アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

渾身の熱演!崔 文洙の芸術

2020-10-05 19:00:00 | 音楽/芸術

どんな時も、一心不乱に精一杯立ち向かっている人間の姿は美しく感動を覚えるもの。それは、演奏家に限らず、スポーツ選手でも舞踊家でもまたは演劇でも同じかもしれない。今回のヴァイオリニスト崔 文洙氏のリサイタルは、まさに鑑賞していて、こういった目に見えない深いものを見せられた感覚になったのである。

いつも実演から尊いものを享受させて頂いている崔氏の演奏だが、オケのコンマス時でも、室内楽演奏でも、今回のようなリサイタルでも音楽に対する姿勢は変わらない。エネルギッシュであり、美しく優しくもあり、まるで作品と対話でもしているような感覚に陥るのである。

ここでは、前半にベートーヴェンの「クロイツェル・ソナタ」、後半にはご本人の思い入れが深いであろうショスタコーヴィッチのソナタが演奏された。アントンKは、崔氏のベートーヴェンを特に好んでいるが、今回も全体を通して新しい発見が多々見えて、気持ちが高鳴ったのである。出だしの和音から気持ちがこもり切り、続くピアノが同じように感情を音楽にのせていく。主部に入ると、もうここからはヴァイオリニスト崔氏の独壇場。まるで言葉を発して我々聴衆に語りかけてくるのである。ピッチカートがあんなに意味がある響きに感じたことは無かったのだ。しかし後半のショスタコーヴィッチはさらに凄い演奏で、思い出しても背筋に痺れが感じられるほど。アントンKとしても、この楽曲は不勉強であり、大阪クラシックの時の動画を何度か鑑賞してから臨んだが、当日の演奏はまるでスケールが違い度肝を抜かれたのだった。特に第2楽章のアレグレットでの緊張感たるや凄いもので、完全に会場全体が飲み込まれていたことが分かった。ゴツゴツした岩山が目の前にそびえ立ち、常に鋭角的に響き、ピアノとの掛け合いは、まるで格闘技のように思えたのである。

万雷の拍手に応えてアンコールが演奏されたのだが、ここでは何とスプリング・ソナタ。それも全曲演奏というゴージャスぶり。アントンKには最高のプレゼントとなった。特に第2楽章の出の部分。アントンKはここでまたまたやられてしまったのだ。ピアノの分散和音から春の日差しのように、暖かく柔らかで、続くヴァイオリンの音色が美しく遠くから響き出したのである。「今年は春らしい春が無かった・・」という崔氏ご自身のコメントがあったが、そんな言葉の直後に聴く、こんなに美しく鮮やかな春の光景の音楽は、アントンKの目頭を熱くしたのである。崔氏の想いを全身で感じたのであった。伴奏を務めた野田氏も素晴らしい演奏家。崔氏の強い独自性に協調しながら、さらに大きい音楽にしていた印象をもった。

思えば長年好んで演奏会に足を運んできたが、いつも過去を懐かしみ、現代から未来に期待せず軽んでいたアントンKであった。だが、こんなに大きな素晴らしい演奏家、いや芸術家に出会えたことで、一気に夢が広がり希望の光が射したのだ。この厳しい現代社会において、こういった気持ちのこもった音楽は、アントンKにとってまさに「心の栄養」となっているのである。

(掲載画像は、大阪クラシックからの複写画像)

崔 文洙 新日本フィル・ソロ・コンサートマスター・ヴァイオリン・リサイタル

 

ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ第9番 イ長調 OP47「クロイツェル」

ショスタコーヴィッチ ヴァイオリン・ソナタ OP134

アンコール

ベートーヴェン  ヴァイオリン・ソナタ第5番 ヘ長調 OP24「春」

Vn 崔 文洙

P   野田 清隆

2020年10月3日  東海市芸術劇場 多目的ホール