よのなか研究所

多価値共存世界を考える

BRICs から BRICS へ

2011-04-15 18:00:19 | 戦略

                                                       (道教道観) 

 

「ブリックス」はいつの間にか五カ国になっていました。世界は動いています。

中国で一番南に位置する海南省の三亜で四月中旬に開かれていたブリックス首脳会議の参加国はブラジル、ロシア、インド、中国に南アフリカが加わってBRICSになっていました。BRICsの複数形の s が、South Africa を示す S に変わったわけです。ユーラシアに南米大陸にアフリカ大陸の代表が参集することで、欧米先進国(プラス日本かな)を取り囲むような形に見えないこともない。

 

国の数が五つになって面積は世界の三分の一、人口は約半分、貿易取引額は全世界の取引額の半分以上、外貨準備と金保有額では六割を占めるにいたっています。とはいえGDP合計は現在全世界の16%、購買力平価ベースでも26%に過ぎません。規模の大きさは負の面にも顕著です。成長を続けるBRICSはエネルギー消費量も急拡大しており、世界のエネルギー資源の争奪戦、また価格上昇の原因とされています。工場や輸送機器からのCO2排出量が圧倒的に多く、特にブラジル、インド、中国は京都議定書の対象国ともなっていません。

そんな同じような環境の五カ国ですが、ロシアとインドは中国と国境を接しており、将来にわたり国境問題が再燃しないという保証はありません。利害が反する問題を多数抱えており、すべての課題で意見が一致しているということでもありません。宗教も順にカソリック、ロシア正教、ヒンドゥ教、儒教・道教、新旧キリスト教が大多数を占めており、また各国に濃淡はあるもののイスラーム信徒、ユダヤ教徒なども抱えています。

主催国の中国は、新興国が協力関係を強化し、政治・経済両面で国際ルール作りに積極的に関与することにより大きな発言力と開発の権利を確保する必要がある、と述べています

 

五カ国が今後も経済成長を続けることは間違いなく、2020年には経済規模で中国がアメリカを抜き、またインドが2040年代にはアメリカの規模に近づくことは多くの調査機関で共通しています。2050年時点でのGDP規模は断然中国が一位で、以下米、印、日、ブ、ロ、英、独、の順位になっているとの予測を立てている金融会社もあります。一人当たり所得では中国とインドはまだまだ上位には顔出しません。グロスで日本が四位を維持していることを祈りたい昨今の状況です。

 

今回の会議では五カ国が日本の東日本大震災について有効な支援をすると表明しています。またリビア問題の平和的解決を求める宣言を発表しました。各国は発展と平和を目的とした安全な原子力エネルギーの国際的協力関係を発展させるべきだとの意見で一致した、とも発表しています。

このBRICS首脳会議は、ワシントンでの国際通貨基金(IMF)会合と同時期に開催されたことに意味がありました。従来からの懸案である一次産品価格の変動について、また世界の金融・経済問題について話し合うことが一番の目的でした。

特にリーマン・ブラザース倒産に伴う世界的経済混乱をもたらしたような過度に複雑化し、投機性を高めた金融商品の規制など、先進国主導の経済体制の是正を求めています。安定的で信頼性の高い国際通貨システムの構築を求め、国際金融体制に世界経済の変化を反映させるために新興国や発展途上国の発言権と代表権を強める必要性を強調しました。これこそが今回の首脳会議の主題だったのではないか、と思われます。日本のマスコミでの扱いは小さいのですが、近い将来大きな影響をもたらすことは間違いないところです。

 

注目すべきは、五カ国内での貿易取引の決済を米ドルを介さずに二国間の通貨による為替レートによる決済方式を進めて行くことで合意したようです。ここには、大戦後の米国を中心として維持されてきた経済体制への挑戦の意味合いが読み取れます。これに対する米英を中心とする先進国の反発が予想されます。しかし、財政赤字が拡大の一途をたどるアメリカの国債の最大の購入者は中国であり、アメリカとしては中国には大きな態度はとれない事情もあります。そこが、日本が経済力第二位で、かつ米国債の最大の購入者であった時代との大きな変化ということになります。

会議では、次回のBRICS首脳会議を来年インドで開催されることが確認されました。次の主催国となるインドの動きが注目されます。 

(歴山)