行政処分の取消違法と国賠違法

2018-07-09 23:33:02 | 地方自治・行政救済法

【例題】乙税務署長Yは、Xに対して課税処分をした。Xはこの課税処分が違法であるとして国税不服審判所長に対する審査請求をしたが棄却裁決がなされたので、Xは、国を被告とする処分取消訴訟と国家賠償請求訴訟を併合提起した(行政事件訴訟法16条1項参照)。

 

[取消違法]

○取消訴訟の訴訟物

・処分取消訴訟における訴訟物は「行政処分の違法性一般」である。□塩野(2)89-91,159、芝池救済93-4、橋本193

・ここでいう「行政処分の違法=客観的な法規範に対する違背」には、実体的違法と手続的違法がある。□芝池救済61、芝池読本58-9,328

○実体的違法(1)

・行政処分の過程は「事実認定→処分要件の解釈と当てはめ→処分効果の選択(+時の選択)」と分析できる。□橋本76

・この分析を踏まえれば、「行政処分の実体的違法」は、(1)事実誤認、(2)法律要件の解釈や当てはめの誤り、(3)法律効果の選択の誤り、のいずれかとなろう(私見)。□芝池58-9参照

・課税要件を定める規定や刑罰要件を定める規定には行政裁量(要件裁量)は認められないと解される。□中原132

・覊束処分に対する違法性の判断構造は明快であろう(私見)。

○実体的違法(2)

・他方、裁量処分の違法性は「裁量権の逸脱濫用の有無(行政事件訴訟法30条)」との観点から審査される。

・裁量処分に対する事実誤認審査;学説の多くは「事実認定」に行政裁量を認めない。このことは、裁量処分であったとしても、「その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により右判断が全く事実の基礎を欠く(最大判昭和53・10・4民集32巻7号1223頁[マクリーン事件])」「その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠く(最一判平成18・11・2民集60巻9号3249頁[小田急訴訟]」か否かにつき、司法審査が及ぶことを意味する。もっとも、専門技術的な要件(例;災害の防止上支障がない)の当てはめのように前提事実の認定と要件への当てはめが分かち難い場合では、事実認定に裁量が認められる余地もあろう。□塩野(2)160、芝池読本77、中原130

・裁量処分に対する社会通念審査;最高裁が事実誤認と並んで掲げる裁量審査の判断基準は、「(行政庁の)判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうか」という基準である(例として、要件裁量につき前掲最大判昭和53・10・4[マクリーン事件]、効果裁量につき最三判昭和52・12・20民集31巻7号1101頁[神戸税関事件])。□橋本81-2

・社会通念審査の内実(1)-効果裁量に対する実体審査(裁量基準への注目含む);古典的な下位基準として、[1]目的拘束(最二判昭和53・6・16刑集32巻4号605頁[余目町個室付浴場事件])、[2]平等原則(処分基準の策定により「裁量権の行使における公正かつ平等な取扱いの要請や基準の内容に係る相手方の信頼の保護等の観点」が生じると明言した最三判平成27・3・3民集69巻2号143頁)、[3]比例原則(前掲最三判昭和52・12・20[神戸税関事件]を踏襲しつつも停職処分を比例原則違反とした最一判平成24・1・16集民239号1頁[教職員国旗国歌訴訟])。□塩野(2)160-1

・社会通念審査の内実(2)-判断過程審査との結合;近時の最高裁は、古典的実体審査とは異なるアプロウチとして、判断過程における他事考慮・考慮不尽・評価過誤の有無を判断し、その「判断過程の不合理さ=社会観念上著しく妥当性を欠く」と導く手法を好む。代表例として、最二判平成8・3・8民集50巻3号469頁[神戸高専剣道実技事件]最三平成18・2・7民集60巻2号401頁[呉市立中学校施設使用不許可事件]前掲最一判平成18・11・2[小田急訴訟]。なお、芝池読本59は「判断過程の誤りは広い意味の手続の違法に分類できる」と述べる。□中原133-6

・専門技術的な要件裁量-諮問機関の判断過程の審査;最一判平成4・10・29民集46巻7号1174頁[伊方原発訴訟]では、「原子炉による災害の防止上支障がないもの」という要件該当性につき内閣総理大臣の要件裁量が肯定された(もっとも「裁量」とのタームは用いられていない)。その上で、おなじみの「事実誤認審査or社会通念審査」とは言わず、要件裁量への司法審査は、現在の科学技術水準に照らして、[1]諮問機関が用いた具体的審査基準に不合理な点があるか、[2]諮問機関による調査審議や判断過程に看過しがたい過誤欠落があるか、との観点から行うとした。なお、この争点につき、行政庁側が「事実上の主張立証責任」を負う。□橋本87-8、阿部227

○手続的違法

・当該処分が行政手続法(または個別法)や各行政手続条例の規制を受ける場合、明文にしたがった手続を踏んでいなければ手続的違法となる。

・行政手続法制定前において、最高裁は、理由提示に関する手続的違法は独立した取消事由となるとみる一方(最三判昭和47・12・5民集26巻10号1795頁)、それ以外の「法の趣旨に違背する重大」ではない手続的違法については行政処分の中身に影響する限りで取消事由とする(最一判昭和50・5・29民集29巻5号662頁[群馬中央バス事件])。□橋本69-70

 

[国賠違法]

○判例=職務行為基準説

・従前の最高裁は、検察官による公訴提起の違法性が争われた事案(最二判昭和53・10・20民集32巻7号1367頁)、国会議員の立法不作為の違法性が争われた事案(最一判昭和60・11・21民集39巻7号1512頁)において、職務行為基準説を採用してきた。□北村451

・そして最高裁は、更正処分という典型的な行政処分事案において「行為不法説-職務行為基準説-違法相対説」を採用し(最一判平成5・3・11民集47巻4号2863頁[奈良民商事件])、これ以降、行政活動一般において(ほぼ)職務行為基準説を採っている。この職務行為基準説によれば、[1]国賠違法の判断と過失の判断はほぼ一体化される、[2]「取消違法だが国賠違法が認められない事例」が肯定される。□北村451

・もっとも、最三判平成3・7・9民集45巻6号1049頁[監獄法施行規則違法事件(仮)]最一平成16・1・15民集58巻1号226頁[外国人健康保険証事件(仮)]では、「当該行政処分は違法だが公務員(行政庁)の過失がない」とのロジックを採った例もある。この例を取り上げて判例の不徹底を非難する論者もあるが、「これらの判例がいずれも国家賠償法上の違法性の有無について何ら言及していないことに注意すべきである」として、判例の統一的説明を試みる論者もいる。□喜多村636-5

○違法一元説による判例批判

・これに対し、多数の学説は判例を批判し、シンプルに「国賠違法=取消違法」とする違法一元説(公権力発動要件欠如説)を採る。□北村451

 

芝池義一『行政救済法講義〔第2版補訂増補版〕』[2004]

阿部泰隆『行政法解釈学2』[2009]

喜多村勝徳「行政処分取消訴訟における違法性と国家賠償請求訴訟における違法性との異同」藤山雅行・村田斉志編『新・裁判実務大系 行政訴訟〔改訂版〕』[2012] ※文中の「結果違法説」のタームの使い方はミスリーディングだと思う。

塩野宏『行政法2〔第5版補訂版〕』[2013]

芝池義一『行政法読本〔第4版〕』[2016]

橋本博之『現代行政法』[2017]

☆北村和生「所得税更正処分と国家賠償責任(判批)」宇賀克也ほか編『行政判例百選2〔第7版〕』[2017] ※もっとも簡明。

中原茂樹『基本行政法〔第3版〕』[2018]
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