「そう……今思えば……ずいぶんと荒っぽい方法だとは思うがな……そうするしかなかったのだ。あの娘は……口が消え鼻が消え……そして耳が消え、体もだんだんと木に変わってしまい……残ったのは両の目と、髪の毛だけじゃった……ワシは最善をつくしたが……ついに片方の目が消えた。ワシは、もう黄色の砂になるのも時間の問題だな……とあきらめかけたが……あまりにしのびなかったので……とうとう目を失ったリリの顔に、そっと、永遠に消えることのない目を彫ったのだ……。
リリは……なんの人間らしいところも持ち合わせない娘になってしまったが……かろうじて彫った目には……まだきれいな光が残っていた。しかし、リリはその残った目でも……悲しみの感情ばかりを表した。
ワシがふと気がつくと……この娘はいつも涙を流していた。ワシはしまった……と思ったが……もう遅かった。開いたままの目を残せば……見たい物だけではなく、見たくない物も見えてしまう。悲しみを増すだけだということに……ぜんぜん気がつかなかったのだ……。
その目も、流した涙に削られて、彫った溝が浅くなり……もうほとんど凹凸がなくなりそうになっている……。この娘は……このままでは本当に黄色い砂になってしまう――」
樹王は、ここまで話すと、静かにため息をつきながら、目を閉じました。サトルもなんだかいたたまれなくなって、そっと目を伏せました。そしてこの木の人形――いやリリは、一体どんなつらい目に遭ってきたんだろう、と自分に置き換えて考えてみました。けれど、どんなに想像力を使っても、多くのことを知らないサトルは、今の自分の立場が、この世で最高の不幸に思えるのでした。サトルは、静かに顔を上げて、リリの方を振り向きました。
「あっ……」と、サトルはリリを見て思わず息を飲みました。
眠っていると思っていたリリの目から、ひと筋の涙が流れていたのでした。どうやら、サトルと樹王の話に目が覚めたリリは、眠ったふりをして、二人の話を聞いていたようでした。
「リリ……」と、樹王がサトルの声に反応して目を開き、しまった、という顔で言いました。サトルは、どうしていいかわからず、ただおどおどしているばかりでした。
すっ――と、木の関節を軋らせて、リリが立ち上がりました。たき火の明かりに照らされた涙の跡が、まぶたの無い目から、細く線を引いていました。
「――あのね、リリ」
サトルが言おうとすると、リリが暗闇の中に駆け出していきました。
「待つんだ……リリ……」と、樹王があわてて声をかけましたが、リリの姿は、とっくに見えなくなってしまいました。
「やめるんだ、サトル……」
と、リリの後を追いかけようとしたサトルを、樹王が止めました。
「どうして、早く行かないと――」と、サトルは振り返って言いました。
「まだ言っていなかったことがある」と、樹王が言いました。
リリは……なんの人間らしいところも持ち合わせない娘になってしまったが……かろうじて彫った目には……まだきれいな光が残っていた。しかし、リリはその残った目でも……悲しみの感情ばかりを表した。
ワシがふと気がつくと……この娘はいつも涙を流していた。ワシはしまった……と思ったが……もう遅かった。開いたままの目を残せば……見たい物だけではなく、見たくない物も見えてしまう。悲しみを増すだけだということに……ぜんぜん気がつかなかったのだ……。
その目も、流した涙に削られて、彫った溝が浅くなり……もうほとんど凹凸がなくなりそうになっている……。この娘は……このままでは本当に黄色い砂になってしまう――」
樹王は、ここまで話すと、静かにため息をつきながら、目を閉じました。サトルもなんだかいたたまれなくなって、そっと目を伏せました。そしてこの木の人形――いやリリは、一体どんなつらい目に遭ってきたんだろう、と自分に置き換えて考えてみました。けれど、どんなに想像力を使っても、多くのことを知らないサトルは、今の自分の立場が、この世で最高の不幸に思えるのでした。サトルは、静かに顔を上げて、リリの方を振り向きました。
「あっ……」と、サトルはリリを見て思わず息を飲みました。
眠っていると思っていたリリの目から、ひと筋の涙が流れていたのでした。どうやら、サトルと樹王の話に目が覚めたリリは、眠ったふりをして、二人の話を聞いていたようでした。
「リリ……」と、樹王がサトルの声に反応して目を開き、しまった、という顔で言いました。サトルは、どうしていいかわからず、ただおどおどしているばかりでした。
すっ――と、木の関節を軋らせて、リリが立ち上がりました。たき火の明かりに照らされた涙の跡が、まぶたの無い目から、細く線を引いていました。
「――あのね、リリ」
サトルが言おうとすると、リリが暗闇の中に駆け出していきました。
「待つんだ……リリ……」と、樹王があわてて声をかけましたが、リリの姿は、とっくに見えなくなってしまいました。
「やめるんだ、サトル……」
と、リリの後を追いかけようとしたサトルを、樹王が止めました。
「どうして、早く行かないと――」と、サトルは振り返って言いました。
「まだ言っていなかったことがある」と、樹王が言いました。