「邪魔させるな」と、隊長の男が言うと、タイムパトロールの面々が警棒のような得物を手に、あっという間に距離を詰めた亜珠理に向かって行った。
十数人はいるタイムパトロールに対し、一人で立ち向かっていった亜珠理は、明らかに劣勢だった。
しかし、どういうわけか、隊員の誰一人として、亜珠理を捕らえることも、触れることもできなかった。
マスクを身につけた亜珠理は、強靱な身体能力のほか、直感的な情報処理と一瞬先の動きを読む能力が飛躍的に向上し、日々鍛えている隊員の動きも、あくびが出るほどゆっくりで、歯ごたえのないものに感じていた。
「私の友達の記憶は、返してもらうから」と、亜珠理は隊長の前に立つと、後ろから殴りかかる拳を身を沈めてかわし、再び立ち上がって言った。「――だからそっちこそ、邪魔しないで」
「それはできない相談だな」と、隊長は言いながら亜珠理を捕まえようと手を伸ばした。しかし、亜珠理は隊長を足蹴にしてスタンと後ろに下がると、また再びゆるり、かすり、ふわり、とタイムパトロールの間を縫って回り、捕らえようとする手を難なくすり抜けた。
「隊長、あいつらの姿がありません」
と、沙織達の姿が見えないことに気がついた隊員が、驚いたように言った。
手こずっていたタイムパトロール達の動きが止まり、路上に座りこんだ大旗に視線が集まった。
「――大丈夫、大旗」と、亜珠理は大旗に身を寄せると、しっかと抱きとめて言った。
亜珠理は道路の横に落ちている記憶の器を拾うと、中身が空っぽになっているのを確かめ、大旗の記憶がすべて元に戻ったのがわかると、近くにいた隊員の一人に放り投げた。
前にいた隊員の一人が、記憶の器を悔しそうに受け止めた。
「早く立ち去らないと、目を覚ますわよ」
と、亜珠理は大旗を抱きとめたまま、二人を取り囲んだタイムパトロール達を見上げて言った。
正直、タイムパトロールが立ち去るかどうか、亜珠理に自信はなかった。ただ、再び大旗を捕らえて記憶を取り出そうとしても、亜珠理が邪魔をして抵抗し、その時間が長引けば長引くほど、大旗から消し去るべき記憶量が増えてしまい、記憶の取り出し中に、大旗の生命に関わる重大なダメージを負わせる可能性が生じるはずだった。
大旗の未来がどのようであるのかは、亜珠理にはわかりようもなかったが、大旗の生命に関わるダメージを負わせることは、未来を書き替えることになり、タイムパトロールなら、そんな危険な真似をするはずがなかった。
その推論は、亜珠理の考えたとおりだった。
くやしそうな表情を浮かべたタイムパトロール達は、大旗が目を覚ますより先に、それぞれが乗車する時空間ホバーを駆り、なにもない空間に現れた光のドアの中に、逃げるように次々と飛びこんでいった。