中国の「今年の漢字」は「奮」だそうです。

「元々この字は鳥が田を羽ばたく意味で、国民がよりよい生活に向け奮闘した」(中国メディア)【12月22日 毎日】からだとのこと。

****中国の今年の漢字は「奮」、その訳は?****
「2018年今年の漢字・流行語(漢語盤点2018)」の発表セレモニーが21日、人民日報社ニューメディアビルで開催された。

中国国家語言資源モニタリング・研究センターや商務印書館、人民網、騰訊(テンセント)などが共同で主催する「2018年今年の漢字・流行語(漢語盤点2018)」の発表セレモニーが21日、人民日報社ニューメディアビルで開催された。

今年の漢字には「奮」、今年のワードには「改革開放四十年」が選ばれた。世界の今年の漢字には「退」が、世界の今年のワードには「貿易摩擦」が選ばれた。人民網が伝えた。

北京師範大学の于丹(ユー・ダン)教授は中国の今年の漢字について、「『奮』のもともとの意味は『田野を鳥が羽ばたく』。つまり、鳥が羽ばたいて大空を飛ぶ様子を表しているのが『奮』の字。2018年の中国人はまさにそんな『奮』の状態だった」と説明した。(後略)【12月22日 レコードチャイナ】
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中国が急速な経済成長をしており、“国民がよりよい生活に向け奮闘”しているのは、別に今年に限った話でもなく、上記説明だけでは今一つピンとこないものもあります。”奮闘“に何か特別の意味合い・思いがあるのでしょうか?

「奮」という字は「勇気を奮い起こして戦う」という意味合いがあり、市民社会の実相というよりは、習近平国家主席が2018年の新年のメッセージで「闘争」という言葉を挙げていたことと連動する政治的メッセージではないでしょうか。

一方、世界の今年の漢字「退」、世界の今年のワード「貿易摩擦」はよくわかります。

“「退」には、米国のイラン核合意からの離脱や、英国の欧州連合(EU)離脱を進める動きがあり、各国が自国の利益を求める実情が反映された。”【12月22日 毎日】

【昨年は“シェア”を意味する「享」】
ちなみに、昨年(2017年)は、国内の漢字・ワードには「享」と「初心」、国際的出来事に関しては「智」と「人類命運共同体」が選ばれています。

「享」について主催者側は「『共享単車(シェアリング自転車)』の普及や『共享経済(シェアリングエコノミー)』の発展が国民に恩恵をもたらした」と説明しており、納得です。

もっとも、その“中国新四大発明”とも言われた「共享単車」をリードしてきた大手事業主体「ofo」は、破産報道が流れるなど、現在苦境にあるようです。

****中国シェア自転車ofo、保証金返還待ちは1000万人突破、3年以上待ち?****
2018年12月19日、中国のシェア自転車大手「ofo」に大勢の人が保証金の返還を求めている問題で、北京商報は「返金待ちしている人が1000万人を突破した。あと3.6年待たなければ…」との記事を掲載した。これに中国のネットユーザーがさまざまなコメントを寄せている。(後略)【12月20日 レコードチャイナ】
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放置自転車問題や競争の激化で、業界は下り坂にあるようですが、「赤字を垂れ流しながらライバルを潰し合い、最後に残った1社ないし2社が市場を独占した後に利益モデルを構築していく」という中国スタートアップのビジネスパターンのなかで、「ofo」が弾き出されたということもあるようです。

昨年の国際面でのワードに「人類命運共同体」(日本語の「運命」は、中国語では「命運」)が選ばれたというのは、「本気だろうか・・・」という感も。13億中国国民がそのように思っていてくれるなら、心強いことですが。

【台湾はひっくり返るを意味する「翻」 マレーシアは「変」 ともに政治変化から】
一方、台湾の「今年の漢字」は、ひっくり返るを意味する「翻(ファン)」だったそうです。

****「翻」からの再起は @台北****
台湾でも年末は世相を映す「今年の漢字」が選ばれる。先日発表された「翻(ファン)」は「ひっくり返る」を意味する。

理由は11月の統一地方選だ。与党民進党の現職首長が次々と落選し、野党国民党が大勝利。野党候補の選挙集会では「翻転(ひっくり返せ)」のかけ声が響き渡った。

なぜ民進党はつまずいたのか。蔡英文(ツァイインウェン)政権が進めた年金改革などの不人気が指摘されるが、蔡氏の持ち味である慎重さも原因だと私は思う。

「謙虚に、謙虚に、更に謙虚に」。蔡氏は当選直後、こう語っていた。同党が初めて政権を担った陳水扁(チェンショイピエン)時代に対中関係悪化や腐敗など混乱を招いた反省からだ。

