孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  国民の4割が「10年以内の内戦ありうる」と考える不穏な分断社会

2022-10-31 22:56:28 | アメリカ
(『侍女の物語』のコスチューム姿で最高裁に抗議する女性【7月2日 Newsweek】)

【キリスト教原理主義勢力によって誕生した白人至上主義・女性の権利否定の宗教国家「ギレアデ共和国」】
ギレアデ共和国・・・・「そんな国があったかな?」と思われた方、正解です。
カナダの作家マーガレット・アトウッドのディストピア小説「侍女の物語」に登場する、アメリカの近未来とされる架空の世界です。

ドラマ化もされて動画配信されていますので、ご覧になった方も多いかも。
私も原作は読んだことはありませんが、ドラマの方は入口部分だけ少し。

****「侍女の物語」作品世界****
舞台であるギレアデ共和国は、近未来のアメリカにキリスト教原理主義勢力によって誕生した宗教国家である。

有色人種、ユダヤ人を迫害し他の宗派も認めない。内戦状態にあり国民は制服の着用を義務づけられ監視され逆らえば即座に処刑、あるいは汚染地帯にある収容所送りが待ちうけている。

生活環境汚染、原発事故、遺伝子実験などの影響で出生率が低下し、数少ない健康な女性はただ子供を産むための道具として、支配者層である司令官たちに仕える「侍女」となるように決められている。【ウィキペディア】
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特に、(支配階級以外の)女性の権利が剥奪され、性的に搾取され、支配階層の子孫を生むためだけの存在に貶められるところが、作品の核心になります。

そのため、先般の米最高裁の中絶に関する従来の考えを覆す、女性の出産・中絶に関する選択を否定するような判断が示されたときは、上記「侍女の物語」のドラマで“子供を産むための道具”「侍女」達が着用を強要された赤い制服姿で抗議する市民の姿がありました。

(最初の1,2話しか観ていませんが)ドラマは、私的には、エンタテインメントとしてはやや盛り上がりにかけるような感じあって、観るのをやめました。
それに、「自由の国」アメリカで内戦が起き、自由・人権が全く認められない、全体主義的な、徹底した階級社会が出現するという想定にいまひとつ乗れない感じもあって・・・

【「分断社会」で広がる“敵対勢力”への暴力】
しかし今、「分断社会」アメリカでは、“内戦の危機”がまったく荒唐無稽でもないような、特定の価値観を絶対視して、背くものは徹底的に排除する、場合によっては暴力を使ってでも・・・そういう社会の到来がまったくの荒唐無稽でもないような・・・そんな雰囲気が漂い始めています。

周知のように、トランプ前大統領支持勢力による議会襲撃の案件もまだ尾を引く状況で、今度はペロシ下院議長の自宅が襲われる事件が。

****米下院議長の夫、自宅で襲われ負傷 侵入者「ナンシーはどこだ」****
ナンシー・ペロシ米下院議長の夫ポール氏が28日未明、カルフォルニア州サンフランシスコの自宅に侵入した男にハンマーで襲われ負傷し、病院に搬送された。警察が発表した。

ペロシ氏は当時、首都ワシントンに滞在していた。警察は、男の動機については調査中だと説明。一方で米メディアは、男が「ナンシーはどこだ」と叫んでいたと伝えており、政治的な動機があった可能性がある。

警察の発表によると、警察官が午前2時半(日本時間午後6時半)ごろ現場に到着した際、ポール氏と男は同じハンマーを手にして取っ組み合いとなっていた。男はハンマーを奪い、ポール氏に暴行を加えたという。

男は身柄を拘束され、デービッド・デパピ容疑者と特定された。殺人未遂や不法侵入などの罪で訴追される見通し。

ペロシ氏の報道官によると、ポール氏は搬送先の病院で「素晴らしい治療を受けており、完全に回復する見込み」という。

米紙ウォールストリート・ジャーナルは匿名の警察官の話として、容疑者はソーシャルメディア上に新型コロナウイルスをめぐる陰謀論などの極右過激思想を投稿していたと伝えている。

ジョー・バイデン大統領はカリーヌ・ジャンピエール大統領報道官を通じ出した声明で、「あらゆる暴力を非難する」と表明した。

米国は2週間後に中間選挙を控えており、民主・共和両党が政治的動機に基づいた暴力事件が起きる恐れに警鐘を鳴らしていた。議会警察によると、議員に対する脅迫は2017年以降、2倍以上に増加している。 【10月29日 AFP】**********************

****トランプ・カルトが今度はペロシ下院議長宅を襲撃****
(中略)
トランプ追及の急先鋒、ペロシ氏を標的に
ペロシ邸を襲ったのは、サンフランシスコ近郊の大学町バークレー在住のデービッド・デパピ容疑者(42)。
カナダ・ブリティッシュコロンビア州で生まれ、20歳の時にカリフォルニア州に移住、当初は女性用ブレスレットの販売をしていた。

サンフランシスコといい、バークレーといい、リベラル派の牙城。
容疑者はそうした生活環境の中でSNSを通じて極右団体、QAnonの主張に共鳴、2020年大統領選の結果を全面否定する「陰謀論者」になっていったという。

CNN取材班によれば、デパピ容疑者は黒人やユダヤ人を忌み嫌い、米議会襲撃事件特別委員会設置に真っ向から反対(同委員会設置や委員人選はペロシ氏のリーダーシップによるところ大)。

2020年に黒人のジョージ・フロイドさんを射殺した警官を有罪にした裁判を「現代のリンチだ」と反駁する意見をフェイスブックに投稿していた。(中略)

不気味なトランプ氏、連鎖反応に危機感
すでに触れたが、今回の事件、言ってみればペロシ襲撃未遂事件の背景には、トランプ氏の影がちらつく。
トランプご本人はその意図はないだろうが、容疑者はサイバー空間の中ですっかり「トランプ・カルト」の一員になってしまっているからだ。

事件発生の10月28日、トランプ氏は自前のソーシャル・メディア・プラットフォーム「Truth Social」で、襲い掛かる法的難題(特別委員会の召喚)を取り上げ、連邦裁の判事を罵り、30日に決選投票で決まるブラジル大統領選では保守派のジャイール・メシアス・ボルソナロ候補(現職)にエールを送ったものの、ペロシ邸侵入・傷害事件には一切触れなかった。その点についてコメントを求めたメディアにも何ら回答していない。(後略)【10月31日 高濱 賛氏 JBpress】
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【ささやかれる「内戦」の可能性】
バイデン大統領は今回のペロシ氏自宅襲撃に関して「政治をめぐる暴力や憎しみがあまりに多すぎる」「もうたくさんだ」「政治的思想にかかわらず、暴力に対して立ち上がるべきだ」とも。しかし「分断社会」では内戦の可能性を一笑に付すことができないような社会的雰囲気が醸成されつつあります。

****世論調査で米国民の4割 「10年以内の内戦ありうる」****
米国では、「The Civil War(内戦)」と言えば、1861年から65年の南北戦争を意味する。それから150年余りを経て、米国ではいま、「第2次内戦」の可能性がささやかれている。

直接の契機は、昨年1月6日に起きた、連邦議会襲撃事件だ。これは、大統領選挙で敗れたトランプ大統領(当時)の「大規模な不正があった」という根拠のない主張に呼応した支持者たちが、議事堂になだれ込んだものだ。

立法府という民主主義の中枢が自国民によって襲撃されたこの事件は、米国民に大きな衝撃を与えた。

その後、世界各地の内戦を分析して、米国で内戦が起きる可能性に警鐘を鳴らした、カリフォルニア大学サンディエゴ校の政治学者バーバラ・ウォルター氏の著書『How Civil Wars Start(内戦はどう始まるか)』が大きな反響を呼ぶなど、米国社会では「第2次内戦」の恐れが、荒唐無稽な話ではなく語られるようになっている。

11月8日の中間選挙投開票日を前に、民主、共和両党の争いが激しくなるなかで、「内戦」という言葉がネット上で急増した出来事があった。

連邦捜査局(FBI)が8月、スパイ防止法違反などの容疑で、フロリダ州のトランプ氏の私邸マール・ア・ラーゴを家宅捜索し、トランプ氏が退任時に持ち去った機密文書を押収した。これに対してトランプ氏や支持者が強く反発し、支持者の間で人気があるGab、Telegram、Truth SocialといったSNSでは、「弾を込めろ」「内戦」といった言葉が急増したという。武装した男がオハイオ州のFBI事務所に侵入しようとし、射殺される事件も起きた。

調査会社ユーガブが8月下旬に実施した世論調査では、10年以内に米国で内戦が起きる可能性について「非常にあり得る」が14%、「いくらかはあり得る」が29%で、合計43%に達した。特に、「強固な共和党支持」と答えた人の中では、「内戦はあり得る」という答えは54%にのぼった。【10月30日】
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****アメリカが直面する内戦の危機と中絶問題──武装化したQAnonやプラウドボーイズ****
<カリフォルニア大学のグループが行った調査で、半数以上が数年以内にアメリカで内戦が起きると回答した......>

日本ではほとんど報道されることはないが、アメリカでは多くの国民が内戦を現実起こり得る脅威として認識している。カリフォルニア大学のグループが行ったアメリカ全土を対象にした調査では、半数以上が数年以内にアメリカで内戦が起きると回答したほどである。(中略)

中間選挙に先だって極右などの過激な運動が広がる、反LGBT+運動の増加と暴力化、もっとも最近のレポートでは中絶問題に関係したデモなどに武装化グループが中絶反対派として参加し、暴力化が進んでいることを指摘している。

いずれも極右、陰謀論者、白人至上主義などのグループが引き起こすものだ。最近では中絶問題が拡大し、アサルトライフルなどで武装化したグループが中絶擁護グループを襲撃する事態となっている。

近著の『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)でも紹介したように、アメリカではこうしたグループの勢力拡大と武装化が進んでおり、さまざまな社会問題に顔を出すようになっている。

たとえば、反ワクチン、親ロシア反ウクライナなどの活動にもこれらのグループが参加している。プーチンとトランプを支持していることが多く、先日はトランプ支持者がFBIの支局を襲撃しようとして射殺される事件も起きた。現在のアメリカはいつ暴動が起きてもおかしくない状況なのだ。

政治的暴力のターゲットとなった中絶問題
アメリカ国内で中絶関連のデモは増加傾向にある(中略)銃器での武装も増えている。

たとえば2022年6月28日、アイダホ州議事堂の外で、アサルトライフルで武装したプラウドボーイズなど200人の中絶反対集会と、最高裁判決に反対するデモの参加者の間で戦闘が発生している。また、最高裁判決当日の夜には、極右組織Three Percentersが、ゴルゴ13が愛用していたことで知られるアサルトライフルM16で武装していた。

こうした反主流派のカルトグループの活動と、中絶反対運動の関わりは今回は初めてではなかった。(中略)こうしたグループは、政府が白人を非白人に置き換えようとしている陰謀論「グレート・リプレースメント(great replacement)」を信じており、白人の減少を食い止めるために中絶に反対し、移民にも反対している。白人至上主義者に通じる部分が多い。

こうしたグループの中絶に関わる活動は2022年5月初旬から活発になり、6月に入るとさらに拡大した。インターネット上には、偽情報、それにともなう恐怖の拡散、暴力行為の誘発、不正確な誤った健康情報などが広がった。QAnon、プラウドボーイズ、Janeʼs Revengeなどのグループが影響力を拡大する好機ととらえて積極的にこうした情報の拡散に関与していることがわかっている。(中略)

ここまで読んで、「そんなおおごとになっているのか?」と思った方も少なくないだろう。残念ながらアメリカ各地で放火や暴力事件が発生し、中絶擁護のデモにアサルトライフルで武装した集団が現れ、国土安全保障省が注意を呼びかけ、FBIが乗り出しているのは事実である。それだけ事態が深刻であり、その事態を引き起こしているグループの力が増大しているのだ。

QAnonやプラウドボーイズなどがアメリカ社会に広がっている状況については、以前の記事でも紹介した。共和党の4人に1人がQAnon信者という調査結果もあり、多数の死傷者と逮捕者を出した2021年1月6日の議事堂襲撃事件を共和党が大会で「合法な活動」と決議したことからもわかるように、陰謀論、極右などのグループはアメリカ社会に浸透している。

そして、SNSプラットフォームを利用し、アドネットワークなどから多額の収入を得て、それをリクルーティングや武装化の資金にしている。反中絶グループもまた潤沢な資金を背景にした巨大な組織なのである。

巨大組織としての反中絶グループ
(中略)

断と武装化で火薬庫となったアメリカ
アメリカ社会の分断は深刻だ。貧富の差、人種差別、SNS、そして選挙のたびに各候補者が繰り広げるネット世論操作がそれを加速している。以前の記事で紹介した通りだ。

多くの国がそうであるように、アメリカにも人種問題、経済、中絶といった課題が多数ある。他の国と異なるのは潤沢な資金と武器を持った多数の過激なグループが存在する点だ。

中絶問題は氷山の一角に過ぎない。過激なグループは次々と新しい問題をテーマに暴力的な活動を広げてゆく。

同様の傾向は他の国にもあり、アメリカで火がつけば飛び火する可能性がある。日本でも似たような事態に陥っているので他人事ではない。

アメリカ政府は陰謀論や極右を信奉する一部の国民への影響力を失っている。政府の声はもちろん、民主主義的価値感が影響力を持たない情報空間ができている。

物理的には同じ土地に暮らしながら、異なる文化圏の異なる価値感に基づく人々が独自の勢力圏を構成している。権威主義国ならばこうした勢力圏を強引に破壊できるが、民主主義を標榜する国では難しい。民主主義を標榜する国にとっては国内の分断された情報空間の扱いが大きな課題になっている。【8月19日 一田和樹氏 Newsweek】
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「内戦」と言っても、南北戦争のように統率された軍同士が大規模な戦闘を繰り広げるようなものではなく、思想を共有する民兵組織などの集団が、政府機関や政治指導者に対するテロ攻撃やゲリラ戦を仕掛けるというのが、多くの識者が想定する「内戦」の姿です

前出カリフォルニア大学サンディエゴ校の政治学者バーバラ・ウォルター氏の著書『How Civil Wars Start(内戦はどう始まるか)』が提示する仮想シナリオは以下のようにも

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2028年の大統領選挙でカマラ・ハリス氏が勝利し、初のアフリカ系・アジア系女性大統領の誕生が決まる。

その1週間後、ウィスコンシン州議会の議事堂で下院議長が演説中に、突然大きな爆発が起きる。爆発はミシガン州など複数の州議会議事堂でも同時に起きていた。

数日後、ネット掲示板「8kun」には、「マイノリティーとエリートの極左政治家が国を乗っ取ろうとしている」と訴えて蜂起を呼びかける匿名の文書が投稿される。

各地では右派の民兵組織による攻撃が起こり、対抗する左派の民兵組織もつくられていく。そして国民は、どちらの側につくか選択を迫られるようになる──。
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トランプ大統領が勝利再選した場合でも、そのことへの抗議行動が一部過激化、それに対抗してトランプ支持勢力が攻撃・・・各地に衝突が拡散・・・といった仮想シナリオもありうるかも。

【「内戦」を可能とする「武器」も潤沢に存在】
なんといってもアメリカ民間には「武器」が山ほどあります。それも戦場で使用するようなアサルトライフルが。
常々、「どうしてそんな戦闘用武器まで野放しになっているのか?」と疑問だったのですが、将来起こるかもしれない「内戦」では活躍する武器でしょう。邪推でしょうが。

もともと銃を持つ権利を認める憲法修正第2条は、国家の安全を守る「民兵」の銃所有を認めるものです。
「独立戦争当時ではあるまいし、民兵を想定した規定なんて、21世紀の今時何の意味があるのか?」と思っていましたが、“将来起こるかもしれない「内戦」”を考えると、非常に現実味がある規定です。

“アメリカ社会のあるべき価値観を揺るがす敵”を排除するために武器を持って立ちがる・・・という集団・個人にとっては、憲法修正第2条が想定する世界はまさに「現実」なのでしょう。

そうした思想を広める場となるSNS世界でも、過激思想・陰謀論を助長するような心配な動きが
“ツイッターを買収したイーロン・マスクは陰謀論者?ペロシ夫襲撃について、トンデモ理論を支持”【10月31日】

もちろん、いくら衝突が起こっても、巨大な警察あるいは州兵組織が鎮圧行動にでれば、それ以上は拡大しないでしょうが、逆にそういった組織の幹部が過激思想・陰謀論を共有していれば、衝突を黙認、暗に手助けするといったことも。

かくしてアメリカに「ギレアデ共和国」成立・・・

冒頭「侍女の物語」が描くような人権否定・全体主義・階級社会なんて非現実的だ・・・とも思えますが、“正妻に子どもができない時、跡継ぎを作るために2人目、3人目の妻を迎えることは、特権階級の男性がかつてどの国でも行ってきた。体制に反抗する人々を強制収容所に入れて劣悪な環境で死ぬまで働かせる独裁国家は今も存在する。同性愛を禁じたり死刑にしたりする国は今もある。”【2021年1月16日 治部れんげ氏 VOGUE】という現実を考えれば、アメリカに自由・人権を擁護するこれまでの価値観を否定するような「ギレアデ共和国」が出現する可能性はないとも言えないでしょう。

他愛もない「妄想」ですめば幸いですが。
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イギリス  ロシアにとっては「非友好国」 「ノルドストリーム」も英海軍関係者が爆破と露発表

2022-10-30 23:37:27 | 欧州情勢
(デンマーク沖の海面に浮かぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」から漏れたガスの気泡=9月27日(ロイター=共同)【10月29日 共同】)

【英はロシアの「非友好国」 独仏伊の対ロシア関係】
イギリスはロシアにとって「非友好国」の位置づけにあります。

****ロシア大統領、英首相に祝電送らず 「非友好国」理由に****
ロシア大統領府は26日、英国でリシ・スナク氏が首相に就任したことについて、同国は「非友好国」の一つであり、ウラジーミル・プーチン大統領からの祝意伝達はなかったと明らかにした。

大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は「英国は現在、非友好国に分類されている。よって(祝意を伝える)電報は送られなかった」と述べた。 【10月26日 AFP】
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欧州主要国とロシアとの関係はそれぞれ。

ドイツがエネルギー面でロシアに大きく依存してきたのは周知のところで、ウクライナ戦争を受けてそうしたこれまでの対応が問題となっています。

****なぜドイツはロシアの脅しにこれほど脆弱なのか****
(中略)ドイツの天然ガス輸入の約半分はロシアから来ている。ドイツが脱石炭と脱原子力に同時に乗り出すなか、ロシアへの依存は今後ますます重要になるだろう。ロシアはドイツにとって重要な輸出相手国でもある。また歴史的な理由もあり、ドイツの指導者は長年ロシアとの緊密な関係を望んできた。

徐々にではあるが確実に、ドイツはロシアに対して脆弱(ぜいじゃく)な立場に自らを追い込んでいるのだ。
ドイツの対ロシア関係の複雑さは欧州の近隣国と比べても独特だ。ドイツで初めて社会民主党(SPD)出身の首相となったビリー・ブラントは1969年以降、ソ連との緊張緩和を推進した。

ブラントの掲げた「オストポリティック」(東方政策)――西ドイツと東欧の間の関係正常化――は、戦後欧州の国境を承認した75年のヘルシンキ最終合意に至る道を開いた。

これは東欧の衛星国を支援しようと躍起になっていたソ連の指導者にとって重要な目標だった。一方で、ソ連帝国内の反体制派や市民権活動家にとっても、自由主義的な改革に向けたマニフェストになった。

だが、昨年12月に米国と北大西洋条約機構(NATO)に欧州安全保障秩序の全面的見直しを要求したことで明らかになったように、2022年のロシアは政治体制の強化や資金を求めていた冷戦時代後期のソ連とは全く異質な存在だ。1990年代のロシアは欧米政治に合流する構えを見せていたが、プーチン政権下のロシアはこれにも関心がない。(中略)

ドイツ政権は00年以降、ロシアと個人的にもビジネス上も密接な関係にあったSPDのシュレーダー元首相、続けてキリスト教民主同盟(CDU)のメルケル前首相の下、相互利益や繁栄、安定のためにロシアとの関係深化を図った。

一方、プーチン氏はこうした相互依存関係につけ込もうと弱点を割り出し、それを悪化させてきた。(後略)【2月3日 CNN】
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フランスは経済関係ではドイツ程ロシア依存は大きくないものの、マクロン大統領は事あるごとにプーチン大統領との関係を重視する姿勢も見せており、そのことはウクライナの強い反発を招いたこともあります。

****仏大統領の「ロシアに屈辱を与えてはならない」発言にウクライナ反発 東部では修道院燃える****
ロシアによるウクライナの軍事侵攻について、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は4日掲載の新聞インビューで「ロシアに屈辱を与えない」ことが大事だと呼びかけ、ウクライナのドミトロ・クレバ外相は同日、そのようなことを言う国にこそ「屈辱」がもたらされると、批判的なツイートをした。

