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民事裁判における人証の採否

2024-09-04 20:16:59 | 民事手続(証拠法)

2025-03-15追記。

【例題】甲地方裁判所には、XのYに対する損害賠償請求訴訟が係属している。XがAの証人尋問を申出をしたところ、Yはこれに反対をした。

 

[人証申出]

・弁論主義の元では、当事者は、争いのある事実を証明するために、証拠の申出をする必要がある。□コンメ(4)74

・証拠申出には、取り調べてほしい証拠方法を特定した上で、「証明すべき事実(立証趣旨、立証事項)」「立証趣旨と証拠の関係」を具体的に明示する必要がある(民訴法180条1項、民訴規則99条1項)。これに不備があれば、取調べの必要性判断が困難となり、相手方の防御権が害されるので、不適法な申出となる(最二判昭和30年3月4日集民第17号507頁)(※)。□コンメ(4)77

※民訴法157条2項を根拠に不明瞭却下を求める方法もあるか(たぶん)。

・証人の指定:証拠申出一般として証拠方法の特定を要する(上述)。証人の指定(民訴規則106条)は、氏名と住所でされるのが通常である。□コンメ(4)168-9

・予定時間の明示:証人尋問の申出には、「尋問に要する見込みの時間」を記載する(民訴規則106条)。理論的には反対尋問の時間も含んでいるが、実務上は、主尋問の予定時間のみを明示するのが通例か。□コンメ(4)169

・尋問事項:証人尋問の申出には、「できる限り、個別的かつ具体的に記載した尋問事項書」の提出を要する(民訴規則107条1項2項)。実務上、証拠申出書の「立証趣旨」は簡潔な記載にとどめ(1~2行程度?)、それを尋問事項が代替・補完している(※)。□コンメ(4)79

※現在の運用では証人予定者作成の陳述書が事前提出されることが大半なので、尋問事項は概括的な内容で足りている。

・証人尋問の申出では、人証の表示のうちで「証人の立場」を記載することで、「立証趣旨と証拠の関係」を明らかにしている。□コンメ(4)169-70

・証拠申出は攻撃防御方法の一つであるから、適時提出主義(民訴法156条、157条1項)や審理計画(民訴法156条の2、157条の2)の規律を受ける。□コンメ(4)81-2

 

[申出に対する相手方の意見]

・一方からの証拠申出に対して、相手方には陳述の機会が与えられなければならない(※)。期日での証拠申出であれば、その場で陳述の機会があたえられことになろう(たぶん)。期日外での証拠申出(民訴法180条2項)も、原則として証拠申出書が直送されるので(民訴規則99条2項、83条)、受領をもって陳述の機会が与えられたことになろう。□コンメ(4)82-3、講義案(1)155

※この当然の理に明文はないが、準備書面や弁論準備手続調書の記載事項の一つに「敵の請求や攻撃防御の方法に対する陳述」(民訴法161条2項2号、民訴規則88条1項)が挙げられる。

・証拠申出に対する陳述(意見)も、適時に提出しなければならない。□講義案(1)155

 

[取調べの必要性判断とその統制]

・原則=裁判所の裁量:裁判所における証拠採否の判断基準は、原則として「取調べの必要性」のみであり(民訴法181条1項)、裁判所の裁量に属する(※)。□コンメ(4)83、講義案(1)156

※「当事者が実質的に争っている争点については、(書証から容易に認定できる場合を除いて)人証を採用すべきである」という裁判実務家の指摘がある。□三角174

・もっとも、この裁量権行使を誤れば、審理不尽=法令違反となりうる。痴漢行為の有無が争われた事案(元被疑者が自称被害者の虚偽申告=不法行為を主張した)において、唯一の目撃者の尋問を実施せずに痴漢行為を認定した原審に対して、審理不尽の結果、結論に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるとした事例がある(最二判平成20年11月7日集民第229号151頁)(※)。□コンメ(4)87

