OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

前のめりなヤードバーズのライブ

2010-07-12 16:50:12 | Rock

Five Live Yardbirds (Odeon / 東芝)

エリック・クラプトン中毒を患っていた昭和45(1970)年に買ったヤードバーズのライプアルバムで、もちろん日本盤ですから、イギリス盤オリジナルジャケットで有名な「鉄柵」写真は使われていないという我国独自のデザインが主張しているように、このLPのウリは明らかにスロウハンドの天才ギタリスト!

ですからサイケおやじの狙いも間違っていないはずだったんですが、正直に告白すれば、最初は完全なる肩すかしでした。

というのも、当時のサイケおやじが期待していたエリック・クラプトンとは、クリーム時代の激烈なニューロックギターであり、エグイ情感に満ちたブルース表現でしたし、ヤードバーズというグループそのものが、所謂クラプトン・ベック&ペイジの英国三大ギタリストを輩出した偉大なロックバンド、つまりは本物の最先端ロックグループというイメージが強かった所為で、結論から言えば、このアルバムで演じられているR&Bやブルースロックは、その音の古臭さもあって、なんだかなぁ……。

当時のライプ録音では当然かもしれない、現場の回りきった音にも、ガックリきましたですねぇ。

しかしその頃のサイケおやじにとっては、このレコードに支払った2千円は気の遠くなるほどの大金でしたから、なんとか元を取り返そうと、意地になって聴きまくりました。

すると、これはこれで、かなり凄い演奏が楽しめるようになったのです。

 A-1 Too Much Monky Business
 A-2 Got Love If You Want It
 A-3 Smokestack Lightning
 A-4 Good Morning Little Schoolgirl
 A-5 Respectable
 B-1 Five Long Years
 B-2 Pretty Girl
 B-3 Louies
 B-4 I'm A Man
 B-5 Here 'Ts

ご存じのとおり、これはヤードバーズにとって、イギリスで初めて発売されたLPなんですが、それをあえてライプレコーディングにしたところに、当時のヤードバーズの本質があると言われています。

それは同時代のイギリスのビートバンドの多くがそうであったように、黒人R&Bやブルースをロック的に解釈するという方法論がウケていたからで、ここで「ロック的」と書いたのは、イギリスの白人小僧達がアメリカのエルビス・プレスリーやエディ・コクラン、バディ・ホリー等々の白人R&Rスタアのやり方を真似るところからスタートし、後はアメリカの白人達が本物の黒人プルースやR&Bを一般的には聴かないという現実を知らなかった勘違いもあって、出来上がったものでしょう。

あくまでも個人的な意見としては、「ロックンロール」が「ロック」になったのは、その勘違いの最たる存在だったビートルズの大ブレイク以降だと思うんですが、ビートルズが黒人音楽ばかりではなく、ユダヤ人系白人職業作家が書いていた楽曲を黒人っぽく解釈していたのと同じく、例えばストーンズあたりが黒人大衆音楽を白人っぽく演じたとしても、それは瓢箪から駒のアイディアじゃなかったでしょうか。

まあ、そこまで深淵に考えていたというよりも、あくまでもイギリスという、本場アメリカとは隔絶した土地に根差した勘違いだったというのが、サイケおやじの独断と偏見です。

と、話がそれてしまいましたが、そこでこのアルバム制作時のヤードバーズは、キース・レルフ(vo,hmc)、エリック・クラプトン(g)、クリス・ドレア(g)、ポール・サムウェルスミス(b)、ジム・マッカーティ(ds) という5人組で、これはストーンズと同じ編成というも意味深なんですが、実は彼等はストーンズがメジャーな存在となった所為で出演出来なくなった小さな店に後釜としてブッキングされることが多かったとか!?

まあ、それだけ初期ストーンズっぽい演奏をやっていたということなんでしょうが、しかしこのアルバムを聴く限りにおいては、ストーンズを特徴づける粘っこさよりも、怖いもの知らずに突進する、なかなか前のめりなエネルギーが眩しい魅力になっていると感じます。

ちなみにここでの演目は黒人ブルースやR&Bのカパーばかりなんですが、かなりシブイ選曲もあったりして、今となってはヤードバーズの立ち位置の面白さが窺い知れるんじゃないでしょうか。

で、まずは過激に疾走するR&Rの「Too Much Monky Business」からして、チャック・ベリーのオリジナルバージョンよりもエリック・クラプトンが弾くリードギターの味わいがクリーム化しています。ただし録音の状態もあって、その音色がペラペラなのが残念なんですよねぇ……。このあたりは当時の楽器や機材の事情にもよるのでしょう。

