ap bankは知っていますか?
ミスチルの桜井さんやELTの小林武史さんが始めた市民ファンドです。
ap bankのHPは
→こちらです。
一流アーティストが歌で巨額のお金を稼いだ後、社会に対して何ができるか?と考えた際に、この業界では有名な田中優さんと出会い、立ち上げたのがこのap bank。
音楽が好きな人はap bank fesで知っているでしょうし、市民活動や持続可能な社会作りに関心がある人は、異色の市民ファンドとして知っていると思います。
さて、このap bankが実は「直営農場」を始めていました
全く知らなかったのですが、仕事の取材でお邪魔することになり、その農場である「耕す 木更津農場」へ行ってきました
まず、何が凄いかというと、規模
牧場跡地とのことで、なんとその規模30ha
もはや、見渡す限りが敷地という状態です
斜面にはソーラーパネルが設置中。孫さんとメガソーラーについても話しているとか
この広大な敷地のうち、現在の耕作地は6反(約1,800坪)ぐらいで、野菜は年間約40種類ぐらいとのことでそんなに多くはありませんね。
そのうち4反(約1,200坪)が「有機JAS認定」でやっているそうです。
これはシェフに大人気という長ナス。
ミニトマトは土嚢袋栽培。1つの土嚢袋に4株のミニトマトが植えられていて、チューブで水が与えられる仕組みで育てられていました。
ハウスの地面は黒いシートが敷かれていたので、水耕栽培とは違った意味で、完全に管理栽培されている感じです。そのためか、ミニトマトは激甘でした。
鶏も平飼い。「にわとり村」の佐藤さんからご指導を仰いで飼っているそうです。
雛は生後1日からから飼っており、エサの70%は国内産。しかも出汁をとったかつおぶし、オイルを絞った落花生カス、大豆カス、竹パウダー、ニンニクパウダーなど、色々なものを発酵させてエサを作っているので、鶏舎は臭くないのです。
また、確かこの鶏は肉も美味しいと聞いたことがあるので、肉も出荷しているかと聞いてみると、ミンチにして出しているそうです。
販路はレストランへの直送と道の駅への卸が大半だそうです。
こんな農場ですが、一般的にインパクトが大きいのが、「ap bankが直営でやっている」ということなのですが、私が一番凄いと思ったのは「運営メンバーの意識の高さ」でした。
まず、思想的背景が共有されていること。
ap bankで農場をやるということになったのは、「生命の循環」を感じられる場所をつくること。生命は食からなる。その生命の源である食べ物を作る農場を始めようとなったそうです。
アーティストとしては、「歌は魂を削りながらお客さんに届け、そこから拍手や歓声、感動が返ってくる生命の循環」だそうです。
しかし、東京に住んでいる人は、食べ物を通じた「生命の循環」が感じにくくなってしまっている。これを打開するために、創設されたわけです。
ただ、それであれば営利でなくても良いのでは?と思うのですが、そこは激しい競争を勝ち抜いてきたアーティストが代表を勤めているので「競争の中からでなければ本当に良いものは生まれない」という思想があるようで、「経営を成立させる」という意識も大変高いのです。
「抜群に美味い野菜を作ること」が使命であり、「経営」としても成り立たせる。
実際に、元ワタミファームの社長の竹内さんが顧問らしく、最初の頃は経営が成り立つための種まきや苗の移植のスピードをストップウオッチで測りながら作業スピード基準をあげていったそうです。
今でも、ナスが1つでも収穫時期を逃して大きくなってしまっているのがあると、無茶苦茶怒られるそうです。
そもそも論で、この土地は粘土質で畑には向いていないということを前提としているのですが「本気でやるならば、何とかできなくもない」という前提で始めた場所。だから「何とかする」という前提で仕事をしているため、メンバーの本気度が半端じゃありません。
3人の男性農場スタッフと2人のパック詰めなどの女性スタッフで運営しているそうなのですが、現場のリーダーの小川さんは、忙しい時は、3日間ぐらい小屋で泊まって風呂にも入らず作業をしていることもあるそうです。
それもそのはず、普通は早朝から夕方まで作業をして終わるのですが、デスクワークもあるので夜中まで仕事はあります。
また、レストラン相手に、○○さんの所のジャガイモのSサイズは、本当のSサイズじゃなくて自分たちのところでいうSSサイズじゃなきゃだめだ、というレストラン毎の感覚的な要求も1つ1つ管理していて、オクラは5本詰めだろうが3本詰めだろうが、全部対応。たまごの間に長ナスをつめて、といったオーダーにも対応。「面倒くさい」対応も受けています。しかも値段が高くないんです。
農業そのものも沢山勉強しており、設立準備段階では弁護士を呼んで農地法の勉強をしたり、有機農家さんと訪ね歩いたりしていたようです。
しかし、自分たちの畑は悪条件であるため、もう真っ向から向かい合って、その土の可能性を高めること、野菜の力を高めること、それを1つの軸に、観察し、必要な手をうつという栽培管理方法ですから、もう、大変です。(まあそれが農業なのでしょうが)
「知力、体力、精神力のどれもが必要」と言っていました。
こちらは農場長の豊増さんとap bank fesに出展した際の廃油で動くトラクター。3,11以降、レストランから使った油を回収して、使える機械には廃油を使っているそうです。
この豊増さん、なんと私の前々職の兄弟会社の日本LCAのコンサルだったそうです
いろいろ話を聞いていたのですが、なるほど、話している内容、情熱、経営意識の高さなど、どれも農家離れしているのですが、全てが合点いきました。
色々な農家さんに会って来ましたし、「規模の追求」を求める経営体の農業生産法人についても雑誌などで目にしたことはありました。
しかし、この「耕す」は凄い。
組織体で一番重要なのは「目指すビジョンとそれに対する使命感」だと思うのですが、これが完全に燃え上がっているんです。
そして、そこがぶれていないので、体力作業で終わらず、知的作業もやり続けている。
サラダボウルなんかが、こういった感じなんでしょうが、良い噂も悪い噂も聞きます。
しかし、ここは、本当に凄い。
多分、どこが真似しようとおもっても、そうはまねできないはず。
「規模」の経営については、千葉農産というまさに「規模の経営」をしている会社とタッグを組んでいて、役員も入っていて、現場で指導を受けているので、他の「規模の経営」を実現している先進的な農業生産法人にすぐに追いつくでしょう。
レストランのオーダーなどをここまで細かに聞くところは、小規模農場のレベル以上の小回りの良さで対応をしています。
価格は安く、コストパフォーマンスはここまで良いところは有機JASでは無いでしょう。
志の高さはワタミファームの社員もこのぐらい高いと思うんですが、「耕す」のメンバーほど意思統一されている組織は無いでしょう。
品目数が少なく、作付け技術もベテラン農家に追いつくには時間がかかりますので、年間を通じて売れるものを出し続けるのは、まだまだ難しいと思いますし、規模が拡大していくと、それなりの問題も出てくると思います。
ただ、現時点で、ここまでやれているのは凄い
来年度は黒字決算をする目標だそうです。
コンサートも出来るスペースも造れるほど大きいので、例えば、ミニap bank fesをここで開けば、認知度が爆発的に上がり、いくらでも売れるようになるはず。
そのために、安定的に美味しいものを創り続ける、ここがキーでしょうね。
新しい農業経営体の在り方に触れることが出来て、物凄い刺激を受けました。
今までの農業のあり方、規模の経営の議論のあり方に、一石を投じる存在になると思います。勉強になりました。