Q14 試用期間中の本採用拒否(解雇)なのに,解雇は無効だと主張して,職場復帰を求めてくる。
(1) 試用期間及び本採用拒否の法的性格
使用者と試用期間中の社員との間では,既に留保解約権の付いた労働契約が成立していると考えられる事案がほとんどです。
労働契約の成立を前提とした場合,本採用拒否の法的性格は,留保された解約権の行使であり,解雇の一種ということになるため,解雇権濫用法理(労契法16条)が適用され,解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合でなければ,本採用拒否(解雇)することはできません。
まずは,採用の場面とは異なり,自由に本採用拒否(解雇)できるわけではないこと,本採用拒否(解雇)が認められるためには具体的根拠を証拠により立証する必要があることを理解する必要があります。
(2) 緩やかな基準で本採用拒否(解雇)が認められるのは,どのような場合か?
試用期間中の解雇は緩やかに認められるというイメージがありますが,それは,「当初知ることができず,また知ることが期待できないような事実」に基づく本採用拒否について言えることであって,採用当初から知り得た事実を理由とした場合は,緩やかな基準で解雇することはできません。
例えば,本採用拒否(解雇)したところ,「本採用拒否の理由となるような事情がない。」といった趣旨の指摘がなされたことに対し,「本採用拒否の理由となるような事情がないようなことを言っているが,そんなことはない。採用面接の時から,あいつがダメなやつだということは分かっていた。」というような反論では,本採用拒否(解雇)を緩やかな基準で判断してもらうことはできないことになります。
(3) 試用期間満了前に本採用拒否(解雇)することはできるか?
試用期間満了前であっても,社員として不適格であることが判明し,解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合であれば,本採用拒否(解雇)することができます。
試用期間中に社員として不適格と判断された社員が,試用期間満了時までに社員としての適格性を有するようになることは稀ですから,使用者としては早々に見切りをつけたいところかもしれません。
しかし,その後の努力次第では試用期間満了時までに社員としての適格性を有するようになることもなくはありませんので,本採用拒否(解雇)することを正当化するだけの客観的に合理的な理由がある場合であっても,本採用拒否(解雇)を試用期間満了前に行うことが社会通念上相当として是認されるかどうかについてもよく検討する必要があります。
また,試用期間中の社員の中には,少なくとも試用期間中は雇用を継続してもらえると期待している者もおり,試用期間満了前の本採用拒否(解雇)には紛争を誘発しやすいという問題もあります。
したがって,基本的には,試用期間満了前の本採用拒否(解雇)が認められそうな事案であったとしても,よほどひどい事案でない限り,退職(解雇)日は試用期間最終日とすることをお勧めします。
(4) 試用期間と解雇予告制度(労基法20条)の適用(労基法21条)
解雇の予告(労基法20条)が不要なのは,就労開始から14日目までであり,14日を超えて就労した場合は,試用期間中であっても,解雇予告の手続が必要となります(労基法21条但書)。
就労開始から14日目までなら自由に解雇できると思い込んでいる方もたまにいますが,完全な誤解であり,むしろ,勤務開始間もない時期の本採用拒否(解雇)は客観的に合理的な理由があるのか疑わしい事案も多いですし,社会通念上相当ではないものとして無効とされる可能性も高いと考えられます。
(5) 試用期間の残存期間が30日を切ってから本採用拒否(解雇)する場合の注意点
試用期間の残存期間が30日を切ってから試用期間満了日の本採用拒否(解雇)を通知する場合は,所定の解雇予告手当を支払う等する必要があります。
試用期間満了ぎりぎりで本採用拒否(解雇)し,解雇予告手当も支払わないでいると,解雇の効力が生じるのはその30日後になってしまうため,試用期間中満了日の解雇(本採用拒否)ではなく,試用期間経過後の通常の解雇と評価されるリスクが生じることになります。
