よのなか研究所

多価値共存世界を考える

「売り手よし、買い手よし、三方よし」

2011-08-07 22:08:11 | 戦略

                                      Photo(近江八幡市旧商業地区)

 

二人の人間の間での、あるいは二つの組織間の取引において、両方が勝者となるという関係を「ウィン・ウィン関係」というそうですね。英語で ”win-win” と書くのでしょうが、手元の英語辞書三冊を開いても載っていないので、近頃の言葉と思われます。

ことばとしてはいいのでしょうが、二つの主体がかかわり合って約束事をとりつけて、両者が「勝つ」状態となることが本当に可能でしょうか。双方にとって良い取引であっても、お互いにある部分を主張し、ある部分を譲歩していることは間違いないのであり、それが、その時点で考え得る限り双方に好都合な内容になっているということを指すのだと思います。

 

かつては「ゼロサム社会」という言葉がよく使われていました。”zero sum” つまり、取引では誰かかが利益を上げ、その額と同じ分量だけ誰かが損をしている、ということです。これが資本主義経済の大原則であり、だれもがより大きな利益を追求するということで社会が進化していく、との考えでした。

自由市場主義経済においては毎日めまぐるしく取引が行われています。特に金融界においては秒速取引からさらに進んで、一秒の間に数百回も取引を成立させるような事態となっています。おカネは、それがなんらかの形で社会に役に立つという近代資本主義の原理を離れて、単純に記号としての数字が動いて、結果利益か損失が残される、という形態を生んでいます。こんなことをしていて経済が発展していくものだろうか、単に、情報処理機器メーカーだけが利益をふくらませることにならないだろうか、と思うのですが。

現実の経済社会で「ウィン・ウィン関係」ということは理論的にも実際にも大変に難しいことです。それがあるとしたら政治的取引であることでしょう。政治的とは、その約束ごとが経済行為を離れて別の利害を調整する内容を含むことを指します。

 

先日、滋賀県の近江八幡市を訪問する機会がありました。琵琶湖東畔の人口八万人余の落ち着いた街でした。街の中央部に伝統的建造物群保存地区が広がっているので落ち着きがあるのも当然かもしれません。この地は商業が盛んであった街として知られています。一帯はその昔織田信長公により開かれた楽市楽座があり、豊臣秀次公による自由商業都市として整備され、今日の近江商人の活動拠点として栄えた街です。

この商業地区を散策して商人の店舗・住居を見学して、彼らの商売の方法を知ることができました。それは「三方よし」との言葉に集約されています。

すなわち「売り手よし、買い手よし、世間よし」ということです。「勝つ」にあらずして「利がある」ということです。

「ウィン・ウィン取引」はいわば「売り手よし、買い手よし」ということですよね。近江商人の考えは、この取引に「世間よし」、つまり世間さまにもお役に立っているということを必要条件としている点が「ウィン・ウィン」と異なります。むしろ、「ウィン」のみではなく、ときには「ルーズ」負けることも計算にいれておくことが肝要でしょう。

訪問した「旧西川家住宅」の客間床の間の掛け軸には独特の書体でこのように書かれていました。

 

先義後利栄

好富施其徳

 

(やるべきことを先にやって後に利をいただけば栄える)

(商売に励んで得た富を大切にし、かつ施しに務める)

 

民族にはそれぞれの道徳観があり、他を論うことは慎むべきですが、秒速取引などは社会にどれほど役に立っているのでしょうか。疑問を持つ人も多いと思います。

ともかく、我々の先人たちの商売に対する心構えを知ることの大切さを感じた旅でした。

(歴山)

 



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