OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

マギーの復帰、フィリー・ジョーの快演

2008-10-27 11:52:51 | Jazz

The Return Of Howard McGhee (Bethlehem)

今となっては悲しいことに、超一流のジャズメンには悪いクスリで塀の中とシャバを往復し、ファンの期待を裏切って演奏活動が出来なくなった人が少なくありません。

ハワード・マギーもそのひとりと言われ、実際、1940年代後半からモダンジャズの最前線で活躍しながら、フェードアウトとカムバックを繰り返しつつ、いつしか輝きを失っていったのは本当に残念と言わざるを得ません。

しかし数度のカムバック時に吹き込まれたアルバムは、その度に心機一転の意気込みに満ちた素晴らしい出来なんですから、悲喜こもごもなのも確かです。

このアルバムもそうした魅力がいっぱいの傑作盤でしょう。

録音は1955年10月22日とされていますが、これには諸説があるようです。そしてメンバーはハワード・マギー(tp)、サヒブ・シハブ(bs,as)、デューク・ジョーダン(p)、パーシー・ヒース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) という素晴らしさ♪ 極めてビバップの香りが大切にされた演奏が楽しめます――

A-1 Get Happy
 小気味良いフィリー・ジョーのドラムスがイントロとなって狂騒のテーマが始まり、サビではデューク・ジョーダンのピアノが稚気も嬉しいアレンジが、まず楽しい限り♪
 そしてアドリブパートではハワード・マギーが本領発揮で、スピード感満点のビバップフレーズを連発すれば、サヒブ・シハブもブリブリとバリトンサックスを響かせる快演! イキイキとしたリズム隊も爽快ですねぇ~。特にデューク・ジョーダンは、日頃のネクラなイメージを一掃する感じです。
 ちなみにこのアルバムはジャズ喫茶では定番の1枚でしょうが、この演奏を聴いてハッとするお客さんが、おもわず飾ってあるジャケットを見てしまうのがその実情なのでした。

A-2 Tahitian Lullaby
 タイトルどおりにラテンリズムを使ったハワード・マギーのオリジナル曲で、その観光協会ご推薦みたいなメロディと緩やかなグルーヴは楽しさ満点♪
 しかもアドリブパートの充実が素晴らしく、ラテンビートに上手く合わせるサヒブ・シハブ、その背後では粘っこいブラシを披露するフィリー・ジョーが強い印象を残します。
 そして続くハワード・マギーが一転してグルーヴィな4ビートの真髄を吹きまくれば、デューク・ジョーダンは十八番のネクラな美メロでアドリブを紡ぎ出します。もちろんフィリー・ジョーがスティックで絶妙のシンバルワークを聞かせてくれるのも、最高ですねぇ~♪

A-3 Lover Man
 さて、これが興味深々の演奏です。なにしろチャーリー・パーカーとの有名な因縁が残されていますから……。
 それは1946年7月29日に行われたダイアルレコードのセッションで、ハワード・マギーを含むチャーリー・パーカーのバンドがスタジオ録音を行いましたが、主役のチャーリー・パーカーが悪いクスリと酒の所為でヘロヘロ……。それでもなんとか4曲の演奏を残すのですが、その後にホテルへ戻ったチャーリー・パーカーは錯乱して火事騒ぎを起こす等々騒動にっ! もちろん直後に施設送りです。
 しかもここまでの一連の経緯を某ジャーナリストが「スパロウズ・ラスト・ジャンプ」という短編小説にして、それがオー・ヘンリー賞を受けたことから、ダイアルレコードのオーナーであるロス・ラッセルは、一時はオクラ入りする予定の「Lover Man」を発売し、ベストセラーにしてしまうのです。もちろんチャーリー・パーカーは終世、この仕打ちを許そうとせず……。
 ですから、その場の当事者のひとりだったハワード・マギーが、自分も同じ境遇からの復帰セッションでこの曲を演じる胸中や如何に? という興味を押さえることが出来ないわけです。う~ん、全くエグイというか、上手いプロデュースですねぇ。
 とは言え、ハワード・マギー本人はどうだったんでしょう? ここでは情感が籠っているようにも、あるいは「お仕事」としての意識も、その両方を感じてしまうが、私の正直な気持ちです。
 ちなみに問題のチャーリー・パーカーのバージョンは、世評ほど酷い演奏ではないと私は思っているのですが……。

A-4 Lullaby Of The Leaves / 木の葉の子守唄
 哀愁路線の名曲スタンダードですがら、デューク・ジョーダンがイントロから良い味を出しまくりです。フィリー・ジョーのブラシも最高ですねぇ~♪
 もちろんハワード・マギーも余韻を大切にしたテーマ吹奏の妙、さらに溌剌してそこはかとないアドリブの上手さ♪ 流石だと思います。
 しかしここは、やっぱりデューク・ジョーダンでしょうねっ♪ 何時までも聴いていたい名演バージョンです。