複数のフランス地方紙が4日に伝えたインタビューで、マクロン大統領は「戦いが止まった日には外交を通じて出口が築けるよう、私たちはロシアに屈辱を与えてはならない」、「仲介者になるのがフランスの役割だと確信している」と話した。さらに、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が自らの「根本的な間違い」から抜け出す道筋を残すのが、何より大事だと述べた。

「自ら孤立するのはともかく、そこから抜けだすのは難しい」とも述べた。
マクロン大統領は開戦以降、西側首脳としては最も頻繁にプーチン大統領と対面や電話で直接対話を繰り返している。(中略)

さらに5月初めにも、ロシアとウクライナの停戦を呼びかけ、西側諸国は「(ロシアに)屈辱を与えたいという誘惑や、報復したいという気持ちに屈してはならない」と強調していた。(後略)【6月5日 BBC】
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イタリアでは22日、9月の総選挙で勝利した強硬右派(極右との指摘も)「イタリアの同胞」のジョルジャ・メローニ党首を首相とする内閣が就任宣誓を行い、右派連立政権が発足しましたが、連立を組む「フォルツァ・イタリア」を率いるベルルスコーニ元首相は自らの誕生日にロシアのプーチン大統領からウォッカを20本贈られたと明かすような、プーチン大統領の「お友達」。

右派「同盟」を率いるサルビーニ前内相もエネルギー価格の高騰を背景に対ロ制裁への不満を公然と口にしており、以前はプーチン大統領の顔写真をプリントしたTシャツ姿であらわれたことも。

メローニ新首相自身は「親北大西洋条約機構(NATO)で完全な欧州の一員」になると明言していますが、他国からロシアとの関係について疑念の目で見られるような状況にあります。

****イタリアの新首相がウクライナ支援明言****
イタリアのメローニ新首相は25日の所信表明演説で、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの支援を継続すると明言し「プーチン大統領の脅迫に屈することは問題解決につながらない」と述べた。【10月25日 共同】
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【英国内で、ロシア関与が疑われるロシア関係者暗殺も】
上記のような独・仏・伊の対ロシア関係からすると、英ロ関係の溝は際立っているように見えます。

これまでも、イギリス国内でロシア関係者が何者かによって殺害される事件が相次ぎ、ロシア当局の関与が疑われるなかで英ロ関係を悪化させてきました。

****リトビネンコ氏暗殺事件、ロシアが関与=欧州人権裁判所****
欧州人権裁判所は21日、ロシア連邦保安局(FSB)の元スパイで、プーチン政権を批判していたアレクサンドル・リトビネンコ氏が2006年にロンドンで毒殺された事件について、ロシアが関与したとの判断を示した。

同氏はロンドンのホテルで緑茶を飲んだ数週間後に43歳で死亡。体内からは放射性物質「ポロニウム210」が検出された。

英政府はロシアが毒殺に関与したと非難。ロシアは関与を否定し、両国関係が悪化していた。

英政府は2016年、プーチン大統領が同氏の暗殺を承認した可能性が高いとの報告書を作成。FSBの前身であるソ連国家保安委員会(KGB)の元職員アンドレイ・ルゴボイ氏と、別のロシア人、ドミトリー・コフトン氏が、おそらくFSBの指示で暗殺を実行したとの見解を示した。両氏は関与を否定している。

欧州人権裁判所は「リトビネンコ氏暗殺事件の責任はロシアにあることが判明した」と表明。「珍しい毒薬の調達、2人の移動の手配、繰り返された毒殺未遂といった計画的で複雑な作戦は、リトビネンコ氏が作戦の標的だったことを示している」として、英政府の見解を支持した。【9月21日 ロイター】
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****【元ロシア・スパイ】毒殺未遂事件の容疑者を公表 英政府****
今年(2018年)3月に英南部ソールズベリーでロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏(66)と娘のユリアさん(33)が有毒の神経剤「ノビチョク」による毒殺未遂に遭った事件をめぐり、英当局は5日、殺人未遂容疑でロシア人の男2人の名前を公表した。

テリーザ・メイ英首相によると、容疑者らはアレクサンデル・ペトロフとルスラン・ボシロフという名前を使っており、共にロシア軍情報機関の職員と考えられている。

ロンドン警視庁と検察庁は、2人を訴追するのに十分な証拠がそろったとしている。

スクリパリ氏とユリアさんは3月4日、ソールズベリーにあるショッピングセンターの外のベンチで倒れているところを発見された。2人を真っ先に助けようとしたニック・ベイリー刑事巡査部長も被害を受けた。

6月30日には、ソールズベリーから12キロ離れたウィルトシャー・エイムズベリーの住宅でドーン・スタージェスさん(44)とチャーリー・ロウリーさん(45)がやはりノビチョクを浴びて意識不明となった。警察はこの2つの事件を関連付けている。

スタージェスさんは7月8日に亡くなり、ロウリーさんは7月20日に退院している。(後略)【2018年9月6日 BBC】
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【ウクライナ情勢をめぐっても対立する英ロ】
ウクライナ戦争に関しても、イギリスは当初から(ロシアからすれば)非常に攻撃的な積極姿勢でした。
こうしたイギリスの姿勢は冷戦当時からのものとも言えます。

****イギリス ロシア軍事侵攻で機密情報を積極開示 そのねらいは****
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、イギリス政府は、通常は決して公にはしない機密情報を積極的に開示してきました。こうした姿勢は、アメリカ政府も同じで、情報を開示することで、欧米側はロシアの動向を把握していると機先を制するねらいとみられます。

このうちイギリス外務省は、軍事侵攻のおよそ1か月前にあたることし1月下旬の段階で独自の情報に基づく分析として、「ロシアが、欧米寄りのゼレンスキー政権を転覆させ、親ロシア派による政権の樹立を目指す動きがある」と発表しました。

ゼレンスキー大統領に代わる新しい指導者として元首相や元議員などの名前まで具体的に挙げ、ロシアの情報機関と接触しているなどと指摘しました。

また、イギリスの対外情報機関、MI6のムーア長官は、軍事侵攻が始まった2月24日ツイッターに投稿し、イギリスは、プーチン大統領によるウクライナへの侵攻計画のほか、ウクライナ側から攻撃を受けたかのような情報をねつ造する「偽旗作戦」についてもアメリカと協力して、明らかにしてきたと強調しました。

ムーア長官は、ウクライナの首都キーウ近郊のブチャなどで多くの市民の遺体が見つかった今月上旬には「プーチン大統領の計画には軍や情報機関による即時の処刑が含まれていることはわかっていた」と指摘しました。

さらに、情報機関のGCHQ=政府通信本部のフレミング長官も先月講演で「ロシア軍の兵士が命令を拒否したり、みずからの装備を破壊したりと士気が低下している」と述べるなど、各機関が次々に機密情報を公表しています。

また、イギリス国防省は、ツイッターで、連日、戦況分析を公表し、ロシア軍の動きや攻撃のねらいなどについて、分かりやすく伝えています。

イギリスにとって、冷戦時代から、ソビエトは大きな脅威で、MI6は、KGB=国家保安委員会としれつな情報戦を繰り広げてきたとされています。

冷戦終結後も、2006年には、ロシアの元工作員が亡命先のロンドンで死亡し、体内から猛毒の放射性物質、ポロニウムが検出されたほか、2018年には、イギリス南部で別の元工作員と娘が意識不明の状態で見つかっています。

いまもロシアを脅威と捉えるイギリスの情報機関は、モスクワなどに多くの情報工作員を潜り込ませているとみられ、今回の軍事侵攻を巡っても情報収集と分析に力を入れています。(後略)【4月14日 NHK】
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このようなイギリスの対応に不快感を募らせるロシアは、イギリス首脳を「入国禁止」扱いにしています。

****ロシア政府、ジョンソン英首相ら英政府首脳の入国禁止 ウクライナめぐり****
ロシア政府は16日、ボリス・ジョンソン英首相をはじめ英政府首脳がウクライナ情勢をめぐりロシアに対して「敵対的」態度をとり、「反ロシアヒステリーをあおり立てている」と批判し、入国を禁止した。

ロシア政府は、ジョンソン首相のほか、リズ・トラス外相、ベン・ウォレス国防相など閣僚を中心に、計13人のイギリス政府関係者の入国を禁止すると発表した。ウクライナ侵攻開始以降にイギリス政府が発動した対ロ制裁への報復措置だとしている。

ロシア政府は3月、同様の入国禁止措置をアメリカのジョー・バイデン大統領に対しても発表している。

ロシア外務省は声明で、「イギリス政府は、ロシアを国際的に孤立させ、我が国を封じ込める状況を作り出し、ロシアの国内経済を逼迫(ひっぱく)させることを目的に、無軌道な情報戦、政治キャンペーンを展開している」と批判。

「要するにイギリスの指導部はウクライナをめぐる状況を意図的に悪化させ、キエフの政権に殺傷力の高い武器をつぎ込み、北大西洋条約機構(NATO)の一員として同様の取り組みを調整している」とも述べた。(後略)【4月17日 BBC】
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今日も、下記のようなニュースが。

****トラス前首相の私有携帯、外相時の通信情報1年分ハッキング被害か…ロシア関与の疑いも****
英大衆紙メール・オン・サンデー(電子版)は29日、英国のリズ・トラス前首相が外相当時、私有携帯電話を何者かにハッキングされ大量の情報を盗まれたと報じた。

ウクライナへの武器供与に関して外国の外相と交わした議論など機密情報も含まれていたとみられる。ロシアの犯行などが疑われているという。

同紙が関係筋の話として報じたところによると、ハッキングは今年7〜9月に行われた与党・保守党の党首選中に発覚。主要な国際パートナーとのやりとりなど、最大1年分のメッセージがダウンロードされていたという。

トラス氏は党首選に立候補しており、当時のジョンソン首相らの判断で公表が見送られたとしている。現在、犯人の特定などの分析作業が行われているとみられる。(後略)【10月30日 読売】
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【ロシア 英海軍の関係者が「ノルドストリーム」爆破と発表】
上記のような冷え切った英ロ関係もあっての話でしょうか、ロシア国防省はロシア産天然ガスをドイツに送る海底パイプライン「ノルドストリーム1」と「ノルドスリーム2」のガス漏れについて、イギリス海軍の関係者が爆破したと発表、イギリス政府は否定しています。

****ノルドストリーム爆破、英海軍が関与=ロシア国防省****
ロシア国防省は29日、英海軍の関係者が先月、ロシア産天然ガスをドイツに送る海底パイプライン「ノルドストリーム1」と「ノルドスリーム2」を爆破したとの見解を示した。

これに対し、英政府は虚偽の情報だと反論。ロシア軍のウクライナでの失敗から注意をそらす狙いがあると主張している。

ロシア政府は英国がパイプライン爆破に関与した証拠を示さず、「入手した情報によると、英海軍部隊の代表が今年9月26日のバルト海でのテロ攻撃の計画・準備・実行に参加し、ノルドストリーム1とノルドスリーム2を爆破した」と表明した。

スウェーデンとデンマークは、ノルドストリーム1とノルドスリーム2の4カ所のガス漏れについて、爆発が原因と断定したが、誰が爆発に関与したかは明らかにしていない。【10月30日 ロイター】
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もちろん真相はわかりません。

ただ、ロシアはこのところ、核兵器使用への言及とか、「汚い爆弾」とか、「本当かね・・・」「本気かね・・・」といった発言が相次いでいますので、「ノルドストリーム」に関してもやや真実味に欠けるところはあります。あくまでも印象の話ですが。
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モルドバ、ジョージア、セルビア、ベラルーシ  周辺国にとってのウクライナ情勢

2022-10-29 23:49:37 | 欧州情勢
(ウクライナからモルドバ南部パランカに到着した難民【4月15日 読売】)

【モルドバ  約9万人のウクライナ人を受け入れる欧州最貧国】
ウクライナの南西部に隣接し、ウクライナとルーマニアにはさまれる小国、モルドバ。
旧ソ連諸国のひとつであり、「欧州最貧国」とも言われるモルドバはその地理的条件もあって、ウクライナの戦火が直接自国に及ぶ危険にさらされています。

****モルドバで電力不足深刻 ロシア軍のウクライナ攻撃で給電停止に*****
モルドバ政府は12日、隣国ウクライナから輸入してきた電力が途絶えたとして、国民にピーク時間帯の節電を要請した。ウクライナ各地の電力関連施設は10日から11日にかけてロシアから集中攻撃を受けて被害が出ており、その影響が隣国にも波及した形だ。

ロイター通信によると、モルドバでは需要のピーク時間帯に電力を十分まかなえない恐れがあり、国民に洗濯機の使用や携帯電話などの充電を午後11時以降にするよう求めている。

隣国のルーマニアが不足分の電力を提供する意向を示しているものの、価格はウクライナから輸入するより割高になるという。(中略)

モルドバは「欧州最貧国」とも言われ、約9万人のウクライナ人が戦火を逃れて避難生活を続けている。【10月13日 毎日】
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より直接的な話としては、黒海に面しているため、黒海のロシア艦隊がウクライナにミサイル攻撃する場合、モルドバの領空を通過することにもなります。

****ウクライナ攻撃のミサイルが領空通過 モルドバ、ロシアを非難****
モルドバは10日、ウクライナを標的としたロシアの巡航ミサイルが領空を通過したことを受け、説明を要求するためにロシア大使を呼び出したと発表した。

ニク・ポペスク外務・欧州統合相はツイッターへの投稿で、「けさ、黒海のロシア艦船からウクライナに向けた発射された巡航ミサイル3発がモルドバの領空を通過した。ロシア大使を呼び出し、説明を求めるよう指示した」と説明。ロシアが首都キーウなどウクライナ各地の都市で民間施設を攻撃したことに「がくぜんとしている」とし、「ロシアは殺りくを止めなければいけない」と訴えた。
モルドバは、東部のトランスニストリア地域が親ロシア派勢力によって支配されている。 【10月11日 AFP】
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モルドバ国民の3割はロシア語を話すという文化的環境、経済面や天然ガス供給でロシアとの関係が深いという「親ロシア」の側面もある一方で、ロシア系住民の多い沿ドニエストル地域が親ロシア派によって実効支配されている安全保障の問題、近年の欧州との経済関係強化、欧州への出稼ぎ労働者増加によって「親欧米」の側面もあり、両方の間で揺れる国でもあります。

2020年11月の大統領選挙で親欧米派のマイア・サンドゥ氏が当選しています。
モルドバはEU加盟を目指していますが、今年6月にはウクライナとともに「加盟候補国」として認定されました。加盟に向けては先は長いですが、先ずは「第一歩」といったところ。

「大国」ロシアに翻弄されてきた歴史、親ロシア派が支配し、ロシア軍が駐留する沿ドニエストル地域の問題(モルドバはロシア軍の撤退を求めています)もあって、ロシアによって追われたウクライナからの難民を好意的に多く受入れていますが、9万人という数は、モルドバの人口約400万人を考えると膨大な数です。(日本で言えば300万人近くを受け入れたようなもの)

「難民1人の支援に1日あたり30ユーロ(約4000円)かかる。財政的に限界」(マリアナ・ツルカン首相顧問)という窮状も。

一方、親ロシア派が実効支配する沿ドニエストル地域(親ロシア派は独立国「沿ドニエストル共和国」を主張)を抱えるモルドバは、ウクライナ南部黒海沿岸(オデッサなど)へのロシアの攻勢が激しかった頃は、「次はモルドバか?」という恐怖にさらされました。

ただ、親ロシア派の実効支配する沿ドニエストル地域の立場も微妙で、ロシアからの天然ガスを勝手に抜いて、そのガスで安価な電力を生産し、モルドバに電力輸出するということで、モルドバとは“持ちつ持たれつ”の関係にもあります。

また、沿ドニエストル地域を取り囲むウクライナ・モルドバとの経済関係が途絶えると、すぐに干上がってしまうということもあって、本音としてはロシアのウクライナ侵攻に巻き込まれたくない・・・という思いがあるようです。

モルドバに対しては、当然にロシアからの合法・非合法の働きかけがあると思われますが、下記のニュースも。
なぜ今この時期に・・・・という背景は知りません。

****米、モルドバ内政干渉で制裁 ロシア人ら9人指定****
米財務省は26日、ウクライナに隣接するモルドバへの内政干渉工作や腐敗に関与したとして、ロシア人やモルドバの元議員ら9人と12団体を制裁対象に指定した。  米国内の資産が凍結される。  

米財務省によると、制裁対象には、モルドバの政府・経済機関に影響力を行使して腐敗させたオリガルヒ(新興財閥)や、モルドバの議会を支配してロシアを利する法案を推進した元議員などが含まれる。【10月27日 時事】
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【ジョージア  部分動員によるロシア出国者の流入 国民にはロシア人への反感も】
モルドバ同様に旧ソ連諸国のひとつで、やはり親ロシア派支配地域を抱えるグルジアの場合、ロシアに接していることで、最近のロシアの部分動員の混乱から、多くのロシア人が逃れてくる事態になっています。

ジョージア内務省によると、ロシアで部分的動員が発表されてから1日に1万人のロシア人が入国しているとも報じられていました。

しかし、2008年8月には親ロシア派実効支配地域「南オセチア」をめぐってロシアと戦争が勃発し、敗北した経緯もあって、ロシア人に対する感情は好意的とは言い難い面もあります。

****ジョージア国境にロシア人殺到 ジョージア人「国土の20%をロシアに不当に占領されているのに…」****
(中略)受け入れるジョージア側にとっては複雑な思いを抱く人が多くいました。実際に話を聞いた複数のジョージア人は「自分たちはロシアに国土の20%を不当に占領されている状況なのに、なぜロシア人を受け入れる必要があるのか」と否定的に話していました。

ロシア人の流入が急増したジョージアでは、首都トビリシをはじめ、不動産の価格が急激に上がったことで賃貸契約の更新を断られる人が増えていて、こうした実際の生活での影響もあってか、国境の閉鎖まで求める声が一部では上がっています。【9月30日 TBS NEWS DIG】
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****ロシア人大規模流入で抗議集会 ジョージア****
ジョージアの野党は28日、ロシアのウクライナ侵攻への動員令を逃れようとする人々の「無秩序な」流入に対する抗議集会を開いた。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が21日に部分的動員令を出して以来、ロシアからの入国者数はほぼ倍増している。

抗議集会は親欧米派の野党ドロアが主催。ロシア人が殺到している北部カズベクの国境検問所付近。数十人の参加者はジョージアとウクライナの国旗を振り、ウクライナの国歌や民謡を演奏。「プーチンはテロリスト」「ロシアは人殺し」などと書かれたプラカードを掲げた。

主催者の一人はAFPに対し、「ロシア人がかつてない規模で無秩序に流入し、ジョージアの安全保障上のリスクになっている」として、「政府は移民危機に対処できていない。国境を直ちに閉鎖しなければならない」と訴えた。

さらに、数日中に同地で、国境の閉鎖を求めるさらに大規模な集会を開催するとした。

ロシアは2008年、ジョージアとの間で起きた軍事衝突の後、南オセチアとアブハジアの親ロシア派2地域の独立を承認。以降、現地に軍を駐留させている。こうした経緯があるため、ジョージア人はロシア人の流入に複雑な感情を抱いている。 【9月29日 AFP】AFPBB News
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【セルビア  ロシアに好意的立場 ロシア出国者を人的資本として有効活用】
一方、ロシアからの脱出者を歓迎しているのがバルカン半島のセルビア。

旧ユーゴスラビアのセルビアは、ユーゴスラビア解体の紛争時には欧米から「悪者」とされ、コソボ紛争では1999年にNATO軍の空爆を受けました。その間、セルビアの後ろ盾となったのがロシアで、現在でもロシアとの関係は良好です。

もちろん、セルビアとてやみくもにロシアを支持している訳でなく、ウクライナの問題について言えば、コソボの分離独立を認めないセルビアの立場と、東部・南部の独立を認めないウクライナの立場は同じで、そうした「領土の一体性」の立場から、3月2日の国連特別総会でウクライナに侵攻したロシアを非難する決議に賛成して世界を驚かせました。

EU加盟を目指している「EU加盟候補国」というセルビアの立ち位置も影響しての行動でしょう。
しかし、その後のEUからの対ロシア制裁参加の要請には、これを拒否しています。

セルビアはロシア人出国者を受け入れるだけでなく、貴重な人的資本として有効活用しているようです。

****ロシア人材巡る争奪戦、セルビアがリード*****
バルカンの小国が西側の制裁やプーチン政権を逃れる企業・人材を引き付けている

ロシアから国外脱出するロシア人に門戸を開いている国の中で、バルカンの小国セルビアがテクノロジー企業や高度人材の最大の流出先に浮上した。

今年2月23日以降、推定で最大100万人のロシア人が自国を離れた。多くの人が仕事も国外に移している。ロシア政府が先月、ウクライナに展開する兵力を補給するため動員を開始すると、国外流出はさらに増えた。

