ちょっとしたきっかけで芸大生による定期演奏会があることを知り、時間の都合をつけて出向くことにした。
今までアマオケを含め、学生オケにも数々足を運び聴いてきたが、芸大生による演奏には触れたことがなかったので、良い機会、それもプログラムがブルックナーということなので尚更だった。果たして、ブルックナーの交響曲の中でも大きく難曲とされている第5を若い彼等がどのような演奏をするのか興味深々で会場へ向かった。
会場は、大学構内にある「奏楽堂」という立派なホール。正門や守衛所の建屋ひとつとっても趣があり、歴史を感じる。非常に心穏やかになる雰囲気を醸し出しており、こんな景色の中で勉強している学生たちを今さらながら羨ましく思ってしまった。反面、奏楽堂は、近代的な建物であり、ホール内は、シューボックス型の落ち着いた現代風のホールだった。2階席はサイドしかなく、あとは全て1階席で後方に向かってきつい傾斜になっている。舞台裏には、パイプオルガンが設置されているようだったが、扉が降りていて確認することはできなった。
本日の指揮者は、高関健氏。過去にプロのオケで何度が聴いたことがある指揮者だが、芸大生も指揮しているとは今まで知らなかった。プログラム前半は、ラヴェルのコンチェルト。これを聴く限り、ホールの音響は決して誉められない。分離せずに、こもって聴こえるのだ。席は、1階中ほどだから、響きもある程度期待して座ったが今一つだった。そこで、後半のブルックナーは、もう少し前方の右側を陣取ってみたが、さほど改善されなかったように思う。確かにに残響は、普通にあるし(2~3秒)、雰囲気も伝わるが、肝心の音色がそろって聞こえない。ザラザラしてしまうのだ。これは、自分の耳の性なのか、ホールの性なのか良くわからない。演奏自体は、やはり流石芸大現役学生と思わせる場面も多々あった。特に学生オケで、弦楽器のあのような艶やかな響きは聴いたことがない。時に力んでしまい、高音がキンキンして聴こえる箇所があったが、逆に、アダージョのテーマの深さはどうだろう?演奏解釈云々よりも、若干二十歳の学生たちが、あのようなハーモニーを描けること自体に驚嘆してしまった。曲が曲だけに、とかく力みがちになる金管楽器群は、ブルックナートーンを目指して好演していたと思っている。指揮者の指示からか、ホルンの合いの手や、リズムが声を上げる箇所があり面白かったが、基本的には自己主張を押さえながらの演奏でまとめ成功している。ただ、聴衆側からすれば、やはりもうひとつ面白みに欠ける。つまり、演奏を聴く前から想像できてしまう演奏というべきか。あの長いフィナーレ・コーダで指揮者に必死でついていった演奏者たちには感動したが、やり切った達成感は伝わったが、演奏からにじみ出るブルックナーの深い世界感は現れなかったように感じている。
ひと昔前は、ブルックナーの第5なんて、学生オケでは採り上げなかった。それがこうして立派な演奏をしてしまう現代の音大生。将来専門家、プロの卵とでもいうべき方々の演奏を聴いて、とても新鮮な気持ちになれたことは間違いない。そんなことを思いながら、上野の森に向かった。
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芸大学生オーケストラ 第52回 定期演奏会
ラヴェル: 左手のためのピアノ協奏曲
ブルックナー: 交響曲第5番 変ロ長調
指揮: 高関 健
2015-05-28 東京芸術大学 奏楽堂