少し前まで庭には三匹の犬がいた
いずれも大型犬
犬種は違うが姉妹のように仲が良かった
以前いた犬が 三年連続で死んで その後を順々に飼ってきたものだから
一歳違いずつの人間で言えば年子状態だった
まだ杖をついてなら歩けた母 小学生の娘と どの犬も女ばかり三人で受け取りに行った
どの犬の時も車の中では娘が抱いて連れて帰った
それからー
病気で母が死んだ
父も病気で死んだ
それでも家の中には猫が一匹
庭には犬が三匹いた
心強かった
特に秋田犬のランは何も言わなくてもこちらの気持ちを察して寄り添ってくれるようなところがあった
穏やかで優しい犬で でも家族を守ろうとするときには烈しい顔も見せた
庭の塀はフエンスになっているところがあるのだが
聞いた話だが近所に犬嫌いで隣家の犬を蹴り殺したーって一人暮らしの男性がいた
酔っては暴れるー
その男性はよくウチの犬にも塀の向こうから石を投げたりしていたが
注意しに出て行ったら逃げる卑怯者でもあった
ある日 犬が異様に吼えるので窓から覗いたら
フエンスの隙間から先の尖った傘を入れて 犬の目を突き刺そうとしていた
ジャーマン・シェパードのアシュリーとシベリアン・ハスキーのエルザは ただ吼えるだけだったが
後ろからのっそりゆっくり近づいて行ったランは フエンス越しではあるが 男の目の前まで行って 初めて一声吼えた
聞いたことのないような迫力ある声で
ランのそのひと声で 家の犬たちであるアシュリーとエルザまでたじろいで後ろへ下がった
そして傘持ち男はーランの迫力に押されたのか 腰砕け状態のまま後じさり
何か捨て台詞を吐いて逃げていった
どんとモノをぶつけるか爆発させたかのような声だった
日頃 吼えることは殆ど他の犬に任せているような そんなおとなしい犬だったけれど
ここぞという時 この一番年上のランを 他の妹犬たちは頼りにしていた
エルザはランが横にいたら 安心してお腹を上に向けて眠るのだ
昼寝の時もランの尻尾を枕にして寝ていたりした
ランが具合が悪くなり 少しでも食べさせようと工夫した食事すら横取りするほど食い意地がはっていたエルザ
ランが死んだら ご飯を食べなくなった
齧る程度にしか
そうした日が一週間続いて
やっとどうにかショックが抜けたのか 食べて歩いて普通に戻ってきたように見えたのに
ランを追うようにエルザは死んだ
頼りにし仲の良かった姉犬を追いかけるように
それから一匹になってしまったアシュリー
十年経っても仔犬のように ずっとずっと他の犬に甘えていたアシュリー
ラン エルザといなくなり
急に老け込んだ
急におばあさんのようになってしまった
気にした長男がボール投げやサッカーで遊んでやっていたが
私はすごく不安になった
このコも逝くのかと
姉犬たちの後を追いかけようとしているのだろうか
心細そうに寂しそうにしている
好きなボール投げをしてみても 活発な動きが余り続かない
姉犬達の食事を横取りするのを楽しみにしていたコだから 取り上げる相手がいないと食べる張り合いがないのだろうか
時間を見てできるだけ構うようにはしているけれど
ランにエルザはアシュリーの家族だった
ただ一人残されて
寂しくて仕方ないのだろう
寂しさで死ぬということはあるのだろうか
迷っていたけれど仔犬を飼うことにした
届くまで半月
人間だって一人では寂しい
私は自身の寂しさを埋める為に犬を飼おうとしているのではないか
犬を飼おうとするのは ただの我が儘ではないだろうか
他の人間に飼われたほうが 犬は幸せになれるかもしれないのに
それでもー
がらんとした庭は寂しい
犬の飼い方の本を読み直し 倉庫のような犬舎や犬小屋を消毒し綺麗に掃除しよう
とりあえずは
結局 寂しがりやで我が儘なんだ 私は
幾つになっても
子供の頃 哀しいことがあると 庭に降りて犬の首を抱いていた
犬はじっと横にいてくれる
そうしているうちに心は落ち着いた
ずっとずっと犬に頼ってきたのかもしれない