孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  アゼルバイジャンとの緊張、背後にいるイスラエルを意識か イラン国内でサイバー攻撃

2021-10-31 23:23:52 | イラン
(【10月31日 朝日】)

【ナゴルノ・カラバフ紛争でのアゼルバイジャン勝利の陰にイスラエル製兵器】
10月27日ブログ“ウクライナ ナゴルノ・カラバフ紛争で威力を発揮したトルコ製AIドローンで親ロシア勢力を攻撃”で、“ナゴルノ・カラバフ紛争で威力を発揮したトルコ製AIドローン”について取り上げましたが、実際トルコ製ドローンがどういう役割を担ったのか、書いていて私自身よくわからない部分もあったので、その点について追加・補正します。

結論から言えば、トルコ製AIドローンが威力を発揮できたのは、その前段階にアゼルバイジャンがイスラエル製対レーダー自爆突入機を使ってアルメニアの防空システムを破壊したことが戦略的勝因だったとのこと。
“第二次カラバフ戦争の防空網制圧ドローン戦術”【2020年12月11日 JSF氏 YAHOO!ニュース】

先ず、旧式の複葉輸送機アントノフAn-2を大量に無人で飛ばして敵陣に突っ込ませ(パイロットは途中でパラシュート脱出)アルメニアの防空網に迎撃を行わせて地対空ミサイル(SAM)のレーダーを発信させて布陣された位置を確認。

次に、レーダー波を感知して自爆突入するイスラエルIAI社製「ハーピー」「ハーピーNG」「ハロップ(ハーピー2)」という徘徊型兵器である対レーダー自爆突入機を送り込み、アルメニア側の防空システムを自爆攻撃で破壊。

そのあとに、トルコ製AIドローンのバイラクタルTB2が敵陣を攻撃したとのこと。

“バイラクタルTB2は第二次カラバフ戦争で最も多くの戦果を挙げました。ただし飛行性能はセスナ機と同程度の速力のプロペラ機であり中高度を飛ぶ運用なので、強力な敵防空網が生きている場所では満足な活動はできません。つまりバイラクタルTB2の戦果は事前に行われた防空網制圧の対レーダー攻撃があればこそだったのです。”【同上】

“この囮を使う戦術は過去にアメリカ軍が何度か行っているものであり、今や定番とも言える方法”【同上】だそうです。

軍事的知識が全くありませんのでよくわかりませんが、アゼルバイジャンの勝利はトルコ製ドローンだけでなく、イスラエル製対レーダー自爆突入機の成果でもあったそうです。

なお、使い捨てとなるイスラエル製対レーダー自爆突入機は1機あたり数千万円~1億円近くするそうですが、“アゼルバイジャンはカスピ海油田を擁する産油国であり購入資金があったこと、その油田の大口顧客がイスラエルであり関係が深いアゼルバイジャンはイスラエル製のハーピーやハロップを大量購入することができたことなどが作戦成功の下地にあったと言えます。”【同上】とのこと。

【イスラエルと関係が強いアゼルバイジャンとイランの間の緊張】
なるほどね・・・ということで、上記のアゼルバイジャンとイスラエルの関係を前提にして、(イスラエルと犬猿の仲の)イランとアゼルバイジャンの間で緊張が高まっているという次の記事です。

****イラン、隣国へ不信感 アゼルバイジャンが検問所****
イランが北に接するアゼルバイジャンへの不信感をむき出しにし、軍事的な圧力を高めている。背景には宿敵イスラエルの存在がちらつく。
 
イランは北西部のアルデビル州や東アゼルバイジャン州などでアゼルバイジャンに接する。国境沿いのいくつかの街では夏以降、トラックが長蛇の列をつくる異様な光景が度々目撃されているという。アルデビル州アルデビルの70代女性は「数キロぐらい連なって止まっていた。見たことのない不思議な状況だった」。
 
発端は8月、東アゼルバイジャン州ヌルドゥズとアルメニアの首都エレバンを結ぶ道路の一部区間に、アゼルバイジャンが検問所を置き始めたことだ。
 
全長約400キロのうち、検問所ができた区間は約20キロ。イランから荷物を運ぶ運転手たちは突然、通行するための許可証や「税」を求められることになった。9月には、イラン人運転手2人が検問所で拘束される事態も起きた。
 
アルデビル州からエレバンへ向かう際も同じ区間を通るため、各地の国境地点で大渋滞を引き起こすことになった。

 ■イスラエルの関与、意識
背景には昨年、アゼルバイジャンとアルメニアが争うナゴルノ・カラバフ地域をめぐる軍事衝突がある。
 
同地域はアゼルバイジャン領だが、アルメニアが1991~94年の軍事衝突後、周辺地域を含めて実効支配してきた。
 
だが、昨年の軍事衝突でアゼルバイジャンが勝利し、地域の4割などが支配下に戻った。その中に20キロの区間が含まれていた。
 
アゼルバイジャンの対応にイランは不満を強める。
 
10月1日、アゼルバイジャンとの国境近くで大規模な軍事演習を実施。陸軍司令官は、「この地域に安全保障上の邪魔者がいる」と語った。
 
アゼルバイジャンを意識した発言だが、イスラエルの関与にも神経をとがらせている。
 
昨年の軍事衝突をアゼルバイジャンが制したのは、最新鋭ドローン(無人機)の存在が大きく、その多くはイスラエル製とされる。
 
ストックホルム国際平和研究所によると、アゼルバイジャンにとってイスラエルは過去30年間でロシアに次ぐ2番目に多い兵器の調達先だ。
 
イランとの国境線は760キロに及び、米シンクタンクの中東研究所はアゼルバイジャンがイスラエルに、対イラン作戦の「足場」を提供していると指摘する。
 
イランでは昨年11月以降、著名な核科学者が暗殺されたり核施設が破壊されたりし、イラン側はいずれもイスラエルの犯行だと非難する。
 ナ
ゴルノ・カラバフをめぐる紛争では、イランも紛争地域から飛来した爆発物で被害を受けた。イランは当事国に沈静化を呼びかけたが、昨年11月の停戦合意はロシアが主導するなど、影響力には限界が見えた。

 ■不安定化リスク、解消急ぐ
アゼルバイジャンも黙っていない。
 
9月12日には、トルコやパキスタンと合同で軍事演習を実施。アリエフ大統領は10月15日、昨年の軍事衝突を振り返るなかで、検問の強化に触れ、「イランからアルメニア、欧州に至る薬物の密輸ルートを封鎖した」と主張した。
 
在テヘランの外交関係者は「アゼルバイジャンを舞台にイランとイスラエルの対立が激化すれば、ロシアやトルコを巻き込み、不安定な状況が広がりかねない」と懸念する。
 
ナゴルノ・カラバフ地域の地位問題は未解決で、軍事衝突の再燃は今後も常に起こりうる。イランは安全保障上の「空白地域」との認識で対応を急いでいる。【10月31日 朝日】
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アゼルバイジャンがナゴルノ・カラバフ紛争勝利の余勢をかってイスラエルと連携して対イラン圧力を強めると、アゼルバイジャン・イスラエルとイランの衝突、更にそこにトルコ、ロシアも加わって・・・という危険性も。

【イランのドローンに対する米制裁】
なお、ドローンに関してはイスラエルは高い技術力を有しますが、イランもタンカー攻撃に使ったり、レバノンのイスラム武装勢力ヒズボラなどに供与したりと、大いに“活用”している国です。

そのことにアメリカは制裁を発動して警戒しています。

****対イラン制裁発表 タンカーへの無人機攻撃関与 米財務省****
米財務省は29日、中東オマーン沿岸で7月に発生したイスラエル系企業運航のタンカーに対する無人機攻撃などに関与したとして、イラン革命防衛隊の無人機部隊司令官ら4人と関連企業2社を制裁対象に指定したと発表した。米国内の資産が凍結され、米国人との取引が禁じられる。(中略)

米財務省によると、無人機部隊司令官は2019年にサウジアラビアであった石油施設への攻撃にも関与したという。関連企業2社などは革命防衛隊の無人機攻撃への兵器供給や部品調達に関わったとしている。(後略)【10月30日 毎日】
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上記制裁理由には、ヒズボラへのドローン供与も含まれています。

****米、イランのドローン提供巡り新たに制裁 イラン側は非難***
米財務省は29日、イラン革命防衛隊がレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラなどイランが支援するグループに無人航空機(UAV)やドローン(小型無人機)を提供し中東地域の安定を脅かしているとして、イランに関連する新たな制裁措置を発動した。

アデイエモ副長官は「イランによる地域全体へのUAV拡散は国際的な平和と安定を脅かす」と指摘。「財務省は引き続きイランの無責任かつ暴力的な行動の責任を追求していく」と述べた。(中略)

これに対し、イラン外務省のハティーブザーデ報道官は国営メディアで「新たな制裁措置は核合意再建協議を再開する意向を示しながら制裁を続けるホワイトハウスの完全に矛盾した行動を反映している」と非難。ドローン提供プログラムは防衛目的とした。【10月30日 ロイター】
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【11月から核合意協議再開】
上記のような“不協和音”を伴いつつ、イランにとって最大課題である核合意問題の交渉は11月から再開させることにはなっています。

****イラン、11月末までの核協議再開に同意****
イランの核開発をめぐる協議のイラン側の交渉責任者、アリ・バゲリ・カーニ氏は27日、ツイッターで、イランは11月末までに核協議を再開することに同意したと明らかにした。

バゲリ・カーニ氏はこの日、ベルギーの首都ブリュッセルで欧州連合(EU)のエンリケ・モラ欧州対外活動庁事務次長と会談。6回の会合を経て6月に中断した核協議の再開について話し合った。

イランは中断前、オーストリアの首都ウィーンで中国やドイツ、フランス、ロシア、英国と協議を重ね、米国とも間接協議を行っていた。

交渉の目的は「包括的共同行動計画(JCPOA)」の正式名称で知られる核合意を復活させることにある。イランはこの合意の下、経済制裁の解除と引き換えに核開発を制限することに同意した。

だが、トランプ前米大統領が2018年に核合意から離脱し、「最大限の圧力」政策で新たな厳しい制裁を科したのを受け、イランは合意の履行を停止。バイデン現政権はイランの協議復帰を継続的に求めてきたものの、先月にはイランが核開発を続けて交渉に復帰しない場合に備えた対応策を練っていると述べていた。

イランのライシ大統領は9月の国連総会演説で、イランは核兵器を追及しておらず、米国には核合意から離脱した責任があると主張。まず米国側が制裁解除により核合意の義務を履行すべきだと強調した。【10月28日 CNN】
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核開発停止と制裁解除、双方が「相手が先に」という対立状態が変わった訳ではないようですが、協議再開で双方の譲歩が実現するのかは不明です。

【アメリカ 「あらゆる手段検討」と圧力】
アメリカは強硬手段もちらつかせて、イラン側の譲歩を求めて圧力を強めています。

****米国務長官、イラン核開発に対し「あらゆる手段検討」****
ブリンケン米国務長官は13日、イランが核合意に復帰することが困難となった場合は「(イランの核開発などに対し)あらゆる選択肢を検討する」とイランをけん制した。核合意再建に向けた交渉への早期復帰を強く促した形。首都ワシントンでイスラエル、アラブ首長国連邦(UAE)両外相との3者会談後、共同記者会見で述べた。
 
ブリンケン氏は「イランの核兵器保有を決して許さないという立場をイスラエルと共有している。外交的手段が最も効果的だ」と強調した。

しかし、イランはウラン濃縮度を引き上げるなどの核開発を続けており、核合意維持でも「合意の利益を取り戻せない時点に近づいている」と指摘。「残された時間は限られている。イランには外交的な解決に対する意欲がみられない」と批判した。
 
イスラエルのラピド外相は「イランは核兵器保有の直前まで来ている。我々は、悪から世界を守るために国家が武力行使しなければならない時があることを知っている」と、強硬手段に出る可能性にも言及した。
 
イランの核開発を制限する核合意を巡っては、トランプ前政権が一方的に離脱した後、バイデン政権は欧州連合(EU)などを仲介役にイランと間接的に協議していた。しかし、イランで反米保守強硬派のライシ師が大統領選で当選した6月以降、協議は中断している。【10月14日 毎日】
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【イラン国内でサイバー攻撃 米・イスラエルか、反政府勢力か・・・不明】
強硬手段には、イスラエルによりイラン核施設への攻撃などほかに、以前アメリカとイスラエルが行ったサイバー攻撃みたいなものも含まれるのでしょう。

そのサイバー攻撃に関して、イラン国内でサイバー攻撃が行われてガソリン販売システムが混乱しました。

****イラン、ガソリン販売システムにサイバー攻撃 各地で長蛇の列****
イラン国営メディアによると、ガソリンの販売システムがサイバー攻撃を受け、各地のガソリンスタンドに長蛇の列ができた。

国営放送IRIBは「サイバー攻撃により、ガソリンスタンドの供給システムで障害が発生した」と報じた。イラン石油省が運営するシャナ通信によると、影響を受けているのはスマートカードを利用した割安価格のガソリン販売で、高価格のガソリンの販売は影響を受けていない。

ソーシャルメディアに投稿された動画によると、サイバー攻撃を受けたとみられる街頭の電光掲示板に「ハメネイ、ガソリンはどこに行った?」などのメッセージが表示されている。

ロイターはこうした画像の信ぴょう性を確認できていないが、メヘル通信は、一部の電光掲示板がハッキング行為を受けたと報じている。

イランでは2019年11月に燃料価格引き上げに抗議するデモが発生。同デモでは死者も出た。【10月27日 ロイター】
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“詳細は明らかではないが、攻撃は米国、イスラエル、または様々な地元のイランの反政府勢力から来たとの憶測がある。”【10月26日 VOI】

アメリカ・イスラエルによる「圧力」の一環の可能性もありますが、上記【VOI】によれば、反政府勢力の可能性について以下のようにも。

****大規模なサイバー攻撃を経験し、イランのガソリンスタンドネットワーク麻痺****
(中略)しかし、ここ数ヶ月、アマチュアハッカーは洗練されたランサムウェアやその他の攻撃で米国とヨーロッパの大国に大きな問題を引き起こし、ハメネイのリーダーシップはイランの多くの少数民族から多くの地元の敵を持っています。

8月、チェックポイント・ソフトウェア・テクノロジーズは、インドラというイランの反体制派グループが7月9日にイスラエルではなくイランの列車システムに対してメガハックを実行したという報告書を発表した。

チェックポイントは、インドラのイランの鉄道システムのハッキングは「1つのグループが重要なインフラに混乱を引き起こす方法の世界中の政府への例」であると言いました。

これらの攻撃について珍しいのは、非国家組織が国家レベルでイランの物理的インフラに損害を与えていることだ。非国家グループは、伝統的にウェブサイトやデータをハックする以上のことを行う能力を欠いていると考えられていますが、これは現実世界で大規模な被害を引き起こすそのようなグループの例です。(後略)【10月26日 VOI】
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コメント
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アメリカ  政治的分断で頭打ち状態にあったワクチン接種率、バイデン政権は義務化で向上目指す

2021-10-30 23:50:37 | アメリカ
(10月4日 ニューヨークで行われたワクチン接種義務化への抗議デモ【日テレNEWS】)

【アメリカ ワクチン接種義務化け 各国でも同様の動き】
出遅れた日本の新型コロナワクチン接種率も2回接種完了者が10月29日時点で全人口の71.2%、1回接種者が77.2%と、ようやく社会全体の感染レベルを抑えるほどに高まってきました。

ワクチンの効果に関しては様々な記事・情報がありますが、副作用リスクよりはるかに大きいベネフィットが期待できるというのが一般的理解でしょう。

“ワクチン未接種の成人、コロナ感染死のリスクは11倍高め 米CDC”【10月17日 CNN】
未接種者が陽性診断を受けるリスクは6倍で、入院を迫られるリスクは約19倍だったとのこと。

ただ、ワクチンを接種したくないという者も一定に存在しますので、更に接種率を高めるためには対策も必要になります。

特に、アメリカでは10月14日“ブラジル・米 マスク・ワクチンは政治的分断雄の象徴 地域的に分断を示すカリフォルニアとテキサス”でも取り上げたように、ワクチン・マスクが政治信条とリンクするような状況にもなっており、ワクチン接種が頭打ち状態にもなりました。
一方で、感染力の強いデルタ株によって、感染が再び拡大する状況にも。

そのため、バイデン大統領はワクチン義務化に踏み出しました。

****米、企業もワクチン接種義務化=連邦職員は全員対象に***
バイデン米大統領は9日、国民向けに演説を行い、100人超の従業員を抱える企業に対し、従業員に新型コロナウイルスのワクチン接種か、毎週の感染検査を受けさせることを義務化する方針を明らかにした。また、すべての連邦職員にワクチン接種を義務付ける。感染力の強いデルタ株の流行で新規感染者が再び増加する中、未接種者への働き掛けを強化する狙いがある。
 
バイデン氏は演説で「(ワクチン接種は)自由や個人の選択の問題ではなく、自分や周りの人々を守ることだ」と強調。ワクチンに否定的な市民らに接種を呼び掛けた。米国の労働者の3分の2に当たる1億人が今回の措置の対象になるという。
 
米政府高官によると、企業が従わなかった場合、最高1万4000ドル(約150万円)の制裁金が科される。ロイター通信によると、航空機などでのマスク着用義務違反に対する制裁金も最高3000ドル(約33万円)に引き上げる。【9月10日 時事】
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首長が民主党のニューヨーク市やカリフォルニア州では、更に踏み込んだ対応も。

****NY市、職員全員にコロナワクチン接種義務付けへ=WSJ***
米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は20日、ニューヨーク市が、市の職員全員に対し、新型コロナウイルスワクチンの接種を義務付けると報じた。

デブラジオ市長が20日発表する。10月29日までに最初のワクチン接種を受けない職員は失職の可能性があるとしている。【10月20日 ロイター】
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アメリカ同様に、世界各国でワクチン接種を義務化する流れが強まっています。
当然ながら、強制されることへの反対も噴出しています。

****接種義務化、急ぐ各国 米・仏・加・ロ…乗客や接客業にも コロナワクチン****
新型コロナウイルスワクチンの接種率が米国などで頭打ちになるなか、各国で接種の義務化が広がっている。義務化で一定の効果は出ているが、反発も起きており、ワクチンが対立の火種にもなっている。

 ■教職員95%接種経験 NY市
ニューヨーク(NY)市の小学校教員、ロザンヌ・リッツィさん(55)が新型コロナのワクチンを接種したのは、米国でワクチンの接種が始まって9カ月半たった10月1日だった。
 
リッツィさんは、昨年11月に新型コロナに感染。「抗体がある。必要ない」と信じ、ワクチンを打ってこなかった。
 
市は教職員のワクチン接種義務化を8月23日に発表した。ワクチン接種を拒んだ教職員は無給の休職扱いになる。「米国では、生まれながらにして一定の自由が与えられている」とリッツィさんは話す。だが、住宅ローンや生活費を払うため、「ためらいながら、不本意ながら」接種した。
 
