Photo(鹿屋基地で展示公開されている名機二式大艇)
中国の軍事力増強のニュースがマスコミで流される機会が多い。たしかに増大しているが、中国の軍事費は米国の六分の一程度であり、経済規模は米国の二分の一に迫っているわけだから、国力に合わせてまだまだ拡大してことは自明である。中国にも軍事産業が当然あるわけだが、〔産軍共同体〕というのはあるのだろうか。
「アメリカは産軍共同体の国家である」、と言いだしたのはその昔のソ連の指導者ではなく、今日の中国の指導者でもない。アメリカの第34代大統領の発言であることを知るひとは少数派になった。
ドワイト・D・アイゼンハワーは「アイクIke」の愛称で呼ばれて国民の間で人気は高く、二期目も高い支持率を保った。軍人としての出世は遅く、第二次大戦が始まったときにはまだ中佐だった。それが時代の風雲に乗り五年余で元帥へと駆け上った。政治家としては先進的とも、堅実とも、凡庸とも評価は分かれている。
問題の発言がなされたのは1961年、彼が二期八年の大統領職を全うして退任する時だった。アイゼンハワーが使ったことばは”Military-industrial complex”。予算の均衡維持を政策の原則としていた彼は大規模な軍事組織と軍事産業との結合が国家予算を食いつぶし、国家財政を揺るがすことを懸念した。巨大な存在となった軍事産業は、議会でのロビー活動を通じて政策に影響力を強めて行った。後には、「産軍議会複合体」”Military-industry-conventional complex(MICC)”という用語も用いられた。日本では「産官軍学報共同体」の用語もある。学=大学・研究機関、報=報道機関を意味するようだ。
彼の退任後、アメリカはベトナム戦争に深く介入し、多くの兵員と火力と軍事費を投入して、最後は敗退した。この戦争に介入することになる決定的な事件は「トンキン湾事件」であるが、これが演出されたものであったことは後に判明する。その前後、中南米での政府転覆、クーデターに米軍や政府機関が関与していく。歯向かうものを排除するためには手段を選ばず、そのために莫大な予算が投下された。アイゼンハワーの懸念は不幸にも的中した。苦労して作り上げた友好国の中には今は反米政権、あるいは非米政権、つまりアメリカと距離をとるようになる国もでてくる。外交の基本である〈内政不干渉〉を無視する行為は日本国内でもたびたび見られるが、今も世界各地で続いている。
ここにきて懸念されるのが中国の動向である。すでに自動車の販売台数でもアメリカを抜いて世界一となっている。世界最大の貿易取引国である。外貨準備も最大規模となっている。この国が第二次大戦後のアメリカのように、軍と軍事産業が結びつき、政策決定に影響力を及ぼすようになる恐れはないのか。人により見解はまちまちである。
中国は一党独裁の社会主義市場経済であり、一産業が政府や党の政策決定に影響力を及ぼすことにはならない、という見解が主流のようだ。他方、軍という実力組織がいざとなれば国を動かすことになるのは社会制度や経済の仕組みに関係はない、との説もある。現在の中国は大戦後のアメリカのように各国に自軍の基地を建設し、あるいは借用し、世界中をネットワークしてはいない。その力もその意思もないとの説明がなされている。他方、すでに南シナ海で、インド洋で複数の商港建設に協力し、その多くが海軍基地として使用可能な施設を備えているのは事実のようだ。
オバマ政権は国防費の大幅削減を政策として発表し、中国はまだまだ国防費を経済力と並行して拡大していく。アジアで米国が減じる分を日本と韓国で補うことになれば、際限のない軍拡が続くことになる。
すでに無人兵器、サイバー兵器が登場している時代に兵員数や火器の数量を国同士で競うことに意味があるのであろうか。政府の監視の届かない所で戦闘がなされている、という事態がすぐそこに来ている感がある。国際的な、そして真に中立公正な監視機関の設立と推進こそが日本の役割ではないだろうか。
(歴山)