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少年よ、ポップを目指せ

2024-08-21 00:38:22 | 読書・音楽

大傑作マンガ『ダイの大冒険』の主人公は、タイトルに反して勇者ダイではない。ダイはサラブレッドで最初から天才だった。勝利・友情・努力の全てを体現したのは魔法使いポップであり、著者の意図はともかく、ポップの成長譚だ。

物語初期のポップは、ともかく情けない。女の子の前では見栄を張るが、いざピンチになると仲間を見捨てて逃げ出す。読者はポップを軽蔑しながら、自分の心のうちにいるポップに気がついて後ろめたい。ただし、初期ポップはすでにただのチキンではなかった。殺されるという恐怖に震えながら、圧倒的な力を持つハドラーやクロコダインに立ち向かった。男の子には、ションペンちびりながらも踏みとどまらないといけない時がある。

ヒュンケル編あたりから、経験を重ねたポップが徐々に逞しくなってくる。ヒュンケルもフレイザードも、ポップを欠いていれば倒せなかった。

ポップの決定的な転機はマトリフに師事したことである。マトリフから「超呪文」ともいうべき極大消滅呪文メドローアを教えられる。アバンストラッシュを別にすれば、男子が真似をする第一位がメドローア、第二位が牙突だ。オリハルコンすらも消滅させるメドローアを覚えたポップは、パーティーの中で特別な地位を占めるようになる。

なお、既に全盛期は過ぎているにもかかわらず、マトリフもブロキーナも今でもカッコ良すぎる。かつてアバンは、ロカと身籠ったレイラを残し、マトリフとブロキーナだけを連れてハドラーと戦う。その時にアバンを守れなかった後悔からマトリフはメドローアを作り上げ、レイラが産んだマアムが成長してブロキーナの弟子となる。この設定をブロキーナは「運命」と呼ぶが、ぞくぞくする。

閑話休題。作中のマアムは肉感的な動で陽、メルルは影のあるクールビューティーな静だ。学級のヒロインであるマアムに、道化のポップは魅かれるが、マアムの心は完全に不良のヒュンケルに向いている。そんなポップの気持ちを知りながら彼の魅力を誰よりも知るのがメルルだが、ポップはメルルを良き友人としか見ていない。ポップとメルルの叶わぬ想いに全男子のハートがキュッとなる。メルルがポップの身代わりになって瀕死の重傷を負う場面は、終盤に向かう一つのピークだ。力なき者の勇気は心を打つ。

ベストバウトはシグマ戦だ。作中でほぼ唯一のタイマン勝負であり、「臆病で弱っちい…ただの人間さ…」「おれを呼ぶなら大魔導士とでも呼んでくれっ」「おれの女神は微笑んでなんかくれねえっ/横っ面を…ひっぱたくんだよおっ」という鼻血しか出ない名台詞が連発する。

メルル救出と同様の濃厚なシーンがバーンパレスのハドラー救出。宿敵ハドラーが戦いを経るごとに純化して行き、ポップはアバンを重ねていた。骸直前のハドラーを助けようとして自らも炎に巻かれるポップは、チャリティそのものだ。我々は、算盤を無視した無垢な行動に感動し、世界が善なることを知る。窮地をアバンによって救出されたハドラーは、アバンの腕の中で消滅する。最後の呟きが最高だ。

最終決戦であるバーン戦で、バーンが真に恐怖したのは勇者ダイではなく、最後までダイの傍らに立ち続けて奇跡を連発したポップだった。ただの武器屋の息子が一人で大魔王の最終奥義を破ったのはただただ痛快。個人的にはもう少しクロコダインに見せ場をあげてほしかったけど…。

ただの弱っちい僕だって、頑張れば、少しの勇気を振り絞れば、大魔王にまで届くんだ。マアムかメルルかは迷うけど…。全ての少年よ、ポップを目指そう。

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