市によると、義務化が施行された10月4日時点で、95%の教職員が少なくとも1回の接種を終えた。義務化の発表後だけで接種数は4万3千回に上った。デブラシオ市長は20日、警察や消防を含む全ての市職員に義務化の対象を広げた。
 
カリフォルニア州はより踏み込んだ措置に出ている。1日、対面授業を受ける全ての児童や生徒にワクチン接種を義務づける方針を発表した。対象となるのは5~18歳の児童・生徒。8月には全米初となる教師らへの義務化なども打ち出しており、9割近くの学校が対面授業に戻っている。
 
接種率を高めるため、ワクチンの義務化を導入する国は相次いでいる。
 
ロイター通信などによると、フランスでは医療関係者や高齢者施設などの職員に、10月半ばまでに接種を完了するように義務づけた。

カナダ政府は10月、ワクチン未接種の職員を無給の休暇にし、飛行機や電車、船の乗客にも接種を義務化すると発表。

ロシアでは、モスクワ市が接客を伴う業種の企業に対して、従業員の80%以上にワクチンを受けさせることを義務化。12月1日までに1回目、来年1月1日までに2回目を接種するように求めている。
 
一方、義務化をしていない日本はワクチンの承認や確保が遅れたが、6月ごろから接種プログラムが軌道に乗り始めた。接種を完了した国民の割合は9月に米国を追い抜き、先行した多くの国が伸び悩むなか、現在は7割を超えた。

 ■「強制」に反発、デモ相次ぐ
ワクチンの義務化は対立も生んでいる。
 
全米各地でデモが起きているほか、NY市では一部の教職員が反発し、複数の訴訟も起きている。また、テキサス州では共和党のアボット知事が11日、州内においてワクチンの義務化を禁じる知事令を発令。アボット氏は新型コロナワクチンの効果は認めつつ、「強制されるべきものではない」としている。

欧州でも義務化をめぐる反発の声が各地で上がっている。

フランスは今夏から、ワクチンの接種証明か陰性結果を記録した「衛生パス」を導入。現在では映画館や飲食店、長距離列車の利用、通院などに必要で、「事実上の強制だ」として3カ月以上、毎週末の反対デモが続く。当初、20万人以上が参加した規模からは縮小したものの、今月23日にはなおデモに4万人が参加した。ワクチンを接種した人からも「自由の侵害だ」という声が出ている。
 
イタリアでは、今月15日にすべての職場で接種証明か陰性結果の提示を義務づけたことから、北西部の港町ジェノバで港の一部を封鎖する反対デモが起きた。

 ■離職懸念、ためらう企業も
米経済界はワクチンの接種率が高まれば経済が活性化すると期待する。
 
バイデン政権は9月、従業員100人以上の企業に対し、ワクチン接種か陰性証明を毎週提出させることを求める計画を発表。自社で感染が拡大すれば人手が足りなくなる恐れもあり、政権の方針を受けて義務化に踏み切る企業が相次ぐ。
 
義務化で最も恩恵を受ける業界の一つが航空業界だ。コロナ禍で世界の航空会社が大幅な乗客減に苦しむ中、米航空大手3社は既に国内線の売上高が2019年の7~8割まで回復した。11月8日にはワクチン接種を条件に外国人の入国が認められるため、国際線の回復に期待する。
 
航空会社以外にも義務化する企業が増えている。米メディアによると、バイデン政権の方針発表後、ゼネラル・エレクトリック(GE)やIBMなどが従業員に接種を義務づけた。
 
一方、テキサス州など接種率の低い地域に事業拠点を持つ企業には、義務化をためらう企業も多い。訴訟リスクがあるほか、人手不足の中で退職者が相次ぐことを警戒しているためだ。
 
テキサス州オースティンで複数のホテルを経営するビジャイ・パタールさんは、接種自体には賛成だが、従業員の自由を尊重したいとして義務化には反対だ。未接種の従業員には毎週検査させるという。パタールさんは「従業員の一部は接種を拒否している。義務化による離職も心配だ」と話した。【10月29日 朝日】
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【接種をあくまで拒む者は失業の危機】
義務化された場合、何らかの理由でどうしても接種したくない者は失業ということにもなります。

****米各地でワクチン未接種者が失業危機、州や企業の義務化加速が背景****
米国各地で、新型コロナウイルスワクチンの未接種者が職を失う恐れが出てきている。州や自治体、民間企業の間でワクチン接種を義務化する動きが広がっていることが背景にある。

直近ではワシントン州立大学が18日、フットボールチームのヘッドコーチとアシスタント4人を解雇した。州のワクチン接種要求に従わなかったためだ。このヘッドコーチは今月、宗教上の理由から接種義務の適用免除を申請していた。

シカゴやボルチモアなどでは数千人の警察官や消防士が、数日中に接種完了を報告するか定期的な陰性証明の提出を求められている中で、失業の危機にさらされている。

シカゴの場合、ライトフット市長と警察官の組合がこの問題を巡って対立。組合側は、市職員へのワクチン強制に反対の姿勢を打ち出した。1万2770人に上る市職員のうち、15日の期限までに接種完了を報告しなかったのは3分の1ほどで、その一部は休職処分となった。

ライトフット氏は18日、「基本的にこれは命を救うという話に尽きる。安全な働き場所の生み出せる機会を最大化するということだ」と述べ、ワクチン強制に反対している組合を「反乱をけしかけている」と強い口調で非難した。

航空機大手ボーイングの従業員ら約200人は15日、同社が12月8日までに12万5000人の従業員にワクチン接種を要求したことに対する抗議活動を開始した。この要求は、バイデン政権が連邦政府と取引がある企業に発出した命令に基づいている。

これとは別に、バイデン政権が100人以上を雇用する民間事業所に適用するためのワクチン接種命令の施行細則も間もなくまとまる見通しだ。これにより連邦政府職員、政府取引企業と合計すると、米国の労働者のおよそ3分の2に当たる1億人前後がワクチンを接種しなければならなくなる。

既に医療業界では解雇の動きが広がっている。ワクチンを接種せずに仕事を辞めた看護師や医療従事者はロイターに、米国で使用されている3種類のワクチンについて長期的なデータがまだそろっていないことへの不安を、どうしても看過できなかったと打ち明けた。【10月20日 ロイター】
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“ワクチンについて長期的なデータがまだそろっていないことへの不安”・・・私個人としては、そういうリスクと未接種で感染するリスク、その結果周囲に感染を広げるリスクとの合理的評価を欠いているようにも思えるのですが。

未接種者の多くは「義務付けられたら仕事やめる」との考えのようですが、そうした話と実際に辞めるかどうかはまた別問題のようです。

****ワクチン未接種者の72%、「義務付けられたら仕事やめる」 米調査****
米国で実施された新型コロナウイルスワクチンに関する意識調査で、接種を受けていない人の大多数が、職場で義務化されれば仕事をやめると回答した。

意識調査は米シンクタンクのカイザー・ファミリー財団が実施した。それによると、ワクチン未接種の労働者のうち37%は、もしもワクチン接種か週に1度の検査のいずれかを強要されたら仕事をやめると回答。ワクチン接種が義務付けられ、検査の選択肢を与えられない場合は72%が仕事をやめると答えた。

バイデン政権は、従業員100人以上の企業などに対して従業員のワクチン接種または定期的な検査を義務付ける職場安全規定を起草している。この規定は全米の労働者の3分の2に当たる約8000万人に適用される見通し。

今回の調査で接種を義務付けられれば仕事をやめると答えたワクチン未接種の労働者が、もしその言葉を実行に移した場合、労働者の5〜9%が離職することになる。

ただし、意識調査で仕事をやめると答えたワクチン未接種の労働者の多くは、その言葉を実行に移さない可能性がある。

ワクチン義務化に踏み切った米ユナイテッド航空などの大手企業は、ほぼ全従業員がルールに従ったと報告している。

調査対象となった成人の24%は、ワクチン義務化を理由に仕事をやめた知人がいると回答した。一方、勤務先のワクチン義務化をめぐって実際に仕事をやめたという人は、ワクチン未接種の成人の5%のみ。仕事をやめたという人が米国の成人に占める割合は1%にとどまった。

調査は10月14〜24日にかけ、米国の成人1500人あまりを対象として電話で実施された。【10月29日 CNN】
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【共和党系各州からの「訴訟の嵐」 接種率は一定に上昇】
こうした義務化に対し、共和党の首長の州では反対が強く、テキサス州では共和党のアボット知事が10月11日、州内においてワクチンの義務化を禁じる知事令を発令しました。

更に、予想されたことではありますが、義務化を進める連邦政府を提訴する「訴訟の嵐」が現実のものとなっています。

****テキサス州と10州連合、バイデン政権を提訴 ワクチン義務化に反対****
米テキサス州は29日、バイデン政権が連邦政府の契約業者に新型コロナウイルスワクチンの接種を義務づけたのは違憲だとして、同政権を相手取り訴訟を提起した。

ミズーリ州司法長官室はこの数時間前、連邦政府の契約業者や契約職員へのワクチン接種義務づけを巡り、同州など10州がバイデン政権に対する訴訟を起こしたと発表していた。

バイデン大統領は9月、連邦職員や大規模雇用主、医療関係者を対象とする包括的かつ厳格なワクチン規則を発表。共和党主導の州からはこれに対して法的に争う動きが相次いでいる。バイデン氏はワクチン接種の義務化を、現在や将来の感染拡大を封じる重要な手段と位置づけている。

ミズーリ州司法長官室の声明によると、同州のシュミット司法長官とネブラスカ州のピーターソン司法長官が中心となり、アラスカ、アーカンソー、アイオワ、モンタナ、ニューハンプシャー、ノースダコタ、サウスダコタ、ワイオミングの各州とともに訴訟を起こした。

この訴訟はミズーリ州東部地区の連邦地裁に提起されたもので、バイデン氏の命令は調達法や調達政策法に違反し、州の規制権限を奪うものだと指摘。行政手続法に対する手続き上および実体上の違反などにも当たると主張している。

これとは別に、ジョージア州のケンプ知事は29日、アラバマやアイダホ、カンザス、サウスカロライナ、ユタ、ウェストバージニアの各州の当局者とともにワクチン義務化に反対する訴訟を起こす意向を明らかにした。

フロリダ州のデサンティス知事も28日、同州タンパでバイデン政権を相手取った新たな訴訟を提起したと発表していた。

ワクチンの義務付けは12月8日から実施される。
ホワイトハウスはデサンティス氏の発表を受け、「ワクチン義務化は有効だ」と反論。バイデン氏には接種を義務づける権限があるとしている。【10月30日 CNN】
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おそらく最高裁まで行けば、現在の判事の構成からして連邦政府は敗訴すると思われますが、バイデン政権としては、こうした「訴訟の嵐」が起きることは当然に想定はしていたことでしょう。

すでに義務化の流れによって接種率は上昇しているようですから、それだけでも効果はあったとの判断でしょうか。

****バイデン「ワクチン義務化は奏功」と評価 米国民の未接種者なお6600万人****
バイデン米大統領は14日、新型コロナウイルスワクチン接種の義務化が奏功しているとしつつも、まだワクチンを接種していない6600万人の接種促進に向け引き続き注力する必要があると述べた。

ホワイトハウスの新型コロナ対策調整官を務めるジェフ・ザイエンツ氏は13日、政府機関や企業によるワクチン接種義務化によって、国内のワクチン接種率が20%ポイント超上昇したと明らかにした。

バイデン大統領は「夏に開始したワクチン義務化が奏功している」と強調。同時に「ワクチン未接種者は6600万人まで減少したが、なお容認しがたいほど高水準にとどまっている」とし、「ここで諦めることはできない」と述べた。(後略)【10月15日 Newsweek】
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欧州移民・難民問題  ベラルーシ国境でピンポン球のように扱われる移民 再び壁を作る中東欧

2021-10-29 22:50:10 | 難民・移民
(ポーランドのベラルーシとの国境に座るレバノン人のアリ・アブド・ワリスさん(2021年10月22日撮影)【10月29日 AFP】)

【ピンポン球のように扱われる「兵器としての移民」】
不正が強く疑われる大統領選挙以来、反政府活動を強権的にねじ伏せているベラルーシのルカシェンコ大統領ですが、EUからの批判・制裁への意趣返しに、中東移民・難民を意図的に欧州側に送り込んでいるとされています。

****ポーランドが緊急事態宣言 「ベラルーシから大量の不法移民」****
ポーランドのドゥダ大統領は2日、隣国ベラルーシから大量の不法移民が送り込まれているとして、国境の二つの地域で緊急事態宣言を発令した。

ロイター通信によると、30日間にわたって多人数の集会が禁止されるなどの措置が取られるという。東西冷戦期の共産主義政権が崩壊して以降、ポーランドが同様の宣言をするのは初。
 
ポーランドも加盟する欧州連合(EU)は昨年以降、強権姿勢を強めるベラルーシのルカシェンコ政権と対立。今年5月の民間機強制着陸問題などを受け、EUは6月にベラルーシに経済制裁を発動した。
 
こうした中、ベラルーシと国境を接するポーランドやリトアニア、ラトビアでは、ベラルーシを経由した移民が急増。8月だけで3500人が不法にベラルーシからポーランドへ入国しようとしたという。

このため、ベラルーシがEUの制裁に報復する形で「意図的に移民を送り込んでいる」(ポーランドのモラウィエツキ首相)との批判が高まっていた。
 
ポーランドの大統領報道官は2日、「自国の国境だけでなく、EUの国境にも責任を持ち、安全を確保するための措置を取らなくてはならない」と述べた。【9月4日 毎日】
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ベラルーシ側は、「兵器として」欧州に送り込む移民・難民を中東各地で集めているとも言われています。そして、送り出した移民らが戻ってくることは許さず、一方通行です。

一方のポーランドなど隣接国も受入れを強硬に拒否しており、移民・難民は両者の間で“ピンポン球のように扱われ”、行き場を失う状況ともなっています。

****「家に帰りたい」 ベラルーシ・ポーランド国境で立ち往生 レバノン移民****
レバノン出身の理髪師アリ・アブド・ワリスさんは森の中で疲れ果て、寒さに震えている。ベラルーシからポーランドの国境を越え、欧州連合域内に入ろうと試みたこの1週間を後悔している。

「嫌いな人にさえ訪れてほしくないようなみじめな目に遭っている。悪夢だ」と、クローン病を患うアブド・ワリスさんはAFPに語った。
 
国境を越えればポーランド東部の町クレシュチェレだ。松葉と枯れ葉のベッドに足を組んで座るアブド・ワリスさんは、ベラルーシの国境警備隊にピンポン球のように扱われている。
 
国境を越えようと5、6回試みたが、見つかるたびに戻されたという。ベラルーシ側は、アブド・ワリスさんを首都ミンスクに戻すことを拒否している。
 
国境警備隊に「選択肢は二つ。ここで死ぬか、ポーランドで死ぬかだ」と言われた。
 
今年8月以降、数千人の移民がベラルーシ、ポーランドの間の400キロにわたる国境線を越えようと試みている。その大半が中東出身者だ。

アブド・ワリスさんはより良い生活を求めて、経済危機に陥っているレバノンを後にした。地元ベカーからこの地に来るまで4000ドル(約45万円)の費用が掛かった。ソーシャルメディアで見つけたミンスクに拠点を置く企業から支援を得ている。

ポーランドに前例を見ない数の移民が流入していることについて、EU側は、ベラルーシに対する経済制裁への報復として同国が後押ししているのではないかと疑っている。一方、ベラルーシは、西欧諸国に責任があるとしている。
 
ポーランドはベラルーシとの国境沿いに数千人の兵士を派遣し、有刺鉄線のフェンスを設置。3か月間の緊急事態宣言を出し、国境付近から報道関係者や慈善団体を締め出した。
 
アブド・ワリスさんは森の中で、葉っぱにたまった水を飲んで過ごしてきた。寒くて眠れず、ポーランドの軍か警察に頭を殴られたこともあった。

「疲れ果て」「打ちのめされている」にもかかわらず、国境警備隊は「仕事をしているだけだ。国を守っている」と理解を示し、法律に違反しているのは自分たちだと分かっていると話す。
 
アブド・ワリスさんと、一緒に歩いてきたシリア人の仲間たちは先週、ポーランドの活動家と森で接触することができた。暖かい衣服と食べ物を提供してくれ、国境警備隊が来た時の支援を申し出てくれた。
 
今後のことは分からない。ポーランドへの亡命か、少なくともレバノンへ戻ることを望んでいる。
「ベラルーシにもいてほしくない。それなら国に送り返してほしい。それだけが望みだ」と、アブド・ワリスさんは語った。

「国境で死ぬのはごめんだ。母さんに会いたい」 【10月29日 AFP】
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【移民・難民対応で分断されるEU】
ベラルーシからの「兵器としての移民」だけでなく、EUは以前から中東・アフガニスタンなどからの移民・難民の圧力にさされており、その対応に苦慮しています。

もし、ベラルーシ・ルカシェンコ大統領が「兵器としての移民」を使用しているとしたら、ある意味、EUの“痛い所”を突いた方法だとも言えます。

EU内部には移民・難民を巡って、西欧諸国・EU指導部と移民難民に拒否感が強い中東欧の間で分断・亀裂も生じています。独仏も移民・難民問題では国内世論が割れており、理念と本音の間の葛藤とも言えます。

****国境沿いそびえる5mの鋼 移民を阻む「壁」次々、EUの本音と苦慮****
アフガニスタンなどから欧州連合(EU)を目指す移民・難民の流れを遮ろうと、域外と接するギリシャやポーランドなどが、国境に壁や鉄条網を設けている。賛同する加盟国は22日のEU首脳会議で建設費補助を要請。人権尊重か「難民危機」回避か。EUは対応に苦慮している。

移民流入、恐れる国々
ギリシャは8月下旬、トルコとの国境沿いに長さ40キロの鋼の壁を完成させた。高さ5メートル。てっぺんには鉄条網が据えられた。ドローンやレーダーなども備え、壁から10キロ先まで監視の目を光らせる。

完成に先立つ同17日、ギリシャの移民担当相は「アフガンから逃れる何百万人もの人々を通すのは無理だ。ギリシャは欧州の玄関になれない」と強調。今月10日には現場の国境警備隊を250人増強すると内相が明らかにした。
 
ギリシャは2015年、シリアなどから100万人以上が欧州に押し寄せた「難民危機」で、主要ルートの一つになった。アフガニスタンで今年8月に政権が崩壊した今回は、「難民がこれ以上欧州に到着するのを避けたい」(ミツォタキス首相)という姿勢を鮮明にしている。
 
イラクなどからの移民・難民が急増したリトアニアも8月、壁の建設計画を明らかにした。経由地となっているベラルーシとの国境沿いに総延長500キロを来年9月までに築く。ベラルーシのルカシェンコ大統領が7月、隣国へ不法越境する人々の取り締まりを拒むと明言したためだ。
 
ポーランドも今夏、ベラルーシとの国境に鉄条網を設置。フェンスも増設する方針だ。
 
ギリシャなど12カ国の内相は今月7日、共同書簡を欧州委員会に送り、壁の建設費をEUが負担するよう求めた。域内への移民・難民の流入を恐れるオーストリアなどの中欧も加わった。

