【概要】
息子を殺された父親の悲しみと、同様の境遇の人々と共に、被害者遺族を保護する法律を作る運動を進める姿を描く。昭和五十三年『中央公論』三月号に掲載された佐藤秀郎の同名のノンフィクションを映画化。
goo映画より抜粋
【感想】
神保町シアターで鑑賞しました。なぜこんなマイナーな映画を見ようと思ったのかと言うと、家でこの映画の公開当時のパンフレットを発見したからです。両親が新婚時代に見たらしいんです。どうしても見たくなって調べたら、単品でDVD化されていないという事実が判明(追記:DVDBOXとして販売しているので決してリーズナブルではありません)、このシアターで見るしかないと思ったわけです。
劇場内の雰囲気もプラスされ、映画でこんなに泣いたのは初めてでした。冒頭、息子の田中健が刺され、父親の若山富三郎に「仇は討ってくれ。」とすがりつくシーンでもうすでに涙は出ていましたが、死にそうな息子の足をほほでさする母・高峰秀子の場面と、息子が産まれたての頃に可愛さのあまり母が赤ん坊の足をほほでさする場面が重なるシーンでもう涙腺は緩みっぱなしでした。
冒頭でこんなに泣いてしまっては、まともに鑑賞できないのではないのかと心配してしまうほどでした。
犯罪被害者補償制度の発端となった映画で、主人公川瀬周三も市瀬朝一さんという実在の人物。彼は昭和41年に通り魔によって息子を失っています。それから彼は身を粉にして全国を歩き回るわけですが、この被害者保障制度が立体化するのは三菱重工爆破事件という巨大な事件が起きてから。それまでは家族を殺された遺族は「泣き寝入り」するしかなかったそうです。
今ではそんなのあたりまえでしょ?と言う方も多いでしょうが、その当然は市瀬さん達のおかげなのです。
この映画を見て法を作るのがどれだけ難しいことか、一人の人間が当たり前のように筋を通すことがどれがけ難しいことか、また、被害者達が分かり合えるのがそう簡単ではないことがよく分かりました。
この映画、主演の若山富三郎と高峰秀子のほかに、田中健、藤田まこと、近藤正臣、加藤剛、吉永小百合、中村玉緒、尾藤イサオ、大竹しのぶなど大御所ばかりで監督の力の入れようが伝わってきます。吉永小百合はほとんどノーメイクっぽくて、幸薄げな未亡人にぴったりでした。中村玉緒はもう当時からオバハンのイメージに近づいてるんですね。大映時代とは大違いですが。
若山富三郎と高峰秀子の夫婦はまさにこの二人しか考えられないです。職人気質の父が犯罪者への憎しみの感情からやがて何か行動を起こそうと考えが変って行く過程は見事です。だんだん弱っていく夫を、妻がしっかりと支えるのも素敵です。夫が死んだ後に夫が成し遂げようとしたことを続ける決心をします。もうその場面で涙。
本当に最初から最後まで泣きっぱなしの131分でしたが、今の私達の現状を思い知らされる傑作でした。本当に、三十年前と今とでは寒気がするくらい変っていないんですね。
この作品は単品でDVD化されておらず(追記:DVDBOXとして販売)、VHSも市場に出回っていないので見る機会はあまり無いんですよね。残念なことに。
衛星放送や名画座で見る機会があれば絶対に見たほうがいいです。
監督 木下恵介
脚本 砂田量爾、木下恵介
原作 佐藤秀郎
音楽 木下忠司
川瀬周三 若山富三郎
川瀬雪枝 高峰秀子
川瀬武志 田中健
田切杏子 大竹しのぶ
松崎徹郎 近藤正臣
中沢 藤田まこと
中谷勝 加藤剛
柴田保子 吉永小百合
坂井三郎 尾藤イサオ
平山 田村高廣
北村洋子 中村玉緒
1979年度松竹作品(カラー・ワイド)
4月5日より神保町シアターで木下惠介特集!
履歴です↓
満員電車
八甲田山
黒い十人の女
穴(大映)
血と砂
ハウス(HOUSE)
相棒(最終回SP『黙示禄』…番外編)
悪い奴ほどよく眠る
無法松の一生
蜘蛛巣城
江分利満氏の優雅な生活
大江山酒天童子
日本沈没
妖星ゴラス
斬る
待ち伏せ
殺人狂時代
太平洋奇跡の作戦キスカ
赤毛
戦国野郎
ブルークリスマス
大盗賊(東宝)
座頭市と用心棒
ガス人間第一号
電送人間
美女と液体人間
赤ひげ
世界大戦争
椿三十郎
用心棒
モスラ(1961年度版)
新幹線大爆破
隠し砦の三悪人
日本のいちばん長い日
☆はじめに☆