山川草一郎ブログ

保守系無党派・山川草一郎の時事評論です。主に日本外交論、二大政党制論、メディア論などを扱ってます。

「堀江メール」疑惑の危うさ

2006年02月18日 | 政局ウォッチ
堀江貴文ライブドア前社長が自民党幹事長の二男に「選挙コンサルタント」名目で3000万円の送金を指示していたという「堀江メール」疑惑。この問題を国会で追及した民主党の永田寿康衆院議員に逆風が吹いている。民主党寄りで、アンチ自民の朝日新聞でさえ、「メール疑惑 民主党の信用が問われる」と題した社説で、次のように指摘する。

これだけの重大疑惑を公の場で指摘したのだから、民主党もこうした自民党側の対応は覚悟しているのが当然だろう。永田氏が再び質問に立ったきのうの衆院予算委で、どんな「二の矢」が出るのか。多くの人が注目した。

だが、まったくの期待はずれに終わった。「情報提供者を守るため」とメールそのものを示さないことは私たちも理解できる。夜になってコピーを公表したが、このメールが本物である証拠は示せなかった。

政府・与党に疑惑があればただし、責任を追及するのは野党の大切な役割だ。自由な言論を保障するためにこそ、憲法は議員が国会で行った発言について国会外で責任を問われないと定めている。

だが仮に、永田氏の指摘が小泉首相が繰り返し揶揄(やゆ)するように「ガセネタ」であったとすれば、武部氏の名誉を不確かな根拠で傷つけたことになる。

もしそうなら、永田氏の信用が失墜するだけでは済まない。「なかなか確度の高い情報だ」と追及を後押しした前原代表はじめ民主党そのものが国民の信用を失い、その能力が厳しく問われる。

個人的には、野党が権力側の不正疑惑を追及する際は、必ずしも確実な裏付けが必要だとは思わない。疑惑があるなら、きちんと公の場で晴らしてもらった方がいい。とはいえ、今回は少しやりすぎだと思う。

何より、幹事長の二男の氏名を挙げて追及するには、中身がなさすぎた。メールの中身も、堀江氏以外の人間が書こうと思えば書ける内容にとどまっている。これでは、国権の最高機関から名指しされた二男が可愛そうだ。

民主党は耐震偽装事件で、馬淵澄夫衆院議員が独自入手した資料をもとに疑惑追及し、世論の強い支持を受けたばかりだった。永田議員の行動は、功を焦った結果のようにも見える。

ブラック系の情報は慎重に取り扱うのが常識だ。その点、最近の民主党は、小泉首相のレイプ疑惑を国会に持ち出したり、鳩山幹事長がライブドア事件に絡んで「投資事業組合に自民議員が関与していた疑いが濃厚になってきた」と発言したりと、「とにかく政権のイメージを悪化させればよい」という姿勢が目につく。

無論、政党と政党が政権をかけて切磋琢磨するのは、チェック・アンド・バランスの観点からいっても望ましいことである。野党の政府批判は、民主主義の不可欠な一部とさえ思う。

だから私は「小泉政権の揚げ足取りばかりしている」と民主党を非難する一部世論には与しない。建設的な政策論も大事だが、「現政権を一刻も早く倒して自分たちの政策を実行すべきだ」と思うのなら、揚げ足取りだって立派な野党の任務だ。

それでもなお、「相手が権力なら何を言ってもいい」「ウソだと言うなら立証してみなさい」という態度は、絶対に支持できない。民主党の野田佳彦国対委員長は「白黒はっきりさせるには国政調査権を発動すればいい。与党にやましい点がないなら発動に同意したらいいではないか」と語った。

「国政調査」とは何を指すのだろうか。関係者の証人喚問や参考人質疑なら分かるが、銀行口座の調査のことなら乱暴な議論だ。国会議員が民間人の疑惑を指摘し、疑惑があるからと強制的に銀行口座を調べる。そんな要求に与党は簡単に応じるべきでない。

政党間の政争は度を越せば、議会制民主主義への信用を損なうことになる。民主党は、政友会、民政党による昭和初期の2大政党制が如何にして終焉を迎えたか、よく思い返してみるべきだ。

メディアも例外ではない。特に朝日新聞は「NHKが政治家の圧力で番組を改変した」とする報道を、いまだに訂正していない。「目的が権力批判ならば多少の事実誤認は許される」という甘えがあったのではないか。この問題で朝日の姿勢を批判した読売新聞の社説は、次のように書いている。

朝日新聞は、読者に真実を伝える責務から逃避しようというのだろうか。「これで決着」と言うのであれば、報道機関として無責任な対応ではないか。

NHKの番組が政治家の「圧力」で改変された、と朝日新聞が報じた問題で、同紙の外部有識者委員会は「取材が十分だったとは言えない」などとする「見解」をまとめた。

委員からは、記者がNHKの内部告発に基づき取材を始めたため、「思い込み」が生じ、事実確認の「詰め」が甘くなった、という意見も出た。報道機関として深刻に受け止めるべき指摘である。

