「それ、ローライだろ。家にもたくさんカメラがあるから見て行きなよ。」2眼レフのカメラで小さな商店街を撮影していると、いきなりドアが開き、明るそうなおじさんに声をかけられた。また、骨董屋かな?以前にも骨董屋のお兄さんに店に連れ込まれたことがあった。
先を急いでいる訳でもないので、お言葉に甘えて店の中に入ると、意外にもそこはテーブル八卓ほどのレストラン。昼時を過ぎた頃、客はまばら。「写真、おれが撮ったんだ。見て行ってくれよ。」壁には掛けられた写真はすべてモノクロの胡同。胡同に差し込んだ美しい光が、そこに暮らす人たちの姿を浮かび上がらせている。胡同は路地という意味、胡同の両側は昔ながらの住宅。北京にはかつて網の目のように胡同があったが、再開発によって昔の姿は急速に失われている。
「暗室もあるんだ。」レストランを抜け、住居スペースの2階へ案内される。モノクロとカラーの引き延ばし機が一台ずつ。六つ切りの印画紙の箱の他に、全紙の印画紙もある。立派な暗室だ。カメラはキャノンのEOS1、ライカM6、ハッセル、リンホフ、ローライフレックス(しかも2台!)、HORIZONというロシア製のパノラマカメラまである。カメラバッグごとに器材が分かれているのはさすがだ。
「いままでほとんどのカメラを使って来たから、一目見ればどの機種でどんなレンズかわかるよ。さっきは、窓越しにローライが見えたから、モノクロ好きに違いないと思って声をかけたんだ。」やはりローライには、人を呼び寄せる力があるらしい。
「胡同を撮る時は、ライカが一番いいよ。カメラを持って行くとみんな隠れてしまうから、隠し持って近づき、さっと撮るのが一番。」写真を撮った時の様子を、身振り手振りを交え、笑顔で説明してくれる。初めて知り合った北京のライカ使いは、近所の胡同を20年間撮り続けているレストランの老板(ラオバン:社長)だった。(写真:胡同の店の多くは、春節のため閉まっている)
☆yupiter_photo更新しました。