しかしそれを上回るのが当時のバンドの勢いで、実は演奏がスタートする前にはレコーディングセッションを意識したメンバー紹介も良い感じ♪♪~♪ なんと既にエリック・クラプトンが「スロウハンド」と紹介されているのには、思わずニヤリとさせられました。

また「Got Love If You Want It」「Smokestack Lightning」「Good Morning Little Schoolgirl」と続く有名ブルース曲のカパーは、所謂ブルースロックの生成過程を記録したものとしても興味深く、ここはキース・レルフも大ハッスルなんですが、その声質は以外にもボビュラー系というか、まあ、このあたりが後にヤードバーズがヒット曲狙いのポップスバンド化していく根底にも関わることなのでしょう。十八番のブルースハープにしても、失礼ながらブライアン・ジョーンズのような毒気の滲む表現には至らず、ヒステリックな狂騒を煽るのが狙いのように聞こえます。

ただし、そこがキース・レルフの個性になっているのも確かなことでしょう。その必死さが当時の熱気の源になっていたのかもしれません。

ですから元来ファンキーロックな味わいをナチュラルに打ち出していたアイズレー・ブラザーズの「Respectable」をカパーしたこと自体が大正解! バックの面々とコーラスの掛け合いで盛り上がっていく展開の中で、待ってましたとばかりに激しく炸裂するエリック・クラプトンのギターも熱いです。

う~ん、それにしてもこの曲に限らず、クレス・ドレア、ポール・サムウェルスミス、そしてジム・マッカーティの3人が打ち出してくるビート&リズムは凄いですねぇ~~♪ これぞっ、真っ向勝負するロックの基本姿勢じゃないでしょうか♪♪~♪

そしてサイケおやじが一番に期待したエリック・クラプトンのスローブルースなギターが、B面初っ端の「Five Long Years」で存分に楽しめます! 正直に言えば、キース・レルフのボーカルには味わいが不足しているところは否めませんが、それを補って余りあるのが、エリック・スロウハンド・クラプトンなんですねぇ~♪ もちろん後年のような成熟した表現には至っていませんが、既にして黒人ブルースギターの常套句を完全に自分にものにしているところは、流石の天才性が狂おしいほどですよ。

こうしてムードが高まった後半は、いよいよ熱気が充満する白熱のライプ!

強靭なドライヴ感を放出するポール・サムウェルスミスのペースが凄い「Pretty Girl」、キース・レルフのハーモニカとエレック・クラプトンのギターがブレイクを挟んで対峙する「Louies」は、最高にカッコ良いです。

そしてクライマックスは土人のリズムを原始のロックビートへと翻案したボ・ディドリーがオリジナルの二連発ですから、たまりません。ステージも客席も汗びっしょりという雰囲気が如実に伝わって来る歌と演奏は、このセッションが録音された1964年3月へとリスナーを誘うでしょう。

本当は嫌いなので、こういう言葉は使いたくないのですが、ここまでストレートなロックの衝動は、所謂パンキッシュな勢いに満ちているんですよねぇ~♪

ということで、このアルバムは決してエリック・クラプトンだけではなく、当時のヤードバーズをやっていた5人の若者達が、如何に熱い魂を持っていたか!?!

そうした記録でもあると思います。

もちろんそんな観念的なことは言わずもがなでしょうね、実際に聴けば率直に感じることが出来るんですから。

しかし、このアルバムがイギリスで発売された1965年1月には、なんとエリック・クラプトンがヤードバーズを脱退し、もっとストレートなブルースを求めてジョン・メイオールのバンドへと加入!? しかも、そこで出来上がったものは決してイノセントなエレクトリックブルースではなく、ブルースロックだったという顛末も、皆様がご存じのとおりです。

結局、ブルースロックはロックンロールと同じく、黒人から元ネタを搾取した白人の発明品なのでしょう。しかし、そこには初志貫徹というピュアハートがあったはずです。

そういう原石の輝きが、このアルバムの一番の魅力じゃないでしょうか。

最後になりましたが、この日本盤は音がモコモコし、ライプ盤特有の歓声が強くミックスされている所為もあって、モアンモアンな残響音までもがロックしています。ところが後年、イギリス盤オリジナルLPを友人から聴かせてもらって吃驚仰天! 同じモノラルミックスでありながら、エッジの効いた鋭い音の輪郭が実に鮮やかでした。

そしてCD時代となり、そこで再発された幾つかのリマスター盤を聴いてみたんですが、音はそれなりにスッキリしているものの、なにか熱気がクールダウンしたような……。

ですから、今でもサイケおやじは、団子状になった音でしか鳴らない、この日本盤を愛聴しているのでした。

コメント (3)
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