ロシアがウクライナで戦争を始めた当初は、トルコやドバイ、ジョージアが多くのロシア人を受け入れていた。しかし今は、セルビアに多くの人が押し寄せている。セルビアは欧州連合(EU)加盟を目指しており、EUと無関税で貿易を行っている

セルビアに滞在しているロシア国民には、制裁の影響を受けずに西側とのビジネスを維持することが目的の人もいれば、ウラジーミル・プーチン大統領の権威主義的な政権から逃げることが目的の人もいる。(中略)
 航空電子工学のエンジニアからサムスン電子傘下企業ウィスクのソフトウエア開発マネジャーに転じたウラジー

この何カ月かの間に数万人のロシア人エンジニア、プログラマー、起業家、芸術家、科学者がセルビアに到着した。政府のデータによると、2月以降、700社近いロシア系企業が数千人のロシア人を雇用する支社を開設し、約1500人のロシア人が新会社を設立した。多くの人はビザ(査証)免除制度を利用してセルビアに滞在しながら、外国企業にリモートで勤務している。

人口が700万人強のセルビアは歴史的にロシアの友好国で、ロシアのウクライナ侵攻は非難したものの、対ロシア制裁は実施していない。

ロシア人は今もビザなしでセルビアを訪問することが可能で、セルビアはロシアへの直行便を維持している数少ない国の一つだ。セルビア語はロシア語に近く、今、ベオグラードの最先端の店や飲食店ではロシア語が聞こえてくることは珍しくない。

セルビア内務省に2月以降のロシア人の入国者数を問い合わせたが、回答はなかった。一部の政府関係者はウクライナ戦争が始まってから、5万人から10万人が入国したとみている。

ラトビアに拠点を置くロシアの独立系メディア、メドゥーサがまとめた各国の記録によると、ロシアの隣国であるカザフスタンには9万8000人、ジョージアには5万3000人、フィンランドには4万3000人がそれぞれ入国した。

ロシアを出国し、セルビアに滞在する多くの人はウクライナ戦争やプーチン政権に反対していると話す。しかしセルビアでは、さらに西の地域より歓迎されていると感じると話す人も多い。(後略)【10月28日 WSJ】
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「各国はロシアを逃れた同国のエリートを呼び込もうと競い合っている。セルビアは貴重な人的資本、金融資本の流入の恩恵にあずかることができる絶好の立場にある」【同上】とも。

【ベラルーシ  “プーチンの戦争”に巻き込まれたくない本音】
セルビアにとっては絶好のチャンスのようですが、同じようにと言うか、世界でも最も強くロシアを支援する立場にある旧ソ連諸国のひとつベラルーシにとっては、ウクライナの問題ははるかに切実・危険な問題です。

周知のようにベラルーシはロシア軍を受入れて合同部隊を編成し、ウクライナに圧力をかけています。

****露、ベラルーシ合同部隊が始動 ウクライナを威嚇*****
ロシアの同盟国ベラルーシの国防省は20日、同国軍と露軍の合同部隊が活動を開始し、国境地帯で露空軍機による哨戒飛行を行ったと発表した。インタファクス通信が伝えた

。場所は不明だが、ウクライナに隣接する南側か、北大西洋条約機構(NATO)圏に接する西側国境だとみられる。東部や南部の戦線で劣勢に立つロシアはベラルーシの参戦を示唆してウクライナを威嚇し、戦力を分散させる思惑だとの観測が強い。

合同部隊の編制はベラルーシのルカシェンコ大統領が10日、ウクライナやNATO側からの「軍事的脅威」の高まりに対応した措置として発表。ベラルーシ国防省によると、合同部隊には露軍から最大9千人の兵員と戦車や歩兵戦闘車など約470両が加わる。

米政府系メディア「自由ラジオ」も20日、衛星写真を基に、ウクライナ国境から約50キロのベラルーシの空軍基地に露軍のトラックや対空ミサイルシステムが搬入されていると伝えた。

ルカシェンコ氏は従来、参戦を否定する一方、「挑発」を受けた場合は軍事的対応も辞さないと主張。ウクライナやNATOは警戒を余儀なくされている。(後略)【10月21日 産経】
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「欧州最後の独裁者」ルカシェンコ大統領は国民の批判・抵抗を力で封じ込めており、政権存続にロシアの支援は欠かせませんが、また、国家統合に関する条約が結ばれているという両国関係からもロシアの要請をことわり切れない立場にありますが、ルカシェンコ大統領の本音で言えば「(形の上ではロシアに協力するが)プーチンの戦争に引きづりこまれるのは何とか避けたい」といったものでしょう。

“ウクライナとの戦争に巻き込まれたくないというのは、独裁者・ルカシェンコと国民との唯一と言っていいくらいの共通項だ”とも。

****「“一線を越えたくない”というルカシェンコ大統領の強い想い」 ロシアとの合同部隊配備に合意、ベラルーシの思惑は?*****
0日、ウクライナ全土に大規模なミサイル攻撃が行われた。ロシア側はクリミア大橋を破壊した報復攻撃だとする一方、各国からはプーチン政権に対して批判が相次いだ。

そんな中、今後のウクライナ情勢を左右するかもしれないのが、ベラルーシの動き。ルカシェンコ大統領がロシアとの合同部隊を配備することに合意したと明かした。ベラルーシはこれまで、ロシアと合同で軍事演習を実施したり、攻撃拠点を提供したりしてきたが、戦闘に参加することはなかった。(中略)

■「“一線を越えたくない”というルカシェンコ大統領の強い想い」
在ベラルーシ日本大使館に勤務した経験もある北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターの服部倫卓教授は、実際に参戦する可能性は「現時点では低い」との見解を示す。

ロシアとベラルーシは似たような民族だと思われがちだが、戦争への意識は全く違う。ウクライナとの戦争に巻き込まれたくないというのは、独裁者・ルカシェンコと国民との唯一と言っていいくらいの共通項だ。

それを踏みにじって参戦するようなことがあれば、いくら強権的な独裁者といえども立場が持たないだろう

。実は2国間では国家統合に関する条約が結ばれていて、“情勢が緊迫した時に合同軍を編成する”という規定がある。ベラルーシ軍がウクライナに行って戦うというよりは、ベラルーシにロシア兵を置くための1つの手立てではないかとみている」

ロシアとしてはベラルーシを引っ張り出したいのか。
「戦争が始まってからずっと要請していると思う。9月と10月の話し合いで、ルカシェンコはプーチンにかなり詰められたようだが、やはり最後の一線、“これは越えたくない”という思いが相当強い。

プーチンとしても、ベラルーシは残された希少な同盟国で、ルカシェンコという独裁者がいるからこそついてきてくれる面がある。この戦争に参加することによって、国内の支持基盤を失い倒れてしまうようなことがあれば一大事なので、無理強いもできない」

一方で、懸念もあるという。
「先ほど申し上げたような両国共同の軍事ドクトリンによって、脅威が迫った有事の時には合同作戦本部のようなものが設置されて、ロシアの傘下に置かれるということが書いてある。それが適用されて、ルカシェンコのあずかり知らないところでベラルーシが合同軍に入って動かされてしまうのではないかという指摘もあり、今のところは何とも言えない」(後略)【10月13日 ABEMA Times】
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ロシア軍の状況が悪化すれば、プーチン大統領としてはベラルーシを巻き込みたい思いが強まるでしょうが、ルカシェンコ大統領からすれば、そんな“負け戦”に巻き込まれるのは御免被るといったところでしょう。

海千山千のルカシェンコ大統領がプーチン大統領の圧力をかわし切れるか・・・。
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欧州  EU内部でぶつかる各国の利害 それでも結束維持を評価すべきか

2022-10-28 22:56:16 | 欧州情勢
(【10月28日 WSJ】)

【EU内部の対立 ピレネー越えパイプライン ガス価格上限 独仏「すきま風」】
欧州・EU内部の対立は今に始まった話でなく、以前から財政規律をめぐるドイツ・オランダなど北部とギリシャ・イタリアなど南部の南北対立、いわゆる西欧的価値観をめぐるポーランドやハンガリーなど中東欧諸国との東西対立などが対立軸として存在しています。

現在の欧州にとって最大の課題は「脱ロシア」の状況で、この冬に向けていかに天然ガスを確保するかです。(ただし、後述の状況から、現状はだいぶ好転しているようですが・・・)

欧州向け天然ガスパイプラインと言えば、ロシアからドイツに運ぶ「ノルドストリーム1,2」が、供給停止とか爆破とかで何かと話題になりますが、もちろん他にもパイプラインはあります。

そのなかで関係国の「不協和音」を惹起しているのが、一部建設済みで、工事が中断しているスペインからピレネー山脈を超えてフランスに至るもの。

****スペイン提案「ガスパイプ構想」欧州巻き込む議論…フランスは消極姿勢、ドイツは乗り気****
ロシアによるウクライナ侵略を受け、欧州で露産天然ガス供給への不安が高まる中、スペインがフランスに対し、天然ガスパイプライン敷設構想の再開を呼びかけ、他国を巻き込んだ議論となっている。

スペインは、北アフリカなどから輸入したガスを欧州に供給する狙いだが、フランスは否定的で、欧州連合(EU)諸国間の危機対応をめぐる思惑のずれを浮かび上がらせている。

再開構想が出ているのはスペイン北東部からピレネー山脈を越えて仏南東部を結ぶ約190キロ・メートルのパイプラインだ。当初このパイプラインを通じ、スペインがアルジェリアから輸入した天然ガスを欧州各国に供給することが期待されていた。だが、建設コストがかさみ、環境保護団体の反対もあり、2019年に中止された。

ロシアが今年2月、ウクライナを侵略すると、スペインはEU諸国のロシア産天然ガスへの依存度を減らす一環として、構想復活の可能性に言及してきた。スペインは、アルジェリアやカタール、ナイジェリアなどから輸入したガスをEU諸国へ供給することで、域内での存在感を高めたい思惑があるとみられる。

AFP通信によると、仏政府は、「稼働には時間がかかり、現在の危機に対応できないかもしれない」と、消極的な姿勢を示している。

EU諸国の中で、ロシア産天然ガスへの依存度が高いドイツもスペインに加勢した。ショルツ独首相は今月11日の記者会見で構想について、「実現していれば、天然ガス供給の(厳しい)状況に多大な貢献をしていただろう」と述べた。

ロシア国営ガス会社「ガスプロム」は、タービン修理を名目にパイプライン「ノルトストリーム1」のガス供給量を引き下げており、ドイツでは冬場のガス不足を警戒している事情がある。供給源多様化のためにはフランスの協力が欠かせない。

スペインのテレサ・リベラ環境移行相は12日、地元メディアに対し、ショルツ氏の発言を歓迎したうえで、「スペイン側ではパイプラインは8〜9か月で稼働可能だ」と述べ、仏側に対応を迫った。16日にはペドロ・サンチェス首相が「供給網の改善で、欧州諸国の結束をより示せるようになる」とも語った。

フランスは、ロシア産天然ガスへの依存度が低く、ドイツに比べ危機感は薄い。更に一層の自立を図るために、次世代型原子炉6基の建設などに優先的に資金を回す方針で、スペインの構想が実現するかは不透明だ。【8月19日 読売】
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なお、スペイン側はEUがパイプライン建設費を支払うべきだとの考えを繰りかえしています。

一方、天然ガスをめぐって財政余力のあるドイツが「自国第一」で身勝手だとの批判をEU内で浴びています。

****EU首脳会議、独に批判の集中砲火 ガス価格対策で****
欧州連合(EU)は20、21の両日、首脳会議を開いた。天然ガス価格高騰に対応するため、ガス価格への上限設定が焦点となった。ドイツが難色を示し、結論は先送りされた。EUではドイツが単独で巨額の国内支援策を決めたことへの不満も高まっており、「自国優先」という批判が相次いだ。会議では、EUの中国政策も課題になった。

首脳会議の声明は、ガス価格への上限設定には踏み込まず、「過度な価格上昇を制限する」ための一時的な方策を定める方針を明記した。また、加盟国のガス備蓄の15%を共同購入する目標を掲げた。

上限価格の設定は9月末に、イタリアやフランス、スペイン、東欧など15カ国が提案した。ショルツ独首相は20日の首脳会議直前、「政治的に価格に上限を設ければ、欧州へのガス供給を減らす危険がある」と演説。ロシアに代わる供給元を探る中、ガス輸出国との新たな契約が難しくなるとの懸念を示した。

ドイツの国内支援策はガス高騰から企業や消費者を守るため、総額2千億ユーロ(約30兆円)を拠出する内容で、9月末に発表された。EU域内でドイツ企業を優遇することになるという指摘が強く、エストニアのカラス首相は20日、「EU27加盟国が自国のことしか考えなければ、EUは沈没する。このことをドイツは理解してほしい」と主張。ポーランドのモラウィエツキ首相は「ドイツが単独行動をとれば、EU市場が阻害される」と訴えた。(後略)【10月22日 産経】
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また、EUを牽引する立場にあるドイツとフランスの「すきま風」も表面化しています。

*****仏独政府が来週の会合を1月に延期、エネルギーや防衛で食い違い****
フランスとドイツの両国政府は来週パリ郊外で開く予定だった会合を来年1月まで延期した。エネルギー政策や防衛などの課題を巡り両国に食い違いがあるためで、複数の当局者が19日明らかにした。

欧州諸国はロシアによるウクライナ侵攻後、結束の維持が不可欠になっているが、エネルギー危機によって協力関係を保てるかが試されている。

ドイツ政府の報道官は、2国間協議が合意に至るまでに時間を要することなどから、延期は理にかなっていると双方が判断したと述べた。

フランス大統領府の当局者も、エネルギー政策や防衛協力などの課題で合意に達するには「もっと時間が必要だ」と述べた。

フランスの当局者はドイツがフランス政府に事前に知らせることなく、2000億ユーロのエネルギー総合対策など一連の決定を一方的に下したことに不満を募らせている。フランス政府はドイツのショルツ首相とスペインが進めている、ドイツと南欧を結ぶ新たな天然ガスのパイプライン敷設計画にも反対している。

またフランス側はドイツが欧州ではなく米国から防空システムを調達する動きを主導していることに不信感を持っている。

ドイツの消息筋はロイターの取材に、フランスのマクロン大統領は来週予定していた会合で、かなり大胆な合意がまとまるのを望んでいたと述べた。【10月20日 ロイター】
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【対立の背景にある各国の事情】
上記のEU内の「不協和音」はバラバラに見ていても、その様相がイマイチ把握できません。
多くの問題は関連しており、それらををまとめて整理すると以下のように。

自国利益を求める各国の激しい駆け引き・綱引きの状況、各国の事情がよく理解できる記事です。

****EU、輸入ガス価格の上限設定で調整難航 自国優先のドイツに批判も****
欧州連合(EU)の加盟国が域外から購入する天然ガス価格に上限を設定すべきかどうかで調整が難航している。20〜21日のEU首脳会議でも議論されたが、合意には至らなかった。推進派のフランスと反対派のドイツが激しく対立している。

「政治的に価格に上限を設けることで、生産者がガスを他に売ってしまうリスクがある」。ドイツのショルツ首相はドイツ議会で20日、そう演説した。

ドイツが懸念するのは、EUが輸入価格を抑えることで、米国やカタール産の液化天然ガス(LNG)が、より高い価格で購入する国や企業へと輸出され、欧州の必要分を確保できなくなる事態だ。ショルツ氏は、競合相手として日本や韓国の国名を挙げながら、そのリスクを訴えた。

天然ガスの消費量が多く、財政に比較的余裕のあるドイツは、高値でも大量のガスを独自に調達したいのが本音だ。財政状況が比較的良好なオランダやデンマーク、スウェーデンもドイツに同調する。価格の上限設定については、消費者の天然ガス節約の機運を弱めるとの批判もある。

これに対し、フランスやイタリアなどEU加盟国の過半数は、何らかの方法で上限をかけるべきだと主張する。何もしなければEU内の政府や企業間の競争が天然ガスの価格を押し上げ、財力の乏しい加盟国や企業がガスを調達できなくなる恐れがあるからだ。

EUが21日、天然ガスの共同購入の導入で大筋合意したのも、こうしたリスクに対応するためだ。上限設定を主導するフランスは原発大国で、天然ガスの輸入量や消費量がドイツより少ない事情もある。

ドイツの自国優先の姿勢に対しては、EU内の結束を乱すとの批判が出ている。
ドイツは9月、エネルギー価格の高騰対策として最大2000億ユーロ(約29兆円)の巨費を投じ、消費者のために自国内でのガス価格を抑制する計画を発表した。だが、こうした対策を講じることができるのは、財力がある国だけだ。他のEU加盟国は「EU市場内での公平な競争を阻害する」と猛反発している。

フランスは、ドイツを孤立化させ、圧力をかける戦略だ。これまで20年以上にわたって懸案となってきたフランス、スペイン間の天然ガスパイプライン計画を巡り、建設推進を求めるスペイン、ポルトガル、ドイツに対し、フランスは「採算性」を理由に反対し続けてきた。

パイプラインが実現すると、スペインがアルジェリアから地中海の海底パイプラインで輸入する天然ガスが、ドイツを含めた欧州北部に届きやすくなる一方、フランスにとっては自国の原発による電力の輸出と競合するからだ。

そこでフランスは20日、このパイプライン計画を破棄し、代わりに新たな水素用のパイプライン計画を進めることでスペイン、ポルトガルと合意した。

ドイツの新たな天然ガス調達ルートを葬り去るとともに、スペイン、ポルトガルとの結束を深めた形だ。フランスのマクロン大統領はこの日、記者団に「ドイツは孤立した」と述べた。

独仏の対立の深まりから、26日に仏フォンテーヌブローで予定されていた独仏閣僚協議は「2国間の問題で調整が引き続き必要」(独政府報道官)として、来年1月に延期が決まった。一方、独仏両首脳は26日、パリで首脳会談を開き、エネルギー問題などを協議する。【10月24日 毎日】
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各国の事情で駆け引き・綱引き、対立があるのは「当然のこと」でもあります。
そんな対立を抱えながら、EUが曲がりなりにも「結束」維持していることの方が注目に値するかも。

【問題の現在の状況】
最初のピレネー越えパイプラインについては、上記記事にもあるように、「水素用のパイプライン」で話がついたとか。

****パイプライン新設で合意 仏スペイン首脳、水素輸送****
フランスのマクロン大統領は20日、スペインのサンチェス首相、ポルトガルのコスタ首相とブリュッセルで会談し、スペイン北東部バルセロナとフランス南部マルセイユを結ぶ海底パイプラインの新設などのエネルギー網強化で合意した。パイプラインは水素の輸送を主目的とし、天然ガスの輸送は限定的とする方針。

ロシアのウクライナ侵攻後、欧州のガス輸送拠点を目指すスペインは中止していたピレネー山脈を通じてフランスと結ぶパイプライン計画の再開を訴えた。ロシア産ガスへの依存脱却を図るドイツも支持したが、フランスは採算性や環境負荷の観点から反対を貫いた。【10月21日 共同】
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自国利益の話になるとフランスも頑なです。これで話が収まるのかどうかは知りません。

天然ガス価格上限の話は、11月24日に再びこの件に関する臨時会合が開催されます。

****EU、11月にエネ相臨時会合開催へ ガス価格上限設定巡り協議****
欧州連合(EU)はルクセンブルグで25日に開催したエネルギー相会合で、EU全域でのガス価格の上限設定を巡り討議した上で、11月24日に再びこの件に関する臨時会合を開催することで合意した。

EUのエネルギーに関する臨時会合は7月以降で4回目。11月の会合では、欧州委員会が先週提案した、EUのガス共同購入開始に向けた規則など他の緊急措置も採択される見通し。

輪番制のEU議長国であるチェコのヨゼフ・シケラ産業相は「市場パニック時の過度な価格上昇を抑制するダイナミックな電気・ガス価格上限」の導入について閣僚間で幅広い支持を得ていると述べた。

欧州委員会は18日、エネルギー危機で新たな緊急対策を提案した。欧州における天然ガス取引の指標となるオランダTTFに今後一時的な価格上限を設けることなどが盛り込まれた。ただ即時のガス価格上限導入は見送られた。

欧州委のカドリ・シムソン委員(エネルギー担当)は、欧州委がガス価格の上限設定を正式に提案する時期について明示しなかったものの、11月の会合までに「次のステップを準備する」とし、閣僚がEUのガス価格上限案に同意する可能性があるとした。【10月26日 ロイター】
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またフランス・ドイツは延期となった閣僚協議に替えて急遽セッティングされた首脳会談を26日に行っていますが、共同記者会見も行われず、「すきま風」状態は改善されていないようです。