「壁」支援拒むEU
22日のEU首脳会議。リトアニアのナウセーダ大統領は「我々はフェンスについて議論しなければならない。5千人もの移民があす一斉に国境に押し寄せるかもしれないのだ」と語り、会議に臨んだ。
 
だが、EUの行政を担う欧州委員会のフォンデアライエン委員長は「鉄条網や壁の費用を負担しないのが欧州委や欧州議会の考えだ」と壁の建設費用負担を拒んだ。人員の派遣や必要な機器への支援はしても、人権を重んじるEUとしては「壁」そのものにお金は出せないからだ。
 
とはいえEUも移民・難民の流入を防ぎたいのが本音だ。アフガニスタンやシリアから逃れる人々の近隣国での受け入れを、資金面でも支援する方針を打ち出している。
 
一方で、EU加盟国への受け入れ議論は進んでいない。このため首脳会議の合意文書には「即座に適切な対応をとるため、資金支援をともなう具体案をまとめるよう欧州委に求める」との項目が盛り込まれた。直前までの文案にはなかったが、首脳間の交渉を踏まえて書き足された。EUとして取り得る代案を示したうえで、国境管理の効率化をはかる。
 
欧州は何度も戦禍に包まれ、自らの市民が難民となったこともある。フランスのマクロン大統領は22日、閉幕後の記者会見で「欧州は自由のために戦った人たちを守り、難民を守る原則のもとで築かれた。この価値観を揺るがすことなく、国境を守る必要がある」と述べる一方、「受け入れられなかった移民は、もっと効率的に出身国に送り返さなければならない」として、不法滞在者の国外退去を徹底させる考えも示した。【10月24日 朝日】
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【冷戦時代の壁を壊した欧州が、今また壁を建設】
かつての冷戦時代、中東欧諸国は西欧との間、西側に壁を建設していました。その壁が取り壊されて今の欧州があります。しかし、移民・難民の問題はその中東欧諸国に今度は東側に壁を作らせています。

また、EUだけでなく、外国人受入れへの反対を大きな理由としてEUを離脱したイギリスもこの問題に直面しています。移民・難民らの多くは最終的にイギリスを希望する者が多く、ドーバー海峡を挟んで“送り出し国”フランスと移民対策強化を求めるイギリスの間で軋轢も生じています。

****冷戦終結から32年、EUに再び築かれた「壁」の正体****
「ベルリンの壁」の記憶を呼び起こす巨大な壁

ベルリンの壁が1989年11月9日に崩壊して約32年が経つヨーロッパで、今また国境の壁の建設が進められている。今度は東側から西側への逃亡を防ぐためではなく、アフガニスタンでタリバンが実権を握ったことで、ヨーロッパに押し寄せる難民・移民の流入を阻止するためだ。(中略)

昨年9月初旬、ギリシャのレスボス島モリアで超過密状態にあったモリアの難民キャンプで大規模な火災が発生し、何千人もの難民が行き場を失った。モリア・キャンプには約70カ国からの難民が生活し、そのほとんどはアフガニスタンからの難民だった。その後、EUは難民・移民受け入れに関する新たな協定案を発表した。

難民が最初に到着した国に難民認定審査を義務付ける「ダブリン協定」が機能しなくなったEUは、各国間で、より「連帯・団結」した形で難民受け入れの責任を分担する方針転換を行った。

大量難民・移民が集中したイタリアやギリシャ、スペインなど受け入れ最前線の国々は、裕福な北欧諸国が受け入れに消極的なだけでなく、受け入れ分担の考えに公然と抵抗する中東欧諸国を非難し、ヨーロッパの分断につながっている。

受け入れるべき人数を大きく下回る中東欧諸国
EUは、加盟国のGDP(国内総生産)や人口、失業率、国土面積によって、受け入れるべき人数を割り出し、加盟国に相応の分担を求めているが、ギリシャのように受け入れるべき人数をはるかに上回る難民・移民を受け入れている国もある一方、中東欧諸国は受け入れ人数が大きく下回っている。

ポーランドは適切な受け入れ能力は約1万4000人とされるが、2020年、コロナ禍で例年より少ないとはいえ、約2800人が難民申請し、その84%が却下された。

ハンガリーは受け入れ能力は約3600人とされるが、2020年は115人が難民申請し、73%が却下されている。中東欧諸国は「そもそも鉄条網を敷設することはEUへの入域を阻止することにつながっている」と主張している。

実際、フランスにたどり着いたアフガン難民の多くがフランス北西部の海岸からドーバー海峡をゴムボートで渡り、イギリスへの入国を試みている。10月9日の週末2日間でフランスからイギリスに不法に40隻の小型ボートに乗って海峡を渡った人数は1115人に上ったとイギリス内務省は発表した。

イギリスは今年7月末に、沿岸におけるフランスの治安部隊の取り締まり強化に資金を提供するために2021年から2022年にかけて、フランスに対して6270万ユーロを支払うことを約束した。

(中略)イギリスは現在、不法移民に対する法整備強化に動いているが、ブレグジット後のフランスとイギリスの関係は難民・移民問題でこじれている。(中略)

アフガニスタンがタリバンの手に落ちたことで急増した難民・移民は、ただでさえコロナ禍で経済的ダメージを受け、コロナ対策の遅れで加盟国からの不信感が高まるEUに、追い打ちをかける結果をもたらしている。

とくにEU域内の豊かな国々と発展途上の中東欧加盟国の分断に拍車をかけ、特に東西冷戦以降、再度、壁建設を強いられることへの複雑な思いが暗い影を落としている。

十分な情報共有なしのアメリカ駐留軍の完全撤収決行は、アフガニスタンに駐留していた北大西洋条約機構(NATO)軍に参加したEU加盟国の軍にもダメージを与えた。

(中略)さらに結果としてアフガン難民・移民が押し寄せている実情に「アメリカは軍撤収の影響は地政学的に少ないが、ヨーロッパには大いに迷惑だ」との批判の声があがっている。

キリスト教の価値観が強く、イスラム教徒を警戒
実はポーランドやハンガリーなど旧ソビエト連邦に属していた国々は地下で信仰を守ってきたキリスト教信者が多く、民主化されて以降、イスラム教徒を警戒する国民感情が強く存在する。

ポーランド憲法裁判所は昨年10月22日、胎児に障害があった場合の人工妊娠中絶を違憲とする判決を下し、ヨーロッパでほぼ完全に妊娠中絶が禁じられる国になった。ハンガリー議会は今年6月、通称、反LGBTQ法案を可決した。EU加盟時にEU法に従うことを約束した両国は今、批判の的になっている。

これらはキリスト教の価値観に即した宗教的判断で、いかに中東欧にキリスト教の価値観が強く根付いているかを表したものだ。EU側は、コロナ復興基金の給付を延期するなどして圧力を加えているが、EU内ではイギリスに次ぐ離脱、「ポレグジット」になる可能性も噂されている。

そんな中東欧の国々とバルト三国は、EU内では反イスラムの急先鋒で、難民受け入れを拒否している大きな理由の一つになっている。

西ヨーロッパ諸国でイスラム系移民を大量に受け入れた結果、自由主義の価値観に同化しようとしないイスラム系移民が社会を根底から揺さぶっている姿を見た中東欧加盟国は、イスラム系移民を自国に定住させることを拒んでいる。

2015年に風刺週刊紙シャルリ・エブド編集部襲撃テロやパリで発生した130人以上が犠牲となった大規模なパリ同時多発テロなど、ヨーロッパで最もテロが頻発するフランスは、中東欧が難民・移民を受け入れない姿勢に批判的な一方、難民・移民に紛れ込んで入域するテロリストへの警戒も強めている。

人道的立場では開かれたヨーロッパをめざすEUだが、テロリストの流入は防ぎたいところだ。(中略)

欧州の求める人材と難民・移民の現状にギャップも
一方、ヨーロッパの受け入れ態勢は2015年に100万人近い難民を受け入れたドイツで明らかになったように十分とは言えない。差別に苦しんでシリアに引き返した難民も少なからずいた。

国益にかなった高度スキル人材を求める欧州と難民・移民の現状にはギャップもある。逃げてきた国が紛争から抜け出し安定すれば帰国させるという見通しが立たない場合も多い。

(中略)壁が崩壊し、人々が自由に国境を往来できる感動に浸り、EU内での自由な移動が保障された中東欧の人々は、まさか30年後に新たな壁を築かなければならないとは予想していなかっただろう。21世紀に入り、紛争、迫害、暴力、人権侵害などで故郷を追われた人々に立ちはだかる壁は、ポストコロナ時代に新たな深刻な課題を突き付けている。【10月18日 安部 雅延氏 東洋経済online】
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ブータン  「幸せの国」も近代化の社会変化の渦中に 国際関係でも中印対立への対応を迫られる

2021-10-28 23:43:49 | 南アジア(インド)
(【6月6日 Lmaga.jp】)

【世界幸福度ランキング 下位に低迷する日本】
毎年3月20日の「国際幸福デー」に公表される、“世界幸福度ランキング”という指標があり、日本の順位が低いことなどがときおり話題になります。

もちろん、かつてのCMに“幸せって何だっけ・・・”というものがあったように、“幸福”という曖昧なものを数値化するというのは、“あるルールに従ってやってみたら、こうなった”ということにすぎませんが、それでも順位の上下、比較は気になるところであり、また、社会の特質を反映している部分もあるでしょう。

****世界幸福度ランキングとは****
幸福度ランキングとは、国連の持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)が、毎年3月20日の「国際幸福デー」に合わせて発表しているランキングデータである。調査は世界の150か国以上を対象におこなわれ、2012年から毎年実施されている。

調査方法
調査で用いられるのは、主観的な幸福度を調べるためのキャントリルラダー(Cantril ladder)と呼ばれる11件法である。「0」~「10」までの11段階のはしごをイメージし、自分自身の生活への満足度が、いまどこにあるのかを判断していく調査手法だ。

このような主観に、以下の6項目の内容が加味される。

1.一人当たり国内総生産(GDP)
2.社会保障制度などの社会的支援
3.健康寿命
4.人生の自由度
5.他者への寛容さ
6.国への信頼度

さらに「各項目が最低値を取ると仮定されるディストピア(架空の国)」と、どれだけ差があるかを加えて、最終的なランキングが決定される仕組みだ。

もともと国連機関は、国内総生産(GDP)をはじめとする経済指標を重視していた。しかし世界的な金融危機や環境破壊など、これから先の社会を生きる上で、無視できない問題が多発。これらの経験をもとに「経済指標だけでは本当の幸福度は測れない」と考えるようになった。

こうした経緯を経て誕生したのが、世界幸福度ランキングである。調査はアメリカの調査会社ギャッラップ社が、対象国・地域の数千人を対象におこない、結果をまとめている。過去3年間の平均値をもとに、最終的なランキングが公表される仕組みだ。【ELEMINIST】
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正直なところ、上記説明は良く理解できないところが多々あります。

結果は、北欧フィンランドを筆頭に、デンマーク、スイス、アイスランド・・・といった欧州の国々が上位に並んでいます。日本はと言えば・・・・

****日本の順位が低い理由は「自由度」と「寛容さ」****
世界幸福度ランキングが公開されるたび、話題になるのが「なぜ日本の順位はこれほどまでに低いのか?」ということだ。2020年の日本の順位は62位だったが、2021年は56位と、わずかに順位を上げた。しかし先進諸国と比較すると、低い水準にいることは変わらない。

1人あたりの国内総生産(GDP)の数値でみれば、日本の順位は決して低くはない。資源には乏しいものの経済は発達しており、欧州諸国ほどではないが、社会保障制度も確立されている。寿命の長さは、世界でも上位だ。海外と比較して「日本は治安が良く暮らしやすい」と感じる人が多いだろう。

ではなぜ、日本の幸福度ランキング順位はこれほどまでに低いのか? その理由は「人生の自由度」と「他者への寛容さ」の2項目に隠されている。

日本人の「人生の自由度」に影響を与える要素のひとつと言われているのが、労働環境である。欧米諸国と比較して、よく「日本人は働きすぎ」と表現される。

ヨーロッパ各国のように、長期休暇を取る風習もなければ、「有給休暇はあっても取りづらい」と感じる人が多い。また「休暇の取りづらさ」以上に、「職場の中で自分に合った働き方を自由に選択できない」と感じる点が問題だと指摘する声もある。

「他者への寛容さ」の項目については、寄付やボランティア活動が非常に大きな要素となる。日本には、積極的に寄付をおこなったりボランティア活動に参加したりする風習が根付いていない。社会全体でこうした取り組みが積極的におこなわれている国ほど、幸福度ランキングは上昇しやすいという特徴があるのだ。

GDPや健康寿命など、客観的な数値で示されるデータに注目すれば、日本は間違いなく「幸せな国」である。一方で、国民の主観にもとづくデータを見ると、「幸せではない国」としての要素が見え隠れする。この主観的データが、幸福度ランキングで日本の順位が低迷する原因だ。【同上】
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自分自身の生活への主観的満足度をどのように評価・表現するかは多分に国民性によるところがありますが、そのあたりはまた後述します。(「あなたは幸せですか?満足していますか?」と尋ねられて「はい、幸せです」と答えるほど能天気じゃねえよ!・・・と私的にも思います)

なお、コロナ禍の影響はあまり大きくはなかったようです。
1位のフィンランドは新型コロナによる死者が欧州の中では比較的少なかった国ですが、それでも人口当たりでみると、日本の2倍ほど。

しかし、“新型コロナウイルスの幸福度への悪影響より、コロナ禍で得た「他者との連帯感や仲間意識、つながり」のほうが、幸福度に大きなプラスの影響を与えたと理解できます。”【PRESIDETonline】とのこと。

【「幸せの国」ブータン ランキングが急激に低下 調査対象外へ】
ところで、この世界幸福度ランキングで上位にランキングされ、「幸せの国」と称されるようになったのが、ヒマラヤの小国ブータン。

2013年には北欧諸国に続いて世界8位にランキングされましたが、2019年版では、ブータンは156か国中95位にとどまりました。下記はそのときの記事。

****交通渋滞で幸福度低下? 経済発展で環境への影響も ブータン****
国内総生産よりも「国民総幸福量」を優先することで知られているブータンは、持続可能な開発の優等生とされてきた。
 
ブータンは、排出される二酸化炭素が吸収される二酸化炭素を上回る「カーボンネガティブ」の国としても知られている。だが現在、自動車ブームに沸いており、世界でもまれなカーボンネガティブという立場のみならず、交通渋滞が国民の幸福度に影響を与える可能性も出てきた。
 
交通当局責任者ペンバ・ワンチュク氏によると、過去20年で車、バス、トラックの数は5倍以上に増えており、首都ティンプーが最も影響を受けている。
 
世界銀行によると、ブータンの経済は過去10年間、毎年7.5%成長してきた。総人口75万人のブータンで、自動車の保有率は7人に1台に達していると当局は推定している。
 
交通渋滞は、ブータンが直面している広範な経済変化の影響の一つだ。国民総幸福量で知られる同国は、観光客には穏やかで素朴なイメージを持たれているが、国内では不満を持つ人も出てきている。
 
世界銀行の昨年の報告書によると、地方から都会への流入の増加で若者の失業率が高まり、それが都市部の資源を圧迫している。

また、国民の幸福を優先する国との評判にもかかわらず、国連が発表した「世界幸福度報告書」2019年版では、ブータンは156か国中95位にとどまっている。
 
インターネットやスマートフォンの普及が欲望をあおり、自動車販売業者らは日本や韓国ブランドの新車をショールームに並べて客を誘い込む。自動車税が引き上げられ、自動車ローンに対する規制も強化されたが、国民の自動車購入意欲は衰えていない。
 
国内の金融機関が貸し出した自動車ローンの総額は、2015年は32億ヌルタム(約50億円)だったが、昨年は67億ヌルタム(約103億円)に達している。

地元の実業家にとっては素晴らしいといえる数字だが、ブータンを世界で最も環境に優しい国の一つにとどめておきたい環境保護主義者らはこの数字に懸念を抱いている。(後略)【2019年8月11日 AFP】
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更に、2020年調査以降は、調査対象外としてランキングから名前が消えました。
何故調査対象外となったのか・・・は知りません。あまりの下位に、「国民総幸福量」を優先することで知られているブータンが反発して調査を許可しなかったのか・・・全く別の理由か・・・。

【社会変化で国内に不満が高まる?】
ランキングはともかく、社会変化の方は続いています。
コロナ禍に加え、たばこ販売も解禁せざるを得ない状況に。

****「禁煙国家」ブータン、コロナ対策でたばこ販売を解禁****
ヒマラヤの王国ブータンで、長年禁止されていたたばこの販売が、新型コロナウイルスの流行対策として、異例にも解禁された。
 
経済的利益よりも国民の幸福を重視する「国民総幸福量」で知られるブータンは、1729年にたばこを取り締まる法が敷かれた。葉タバコは、女悪魔の血液で育つと考えられており、仏教徒が大半を占める同国では今も喫煙は罪とされている。
 
1999年までテレビが違法とされていた、人口約75万人の同国は、たばこの製造と販売、流通を2010年に禁止。だが政府が重い関税や税金を課した上で一定量のたばこ製品の輸入を認めていたため、隣国インドから密輸された闇市場が繁盛している。
 
そうした中、新型ウイルスのパンデミック(世界的な大流行)を受けて、ブータンは今年に入ってインドとの国境を封鎖。すると取引業者のインドへの入国が困難になったため、たばこの闇価格は4倍にまで跳ね上がった。
 
それでも一部は忍び込み続けていたものの、インドとの間を往来していたブータン人の行商人が8月12日、国境に近いプンツォリンで新型ウイルス検査を受け、陽性反応を示した。
 
これを受け、週末に医師の仕事を続けているロテ・ツェリン首相率いる政権は再考を迫られ、密輸入品への需要を減らすことで、理論上は国境をまたぐ感染リスクが抑えられるとして、長年禁止していたたばこの販売を解禁。同首相は一時的な措置だと強調している。
 
この決定により、愛煙家は国営の免税店でたばこ製品を購入できるようになり、たばこが新型ウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)中も購入可能な生活必需品に加えられた。
 
政府はさらに、自宅待機中のヘビースモーカーからたばこを取り上げると、家庭内の緊張が高まる可能性があると主張。ツェリン首相は、「治療したり習慣を変えさせたりするには悪いタイミングだ」と、地元紙に語った。
 
一方、首都ティンプーの免税店の店長は、1日に約1000本の電話が入ると話し、注文に応えるため朝8時から深夜まで働きづめだと説明。「必死に問い合わせる電話があまりに多くかかってくる。食事をする時間もない」と話した。
 
新型コロナをめぐっては、インドでは300万人超の感染者が確認された一方、ブータンでは200人未満にとどまっている。 【2020年8月29日 AFP】
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“1999年までテレビが違法とされていた”というのも、すごいと言うべきか・・・。

