くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

地図にない場所(18)

2020-04-21 20:02:52 | 「地図にない場所」
「ねぇガッチ、ぼく見たんだ。ぼくを、このドリーブランドに突き落としたやつを―― 」と、サトルが言いました。「はっきりとはわからなかったけど、確かにあれはやつだった。間違いないよ」
「サトルをドアから突き落としたやつか――。でも、今回もそいつがやったって証拠はないぜ。それに、どこにも見あたらないじゃねぇか。そいつはよ」と、ガッチは首を傾げながら言いました。
「うん。証拠はないけど、ぼくが落とされたのと同じドアだし、またあいつを見たからね。きっと、あいつに違いないよ。どこへ行ったかはわからないけど、おそらく自分もあのドアに吸いこまれていったんだ。町の人達と同じようにね」
「――おいまさか、おまえ自分もあのドアに入ろうってんじゃねぇだろうな。ダメダメ、やめろよ。危ねぇぜ。中に何があるかわかったもんじゃねぇし、第一あんなすげえ風を起こすドアだぜ、もっとすげぇもんがあるに決まってらあ」と、ガッチがいやいやをするように、首を振りながら言いました。
「でも、町の人はどうするの? 誰かがやらなくちゃ――。それに、ぼくだって早く元の世界に戻らなくちゃならないし。
 ――そうさ、目が覚める前にやらなきゃ。目が覚めたら、みんな終わっちゃうんだよ。この世界も、ガッチもおかみさんも、町の人も。だから、その前に見つけなきゃ。こんな悪い夢なんて、いつまでも見ていないで、早く覚めちゃいたいけど、町の人達を助けてからじゃないと、嫌だよ」と、サトルは真剣な顔で、覚悟を決めたように言いました。
「わかった、わかった」と、ガッチが困ったように言いました。「犯人の顔を知ってるのはおまえだけだし。そうだな。言うとおり、おれ達がやらなきゃな。ふふ……悪い夢か――。そう、こいつぁ夢だよ。こんな夢、早く覚ましちまわないとな。よし! おれはやるぜ」
 サトルとガッチは、まずサトルが不思議なヒゲの生えた子供が消えたのを見た、というあたりにあるドアを調べました。けれど、ほかのいくつものドアと、特に変わった所はありませんでした。
(どれも同じみたいだ……。けど、間違ったドアに入っちゃうと、また変な所へ落とされるかもしれないし――)と、サトルは考えていました。肩に乗っているガッチも、あごに手をあてて、なにやら頭をひねっているようでした。
 サトルがドアを行ったり来たりして調べていると、ガッチが「あっ!」と叫び声を上げました。

「どうしたの?」

「――おい見ろ。ドアがだんだん薄くなっていくぞ。サトルが落ちてきたドアも、同じようにだんだん薄くなって、とうとう消えちまったんだ」
「でも、一体どうすればいいの?」と、サトルが言いました。「ぼく、どのドアにあいつが吸いこまれていったか、わかんないよ」
「しかたがない。――これと思ったドアに突っこむんだ。さぁ、急げ!」
 サトルは、ガッチの声とともに、最初に自分が調べたドアに向かって、全力で走り出しました。そして、半透明に消えかかったドアを開けると、「うっわー!」という声とともに、行く手の見えない暗闇の中へ、真っ逆さまに飲みこまれていきました。


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