「音楽都市すみだ」を目指して意気盛んな新日本フィルによるサマーコンサートに行ってきた。
新日本フィルの本拠地である「すみだトリフォニーホール」が今年で20周年という節目の年に当たり、わが街のオーケストラを目指す新日本フィルも並々ならぬ力の入れようが伝わってくる。またこういった意図を音楽監督である上岡敏之流のアイディアで実現実行されていることも理解できた。
とにかく演奏会前の会場ロビー、ホール内にはいつものコンサートとはどこか違った雰囲気が漂い、華やかで活気に満ち満ちていた印象。街を上げて取り組んでいることが容易に伝わってきた。プログラムがまた凄い。もちろん上岡監督のことだから、当然の成り行きなのだろうが、地元墨田の少年少女合唱団を起用した楽曲が二つ並んでいる。
まず前半は、ペルトという現代作曲家の「子供の頃からの歌」という小品集。舞台の真中にピアノ1台が鎮座し、その周りを取り囲むように少年少女合唱隊の皆さんが並んでいた。センターには合唱指揮者の先生もいらしたが、伴奏者であるはずの上岡のピアノが雄弁でとても気持ちのこもった音色を奏で、時には子供たちの方まで振り返って演奏していたので、本来の指揮者甲田潤氏は遠慮しがちに見えてしまった。上岡氏の演奏は、オケにも通づる繊細な音色。時には激しく、そして時には絹のような密度でアントンKを魅了する。15曲からなる小品に対して上岡氏は子供たちに15枚の絵を描くようにと指導していたらしいが、まさに子供達の歌声にまで上岡氏の陰影が感じられたことは確かなことだった。
そして後半のオルフ「カルミナ・ブラーナ」。
アントンKは、この楽曲についてはあまり好んで聴いてきた訳ではない。録音はかつて見切って処分してしまったし、もちろん実演奏は今回が初めての体験だ。この楽曲自体、演奏されることは珍しいと思われるが、今自分の中心にいる上岡敏之のカルミナ・ブラーナということで、足を運んだ部分が大きいと白状しておこう。楽曲の出の部分から、大編成のオーケストラと合唱団が鳴り響き、このあとどうなるのだろうと不安になったこともしばしば。時にはお下品な世俗歌曲でもあるが、この日の演奏はまるで今までの印象を塗り替えて行った。ダイナミックレンジの広さは、いつもの上岡流だが、オケと合唱団の音響バランスは最高で、どこをとってもうるさくない。録音と比較しても意味がないが、今までの印象とはまるで異なるものが響いてきていたのだ。長年ドイツの歌劇場で仕事をしてきた上岡氏の腕前がここでもはっきりと聴きとれたということか。実に的を得た表現であり、細部にまで神経がいき届いた演奏になっていたと思われる。
上岡敏之監督就任初年度のプログラムは、今回で無事終了。9月からはいよいよ2年目に向かっていく。そのプログラムは、例によって上岡氏の意欲が伝わるものばかりで期待に胸が躍る。既存の有名な楽曲による新しい発見、そして今回のようなレアなプログラムでの共感など、監督上岡氏とコンマス崔文洙氏のコンビによる音楽への情熱を今後とも少しでも感じていきたい。
2017-07-29
すみだサマーコンサート2017~わが街のオーケストラ~
ペルト 子供の頃からの歌~少年少女合唱とピアノのための
オルフ カルミナ・ブラーナ
指揮 上岡敏之
ソプラノ 安井陽子
テノール 絹川文仁
バリトン 青山 貴
栗友会合唱団(合唱指揮 栗山文昭)
すみだ少年少女」合唱団(合唱指揮 甲田潤)