なお、新型コロナワクチンに関しては“ヒマラヤの小国ブータンは7日、先月27日の新型コロナウイルスワクチン接種の開始から9日で、国民の約6割が1回目の接種を終えたと明らかにした。”【4月8日 AFP】という驚異的スピードで接種されています。

このあたりは、週末に医師の仕事を続けているロテ・ツェリン首相の判断が影響しているのでしょう。

世界幸福度ランキングの方は、2021年調査でもブータンの名前はありません。

****ブータン「世界一幸せな国」の幸福度ランキング急落 背景に何が?****
2012年から毎年国連が発表している「世界幸福度ランキング」という調査がある。世界150以上の国と地域を対象とした大規模調査で、アンケートやGDP(国内総生産)、社会保障制度、人生の自由度や他者への寛容さなど、さまざまな項目を加味してジャッジされる。
 
実はこの調査で、日本は例年、順位が振るわないのだ。2021年の最新ランキングでも56位と、G7(先進7か国)の中でも最下位だ。
 
いまだにセルビアとの国境で緊張が続くコソボ(33位)や、コロナの感染爆発が起きていたブラジル(35位)よりも下である。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科講師で行動経済学者の友野典男さんは、この結果は日本人の気質が反映されていると指摘する。

「幸福度を他国と比較することには、まったく意味はありません。この調査の根幹はアンケート。日本人は控えめな気質ですから、“あなたはいま幸せですか?”と聞かれても、“それなりに幸せだけど、もっと上がいるから”と考えます。他国のように、恥ずかしがらずに“イエス!”と断言できる人が少ないのです。東アジアに共通する傾向なのか、中国(84位)も韓国(62位)も、同様に幸福度は高くありません」
 
一方、南アジアにあるブータンは、発展途上国ながら2013年には北欧諸国に続いて世界8位となり、“世界一幸せな国”として広く知られるようになった。国民が皆一様に「雨風をしのげる家があり、食べるものがあり、家族がいるから幸せだ」と答える姿が報じられたのを覚えている人もいるだろう。
 
しかし、ブータンは2019年度版で156か国中95位にとどまって以来、このランキングには登場していない。
「かつてブータンの幸福度が高かったのは、情報鎖国によって他国の情報が入ってこなかったからでしょう。情報が流入し、他国と比較できるようになったことで、隣の芝生が青く見えるようになり、順位が大きく下がったのです」(友野さん・以下同)
 
それまで幸せを感じていても、人と比べ始めたとたんに幸福度が下がる。精神科医の樺沢紫苑さんが言う。
「日本の幸福度が低いのは、他人と比べたがる気質も関係しているでしょう。精神医学においても、他人と比較する人は幸せになれないことがわかっています。欧米人は、他人と自分を比較したがらない。横並びを嫌い、収入、学歴、容姿、ファッションなど、さまざまな要素で他人と違うことを好みます」

GDP(国内総生産)よりもGNH(国民総幸福量)を重視
近年は特に、SNSの普及などにより、他人と自分を比較して幸福度が下がる人が増えている。
 
2017年、英王立公衆衛生協会が発表した調査報告では、SNSに投稿された画像を自分と比較することで、劣等感や不安感が高まることがわかっている。

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究所で幸福学を研究する前野マドカさんが言う。

「SNSに投稿される画像には“虚像”も含まれます。投稿した人の本当の姿や本心までは推し量れません。それなのに、高級レストランや海外旅行、ブランド品などの写真を見るとうらやましくなり、自分も他人にうらやましがられたくなる。そうして承認欲求だけが膨らみます」
 
すると、他人との比較や他人からの評価でしか幸せを測れなくなり、どつぼにはまる。もちろん、これは一般庶民もお金持ちも同じだ。家計コンサルタントの八ツ井慶子さんも言う。

「自分の年収が順調に増えていても、他人がそれ以上に増えていると、その人の幸福度はそれほど上がらないといわれています。誰かと比較することで、幸福度を下げてしまうのです。傾向として、他人を気にする人は、いくら年収や貯蓄が増えても幸福を感じにくい。一方、いい意味で自分中心の人はまわりに流されないので、幸せそうにわが道を進んでいます」
 
前出のブータンが“幸せの絶頂期”だった頃、当時の国王は「GDP(国内総生産)よりもGNH(国民総幸福量)を重視する」と語った。

「お金のほか、住まいや食べ物など、200以上の項目について調査してきた結果、これらのあらゆる項目がバランスよく幸福度に貢献していることがわかりました」(八ツ井さん)
 
どれか1つでも突出しすぎていたり、著しく欠けている国はGNHが低い。ブータンはほとんど偏りがなかったのだ。(後略)【女性セブン2021年11月4日号】
**********************

ブータンはともかく、“他人と比較する人は幸せになれない”というのは人生の真実でしょう。とは言うものの・・・。

【国際関係においても、中国とインドの対立という現実への対応を迫られる】
国際情勢の観点から見ると、ブータンはインドと中国の国境紛争の渦中にもあります。
ブータンは伝統的にインドの影響力が強く、前述のコロナワクチンもインドから寄付されたもののようです。【4月8日 AFPより】

しかし、近年は中国のアプローチが強まっています。(なお、ブータンは現在までに20カ国あまりとしか国交を結んでおらず、中国とも国交は未締結です)

****中国、ブータンに接近 国境画定目指す覚書、インド揺さぶり図る****
国境をめぐる対立が長年続いてきた中国とブータンが、国境画定交渉を加速させる覚書に署名した。中国はブータン接近を通じ、ヒマラヤ地域で対立が深まるインドに揺さぶりを掛ける狙いがある。

インドは外交・安全保障面でブータンの後ろ盾であり、交渉の行方は座視できない状況といえそうだ。

中国とブータンは1984年以降、400キロ以上に及ぶ国境画定に向けた交渉を24回重ねたが合意に至っていない。両国には国交もなく、中国はインドの介入があると批判している。

そうした中、中国とブータンは今月14日、国境画定を実現するための3段階の行程を定めた覚書を交わした。覚書の詳細は不明だが、中国の呉江浩外務次官補は「国交樹立に向けても有意義な貢献をする」と称賛し、ブータン外務省も「国境交渉における前向きな進展だ」と歓迎する声明を発表した。

中国のブータン接近は、インド牽制(けんせい)が思惑にある。中印両軍は昨年、事実上の国境である実効支配線(LAC)付近で衝突し、中印関係は急速に冷え込んだ。

インドにとってブータンはインド中央部と北東部をつなぐ戦略的要衝「シリグリ回廊」と近い。ブータンが〝親中化〟すれば国防に影響が出る可能性が高い。

ブータンには中国との関係を安定化させ、摩擦を軽減したい思考が働く。中国は近年、ブータン領内に無断で道路や集落を建設しており、昨年には東部の自然保護地区の領有権を主張する構えを見せた。いわば、中国の圧力が国境をめぐる交渉を前進させた形だ。

ブータンには長年の後ろ盾であるインド一辺倒ではなく、自力で安定を確保したいとの意識が強まっている。

インドはヒマラヤ地域での軍事インフラ整備や軍隊の展開力で中国に遅れ、自国領での中国対応で手一杯ともいえる状況だ。

「近年の状況は(ブータンに)安全保障面のインド依存には限界があると認識させた」と、印シンクタンク「オブザーバー研究財団」のマノジ・ジョシ研究員は分析した。

ブータンは輸出入の8割以上をインドが占めるなど経済的な結びつきも強く、簡単に中国になびく環境にはない。

インド外務省は事態を注視する構えだが、ジョシ氏は「中国は(インドの影響力が強かった)ネパール、スリランカ、バングラデシュに食い込んだ。インドとブータンの特別な関係にも挑戦したいと考えている」と警戒感をあらわにしている。【10月28日 産経】
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ブータンは国内的にも「変化」にさらされていますが、国際的にも中国とインドの対立という難しい状況に直面し、現実的対応を迫られています。

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ウクライナ  ナゴルノ・カラバフ紛争で威力を発揮したトルコ製AIドローンで親ロシア勢力を攻撃

2021-10-27 23:15:38 | 欧州情勢
(トルコ製AIドローン「バイラクタルTB2」 【航空万能論】)

【ウクライナ軍 “あの”トルコ製AIドローンで親ロシア勢力を攻撃】
今日一番目を引いた記事は、久しぶりのウクライナ東部の戦闘に関する記事。

2014年以来のウクライナ東部におけるウクライナイ政府軍と親ロシア勢力の紛争は、昨年7月に「一応」の完全停戦合意が成立していますが、その後も断続的に小規模な戦闘は続いていますので、戦闘があったこと自体は驚きでも何でもありません。

目を引いたのは、ウクライナ側が使用した兵器が、アゼルバイジャンとアルメニアの戦いで戦局を左右する影響力を発揮した“あの”トルコ製AIドローンだったことです。

****ウクライナ軍、トルコ製ドローンで親ロシア派武装集団を初めて攻撃****
ウクライナ軍参謀本部は26日、東部での親ロシア派武装集団との紛争で、トルコ製攻撃無人機(ドローン)「TB2」を武装集団への攻撃に初投入したと発表した。武装集団からの砲弾攻撃でウクライナ兵に死傷者が出たことを受けたものだと説明し、相手のりゅう弾砲を破壊したとしている。
 
ウクライナとトルコは軍事面での協力関係を強化している。TB2は、アゼルバイジャンが自国領ナゴルノ・カラバフ自治州を巡るアルメニアとの大規模戦闘で多用し、旧ソ連製の兵器主体のアルメニアに対する勝利に貢献したとされている。

今回の投入が、2014年に始まった紛争の戦況に影響する可能性がある。【10月27日 読売】
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戦闘の経緯をもう少し詳しく見ると・・・
下記記事で“バイラクタル”とあるのが、トルコ製AIドローンTB2で、長さは6.5m、翼幅が12mほどの大きさのものです。

****ウクライナ軍、トルコ製無人機を東部で初めて使用 露占領軍の火砲を破壊****
(中略)
(ウクライナ軍)参謀本部は、同使用に先立ち、ロシア占領軍からの攻撃があったと伝えている。具体的には、同日14時25分から15時15分にかけて、ロシア占領軍が122ミリ口径榴弾砲D-30によりフラニトネのウクライナ統一部隊配置地点に対して砲撃、これによりウクライナ軍軍人2名が負傷、内1名が死亡したと報告された。

その際、ウクライナ側は、敵の砲撃開始時に欧州安全保障協力機構(OSCE)ウクライナ特別監視団(SMM)を通じて停戦要求を出し、さらに外交チャンネルを通じて口上書を送付したが、ロシア占領軍は対応しなかったという。

これを受け、ウクライナ参謀本部は、「敵を強制的に攻撃停止させるため、ウクライナ軍総司令官の命令に従い、『バイラクタル』が使用された。同無人機は、衝突ラインを越えず、誘導弾により、ロシア占領軍保有の火砲1点を破壊した」と伝えた。その後、敵のウクライナ側への砲撃は止まったという。

これに先立ち、2020年12月14日、ウクライナ国防省は、トルコ企業との間で複数の防衛関連契約を締結、2021年7月には、ウクライナ海軍の装備用にトルコ製無人機バイラクタルTB2の1機目が到着していた。【10月27日 ウクルインフォルム】
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【火薬や核兵器のように軍事史を変えるくらいのインパクトのあるAIドローン】
トルコ製ドローンが世界の耳目を集めたは、ロシア製兵器を装備したアルメニア軍を、トルコ製AIドローンを使用したアゼルバイジャンが圧倒したナゴルノ・カラバフ紛争でした。

****AIドローン兵器が勝敗を決したナゴルノ・カラバフ紛争の衝撃****
(中略)このアゼルバイジャンが、世界の軍事関係者を震撼させている。AIを搭載したドローンによって、30年来にわたる係争地として知られるナゴルノ・カラバフ州を巡るアルメニアの紛争をアゼルバイジャンが勝利に導き、同州の領土の一部を奪還することに成功したからだ。
 
AIドローンは、アルメニア側の兵士や戦車の存在を見つけ出し攻撃する。これまで洞穴の中などに隠れている兵士は上空から判別できなかったが、AIドローンは、兵士の持っている電子機器などの存在から兵士の存在を発見し、攻撃するのだ。不意の攻撃を受け続けたアルメニア側は修羅場と化したであろう。
 
なぜ、アゼルバイジャンという軍事大国とも科学技術大国とも言い難い国が、AIドローンという最新兵器を使って軍事的勝利を収めることができたのか。それは、同地域の大国トルコによるAIドローンの提供があったからだ。
 
トルコは、ナゴルノ・カラバフ紛争において、同じトルコ系でイスラム教徒が多いアゼルバイジャンを軍事的に支援してきたが、今回はAIドローンという隠し玉で勝敗の帰趨を決める役割を果たした。(中略)
 
火薬や核兵器など、兵器は世界史を大きく変えてきた。今回のAIドローンは、軍事史を変えるくらいのインパクトのあるものだ。(後略)【7月22日 山中 俊之氏 JBpress】
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上記記事を含め、このAIドローンの画期的とも言える影響については
でも取り上げてきました。

下記はトルコと並んでドローン先進国であるイスラエル製AIドローンに関する記述です。

****蜂などの大群がブンブン飛び交うように****
ここで「群れ」としたのは、原語では「swarm」とあり、直訳すれば「蜂などの大群がブンブン飛び交うこと」だ。さまざまな機能を備えた小型ドローンを、昆虫の群れのように多数飛ばして敵の状況を詳細に把握し、最も効果的な手段を備えたドローンから攻撃する。

例えば偵察用のドローンには、可視光、赤外線、放射線などの探知を担当するものがあり、攻撃用ドローンには機銃やミサイルを搭載したものの他、目標に自爆攻撃するものもある。さらに「群れ」には、敵方の電波を撹乱するジャミング担当のドローンも同行することがある。

これらのドローンは、人間の兵士が離陸させた後はAIの指示で互いに情報を交換しながら行動し、AIの判断で攻撃を行う。(後略)【7月12日 木村太郎氏 FNNプライムオンライン】
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トルコ製AIドローンがどの程度“自律性”を持つのかは知りません。
「バイラクタル TB2」は各種ミサイルも搭載していますが、自爆攻撃も行うようです。

【バランスオブパワー(勢力均衡)を変える可能性も】
“ウクライナは12機を輸入し、親ロシア勢力の支配下にある東部地区の偵察に投入した。ウクライナは、より高性能なトルコ製無人攻撃機「アキンチ」へエンジンやプロペラを供与している。ロシア連邦副首相ユーリ・ボリソフは、「トルコとの関係を見直す」とウクライナへの無人軍用機輸出に対して警告を発した。”【ウィキペディア】

ウクライナはこのドローンで黒海パトロール活動も始めています。

トルコはこのドローンをウクライナやアゼルバイジャンだけでなく、カタールやアルバニア、ロシアを警戒するポーランド・ラトビアに供与しているようです。

****アルバニアもトルコから攻撃ドローンを12億円で購入:地元メディア報道****
アルバニア軍がトルコの軍事企業のバイカル社の攻撃ドローン「バイラクタル TB2」の購入に強い関心を示しているとトルコの地元メディアSABAHが報じていた。アルバニア軍は900万ユーロ(約12億円)でドローンを購入する予定。

NATO加盟国ではポーランド、ラトビアもトルコのバイカル社の攻撃ドローン「バイラクタル TB2」を購入している。

軍事ドローンで注目度が高いトルコ
トルコは世界的にも軍事ドローンの開発技術が進んでいる。アゼルバイジャンやウクライナ、カタールにも提供している。

(中略)またロシアと対峙しているウクライナにも軍事ドローンを提供しており、ロシアにとっても大きな脅威になっている。

攻撃ドローンは「Kamikaze Drone(神風ドローン)」、「Suicide Drone(自爆型ドローン)」、「Kamikaze Strike(神風ストライク)」とも呼ばれており、標的を認識すると標的にドローンが突っ込んでいき、標的を爆破し殺傷力もある。(中略)

特にロシアにとっては周辺の中小国が攻撃ドローンを大量に導入することは脅威である。NATOおよびEU加盟国で初めてトルコから軍事ドローンを購入したポーランド、続けて購入したラトビアの標的は明らかにロシアであり、ロシアに対する抑止を狙っている。

「神風ドローン」の大群が上空から地上に突っ込んできて攻撃をしてくることは大きな脅威であり、標的である敵陣に与える心理的影響と破壊力も甚大である。

ドローンはコストも高くないので、大国でなくとも購入が可能であり、攻撃側は人間の軍人が傷つくリスクは低減されるので有益である。

そして軍事ドローンを活用すればポーランドやラトビアのような中小国であってもロシアのような大国に対して非対称な戦いが可能となるため、抑止力にもなり、バランスオブパワー(勢力均衡)を変える可能性がある。【7月11日 佐藤仁氏 YAHOO!ニュース】
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世間では極超音速巡航ミサイルなどの中国・ロシア・アメリカ、はては北朝鮮などの開発競争が取り沙汰されていますが、そうした兵器は実際の紛争で使用されることはまずないでしょう。

使用されるとしたら、全世界的・人類的危機のときです。そうした事態にならないことを願っています。

それより実際の紛争で現実的威力を発揮して、戦い方を変えつつあるのはAIドローンでしょう。
(更に言えば、現金がメインで、ファックス・印鑑が未だに使用される日本にあって、自衛隊はそういう技術変化に対応出来ているのか・・・いつまでもF35、いずも、イージス艦ばかかりに固執していると・・・という不安もありますが)

【目だった進展はない外交交渉 ウクライナのNATO加盟問題】
ウクライナ頭部に関する交渉は、進んでいるのか、いないのか・・・少なくとも目だった進展はありません。

****独・仏・ロシア・ウクライナが外相会談開催へ、ウクライナ紛争巡り****
ドイツ政府は11日、メルケル首相とフランスのマクロン大統領がウクライナのゼレンスキー大統領およびロシアのプーチン大統領とそれぞれ電話会談し、ウクライナの紛争を巡り協議したほか、外相会談の開催で合意したと発表した。

メルケル首相とマクロン大統領はまずゼレンスキー大統領とウクライナ東部の紛争解決に向けたミンスク和平合意の履行について協議。その後、プーチン大統領と会談し、和平交渉の進展を要請した。【10月12日 ロイター】
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ウクライナ軍がトルコ製ドローンを今後多用することがあれば、戦局を変える、ひいては上記のような外交交渉に影響する可能性もあります。(今のところは保有数が12機とか、まだ少ないようですが)

ロシアも、アゼルバイジャンで面目を潰され、今度はウクライナで・・・となると、その国際的影響力にもかかわってきます。

ところで、ウクライナはNATO加盟を望んでおり、ロシアは「越えてはならない一線だ」と反対しています。

****ロシアはウクライナ和平に障害、米国防長官が警告****
オースティン米国防長官は19日、訪問先のキエフで、ロシアはウクライナ東部における和平の妨げとなっており、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟に反対する権利はないと述べた。