****独仏の溝深く 首脳会談、防衛協力などで対立 共同記者会見は見送り****
ドイツのショルツ首相とフランスのマクロン大統領は26日昼、パリで昼食を含めて3時間にわたり会談した。

エネルギー問題や防衛協力などを協議したが、両国の立場の隔たりは大きく、予定された共同記者会見は見送られた。欧州連合(EU)の中核である独仏は最近、主要問題で亀裂を深めており、関係修復には時間がかかりそうだ。


首脳会談終了後、ショルツ氏はツイッターで「今日は非常によい重要な議論ができた。独仏は密接に連携し、共に課題に取り組んでいる」と良好な関係をアピールした。ただ、具体的な内容は乏しく、独仏間の溝を感じさせた。

この日は元々フランスで独仏閣僚協議が予定されていた。しかし独仏間の調整が間に合わず来年1月に延期となり、急きょ準備されたのがこの首脳会談だ。

独仏は20〜21日のEU首脳会議でも、域外から購入する天然ガス価格への上限設定を巡り、賛成するフランスと懸念を示すドイツが対立したばかり。

加えて関係悪化の一因となったのがショルツ氏が提唱した共通防空体制だ。
ロシアによるウクライナ全土へのミサイル攻撃を受け、北大西洋条約機構(NATO)に加盟するドイツや英国など欧州14カ国と、NATO加盟を申請したフィンランドが今月13日、防空体制を強化するため兵器を共同調達する方針で合意した。ただ調達先はイスラエルや米国が有力とされ、自国のミサイル防空体制を周辺国へと拡大しようとしていたフランスは蚊帳の外だった。

ショルツ氏はこの構想を提案した8月のプラハでの演説で「EUが東方に拡大することは私たち全員にとっての利益だ」とも述べ、ドイツが独仏連携から東欧重視路線へと転換したとの指摘もある。フランスはこうしたドイツの対応に不信感を募らせているとみられる。【10月27日 毎日】
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【天然ガス 今年の冬はなんとかなりそう・・・という状況も】
最後に、懸念されてきた欧州の天然ガス状況。大方の懸念とはかなり異なる様相になっているようです。

****ガス不足懸念の欧州、暖冬の影響で供給過剰へ?****
天然ガス価格は8月下旬の高値から70%以上下落した

欧州では急速に天然ガスの供給がだぶついている。これを受けてガス価格は下落。欧州大陸がロシアへのエネルギー依存から抜け出そうとする中、冬の燃料不足と配給の懸念は和らいだ。

ほんの数カ月前には、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、欧州がロシアのガスから軸足を移し、ロシアが制裁の報復として輸出を制限したため、政府当局者や企業幹部、アナリストは欧州大陸が冬の間に必要な燃料を十分に確保できないのではないかと懸念していた。

政府は消費者や企業に燃料の節約を促し、そうしなければ強制的に配給すると警告し、米国やカタールなどが出荷したガスを大量に買い入れた。

こうした対策と、最近の季節外れの暖かい気候のため、陸上や沖合に浮かぶタンカーに大量のガスが貯蔵されることになった。

「供給は順調だ」と、欧州最大の銅生産者で大口のエネルギー利用企業である独アウルビスのローランド・ハリングス最高経営責任者(CEO)は述べた。「もう終わったと言うつもりはない。だが、2カ月前の状態よりはずっと良さそうだ」

欧州の港の沖には何十隻もの液化天然ガス(LNG)タンカーが浮かんでいる。極低温に冷却されたLNGの貨物を受け入れることができる貯蔵スペースや係留場所が不足している中、一部のLNG取引業者は、荷揚げする前に価格が改善することを願ってガスを船内にとどめている。これは市場環境の劇的な好転を象徴している。(中略)

欧州のこの快適な状況は一時的なものかもしれない。来週からは、冬の天候が貯蔵にどんな影響を与えるかを季節予報である程度正確に示すことができるようになる。(中略) 

それでも、欧州の天然ガス価格は8月下旬の史上最高値から70%以上急落している。
最近の穏やかな天候は、欧州の人々が家屋やオフィスを暖めるために満杯のガス備蓄をフルに利用し始める時期を遅らせている。

ロシアのガス供給から軸足を移すための大規模な取り組みにより、欧州各国はロシア政府が最初に輸出を削減したときに懸念されたよりも強い立場になった。欧州連合(EU)と各国政府は、企業や消費者に需要の削減を促す一方で、ガス備蓄を義務化した。EU全域のタンクなど貯蔵庫は94%埋まっている。

政府や企業の関係者は、価格下落を安堵(あんど)の表情で迎えている。アナリストによれば、冬が特別に寒いか、ロシア以外の供給源からのパイプラインが大きなダメージを受けない限り、欧州が危険なほどガス不足に陥る可能性は低い。(後略)【10月28日 WSJ】
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もちろん「しかし、まだ危機を脱したわけではない。ロシアからの供給が減り続けているため、2023年の冬はさらに厳しいものになる」とのことですが、来年の冬の話は誰もわかりません。
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アメリカ  中間選挙で争点ともなってきた不法移民対策 バイデン政権は対応を厳格化

2022-10-27 23:31:33 | 難民・移民
(パナマ・ダリエン県の国境検問所の村カナーンメンブリージョに到着するベネズエラ移民(2022年10月13日撮影)【10月23日 AFP】命がけでアメリカ国境に到達しても、厳しい対応が待っています)

【アメリカへのメキシコからの不法越境者、過去最多更新 ベネズエラ、キューバ、ニカラグア出身者増加】
昨日ブログ“カリブ海の島国ハイチ 災害・疫病・政治の機能マヒ・ギャングの跋扈 難民にもなれない絶望”では、中米ハイチにおける個人の対応では如何ともしがたい状況、復興が進まない仮設住宅で、ギャングの暴力に怯えて暮らすのか、自分がギャングとなって殺す側にまわるのか、どこかよその国に避難するのか・・・という選択肢しかない状況、よその国に・・・とは言っても、隣国ドミニカやアメリカの対応は厳しく、難民になることも出来ない状況等々を取り上げました。

移民・難民の問題は送り出し側、受入れ側のいずれの立場に立つかで問題の様相が全くことなってきます。
また、送り出し側の事情も様々、受け入れ側の事情も様々で、この問題をきちんと整理して、それなりの道筋をつけて語ることは私の手にあまります。

アメリカの場合、中間選挙の争点ともなっていること(一番は断トツに経済・インフレ問題ですが、その次が中絶をめぐる問題や不法移民対策の問題になっています)もあって、多くの情報が報じられています。

とりあえずは、最近目についた関連記事のいくつかをスペースが許す範囲でいくつか取り上げます。

まずアメリカを目指す不法移民は、移民に寛容な姿勢をとる民主党のバイデン政権が発足してから爆発的に増えています。そのことが野党・共和党からの批判にさらされています。

****アメリカへのメキシコからの不法越境者237万人で過去最多更新、中間選挙の争点にも****
去年10月からの1年間に、メキシコからアメリカに不法に入国し拘束された人が237万人にのぼり、過去最多となりました。(中略)

国境警備当局のデータによりますと去年10月からの1年間にメキシコからアメリカに不法に国境を越えて拘束された人は、前の年度の1.4倍の237万8944人となり、過去最多を更新しました。

この数字は移民に寛容な姿勢をとる民主党のバイデン政権が発足してから爆発的に増えていて、200万人を超えたのも初めてです。

国別では最近になってベネズエラ、キューバ、ニカラグアの3か国の出身者が増えていて、9月は全体の42%を占めたということです。

移民問題は来月行われる中間選挙の争点として関心を集めていて、野党共和党が政権批判を強めています。【10月23日 TBS NEWS DIG】
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従来は(厳しい経済状態に加え、犯罪組織が跋扈し、治安が極めて悪い)グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラスといった国からの不法移民が多かったのに対し、上記記事にもあるように、最近はベネズエラ、キューバ、ニカラグアなど多様化しているとのこと。

****中米以外からも米国へ不法移民 広がる貧困・抑圧****
米州が過去最大の不法移民危機に見舞われている。米バイデン政権幹部によるとベネズエラやキューバの抑圧的な政権から逃れるため多数の市民が出国し、米メキシコ国境へ向かう人数が増加している。

米国務省で「北部三角地帯」と呼ばれるグアテマラ、エルサルバドルとホンジュラス担当の大統領特使を務めるズニガ首席国務次官補代理はフィナンシャル・タイムズ(FT)に、記録的な人の移動の背景として「憂慮すべき」権威主義の高まりと政府による市民生活向上の失敗を挙げた。

ホンジュラス出身の職業外交官であるズニガ氏は「米州でこの規模の移民はこれまでなかった」と話した。「これほど大規模な人の移動が同時期に地域全体で起きたことはない。ラテンアメリカ諸国から米国への移動にとどまらない。いたるところで同様の問題が起きている」(中略)

これまで米国への不法移民はメキシコと北部三角地帯出身者が多かったが、7月に拘束された人数のうちこれらの地域出身者は半分超にすぎなかった。ベネズエラ、キューバ、コロンビアやニカラグア出身者も多く、数は少ないがブラジル、ハイチやエクアドル出身者もいた。

ズニガ氏は、ベネズエラで深刻化する政治的・経済的危機が依然として不法移民の最大の要因だと指摘した。経済の崩壊と権威主義を強める政府から逃れた市民は680万人以上に上り、内戦が続くシリアから国外に避難した人数に匹敵する。コロンビア、エクアドル、ペルーやチリなど南米諸国に逃れた人も多い。

また同氏は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が地域にもたらした経済的損害と、キューバで21年に起きたデモに対する政府の弾圧で市民が「希望を失った」ことの影響も指摘した。7月末までの10カ月間に17万5000人を超えるキューバ出身の不法移民が米国で拘束された。増加のペースは1959年のキューバ革命以降で最も速い。

ズニガ氏は「21年7月のデモはキューバの指導部に衝撃を与えた。だが彼らの対応は基本的には鎮圧能力を向上させることだった」と話した。

犯罪組織が米国に不法移民を送り込めば利益を上げられると気づいたことも不法民の急増につながっている。ズニガ氏は「不法移民を密入国させるのは、以前は副業だったが、一部の組織にとっては主要ビジネスになっている」と指摘した。「多額の金銭がからんでいる」

バイデン政権が対処戦略
バイデン政権は21年7月、4年間で40億ドル(約5700億円)を投じ中米からの不法移民の根本的原因に対処する戦略を発表したが、問題は非常に根深く解決には長い時間がかかるとしている。

ワシントンにある移民政策研究所のアンドリュー・セリー所長は、「根本的原因」に対処する戦略は重要と評価しつつも、中米にのみ焦点を当てている点を問題視する。

ベネズエラ、キューバやニカラグアには「(強制送還する航空便がないため)米国は不法移民を出身国に送り返せない。つまりこれらの国の人々にとっては出国する大きなインセンティブ(動機付け)がある。米国に向かう途中で何か起きるかもしれないという不安以外に、彼らが米国を目指すのを止めるものはほとんどない」と説明した。

中米の22年の経済成長は域内平均を大きく上回る見通しだ。セリー氏は中米の市民の大半は米国内に親族がおり、出国する手段もあるため「移民する方が国にとどまり手持ちの資産で暮らすより有利な投資だ」と指摘した。

ズニガ氏は「数世紀にわたり続いてきた政治的・経済的・社会的様式を変えるために外的主体が果たす役割に限界があることは認識している」と話した。「米州の他地域と同様、中米の主な問題の原因が不平等、排除、そして現状が改善すると市民が信じていない点であるという状況は変わっていない」

バイデン政権は民主主義と人権を重視しているが、中米の一部の国では権威主義が強まっている。グアテマラ、ニカラグアやエルサルバドルでは独立系メディアへの攻撃が激しさを増している。野党政治家も攻撃の対象となっており、米国は汚職が疑われる当局者数十人を制裁の対象にしている。

ズニガ氏は「問題は非常に大きく、かなり困難な事態であることは承知している。だがこれまでの流れを見ると、事態がさらに悪い方に向かう可能性があることを懸念せざるを得ない」と話した。(2022年9月11日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版)【9月12日 日経】
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移民を求める人々が絶えないのは、現状の生活困難もさることながら、“現状が改善すると市民が信じていない点”がポイントでしょう。将来への希望があれば現在の困難にも立ち向かえますが、希望が見いだせないなら・・・逃げるしかないでしょう。

ベネズエラやキューバにおける強権的支配は周知のところ。ニカラグアに関しても、最近記事の見出しを眺めるだけで、どういう国かのおおよその見当がつきます。

“700超のNPO認可取り消し=市民社会締め付け加速―ニカラグア”【7月3日 時事】
“ニカラグア、米CNNスペイン語放送を停止 政権批判を排除か”【9月23日 毎日】
“EU大使追放へ=強権批判に反発―ニカラグア”【9月29日 時事】
“カトリック教会こそ「完全独裁制」=国際社会の強権批判に反論―ニカラグア大統領”【9月30日 時事】
“米、ニカラグア鉱業部門に制裁 オルテガ政権に圧力”【10月25日 ロイター】

【中間選挙を控え バイデン政権は対応を厳格化 ベネズエラ人もメキシコへ強制送還】
上記【日経】では、“ベネズエラ、キューバやニカラグアに関しては“不法移民を出身国に送り返せない・・・彼らが米国を目指すのを止めるものはほとんどない”とありますが、不法移民問題が中間選挙の争点化したこともあって、バイデン政権はベネズエラ移民に対し新型コロナウイルス対策として不法移民をメキシコに即時送還する措置(タイトル42)を新たに適用し、対応を厳しくしています。

****翻弄されるベネズエラ移民 米中間選挙控え厳格化 強制送還も****
(中略)
■米バイデン政権の政策転換
米国土安全保障省は12日、陸路で米国に入るベネズエラ人をメキシコに強制送還すると発表。ビザ(査証)を持たずに南部国境を越えるほぼすべての移民に対する措置と同じになった。

これまで米政府はベネズエラの極左政権が反対勢力を弾圧しているとして、同国からの移民に対する例外的措置を認めていた。

措置を厳格化する代わりに今後はベネズエラ移民2万4000人に対し、人道的プログラムでの入国申請を許可する。ロシアによる侵攻を受けて国を離れたウクライナ人数万人を受け入れたのと同様の制度だ。

これらの措置は、寛容な移民政策を求める民主党と「不法移民の波」の放置だと批判する共和党との間で落としどころを探るジョー・バイデン政権が、米中間選挙を1か月後に控えて導入した。

■誰にも勧めないジャングル越え
パナマ当局によると、米国を目指してダリエン地峡を越えるベネズエラ人の数は、昨年は1年間で2800人だったが、今年は10月中旬までですでに約13万3000人に達している。(中略)

ダリエン越えをしてきたネリダ・パントハさんは「たくさんの死者、たくさんの山々、川に流される多くの人を見た…悲惨だった」と語った。それでもほぼすべての移民がそうであるように、パントハさんも米国の地を踏むまでは「あきらめない」と誓った。 【10月23日 AFP】
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メキシコに強制送還された人々はどうなるのか・・・メキシコ側国境地帯は行き場を失い、越境できずに野宿生活する人たちであふれかえっています。
“支援団体から配給されたパンをもくもくと食べる少女、息子を抱きしめる父親…”【日系メディア】

メキシコに強制送還された不法移民は、将来的にも合法的な手続きがとれなくなります。

【バイデン政権 廃止を目指した「タイトル42」を“拡充活用”】
この措置の根拠となっているのがトランプ前大統領が新型コロナウイルス対策という名目で導入した「タイトル42」です。

バイデン大統領は、この措置を廃止するとの立場でしたが、廃止反対派の訴えを受けた裁判所が制度存続を命じ、司法闘争が続いています。 そうした“政権にとっては心ならずも措置が存続する”状況にあって、現在はこの措置をベネズエラに適用拡大すなど“活用”する形にもなっています。

****米政権、ベネズエラ移民を強制送還 選挙前に厳格化、与党から批判*****
(ベネズエラ移民対応について)トランプ前政権が新型コロナの感染拡大防止のために導入した国外追放措置「タイトル42」を法的根拠としたことも問題視された。

バイデン政権は22年4月にタイトル42の廃止をいったん決めたが、5月に連邦裁判所の判断で措置が継続された経緯がある。

今回はバイデン政権が積極的に追放措置を活用する形となり、「タイトル42のような懲罰的な措置は不法であり、移民保護に関する米政府の約束にも反する」(人権団体の声明)と批判されている。

バイデン政権は寛容な移民受け入れの方針を打ち出したが、移民が急増したことで国境での対応が追いつかずに混乱が拡大。移民・国境管理は、経済・インフレなどに次いで不評な政策課題だ。

南部フロリダ州の州政府が9月に「移民問題の深刻さを示すため」としてベネズエラ移民を東部のリゾート島に移送した際は、「子供たちや母親たち、共産主義から逃げてきた人たちだ」(ホワイトハウスのジャンピエール報道官)と同情的な姿勢を見せていたが、選挙を前に態度を一変させた形だ。【10月18日 毎日】
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【南部州共和党知事 移民をバスでNY・ワシントンへ】
一方、バイデン政権の移民対応を批判する共和党側はこの問題を中間選挙の争点化することを狙って、国境の南部州共和党知事が移民をバスで(移民に寛容とされる)ニューヨークやワシントンに送り付けるという対応をとっています。

****ハリス副大統領の公邸前に大勢の移民…いったい何が? 送り込んだテキサス州知事「国境問題取り組ませるため」****
アメリカのハリス副大統領の公邸前に15日、多くの移民が現れ、騒ぎとなりました。

記者「ワシントンにあるハリス副大統領の公邸前です。先ほどベネズエラから来たという移民がバスに乗ってやってきました」

15日朝、ハリス副大統領の公邸前に2台のバスが到着し、乗っていた多くの移民を降ろして立ち去りました。彼らはメキシコから国境を越えてアメリカに不法入国した人たちで、テキサス州でバスに乗せられたといいます。

バスで到着した移民「家族のために良い機会を求めてきました」「ここはきれいですが知人がいないので、ここにいるしかありません」

移民を送りこんだのは、南部テキサス州の共和党・アボット知事。「バイデン政権に国境問題について取り組ませるためだ」とツイートしました。

今年の春以降、南部の州からワシントンやニューヨークなどに無断で移民を送りこむ動きが続いていて、その数はワシントンだけでおよそ9400人にのぼります。

米・ホワイトハウス ジャンピエール報道官「共和党の知事らがやっているのは移民を使った政治的な行為で恥ずかしく無謀で単純に間違っている」

中間選挙を前に共和党は国境管理や移民問題でバイデン政権を厳しく批判していて、移民を送りこむ動きは今後も続くとみられます。【9月16日 TBS NEWS DIG】
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****NYに巨大避難所…移民2万人超 受け入れ態勢強化****
アメリカ・ニューヨークで南部の州から送り込まれた中南米の移民が2万人を超えました。市は巨大な避難所を開設するなど受け入れ態勢を強化しています。

ニューヨークには毎日、メキシコとの国境地帯から大勢の移民が数台のバスで到着しています。不法移民対策に追われる南部の州の知事が、受け入れに寛容なバイデン政権を批判する狙いで移民を送り込んでいるもので、その数は18日時点で2万人を超えました。

18日に完成した避難所には、およそ1000床のベッドが設置されています。また、1日3回の食事が無料で提供され、娯楽スペースも設けられています。

アメリカでは、移民政策をめぐる分断が深まっていて、3週間後に迫った中間選挙の重要な争点となっています。【10月19日 日テレNEWS】
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南部州の苛立ちも理解できますが、生身の人間を“政争の具”とすることへの抵抗感も。

【米州首脳会議 移民対策「ロサンゼルス宣言」 実効性は疑問】
移民対応は6月に開催された米州首脳会議の中心議題ともなりましたが、その実効性には疑問も。

****米州首脳会議が閉幕 移民対策「ロサンゼルス宣言」に署名****
米国やカナダ、中南米の首脳が集まる米州首脳会議は10日、移民対策を取りまとめた「ロサンゼルス宣言」に署名し、閉幕した。米国による移民受け入れ国への経済支援や雇用機会の創出が柱で、関係各国が協力して移民問題に取り組む。ただ会議では、多くの移民が流出する中米を中心に複数の首脳が欠席。今後、どこまで実効性が伴うかは不透明だ。

経済支援では、移民受け入れ国のエクアドルやコスタリカなどを支援するため、米国が世界銀行の融資枠組みに2500万ドル(約33億5990万円)を拠出するほか、難民・移民支援に3億1400万ドル以上を投じる。

メキシコは国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の支援を受けて、今後3年にわたり2万人の難民を労働者として受け入れる。このほか、カナダが年内に、メキシコやグアテマラ、カリブ海諸国からの農業従事者5万人以上を受け入れるほか、米国も中米の農業従事者を対象に査証(ビザ)を発給する試験事業などを始める。

バイデン米大統領は調印式の演説で、ロサンゼルス宣言について「歴史的な取り組みだ」と意義を強調。「合法的な移民は、私たち全ての経済に良いものだ」とした一方で「不法移民は受け入れられない」と述べ、関係各国とともに、国境管理を強化する考えも示した。

