山川草一郎ブログ

保守系無党派・山川草一郎の時事評論です。主に日本外交論、二大政党制論、メディア論などを扱ってます。

過去への投票、未来への投票

2004年07月08日 | 政局ウォッチ
七夕から一夜明けた今日、拉致被害者の曽我ひとみさんが家族との再会のため、ジャカルタへ発った。支持率急落の小泉政権が、参院選での劣勢挽回の願いを託した長い旅だ。

投票日まであと3日。予断は禁物だが、各種報道のように「民主躍進、自民は現有議席割れ」の可能性は極めて高いだろう。比例で民主が第1党になることも、ほぼ間違いない。

自民党は今回の選挙で、基本的なPR方法を間違えたのではないかと思う。直立不動の小泉首相の映像にX-JAPANの「フォーエバーラブ」。3年前とほとんど変わらないテレビCMが、首相の頑固さを象徴している。

しかし、3年前にはウケた政権イメージが、今回は有権者から冷ややかな視線を浴びている。「この国を想い、この国を創る。テーマは日本。自民党」。いつもの調子の首相のナレーションがシラケを誘うのは、何故だろう?

おそらく、それは、郵政民営化と日朝国交正常化という「後期小泉政権」の目標が、必ずしも党内の支持を得ていないため、政権のメッセージが極めて曖昧、抽象的にならざるを得ない結果ではないか。

そういう事情があるのなら、自民党の選挙戦略としては、やはり「過去の業績」をアピールする手法へ大胆に舵を切るべきだった。

小泉内閣の発足と国民の熱気、ハンセン病訴訟控訴断念、ブッシュ大統領との初会談、電撃的訪朝、そして拉致被害者の帰国・・・。

それらを短いカットの映像で振り返るだけでいい。最後に「改革の継続か、一からやり直しか」を訴える内容のフレーズを画面に写し出す。首相のナレーションはいらない。

結局、参院選は政権への中間評価、信任投票なのだから、そうしたイメージCMの方が、本来の趣旨を反映しているだろう。(ただし、輝かしい過去の映像を流すことで、逆に現在の小泉政権のサマ変わりが印象付けられるリスクもあるが)

一方、民主党のイメージ戦略は、ほぼ合格点と言える。暗闇の中に、光の射す岡田代表の顔。ポスターの構図は3年前の小泉自民党のものとそっくりだが、それはご愛嬌。キャッチフレーズでも、岡田氏の「真面目さ」を前面に出して、小泉首相との対照を際立てせるのに成功した。

おそらく、民主党は今回の選挙で、自民を凌ぐ大躍進を遂げるだろ。しかし、民主党はこの勝利に決して慢心を抱いてはならない。

考えてみれば、昨年の衆院選で民主党が自民に迫りながらも、あと一歩で政権を逃がしたのは、有権者の総意が「民主党の主張はもっともだが、政権を担う時期に至っていない」と判断したためだ。

政権を賭けた選挙では、舌鋒鋭い政権批判は「じゃあ、そう言う民主党が政権を取ったらどうするの?」という厳しい視線となって跳ね返ってくる。自民批判には共感するが、民主党の政策には不安が残る。そこが、衆院選での民主党の弱点だった。

その点、参院選は政権がかかっていないため、有権者は素直に政権批判に共鳴し、民主党に1票を投じるだろう。その意味では、菅氏が代表でも民主は躍進したに違いない。いやむしろ、政権批判では誰も右に出ない菅氏の方が、参院選では票を伸ばせたかも知れない。あくまで「参院選では」の話だが。

加えて、今回の選挙では、自民党内の小泉首相に対する不満が「自民苦戦」の状況を作り出している。昨年の衆院選では「小泉改革には反対だが、負けると民主党に政権を奪われてしまう。下野するよりは、小泉の方がまだまし」という心理が、自民党支持層の間で成り立った。

しかし、政権選択に直結しない参院選では、こうした「ヨリマシ心理」が働かない。いや、それどころか、自民党が負けて、その責任を取って小泉首相が退陣すれば「自民党内での政権交代」が起きる。それこそ、反小泉の自民支持層にとってベストのシナリオなのだ。

野党に政権が移らないという参院選の特性が、無党派だけでなく、自民支持層までもを、「小泉政権にお灸を据える」投票行動へと誘導している。

今回の参院選における民主党の勝利は、「参院選であるがゆえの勝利」であることを、岡田代表はじめ党首脳には自覚してもらいたい。その上で、「勝って兜の―」の習い通り、来るべき次期衆院選への戦略を練ってほしい。

参院選は「過去に対する投票」だが、衆院選は「未来に対する投票」だ。

従って、衆院選では「政権批判」だけで勝つことは出来ない。政権の非をあげつらうよりも、「民主党政権ならこうした、こうする」という明確な方針を示さなければならないのだ。

「内政で理想主義、外交で現実主義」の路線を取る民主党なら、必ず具体的な政権選択肢を提示できるはずだ。新憲法案の策定は、その具体像を示す良い契機になるだろう。

選挙後の続投が確実視されている岡田代表は、これからが本当の正念場であることを、肝に銘じて欲しい。(了)



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