試用期間を大雑把に考え,試用期間満了後の日を解雇日としている事例が散見されますので,十分に注意して下さい。
(6) 主張立証上の注意点
訴訟で本採用拒否(解雇)の効力を争われた場合には,本採用拒否に客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されるといえるだけの事実を説明することができるか,当該事実を立証するために必要な証拠がそろっているかが問題となります。
抽象的に勤務態度が悪いとか,能力が低いとか言っていたところで,裁判官には伝わりません。
具体的に,何月何日にどういうことがあったのか記録に残しておく必要があります。
可能であれば,毎日,本人に反省点等を記載させて,指導担当者がコメントするような形式の記録をその都度作成しておくことが望ましいところです。
本採用拒否が予想される場合は,原則として,本人が達成すべき合理的事項を事前に書面で明示するなどして,本人に対する注意,指導,教育を十分に行い,改善の機会を与えたことを示す証拠を残すようにしておくべきでしょう。
(7) 能力不足を理由とした本採用拒否(解雇)はなかなか認められない
能力不足を理由とした本採用拒否(解雇)が認められるかどうかは,当該労働契約で予定されている能力を有しているかどうかに判断されます。
長期雇用を予定した新卒社員や第二新卒については,入社後の教育により能力を向上させていくことが予定されているのですから,試用期間中であっても,よほどひどい場合でない限り,能力不足を理由とした本採用拒否(解雇)はできません。
地位を特定されたり,一定の能力を有することを前提として高額の賃金で採用された場合は,労働契約で予定されている比較的高い水準の能力がないことが判明すれば本採用拒否(解雇)することができますが,そうでない場合は,中途採用者であっても,能力不足を理由とした本採用拒否(解雇)は必ずしも容易ではありません。
(8) 話し合いの重要性
本採用拒否に十分な理由がある場合であっても,まずは話合いが先です。
よく話し合った上で,自主退職を促すべきでしょう。
紛争になった場合の当事者双方の負担を考えれば,裁判に勝てばいいというものではありません。
(9) 慎重かつ丁寧な採用活動の重要性
採用活動は,試用期間における本採用拒否(解雇)は必ずしも容易ではないことを念頭に置いて行うべきでしょう。
安易な採用をしてはいけません。
「取りあえず採用してみて,ダメだったら辞めてもらう。」という発想の会社は,トラブルが多く,社員の定着率が低い傾向にあります。
弁護士 藤田 進太郎
(1) 試用期間及び本採用拒否の法的性格
使用者と試用期間中の社員との間では,既に留保解約権の付いた労働契約が成立していると考えられる事案がほとんどです。
労働契約の成立を前提とした場合,本採用拒否の法的性格は,留保された解約権の行使であり,解雇の一種ということになるため,解雇権濫用法理(労契法16条)が適用され,解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合でなければ,本採用拒否(解雇)することはできません。
まずは,採用の場面とは異なり,自由に本採用拒否(解雇)できるわけではないこと,本採用拒否(解雇)が認められるためには具体的根拠を証拠により立証する必要があることを理解する必要があります。
(2) 緩やかな基準で本採用拒否(解雇)が認められるのは,どのような場合か?
試用期間中の解雇は緩やかに認められるというイメージがありますが,それは,「当初知ることができず,また知ることが期待できないような事実」に基づく本採用拒否について言えることであって,採用当初から知り得た事実を理由とした場合は,緩やかな基準で解雇することはできません。
例えば,本採用拒否(解雇)したところ,「本採用拒否の理由となるような事情がない。」といった趣旨の指摘がなされたことに対し,「本採用拒否の理由となるような事情がないようなことを言っているが,そんなことはない。採用面接の時から,あいつがダメなやつだということは分かっていた。」というような反論では,本採用拒否(解雇)を緩やかな基準で判断してもらうことはできないことになります。
(3) 試用期間満了前に本採用拒否(解雇)することはできるか?
