パンダとそらまめ

ヴァイオリン弾きのパンダと環境系法律屋さんのそらまめによる不思議なコラボブログです。
(「初めに」をご一読ください)

The Return of Japan

2007-03-02 22:26:24 | Weblog
 先週届いたForeign Affairsの表紙に"The Return of Japan”という、まるで"Return of the Jedi"みたいなタイトルが踊っていたので、フォースにバランスが戻る様が描かれているのか日本の何が復活していると思われているのか興味をひかれて読んじゃいました(長文注意。しかし単純な読者ですね、私)。

How Able Is Abe? by Richard Katz and Peter Ennis
 タイトルは駄洒落なんだろうと思っていましたが、そうでもなくて、安倍総理の方向性や実行力を外交、内政ともに冷静に分析しています。冒頭いきなり小泉総理と比べられているのは可哀想という気もしますが、類似・相違を比較しています。類似点として、
 ・両者とも、日本の変化を体現し(reflects)、支持する
 ・増加する教育された都市住民が経済改革を必要とし期待していると理解している
相違点として、
 パーソナリティ、政策優先順位
を挙げて、小泉前総理の作戦(抵抗勢力との戦い)と全く違うpragmaticなスタイルを安倍総理が取っていて、中韓との外交政策ではうまくいったが、国内政策ではそうではない、として、復党や道路特定財源での妥協に触れたあとこう書いています。
 The compromise was not unlike some of those made by Koizumi. But because Koizumi worked hard to fashion a public image as a reformer, the public forgave him for his occasional backsliding. By contrast, first impressions of Abe are that he has betrayed the 2005 election results for the sake of political expediency. Hence, what the public would forgive in Koizumi it will not in Abe.
(これらの妥協は小泉前総理が行った妥協とさして変わるものではない。しかし、小泉前総理の熱心な働きは改革者としてのイメージを創り出したので、彼は時折の後退も許されていた。他方で、安倍総理の第一印象は政治のご都合主義による05年の選挙の裏切りだった。だから、小泉前総理で許されたことも安倍総理ではそうならないだろう)
どっかで聞いたことあるような論調ですが、まー見事に痛いとこ突いてますねぇ~。経済改革を後退させはしないだろうが熱心ではない(少なくとも参院選前までは)というのも優先順位の違いと。

 外交政策について、中韓歴訪や岸元総理の孫であることとNationalistイメージに触れた後、お祖父さんだけでなく、戦後の若い世代に思想根拠を持っているとしてこう書いています。
 It is as a member of this younger generation that Abe has set out to eliminate the taboos that he believes undermine Japan's independence. He is by no means anti-American; indeed, Abe supports Japan's security relationship with the United States. But he is also proudly pro-Japan.
(安倍総理が、日本の独立を弱めていると信じるタブーを取り除こうとしているのは、この若い世代の一員としてである。彼は決して反米ではない、実際、彼は日米安保同盟を支持している。しかし同時に、彼は誇り高い日本支持者なのだ。)
反米的というと語弊がありますが、?な発言を繰り返す防衛大臣のおかげで安倍総理までそうなのかと誤解されかねないところだったので、影響力あるForeign Affairsでこうハッキリ書かれるのはいいタイミングですねー。アジアのほとんどは、日米同盟が維持される限り日本が脅威になることはないだろうと考えている、ワシントンはmore self-confident Japanに合わせられるべき、日本により大きな役割を認めることが必要かもしれない・・・と外務省が泣いて喜びそうな主張が続きます。

