行政法規の文末と行政庁の権能

2018-04-09 23:33:34 | 基本権

[することができる;効果裁量]

国家公務員法
(懲戒の場合)
第82条(第1項) 職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。※以下略

・「●●をすることができる」との文言は、法主体に法律上の能力や権利があることを示す。□吉田用語50、外山183

・「できる規定」の主体となる行政庁は、(1)当該処分をするか否か、(2)当該処分をするとして法文が列挙するどの措置を選択するか、につき裁量権が与えられている、と解される。□高木83

・国家公務員法に基づく懲戒処分の例では、任命権者(国家公務員法84条1項)が選択した処分結果につき広汎な効果裁量を認めたものとして、最三判昭和52・12・20民集31巻7号1101頁〔神戸税関事件〕が有名である。もっとも、この先例を形式的には踏襲しつつも、司法審査の密度を高めて結論的には任命権者の選択(ここでは減給処分)を違法とした近時の例として、最一判平成24・1・16集民239号253頁〔教職員国旗国歌訴訟〕がある。□橋本78-80

・伝統的通説では、「できる規定」によって規制権限を与えられた行政庁は、権限の不発動(不作為)につき完全な効果裁量が認められる。その実質的根拠は、二面関係において規制権限の不発動は市民の自由を制約しないのだから何ら問題がない、との発想に求められた。ところが、三面関係を念頭におけば、行政庁が規制権限を発動させないことで不利益を被る利害関係人の存在は無視できない。最二判平成16・10・15民集58巻7号1802頁〔関西水俣病訴訟〕は、「国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国家賠償法1条1項の適用上違法となる」との一般論(いわゆる裁量権消極的濫用論)を提示した上、当該事案における通産大臣と熊本県知事の権限不行使が国賠違法であると結論した。□櫻井橋本395-8、橋本80,248

 

[しなければならない≒するものとする;作為義務]

行政機関の保有する情報の公開に関する法律
(行政文書の開示義務)
第5条 行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。※以下略
(開示請求をしようとする者に対する情報の提供等)
第22条(第1項) 行政機関の長は、開示請求をしようとする者が容易かつ的確に開示請求をすることができるよう、公文書等の管理に関する法律第7条第2項に規定するもののほか、当該行政機関が保有する行政文書の特定に資する情報の提供その他開示請求をしようとする者の利便を考慮した適切な措置を講ずるものとする

・「●●しなければならない」との文言は、文字どおり、法主体が作為義務を負うことを示す。□吉田用語46

・同様に作為義務を示す文言として「●●するものとする」という表現もある。外山は「「するものとする」と「しなければならない」の間に差異はない」とするが、吉田はニュアンスの違いを指摘する。□吉田用語46、外山180

 

櫻井敬子・橋本博之『行政法〔第4版〕』[2013]

吉田利宏『新法令用語の常識』[2014] 

高木光『行政法』[2015]

外山秀行『法令実務基礎講座』[2016]

橋本博之『現代行政法』[2017]

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