しかし、大旗の努力もむなしく、砂時計の形をした記憶の器は、ピタリと大旗の額に貼りつくと、砂時計が時を刻むように、さらさらと大旗の中に戻っていった。
「そこまでだ。そのまま、おとなしくしていろ」
と、有無を言わさぬ重たい声が聞こえた。
沙織と、大旗を抱きかかえているジローにも、その姿は見えなかった。タイムパトロールがやってくるときに出現する、まぶしいほどの光のドアは、どこにもなかった。
注意していたにもかかわらず、なんらかの計略によって、まんまと見つけられてしまった。沙織とジローは、不用意に動くことができず、じっと立ち尽くしたまま、次の指示が聞こえるのを待っていた。額に記憶の器を貼りつけられた大旗は、口を半開きにしたまま、気を失ったようにぐったりとしていた。
「――航時法及び先進ツール不法所持の容疑で確保する」と、二人の前に姿を現したタイムパトロールが、特殊警棒のような短い武器を手に、身構えて言った。
一人だけではなかった。見えなくなる迷彩服に身を包んだ彼らは、被っていたフードを脱ぐと、次々にその姿を現した。
「ずいぶんな数で来たのね」と、沙織はゆっくりと手を上げながら言った。「見る限り、十人はいるんじゃないの」
「この前はまんまと逃げられたからね」と、隊長らしき男は笑みを浮かべながら言った。「今回は足場がないほど隊員を動員したから、どこにも逃げられないぞ。あきらめろ――」
はらり。と、見えなくなる帽子を脱がされたジローが、姿を見せた。
「実感はないが、どうやら俺はみんなに見えているようだな」と、ジローは言いながら、抱きかかえていた大旗をゆっくりと地面に下ろしていった。
「悪く思わないでくれ」と、隊長は言うと、大旗の前で膝をついた隊員の一人が、まだ作動している額の記憶の器に手を伸ばした。
「歴史を守るためには、やむを得ないんだ」と、隊長は言うと、腰のあたりから取り出した新たな記憶の器を、沙織の額に当てようと腕を伸ばした。
「――待ちなさい」
と、大きな声が聞こえた。タイムパトロールの連中は全員がその場で凍りつくと、同時に声の主を探して素早く周囲をうかがった。
「いたぞ、あそこだ」と、数人の隊員が向き直ると、他の隊員達も後に続いた。
「闇を切り裂く勇者の光。シャドウ・ライト・キング、参上――」
と、通りの向こうに、体育の授業で着替えるようなジャージの上下に、マスクを被った姿で亜珠理が現れた。
大きな声で名乗った亜珠理は、タイムパトロール達が待ち構えるただ中に、一散に駆け出した。