アルバニトハルネ紀年図書館

アルバニトハルネ紀年図書館は、漫画を無限に所蔵できる夢の図書館です。司書のWrlzは切手収集が趣味です。

『金魚屋古書店出納帳』上下巻/芳崎せいむ

2010-06-01 | 青年漫画
 
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『金魚屋古書店』より前に描かれた上下巻。図書カードが余っていたので買ってしまいました。何か逆らえない魔力のような物があって泣きながら夢中で読んでしまった。


島村ジョーに恋に落ちた、平成育ちの江梨奈(えりな)は、自分が在(い)る時代をまちがえたと嘆いている。そんな時、初めて入った金魚屋で初対面の男子と『石森章太郎の世界』の奪い合いになり、これからが009の世界だと教えられる。その男の子の携帯の着メロが、あの時にバスの中で聞いたアニメの主題歌だと気付き、江梨奈は番号を教えてと追いかける。
「30年早く生まれたかった」というのは漫画好きなら誰でも一度は思うことだろう。自分より早く生まれた人達を羨むのではなく、今、私達が漫画を読んでいることを未来へとつなげたい。


和葉(かずは)が入退院を繰り返している叔父に買い物を頼まれる第2話。
しかし彼女が買ってきた『カッパの三平』を読んだ叔父は、ストーリーが違うと言う。金魚屋になら2番目に描かれた貸本が必ずあると地図を渡され、主人公が「死ぬ」漫画を、叔父に頼まれるとイヤとは言えない和葉は買ってくる。こんな記憶(おもいで)作られたら一生忘れられないと涙をこぼす和葉、すぐに忘れるよと笑い返す叔父。病院からの帰り道、和葉が河童だと思って川を覗き込むと、それは水中でかき消える雪のようにすぐに見えなくなった。


そろばん教室の待合室が子供達のたまり場になっている第3話。
正方形でオールカラーの左綴じのまんが雑誌をこの部屋で見たと言う相賀(そうが)さんは、「夢子ちゃん」と呼ばれて女子から避けられている。親に嘘をついて木内がたまり場に向かうと家出していた相賀さんが一人で泣いていた。そこにたまったまんがは金魚屋に引き取られていたと知り、菜月は『リリカ』が気に入った二人を「女の子だね」と言い、一晩だけ泊めてくれる。


常連客のキンコちゃんが初登場する第4話。
自分と共通言語を持っている人としか話したくないと言う彼女に惚れてしまった須藤は、斯波を追いかけて金魚屋に辿り着く。地下に降り、須藤は膨大な蔵書に圧倒される。迎えてくれた斯波はここにある全ての本ですらこの世の漫画のほんの一部で、それすらも全部読んでいないのに漫画が好きだと、真剣な眼差しで即答する。
わからないから好きなのか、好きだからわからなくなるのか、ただ確かなのは彼女との間に共通言語が一つ増えたということ。そして斯波はキンコちゃんが自分の蔵書を人に触らせるトコを初めて見る。


共にセドリをしている岡留(おかどめ)とあゆが出会う第5話。
腹立たしい相手を追いかけて探し当てて咎めてケンカになり、好きになってしまう岡留。自分達は何を残そうとしているんだろうとつぶやく岡留に、商売敵の少女は「愛かな」と答える。そしてこんなすごい品々をどうやって、いくらで手に入れたのかと感心する菜月に、二人は声を揃えて「企業秘密」とはぐらかす。


斯波が店内でよろず相談を始める第6話。
キンコちゃんの祖母の友達が「ナカムラ漫画」を手放そうとしていると聞いた斯波は、金鉱を見つけたと歓喜する。ようやく探し当てた、幻の『火星探検』の現物、絶対に手放さないと感涙にむせぶ斯波。しかし東京大空襲の時にその本に戦地にいる父親の写真を挟み、焼夷弾の降り注ぐ炎の中で平和を願っていた少年が今も生きていたと知り、斯波はその本を元の持ち主に返す。それを聞いた菜月は、電話の向こうで今夜は斯波の好物の茶わんむしにすると言う。