一方、宣言を巡っては、実効性に課題も残った。会議に参加した31カ国のうち、多くの移民が流出するメキシコやホンジュラスなど中米諸国を含めて署名したのは20カ国にとどまった。開幕前に米国が社会主義国キューバなど反米3カ国を招待しなかったことに反発が相次いだことと合わせ、米国の求心力低下も改めて浮き彫りとなった。(後略)【6月11日 毎日】
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もちろん、送り出す側の“統治”の問題が基本。まっとうな統治が行われない限り、人々は“逃げ出す”選択肢を選ばざるを得ません。
ただ、それを言っても現実問題としてはどうにもならない・・・というのも事実。

どのような対応が正しいのか・・・難しい判断ですが、どういう対応をとるにしても、「その対応の結果、この人々はどうなるのか?」という視点は忘れてもらいたくないものです。不法移民を抑え込むことができたとして、その結果どうなるのか? あとは自分たちには関係ないというのは・・・・。

難民・移民の問題は、普段自明のものと考えている国を単位とする世界がもたらす歪であり、生まれてくる人は国を選べない「国ガチャ」の問題でもあります。

****ハイチからの移民乗せたボート転覆 子ども含む17人の遺体発見****
中米ハイチからの移民を乗せたボートがカリブ海で転覆し、これまでに17人の遺体がみつかりました。
ロイター通信などによりますと、ハイチからの移民を乗せたボートが24日、バハマ沖で転覆しました。25人が救助されましたが、子ども1人を含む17人が遺体でみつかったということです。

地元当局はボートには最大60人が乗船していたとみていて、ほかにも行方不明者がいる可能性があるとしています。
バハマは、ハイチからアメリカを目指す移民が通過するルートとして知られています。【7月25日 日テレNEWS】
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カリブ海の島国ハイチ  災害・疫病・政治の機能マヒ・ギャングの跋扈 難民にもなれない絶望

2022-10-26 23:47:33 | ラテンアメリカ
(首都ポルトープランスで誘拐を主導しているギャング団「G9とその同盟」のリーダー【2021年10月27日 WSJ】
人種や階級で分断され、所得格差の激しいハイチだが、誘拐にそうした違いは関係ない。ギャング団は、所得や階級、年齢、社会的地位を問わず標的にしている。
「白人、黒人、褐色人種、金持ち、貧乏人、老人、若者など誰もがターゲットにされている」「彼らは子どもも商売人も道路清掃員も連れ去っている。標的にならない人は1人もいない」)

【地震・ハリケーン 政治は混迷】
今日取り上げるのは(多分、誰も興味ない)中米・ハイチ。 アメリカ・フロリダ半島の対岸にあるのがキューバで、その隣の島がハイチとドミニカ。

カリブ海の島国ハイチは短期間に2つの大きな災害に見舞われています。
2010年には未曾有の大地震が首都ポルトーフランスで起き、22万人以上が死亡したと報告されています。このときは、追い打ちをかけるようにコレラが大流行し、多数の死者が出ています。

そして2016年10月には地震からの復興が進まないハイチをハリケーン・マシューが襲いました。
インフラは破壊され、家々の屋根は吹き飛ばされ、農地は荒れ果てました。国連の推計によれば、90万人の子どもを含む200万人以上の人々が被害を受けました。

ちなみにハイチの人口は1100万人ぐらいですから、地震・ハリケーンの国民生活に与えた影響の大きさが推察されます。

更に2021年8月には再び地震が。度重なる災害で自力復興に手が付かないハイチは“支援依存”状態に陥るとの指摘も。

****ハイチ地震で負のスパイラル 支援依存でさらに弱体化する****
<コロナ、ギャング抗争、大統領暗殺──疲弊するハイチ貧困層を直撃した大地震の非情>

マグニチュード7.2の大地震が(2021年)8月14日に発生したハイチで、被災者のいら立ちが頂点に達している。
救援活動が遅れ、不満を募らせた民衆は建物の倒壊現場に集まって仮設シェルター建設用の防水シートを要求。被災地は大地震の翌々日に暴風雨に見舞われたため、防水シートは以前に増して必需品だ。

大地震の死者数は18日時点で約2200人。負傷者は1万2000人を超え、多くは猛暑の中、屋外で治療を待っている。当局によると、倒壊家屋は5万2000戸以上で、約8万世帯が自宅を失った。

多くの貧困層は大地震で、頼みの綱の食料源や収入源を奪われた。新型コロナウイルスやギャングの暴力、7月の大統領暗殺事件と困難続きのハイチに追い打ちをかける。

大地震の結果、外国からの送金や国際団体の支援への依存が増し、ハイチはさらに弱体化するだろうと、経済学者エツァー・エミルは語る。「外国の援助は残念ながら、長期的には助けにならない」【2021年8月23日 Newsweek】
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そうした災害・疫病もあって、復興は進まず、国家は破綻状態です。「外国の援助は残念ながら、長期的には助けにならない」のはわかりますが、さりとて自力で立ち上がる力もなさそう・・・。

ここ1年あまりの政治面で見ると、(上記地震の直前の)昨年7月には大統領が武装集団に暗殺され、殺害直前に大統領から指名されたばかりの首相が事件に関与しているとも・・・。

****ハイチ大統領暗殺、首相が関与か 検察が捜査要請****
カリブ海の島国ハイチで7月、ジョブネル・モイーズ大統領が暗殺された事件で、同国の検察当局は14日、アリエル・アンリ首相に対する捜査を判事に要請していることを明らかにした。

同国の検察幹部は、事件の捜査を担当する判事に宛てた書簡で、アンリ氏が事件発生直後に主犯格とみられる容疑者の一人と電話で話していたことから、同氏の事件への関与についての捜査を要請。移民管理局長に宛てた別の書簡では、アンリ氏の出国を禁じるよう求めた。

7月6日夜から7日未明にかけ起きた事件では、政界や国民から批判を浴びていたモイーズ大統領が、首都ポルトープランスにある私邸に押し入った武装集団により暗殺された。アンリ氏はその数時間後、事件に関連して指名手配されている元政府高官と電話で話していたとされ、事情聴取のための出頭をすでに求められていた。

事件ではこれまでにコロンビア人18人、ハイチ系米国人2人を含む44人が逮捕されている。襲撃により大統領警護隊にけが人は出なかった。

アンリ氏は事件の数日前にモイーズ氏から首相に指名され、7月20日に就任。国内で悪化している治安を改善し、長らく延期されていた選挙を実施すると約束していた。 【2021年9月15日 AFP】
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関与を疑われたアンリ首相は、検察当局トップの解任を命じたようですが、その後の顛末は知りません。首相は選管も解任し、選挙は無期限延期に。

***ハイチ選挙、無期限延期=首相が選管全員を解任***
カリブ海のハイチからの報道によると、同国のアンリ首相は27日、暫定選挙管理委員会(CEP)の全9委員を解任した。これに伴い、11月7日に予定されていた大統領選と議会選、憲法改正の国民投票が無期限で延期となった。

委員は昨年9月に当時のモイーズ大統領が人選して任命。野党からは「一方的編成だ」と批判が出ていた。今年7月7日にモイーズ氏が武装集団に暗殺され、8月14日には南西部でマグニチュード(M)7.2の大地震が発生。選挙は延期の公算が大きくなっていた。【2021年9月29日 時事】 
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今年に入ると、今度はアンリ首相が襲撃される事態に。

****武装集団、ハイチ首相を襲撃 北部で式典中に銃撃戦****
ハイチ北部ゴナイブの教会で1日、武装グループが独立記念の式典に出席していたアンリ首相を狙って襲撃、護衛らと銃撃戦になり1人が死亡し2人が負傷した。アンリ氏は無事だった。同国メディアなどが報じた。

ハイチでは昨年7月にモイーズ大統領が暗殺されており、アンリ氏が事実上の国家首脳。

ハイチは1日がフランスからの独立記念日。武装集団は教会の外から銃撃し、アンリ氏は護衛らと車に逃げ込んだ。首相府は襲撃が「テロリスト」によるものだとして激しく非難した。

ハイチではギャング団が各地で強い影響力を持ち、治安が極度に悪化している。【1月4日 共同】
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【「ギャングによる暴力が制御不能」 暴力に怯えて暮らす住民】
こうした“武装集団”が何者なのかは知りませんが、記事にもあるようにハイチではギャング団が各地で強い影響力を持ち、やりたい放題の状況。そうした組織と政治勢力が関係を持つというのは当然の成り行きのようにも。

“要求のまなければ人質殺害と脅迫、米国人ら17人誘拐のギャング団 ハイチ”【2021年10月22日 CNN】

****ハイチでギャング抗争、5日で234人死傷 国連報告****
国連は16日、カリブ海に浮かぶ島国ハイチの首都ポルトープランス郊外で、7月8〜12日に少なくとも234人がギャング団の抗争に巻き込まれるなどして死傷したと発表した。

首都郊外の貧困地区シテソレイユで二つのギャング団の抗争が勃発。装備も人員も不十分な警察は介入できず、住民は家から出られず食料や水の調達もできない状況となっている。

民家の多くはトタン板で覆われているだけのため、住民は流れ弾の犠牲になっている。救急車も現場に到達できていない。

国連人権高等弁務官事務所のジェレミー・ローレンス報道官は、「犠牲者の大半はギャングと直接関わりがないが、抗争の直接の標的になっている。性暴力に関する報告も新たに受けている」と述べた。

OHCHRによると、今年1〜6月に首都圏で亡くなった人は934人、負傷者は684人に上る。誘拐事件も680件発生している。 【7月17日 AFP】
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首都ポルトープランスの都市圏人口は約260万人。 そこで上半期に934人、年間では約2千人が殺害されるというのは想像を絶する事態です。

****ハイチで武装集団が病院に押し入り患者殺害 国境なき医師団****
ハイチの首都ポルトープランス郊外で、拳銃を持った男の集団が病院に押し入り、男性患者1人を拘束し、病院の外で撃ち殺す事件があった。国際医療援助団体「国境なき医師団」が18日、明らかにした。(後略)【8月19日 AFP】
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****ハイチのギャング、性暴力を利用して住民支配 国連****
国連ハイチ事務所と国連難民高等弁務官事務所は14日、カリブ海の島国ハイチのギャングが住民に恐怖を植え付け、縄張りを確立する手段として性暴力を利用しているとの報告書を合同で公表した。

ハイチでは6団体以上のギャングが縄張り争いを繰り広げている。報告書によれば、ハイチ各地では過去1年間で「ギャングによる暴力が制御不能」になっている。

特に抗争が激しいのは首都ポルトープランスで、同市の60%がギャングの縄張りになり、150万人以上が支配下に置かれている恐れがある。市内の移動は危険を伴い、病院はほとんど機能していない。

ナダ・ナシフ国連人権副高等弁務官は「ギャングは恐怖心を植え付けるために性暴力を利用し、憂慮すべきことにその件数は日に日に増加している」と述べている。

報告書によれば、集団レイプはしばしば家族の目の前で行われ、老若男女を問わず標的とされている。拉致されて「数日間または数週間にわたって」暴行を受けた被害者もいるという。

報告書は、ギャングは対立する団体の縄張りに居住、またはその地域を通行した住民を処罰するためにレイプを利用し、暴行の場面を撮影した動画を家族に送りつけて身代金の支払いを迫ることもあると指摘している。

治安が悪化しているため、犯人が処罰されることはほとんどないとされる。
ギャングによる暴力は国連平和維持活動部隊が駐留していた2004〜2017年には減少していたが、撤退後に増加した。 【10月15日 AFP】AFPBB News
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【コレラ再拡大】
上記記事にあるように2004〜2017年には国連平和維持活動部隊(国際連合ハイチ安定化ミッション MINUSTAH)が駐留していました。2010年の巨大地震後には日本もPKO法に基づき約350人の自衛隊員を派遣しています。

ただ、この国連平和維持部隊の一つ、ネパール軍の宿営地からコレラ感染が拡大したと見られています。
その時のコレラ感染は2019年に収束したとされていますが、今再び・・・。

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ハイチでコレラ感染急拡大、数日間で倍に****
カリブ海の島国ハイチの保健・人口省は25日、国内でコレラの感染が急拡大し、23日時点で疑い症例が1972例、死亡例が41例となったと明らかにした。19日時点では疑い症例が964例、死亡例は33例だった。

今回のコレラ流行は10月に始まった。ハイチでは2010年に始まり、1万人以上が亡くなったコレラ流行が2019年に収束したばかり。

疑い症例の大多数は西県、首都ポルトープランス、スラムとして知られるシテソレイユで確認されている。

国連のステファン・ドゥジャリク報道官は、国連児童基金(ユニセフ)のデータを引用し、14歳未満の子どもが疑い症例の約半分を占めていると述べた。

また、ギャングが国内の主要な港や石油ターミナルを封鎖したことに伴う燃料不足でNGOの活動が妨げられ、コレラ対策に不可欠な清潔な水の供給にも支障が出ているとも述べた。

ハイチ政府は国際社会に対し、悪化し続ける健康・治安危機への支援を求めている。
国連安全保障理事会は、アントニオ・グテレス事務総長の要請を受け、治安回復のための国際部隊の派遣を検討している。

2010年にハイチにコレラ菌を持ち込んだのは、国連平和維持活動部隊だった。 【10月26日 AFP】
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【「壁」で難民流入を阻止する隣国ドミニカ アメリカもコロナ感染対策を理由に押し戻し】
度重なる地震・ハリケーン災害、仮設状態から抜け出せない暮らし、繰り返す疫病、政治は機能マヒ、わが物顔でやりたい放題のギャング団・・・当然の話として、「こんな所では暮らせない。どこか他の土地へ」ということにもなりますが、難民は来られる側にとっては“厄介者”というのが現実。

島の西側に位置するドミニカは「壁」建設で難民流入を阻止

****ドミニカ共和国が「国境の壁」=貧困国ハイチとの間****
カリブ海のドミニカ共和国は20日、隣国ハイチとの「国境の壁」の建設を開始した。北海道より一回り小さいイスパニョーラ島の東側3分の2を占めるドミニカは政治経済が安定。

しかし、西側3分の1のハイチは長年政情不安が続く「西半球最貧国」で、ドミニカは不法移民や麻薬などの流入に悩まされてきた。

壁が築かれるのは、全400キロ弱の国境のうち164キロ。強化コンクリートと金属の構造体を組み合わせた壁は、高さ3.9メートル、厚さ20センチとなる。

アビナデル大統領は「貿易やマフィアによる人身売買、麻薬や違法武器の売買などがより効率的にコントロールできる点で、両国にとって利益がある」と強調した。【2月22日 時事】
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陸続きのドミニカがダメなら、海を渡ってアメリカへ・・・しかし、アメリカも受入れを拒んでいます。

****米国:ハイチ難民を暴力的に排除 根強い黒人差別****
米国当局はハイチ難民を恣意的に拘束し、人種に基づく差別的で屈辱的な虐待を加えている。アムネスティはこの状況を調査し、提言とともに報告書にまとめた。

米国は長年、庇護を求めるハイチ人の拘束や排除、入国を思いとどまらせる措置などを取ってきたが、最近の人権侵害もタイトル42(公衆衛生法の「伝染病の流入を阻止する緊急措置」条項)に基づく大規模な押し戻しも、ハイチ人を排除してきた歴史の延長線上にある。

1年前、テキサス州デル・リオで国境パトロール隊がハイチ難民を暴力的に押し戻し、バイデン政権がこの対応を非難したにもかかわらず、当局はハイチ人の庇護を求める権利を制限し続けてきた。

また当局は、空路で国外追放する際の機中でハイチ人に足枷と手錠をかけて奴隷扱いし、さらなる心身の苦痛を与えている。

アムネスティの調査によれば、米国政府は1970年代からさまざまな政策を適用し、近年ではタイトル42を根拠に庇護を求めるハイチ人の気をくじく対応を取ってきた。

ハイチ人への対応の告発で最前線に立つ団体ハイチ・ブリッジ・アライアンスのニコル・フィリップス法務責任者は、「去年9月、馬に乗ったパトロール隊員が難民を手綱で叩き、その様子を撮った写真が世界に拡散し衝撃が走ったが、この行為は、何十年にわたり行われてきた不当な扱いの一つに過ぎない」と話す。

アムネスティは、今回の提言をきっかけに、ハイチ人をはじめとする黒人系移民が米国でしばしば直面する人種的差別や暴力行為の排除に向けて、米国当局間の対話が始まることを望む。

アムネスティがハイチで聞き取りをした24人全員が、昨年9月から今年1月までの5カ月間にタイトル42のもとで国外退去させられたとみられる。

そのいずれもが、個別の難民審査を受ける機会を与えられなかった。新生児が拘束されたり、親から引き離されたりすることもあった。また、通訳者や法的代理人が付かなかったり、拘束施設の場所や拘束理由を告げられなかったりしたという。なぜ拘束するのかその説明がなければ恣意的拘束にあたる。

また聞き取りをしたハイチ人はいずれも、新型コロナウイルス感染症の検査を受ける機会は一度もなかったという。また多くの人がマスクを提供されず、人との適切な距離を取らせてもらえず、感染拡大防止というタイトル42目的とは裏腹な対応だった。

これまで母国でさまざまな人権侵害を受けてきたハイチ人にとって、米国の拘束施設での虐待はさらなる追いうちでしかない。24人全員が、奴隷や犯罪者であるかのように手錠と足枷をはめられてハイチに送還され、大変な心理的苦痛を受けた。

国際人権法は、民族や国籍に関係なく被拘束者へのいかなる拷問や虐待も禁止しているが、米国の対応は国際人権法の人種や移住資格に基づく拷問にあたると言える。

黒人への人種差別の歴史
当局のハイチ人対応の背景には、アフリカ系の人びとを奴隷にしてきた歴史と今も続く黒人への人種差別がある。
今回の聞き取り調査から、ハイチ人への虐待が日常化し、さまざまな場所と時間に発生してきたことが明らかになった。この事態は、ハイチ人の処罰と排除を目指す移民制度に組み込まれた長期的、制度的な人種差別を浮き彫りにしている。(後略)【9月27日 アムネスティインターナショナル国際事務局発表ニュース】
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この話は、アメリカの移民対策、南部州の共和党知事が不法移民をバスで、民主党が強く移民に寛容なワシントンやニューヨークに送り付けるという中間選挙前の“政争”、トランプ前大統領の施策に反対したバイデン政権が続ける“タイトル42”といった問題にもつながってきますが、そこは話が長くなるので別機会に。

いずれにせよ、日本でも昨今は「難民はよその国に押し寄せるのではなく、自分の国で、自分たちで何とかしろ」といった“自己責任論”が目立ちますが、ハイチの現状をみると、「自己責任で」と言われても個人ではどうにもならないのが現実。

復興が進まない仮設住宅で、ギャングの暴力に怯えて暮らすのか、自分がギャングとなって殺す側にまわるのか、どこかよその国に避難するのか・・・そうした選択しかなさそうです。
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ウクライナ産穀物輸出滞留 合意の延長交渉を前にロシアの圧力か 「来年も記録的な飢餓リスク」(WFP)

2022-10-25 22:50:47 | 食糧・飢餓
(ウクライナから穀物を運び出す貨物船(9月、トルコのイスタンブール)=ロイター【10月25日 日経】
9月始めに、ちょうどこのあたりを観光でクルーズしていましたが、そのときはウクライナからの穀物輸出のことなど念頭にありませんでした)

【イスタンブール 貨物船検査の遅れでウクライナ産穀物輸出が滞留 ロシアは合意離脱を警告】
今年の春から7月頃まで、世界的に大きな関心が寄せられていたのが穀物輸出大国ウクライナからの穀物輸出がロシア軍の海上封鎖などでストップし、同様に穀物及び肥料の輸出大国でもあるロシアも制裁等で輸出が滞り、ウクライナ・ロシアに食料を依存してきた多くの国々が食糧危機にさらされていた問題でした。

欧米では「ロシアが食糧を“武器”として使っている」との批判が高まりました。

その後、トルコの仲介もあって、7月22日に関係国が合意文書に署名することに。

****ウクライナ穀物輸出の再開合意、ロシア側に一定の配慮か…米は速やかな履行求める****
ロシア軍の黒海封鎖によりウクライナ産穀物の輸出が停滞している問題で、ロシア、ウクライナ、トルコ、国連の4者が22日、イスタンブールで海上輸送再開に向けた合意文書に署名した。各国は歓迎しているが、ロシアに確実な合意履行を求める声も出ている。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は22日のビデオ演説で、「合意内容はウクライナの利益に全てかなうものだ」と評価し、昨年収穫した約2000万トンと、今年の収穫分で100億ドル(約1兆3800億円)相当の穀物の輸出が可能になるとの認識を示した。

