よのなか研究所

多価値共存世界を考える

インドになにを望むのか、

2012-06-12 07:41:56 | メディア

                      PHOTO (土地を守る街角の神々、南インド・カルナタカ州)

 6月初旬、神奈川県の相模湾でインド海軍と海上自衛隊との共同訓練があった。あいにくの悪天候で訓練は一部変更されたらしいが、自衛隊が異国の軍隊と一緒に訓練することはいいことだ。相手の実力を知りお互いを理解するいい機会となる。歴史上たびたび見られる誤解に基づく揉め事や突発的な戦闘を避けるためにも良いことである。いかなる国であれ、共同演習の申し出があればわが国はこれを受け入れるべきと思う。

今回インド海軍から参加したのは駆逐艦「ラナ」、補給艦「シャクティ」、フリゲート艦「シヴァリタ」、コルベット艦「カルムク」とのことである。日本側からは護衛艦「はたかぜ」と「おおそみ」に水陸両用救難飛行艇US2などが加わった(産経新聞6月10日)。

 さて、毎度のことながら日本側の勝手な思い込みがはなはだしいようだ。新聞の報道記事もテレビニュースのコンメトも、「急速な軍備拡大を続ける中国を睨んでの…」、と判で押したように報告している。中には、「中国の脅威に対して共同して…」などと喋っているリポーターも見られた。

 インド側のアジット・クマール海軍少将は「海上輸送路の防衛や海賊行為の対応で意義がある」と述べた。インド人の常として、また軍人の常識としてこういう場合特定の国の名前を出すことはないが、これはまたインド人としての本音でもある。

日本のメディアやそこに登場する評論家たちはインドに日本やその同盟国と共に中国の軍事力への対応を期待しているようだが、インド側にはそのよう考えはない。万一日本が攻められてインドが支援に来ることはないし、インドが攻められても日本に支援を求めることはないだろう。あるとしたら、国連の決議するところの災害救助、海賊行為への対処くらいである。

それは独立以来のインドの政策と行動を知るならばしごく当然のことある。インドは伝統的に「非同盟全方位外交」を掲げてきた国であり、近年は「全方位連繋外交」を展開していることで知られている。インドに期待すべきことはまったく別のところにある。

 インドと中国は1962年の両国国境紛争後ながらく冷却期間が続いた。1988年以降両国首脳の相互訪問が続き、「国境管理ライン地域の平和と安寧の維持に関する協定」を締結している。1996年には、両国国境地帯における兵力削減などを骨子とする「軍事的信頼確立に関する協定」も締結されている。

これらを背景に経済関係が拡大し、インドの対中貿易額は2010年に訪印した温家宝首相とシン首相との間で2015年までに1000億ドルに拡大することで合意している。すでにインドの対外貿易でも中国が首位を占めているのである。

インドと中国はBRICS で統一行動をとるのみならず、SCO (上海協力機構) にインドがオブザーバー参加することで欧米式の問題解決に反対することがある。また、後発の経済大国として両国は歩調を合わせることもある。地球温暖化を扱うCOP (気候変動枠組条約締結国会議) などの場では、自国の経済発展を阻害するような温暖化規制に共同して反対している。国境線をめぐって過去に三度の戦火を交えた相手ではあるが、お互いを「近未来の世界の大国」として認め合っている。

もちろん、両国間に善隣外交を阻害する要因はある。一応の安定を見せているが、国境問題に関する特別作業グループや特別代表会議などで根本的な解決への道筋は見えていない。ダライラマ14世のインド国内での活動にも中国はたびたび異議を唱えている。また、ヒマラヤに源を有する河川の水資源問題も存在する。

中国はミャンマー、バングラデシュ、スリランカ、パキスターンの港湾建設に協力している。世界的レベルでそれは好ましいことである。インド洋に面したそれらの港で中国の船舶の優先的な使用、さらには、中国海軍の寄港地として活用されるのではないか、と予測されている。中国は中東・アフリカへの航路の中継地としての利用を考えている節があるが、インドにしてみれば気が気でない位置にある。

 インドにとって中国やパキスターンが潜在的な脅威、つまり仮想敵国であるとするならば、同様に日本もアメリカもタイも豪州も仮想敵国である、ことを理解しなければならない。一部の学者や評論家が良く使う「リアリズムの国家」という用語を履き違えて理解している人びとがとくにマスコミ人種の中に多く見られる。これも日本と云う国の特殊な事情であり、現在の停滞のひとつの原因でもある。

ちなみに、演習に参加したインドの補給艦の名前「シャクティ」は「力」の意味であるが、もともと「神の力」、「呪力」などの意味合いがある。駆逐艦「ラナ」は「(ラージャスターンの)王の名」を引いている。このあたりにもインドらしさが表れていると思う。

(歴山)