就任すると、賛否が割れる政策は先送りが目立つようになった。演説は前方のプロンプターに映された原稿を読み上げるばかり。長所である思慮深さが、逆に「指導力不足」と受け止められた。

「変わらなければならないのは私だ」。地方選大敗を受けて蔡氏は宣言し、プロンプター無しの記者会見で考えを発信し始めた。翻は「翻身」と書くと「立ち上がる」の意味になる。蔡氏は来年、再起できるだろうか。【12月20日 朝日】
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ちなみに、華人が多く暮らすマレーシアの「今年の漢字」は「変」、マハティール首相の復権による変化を示すものでしょう。

【アメリカの「今年の単語」は「正義(justice)」 トランプ時代にこそ模索されている言葉】
アメリカは漢字とは縁がありませんので「今年の漢字」はありませんが、似たようなものとして「今年の単語」があります。

今年は「正義(justice)」・・・・トランプ時代の社会混乱を示しているようです。

****何が「正義」か見えなくなった2018年のアメリカ****
辞書出版大手メリアム・ウェブスターは、今年の単語として「正義(justice)」を選出した。

これは2018年が、ロシアの米大統領選関与疑惑をめぐるロバート・モラー特別検察官の捜査や、「#MeToo」事件の告発など、事実解明が注目を浴び続けたことを受けたものだ。

ウェブスターは声明で、この単語を選んだ理由について以下のように説明している。「人種的正義、社会的正義、経済的正義、刑事司法上の正義──正義は、ここ1年間に全米で交わされた多くの議論の中心だった。」

同社によれば「正義」は、「Merriam-Webster.com」で年間を通して最も検索された単語のひとつで、検索回数は2017年と比べて74%も急増したという。

メリアム・ウェブスターは「正義」に関連した話題の出来事を例として挙げている。その一つが、ロシアが2016年の米大統領選挙に干渉したのではないかという「ロシア疑惑」とその捜査だ。

モラー特別検察官が任命されて19カ月、これまでにトランプの元アドバイザー5人を含む33人が起訴されたが、疑惑解明には程遠い。。

12月12日には、ニューヨーク連邦地裁がドナルド・トランプ米大統領の元顧問弁護士マイケル・コーエンに3年間の実刑判決を下した。罪状には、2016年の大統領選前にトランプの不倫を隠ぺいすべく口止め料を支払ったことも含まれている。

判決を受けた際にコーエンは、トランプの「汚い行為」を隠ぺいすることに同意したのはトランプへの「忠誠心」からだったと述べた。トランプは、かつて右腕だったコーエンを「ラット」と呼んで非難した。

いったい正義とは何なのか、問いたくなる出来事が多かったのが今年の特徴だという。

性的暴行疑惑もうやむやに

メリアム・ウェブスターはさらに、米連邦最高裁判所判事の指名候補者ブレット・カバノーが、上院指名承認公聴会で過去について深く詮索された点にも触れている。

カバノーはトランプにとって2人目の指名候補者だったが、性的暴行疑惑で全米を巻き込む議論に火をつけた。

少なくとも3人の女性が、カバノーからセクハラと性的暴行を受けたと告発し、カバノーの指名承認手続きは難航した。告発者の1人であるクリスティーン・ブレイジー・フォードが証言をした公聴会はテレビ中継され、連邦捜査局(FBI)が調査に乗り出した。しかしカバノーはその後、賛成50反対48と僅差ながら指名承認を得てしまった。

メリアム・ウェブスターの編集者ピーター・ソコロウスキーはAP通信に対し、これらのニュースは「人種や階級を超えた、全体的な文化や社会に結びつく話」なので、その結果として、「正義」が会話で非常に頻繁に使われる単語になったと述べた。

他の「2018年の言葉」として、オックスフォード・ディクショナリーでは「有毒な(toxic)」、Dictionary.comでは「誤った情報(misinformation)」が選ばれている。【12月18日 Newsweek】
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