岡留高志(たかし)にスポットを当てた第7話。
もうすぐ退職する父が今も『別冊ビッグコミック』の『ゴルゴ13』を買っていると知った岡留は、整理整頓された父の本棚にそれが1冊だけ足りないと気付く。No.22が欠けていたと聞いたあゆは、「『ゴルゴ13』を読んだ事のない日本成人男性」の存在に驚愕する。セドリ界のゴルゴ13と呼ばれている岡留を「「たまたま今まで読まなかった」なんて言い訳この作品だけは通用しないわよ」と詰問するあゆ。生きていてくれればいいという父の一言に、どれだけの重みがあったのかようやく知った岡留は、父の完璧な蔵書の唯一の欠番を、これが自分の仕事なのだと探し当てて父に手渡す。そして大人になったら読めと言われていた『ゴルゴ13』をそろそろ読んでみるかと、新刊を手にする。
父の背中を「延々と"戦後"を背負いつづけて来た広い背中」と心の中で形容する岡留に心から共感した。上巻で一番の傑作だ。


巻末に採録された読み切り『古漫館物語』。
亡き祖父が遺した「古マンガのでかい山」を処分しようとするなつめが、酒屋の青年に商品への思いやりがない、商売をやる資格がないと罵倒される。そして本はただの「物」ではないのだと知る。



下巻。



長谷川が引っ越す隣人から人生のバイブルを譲られる第8話。
長谷川が恋をしている芦野は、長谷川もこれから初めて読む長編漫画を一日一冊ずつ貸してほしいと言う。25日間毎日、芦野さんに本を渡せると浮かれる長谷川。しかし彼が25冊目を読み終えるとその漫画は完結しておらず、スーパーマンになりたい長谷川は既に絶版になっている少年サンデーコミックス版の26巻を必死で探す。芦野さんが今日転校すると知り、長谷川は絶対にあきらめないと電車を追いかけて、達也と南の結末を知らないまま最後の巻を列車の窓越しに手渡す。


行き場所のない二人の学生が『フランス窓便り』がきっかけで知り合う第9話。
二人はフランス窓の建物を探している少年と出会い、ままごとをしながらお茶を飲みおにぎりを食べ、少年が探していたのは児童養護施設だと知る。いつかはゲームオーバーが訪れると思っていた沙子(さこ)も、行くところなんかないと冷たい瞳をしていた亜起彦(あきひこ)も、両親のいない草太(そうた)も金魚屋で、ようやく見つけたこのマンガが好きなんですねと菜月に言われ、幸せな返事をする。彼らの笑顔を見て、菜月はそうめんを食べようと斯波に声をかける。


年令・出身・経歴全て不明の斯波尚顕がテレビ番組で3度目の優勝を狙う第10話。
以前は店の常連だった河井弘(かわいひろし)はなんとしても金魚屋を打倒しなくてはならない。そのためにアンフェアな同盟を結ぶが、漫画を愛している出場者達は問題を解くのを「楽しんで」しまう。土壇場で斯波に土下座して真相を打ち明けると、キングはすぐれたコレクター客を失うのはあがなえない痛手だと逆に手助けしてくれる。私があなたのマンガを捨てさせるわけがないと微笑む妻。マンガの事が大好きだから楽しかったと新しいキングに手を振られ、斯波はもう店の宣伝はできないと菜月に謝るが、店長の孫娘は「そう言うと思った」と微笑んでくれる。


入院先から店長が脱走する最終話。
漫画なんか大嫌いだと言う千草(ちぐさ)と謙一(けんいち)の姉弟が金魚屋に預けられる。「"漫画の神様"に会いに行く」という店長が残したキーワードを手がかりに、4人は兵庫へ、鳥取へと各地を転々とし、千草はどうしても漫画を嫌いになれない自分に気付いていく。ようやく探し当てた店長が「漫画なんてたかが紙の上の事なんだよ」という言葉で千草の心を解放してくれる。その言葉の続きは斯波だけが聞く。
千草は漫画が印刷される現場を見て、本が命があるようにめぐってゆくのだと知り、それなのに人と人とをつなぎ止める事は出来ない漫画を人はどうして読むのか、自分はなぜ生まれたのか、なぜ生きているのかと思いを巡らせる。そして目の前に現れた父に、斯波が渡すように頼まれたと取り出した封筒の中には、両親が一緒に描いた4枚の原稿が入っていた。