国連のアントニオ・グテレス事務総長は署名式で「(食糧危機で)破綻にひんしている途上国に安心をもたらす」と語り、穀物価格の安定化などにつながると強調した。

インターファクス通信によると、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は署名式後、「ロシアは合意文書で十分明確に示された義務を負った」と述べた。一方、米国のブリンケン国務長官は22日の声明で「合意の履行が速やかに開始され、中断や妨害なしに進むことを期待する」とくぎを刺した。

合意にはロシア側の要求が一定程度盛り込まれた模様だ。ウクライナの穀物輸出拠点のオデーサ、チョルノモルシク、ユジニの計3港からの航路が確保され、輸送対象は、ウクライナ産穀物と食料に限定された。

航路の安全を維持するためイスタンブールに設置される「調整センター」が積み荷を検査する。ロシアは航路を通じてウクライナに武器が輸送されることを警戒しており、露側の条件に従ったものとみられる。

国連も合意の見返りをロシアに示した。露国防省は22日、ショイグ氏とグテレス氏が会談し、ロシア産の農産品と肥料の供給を促進することに関する協力覚書に署名したと発表した。

露産肥料などの輸出促進はウクライナからの穀物搬出と合わせた「パッケージ」として国連が合意を目指していた。

国連によると、国連貿易開発会議(UNCTAD)のレベッカ・グリンスパン事務局長の下に作業チームを設置し、加盟国や、金融、保険、物流などの民間部門と調整するという。【7月23日 読売】
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合意署名翌日の23日には、ウクライナ南部オデッサの港がロシア軍のミサイル攻撃を受けるなどの問題もありましたが、とにもかくにもウクライナ産穀物の輸出再開への道筋がひらけたことで、世界の関心も薄れていったようにも。

しかし、必ずしもウクライナ産穀物の輸出が順調に進んでいる訳ではないとの報道が。

****貨物船165隻超が足止め ウクライナ、ロシアを非難****
ウクライナ政府は24日、穀物の積み込みのため同国の港に向かっているトルコ発の貨物船165隻超について、ロシアが入港を故意に遅らせていると非難した。

ウクライナ外務省によると、ロシア側の検査官が貨物船の検査を大幅に長引かせている。その結果、「165隻超の船舶がボスポラス海峡付近で待機を余儀なくされており、その数は日を追うごとに増えている」という。

同省は、検査の遅れのためすでに300万トンの穀物が滞留しており、約1000万人分の食糧安全保障が脅かされていると警告した。

ウクライナ産穀物の輸出再開をめぐっては、世界的な食糧危機への懸念緩和に向けてトルコと国連の仲介によってロシアと合意。船舶の検査は合意に基づき実施されている。

合意の履行状況を監視するための共同調整センターによれば、合意が発効した8月1日以来、850万トンを超える穀物・食料品が欧州や中東、アフリカに向けて出荷された。 【翻訳編集】AFPBB News
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イスタンブールの国連広報官も24日現在で未登録も含めて計173隻が待機していることを認め、「船の遅れによって食糧供給や港での作業が途絶しかねない」としています。

また、合意の有効期間120日の期限が来月に迫っており、ロシアが延長に応じるかどうかが現在の焦点ともなっています。ウクライナ側は「ロシアが延長交渉で新たな利益を引き出そうとしている」と批判しています。

ロシアは合意の際、ロシアの肥料や穀物の輸出も円滑に進めるとする覚書を国連と交わしており、その実現状況をロシア側がどのように評価するかが延長交渉に影響します。

検査作業の遅延も、そうした延長交渉に向けた圧力とも推察されます。ロイター通信によると、ロシアは合意離脱を警告しています。事態に国連も危機感を深めています。

****国連、黒海輸出協定の滞留解消に向けた「緊急」措置求める****
国連の報道官は24日、黒海を経由するウクライナ産穀物輸出に関する協定に関わる150隻超の船の滞留を解消するため、「緊急」の措置が必要だと訴えた。

協定の完全な履行をロシアが妨げているとウクライナが非難していることを受けた発言となる。ロシアはこの協定に不満を示し、離脱すると脅している。

ウクライナを発着する穀物やその他の食料を運ぶ船舶はトルコの停泊地で、4者で構成する共同調整センター(JCC)のチームによる検査を受ける必要がある。

パラ国連報道官は「現在はイスタンブール周辺で150隻超の船舶が移動を待っており、こうした遅れは供給網や港の操業に混乱をもたらす可能性がある」と指摘した。

パラ氏によるとJCCは最近、検査チームを5つに増やした。

ロイターは先月、滞留が急増し、マルマラ海の停泊船がイスタンブールから視界に入らない沖合まで伸びていると報じた。

ロシア、ウクライナ、仲介のトルコと国連の4者は現在、協定の期限である11月19日以降の延長、拡大の可能性について交渉している。

パラ氏は「国連は毎日関係者を集め、(協定への)完全かつ誠実な参加、供給網が混乱しないような緊急の追加措置の必要性、そしてこの事業が必要な食料をより多く世界に届け続けることを訴えている」と説明した。【10月25日 ロイター】
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【ウクライナ産穀物の輸出は中東・北アフリカに特に影響】
ウクライナからの穀物輸出の影響を最も大きく受ける地域は、以前から指摘されているように中東・北アフリカです。食糧供給が滞れば政情不安を惹起します。また、紛争国への国際的食糧支援もウクライナ産穀物が大きな割合を占めています。

****ウクライナ危機「中東・北アフリカに特に影響」 WFP****
ロシアによるウクライナ侵攻が引き起こした世界的な食料危機について、国連機関は特に中東と北アフリカ地域で深刻になっているとして国際社会による支援の継続を訴えました。

WFP フライシャー 中東・北アフリカ・東欧地域局長  「価格高騰によって中東の人々は食卓に食べ物を並べることができません」

WFP=世界食糧計画の中東・北アフリカ地域の担当者らは12日、日本記者クラブで会見し、ロシアの黒海封鎖でウクライナ産穀物の輸出が滞ったことにより、食料の多くを輸入に頼る中東や北アフリカ地域が特に影響を受けていると強調しました。

これらの国々では穀物輸出が再開されたあとも通貨安によって調達コストがかさんでいると指摘。「飢饉が再び起こりかねない」などと訴え、国際社会による継続的な支援を呼びかけました。

また、これらの地域ではウクライナ情勢だけでなく長年にわたる紛争や新型コロナウイルスの感染拡大などによって、インフレや飢餓に陥っていると指摘。

イラク事務所の代表は、一因として気候変動問題を取り上げ、雨量の減少によって農業ができなくなった人々が都市部のスラム街に押し寄せていると窮状を訴えました。【9月13日 TBS NEWS DIG)】
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【世界的な食糧危機が長期化する恐れ 「来年も記録的な飢餓リスク」】
世界の食糧危機にとってウクライナ情勢はひとつの要因にすぎず、その他の天候・災害あるいは政情不安・紛争などによっても危機は深刻化しますが、現状は「来年も世界的に記録的な飢餓に陥るリスクがある」(WFP)という悲観的な状況のようです。

****「来年も記録的な飢餓リスク」 食糧危機長期化にWFPが警告****
ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、世界的な食糧危機が長期化する恐れが強まっている。両国の穀物輸出が減少しているうえ、アジア・アフリカ諸国では肥料価格の高騰や洪水などの災害により農業生産が落ち込むとみられるためだ。国連世界食糧計画(WFP)は「来年も世界的に記録的な飢餓に陥るリスクがある」と警告し、さらなる支援を呼びかけている。

「ウクライナ侵攻による大きな問題は、肥料不足だ。来年にわたり食糧や換金作物の生産に影響するだろう」。WFPのクリス・ニコイ西アフリカ地域局長は24日、東京都内で日本メディアの取材に対し、危機感をあらわにした。

ロシアは化学肥料の主要輸出国だが、ウクライナ侵攻の影響で価格が高騰。西アフリカでは作付けが始まった4月時点で、通常の42%しか肥料が行き渡らなかったという。収穫量が減れば食糧危機に拍車がかかることになる。

アフリカ諸国では食糧の購入費を稼ぐため、出稼ぎに行く人も増えているという。だが、農業の担い手が農地を離れれば、農業生産の減少につながりかねない。ニコイ氏は「武力紛争も拡大しており、人の移動や生活の崩壊につながっている。農業や食糧輸送にも影響している」と懸念する。

災害や政情不安も食糧危機を加速させている。アフリカ諸国にも米を輸出していたパキスタンでは今夏、大雨による大規模な洪水が発生した。WFPのジョン・アリフ・アジア太平洋地域局長によると、少なくとも米の15%が被害を受けた。

アリフ氏は「輸出量が激減しても驚きはない」と指摘する。小麦も作付けシーズンを迎えたが、被災地では農作業が始まっていない地域も多いという。

アフガニスタンでは昨年8月、イスラム主義組織タリバンが復権し、政治や経済が混乱した。食糧危機も深刻さを極めており、国民の9割が十分な食事を取れていない状態が続く。

治安が安定したことでWFPの支援は全34州に届くようになったものの、タリバンが女子教育を制限しているため、学校給食の支援に影響が出ているという。

経済危機が続くスリランカでも食糧価格が前年比90%増に達し、国民の3割が食糧不足に苦しんでいる。こうした国々では医療費や教育費を取り崩したり、腎臓を売ったりして食糧購入に充てている人も少なくない。

家畜や農機具など、食糧生産に必要なものを売らざるを得ないケースも相次いでおり、食糧不足がさらなる農業生産の減少を招きかねない状況だ。

WFPによると、世界で深刻な飢餓に直面している人は昨年末時点では2億8200万人だったが、2022年はすでに過去最多の3億4500万人に増えた。

アリフ氏は日本が来年5月に広島で開かれる主要7カ国(G7)首脳会議で議長国を務めることに触れ、「WFPと日本はあらゆる面で協力を深めてきた。G7でも食糧問題にフォーカスしてくれると信じている」と訴えた。【10月25日 毎日】
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【食糧不安の状態は82カ国3.5億人にのぼり、そのうち45カ国で最大5000万人の命が風前の灯】
上記記事にもある西アフリカの状況については、以下のようにも。

****WFP担当者「西アフリカは最悪の食料危機」 日本に支援を呼びかけ****
世界的な食料価格の高騰が続く中、WFP(=国連世界食糧計画)の担当者が来日し、ロシアのウクライナ侵攻の影響で「西アフリカは過去10年で最悪の食料危機に陥っている」と訴え、日本に支援を呼びかけました。(中略)

国連世界食糧計画・西アフリカ地域局長クリス・ニコイ氏「ロシアとウクライナの戦争は、ただでさえ劣悪な西アフリカの食料事情をさらに悪化させた」

ニコイ氏は、世界がいま気候変動と紛争、新型コロナウイルス、食料と燃料コストの急激な上昇、という「4つのC」に直面していると警鐘を鳴らします。

中でも、西アフリカ地域では輸入のおよそ4割をロシアとウクライナからの製品などが占めていて、長期化する戦争がこの地域の食料供給に大きな打撃を与えているということです。

また、会見後に日本テレビのインタビューに応じたニコイ局長は、食料不安の要因の一つである気候変動が主に先進国によって引き起こされているとして、次のように訴えました。

国連世界食糧計画・西アフリカ地域局長クリス・ニコイ氏「親切心や寛大さからだけでなく、西アフリカのような場所で何が起こっているのか、日本人は自分のこととして関心を持つ必要がある」

WFPによりますと、西アフリカでは来年、食料危機に直面する人がさらに1000万人増える可能性があるということです。【10月24日 日テレNEWS】
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もちろん、飢餓の危機は西アフリカだけではありません。アフガニスタン、エチオピア、南スーダン、ソマリア、イエメン・・・・。

****WFPとFAO、世界的な食糧危機に警告****
世界食糧計画(WFP)と世界食糧農業機関(FAO)は、記録的な数の人々が飢餓に直面しているとして緊急人道支援の必要を訴えている。すでに以下の6カ国においては致命的な飢餓状態、または災害レベルの危機に9.7万人が瀕している。

アフガニスタン、エチオピア、南スーダン、ソマリア、イエメンにおけるこの数値は、5年前の10倍に上る。暴力と治安の問題をはらむナイジェリアの飢餓もまた同様の危機にある。

WFPとFAOの報告によれば、2022年10月から2023年1月までに失われる人命喪失の危機に対応するため、緊急人道支援は不可欠であり、そのための資金援助を呼び掛けている。

昨年末の時点で、すでに2.8億人が食糧不安の状態にあったが、現在その数は82カ国3.5億人にのぼり、そのうち45カ国で最大5000万人の命が風前の灯となっている。

WFP分析部門の発表は、このように語る。「世界は前例ない規模の食糧危機に直面している。現代史上最大の規模であり、今すぐ行動に移さなければ、数百万人が飢餓と死に直面する危機的状況にある。この危機が全世界の食糧事情と関連機関の対応能力を超える可能性は、いまや現実のものだ」

ソマリア、エチオピア東部と南部、ケニア北部と東部では、最大2600万人が深刻な食糧不安と飢餓に直面すると予想されている。資金と人材ふくむ資源不足が人道支援の妨げとなっている。

とくにソマリアは、この10年で3度目の飢饉に晒されている。気候変動による影響で干ばつが常態化しており、5年連続で雨季の喪失が予測されている。それにもかかわらず食糧価格は高騰し、パンデミック後の収入機会の見通しが立っていないからだ。

またコンゴ、ハイチ、ケニア、サヘル、スーダン、シリアは懸念地域としてみなされている。状況が悪化すれば、人命を脅かす段階へと移行する地域である。

その他、地域紛争と暴力が飢餓の主たる要因となっている。洪水、熱帯性暴風雨、干ばつなどの極端な気候も多くの地域での潜在的危機であり、飢餓対策においても「ニューノーマル」が掲げられる必要がある。【10月24日 Hunger Zero】
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イラン  ヒジャブ着用をめぐる女性死亡事件への抗議 「自由」を求める声と妥協の余地がない現体制

2022-10-24 23:27:00 | イラン
(イランの首都テヘランのイマーム・ホメイニ国際空港に到着し、記者の取材に応じる(ヒジャブなしでの競技参加で注目された)エルナズ・レカビ選手。国営イラン放送の映像より(2022年10月19日撮影)【10月20日 AFP】)

【長期化するヒジャブ女性死亡事件への抗議 ただ、最近のイラン国内の状況に関する情報は少ない】
イランで、スカーフ(ヒジャブ)の被り方が不適切として宗教警察に拘束され、その後死亡した女性をめぐって、警察の暴行によって死亡したとして政府への抗議デモが長期化していることは、10月10日ブログ“イラン 長引く抗議デモ イスラムによる統治体制への批判に拡大 没落する中間層の不満も”でも取り上げました。

当局側は警察の暴行を否定し、女性が有していた既往症との関連を指摘していますが、体制・政府の意向が支配的なイラン議会もその線に沿った報告書を発表し、騒動の幕引きを図りたい構えです。

****イラン議会が報告書「死亡は暴行が原因ではない」 デモ拡大の発端となった“ヒジャブ着用”女性の死めぐり****
スカーフの着用をめぐる女性への弾圧などを受けてデモが拡大しているイランで、議会は抗議活動の発端となった女性の死亡について、「身体への暴行が原因ではない」とする報告書を発表しました。

イランでは、ヒジャブ、髪の毛を覆うスカーフのかぶり方が不適切だとして拘束されたマフサ・アミニさんが急死したことをうけ、デモが激化しています。

地元紙などによりますと、イラン議会は16日、報告書を発表し、アミニさんの死亡について、「身体への暴行で死亡したのではない」としたうえで警察の救護措置が遅かったと指摘。謝罪と職員の研修強化を求めました。

また、女性に義務付けられているヒジャブのつけかたなどについて曖昧さをなくすための法改正を求めていますが、事態の収束に繋がるかは不透明です。

人権団体によりますと、一連の抗議活動が始まってから、少なくとも子ども23人を含む201人が死亡しているほか、デモ参加者が収容されているとみられる刑務所で大規模な火災が発生し、これまでに4人が死亡しています。【10月17日 TBS NEWS DIG】
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抗議デモに伴う犠牲者数は、報道規制が厳しいイラン国内でのことなので、よくわからないのが実態です。上記記事数字より遥かに多い可能性もあります。

政権側は、抗議デモの背後にアメリカなどの外国勢力が扇動しているとして厳しい鎮圧を行う姿勢です。

****バイデン氏、イランで「混沌とテロ」を煽動=ライシ大統領****
イランのライシ大統領は16日、バイデン米大統領がイランで「混沌とテロと荒廃」を扇動していると非難した。国営イラン通信(IRNA)が伝えた。同国では4週間にわたって抗議デモが続き、国家規模の動揺が生じている。

ライシ氏は「米大統領は、発言を通じて他国における混沌とテロ、荒廃を扇動している」とし「(イラン革命の指導者が)米国を大いなる悪魔と呼んだ不滅の言葉を米大統領は忘れてはならない」と述べた。

バイデン氏は15日、「イランは基本的人権を行使しているだけの自国民に対する暴力を止めなければならない」と発言した。【10月17日 ロイター】
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こうした当局の強硬姿勢がありますので、今現在イラン国内でどのような抗議が行われているのかはよくわかりません。

ここのところは、具体的な抗議行動の様子などに関する記事は目にしていません。ほとんど封じ込まれた状態なのかも。

そうした当局の弾圧がない外国では、在住イラン人による抗議が今も続いています。

ドイツの首都ベルリンでは22日、イラン人らによる大規模な抗議デモが開かれたました。警察発表で約8万人が参加したとのことですから、かなり大規模なデモです。
同様の抗議行動は、アメリカのワシントンやロサンゼルスでも行われました。そして東京でも。

****イランの自由求めて 東京都内でデモ****
東京都渋谷区で22日、イランで服装規定違反の疑いで逮捕されたマフサ・アミニさんが死亡した事件を受け、抗議集会が開かれた。【10月23日 AFP】
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最近話題になったヒジャブを着けずに試合参加したスポーツクライミングの女子選手の件も外国でのことです。

****ヒジャブ非着用のイラン選手帰国 空港で「英雄」の声援受ける****
韓国で行われたスポーツクライミングの大会で、女性の髪を隠すスカーフ「ヒジャブ」を着用せずに出場したイラン女子代表のエルナズ・レカビ選手が19日に帰国し、空港で支持者から「英雄」として迎えられた。

スポーツ選手を含むすべての女性にヒジャブ着用を義務付けているイランでは、服装規定違反の疑いで逮捕されたマフサ・アミニさんの死をめぐる女性主導のデモが1か月以上継続している。そうした中、ヒジャブを着用せず試合に臨んだレカビ選手は、当局の怒りを買ったとみられている。

レカビ選手は帰国に先立ち、自身のインスタグラムアカウントへの投稿で、ヒジャブを着用しなかったのは意図的ではなかったとして謝罪。首都テヘランのイマーム・ホメイニ国際空港に到着した際も、同様の説明を繰り返した。

だが活動家は、こうしたコメントがイラン当局からの圧力を受けて出されたものであると懸念している。

空港の外にはレカビ選手の支持者が多数集まり、「エルナズは英雄だ」や「よくやったエルナズ」との声援や拍手を送ったり、スマートフォンでその瞬間を撮影したりした。同選手を乗せていると思われる車が空港を去る際にも声援と拍手は続いた。中にはヒジャブを着用していない女性もいた。

米ニューヨークに拠点を置く人権団体イラン人権センターは、レカビ選手が「英雄の歓迎」を受けたとする一方で、「身の安全をめぐる懸念は残っている」と指摘している。 【10月20日 AFP】
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【新たな事件も】
一方、イラン国内では抗議行動に伴う新たな事件も。

****15歳少女殴られ死亡か スカーフ問題に続く新疑惑 イラン****
女性のスカーフ着用強制に伴う死亡事件を発端に反政府デモが続くイランで、15歳の少女が治安当局に殴られ死亡した疑いが新たに浮上した。教員組合は「無実の人々の殺害」をやめるよう訴えている。  

同組合の声明によると、北西部アルダビルでアスラ・パナヒさんが他の生徒と共に差別や不公正に反対するスローガンを叫び始めた際、スカーフを着けた私服姿の女性警官に暴力を振るわれた。

学校に戻って再び殴打され、今月13日に搬送先の病院で死亡したという。他にも生徒数人が拘束され、生徒1人が意識不明に陥った。  

国営テレビは、パナヒさんのおじとされる男性が「彼女は心不全で死亡した」と語るインタビューを放映。一方、アルダビルの議員は「錠剤を飲んで自殺した」と話すなど、死因を巡る情報が交錯している。【10月20日 時事】 
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英BBCなどによると、“治安部隊は生徒に対し、イランの現体制を支持する歌を歌うよう強要した。歌は「こんにちは司令官」で、米軍に2020年1月、イラクで暗殺された革命防衛隊のソレイマニ司令官を賛美する内容だった。
だが、パナヒさんら複数の生徒は歌うことを拒絶し、政府を批判する声を上げた。その後、パナヒさんは治安部隊に暴行された。他の複数の生徒も病院に運ばれたり、逮捕されたりしたという。”という報道も。

この事件に関する続報などは目にしていません。

【「自由」を求める声 妥協の余地がない政権側】
抗議デモが長期化した背景には、単に女性のヒジャブだけの問題ではなく、現在のイランの抑圧的な政治体制への不満が自由を求める人々から噴出していることがあります。

逆に言えば、そうであるだけに当局・政権側としては「一歩譲れない」という対応にもなります。

****「政府を倒そうと思っている」長期化するイランの抗議デモに在日イラン人が語る思い…ヒジャブ着けずに競技に参加したイランの女性選手も****
イランでスカーフの着用が不適切だとして拘束された女性が死亡して約1か月。抗議デモは今も続いています。日本でも行われたデモに参加した、在日イラン人の男性からは「みんな政府を倒そうと思っている」そんな声も聞こえてきました。

■イラン抗議デモ「どれだけ血を流しても諦めない」 子ども27人含む215人死亡
イラン各地で1か月以上続く抗議デモ。収束の兆しは見えません。

10月11日に公開されたテヘランで行われたデモの映像では、デモに集まった学生たちが「女性!生活!自由!」と叫び、「血」を意味するペルシャ語の文字を”人文字”で表現しています。「政権によってどれだけ血を流しても私たちは決して諦めない」という意味が込められているそうです。

人権団体IRAN HUMAN RIGHTSによりますと、デモの鎮圧などで少なくとも子ども27人を含む215人の死亡が報告されています。(中略)

■「みんな一つになって政府を倒したい」背景には女性の立場の低さ
抗議の声は日本でも。来日して30年になるイラン人のナシール・パルヴィジさん(58)も母国への憤りを募らせています。9日に外務省前で行われたデモで抗議の声を上げていました。(中略)

大規模デモはなぜ、ここまで世界に広がっているのか。
ナシールさん 「我々は今、みんな一つになって政府を倒そうと思っているんです。いまデモに参加している人たちはほとんどが若い人で、これからの自分たちのことが心配で」

ナシールさんは大規模デモが広がる背景にイラン国内の女性の立場の低さがあると話します。

ーー女性というのはイランの中でどんな存在?
ナシールさん 「(女性の立場は)弱い。すごく弱い。人間として見ていない、女性のことを。ただ子どもを産んで終わり。あとは家の面倒を見て終わり」(中略)

小川彩佳キャスター: 今回のデモは若者や女性の参加が目立つということですが、価値観が変わってきているということでしょうか?