秋山耿太郎社長も、「記事には不確実な情報が含まれていた」と、会見で反省を口にした。それなのに「訂正する必要はない」と強弁するのは“開き直り”としか受け取れない。

とにかく、朝日新聞としての最終結論にしたいようだ。後は「NHKの反応を見守る」と言う。秋山社長は「NHKが納得できないなら法的に対応してもらってかまわない」と言い切った。(略)

争点は、政治家がNHK幹部を「呼び出し」たのかどうか、面会は放送前日だったのか、の2点だった。秋山社長は「これらを裏付ける事実は確認できなかった」と認めた。ならば、謝罪し訂正するのが筋だろう。

その一方で、有識者委員会は「記者が真実と信じる相当の理由があった」との見解を示している。これを受けて朝日新聞は「相応の根拠があったと認められた」とした。だから謝罪も訂正もしない、ということになるのだろうか。

秋山社長は、今後は「政治とメディアの関係」の調査報道に力を入れていく、と力説した。だが、その前に、責任あるメディアとしての「けじめ」が必要なのではないか。

文中の「朝日新聞」が「民主党」に置き換えられるような結末だけは、見たくないものだが…。冒頭で紹介した朝日の社説は、こう結んでいる。

政権奪取を目指して政府・与党を追及するのはいい。だが、有権者が眉につばをつけて見ざるを得ないようなあやふやな議論では元も子もない。民主党は脇を締めて、出直す必要がある。

〔了〕



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6 コメント

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朝日社説 (山川草一郎)
2006-02-23 14:26:26
23日付「民主党 うやむやは許されない」より抜粋

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 民主党にまたもはぐらかされた。きのうの党首討論を聞いての、率直な感想である。



 民主党によると、今回の質問を事前に知らされていたのは野田佳彦国対委員長と前原氏らごく少数だったという。根拠の乏しさをチェックできなかった野田氏や前原氏の責任は重い。



 前原氏は昨年12月、米国で「中国脅威論」を唱え、党内で異論が噴出した。結局、「脅威とは認識しない」との党見解をまとめる方向で修正を検討している。



 重要な発信をする際に独断で突っ走り、あとでつじつま合わせに追われるようでは、政党としてあまりに未熟と言わなければならない。



 メールが本物であるという説得力のある証拠を示せないなら、ここは素直にそのことを認めて出直すべきではないか。衆院で懲罰動議を出されている永田氏だけでなく、前原氏ら党執行部の責任問題も避けて通れまい。

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朝日新聞から「誤報と認めてケジメをつけろ」といわれてしまう民主党も気の毒だが、これを機に「前原降ろし」を煽る意図が透けて見えて、素直に同意できない社説ではある。

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Unknown (第三者さん)
2006-02-20 23:55:41
たとえばですけど、耐震強度偽造事件から目をそらすために自民党と東京地検がライブドアをやった、という話がありましたよね。小泉と武部と竹中が失脚してもなんにも困らない「自民党員」はたくさんいますから。



それと道新の人事を事前にさらしてしまうようば有名ブロガーはもう…
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というと、 (山川草一郎)
2006-02-20 11:21:14
どういう可能性がありますか
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Unknown (妙訝)
2006-02-20 05:29:02
>最初からグルなら堀江氏逮捕なんかあり得ないわけで、

絶対にあり得ない…こともないように思うのですが…。
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うぅむ (山川草一郎)
2006-02-20 00:17:24
まあ、情報提供者がライブドア社員とか何らかの関係者なら、タレコミがバレると立場が悪くなることは考えられることではありますね。



民主党の主張どおりなら、捜査当局は自民党とグルなので、情報提供者の生命が危険にさらされたり、権力による証拠隠滅が懸念されるという事情もあるのでしょう。



最初からグルなら堀江氏逮捕なんかあり得ないわけで、なんかもう、民主党の主張は限りなくトンデモ級に入りつつある印象です。



有名ブロガーの中には、朝日新聞のようにこんなことを言い出す人も。



>この問題は本来、堀江前社長からの3000万円が武部

>幹事長の次男に振り込まれたのか(振り込んでとい

>う指令をして、その後振り込まれなかったというこ

>ともあるだろう)ということなのですが、メールの

>真偽に争点がすりかえられています。



http://d.hatena.ne.jp/gatonews/20060217/1140173164



「すりかえ」って…。守る側も守る側で、ついには中国工作員によるメール捏造説まで飛び出してます。



http://www.wafu.ne.jp/~gori/diary3/200602190025.html

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朝日の社説 (某S)
2006-02-19 10:12:50
実際問題、リークした人間が解ると本当に命が狙われるのでしょうかと思うのですが。警察って、そんなに命狙われる人に冷たいんですかね(^^;
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