いにしえより流されてきた血は、ここで初めてひとつになった。が、ただ血が集まっただけでは、せっかくの光もすぐに闇に変わってしまう。そこで人々の血は、決して再び地面に吸い取られぬよう、変わることのないよう、絶えることのない流れとなって、地表を旅し続けているのだ。
この流れが、この世界……ドリーブランドの柱なのだ――」
「じゃ、ここはやっぱり、ドリーブランドなんだ」と、サトルはうれしそうに言いました。
サトルは、ここがドリーブランドと知って、しかし愕然としました。ガッチと一緒に旅してきたところとは、まるで別世界のようだったからでした。ねむり王の罠が仕掛けられていたとはいえ、ここよりは一段も二段も居心地のいい世界でした。
「そう。ここはサトルの言う、ドリーブランドだ。だがな――」道士はサトルを見ると、安心しろというように言いました。「ここはいわば、裏側の世界だ。ドリーブランドであることに変わりはないが、誰もこんな世界があると知っている者は、いない」
サトルははっとして、道士の顔を見ました。道士は、すがるような顔をしているサトルに、ただ静かに笑って見せました。
「この世界は、サトルの信念によって動かされている。君が望めば、この世界はすぐに答える。それはこの川が、望んでいて叶わなかったことだ。だからこそ、それを君達に与えてくれる。しかし、一人だけ得をしようとする人間には、この世界は答えるのをやめる。この世界が見えなくなって、異なった世界に落ちてしまう――」
道士はそう言うと、きりっとサトルの顔をにらみました。
「――ぼ、ぼくは、一人だけ得をしようなんて思ったことは、ありません」と、サトルは自動販売機のことを思い出しましたが、それ以上思い出さないように打ち消しながら、言いました。
「ハッハッハッ……。自動販売機のこととやらは顔に出ているぞ……」と、道士は笑いながら言いました。
サトルは、道士から顔を隠すようにして、手で顔をこすりました。
「ハッハッハッ……。いいか、この世界に落ちてきたのは、そのためじゃない……」と、道士が真面目な顔に戻って言いました。「この世界はな、夢でできている。住んでいる者達は、生まれた時からこの世界を見ているから、まったくその事には気づかない。だがそれは、私には火を見るよりも明らかなことだ……。だから夢を、もし見られない者がいたとすると、この世界はなにもない、死の砂漠へその者を落とす。いや、自分で落ちたと言うべきだ」
「……じゃ、ぼくは……」と、サトルは手で自分の胸を押さえながら言いました。「夢を見なくなってしまったんですか……?」
「いや、そう悲観することはない。君が異人だからだ。異人ならば、この世界に疑問を持つことも当然だろう……。しかし、それがわかったとて、君が上の世界へ行くことは至難の業だ。次々に思ったことが現実になる世界では、疑問を持つことは最大の禁を犯すことと同じだ。
もう一度夢を取り戻せばいいだけとはいえ、なにぶん疑問は情熱をむしばむ。もう手遅れかもしれん。この私も、夢を自在に操るために、この年まで修業をしなければならなかった。けれどそれでもなお、至宝のごとく光り輝く世界へは、足を踏み入れることさえできないでいる――」
この流れが、この世界……ドリーブランドの柱なのだ――」
「じゃ、ここはやっぱり、ドリーブランドなんだ」と、サトルはうれしそうに言いました。
サトルは、ここがドリーブランドと知って、しかし愕然としました。ガッチと一緒に旅してきたところとは、まるで別世界のようだったからでした。ねむり王の罠が仕掛けられていたとはいえ、ここよりは一段も二段も居心地のいい世界でした。
「そう。ここはサトルの言う、ドリーブランドだ。だがな――」道士はサトルを見ると、安心しろというように言いました。「ここはいわば、裏側の世界だ。ドリーブランドであることに変わりはないが、誰もこんな世界があると知っている者は、いない」
サトルははっとして、道士の顔を見ました。道士は、すがるような顔をしているサトルに、ただ静かに笑って見せました。
「この世界は、サトルの信念によって動かされている。君が望めば、この世界はすぐに答える。それはこの川が、望んでいて叶わなかったことだ。だからこそ、それを君達に与えてくれる。しかし、一人だけ得をしようとする人間には、この世界は答えるのをやめる。この世界が見えなくなって、異なった世界に落ちてしまう――」
道士はそう言うと、きりっとサトルの顔をにらみました。
「――ぼ、ぼくは、一人だけ得をしようなんて思ったことは、ありません」と、サトルは自動販売機のことを思い出しましたが、それ以上思い出さないように打ち消しながら、言いました。
「ハッハッハッ……。自動販売機のこととやらは顔に出ているぞ……」と、道士は笑いながら言いました。
サトルは、道士から顔を隠すようにして、手で顔をこすりました。
「ハッハッハッ……。いいか、この世界に落ちてきたのは、そのためじゃない……」と、道士が真面目な顔に戻って言いました。「この世界はな、夢でできている。住んでいる者達は、生まれた時からこの世界を見ているから、まったくその事には気づかない。だがそれは、私には火を見るよりも明らかなことだ……。だから夢を、もし見られない者がいたとすると、この世界はなにもない、死の砂漠へその者を落とす。いや、自分で落ちたと言うべきだ」
「……じゃ、ぼくは……」と、サトルは手で自分の胸を押さえながら言いました。「夢を見なくなってしまったんですか……?」
「いや、そう悲観することはない。君が異人だからだ。異人ならば、この世界に疑問を持つことも当然だろう……。しかし、それがわかったとて、君が上の世界へ行くことは至難の業だ。次々に思ったことが現実になる世界では、疑問を持つことは最大の禁を犯すことと同じだ。
もう一度夢を取り戻せばいいだけとはいえ、なにぶん疑問は情熱をむしばむ。もう手遅れかもしれん。この私も、夢を自在に操るために、この年まで修業をしなければならなかった。けれどそれでもなお、至宝のごとく光り輝く世界へは、足を踏み入れることさえできないでいる――」