A-5 You're Teasing Me
 まるっきりスタンダード曲のような素敵なメロディは、ハワード・マギーのオリジナル♪ ここではそれを完全に表現する独壇場のトランペットが見事過ぎます。
 しっとりとした情感をサポートするリズム隊も本当シブイですね。

A-6 Transpicuous
 これもハワード・マギーのオリジナル曲で、楽しい哀愁路線という、ジャズ者が一番好む雰囲気を存分に楽しめます。
 しかもイントロはデューク・ジョーダンが十八番というか、あのシグナルセッションの「Forecast」でも使っていた嬉しいものですし、短いアドリブにも独自の「節」がいっぱい♪ そしてハワード・マギーのトランペットが、これまた味わい深く、良く言われるようにロイ・エルドリッジからの影響がモロに出た歌心が素敵ですね♪

B-1 Rifftide
 イントロから景気の良いフィリー・ジョーのドラミング、そして始まる全力疾走のビバップリフ! ちなみにこの曲はコールマン・ホーキンス(ts) が書いたものですが、ハワード・マギーはそのオリジナル録音とされる1945年のキャピトルでのセッションに参加した因縁もあり、ここでの再演となったのでしょう。
 そしてこのバージョンは、バンド全員が大ハッスルしたハードバップの痛快さが満点! 

B-2 Oo-Wee But I Do
 これも快適なクッションが素敵なリズム隊のペース設定からグルーヴィなテーマの合奏、そしてモダンジャズ王道のアドリブに入る展開が、実に快感です。あぁ、それにしても、このリズム隊の弾み方はハードバップ全盛期の証でしょうねぇ~♪ 特にフィリー・ジョーが、まさに「フィリー・ジョー」的な名演で本領発揮ですよっ♪
 肝心のハワード・マギーも特有の投げやりなフレーズを連発しています。

B-3 Don't Blame Me
 有名スタンダードのバラード演奏とくれば、デューク・ジョーダンの美しいイントロは「お約束」という嬉しさよっ♪ もう、この部分だけ聴けば大満足なんですが、続くテーマメロディのパートでは、ハワード・マギーとサヒブ・シハブが情感たっぷりの表現を披露するんですから、もう絶句です。
 そして当然ながら、デューク・ジョーダンは短いアドリブパートでありながら、自らの美意識を見事に聞かせてくれます。

B-4 Tweeoles
 これまたリズム隊がシャープなハードバップのグルーヴを全開させるアップテンポの演奏ですが、ハワード・マギーも最初っから全力疾走! そしてデューク・ジョーダンが、またまた最高です。もう、なんというか絶妙に「泣き」のフレーズを入れる美メロのアドリブ♪
 このアルバムを自発的に取り出すのは、これがあればこそというのが、私の本音です。

B-5 I'll Remeber April
 モダンジャズでは定番の中の大定番というスタンダード曲を、決して期待を裏切らないアップテンポで演じてくれる嬉しいサービス♪ フィリー・ジョーが白熱のシンバルワークを響かせれば、ハワード・マギーもイキイキとしたフレーズの連発で応える展開が、実にジャズ者の琴線に触れまくりだと思います。
 またサヒブ・シハブのバリトンサックスがブリブリと咆哮すれば、デューク・ジョーダンも独特のピアノタッチが冴えわたりですし、フィリー・ジョーがグッとクッションの効いたドラミングで煽ります。
 そしてもちろんクライマックスは、ハワード・マギー対フィリー・ジョーの対決ですが、それにしてもフィリー・ジョーはセッションを通して絶好調なんですねぇ~~~♪ 自らの履歴でも十指に入るような快演じゃなかったでしょうか。

ということで、モダンジャズ的な楽しみがギッシリの名盤だと思います。典型的なハードバップであり、そこへ原型となるビバップのエキセントリックな味わいも残っているところが、実に痛快です。

特にリズム隊が本当に絶好調で、デューク・ジョーダンやフィリー・ジョーのファンならばシビレが止まらないと思いますし、私は実際、聴く度にそうなってしまいます。

そしてハワード・マギーも本領発揮の好演ですから、こういう書き方は嫌なんですが、悪い薬癖さえなければ、まだまだこういう快演をどっさり残せたはずだと思います。なにしろこの後のハワード・マギーは、やはり隠遁と復帰を繰り返し、往年の輝きは失せるばかりでしたから……。

そういう意味からも、ハワード・マギーのファンである私にとっては、大切に聴いていたいアルバムです。

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