フジ興産事件最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決が,使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種類及び事由を定めておくことを要し,就業規則が法的規範としての性質を有するものとして拘束力を生ずるためには,その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するとしていることからすれば,就業規則に懲戒解雇事由を定め,就業規則を周知(従業員が就業規則の存在や内容を知ろうと思えばいつでも知ることができるようにしておくこと。)させておかなければ,労働者が重大な企業秩序違反行為を行った場合であっても,通常は懲戒解雇 することはできないと考えられます。
もっとも,フジ興産事件最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決は,労働組合との労働協約に懲戒の種類及び事由が定められていて当該労働者に労働協約の効力が及んでいる場合や,個別労働契約において懲戒の種類及び事由が定められているような場合であっても懲戒解雇することができないとまでは言っておらず,これらの場合に懲戒解雇することができないと考えるべき理由もありませんので,私見ではこれらの場合にも懲戒解雇することができるものと考えています。
私見によっても,就業規則に懲戒の種類及び事由が定められて周知されておらず,労働組合との労働協約に懲戒の種類及び事由が定められていて当該労働者に労働協約の効力が及んでいる場合でもなく,個別労働契約において懲戒の種類及び事由が定められてもいない場合には,労働者が重大な企業秩序違反行為を行った場合であっても懲戒解雇することはできず,懲戒解雇 や退職勧奨 等で対処することになります。労働契約上の根拠規定がなくても民法627条により行うことができる普通解雇とは大きく異なる点です。