ウクライナ軍は、2014年のロシアによるクリミア半島編入以来、東部ドンバス地方でロシアの支援を受けた軍と戦闘状態にある。

オースティン長官は、ウクライナのタラン国防相と行なったブリーフィングで、「ロシアがこの戦いを始め、事態の平和的解決の障害となっている。したがって、われわれはロシアに改めて、クリミア半島占領とウクライナ東部における戦闘の中止、黒海およびウクライナ国境における不安定化行為の停止、米国と同盟国およびパートナーに対する執拗(しつよう)なサイバー攻撃その他の有害行為をやめるよう求める」と述べた。

また、「第3国にはNATO加盟に拒否権を発動する権限はない。ウクライナには将来の自国の外交政策を決定する権利があり、われわれは外部からの干渉なしにこれが実現することを期待する」と述べた。【10月20日 ロイター】
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オースティン米国防長官はロシアの反対を取り上げていますが、ウクライナのNATO加盟を躊躇しているのは、アメリカなどNATO側ではないでしょうか。

もしNATO加盟国となって、そのウクライナがロシアと衝突することになったら、アメリカなどNATOはロシアと正面からぶつかることにもなります。

ウクライナ側は、アメリカに「はっきりしてくれ」と加盟を迫っています。

****ウクライナ大統領「バイデン氏は明確な答えを」、NATO加盟巡り****
ウクライナのゼレンスキー大統領は14日、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟への前段階である加盟行動計画(MAP)を巡り、バイデン米大統領からの明確な答えを望んでいると述べた。

ロイターやAP通信などとのインタビューで、「NATOやMAPについて協議するのであれば、(バイデン氏から)イエスかノーか具体的な答えを聞きたい」と指摘。「ウクライナの加盟の可能性と明確な日付を知る必要がある」とした。(後略)【6月14日 ロイター】
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スーダン  2年前に歴史的合意で成立した軍と民主派の共同統治が、軍のクーデターで崩壊

2021-10-26 22:46:19 | アフリカ
(クーデターに抗議するため路上でデモをする市民ら=スーダンの首都ハルツームで25日、AP【10月26日 毎日】)

【クーデターへの抗議デモに軍が実弾発砲 7人死亡】
アフリカ・スーダンで軍が文民の首相を拘束するクーデターが発生し、これに抗議する市民に軍が発砲、多くの死傷者が出ていることが報じられています。

****スーダン軍部隊、クーデター抗議の市民に発砲 7人死亡140人けが****
アフリカ東部スーダンでハムドク首相らを拘束し権力を掌握した軍の部隊が25日、クーデターに抗議するデモ隊に発砲し、これまでに7人が死亡、140人が負傷した。ロイター通信が同国保健省の話として伝えた。
 
首都ハルツームなどでは25日のクーデター発生後、多数の市民が路上に出て抗議。路上でタイヤを燃やしたり、石を置いたりして軍の行動を妨害した。民主化運動団体「自由・変革勢力」などは市民らに非暴力の抗議継続を呼びかけいる。
 
スーダンでは2019年に30年間続いたバシル大統領の独裁体制が崩壊した後、軍部と民主派が共同で暫定統治を行う体制を構築。今回は軍を率いるブルハン統治評議会議長らが、政権から民主派を追い出す形でクーデターに踏み切った。
 
民主派はバシル政権崩壊の前後から度々大規模なデモや座り込みをして政治を動かしてきた経緯があり、今後、軍側がこれにどう対処するかが焦点となる。
 
一方、クーデターを巡っては国際機関や欧米各国が相次いで軍を非難する声明を発表した。米国はスーダンへの7億ドル(約800億円)相当の緊急援助を停止すると発表。また国連は26日に安全保障理事会を開いてスーダン問題について緊急に協議する。【10月26日 毎日】
*********************:

****軍が実権掌握のスーダン、通信寸断 市民生活に深刻な影響****
 軍のクーデターから一夜明けたスーダンでは、一部道路が封鎖され、通信は寸断。店舗もほとんど閉まっており、人々は食料を買うために長い行列を作っている。

民政移管に向けた設置された軍民共同の統治評議会の議長で軍側のブルハン氏は前日、統治評議会が開催されたと発表。一部報道で、同氏は26日、労働組合を監督する委員会を解散したとされる。

軍に拘束され、現在居場所が分からないハムドク首相を支持する情報省はフェイスブックに、前日の軍の緊急事態宣言について、民政移管憲法で緊急事態を宣言できるのは首相だけで、軍の行為は犯罪だと投稿した。

首都ハルツームと主要都市オムドゥルマンを結ぶ主要道路や橋は車両の通行ができなくなっている。銀行は休業、現金自動預払機(ATM)は使用不可となっているほか、スマートフォンの決済アプリもアクセス不能。オムドゥルマンでは、営業しているパン屋に長い行列ができている。【10月26日 ロイター】
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【19年7月に、予想外の歴史的合意で成立した共同統治】
アフリカ・スーダンで軍のクーデターが起きて、犠牲者が出ている・・・これだけ聞けば、多く者は「ああ、アフリカでまたクーデターね・・・」という印象でしょう。

確かに“また”ではありますが、スーダンの場合、「やっぱりダメだったかな・・・」という残念な思いがあります。

冒頭【毎日】にもあるように、スーダンでは2019年に30年間続いたバシル大統領の独裁体制が崩壊した後、軍部と民主派が共同で暫定統治を行う体制を構築されていました。

その共同統治もすんなりと出来た訳でなく、バシル前大統領を拘束して実権を掌握した軍による統治に国民が抗議デモを繰り返し、犠牲者も出ました。

その抗議行動は、暴発しないように市民によってコントロールされ、女性も先頭に立つ形で行われました。

(今は国内問題ですっかり国際評価落としていますが)ノーベル平和賞を受賞したエチオピアのアビー首相の仲介もありました。

(私的には“予想外”の展開でしたが)そうした市民・民主派の抵抗が一定に実を結ぶ形で、軍と民主派の合意が2019年7月に成立し、トップを軍人と文民が交代で務める共同統治がスタートしました。

下記は、その当時(2019年7月)の記事です。

****スーダンのデモ隊、軍事評議会との歴史的合意に歓喜****
スーダンを暫定的に統治している軍事評議会と民政移管を求めるデモ隊の指導部が新統治機構について歴史的な合意を結び、首都ハルツームでは(2019年7月)5日、大勢が街頭で祝福した。(中略)
 
昨年12月にオマル・ハッサン・アハメド・バシル前大統領に対する抗議デモを開始し、反政府デモを主導してきたスーダン専門職組合は合意を歓迎。声明で、「きょう、われわれの革命は勝利を収め、われわれの勝利は輝いている」と述べた。
 
ハルツームの街頭では大勢が合意を祝い、「犠牲者が流した血は無駄ではなかった」「民政、民政」とシュプレヒコールを上げた。
 
デモ指導者のアハメド・ラビ氏がAFPに語ったところによると、新統治機構の構成は軍人5人、文民6人になる見通し。文民のうち5人をデモ隊が指名するという。
 
SPAによると、新たな機構の統治期間は3年と3カ月になる見通し。機構のトップは始めの1年9か月は軍人が、残りの1年6か月は文民が務めるという。
 
民主化勢力の一派「自由・変革同盟」の指導部は5日、最終合意は来週、各州知事の立ち会いの下で結ばれると発表した。新統治機構のメンバー候補と首相候補について、来週までに指名の用意をするという。
 
国連のアントニオ・グテレス事務総長は、「全ての利害関係者が、時宜にかなった包括的で透明性ある合意の履行を実施し、あらゆる懸案事項を対話によって解決する」ことを呼び掛けた。
 
軍事評議会に賛同していたアラブ首長国連邦とサウジアラビアも、今回の合意を歓迎した。
 
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、この合意によりスーダン国民に対して長年行われてきた「恐ろしい犯罪」に終止符が打たれることを期待すると表明した。 【7月6日 AFP】
*************************

力の論理がストレートにまかり通ることが多いアフリカにあって、“意外な”軍と民主派の合意によって生まれた共同統治でした。

アメリカは制裁を解除し、先進国の債権国の集まりであるパリクラブとスーダン政府との間で債務解消に向けた合意が締結され、世界銀行、米国・フランス・EU等の各国ドナー、またUNDP(国連開発計画)、アフリカ開発銀行などの国際機関・各国が支援を再開するなど、国際社会もスーダンの共同統治を歓迎しました。

【軍と暫定政府の間には緊張が 9月にはクーデター未遂も】
ただ、インフレの進行、若者の高い失業率など、国内経済は良い状況ではなく、国民の不満も高まっていたようです。

****新生民主国家スーダンの現状―アラブの春を繰り返さないために****
(中略)
高まる国民の不満
このような国際社会の歓迎ムードとは対照的に、スーダン国内では現在、暫定政権に対する国民の不満が高まっている。

スーダン財務経済省は、IMF等が債務救済の条件として求める財政健全化を進めるべく、様々な財政経済改革を行っている。

今年2月には、(中略)為替レートの変動制が導入され、(中略)実質7分の1に通貨の切り下げが行われた。その後も通貨は下がり続け、7月15日現在、市場レートは1USD=445SDG前後となっている。

またスーダンではこれまで、電気、小麦、燃料等の価格が政府補助金の投入で支援されていたが、かかる補助金を削減することで財政再建が進められている。

6月に財務経済計画省は燃料補助金の完全撤廃を発表したが、その直後にガソリン、ディーゼルの価格は2倍以上に高騰、6月の対前年同月比のインフレは413%、食品・飲料を除く商品の価格は644%を記録した。

政府は世銀等の支援により貧困世帯支援のファミリーサポートプログラムを実施中であるが、効果は現在のところ限定的であり、国民の経済悪化に対する不満は上昇している。
 
6月30日は、前バシール政権時代の革命記念日であり、2019年の民主政権への転換後、民主化を記念する日として国民のデモ行進が行われているが、今年は生活実態の悪化に対する抗議デモの色彩が鮮明となり、若者がタイヤを燃やし、道路を封鎖するなど、政府に対する抗議行動が目立った。

スーダンでは、若年層の比率が高く、15歳から30歳までの世代が全人口の60%を占める。また失業率も高く、人口の約17 %が失業中である。若者の失業は、社会の不安定要因となるが、就職の機会が提供され、経済成長の推進力の役割を担ってもらうことが期待される。
 
スーダン国内の社会不安は、経済の分野に止まらない。

スーダン西部のダルフールでは、ダルフール国連・AU合同ミッション(UNAMID)が2020年12月末で活動を終了し、2021年6月で撤収を完了したが、UNAMIDの活動終了後治安が悪化している。

またスーダン南部の南コルドファンや青ナイルでも部族間の衝突が増加し、また紅海に面したポート・スーダンではベジャ民族評議会がジュバ和平合意の約束が履行されないとして、7月に一時、道路や鉄道を封鎖する動きが発生した。

スーダンの暫定政権は、軍部出身のブルハン氏が大統領に就き、民主派のハムドック氏が首相に就く体制で構成されている。また暫定政権期間中、最高権限を持つ主権評議会(Sovereign Council)の議長にブルハン氏が、副議長にダルフール紛争で非人道的な行為を行ったといわれている民兵組織ジャンジャウィードの後継組織「機動支援部隊(Rapid Support Force)」トップのヘメティ氏が就任しており、政治的には微妙なバランスの下で成り立っている。

7月には主権評議会のブルハン議長やハムドック首相が参加するTransitional Partners’ Councilにて、「8月1日に全州の知事を解任し、8月5日に新しい知事を任命する」との提案が発表されるなど、政治運営ではなおも先行きが見通せない状態が続いている。

ハムドック首相は、6月、未だ政治的分断が続き、民主的な政治システムを構築するためのコンセンサスが形成できていないとして危機感を表明している。

「アラブの春」の失敗を繰り返さないために
10年前の2011年、中東諸国では「アラブの春」が発生し、民主化運動が中東諸国で広がった。しかしながら、多くの国で、民主化の動きは長続きしていない。新政権は国を統治した経験がないことから、国民の民主化への期待を吸収できなかったのが一因と考えられる。

スーダンは、1956年の独立以降、2019年の政変以外にも、1958年、1969年、1989年に軍事クーデターが起きているが、民衆の蜂起により軍事政権が打倒され、その後軍事クーデターが発生する歴史を繰り返している。

2年前の政変を経てようやく誕生した民主政権が継続するか否か、今、分岐点にさしかかっている。途上国の民主化プロセスを定着させることが出来るかどうか、国際社会の力量が試されている。

「アラブの春」から10年後に誕生した新生民主国家スーダンが安定と発展の道を歩み続けることが出来るよう、国際社会が一丸となって脆弱なガバナンス体制を支えることが、今、必要である。【8月5日 国際協力機構(JICAスーダン事務所長・坂根 宏治氏 国際情報ネットワーク分析 IINA】
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2年前の軍政に対する抗議デモを力で排除し、犠牲者を出したのも、ダルフール紛争で悪名をはせた民兵組織ジャンジャウィードの後継組織「機動支援部隊(Rapid Support Force)」とそのトップのヘメティ氏だったようですが、今回もまた・・・でしょうか。

軍とハムドック首相ら暫定政府の間には緊張があり、9月にもクーデター未遂がありました。

****スーダンでクーデター未遂 バシル前政権に関係と暫定政府****
スーダン暫定政府は21日、同日朝にクーデターを阻止したと発表した。今回のクーデター未遂には、長期独裁体制を敷き、2019年のクーデターで崩壊したオマル・バシル 前政権とつながりがある軍人や民間人が関与したとの見方を示している。
 
ハムザ・バロール情報相は、クーデターは阻止され、関与した者らは「制圧された」と明らかにした。
 
バロール氏はテレビ演説で「国民に対し、秩序は回復したと保証する。クーデター未遂の軍民双方の首謀者は逮捕され、捜査を受けている」と述べた。
 
バシル氏の失脚以来、複数のクーデター未遂が起きており、当局は、前大統領を支持するイスラム主義者や解散した与党の元党員が関与したと主張している。
 
スーダンにはクーデターが繰り返されてきた長い歴史がある。かつて軍の准将だったバシル氏も、1989年にイスラム主義組織と連携して軍事クーデターを起こし、権力を掌握した。 【9月21日 AFP】
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上記のクーデター未遂による多くの将校逮捕も、今回クーデターの伏線になったようです。

****軍が実権握ったスーダン、今起きていること****
(中略)
クーデターは予想外だったのか
完全に予想外だったということはない。ハムドク首相の側近であるアダム・ヒレイカ氏はCNNに対し、首相は軍の計画に気づいていて、政府を解散する圧力を受けていたと語った。(中略)

なぜこんな事態になったのか
ハムドク首相を含む一部の政治家が当初の暫定合意に従って11月17日までに完全な民選意向を進めようとした後、緊張関係は高まった。

先月、バシル前大統領に忠誠を誓う部隊による軍のクーデターが失敗。関係した大半の将校が逮捕されると状況はエスカレートした。

軍指導部は、その後数週間、「自由と変化宣言勢力」の改革を要求し、閣僚の入れ替えを迫った。文民指導者らは軍指導部による権限掌握にあたると批判した。

今月21日には多数の群衆が通りに出て、19年の暫定合意を尊重することを要求し、選挙に基づく政府を求める声を上げた。一方、文民政府に反対する軍支持のデモも発生した。

国際社会の反応は
国連のグテーレス事務総長は25日にツイッターで、クーデターを非難し首相や他の当局者らの釈放を求めた。国連はスーダン国民を支持し続けるとも述べた。

米ホワイトハウスは記者会見で、バイデン政権がスーダンで進行する事態に深い危機感を感じていると述べた。英国は、クーデターがスーダン国民に対する「受け入れがたい裏切り」にあたると述べた。(中略)

バシル前大統領はどこに
オランダ・ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)の検察官は09年と10年に、03〜08年のダルフールにおけるスーダン軍の活動に関連したジェノサイド(集団殺害)と戦争犯罪の罪でバシル前大統領に対する逮捕状を出した。

スーダン政府は今年、バシル前大統領やダルフール紛争に関連して手配されている他の当局者らをICCに引き渡すと発表していた。

バシル前大統領は現在、汚職と外国通貨の不法所持で禁錮2年の有罪判決を受け、スーダンの刑務所に収監されている。また1989年で自身が権限を掌握したクーデターでの役割についても別の訴訟に直面している。【10月26日 CNN】
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文民統治の支持者らは軍の権限奪取に対抗して不服従の計画やストライキも発表したということで、抵抗の実力排除を厭わない軍との間で、混乱がしばらく続きそうです。

2年前のスーダン国民の高揚と国際社会の歓迎・支援によって誕生した“アフリカらしからぬ”共同統治が、“いかにもアフリカ的な”クーデターで潰れてしまうというのは、残念な展開です。
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原発  脱炭素への移行にあたり「安定供給源」として原発は一定に必要とのEUの認識

2021-10-25 23:16:52 | 資源・エネルギー
(22日に閣議決定された日本の第6次エネルギー基本計画【10月22日 東京】)

【「新増設・リプレースしない」方針で、「野垂れ死ぬ」将来の原発】
先の自民党総裁選挙で、河野太郎氏の「脱原発」が争点になるのでは・・・とも思われましたが、そういう議論は自民党的には不利になるという判断でしょうか、早々に引っ込められてしまったようです。

ただ、「脱原発」を明確にする、しないにかかわらず、日本の原発は将来先細りのようです。

****河野太郎氏の脱原発“置き土産”の余波 専門家「原発が野たれ死ぬ将来見えた」****
先の自民党総裁選で河野太郎氏は、既存原発の再稼働は認めながらも、核燃サイクルは「なるべく早く手じまいすべきだ」と明言した。

脱原発を期待する市民のなかから「現実路線に軌道修正した」と落胆する声があがった一方で、同氏周辺や専門家には「まったく妥協していない」と指摘する声が少なくない。

河野氏は敗北し、その政策実現はいったん遠のいたかに見えるが、「核燃サイクル政策はとっくに破綻しており、早晩政府は解決策を迫られる」との見方も強い。

10月にも閣議決定される「第6次エネルギー基本計画」はどうなるのか、間近に迫る総選挙では、原発政策で河野氏と共通点も少なくないとみられる野党は、どう攻めるのか――。

政府の有識者会議のメンバーとして、原子力政策に長く関わってきた橘川武郎・国際大教授(東大・一橋大名誉教授)に聞いた。 

*  *  * 
――「核燃サイクル」見直しを訴えた河野太郎氏は、総裁選に敗れました。  

今度の総裁選の結果を見て、資源エネルギー庁や電力業界は、ほっとひと安心したと思います。しかし現政権が短命で終わると、あらためて河野政権が登場する可能性があります。河野さんはまったく妥協していない。本格政権になれば、「原子力ムラ」にとって最悪シナリオになるんじゃないか。

 ――逆に、甘利明氏が自民党幹事長になるなど、新たな政府与党の体制には原発推進派も目立ちます。10月に閣議決定が予定される「第6次エネルギー基本計画」で、「原発新増設、リプレース(建て替え)」を求めてくる可能性もあるのでは?  