お薦め度:★★★☆☆
やっぱり好きだ。泣けた。もう読みながらボロボロ涙をこぼした。常に手元に置いて、時々読み返したい上下巻。
ただ、描き方・手法が「ずるい」ような気もする。私達が愛さずにはいられない「まんが」をこんなふうに題材にするのは反則じゃないのか? 漫画が好きな者がこんな物を読んだら大泣きするに決まってる。
でも6月最初の記事で前向きな内容を書けて嬉しいです。そして今以上に自分の蔵書を大切にしようという気持ちになる。




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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
うれしいです (XTLITO)
2010-06-01 15:11:34
さっそく読んでくださってすごくうれしいです。
野球が大好きな人が「おお振り」を読んで感動するように、サッカー好きが「ジャイキリ」を読んで感動するように。
でも「金魚屋」に出てくる漫画をまだ読んだことがなくても、感動できるところはありますよね!

自分がオススメしただけじゃ悪いと思って、
ひろき真冬先生の画集を買いました!
すごくきれいで大感動しました!
モダンなのに、どこか「懐かしい」。でも古びていない。

高野苺さんも「バンビの手紙」(?)が大好きだったので、ここで紹介されているのを見て新しいのも読みたくなりました。

いろいろ素敵な漫画を紹介してくださってありがとうございます。また来ます。
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Unknown (存在しないIDです)
2010-06-01 19:10:58
私も30年早く生まれたかった!
そうすれば手塚治虫先生や新谷かおる先生や松本零士先生がリアルタイムで楽しめたのに!
返信する
etiquette of violence (Wrlz)
2010-06-01 21:14:41
>XTLITO様

良かったです! 泣きながら上下巻と読みふけりました。
特に上巻の第7話「父の背中」。私は最終話の「漫画の神様」より好きです。通じるようで通じない、斯波の菜月に対する想いも読んでいて楽しいです。
『火星探検』のような、存在すら知らなかった漫画を題材にしたエピソードも、美しい物語に仕上げられていて感動させられます。


ひろき真冬先生の画集を買われたんですね!
私は15歳の時に『CALLING』を読んで衝撃を受け、この憧れの人が挿絵を描いている小説からインタビュー記事の載っている雑誌まで古書店を巡って買い漁り、宮西計三と交流があったことなども知り、今も現役の「ひろき真冬」という一人の誠実であり情熱的なアーティストの生き様を知り、やがて「憧れ」が「崇拝」に変わりました。サイバーパンクSFを教えてくれた20年前の先生も、美しいラブストーリーを描く今の先生も敬愛してやみません。
『k, quarter』の、今は亡きけいせい出版から出た現物を手に入れるのが10代の頃からの、二十年来の私の願いです。金魚屋にならありそうです(笑)
返信する
本棚の海 (Wrlz)
2010-06-01 21:39:21
>存在しないIDです 様

みんな一度は思いますよね。「30年早く生まれたかった」。
でも私は自分より先に生まれた人をただ羨むのではなく、今こうして自分が漫画を読んでいることを次の世代へと繋げたいです。
30年後に弐瓶勉や高尾滋がリアルタイムでうらやましいと言われたら、「今のあなたも幸せなんです」と答えて今の漫画も未来の漫画も共に語り合いたいです。
返信する
これですか? (XTLITO)
2010-06-02 23:53:14
http://oryo-books.shop-pro.jp/?pid=8131109

違ったらゴメンナサイ。
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これです!! (Wrlz)
2010-06-03 08:55:39
>XTLITO様

これです!
まさかネットで見付かるなんて感激です。
おそらくお店に在庫は1冊しか残っていないと思われるので、昨夜頂いているコメントは私がこの本を手に入れてから公開させて頂きます。注文手続きをしたらサイトの表示が早速「SOLD OUT」に切り替わりました。手に入れたら一生手放しません。
友達と一緒に何軒も古書店を巡り、「1冊しかない『K,quarter』を発見した時に俺達の友情にヒビが入るね」と冗談を言い合った懐かしい会話を思い出しました。

本当に本当にありがとうございました!
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