※同事案では、次の事情が指摘された。[1]自称被害者の「痴漢行為についての供述」には一応の一貫性がみられるものの、自己供述内部で「犯行時に聞いた声」について看過し得ない食い違いがある。[2]元被疑者の否認供述は一貫しており、目撃者供述にも沿う。[3]目撃者は目撃証人に準ずる立場にある唯一の人物であってその証言は重要である(客観的中立的な証言が期待できないとはいえない、との付言もある)。

・例外=唯一の証拠方法の法則(※):判例法理により、「争点となっている特定の主要事実を立証するために当事者が申し出た唯一の証拠方法は、特段の事情がない限り、必ず取り調べなければならない」という法理が形成されてきた(証人につき傍論だが、最二判昭和56年11月13日集民第134号227頁)。もっとも、その例外も多く認められている。□コンメ(4)84、三角165-6

※似て非なる用語に「採証法則」があるが、これは、採用された証拠を合理的に評価すべき、という一種の経験則を指す。□コンメ(4)84

・このほかにも、法文で明示されている例外がある。[1]証拠保全手続を経ている場合の証人の再尋問(民訴法242条)。[2]裁判体が交代した場合の証人の再尋問(民訴法249条3項)。[3]併合事件の場合の再尋問(民訴法152条2項)。□講義案(1)156

 

[証拠の採否の裁判(決定)]

・現行法は、証拠決定(採否の裁判)に関する規定を設けていない。実務上は、証拠申出に対しては必ず採否の決定をしている。□コンメ(1)88-9

→期日での決定:上記のとおり様式の規律はないため、口頭で決定されるのが通例であり、「書面を作成しないでした裁判」として調書(証人等目録の採否の裁判欄)に記載される(民訴規則67条1項7号)。この決定が効力を生じるには当事者への告知を要するが(民訴法119条)、期日での決定=同時に告知、となろう。□講義案(1)156、コンメ(4)89

→期日外での決定:裁判書を作成し(証拠申出書の余白を利用する例もある)、かつ、証人等目録にも記載する。期日での決定と異なり、相当な方法で当事者に告知する必要がある(民訴法119条)。□講義案(1)156、コンメ(4)89

・却下決定であっても、その理由を明示する必要はない。□コンメ(4)89

・証拠の採否の裁判は「訴訟の指揮に関する決定」であるため、裁判所は、いつでも取り消すことができる(民訴法120条)。□コンメ(4)89

・判決書には、証拠採否の結果を記載することも要しない(最二判昭和39年4月3日民集第18巻4号513頁)。□コンメ(4)89

・人証の採否をめぐる当事者と裁判所の攻防について、柴﨑哲夫・牧田謙太郎『裁判官はこう考える 弁護士はこう実践する 民事裁判手続』[2017]pp142-3,158-60,166-9。

 

[証拠採否への対抗]

・証拠の採否に関する決定は、通例は口頭弁論を経ているため、独自に抗告はできない(民訴法328条1項)。□コンメ(4)89

・証拠の採否(=終局判決前の裁判)を覆したい当事者は、上訴においてそれを主張し、上級審の判断を求めることになる(民訴法283条本文)。□コンメ(4)89

 

[採用された証人尋問の実施]

・原則として、証人の尋問を先行し、次いで、本人尋問を行う(民訴法207条2項本文)。旧民訴法の「当事者尋問の補充性」の名残であるが、集中証拠調べ(同一期日での証拠調べ)を前提とした実質的意義として「本人は、証人の証言内容を踏まえて陳述することが望ましい」と指摘される。□コンメ(4)277,281-2

・この原則に反して、裁判所は、適当と認めるときは、当事者の意見を聴いた上で、本人尋問を先行させることができる(民訴法207条2項ただし書)。□コンメ(4)282

 

三角比呂「証拠の採否」大江忠・加藤新太郎・山本和彦編『手続裁量とその規律』[2005]

裁判所職員総合研修所監修『民事実務講義案1〔四訂版〕』[2008]

秋山幹男・伊藤眞・垣内秀介・加藤新太郎・高田裕成・福田剛久・山本和彦『コンメンタール民事訴訟法4〔第2版〕』[2019]


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