まったくありません。「安倍一強」時代でさえできなかったことが、新政権にできるわけがない。まして総選挙を直後に控えています。経済界には要望が強いが、3.11以来国民のなかに原発への忌避感が強いことは、政府与党も十分感じ取っています。あの原発事故以来、自民党も旧民主党系野党も原発を主要な論点から外しています。原発問題は、票を減らすことはあっても、増やすことはないからです。今後も主要な論点から外され続けるでしょう。野党も、同じことです。 

■アンモニア・水素火力が引退勧告
――河野さんが首相になれば、「原発の葬式」がいよいよ始まるはずだった?  

いや、実は「2050年には原発はよくて10%、場合によってはなくていい電源になる」。そうした流れが、今度の首相交代劇の前に、ほぼ固まった、と私は見ています。
 
これまでは、(原発反対派向けには)「新増設、リプレースしない」とする一方で、(推進派向けに)原発による電力は「2030年に20~22%」。この2つのバランスの中で、問題を先延ばししていく、という「先延ばし路線」が最近5~6年は続いてきました。 

「新増設・リプレースしない」方針は何を意味するのか。原発はあと50年も経てば、なくなるということ。「野垂れ死ぬ」将来が見えたわけです。

40年の寿命を延長して60年間稼働しても、2050年には、現在の33基のうち18基しか残らない。60年に5基しか残らず、69年12月には最後の北海道電力・泊3号機が停止する。  

さらに、政府が昨年12月に発表した、2050年の電源構成の「参考値」が重要な意味を持ちます。「再生エネ50-60%、水素とアンモニア10%、CO2を回収・貯留・再利用するCCUS付きの火力と原発30-40%」とした。

子供でも分かる理屈ですが、ふつうは「再生エネ、火力、原子力」に分けます。「火力の一部と原子力」をなぜくっつけたのか?「原発10%以下」の見通しを隠すためだった、と私はにらんでいます。 

――「原発10%以下」が、どうして可能になるのでしょう?  

アンモニアと水素を使う「カーボンフリー火力」が登場したからです。JERA(東京電力と中部電力が出資した日本最大の火力発電会社)が昨年10月13日に発表しました。菅義偉首相は、直後の26日の所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル」を宣言しましたが、この宣言の背景には、「CO2を出さない火力発電」という新しい仕組みが示された事実があったのです。これは「原発はもう引退せよ」とのメッセージであり、日本の電力業界の「ゲームチェンジャー」にもなるでしょう。原子力は「副次電源」になったということです。(後略)【10月6日 AERAdot.】
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【第6次エネ基本計画では従来目標の原発20~22%を維持 実現は困難】
上記記事にもある「第6次エネルギー基本計画」が22日、閣議決定されました。(総選挙のどさくさで、議論も何もあったものではありませんが)

****脱炭素へ再生エネ倍増 第6次エネ基本計画を閣議決定 原発の新増設は盛り込まず****
政府は22日の持ち回り閣議で、国のエネルギー政策の中長期的な指針「第6次エネルギー基本計画」を決定した。

2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にするため、太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる電源を現状から倍増を目指し、主力電源化へ「最優先の原則で取り組む」とした。

原発は脱炭素電源として重視して再稼働を進めるものの、新増設の方針は盛り込まなかった。(小川慎一)

◆再生エネ発電比率目標を10%以上引き上げ
計画では、温室効果ガス排出量を30年度に13年度比で46%削減するとの国際公約に基づき、再生エネの30年度の発電比率目標を36~38%と、これまでより10ポイント以上引き上げた。
 
東京電力福島第一原発事故から10年半が過ぎ、再稼働が10基にとどまる原発は従来目標の20~22%を維持。達成するには全36基(建設中3基含む)のうち30基程度の稼働が必要で、実現は困難な状況だ。
 
再生エネ拡大を図り、原発は「可能な限り依存度を低減」とする一方で、「必要な規模を持続的に活用する」と新たに明記。小型炉など新型炉の研究開発を進める方針を掲げ、既存原発からの建て替え(リプレース)に含みを持たせた。
 
再生エネと原発を合わせた脱炭素電源を全体の6割にできなければ、30年度の温室効果ガスの排出削減の約束は果たせない。
 
政府はこの日、温室効果ガス排出削減の具体策を盛り込んだ「地球温暖化対策計画」も決定。英国で31日に始まる国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で計画を示す。

温室効果ガスを大量排出する石炭火力は先進国で全廃が求められているが、日本は30年度比率を26%から19%に縮小したものの、ゼロへの道筋が描けていない。(後略)【10月22日 東京】
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化石燃料を減らして脱炭素を目指す・・・ということでは、今回の「第6次エネルギー基本計画」でも、欧州諸国に比べると日本は周回遅れではないか・・・という話もありますが、それはまた別機会に。

話を原発に絞ると、目標「20~22%」という数字は、今後の原発稼働を考えると「実現は困難な状況」とのことのようです。やはり、前出【AERAdot.】にもあるように、“「野垂れ死ぬ」将来”というか、“自然消滅”ということでしょうか。

【コスト優位性を失う原発】
日本では原発に関しては一にも二にも安全性が問題となりますが、欧米諸国で「脱原発」が進んでいるのは、安全性問題に加えて、原発より再生可能エネルギーの方が安いから・・・という非常に現実的な要因によるところが大きいと言われています。

日本でも、原発のコストについては、見直しがなされているようです。

****原発、消えた優位性 重い安全対策・事故費****
コストが最も安いとされる発電方法が、原発から太陽光に変わろうとしている。経済産業省の試算では、2030年には太陽光の方が原発よりおおむねコストが低くなる見通しだ。政府や大手電力会社は原発の安さを強調してきただけに、エネルギー政策への影響は避けられない。

原発のコスト増の大きな要因は安全対策費だ。
東京電力福島第一原発事故で規制が強まり、過酷事故などを想定した対策工事が必要になった。かかる費用は、今回は15年の前回試算より1基あたり1369億円増えると見込む。
 
事故時の賠償や廃炉費用なども、前回の9・1兆円から15・7兆円に増えた。福島第一原発事故の処理費用をもとに算出している。政府は16年末に処理費用を上方修正したが、今後もさらにふくらむのは確実だ。
 
原発では費用が増えそうな要因がほかにもある。
使用済み燃料を再処理する日本原燃の「六ケ所再処理工場」(青森県六ケ所村)の総事業費は約14・4兆円となっている。工場の完成の遅れもあって前回の12・6兆円から増えた。
 
原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の処理費用もある。地下深くに埋める最終処分場をつくろうとしており、経産省は3・1兆円の費用を見込むがこちらも増えそうだ。
 
経産省の試算では、原発の発電コストは20年、30年ともに「11円台後半以上」で変わらない。太陽光や風力は技術革新や量産効果で価格低下が見込まれる。再生可能エネルギーの導入が進みそうだ。
 
龍谷大学の大島堅一教授(環境経済学)は「原発が経済性に優れているという根拠はなくなった」と指摘する。

 ■政府、重視姿勢変えず
原発の発電コストは、試算のたびに高くなってきた。それでも、経産省は安定的に電力供給できる「ベースロード電源」だとして重視している。
 
太陽光は夜間は発電できず、風力などは天候によって発電量が左右される。再生可能エネルギーが増えすぎると、悪条件が重なったときに大規模な停電が起きる恐れもある。
 
原発と同じくベースロード電源とされてきた石炭は、脱炭素の流れのなか縮小している。経産省や大手電力会社は脱炭素と安定供給を両立させるため、原発を活用すべきだと主張。自民党内にも原発のリプレース(建て替え)や新増設が必要だとの意見は根強い。
 
梶山弘志経産相は「既存の原発の再稼働を進めることが重要だ」としてきた。政府は近く改定するエネルギー基本計画でも、原発を一定程度維持する方針は変えないとみられる。【7月13日 朝日】
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【欧州 脱炭素への移行にあたり「安定供給源」として原発は一定に必要との認識】
コスト的な優位性は失われたものの、エネルギー安定供給という視点から、政府は「原発を一定程度維持する方針は変えない」ということで、今回の「第6次エネルギー基本計画」となっています。

確かに、欧州の天然ガス価格高騰によるエネルギー危機、中国の石炭不足による電力不足など、「安定供給」の重要性を再度検討すべき事態も各地で生じています。

また、2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にするためは、現実問題として安定的な原子力エネルギーも一定に活用する必要があります。

そうしたことから再生可能エネルギーの活用が進むギリスでも、新規原発への資金拠出が認められるようです。

****英、新たな原子力発電所に資金拠出へ 実質排出ゼロ目標で=英紙****
英紙テレグラフによると、英政府は二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロの実現に向け、2024年の総選挙前に新たな原子力発電所に資金を拠出する計画を発表する見通し。同紙が17日、報じた。

政府報道官はロイターに「エネルギー安全保障を強化し、数千人の雇用を創出するため、少なくともあと1件の大規模原子力プロジェクトを数年内に承認することを目指している」と述べた。

最近の欧州のエネルギー危機と英国での燃料不足を受けて英政府はCO2排出量の少ない再生可能エネルギーへの移行を進めている。

テレグラフは、政府の資金拠出先の最有力候補として、フランス電力公社(EDF)がイングランド東部のサフォークに計画しているサイズウェルC原子力発電所を挙げた。

ジョンソン英首相は今月初め、2035年までに国産のクリーンエネルギーヘの転換を目指すと表明した。【10月18日 ロイター】
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「原発大国」フランスも原発増設に踏み出すようです。

****フランス新型原発増設、年内発表と報道****
19日付のフランス紙フィガロは、マクロン大統領が国内で、新型の欧州加圧水型原子炉を6基増設する計画を年内に発表する考えだと報じた。発表すれば、増設の判断は先送りするとしてきた政権の方針転換となる。【10月19日 共同】
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欧州委員会のフォンデアライエン委員長も、低炭素経済へ移行するに当たっては安定したエネルギー源として原子力発電と天然ガスが必要だとの認識を示しています。

****原発と天然ガス、気候変動対策に必要 欧州委員長****
欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は22日、欧州連合が低炭素経済へ移行するに当たっては安定したエネルギー源として原子力発電と天然ガスが必要だと述べた。
 
EU首脳会談後に記者会見したフォンデアライエン氏は、気候変動と闘うためEUは二酸化炭素排出量を大幅に削減する必要があり、「再生可能でクリーンなエネルギーをもっと必要としていることは明らかだ」と主張。その上で、再生可能エネルギーに加えて「安定した供給源である原子力と、(低炭素経済への)移行期にはもちろん天然ガスも必要だ」と語った。
 
原発には大気中にCO2をほとんど排出しないという利点がある。天然ガスは化石燃料の中では燃焼時のCO2排出量が最も少なく、代替エネルギー源が開発されるまでの「つなぎ」と位置付けられている。
 
欧州委は年末までに、気候変動対策に貢献する経済活動を分類し列挙した、いわゆる「グリーンタクソノミー」を提示しなければならない。
 
電力の約7割を原発に依存しているフランスのエマニュエル・マクロン大統領は22日、「われわれの気候変動目標を達成するために原発を利用する必要性について、これほど明確かつ広範な支持が表明されたことはこれまでなかった」と述べた。
 
EU外交筋は21日夜、タクソノミーへの天然ガスと原発の追加を「加盟国の大多数」が希望しているとAFPに明かしていた。
 
天然ガスの価格高騰を受け、フランスを中心とするEU加盟10か国は今月中旬、原発を支持する共同声明を発表した。一方、ドイツやオーストリア、ルクセンブルクなどは、放射性廃棄物の長期保管問題を指摘して原発に強く反発している。 【10月24日 AFP】
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南アフリカの理想と現実  マンデラ氏以来の「虹の国」の「多人種共生」を揺るがす黒人民族主義の拡大

2021-10-24 22:57:17 | アフリカ
(22日、南アフリカ・ケープタウン近郊での集会で、演説中に喝采を送る(過激な白人排斥を掲げる)EFFの支持者ら=ロイター 【10月24日 読売】)

【ズマ前大統領収監を機に大規模暴動】
南アフリカでは、ズマ前大統領が収賄疑惑に関連して法廷侮辱罪に問われ、7月7日深夜に出頭、収監されたことをきっかけとして、7月9日ごろからズマ氏の支持者らによる抗議デモの一部が暴徒化して略奪を伴う大規模な暴動が発生しました。

縁遠いアフリカの出来事ということで、また、暴力・内戦などのイメージが定着しているアフリカでの出来事ということで、日本ではあまり大きな話題にもなりませんでしたが、その死者は337人にも及んだとの報道もあります。

****南ア暴動、死者337人に****
南アフリカで今月発生した暴動による死者は22日、政府発表で337人となった。
 大統領府相を兼任するクムブゾ・ヌチャベニ中小企業開発相は、「警察が暴動に関する死者数をハウテン州で79人、クワズールー・ナタール州で258人に修正した」と説明した。
 
暴動は今月初め、ジェイコブ・ズマ前大統領が汚職調査への協力を拒否したとして禁錮1年3月の有罪判決を受けて収監された翌日に始まり、略奪や放火が拡大。アパルトヘイト(人種隔離政策)の撤廃後では最悪の騒乱に発展し、シリル・ラマポーザ大統領は、「反乱」の企てだと批判する事態となった。
 
暴動による被害額は推定34億ドル(約3700億円)に上っている。 【7月23日 AFP】
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単にズマ前大統領収監だけでなく、失業・貧困・格差など社会全体に対する不満が暴発した結果であることは容易に想像されます。

【腐敗と汚職が蔓延したズマ政治からの改革】
こうした多大な犠牲を払って実行されたズマ前大統領収監は、失墜した南アの民主主義の挽回、汚職体質の変革の契機としての期待もありました。

****ズマ元大統領収監で南アフリカは法の支配が進むのか****
(中略)ズマの収監は、法の支配確立の始まりかもしれないが、終わりではない。今回ズマが問われているのは法廷侮辱罪であり、いわば手続き違反が問題にされているだけである。

真に問われるべきは汚職や国家財産の略奪である。しかし、インド系財閥グプタ兄弟達が絡んだ汚職容疑の裁判などがズマと支持者達による抵抗のため一向に進んでいないことに変わりはない。

グプタ兄弟の容疑は、2000年代初め頃から既に問題化していた。詳細は分からないが、今回の収監についても、ズマ派の弁護士等が司法手続上の戦術を駆使して形式犯で処理し、本丸の汚職裁判については政治的動員力で抑え込もうとする戦術なのかもしれない。保釈されるかもしれない。法相は、規則に従い一定期間経過後申請できると述べている。
 
ズマ収監のニュースは、元大統領の収監という社会ニュースの要素が強い。一層大きな意味合いがあるとすれば、①ズマの政治により国際的にも大きく傷ついた南アフリカのデモクラシーへの信頼を取り戻せるか、②巨大な政権与党ANCの劣化を解決するために同組織の改革を断行できるかどうかの二点である。
 
ズマ政権の9年、南アフリカはそのデモクラシーに対する国際的信頼を落とした。それは、残念ながら、南アフリカにとり汚辱と劣化の時代だった。

世界で最もリベラルな憲法を擁する南アフリカの民主主義は後退した。ズマは、第二代大統領ムベキの副大統領を務めたが、品と規律のあるムベキとはそりが合わず、2005年には汚職容疑で解任された。

その後ズマ勢力は任期途中のムベキの失脚を図り、2009年にズマは大統領に就任、18年まで政権を維持した。しかし、その間経済問題は解決せず、黒人急進派による大衆政治(モッブ・ポリティックス)は横行する。一部の者は、現憲法は白人が作ったものだと主張しているという。
 
汚職が蔓延し、グプタ兄弟等ズマの縁故主義が一層進み、検察、警察とズマ達の間の恒常的な対立が続いた。ズマは全ての疑惑を否定した。

ANCの有力者は、国営企業、特に電力公社ESKOMに入り込み、私腹をこやした。ESKOMは経営危機に直面した。

また、ズマはレイプ容疑で起訴されてもいる(裁判により無罪)。ズマは、支持者を動員、政治化し、あらゆる法的戦術を駆使した。ズマは正に古い政治家であり、その手法は「間違った黒人政治」の手法だった。
 
ズマの問題は、与党ANCの問題でもある。今のANCはマンデラやムベキが率いた時代とは大きく変わっている。婦人部や青年部は一層強硬な勢力になったように見える。

今ANCは党首で改革派のラマポーザとそれに反対するズマの勢力に二分されている。5月ラマポーザは、ズマの同盟者である事務総長マガシュレを職務停止に追い込んだが、未だ係争中。

今回のズマ収監が改革派の強化になることを期待したい。【7月26日 WEDGE】
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収監されたズマ前大統領は8月6日には、定期健診として病院に移送、9月5日には仮釈放となっています。

****収監の南ア前大統領仮釈放 治療目的、病名不明****
南アフリカ当局は5日、法廷侮辱罪で有罪となり収監されたズマ前大統領(79)に対して、治療目的での仮釈放を許可したと発表した。詳しい病名は不明。ロイター通信が伝えた。

ズマ氏は8月に入院。この際、同氏側は定期の健康診断を受けると説明していた。

ズマ氏は在任中にインド系富豪との癒着疑惑が浮上。憲法裁副長官の指揮下で汚職問題を調べる委員会への出席に応じず、憲法裁が6月に1年3月の禁錮刑を言い渡した。
7月上旬に収監された後、南ア各地で釈放を求める抗議デモが大規模な暴動に発展した。【9月6日 共同】
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【ズマ支持者をひきつけて、より過激な黒人民族主義の拡大】
マンデラ元大統領以来、南アの民主主義を牽引してきた与党アフリカ民族会議(ANC)はラマポーザ大統領のもとで改革の途上にありますが、ズマ前大統領との確執の結果、ズマ氏支持者がより過激・性急な黒人民族主義政党へ流れるという形で、南アの「多人種共生」を揺るがすことにもなっているようです。

****「白人を殺せ」黒人民族主義を掲げる極左躍進へ…「多人種共生」揺らぐ南ア****
南アフリカで11月1日、5年に1度の統一地方選が行われる。

各種調査で、過激な白人排斥を掲げる極左野党「経済的解放の闘士(EFF)」の躍進が見込まれている。人種対立の先鋭化が、ネルソン・マンデラ元大統領が多人種共生を掲げた「虹の国」の理念を揺るがしている。

「我々が権力を握れば、土地を強制収用する。白人の土地は全て我々のものだ」
21日、ワインの産地として知られる風光 明媚めいび な西ケープ州ステレンボシュで、EFFのジュリアス・マレマ代表が声を張り上げると、会場は熱狂に包まれた。聴衆のほとんどは黒人だ。
 
この町は白人が黒人よりも先に住み着き、人口の6割以上を占める。マレマ氏は、ワイン生産の恩恵で豊かな暮らしぶりの白人を「人種差別主義者」と非難、「我が党はこの場の女性に家を買ってあげることもできる」と気勢を上げた。
 
EFFは、与党アフリカ民族会議(ANC)を離脱したマレマ氏が2013年に結党した新興政党だ。短期間のうちに野党第2党となり、統一地方選では結党以来、初めて首長ポストを獲得する可能性がある。
 