中東調査会 青木健太研究員: 1979年のイラン革命から43年を経て若者や女性の価値観が徐々に変化していると思います。
8月に4年ぶりにイランに現地調査に行ったが、ヒジャブを頭に被らずに肩にかけるだけの若い女性が特に北部、テヘランで多く見られました。過去には髪を少し見せるくらいの女性は多くいましたが、完全にというのは少なかった。
その意味では特に都市部で変わってきていて、それを道徳警察が厳しく取り締まる事案が増えているということも仄聞していましたので、そういった違和感を感じていた中で、9月16日のアミニさんの死亡事件を受けて抗議デモが広がっていったということになります。

国山ハセンキャスター: デモの長期化の理由について青木さんは「女性や若者の蓄積した不満が爆発した」と見ています。

【蓄積していた不満】
・ヒジャブ着用義務に中産階級の若者が反発
・2019年のガソリン値上げを受けたデモで暴力的な弾圧。数百人が死亡
・2021年の大統領選で投票の自由意志が奪われた

ヒジャブの着用義務以外にもずっとたまっていた体制側への不満が一気に噴き出した形なんでしょうか?

中東調査会 青木健太研究員: 抗議デモのスローガンを見てみると、「女性」「人生」「自由」ということを叫んでいる。あるいは「独裁者に死を」ということを叫んでいる。やはり女性が中心になっていることが今回のデモの大きな特徴。また、「自由」という言葉が入っていることが今回の抗議デモの参加者が求めていることを象徴しているように思います。

さらに言えば、アメリカの経済制裁によって経済状態が苦しくなっていて、経済的困窮も背景にあると思います。

■体制側は強固な姿勢 収束には長期化も?
小川キャスター: 今回のデモに対してイランの最高指導者・ハメネイ師は「デモを鎮圧する治安部隊の全面的支持」を10月3日に表明しています。このデモ、いつ収束するといえるんでしょうか?

中東調査会 青木健太研究員: 現段階で長期的見通しは難しいが、私は長引くと見ています。反体制側に統一した指導者が存在しないということで、体制側からしてみれば対話をする相手がいないという状況にある。
当初は大規模な活動でしたが、小規模なグループで散発的に行われることが全国各地に広がっていったという状況なので、なかなか収束に結びつけることが難しい。

今のイランの体制は宗教界や治安機関によって支えられているので、イスラームに基づく統治ということに関して、妥協するということが体制の基盤を危うくすることになりますので、融和策をとることも難しい。なかなか早期に収束することは見通せない状況だと思う。【10月19日 TBS NEWS DIG】
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経済的な不満だけなら何らかのバラマキでとりあえず鎮めることも可能ですが、「自由」という話になると「体制」の存続にかかわる問題で妥協の余地がありません。

***イラン抗議デモは「ベルリンの壁」に匹敵 米在住女性活動家****
イスラム教徒の女性が髪を隠すスカーフ「ヒジャブ」は、イラン政府にとって抑圧の道具になるかもしれないがアキレス腱(けん)にもなり、「ベルリンの壁」崩壊のような事態につながるのを政府は阻止しようと努めている──米ニューヨークを拠点に活動するイラン人ジャーナリストで人権活動家のマシー・アリネジャド氏はAFPにこう語った。(中略)

「私から見て、ヒジャブ着用の強制はベルリンの壁のようなものです。この壁を壊せば、(イラン・)イスラム共和国は存在しなくなる」とアリネジャド氏はAFPに語った。「ヒジャブの強制は(イラン・)イスラム共和国にとってアキレス腱。だからこそ政権はこの革命を本当に恐れています」

ヒジャブは「私たちを抑圧し(中略)女性を支配するための道具」であり、「女性を通じて社会全体を支配するためのものです」 イラン人女性が「服装を指図する人側にノーと言う」ことができるようになれば、独裁者にノーと言う力を持つようになるとアリネジャド氏は主張する。(後略)【10月15日 AFP】
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【経済的苦境への抗議も重なる】
「自由」を求める声は、現行政治体制のもとで経済的苦境に苦しむ市民の声とも重複しています。

“中間層がここにきて、50%に跳ね上がったインフレと、今年最安値を更新した通貨リアル急落による重圧に苦しめられている。イランでは人口の約3分の1以上が貧困層で、この比率は2015年の20%から急上昇。中間層も全体の50%を割り込んだ。

テヘラン北部にある裕福な地域の通りで抗議デモに参加していた52歳の主婦は「デモの根本にあるのは経済問題で、これが今爆発している」と話す。彼女はヒジャブを取り、他の女性の群衆とともに振り回していた。【10月5日 WSJ】

経済的側面としては、イラン経済の根幹をなす石油産業労働者のストライキに波及しています。

****ヒジャブから石油産業に飛び火したイランの反政府デモ****
<風紀警察の手によるとみられる女性の死に対する抗議が、イランの財源を支えるエネルギー産業の労働者に波及、全土でストライキが相次いでいる。エネルギー産業の労働争議は、1979年のイラン革命の原動力だったともいわれ、政府幹部にも焦りがみえる>

22歳のクルド系女性、マフサ・アミニの死をきっかけにイランで始まった抗議活動は、10月第3週に入ってから、同国の主要産業である原油・石油化学セクターにまで拡大しており、その現場を映したオンライン動画が出まわっている。この抗議活動は、イランの原油生産とグローバルサプライチェーンに影響を及ぼす可能性があるし、体制転換にもつながりかねない。(後略)【10月12日 Newsweek】
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後先の話で言えば、生活困窮からの労働者争議の方が年初から存在し、アミニさんの事件への抗議に合流した経緯があります。

“デモの第1波は今年に入って始まった。主導したのは、賃金が貧困ラインを割り込んだ石油業界の従事者や教師らの業界団体だ。 労組はこれまで、アミニさんが違反したとされるヒジャブ着用義務づけの法律を廃止するための運動に加わるよう、組合員に求めている。”【10月5日 WSJ】

【農村部の支持を得ている現体制 都市部の抗議だけでは体制転換は困難】
ただ、体制転換という話になると、そうそう事は進まない・・・という指摘も。

****イランで抗議デモが広がっても体制転覆はしない事情****
(中略)イランで体制を批判する大規模なデモが起きると、イラン嫌いの米国や欧州諸国はこのようなデモを大きく取り上げるきらいがあるが、イランのイスラム革命体制が今にも倒れると思うのは早計であろう。

なぜならば、イランのイスラム革命体制は、40年間かけて強固な支配体制を構築しており、特に1979年のイラン革命前の王政時代には、農村部の犠牲の上に都市部の繁栄があったが、革命後、イスラム革命体制は、農村の開発に力を入れた結果、元々、信心深く保守的な農村部の支持を確保していると思われるからである。

度々起きている全国規模のデモも、都市部で起きており、農村部で大規模な反政府デモが起きたとは聞かない。逆に言えば、これまで農村の犠牲の上で特権を得ていた都市部の住民が今度は損な役回りとなり、都市部住民がイスラム革命体制に対して不満をつのらせがちであることも大規模なデモが都市部で起こる遠因であろう。(後略)【10月14日 WEDGE】
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都市部の不満層だけの抗議で終わるのか、保守的農村部にまで抗議が拡大するのか・・・そこが抗議行動、そしてイラン政治体制の今後を決める分かれ道になります。
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イギリス  10%超えのインフレで困窮する市民生活

2022-10-23 22:14:50 | 欧州情勢
(イギリス・ロンドンにあるファストフード店を取材。この店ではフィッシュバーガーのランチセットが、日本円でなんと約3,000円で売られています【10月6日 日テレNEWS】)

【トラス首相の「成長戦略」 インフレで減速する経済を立て直すための大型減税策だったが・・・】
イギリスのトラス英首相が、国民や議員、さらには市場からも総スカンを食い、英国史上最短の在任期間で首相の座を降りることとなった”混乱”は周知のところ。

****英政治、信用に傷 首相辞意 責任〝放棄〟に国民反発****
9月上旬に発足したトラス英政権が約1カ月半という異例の短期政権で終わる見通しとなった。

経済失政で市場を混乱させた失態だけでなく、大型減税策の修正をめぐる説明責任を十分に果たさず、与野党から非難が集中。求心力を大きく低下させ、与党・保守党内の亀裂も深めてしまった。ジョンソン前政権時に落ち込んだ保守党の支持は一段と低迷しており、今後の英政治情勢に暗雲がかかっている。

ロシアのウクライナ侵略の影響で英国民が物価高にあえぐ中、トラス氏は「英経済を成長させる」との目標を掲げ首相に就任した。

ジョンソン前政権ではガソリンや食料のインフレに抜本的な対策をとれなかった上、新型コロナウイルス流行に伴う行動規制下のパーティー開催などの不祥事が発覚。トラス氏は、抜本的な経済対策で国民の信頼を回復することが「最優先課題」(保守党員)だった。

だが、物価高騰のあおりで減速する景気を立て直すため政権が打ち出した大型減税対策は、信用不安を招き通貨ポンドが急落。市場の動揺が欧州圏に悪影響を与える恐れも高まり、国際通貨基金(IMF)やバイデン米大統領まで英政権に懸念を示す異例の事態に発展した。

大型減税策の失敗が明白になっても、責任放棄にも映るトラス氏の姿勢が国民の反発を強めた。英メディアによると同氏は、減税策の最高税率の引き下げについて政策責任者のクワーテング前財務相から「事前に知らされていなかった」と発言。クワーテング氏を解任した後の記者会見を8分ほどで打ち切り、議会審議でも減税策の修正を自ら十分に説明せず野党の失笑を買った。(中略)

英調査会社ユーガブによると今月12日時点、保守党の支持率は23%と最大野党・労働党に28ポイントも差をつけられた。ジョンソン前首相が辞任を表明した7月7日時点の11ポイント差から大きく拡大した。ある英政治専門家は「保守党が政権を維持し続けてよいのかを見直すときにきている」と述べた。【10月21日 産経】
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イギリスで深刻化するインフレとトラス首相のアベノミクスを意識していたともされる「成長計画」の相性の悪さは以下のようにも。

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9月23日に無理筋な「成長計画」が公表された直後から、金融市場では「クワーテング財務相の更迭と成長計画の修正は不可避」というのがメインシナリオとして指摘されていた。

通貨が著しく下落することで輸入物価が上昇し、その影響でインフレが進む。それによって実質所得環境が悪化すれば、消費・投資意欲は当然減退する。同時に市中金利も上がっているわけだから、状況はさらに悪くなる【10月20日 唐鎌大輔 [みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト] BUSINESS INSIDER】
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政治の方は、おそらくトラス氏と夏の党首選を競ったスナク元財務相が引き継ぐ形になるのでしょう。コロナ禍のもとでのクリスマスパーティーなど、そのいい加減な対応で国民の総スカンを食って退陣したはずのジョンソン前首相の名前がまた取り沙汰されてもいますが、そちらは機会があればまた後日。

【若者のライフスタイルも変化 “Quiet Quitting”】
今日は、インフレの方の話。
インフレはイギリスだけでなく、世界共通の現象でもあり、欧州各国も対応に苦しんでいます。
コロナ禍の社会変化なども合わさって、若者のライフスタイルを変えているとも。

****いま、欧州で仕事へのヤル気を失う若者たちが急増中…!コロナ・インフレ・戦争「三重苦」の、ヤバすぎる現実****
欧州で深刻な人手不足が起きている状況について伝えた前編記事『崩れ行く欧州社会の「ヤバすぎる実態」…! 「ガソリン代を払ってクルマ出勤するぐらいなら、失業手当で生活する」』に続き、後編ではその原因や背景についてさらに紹介します。

コロナ・インフレ・戦争の「三重苦」
なぜ、欧州ではいま、深刻な人手不足に見舞われているのでしょうか。  

現在、道行く人は誰もマスクを着用していないヨーロッパですが、パンデミックが始まった当初は各国厳しい規制を敷いていました。小売店や飲食業、交通などのビジネスは多大なダメージを受け、人々の間で「次また未知のウイルスが流行った時に、自分の仕事は直ぐに切られるのではないか」という不安が高まりました。  

解雇された従業員は、このような不信感からコロナが明けた今もそれらの仕事に戻ることがないと見られています。 

そんな欧州の人々の生活難に拍車をかけているのが、破壊的なインフレーションです。 ユーロ圏のインフレ率は8月も過去最高となりました。オランダ、イギリスともにインフレ率は7月時点ですでに10%を超えています。

物価が高騰し、オランダでは昨年9月に比べてスーパーでの買い物の価格が平均18.5%も上がったことが報告されています。 ある調査によると、平均的なオランダの4人家族の場合、昨年は1年間の食費に平均7000~8000ユーロ(約97万~111万円)かけていたのが、今年は1500ユーロ以上(約21万円)増える計算になるといいます。  

価格の高騰は食料のみならず、光熱費にも及びます。光熱費は家庭によっては前年に比べ3~4倍以上を請求されるケースもあり、オランダに住む我が家のガス料金も2.5倍近く値上がりしました。(中略) そして、今後の戦況次第では、さらに価格が高騰する可能性もあります。(中略)

パンデミックが終わった後も、上がっていくインフレ率に給料が追い付かず、家計は圧迫され、トドメにウクライナ戦争の影響で光熱費も高騰…。コロナ・インフレ・戦争の「三重苦」によって、今後欧州のさらなる格差拡大が危惧されています。大変残念なことに、これがいまの西欧社会の「現実」なのです。

「静かに辞める」若者たち
そうした中、現在欧米では、”Quiet Quitting”(静かに辞める)という言葉がトレンドになっています。  

これは、欧米の若者の「任された仕事はきちんとやるが、それ以上のことはしない」という仕事に対する態度を指す言葉で、TikTokやYouTubeなどで「仕事に全力投球してキャリアを築く」という文化に反発する意味で使われています。  

BBCは、“Quiet Quitting”を「パンデミック以降、余分な労働をしても認知されなかったり補償をされないことに疲れた若い労働者の数が増加した」と説明しています。  

パンデミックによる解雇に加え、感染状況によって変わる出社規制は生活を不安定にし、若者たちは会社や雇用主への不信感を高めたのです。  

人手不足が続く中、企業側もそうした若者たちの“Quiet Quitting”を意識して、求人ポスターをつくっている節があります。(中略) 3つめの老舗百貨店の求人ポスターは時給をいっさい明示しないまま、「やりがいがあり自分を試すことができる場所」であることをアピールしており、前の2つとの違いは明らかです。 

こうした企業による若者たちへのアピールが奏功するかはいまのところまだわかりませんが、ここまで露骨なことをしなければならないほどに、欧州の人材不足と“Quiet Quitting”が深刻であるということは確かです。【10月2日 千原ビットナー さとみ氏 現代ビジネス】
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Quiet Quitting・・・競争社会に疲れた中国の寝そべり族(家を買わない、車を買わない、恋愛しない、結婚しない、子供を作らない、消費は低水準、「最低限の生活を維持することで、資本家の金儲けマシーンとなって資本家に搾取される奴隷となることを拒否する」といったポリシー)にも共通するものがあるようにも。

【国内世帯の半数が食事回数を減らしている】
“Quiet Quitting”は日本でもわからないではないですが、三度の食事も難しくなっているインフレの現状については「本当かね・・・」って感じも。

****英世帯の半数、物価高騰で「食事抜き」 消費者団体****
英消費者団体は19日、物価高騰を受け、国内世帯の半数が食事回数を減らさざるを得なくなっていると警鐘を鳴らした。政府が光熱費抑制策の縮小を打ち出したことから、多数の国民が貧困状態に陥る恐れがあるとも予想している。
苦境に立たされている保守党のリズ・トラス首相は、山積する経済問題に直面。そうした中、9月の消費者物価指数上昇率は食品価格の高騰を受け、前年同月比で再び10%を上回った。

消費者団体「Which?」が3000人を対象に実施した調査によると、国内世帯の半数が食事回数を減らしている。同じく半数が健康的な食事をするのが以前より難しくなったと回答、80%近くが経済的に苦しいと答えた。

同団体で食糧政策を担当しているスー・デービス氏は、「生活費危機の直撃で数百万人が食事を抜くか、健康的な食事を取れない事態となっている恐れがある」と指摘した。

同団体はまた、政府が光熱費抑制策の縮小を決定したため、数百万人が十分な暖房を確保できなくなるだろうとの見方を示した。

ジェレミー・ハント財務相は17日、市場に混乱をもたらしていた減税計画を「ほぼすべて」撤回すると発表。目玉政策である光熱費抑制策の終了時期も2024年末から来年4月に前倒しするとした。 【10月20日 AFP】
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“国内世帯の半数が食事回数を減らしている”・・・・本当でしょうか? 俄かには信じがたいところも。 統計のマジックみたいなものがあるのでは・・・

【追い詰められ性産業に走る女性増加】
いずれにしても、食料品も上がる、光熱費も家賃も上がるという年率10%を超えるインフレで生活が非常に厳しくなっているのは事実でしょう。

Quiet Quittingや寝そべっていられるのは、ある意味恵まれた環境かも。
多くの人は生きるためには泥水をすすっても・・・ということにもなります。

****生活費高騰の英国、追い詰められ性産業に走る女性ら****
オンラインでのセックスワーカーとして働くマーサさん(29)は、英国の生活費危機のために収入が減りつつあるという。生活費の急騰で売春に走る女性が増え、競争が激化していることが一因だ。

身元を伏せるため仮名を条件に取材に応じたマーサさんは「誰もが稼ぐのに必死で、少ない対価で多くのサービスを提供するようになっている」と語る。

「家計がさらに苦しくなれば、状況はさらに悪化すると心配している」とマーサさん。ここ数カ月で、収入は以前の1日250ポンド(約4万2000円)から150ポンドに減ったという。

マーサさんは昨年、人員整理で解雇された後にこの仕事を始めた。その後、小売業で販売アシスタントの仕事にも就いたが、出産に備えて貯金をしており、生活費が高くなった分を賄うために副収入が必要なのだと語る。

英国各地の慈善団体やセックスワーカーによる労働組合は、今年に入って性風俗業を開始・再開する人が増えていると報告している。同国では消費者物価指数(CPI)の上昇率が、主要7カ国(G7)で最高の前年比約10%に達するためだ。

売春の非犯罪化を掲げて活動する現・元セックスワーカーのネットワーク、英売春婦組合(ECP)では、6月に性風俗業を始めるための支援を求める相談者が30%も急増した。また慈善団体「ビヨンド・ザ・ストリーツ」によれば、性風俗業を再開・拡大する女性は増えているという。

