アルバニトハルネ紀年図書館

アルバニトハルネ紀年図書館は、漫画を無限に所蔵できる夢の図書館です。司書のWrlzは切手収集が趣味です。

『銀-つばさ-翼』全1巻/立原あゆみ

2009-05-28 | 少年漫画
 


"ト号(特攻)要員として志願してくれる者は一歩前に出てくれ"
その一歩は
"ぼくたちのはじまり"
その一歩は
"ぼくたちの終わり"を
意味していました


この漫画、昔読んでいた「チャンピオン」に連載されていた作品です(『むじな注意報!』が連載されていた頃)。10年経ってもまだ単行本が売っていたので以前買いました。連載が始まった時は『本気!』の作者が今度は特攻を題材にしたのかとは思ったんですが、意外と良かったです。全1巻とコンパクトにまとまってるし、繰り返し読んでも飽きないし。
特攻隊が題材の漫画ですが、海軍の新風特攻隊ではなく、帝国陸軍の「ト号」です。
作中で大規模な作戦が予定されているとあり、主人公の特攻の後、練習機による体当たりが主流になると語られているので、時期的には菊水1号作戦の頃だと思われます。作中に「昭和○年○月」などと具体的な数字を一切登場させずに、時期が特定できるという面では完成度は高いです。

「決定された死」を自分の中で受け止める、19歳の渋沢大助伍長の心境を淡々とモノローグで綴る手法です。
小隊を組んだ時にこの戦に階級などはない、5人の兄弟だと思おうと言ってくれた小隊長の神山少尉。先に出撃した隊が敵艦に辿り着く前に全機撃墜され、大和が沈み、早まる出撃。物心つく前に父を亡くし、母には告げずに逝こうと決めた大助は、母に手紙を書くことなく、母に語りかけるようにその時々の心の内を、出すことのない手紙のように心の中に積み重ねます。
大助は特攻機を見送る涙を「熱涙(ねつるい)」と呼ぶのだと知覧女子の女学生に教えられ、新しい言葉を知る。「熱涙…… かあさん 新しい言葉知りました」。
直掩戦闘機なしで、明朝に早まる出撃。「今夜はきっとかあさんの夢をみます」。
こすった時の衝撃でオイル漏れを起こす大助の機、兄として戻る勇気を出せという小隊長のはじめで最後の命令。「おいてゆくのではない 後から来い」。生きて戻り、兄弟達の突入の無電を聞く大助。その数は一本。「三機は犬死にと呼ぶのでしょうか 突入の無電を誰が発したのか知りえない事が今 唯一の救いです」。

また自分の死について考える時間ができた大助。母のために死ぬと言った自分、恋人のタテになり死ぬと言った少尉。敗けると分かっている戦を続ける意味。ト号を使う意味。己自身熟慮した死であり行動死なのだと言い聞かせる。大助はト号要員を世話してくれる知覧女子の少女に、大空には、すがすがしく迷いも汚れもなくなり、熱涙はなかったと言います。
大助を訪ねてくる、先に逝った神山少尉の婚約者は、自分の死を美化しているだけの男達は勝手だと、ここから逃げろと言う。守るために死ぬのだと言う大助は、あなたはあなたを守って死ぬ人がいる事を望みますかと反論される。自分の舎を世話してくれる野口上等兵はあなたが帰って来た時うれしかったと言う。こんな国のため死ぬ事はない。

目上の人を殴りました………
父ほども年のはなれた人を殴りました
でも"こんな国"はない
"こんな国"の国を母と入れかえてみました
こんな母…
いいえ この国です この母です
この国のためこの母のためだからこそ死ねるのです

自分の機のために部品を調達に行き、班長が爆弾の直撃を受けて死ぬ。隊長の妻と子が、中尉が心残さず特攻できるようにと自決する。「これもト号だ」と言う隊員、機械は泣かないと言う中尉に大助は黙って敬礼する。
敵を憎む事を学び始めた大助は、出撃までに隼が直らなければ練習機(赤トンボ)にドラム缶と爆弾を積んで飛ぶと言う。隼が直らなくても自分は明日往く。
死ぬ前に謝っておきたい人がいる。大助は以前手をあげた野口上等兵の家を訪れ、手を付いて謝ります。おくる親の辛さを見て、その辛さの中に自分は母に愛されているといくばくかの幸福も感じる。
大助の隼は直り、出撃の前日、隊長が検閲で止まっていた母からの手紙をこっそり盗んできてくれる。「この国より大切なあなた」と書かれている手紙を読んで笑う大助。
少し笑いました こりゃ 検閲通るわけもない かあさん 近いような気がします 人が自由に物をしゃべれる時代…… そんな時代がきっとくる…。
突入の無電。幾人もの人に愛され、敵空母にぶつかり鉄の塊になる。

銀翼(ぎんよく)とは戦闘機の意味です
いつの時代にもぼくたちは銀翼(つばさ)を持っている
愛する者たちを守る銀翼(つばさ)を持っている
愛する者たちを守る戦闘機を持っています


お薦め度:★★★☆☆
そこそこです。特攻を美化するという手っ取り早くありきたりな切り口ですが、海軍ではなく陸軍の特攻を描いたという点では珍しい一作です。
特攻を題材にした漫画で松本零士の『音速雷撃隊』を超える物はなかなかありませんね。佐藤秀峰の『特攻の島』の続きに期待してます。

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