 内政面でも、まぁ別に目新しくはないけどキチンと痛いところをシンプルにサクサクと突いています。 ※長くなってきたので訳だけ
 安倍総理は成長の必要性をよく説くが、達成するための包括的な道筋を全く欠いている。過去数年に実施されたポジティブな変化を無しにしたりはしないだろう。*略* にも関わらず、小泉前総理が創った改革の機運が遅れる、いや立ち往生の恐れさえ現実的である。安倍総理が情熱的なのは外交・社会政策で、経済政策ではない。加えて、彼の経済チームは弱い。
とされて、塩崎官房長官が影響力(clout)がないとかやら太田経済財政担当大臣が軽量級(lightweight)やらのダメだしが続きますorz。いやー、バレバレですねこう思われてるんですねぇ。
 これらの傾向を跳ね返すのは安倍総理にとって容易ではない。彼の5年予算は2011年までGDPの年2%成長を前提としている。しかし、生産年齢人口は2010年まで年0.6%、2011-2015年で年1.3%下落すると予想されており、生産性向上により成長がもたらされる必要がある。が、日本の生産性は過去15年で平均年1.5%しか上昇していない。老齢又は女性が相当たくさん労働参加しないと、生産性向上は2011年まで年2.6%、その後年3.3%に達する必要がある。さらなる改革がない限り、これはありそうもない。
 その後もDual Economy(効率の良い輸出事業者と正反対の国内企業)に触れて独禁法が弱過ぎ、さらに悪いことに経産省がもっと弱めようとしているとか(シェア50%の話)、経済回復がアンバランス(企業収益に偏っている)で、非正規雇用者(irregular workers)が労働力の1/3を占め、定率減税廃止や年金・医療負担増の上に、尾身財務大臣が企業減税を提案しただの経団連が賃金上昇を拒んでるだのまぁ日本で議論になってることを短い中に遍くまとめています。外国直接投資増加に経団連が抵抗しているとかも。いわゆる格差(income inequality and poverty)に触れてpoverty rateが先進国内で米国に次いで2位だけど、小泉前総理就任の20年前からinequalityは拡大してるとか。。。

 一つどうかなぁと思うのは靖国問題にコラムを立てて触れていることで、「昭和天皇がA級戦犯合祀に非常にいかったので、断固参拝を取りやめた(Emperor Hirohito was so angry about the move that he steadfastly refused to visit Yasukuni)」とか、Solutionとして新国立追悼施設は分祀よりも見込みがある(promising)だろうとか触れています。なーんか、仮にこの話が再燃して、さらに仮に09年以降の米政権がノーテンキに口を挟みだすと厄介そう。。。

Japan is Back:Why Tokyo's New Assertiveness Is Good for Washington by Michael Green
 NSCのアジアヘッドだったマイケル・グリーン氏によるJapan Rising: The Resurgence of Japanese Power And Purpose(著:Kenneth B. Pyle)のブック・レビュー。といっても私そのJapan Risingを読んでないので、イマイチピンと来ないのですが、Pyle氏の本が日本の最近の動きはナショナリズムでも再軍事化でもないことを歴史的経緯をまじえて(明治以降一貫して自国の国際的名誉のために行動してきた)説明していると紹介しています。グリーン氏も日本は自国の利益に敏感なだけ(最近の変化は国際社会が変わったため)と考えているようで、Pyle氏の本はリアル・パワー重視で米中協力によりアジアの安全保障を確保しようという考えが理に適っていないことを示す、なぜなら日本は独立変数で、米中の過度な接近はアジアを不安定化させるだろう、対中関係は日本との緊密な同盟の上で行うべき、とまたも外務省が泣いて喜びそうな主張をしてます。もっともグリーン氏は最近の日本外交が中国の影響力をバランスさせるためという点をPyle氏が見逃していると批判しています。あと2000年の共和・民主両党共同アーミテージ・ナイ・レポートの要点は"Era of Gaiatsu on Japan is over"だった、Pyle氏は同レポートに批判的だが主張は変わらないハズと。
 気になるのはこういうことを書くグリーン氏が既に政権を去っていることなのですが、もしかしたら日本はtaken for grantedだと思ってる人が増えているんでしょうか(・ ・?) だからといって言われた通りにしてるとやっぱりtaken for grantedじゃんとますます思われる(外圧時代に逆戻り)から逆効果なのですが、ちょっと気になるところで。