「黒人のための南ア」の実現を目指す黒人民族主義を掲げ、暴力も辞さない過激な街頭運動や「白人を殺せ」との主張など人種対立をあおる手法が特徴だ。選挙戦では、白人の土地の強制接収のほか、富裕層地区への黒人貧困層向け住宅建設などを訴えている。

■与党分裂で勢い
勢力を拡大している背景には、ANCの党内対立がある。穏健派のシリル・ラマポーザ大統領の影響力が強まり、対立する左派のジェイコブ・ズマ前大統領に近い勢力の支持者がEFFに流れた。党内対立をきっかけに、7月には大規模暴動も起きている。
 
最大都市ヨハネスブルクの高級ホテルで働く黒人男性は「(EFFは)人種差別と戦ってくれる」と支持理由を語った。

国内では、経済低迷にコロナ禍が追い打ちをかけ、失業率は3割超で高止まりしたままだ。

アパルトヘイトからの黒人解放運動を支援したキューバや中国がもたらした社会主義思想への親近感も加わり、EFFのポピュリズム的主張は貧困層だけでなく、都市部の若者や学生にも支持を広げつつあるようだ。

■白人は「独立」目指す
これに対し、排斥運動の矢面に立つ白人には「分離独立」を目指す動きも出ている。

西ケープ州は国内で唯一、白人とカラードと呼ばれる混血住民が多数派を占める。州内では昨年、分離独立運動を先導する市民団体が結成され、白人を支持基盤とする既成政党も独立の是非を問う住民投票に理解を示し始めている。
 
市民団体代表のフィル・クレイグ氏は本紙の取材にこう語った。「ANCなどの社会主義的な勢力が統治する南アとは違う道を歩むべき時だ。数年以内に住民投票に持ち込みたい」
 
南アの人種問題は、米国や、南アからの移住者が多い豪州などで関心が高い。18年には当時のトランプ米大統領が「南アでは白人農家が大量に殺され、土地を奪われている」と投稿して話題を呼んだ。

かつて白人と黒人の歩み寄りが喝采を浴びた南アが再び陥る分断は、人種対立が続く欧米諸国にも波紋を広げかねない。

◆「虹の国」の理念 …人種別に居住地を定めるなどして少数派の白人政権が多数派の黒人を差別したアパルトヘイト(人種隔離政策)撤廃後、ネルソン・マンデラ元大統領が掲げた多人種共生の理念。多色の虹になぞらえ、「南アはそこに住む全ての人に帰属する」との主張を示した。【10月24日 読売】
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【「虹の国」の理想と現実】
過激な白人排斥を掲げる極左野党「経済的解放の闘士(EFF)」が支持を拡大する背景には、「虹の国」とは言いながら、依然として農園など多くの資産を有する白人と黒人の格差は大きく、多くの黒人若者が失業に苦しむという現実があります。

また、南アで汚職が蔓延し、一部の成金層が生まれるのは、白人から黒人への資産移転の過程の“必然”という側面もあります。

しかし、力で奪い取るだけの黒人紋族主義は、ジンバブエのムガベ前大統領の失政・国家破綻の轍を踏むことも予測されます。

穏健な形で現状の改革を進められるか、マンデラ氏の側近として氏を支えたラマポーザ大統領の手腕が南アの最後の切り札でもあります。

****ズマ大統領辞任の背景にある南アフリカの理想と現実*****
(中略)ラマポーザ議長がズマ大統領の任期満了を待たずに辞任を迫ったのは、高まる民衆のズマ大統領に対する反発を踏まえてのものだった。それほどまでにズマ大統領の9年間は、南アフリカを混乱に陥れた。

783件もの汚職嫌疑、贈賄側はすでに刑が確定
経済は成長から見放され、一人当たり成長率でも他のサブサハラ・アフリカ諸国に大きく後れを取った。政府債務は膨れ上がり、貧富の格差は拡大する一方で、失業率の36%は単に表に出た数字に過ぎない。

何より、ズマ氏に向けられた汚職嫌疑が783件に上るというのだから国民があきれるのも無理はない。この783件は、1999年の南アフリカ海軍によるフリゲート艦購入に関するもので、贈賄側のシャビール・シャリクは既に15年の刑が確定しており、ズマ氏に対する捜査も動き出した模様である。
 
もっとも、南アフリカで汚職は別に珍しいことではない。トランスパレンシー・インターナショナルが公表する汚職指数というのがある。その国の公職にある者がどれだけ汚職にまみれているかを示す数値で、ゼロが「最もひどく」、100が「最もクリーン」と国民が見ていることを示す。2016年、南アフリカはこの指数が45だった。

ちなみに日本は72、スイスは86で、世界に名だたる汚職大国ブラジルは40、インドネシアは37である。つまり、政府高官のほとんどは汚職にまみれている。それでもこの大統領はけた外れなのである。
 
そもそも、2007年にズマ氏が大統領に就任した時からして、レイプ・スキャンダル騒動が巻き起こる中での就任だった。それほどズマ氏には汚職、犯罪のきな臭い噂が絶えずまとわりついた。

それでもズマ氏は大統領になり、しかも9年間その地位にあった。結局、ズマ氏のまわり、あるいはもう少し広く南アフリカ富裕層一般にとり、こういうズマ氏が大統領でいることが都合良かった、ということに他ならない。

南アフリカで汚職が蔓延している理由
体制が大きく転換し、それまでの既得権益層から利権をはく奪し、国民各層にその利益を均霑しようという時、南アフリカに限らずどこでも、大なり小なり汚職が横行する。

日本でも、明治維新に際し、武士階級を廃し産業基盤たる財閥を育成した時、それなりのことはあったろうし、社会主義圏で体制転換の時、多くのオリガルキーが生まれたことは周知のことである。
 
南アフリカでもアパルトヘイトが廃止され、新生南アフリカとして再出発した時、似たような状況が生まれた。というのも、南アフリカには白人が築いた一大産業構造があったからである。

通常、アフリカ諸国は、こういう白人層の富裕資産を新政府が接収する。それが脱植民地化なのである。しかし、南アフリカはそれをせず、白人資産はそのままとし、白人と黒人が共生する道を選んだ。マンデラ大統領が目指したレインボー・ネーションである。

しかし、片や、食うや食わずの黒人層がひしめき、他方で裕福に生活する白人層がいる。これでは社会は成り立たない。

そこで南アフリカ政府がしたのが、黒人優遇政策いわゆるアファーマティブ・アクションである。民間企業は、黒人を一定割合、幹部に登用しなければならず、また、一定割合の株を提供しなければならない等である。これにより実質的に白人資産を黒人に移転した。
 
ところが、どこでも、こういう時の資産移転を公平に行うことは難しい。結局、南アフリカに出現したのは、巨大な資産を抱える新たな黒人成金層だった。そして、この成金が生まれる過程で数々の汚職が蔓延したのである。(中略)

南アフリカに渦巻く「理想」と「現実」の問いかけ
しかし、これから南アフリカがどうなるか、つまり、南アフリカの帰趨がどうなるかは、単に南アフリカだけに関わることではない。

先に述べたとおり、南アフリカはアパルトヘイト撤廃後、通常であれば白人資産を接収するところを、マンデラ大統領の崇高な理念に従い、接収することなく白人と黒人による共生の道を選んだ。

その時、白人は、どうせマンデラはきれいごとを言っても、黒人が差配する新生南アフリカがこのままうまく治まるはずがない、やがて、「破綻国家」の道を歩むのは必定だ、と言った。

他方、黒人は、マンデラはきれいごとを言って、白人と黒人の共生などというが、それがうまくいくはずがない、どうして白人資産を接収し貧しい黒人に分け与えないのか、それをしないからいつまでたっても黒人貧困層がなくならないのだ、と言った。
 
つまり、ことは単に一つの国が安定し繁栄するかどうかを越え、より高次の、脱植民地化の過程で旧支配層と被支配層が財産接収という暴力的行為を経ることなしに、平和裏に共存することが可能かという、壮大な試みに関係することであり、さらにはまた、異なった人種がアパルトヘイトという特殊な経験を経ながらも共に一つの国家を築いていくことができるかという、崇高な理念の妥当性に関することなのである。人類は理念のもとに生きることが可能なのか、あるいは所詮、現実の世界の中でしか生きられないのか、といった問いでもある。
 
もっとも、白人資産を接収したアフリカ諸国の経済が、その後その多くが立ち行かなくなっていったとの事実は、マンデラの理念の方が現実に適合し成功を収める、ということなのかもしれない。【2018年2月22日 WEDGE】
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リビア  12月24日に大統領選挙・議会選挙が予定されているも、実施できるのかは不透明

2021-10-23 23:41:09 | 北アフリカ
(2021年9月24日/リビア、首都トリポリ、暫定政府に対する不信任決議案が可決されたことに抗議する人々【9月25日 kkk】)

【12月24日 内戦を抜けて新たな国造りに向かう大統領選挙と議会選挙の予定】
カダフィ政権が「アラブの春」で倒れた後、東西勢力の内戦状態が続く北アフリカ・リビアについて取り上げたのは、今年4月26日ブログ“リビア・イエメン 内戦状況下での市民による新しい取り組み 女性起業家も”が最後のようです。

ずいぶん間隔があいているのは、この間あまり目だったニュースがなかったためです。

4月26日ブログでも触れたように、ようやく暫定統一政府が成立して、「これから・・・」という話になりそうですが、なかなかそうはならないのがリビアの現実。

そのリビアでは12月24日に新たな国造りの土台となる大統領選挙と議会選挙が予定されています。
これまでの経緯などについては、以下のようにも。

****10年続いたリビア内戦終結へ 平和は確立されるのか****
5月15日、カダフィの独裁の後の10年の混乱を経て、ようやくリビアに単一の暫定政府が成立した。リビアを立ち直らせるチャンスが訪れている。

ここ半年ほどの経緯は、およそ次の通りである。
2020年11月にチュニジアのチュニスで会合した「リビア政治対話フォーラム」(国連の主導で設立されたリビアの地域的あるいは分野別の利益を代表する勢力・派閥の代表者74名で構成された組織)が合意したロードマップには、新たに統一的な暫定政権を設けること、暫定政権は今年12月24日に実施されるべきこととされた大統領選挙と議会選挙の準備を取り進めることが規定された。

暫定政権は大統領評議会(大統領と二人の副大統領)および国民統一政府(首相、二人の副首相、その他閣僚)から構成されると定められた。今年2月5日、同フォーラムは暫定政権を構成するメンバーを選出した。

次いで、3月10日、アブドゥルハミド・ダバイバ首相が率いる内閣を議会(東西の対立を抱えている)が承認し、5月15日に新内閣が発足した。これまで対立して来た、国際的に承認されたトリポリのリビア国民統一政府(GNA)と、ハフタル司令官率いる東部のリビア国民軍(LNA)は、平和裏に権限を移譲したのである。
 
これまで相対立し争って来た勢力が単一の暫定政権に合意出来たことは特筆すべきことである。LNAを含め国内の諸政治勢力とこれに連携する軍事組織、およびそれぞれの支援勢力を有する諸外国も少なくとも表面的には支持の姿勢である。

実業家のダバイバが大物政治家を差し置いて首相に選ばれたことは驚きであったらしいが、(カダフィ時代の腐敗の匂いは引き摺っているが)いずれの方面とも話が出来るとされる彼が首相であることは助けとなっているようである。

他方、彼はトルコに近いようであり(5月初め、トルコのチャウショール外相はリビアを訪問して会談した)、また東部のミスラータ出身でもあり、ハフタルとの関係はどうかという問題もあろう。
 
しかし、リビアの前途はとてつもなく多難である。政治的・地理的に分裂し、国民が日常生活に窮する国で、軍や中央銀行を含め分断した政府機構を一つにまとめる必要がある。休戦(10月以来概ね維持されている)が維持されねばならない。国連が設定した1月23日の期限を無視して今なお外国軍隊と傭兵が存在し、彼等の策謀の危険は去っていない。
 
ハフタルのLNAは現在、ロシア、UAE、エジプトが支持しており、2019年4月から2020年6月にかけてトリポリを奪取しようとして失敗したが(トランプ政権も暗黙裡に侵攻を支持するような姿勢を見せていた)、これが大変な殺戮を招くこととなった。

LNAの侵攻を食い止めたのはトルコの大量の軍事援助である。リビアの和平プロセスにとり最も手に負えない問題は、合意を無視して数万人の外国兵が未だにリビアに存在すること、特にトルコ軍の存在である。

5月8日には、トルコ軍とその傭兵に撤退を要請した暫定政府のナジラ・アル・マンゴーシュ外相に対し、民兵が彼女を探してトリポリのホテルを急襲するという事件もあった。
 
いずれにせよ、米国をはじめ西側は、リビアがロシアとトルコの食い物にされるのを防ぐまたとない機会を逃すべきではない。

米国はこれを機にリチャード・ノーランド(駐リビア大使)をリビア担当特使に任命した。これは、公式にはGNAを承認しながらハフタルのトリポリ侵攻を支持するようなそぶりを見せたトランプ政権の出鱈目なリビア政策を清算し、米国がリビアの政治プロセスに真剣に関与するというメッセージを発することになろう。

しかし、事態がどう転ぶかは分からない。既に草案ができている憲法を成立させ、選挙法を整備し、予定通り12月24日に選挙を行えるかについて、まだ確かなことは言えないであろう。【6月9日 WEDGE】
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これまで、西のリビア国民統一政府(GNA)を支援してきたトルコと、東のハフタル司令官率いるリビア国民軍(LNA)を支援してきたロシアなどが、軍隊・傭兵を送り込んでおり、その撤退が進んでいないことで、つねに戦闘再開の危険が存在しています。

【予定どおりに選挙を行えるのは不明】
“予定通り12月24日に選挙を行えるかについて、まだ確かなことは言えない”・・・上記記事は6月9日ですから、それも当然かもしれませんが、今に至ってもよくわかりません。

一応、9月時点の情報では、東の武装勢力を率いてきたハフタル司令官が大統領選挙に出馬するようだ・・・とのことでした。

****リビアの大統領選挙****
(中略)アラビア語メディアは、リビア国司令官と称するhaftara 将軍が、22日付けの命令で、23日以降彼の権限を東部軍管区参謀長に移管し、彼は9月23日から12月24日の間軍務から離れると公表したと報じています。
どうやらこれは、リビア国会(トブルクにあり東部地区の権力源)が、先日選挙を12月24日とすると決定し、その前の3月間軍職にあったものは、大統領候補の資格がないと決定したことに対応するためのものの由

何しろ、このhaftar将軍というのが、政治的軍人の典型と言おうか、昔の中国の軍閥宜しく、アラブ諸国(特にUAE,、エジプト)のみならず、ロシア米仏等の間を駆け回りその支援を得ては、リビア内戦を煽り扇動してきた人物だが、政治的な遊泳術に比べたら軍事的才能はさっぱりで、トリポリ攻略戦でも大敗を喫しているという人物で、彼が大統領選に出るということは、リビアも遂にそこまで堕ちたかと言う気もするが、これまでの長いリビア内戦の経緯に鑑みれば、一つの区切りになるのかという気もします。

しかし上記メディアによれば、リビア国会の中にも、議長が評決もしないで、選挙法を決めたことに対して、無効とする反対意見もあるとのことで、リビアの悲劇(喜劇?)はまだまだ続きそうです。【9月23日 「中東の窓」】
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9月21日には、東部に本拠を置く議会(代表議会のことか)が、暫定首相の不信任案を可決し、“ドベイベ首相は、選挙で選ばれた議員に権力を引き継ぐまで辞任しないと誓い、衆議院の不信任決議を却下した。”【9月25日 kkk】との政治混乱も。

そうした状況で、議会選挙は来年1月に延期されるのでは・・・との報道も。

****リビア議会選は来年1月か 東西対立で延期***
東西内戦の停戦を受け暫定統一政府が統治しているリビアで5日、東部勢力で構成する代表議会が、統一議会の選挙を大統領選から1カ月後に実施するとの考えを示した。AP通信が伝えた。西部勢力の立場は不明。

リビアでは12月24日に大統領選と議会選が見込まれていたが、議会選が来年1月になる可能性が出てきた。(後略)【10月6日 産経】
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下記記事によれば、“選挙を行う法的枠組みが未だ整っていない”というのが現状のようです。
(なお、下記記事のタイトルの意味は不明です)

****リビアでカダフィ一族の復権はあるのか****
リビアでは昨年11月に国連主導の下で、新たな統一的な暫定政権を設けること、そして、この暫定政権は今年12月24日に実施されるべきこととされた大統領選挙と議会選挙の準備を取り進めることが合意された。

暫定政権は去る2月に成立した。相対立し争う勢力が単一の暫定政権に合意出来たこと自体、特筆すべきことであり、12月の選挙を経て最終的な解決を目指す段取りがともかくも整ったことは、リビア情勢にやっと希望を持たせるようにも思わせた。

しかし、12月に予定通り選挙が行われるのか? その結果として事態は安定化に向かうのか? 全く不透明である。さまざまな報道があるが、情勢は混沌としているようだ。
 
そもそも、選挙を行う法的枠組みが未だ整っていない(60日以内に法的枠組みを整えるとの期限があったがそれはとうに過ぎた)、あるいは選挙法についてコンセンサスが存在しないようである。
 
9月初めにトブルク所在の代表議会(House of Representatives)の議長アギーラ・サーレフは大統領選挙法を可決させた。しかし、ライバル機関と目されるトリポリ所在の高等国家評議会(High State Council)は協議にも与っていないとして承認を拒んでいる。
 
国連は、選挙が行えないよりは好ましいとして、少々無理でもこの選挙法で選挙を行いたい構えのようであるが、危険が伴う。

そもそもリビアのような分断された国の選挙では明確な多数派は構成されにくく、敵対する側は敗北を認めず、選ばれた大統領は弱体ということになりかねないが、選挙法にコンセンサスがなければ、危険は一層大きく、国の分断と混迷を深める危険があろう。

一方、議会選挙法は代表議会において未だ審議中らしく、成案を得るに至っていない。
 
大統領選挙にはサーレフは出馬するつもりなのであろう。彼が成立させた大統領選挙法との平仄を合わせるつもりであろうが、彼は議長の職を退いたとの報道もある。
 
同じ東部を地盤とするとはいえ、サーレフは、「リビア国民軍(LNA)」を率い「リビア国民統一政府(GNA)」に抵抗してきたハリファ・ハフタルの排除を試みているように見える。

ハフタルは出馬して勝てば良し、負ければリビア国民軍の司令官に戻る(現在は公式には司令官を退いている)だけということであろう。【10月21日 WEDGE】
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もうすぐ11月という時点で、“議会選挙法は代表議会において未だ審議中らしく、成案を得るに至っていない”ということでは、なかなか12月24日選挙実施というのは難しいようにも思えますが・・・

****リビア首相、12月24日選挙実施を支持****
リビアのアブドゥル・ドベイバ首相は21日、国連が支援する和平計画に想定されているように、国政選挙を12月24日に実施することを支持した。

首相はトリポリで行われたリビア安定化会議で、2011年にNATOが支援する反乱によりムアンマル・カダフィ政権が崩壊して以来の長期にわたる危機を終わらせることは可能だと述べた。【10月22日 ARAB NEWS】
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選挙実施を支持・・・本来は候補者が出そろって、選挙戦がスタートしている時期ですが・・・。

