生きることの総てが、「けがれ」ているのかもしれません。「潔(きよ)く」というのは叶わない願いのようなもので、過去とは悔やむ物でしかなく、消すことの出来ない過ちを背負いながら生きる以外に生きる術はなく、積み重ねてきた悔恨と悲しみは前に進もうとするその足を阻む。
しかし「時間」は生きている者誰しもに対し容赦なく平等に流れ、心は止まったままでも肉体は育ち朽ちていくのだから、いつか訪れる未来に辿り着く場所が「希望」であればいい。小学生の時に、高校生の時に、大切な人が自分のせいで死んだ。「事実」とは別に主観的な「解釈」があり、本人にとってはそれが真実であり、「罪悪感」は無くならない。「幸せ」とは用意されている物でも、生の目的でもなく。
禄が、百加と古屋からハルタの話を聞いたと知ったカンナは、バーで禄に「あなたの秘密を教えて下さい ひとつだけ」と笑いかける。希実が死に自分だけが生き残った過去を話す禄。
酔いつぶれてトイレに閉じこもり、一夜明けると聞こえなくなるカンナの耳。
禄は病室のカンナに、何も考えずに読めるからと、自分が昔担当していた野原チカコの漫画作品を見舞いに持ってくる。7回目の7月31日を病院で過ごすカンナは、一恵(いちえ)や清正まで見舞いに来てくれる自分は優しい人たちに恵まれている幸せな人間なのにと。独りでも生きていけるのかもしれない。
禄と飲んでいた漫画家の野原を、朝美と見間違え、病み上がりのカンナは床に倒れ込む。
風邪で寝込んでいる禄を見舞いに来た梶間に「漫画の女」と人違いされ、追い払われたカンナを連れ戻してくれと頼む禄。「罪悪感はどうやったらなくなるの?」と訊くカンナ。期待してた答えじゃなくてごめんねとふざけたような、請うような顔で謝る禄。
高校教師の梶間は高校生を「うざい」と言い放ち、高校生に戻りたいかとカンナに訊く。
過去をやり直すことは不可能なので、それを忘れることもできなければ、「流す」というのは最良の選択肢ではなくても、唯一つの方法なのかもしれません。望まない別れと望まない出会いばかりの二十数年間の人生の中で巡り会えた禄とカンナを描いた、祈りのような漫画です。
お薦め度:★★★★★
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