くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

地図にない場所(65)

2020-06-07 20:23:09 | 「地図にない場所」
「わしもそうしてやりたいが、わしが目を覚ましても戻らん以上、おまえが元に戻る事は、もうできないだろう。どういういきさつで、おまえがドリーブランドに来てしまったかはわからんが、おまえがわしの夢に引っ張られてきたことだけは、確かなようだ……」

「――ハッハッハッ……」

 と、サトルはじっと考えていましたが、急に笑い出して言いました。「そうだよ。こいつは夢なんだ。だから、ぼくが目を覚ませばいいんですよ……」
 サトルは言うと、部屋の床に大の字に横になりました。ねむり王達は、なにをするのだろう、と様子を見ていましたが、サトルはしばらくじっとそうしていると、血相を変えて跳ね起きました。
「目が覚めない――。ねぇガッチ、パフルさん、王様、ぼく目が覚めないんです。これは夢じゃなかったんですか? ぼくはずっと夢だと思っていたんです」と、サトルはワッと泣き出しました。「お願いです。ぼくの目を覚ましてください……」
 サトルの耳元で、サーッという砂の落ちるような音がしました。
 濡れた顔を上げて見ると、ねむり王の部屋の壁やら天井やら、ありとあらゆる物が砂に変わり始めているのでした。ねむり王も、パフル大臣も、みんな足元から砂に変わっていきました。ガッチまでもが、砂に変わっていくのでした。ねむり王とパフル大臣は、驚いたような顔をして、サトルを見ていました。
 ガッチは、自分が砂になっていくことを知らないのか、しきりにサトルになにか話しかけていました。すべての物が、みるみるうちに砂に変わり、どんどんと下へ流れていき、とうとうサトル自身までもが、砂に流され始めました。ねむり王とパフル大臣の姿は、もうどこにありません。
 サトルは、胸から上しか残っていないガッチに手を伸ばし、叫びながら助けようとしました。しかし、努力のかいもなく、ガッチは足跡も残さないほど、細かな砂に変わってしまいました。
 ガッチが姿を消す瞬間、サトルはガッチがなにを言っているのか、唇の動きで知ることができました。

「――カゼ、ハカセ……」

 サトルは、滝のようになった砂に流され、頭から砂を被り、必死になってもがきましたが、最後まで空をつかんでいた手も、砂の奥深く沈みこみ、二度と再び浮かび上がってくることはありませんでした……。




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