試用期間満了前であっても,社員として不適格であることが判明し,解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合であれば,本採用拒否(解雇)することができます。
試用期間中に社員として不適格と判断された社員が,試用期間満了時までに社員としての適格性を有するようになることは稀ですから,使用者としては早々に見切りをつけたいところかもしれません。
しかし,その後の努力次第では試用期間満了時までに社員としての適格性を有するようになることもなくはありませんので,本採用拒否(解雇)することを正当化するだけの客観的に合理的な理由がある場合であっても,本採用拒否(解雇)を試用期間満了前に行うことが社会通念上相当として是認されるかどうかについてもよく検討する必要があります。
また,試用期間中の社員の中には,少なくとも試用期間中は雇用を継続してもらえると期待している者もおり,試用期間満了前の本採用拒否(解雇)には紛争を誘発しやすいという問題もあります。
したがって,基本的には,試用期間満了前の本採用拒否(解雇)が認められそうな事案であったとしても,よほどひどい事案でない限り,退職(解雇)日は試用期間最終日とすることをお勧めします。
(4) 試用期間と解雇予告制度(労基法20条)の適用(労基法21条)
解雇の予告(労基法20条)が不要なのは,就労開始から14日目までであり,14日を超えて就労した場合は,試用期間中であっても,解雇予告の手続が必要となります(労基法21条但書)。
就労開始から14日目までなら自由に解雇できると思い込んでいる方もたまにいますが,完全な誤解であり,むしろ,勤務開始間もない時期の本採用拒否(解雇)は客観的に合理的な理由があるのか疑わしい事案も多いですし,社会通念上相当ではないものとして無効とされる可能性も高いと考えられます。
(5) 試用期間の残存期間が30日を切ってから本採用拒否(解雇)する場合の注意点
試用期間の残存期間が30日を切ってから試用期間満了日の本採用拒否(解雇)を通知する場合は,所定の解雇予告手当を支払う等する必要があります。
試用期間満了ぎりぎりで本採用拒否(解雇)し,解雇予告手当も支払わないでいると,解雇の効力が生じるのはその30日後になってしまうため,試用期間中満了日の解雇(本採用拒否)ではなく,試用期間経過後の通常の解雇と評価されるリスクが生じることになります。
試用期間を大雑把に考え,試用期間満了後の日を解雇日としている事例が散見されますので,十分に注意して下さい。
(6) 主張立証上の注意点
訴訟で本採用拒否(解雇)の効力を争われた場合には,本採用拒否に客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されるといえるだけの事実を説明することができるか,当該事実を立証するために必要な証拠がそろっているかが問題となります。
抽象的に勤務態度が悪いとか,能力が低いとか言っていたところで,裁判官には伝わりません。
具体的に,何月何日にどういうことがあったのか記録に残しておく必要があります。
可能であれば,毎日,本人に反省点等を記載させて,指導担当者がコメントするような形式の記録をその都度作成しておくことが望ましいところです。
本採用拒否が予想される場合は,原則として,本人が達成すべき合理的事項を事前に書面で明示するなどして,本人に対する注意,指導,教育を十分に行い,改善の機会を与えたことを示す証拠を残すようにしておくべきでしょう。
(7) 能力不足を理由とした本採用拒否(解雇)はなかなか認められない
能力不足を理由とした本採用拒否(解雇)が認められるかどうかは,当該労働契約で予定されている能力を有しているかどうかに判断されます。
長期雇用を予定した新卒社員や第二新卒については,入社後の教育により能力を向上させていくことが予定されているのですから,試用期間中であっても,よほどひどい場合でない限り,能力不足を理由とした本採用拒否(解雇)はできません。
地位を特定されたり,一定の能力を有することを前提として高額の賃金で採用された場合は,労働契約で予定されている比較的高い水準の能力がないことが判明すれば本採用拒否(解雇)することができますが,そうでない場合は,中途採用者であっても,能力不足を理由とした本採用拒否(解雇)は必ずしも容易ではありません。
(8) 話し合いの重要性
本採用拒否に十分な理由がある場合であっても,まずは話合いが先です。
よく話し合った上で,自主退職を促すべきでしょう。
紛争になった場合の当事者双方の負担を考えれば,裁判に勝てばいいというものではありません。
(9) 慎重かつ丁寧な採用活動の重要性
採用活動は,試用期間における本採用拒否(解雇)は必ずしも容易ではないことを念頭に置いて行うべきでしょう。
安易な採用をしてはいけません。
「取りあえず採用してみて,ダメだったら辞めてもらう。」という発想の会社は,トラブルが多く,社員の定着率が低い傾向にあります。
弁護士 藤田 進太郎