選挙が予定どおり行われるかも不明ですが、問題は、仮に選挙を行っても、(おそらく東西勢力が大統領選挙、議会選挙に出てくるのでしょうが)負けた方が選挙結果を認めて、その後の統一国家運営に協力する・・・とは到底思えないことです。

【移民・難民の無差別大量逮捕 追い詰められる移民・難民】
統一的な政権が機能していないリビアで、現在どういう統治がおこなわれているのか、市民生活はどうなっているのか、まったく想像できないのですが、かねてより、リビアは欧州を目指す移民・難民の出発点となっており、その移民・難民を食い物にする業者の無法がまかり通っているという話は聞きます。

移民・難民を苦しめているのは悪質業者だけではないようです。

****リビア:首都トリポリで大規模な無差別逮捕――数千人が拘束され、医療を受けられず放置される人も***
リビアの首都トリポリで、10月1日に行われた移民・難民の無差別大量逮捕によって、収容センターに拘留された移民・難民の数が、その後5日間で3倍以上に激増したと、現地で活動する国境なき医師団(MSF)が確認した。

治安の悪化で、MSFが市内で毎週行っている移動診療は中断を余儀なくされ、逮捕を免れた人も外出を恐れ、医療機関受診をためらう状況が続く。

市内3カ所の収容センターで医療活動を行っているMSFは当局に対し、弱い立場にある移民・難民の大量逮捕を中止したうえで、収容センターに不法に収容されている人びとの解放と人道目的でのリビア出国を認め、他国での再定住に向けた国際便の即時再開を求めている。

無力な人びとへの暴力
トリポリ市全域では、この3日間で少なくとも5000人の移民・難民が政府の治安部隊によって拘束された。自宅を襲撃され、捕らえられた人の多くは、性暴力を含む激しい暴力を受けたとも報じられている。国連によると、移民の若者の1人が死亡し、少なくとも5人が銃に撃たれて負傷したという。

襲撃を受けた1人、アブドさん(仮名)は「武装した覆面の治安維持部隊員によって、家が襲撃されました。両手を縛られ、家の外に引きずり出され、荷物や大事な書類をまとめる時間が欲しいと必死に頼みましたが、聞き入れられませんでした。収容センターに連行される途中に、私は小銃で頭を殴られ大けがを負い、足を叩かれて骨折した人もいました。その後、医師が手当てをしてくれましたが、覆面をした男たちに車に乗せられ、気が付いたときにはアル・マバニ収容センターにいたのです。4日間をそこで過ごし、無力な人びとが武器で殴られるのを目の当たりにしました。4日目になんとか脱出できました。」と話す。

逮捕された人びとは国営の収容センターに送られ、清潔な水や食料、トイレもほとんどない、不衛生でひどい過密状態の場所に閉じ込められた。逮捕されたときにうけた暴力により、大勢の人が救急医療を必要としているはずだとMSFは見ている。

リビアでMSFのオペレーション・マネジャーを務めるエレン・バン・デル・ベルデンは「私たちは治安部隊が、さらに多くの社会的弱者の身柄を意味もなく拘束し、非人間的かつ過密状態に収容するといった強硬手段に訴えるのを目の当たりにしています」と話す。

収容所の劣悪な環境と続く暴力
10月4日と5日、MSFは逮捕された人びとが送られた、シャラ・ザウィヤとアル・マバニという市内2カ所の収容所の訪問に成功した。

シャラ・ザウィヤ収容センターの想定収容人数は200~250人だったが、少なくとも550人が同じ部屋詰め込まれ、その中には妊婦や新生児がいるのも目撃した。約120人が1つのトイレを共有し、独房のドアの近くには尿の入ったバケツが並んでいた。食事が配られると、収容された女性たちがこの状況に抗議する騒ぎが起きた。

アル・マバニ収容センターでは、本来飛行機を入れるための格納庫や独房があまりにも過密で、中にいた男性は腰を下ろすこともできない状況だった。

独房の外では、数百人の女性や子どもが、日陰も仮住まいもない野外で拘束されていた。収容された人の中には、3日間何も食べていないという男性や、1日1回、パン1枚とプロセスチーズ3個だけを受け取るのが常だという女性もいた。MSFは、何人かの男性が意識不明の状態で、緊急治療を必要としているのを発見した。

アル・マバニを訪問した際には、拘束された移民・難民のグループが脱出を試みているところも目撃。しかし、このグループは激しい攻撃を受けていた。至近距離で2回の激しい銃撃の音が聞こえ、それから男性らは無差別に殴られた後、車に押し込められ、どこかへ連れていかれてしまった。

収容施設での医療活動
(中略)「収容センターで身柄を拘束する人の数を増やすのではなく、意味のない収容をやめ、このような危険で居住に適していない施設の閉鎖に動くべきです」とバン・デル・ベルデンは話す。

「これまで以上に移民・難民は危険にさらされて生活しています。出国しようにも選択肢はごく限られているので、リビアに閉じ込められたも同然です。今年に入ってから2度も人道援助目的の出国便が正当な目的なく差し止められたのですから」【10月7日 国境なき医師団】
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選挙の実施が、こういう世界が良い方向に向かうスタートとなるのか・・・。
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中国の日本に対する印象が急激に悪化という世論調査 

2021-10-20 23:24:51 | 中国
(日中両国民の相手国に対する印象 【10月20日 毎日】)

【日本に良くない印象 昨年の52.9%から66.1%と13.2ポイントも増加】
今日、各メディアが一斉に報じているのが、日中の相手国への印象を問う世論調査結果で、中国国民の日本に対する印象が大幅に悪化した件。

****相手国への国民感情さらに悪化=日本人の大半、米中「どちらにもつくべきでない」―日中世論調査****
2021年10月20日、非営利シンクタンク言論NPO(代表:工藤泰志)は、中国国際出版集団と共同で実施した「第17 回日中共同世論調査」結果を発表した。それによると、中国国民の日本に対する意識がこの1年で急激に悪化。「良くない印象を持っている」人の割合は7割近くに達した。一方、冷え込んでいた日本国民の対中意識に改善はなく、中国へのマイナス印象は9割を越えた。

こうした中、米中対立の影響下でも日中両国民とも世界・アジアの平和維持や経済発展に向けた日中協力への期待が大きいことが明らかになった。また米中対立の中での日本の立ち位置について、日本国民の55%が米中の「どちらにもつかず世界の発展に努力すべき」と回答した。

中国国民で日本に対する「良くない印象(どちらかと言えばを含む)」を持っている人が昨年の52.9%から66.1%と13.2ポイントも増加した。

中国国民の日本に対する「印象」が悪化に転じるのは、尖閣諸島での対立が表面化した2013年以来8年ぶり。また中国人で「現在の日中関係」を「悪い」と考える人は、2016年以降、改善傾向にあったが、5年ぶりに悪化に転じ、昨年の22.6%から42.6%と20 ポイントも増加した。「良い」と見る人は昨年の22.1%から半減し、10.6%に落ち込んだ。この悪化幅は、2013年の尖閣諸島ショック後の調査に次ぐものとなった。

一方、冷え込んでいた日本国民の対中意識に改善はなく、中国へのマイナスの印象は9割を越え、現状の日中関係を「良い」と思う人は2.6%に落ち込んだ。この結果、両国の国民意識は調査が始まった2005年ごろの厳しい水準に戻り始めている。

日本国民では、中国に「良くない」という印象を持っている人は今年も改善傾向はなく、90.9%に達した。現在の日中関係を「悪い」と考える日本人は昨年の悪化以降、改善しておらず今年も54.6%と半数を超えた。

中国国民の回答で「日中関係の発展を妨げるもの」として最も増加したのは「中日両政府の間に政治的信頼関係がないこと」で、29.3%と昨年から10.4 ポイント拡大した。

日本の印象を良くないとする理由では、「侵略した歴史をきちんと謝罪し反省していないから」を挙げる人が77.5%と突出している。加えて、「一部の政治家の言動が不適切だから」が21%と昨年の12.3%から8.7ポイントも増加した。

今回の世論調査では、お互いの軍事的な脅威だけが議論され、国民間に不安がある中で政府間の外交が機能せず、さらにコロナ過で国民間の直接交流がないこと、また歴史認識問題が再び中国で話題になっていることなどが明らかになった。

こうした中で、世界経済の安定した発展と東アジアの平和を実現するために、日中両国はより強い新たな協力関係を構築すべきだと考えている中国人は、70.6%と7割を超え、日本人でも42.8%と最も多い回答となった。

さらに、日中両国やアジア地域に存在する課題の解決に向けて、日中両国が協力を進めることについて、日本人の56.5%、中国人の76.2%が「賛成」している。

さらに、米中対立の影響が日中関係にも及ぶ中での、日中協力のあり方について、日本人の33.7%、中国人の37.9%が「米中対立の影響を最小限に管理し、日中間の協力を促進する必要がある」と回答。これに、「米中対立と無関係に日中の協力関係を発展させる」(日本人11.1%、中国人10.5%)を選んだ人を加えると、日本人の4割、中国人の半数近くが米中対立下でも日中協力を促進すべきだと考えていることが明らかになった。

また、米中対立下の日本の立ち位置について、日本国民の55%が、日本は米中の「どちらにもつかず世界の協力発展に努力すべき」と考えている。

この調査は「第17回 東京−北京フォーラム」(10月25〜26日)の開催に先立ち実施された。日本側の世論調査は、日本の18歳以上の男女を対象に2021年8月21日から9月12日まで訪問留置回収法により実施された。有効回収標本数は1000。

中国側の世論調査は中国側の世論調査は北京・上海・広州・成都・瀋陽・武漢・南京・西安・青島・鄭州の10都市で18歳以上の男女を対象に同年8月25日から9月25日にかけて調査員による面接聴取法により実施された。有効回収標本は1547。

◆工藤泰志代表は20日の発表記者会見で日中世論調査結果について次のように述べた。

今回の世論調査で注目すべきは、中国人の対日印象や、現状の日中関係への意識がこの1年で急激に悪化したことである。2012年に尖閣諸島をめぐって対立した時ほどの決定的な悪化ではないが、変化幅はそれに次ぐ急激なものである。

中国側の意識の変化は、日中関係をめぐる多くの課題で中国側の認識を後退させている。これに対して日本人の意識は昨年の悪化から変わらず、強く冷え込んだままである。双方共に今後の日中関係に関しても悲観的な見方が強まっており、両国の国民感情は注意を要するゾーンに入ったと言える。

私たちが懸念しているのは、この「印象」と「日中関係」に対する今年の両国民の意識の水準は、日中関係が最も困難な時期とされ、多くの若者が中国で暴動を起こした2005年の水準にほぼ並んだということにある。この時に私たちの日中世論調査も始まったが、残念なことに状況は振り出しに戻りつつある。

これらの調査結果は、来年の日中国交正常化50周年に向けて、政府間の行動や民間の取り組みに新しい対応を突き付けているように思う。【10月20日 レコードチャイナ】
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【意外な結果という印象も】
ここ数年は、中国側の対日本印象が改善しているのに対し、日本側の対中国印象が悪いままで改善しないという“非対称性”が明らかになっていましたが、今回結果では、その中国側の対日本印象が急激に悪化した点が特徴です。

個人的には、非常に意外な結果でした。
毎日、国際面のニュースをチェックしていますが、中国の対日印象に関する記事では、従来通り日本に好意的なものが少なくなく、最近そんなに刺々しくなったという感じはありませんでした。ここ数日の記事でみると・・・

“「日本=悪」とする教育を次世代にも施すべきか・・・中国人の疑問”【10月17日 Searchina】
“中国人たちが和気あいあい「みんなが日本好きになったきっかけは?」”【10月18日 Searchina】
“愛国者なのに日本に魅力を感じてしまう! 中国ネット民の反応は・・・”【10月18日 Searchina】
“なんて優しいんだ! 日本の女性に「細やかな優しさ」がある理由=中国”【10月19日 Searchina】

まあ、この手の記事は、日本の読者が喜びそうな事柄を敢えて選んでいるという面もあるでしょうし、また、もともと対日感情で問題があるのは“当たり前”で、そうした中で“意外性”のある日本に好意的な事柄がニュースになりやすいという面もあるのかも。

それにしても、ここ1年、対日感情が急激に悪化したという印象は、上記のような記事を含む日中関係の記事からはうかがえませんでした。

“日本に「良くない」印象を持つ理由としては、「中国を侵略した歴史についてきちんと謝罪し反省していない」が77・5%で最も多かった。昨年から最も増加したのは「一部の政治家の言動が不適切」で、昨年の12・3%から21・0%に増加している。”【10月20日 産経】

“一部の政治家の言動”云々が何をさすのか定かではありませんが、尖閣や靖国に関して中国側を怒らせるような言動は毎度のことで、ここ1年急速にそういうものが増加した・・・というイメージもなにのですが。

また、“コロナ過で国民間の直接交流がない”【前出 レコードチャイナ】ことが、改善傾向をストップさせたということはわかりますが、悪化を加速させた理由になるのか?

【反日感情の高まりを指摘する向きも 背景に愛国主義か】
中国側の対日印象の推移を詳しく見ると、「良くない印象」は2013年調査をピークに大きく改善してきましたが、一昨年は改善ペースが鈍化し、昨年は横這い・・・と一昨年あたりから変化の兆しは見てとれます。

やはり根底には“歴史認識問題が再び中国で話題になっていること”【前出 レコードチャイナ】、更にその背後にある、習近平政権のもとで進む愛国主義的傾向があるようにも思われます。

10月15日ブログ“中国 習近平主席の語る民主主義とは・・・ 中国政治の実態は・・・”でも取り上げた記事ですが、そうした現在の中国で高まる反日的な気分を示すものも。

****反日感情の高まりか? 中国で日本人学校に対する反発の声****
中国では最近、日本に絡んだネット炎上事件が頻発している。靖国神社で記念撮影した中国人俳優が激しいバッシングを受け、事実上の芸能界追放となったことは記憶に新しく、日本関連のことは何でも問題視されているかのようだ。

中国メディアの百家号はこのほど、日本は「100年前にも中国に学校を建設していた」とし、日本人学校に警戒しなければならないと主張する記事を掲載した。

記事の中国人筆者が言う「100年前に存在していた日本の学校」とは、1901年に上海で設立された「東亜同文書院」のことだ。特に、「東亜同文書院」の学生が卒業前に中国各地へ散らばって旅行に行き、地理や文化、天気など様々なことを調査して学校に報告していたことを問題視し、「これは典型的なスパイ養成学校だった」と主張した。

実際のところ、「東亜同文書院」は日中友好協力の基礎を固めるための人材育成が目的で設立されたが、上記のような旅行と調査報告を行っていたことを「スパイ行為」と疑う中国人はいまだに少なくないようだ。

「東亜同文書院」は、終戦のため廃止されたが、記事の中国人筆者は東亜同文書院に絡めて上海にある日本人学校を問題視した。上海日本人学校では基本的に日本人だけしか受け入れていないと指摘し、「日本はここでスパイを養成しているに違いない」と根拠のない主張を展開している。

さらに、中国の土地に建てた学校に中国人が入れないのは「中国人に対する侮辱」であり、完全封鎖された学校内で何を教えているかも分からないというのは、「非常に恐るべきこと」だと読者の不安を煽った。

そして、「中国に建てた学校なのに中国教育部の管理を受けないのはなぜか?中国の法律に従わなくて良いのか?」と疑問を呈し、「中国に建てた学校では中国政府の管理を受けるべきで、校内では中国国旗を掲揚し中国国歌を歌うべきだ。それが受け入れられないなら中国から出ていくべき」と独自の主張をしている。

最近の中国では日本に絡むことに対する風当たりが強くなってきており、ネット上の意見を見ていても反日感情が徐々に高まっていることが感じられる。【10月15日 Searchina】
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15日ブログで取り上げたときは、“ネット上の意見を見ていても反日感情が徐々に高まっていることが感じられる”という指摘に、“そうなの?”という感じもありましたが、今回調査を見ると、上記記事の指摘があたっていたようです。

また、日本人としてはあまり自覚もないのですが、中国側には“日本はいつも中国を敵視している”という見方もあるようです。

****日本はどうして常に中国を叩きたがるのか=中国メディア****
中国のポータルサイト・網易に10日、「日本はどうしていつもわが国に圧力をかけようとするのか」とする記事が掲載された。
 
記事は、日本について「古くより東洋世界において最も不安定な要素だった。自分が強くなったと感じた途端、中国大陸に攻め込み、なおかつ中国大陸の発展をどうにかして妨げようとするのだ」と主張。近代にその傾向が顕著となり、第2次世界大戦で惨敗を喫したにもかかわらず、現在も日本の中国に対する姿勢は変わっていないとした。
 
そして、今世紀に入って急速かつ大規模な発展を遂げて国力の強化を実現した中国はすでに日本に対して非常に大きな国力の差をつけており、「そもそも同じレベルで論じることのできる国どうしではなくなった」にもかかわらず、日本はなおも中国に対して囲い込みを仕掛け、圧力を加えようとしているとの見解を示した。その一方で、日本はロシアの発展を阻害するような行動には「出ようとしない」と伝えている。
 
その上で、日本が中国とロシアで態度を変えており、中国に対しては高圧的な姿勢を保っている理由について「日本が中国に打ちのめされていないからだ」と考察。日本を「弱者をいじめ、強者に媚びる典型的な国」とし、日本が歴史の中で打ちのめされた相手に対しては強い畏敬を抱き、圧力をかけたり報復したりする勇気を持たない一方で、中国には打ちのめされたと認識していないため、現在に至るまで「自分は中国より強い」と考え続け、中国の台頭に納得がいかず、中国を懲らしめようとし、戦って勝てると「思い込んでいる」と論じた。【10月13日 Searchina】
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「弱者をいじめ、強者に媚びる典型的な国」という対日観は昔からあるものですが、愛国主義の高まりのなかで、そういう認識がこれまで以上に強調されるようにもなっている・・・・のでしょうか。

【日本側の 対中国印象の「悪さ」の高止まりは? 待ち望まれる人的交流】
以上、中国側の対日感情の急激な悪化を問題視してきましたが、日本側の極端に高止まりした対中国感情の悪さも本来問題とすべきでしょう。

もちろん、中国側の尖閣などでの行動が原因ではありますが、それにしても・・・という感も。
中国だけでなく、韓国に対しても同様でしょう。ことさらに近隣国への刺々しい感情をもたらすものが日本社会の中に存在するのかも・・・という視点もあっていいのかも。

コロナ禍でタコつぼに身をひそめるような内向き社会がもたらすものでしょうか。
より長期的視点で言えば、「失われた30年」とも言われるような「停滞社会」に蔓延する淀んだ閉鎖的な空気でしょうか。

日中双方の淀んだ空気を少しでも清浄してくれるものとして、観光を含めた人的交流の再開が望まれます。

コメント
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