女性セックスワーカーを支援する慈善団体「マンチェスター・アクション・オン・ストリート・ヘルス(MASH)」では、2021年12月から2022年4月にかけて新規の支援利用者が100人を超えた。四半期としては4年ぶり最多の数字だ。

性風俗業への参入者が増える一方、利用者の財布のひもが固くなればなるほど、従事者が不本意なサービスの提供を強いられる、あるいはより大きなリスクを取らざるを得なくなる恐れがあると支援活動家らは警告する。

「生活が苦しくなるほど、いつもならやりたくもないサービスを提供することになる」と、ECPの広報担当者ローラ・ワトソン氏は語る。

お金のための性行為は英国では合法だが、支援団体は、売春業への勧誘や手助けを禁じる法律によってセックスワーカーへの支援が阻害されており、性風俗業を始める人々をかえって危険にさらす可能性があると語る。

「誰にも相談することなく、初めて性風俗業に就くことになる――そのことが安全に及ぼす影響を強く懸念している」とワトソン氏は語る。

<副業としての性風俗業>
英国は世界第5位の経済大国だが、食料・エネルギー価格の上昇率は引き続き賃金上昇率を上回っており、今年の春、国内労働者の実質賃金の下落幅は2001年以降で最大となった。やむなく副業を探すようになった労働者は多い。

保険会社ロイヤル・ロンドンが最近行った調査によれば、英国では500万人以上の労働者が、高騰する生活費を賄うため副業を始めたという。

その中には性風俗業を選ぶ人もいる。就業時間が柔軟である上、一時的にせよ定期的にせよ、手っ取り早く副収入が得られるという魅力があるからだ。

ECPのワトソン氏は「多くの女性は他に仕事があるか失業手当の給付を受けており、収入を増やそうとしている」と語る。

「何とか最低限の生活費を賄おうと、街頭に立つ女性もいるだろう」とワトソン氏は言い、ECPネットワークの約70%は母親だと言葉を添えた。

慈善団体「ヤング・ウィメンズ・トラスト」の調査では、生活費危機による影響は男性よりも女性の方が深刻であることが判明している。シングルマザーの約半数が過去1年のうちに食料品や生活必需品を購入できない状況を経験しており、若い母親の10人に3人は、子どもに食べさせるために自分の食事を抜いたことがあるという。

同団体のクレア・レインドープ最高経営責任者は、低料金の保育サービスや、いつもの仕事で残業を増やして収入増を図れるような就業機会に恵まれている女性は多くないと語る。

だが、ヨーク大学ビジネス社会学部の博士研究員であるテス・ハーマン氏によれば、性風俗業では労働者保護が手薄であり、インフレでもサービス対価を引き上げることは困難だという。

「公共料金も食料品も値上がりするが、賃金の多くは横ばいだ。不安定な職種やギグ・エコノミー(単発請負型経済)では特にそれが顕著だ」と同氏は分析する。(後略)【10月23日 ロイター】
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上記記事のマーサさんは、デジタルコンテンツのサブスクサービス、アダルトサイト、そしてツイッターで直接連絡してくる顧客向けに、成人向けコンテンツを制作しているとのこと。
自分の生活で手一杯という状況になれば、他の社会的弱者への配慮や対外支援といったものへの関心は薄れ、「そんなことに使うお金があるなら、私の生活をなんとかして」という話にもなります。

冬場の光熱費がかさむ季節になったとき、これまでのようなウクライナ支援をイギリス、欧州が続けられるのか・・・という問題にもなります。
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ドイツ  悩ましい中国との関係 関係見直しを迫る「政治」 経済的には中国は「最も重要な貿易相手国」

2022-10-22 23:13:27 | 欧州情勢

(【4月26日 日経】 自動車最大手のフォルクスワーゲンの21年の国別販売台数で見ると、中国は全体の4割近くを占めている最大のお得意様、また、ドイツが輸入しているスマートフォンの50%以上が中国製など、中国にとってもドイツはアメリカ・近隣国以外ではとびぬけた上顧客・・・等々、ドイツと中国は経済の観点では“相思相愛の間柄”とも)

【ショルツ首相「中国の切り離しは誤った道」】
10月18日ブログでも取り上げたように、アメリカは中国を「国際秩序を変える意図と能力を持つ唯一の競争相手」と位置づけ、対抗していく姿勢を強めています。

****米安保戦略、中国との競争優先 ロシア危険視****
米政府は12日、外交・安保政策の指針をまとめた「国家安全保障戦略」を発表した。国際社会で唯一の競争相手と見なす中国に勝つことを優先課題とした上で、「危険な」ロシアの抑制にも取り組むとした。

同戦略の発表はロシアによるウクライナ侵攻の影響で遅れていた。米政府は、2020年代は紛争を抑制する上でも、気候変動という共通の大きな脅威に立ち向かう上でも、「米国と世界にとって決定的な10年になる」と説明。

米国は「中国に対する持続的な競争力の維持を優先しつつ、依然として極めて危険なロシアを抑制していく」とした。

中国については、「インド太平洋地域に強力な影響圏を構築して世界屈指の大国となる野望を持っている」と指摘し、「国際秩序をつくり変える意図を持ち、その目標を推進する経済力、外交力、軍事力、技術力を強めている唯一の競争相手」と位置付けた。 【10月13日 AFP】
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こうした国際環境で、アメリカと共同歩調をとる日本や欧州にとって、中国との距離の取り方が大きな問題となります。

中国と隣国の位置関係にあって、歴史的にも、現在の政治的にも中国との間に多くの問題を抱える日本に比べると、欧州にとっては中国はやや遠い存在であり、以前は単純に経済関係、特に、その市場としての価値を重視するような傾向もありましたが、近年は新疆ウイグルの人権問題など、中国の政治体質に対する警戒感も強まっています。

ただ、いたずらに中国を敵視し、中国との経済関係を断とうとするような動きについては、中国との経済的な関係を重視するドイツ・ショルツ首相などは警戒を示しています。

****「中国切り離し」に反対したショルツ首相を中国が称賛―独メディア****
2022年10月12日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、中国の切り離しに反対するドイツのショルツ首相を中国政府が称賛したと報じた。

記事は、ショルツ首相とドンブロウスキス欧州委員(貿易担当)が11日にベルリンで開かれたドイツ機械工業連盟(VDMA)の会合で中国の切り離しを行わないよう警告を発し、ショルツ首相が「中国の切り離しは誤った道。求められるのは知恵に満ちた政治と、経済の多様化だ」と述べたことを伝えた。

そして、ショルツ首相らの発言に対して中国外交部の毛寧(マオ・ニン)報道官が12日の定例記者会見で「われわれは欧州政府の姿勢をポジティブに評価する。中国もグローバル化を支持し、デカップリングには反対だ」と評価するとともに、世界経済が低迷する中でオープンな協力を堅持し、経済、貿易のつながりを強めることが、中国と欧州双方にとってメリットとなるばかりでなく、世界経済の回復にも寄与すると述べたことを紹介した。

また、ショルツ首相が11月に初めて中国を訪問して習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談する予定だと複数のメディアが報じており、実現すればG7諸国首脳では新型コロナ後初めての訪中となるとともに、中国共産党第20回党大会終了後最初の海外首脳の訪中になる見込みだと伝える一方で、ドイツ、中国の両政府はショルツ首相の訪中について明言していないとしている。【10月13日 レコードチャイナ】
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【ドイツ経済界「中国市場を捨てたくない」 ドイツにとって中国は「最も重要な貿易相手国」】
中国との関係を重視するのは、ドイツ政府・ショルツ首相というより、ドイツ経済界でしょう。

ドイツにとって中国は「最も重要な貿易相手国」であり、2021年の貿易総額は2450億ユーロ(約35兆円)とドイツの対外貿易総額の10%近くにもなる・・・そういう国を“世界屈指の大国となる野望を持っている”として、あっさり捨てる訳にいかない事情があります。(それは、日本も、そしてアメリカも同じでしょう)

****ドイツ経済界は中国市場に未練も、副首相「ゆすられること許してはならない」―独メディア****
独メディアのドイチェ・ヴェレ中国語版は16日、ドイツ経済界から「中国市場を捨てたくない」との声が上がる一方、政府は対中強硬姿勢を強めていると伝えた。

記事によると、ドイツ商工会議所連合会(DIHK)の対外貿易部門責任者のVolker Treier氏は、このほどロイターの取材に「経済関係において多くの困難があるものの、大多数の(ドイツ)企業にとってはこの(中国)市場を放棄する意味がない」と述べた上で、「重要なのはわれわれが中国と明確な貿易・投資ルールを制定しようとしていること。できれば世界貿易機関(WTO)を通してだ」とした。

同氏はまた、「(中国の)指導部の最終的な構成は、中国の今後数年間の経済政策の優先事項についての情報を提供してくれるだろう」とした。中国では現在、第20回の共産党大会が行われており、習近平(シー・ジンピン)総書記が3期目に突入することが確実視されていると同時に、経済政策を主導してきた李克強(リー・カーチアン)首相の去就にも注目される。

キール世界経済研究所のRolf Langhammer氏は「中国は台湾問題で『内政干渉』をしないよう欧州連合(EU)に求めるだろう」としたほか、「中国は外国企業が単に中国に物を輸出するだけでなく、生産チェーンを中国に移転するよう奨励するだろう」との見方を示した。

記事によると、ドイツにとって中国は「最も重要な貿易相手国」であり、2021年の貿易総額は2450億ユーロ(約35兆円)とドイツの対外貿易総額の10%近くにもなる。また、中国で事業を展開するドイツ企業はおよそ5000社に上る。

ただ、Treier氏は「中国経済はすでに停滞に陥り始めている」と指摘。特に機械、自動車などの分野での減速が目立ち、輸出に依存するドイツ産業界では懸念が広がっているという。

ドイツでは近年、中国への過度な依存によるリスクを警告する声が増え始め、今年は特に顕著に。ドイツはロシアからのエネルギー供給に大きく依存してきたが、ロシアによるウクライナ侵攻後にそれが弱点となった。

ドイツのハーベック副首相兼経済・気候保護相は「通商政策で中国に対しより強硬な姿勢を取るだろう」とし、「中国は確かに歓迎される貿易パートナーだが、保護主義が存在するならそれに対応しなければならない。われわれはゆすられることを許してはならない」と述べたという。【10月17日 レコードチャイナ】
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【ベーアボック独外相「中国経済に過度に依存してはならない」 ショルツ首相とは異なるベクトル】
一方でドイツ国内には、ロシア依存で苦しむ現状を引き合いに、中国への過度の依存を戒める見方もあります。

****ロシアの教訓、独外相「中国に過度に依存してはならない」―独メディア****
ドイツのベーアボック外相が中国への過度な依存を警告した。独メディアのドイチェ・ヴェレ中国語版が19日付で伝えた。

ベーアボック氏は18日、対中戦略を調整するにあたり、「ドイツはロシアのエネルギーに大きく依存していたこれまでの過ちを犯さないようにしなければならず、中国経済に過度に依存してはならない」との考えを示した。同氏は先日行われた外交政策フォーラムでも「われわれはここ数十年のロシアに対する政策から教訓を得なければならない」と述べていたという。(中略)

同氏はさらに、政府が現在起草中の「国家安全保障戦略」には対中戦略も含まれるとし、「国際法を信じる国や協力する国と、専制政権を信じる国との間で制度的な競争があることを、ドイツは直視しなければならない」とも指摘したという。

AP通信によると、ドイツ企業は近年、中国に大量の投資を行っており、中国はドイツの最大の貿易相手国の一つ。ドイツでは最近、中国遠洋海運集団がハンブルク港の運営会社に出資しようとしていることをめぐり、激しい論争が繰り広げられている。

ドイチェ・ヴェレは一方で、「ベーアボック氏に比べてショルツ首相の態度は保守的だ」と指摘。ショルツ氏が「われわれは個別の国とビジネスを続けなければならないが、それには中国も含まれている」と述べ、中国切り離しは賢明ではないとの考えを示したことを伝えた。【10月20日 レコードチャイナ】
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(上記記事にある“ハンブルク港の運営会社”の問題は、9月17日ブログ“英独と中国の最近の摩擦 宙に浮くEU・中国の包括投資協定”で取り上げています)

ショルツ首相の「中国の切り離しは誤った道」という発言と、ベーアボック外相の「中国経済に過度に依存してはならない」、ハーベック副首相兼経済・気候保護相の「われわれはゆすられることを許してはならない」という発言の間には、やや温度差があるようにも。

実際、両者は社会民主党と中国に厳しい緑の党と、所属政党が異なり、中国へのスタンスに差もあります。
“迷走”とも評されるような異なる向きのベクトルが交錯しているのがドイツの現状でしょう。

【対決も辞さないとする「政治」と、相互関係を重視する「経済」の違い】
安全保障を重視し、対決も辞さないとする「政治」と、相互関係を重視する「経済」の立場の違いとも言えます。

****英国EU離脱の「6倍」という衝撃。ドイツ経済界が懸念する「脱中国」の影響****
イデオロギーを全面に押し出した政治は、経済的にマイナスとなる面があり、不協和音や対立を生むようです。ウクライナ支援や中国との関係に関して、アメリカ国内とドイツ国内で対立が顕在化していると指摘するのは(中略)拓殖大学教授の富坂聰さん。(中略)

ヨーロッパの各国国内には「経済的な逆風は我慢してウクライナ支援をすべき」という主張と「自分の生活を守ることを優先すべき」との主張がぶつかっている。交錯する思惑のなかで難しいかじ取りを迫られるのは各国の政治が抱える悩みである。

なかでも目立つのはドイツの迷走だ。同国で明らかなのは、中ロに対する姿勢をめぐり、首相と他の閣僚との間に明らかにスタンスの違いが生じていることだ。例えば、10月11日、ベルリン機械工業サミットで演説したオラフ・ショルツ首相は、グローバル化の可能性に触れ、中国との関係を意識して「サプライチェーンの寸断には断固として反対する。それは明らかに誤った道だ」と述べた。

しかし、その直後に何とドイツ外相のアンナレーナ・ベアボックが「ドイツ経済は過度に中国との貿易に依存すべきではない」とサプライチェーンを調整する必要性に言及しているのである。

同じタイミングで欧州連合(EU)もフォンデアライアン委員長がレアアースなどで対中依存の見直しに言及しているので、欧州全体の流れと見ることもできるが、ドイツ国内の事情を忘れてはならない。

それは緑の党とドイツ社会民主党の政策の違いからくる齟齬だ。事実、ベアボックと同じくショルツ政権で副首相及び経済・気候保護大臣を務めるロベルト・ハーベックも「脱中国」を公然と口にする。ハーベックも緑の党だ。

ハーベックはG7(先進7カ国)貿易大臣会合でロイター通信のインタビューに応じ、中国産の原材料、バッテリー、半導体への依存度を減らすために「新たな対中通商政策に取り組んでいる」と語っている。

中ロを一括りに厳しい姿勢で臨むのが緑の党の姿勢だ。それに対しショルツ首相が現実的な調整を迫られるという図式だ。

この二者の立場は、アメリカの政界と経済界の立場の違いにも似ていて、おそらく多くの国で見られるねじれ現象だ。政治が経済成長にとっての大きな逆風になる時代である。

ドイツの経済界は、メルケル後に誕生した連立政権から、おそらく政治の逆風が吹くとを予測し、早くから「脱中国」のマイナス影響を明らかにし、けん制する動きを続けてきた。

代表的なのは今年8月、ミュンヘンに本部を置くIfo経済研究所だ。同研究所は、もしドイツと中国の間に経済戦争が起きれば、という仮定で損失のシミュレーションを行っていて、その損失を「イギリスのEU離脱の6倍にあたる」と算出。衝撃的な結論を導き出している──【10月18日 富坂聰氏 MAG2NEWS】
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【EU ロシア依存の教訓から、中国との関係を見直す動き】
上記記事にもあるように、EU全体としては、ロシア依存の教訓から、中国との関係を見直す動きがあります。

****EU首脳、中国への経済依存に懸念 ロシア問題で苦い経験*****
欧州連合(EU)は21日、ブリュッセルで開いた首脳会議2日目の討議で、ロシアへのエネルギー依存を高めたことによる苦い経験を踏まえ、中国への経済依存に懸念を示し、団結した厳しい対中姿勢が必要との考えを示した。

EUは2019年以降、中国をパートナー国、経済的な競合国、システミックなライバル国と公式に見なしている。

フランスのマクロン大統領がEUは中国にインフラを売却するという「戦略的な誤り」を犯していると述べたほか、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、EUはロシアに依存したことで教訓を学んだため中国に対し警戒する必要があるとし、「中国の場合は技術や原材料に依存するリスクがある」と指摘。EUは生産能力を高め、信頼できる供給源にシフトしなければならないと述べた。

フィンランドのマリン首相も、EUは革新的な技術への依存を回避し、代わりに民主主義国家間の強固な協力関係を促進する必要があるとの考えを示した。

このほかラトビアのカリンシュ首相は、ロシアによるウクライナ侵攻について、中国が「歴史の正しい側に位置している」ことを確認するために、中国と対話を行うことが重要になると語った。(後略)【10月22日 ロイター】
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【EU内で批判にさらされるドイツ ショルツ独首相、11月初旬にG7首脳としては初めての訪中】
こうした中、「われわれは個別の国とビジネスを続けなければならないが、それには中国も含まれている」として現実的調整を重視するショルツ独首相は企業代表団とともに訪中すると表明。メルケル前首相は中国重視の姿勢を示していましたが、ショルツ首相がどのような態度で臨むのかが注目されています。

ショルツ訪中団が実現すれば新型コロナの感染拡大以降、G7首脳としては初めてとなります。

****独首相、11月初旬に訪中 企業代表団と****
ドイツのショルツ首相は21日、企業代表団とともに訪中すると明らかにした。フランスのマクロン大統領と同行するかは言及しなかった。欧州連合(EU)首脳会議に出席するため訪問中のブリュッセルで述べた。

首相報道官によると、時期は11月初旬になる見通し。

独政府は現在、中国との貿易関係を見直す姿勢を示している。

またショルツ首相は、EUにはエネルギー価格引き下げに向けた確固たる枠組みがあるとし、エネルギー政策についてどの国も反対票を投じることはないとの認識で一致したという。【10月21日 ロイター】
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ミシェルEU大統領は21日の記者会見で、中国は「競争相手」という立場を確認したと述べ、「供給網で対中依存を減らさねばならない」と訴えると同時に、地球温暖化対策では対話が必要だと訴えています。

ミシェルEU大統領のような主張とショルツ独首相の間で認識の一致があるのか・・・中国政策も微妙ですが、ショルツ独首相は天然ガス価格の上限設定や、消費者と企業をエネルギー価格の高騰から守るための2000億ユーロ支援策などを巡り、他のEU諸国からの圧力に直面しています。

****EU首脳会議、独に批判の集中砲火 ガス価格対策で****
欧州連合(EU)は20、21の両日、首脳会議を開いた。天然ガス価格高騰に対応するため、ガス価格への上限設定が焦点となった。

ドイツが難色を示し、結論は先送りされた。EUではドイツが単独で巨額の国内支援策を決めたことへの不満も高まっており、「自国優先」という批判が相次いだ。会議では、EUの中国政策も課題になった。

首脳会議の声明は、ガス価格への上限設定には踏み込まず、「過度な価格上昇を制限する」ための一時的な方策を定める方針を明記した。また、加盟国のガス備蓄の15%を共同購入する目標を掲げた。

上限価格の設定は9月末に、イタリアやフランス、スペイン、東欧など15カ国が提案した。ショルツ独首相は20日の首脳会議直前、「政治的に価格に上限を設ければ、欧州へのガス供給を減らす危険がある」と演説。ロシアに代わる供給元を探る中、ガス輸出国との新たな契約が難しくなるとの懸念を示した。

ドイツの国内支援策はガス高騰から企業や消費者を守るため、総額2千億ユーロ(約30兆円)を拠出する内容で、9月末に発表された。

EU域内でドイツ企業を優遇することになるという指摘が強く、エストニアのカラス首相は20日、「EU27加盟国が自国のことしか考えなければ、EUは沈没する。このことをドイツは理解してほしい」と主張。ポーランドのモラウィエツキ首相は「ドイツが単独行動をとれば、EU市場が阻害される」と訴えた。

20日にはウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで演説し、「ロシアの攻撃で国内のエネルギー施設の3分の1以上が破壊された」と述べた。ロシアは暖房や電気を使えなくして、EUに再び大量の難民を送り込もうと画策していると強調した。(後略)【10月22日 産経】
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こうした状況でのショルツ訪中団の動向が注目されます。
エネルギーを頼ってきたロシアを捨て、更に「最も重要な貿易相手国」中国を捨て・・・ではドイツ経済が立ち行かない・・・というのも現実。
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