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日常

開館20周年記念展 杉本博司 趣味と芸術-味占郷/今昔三部作(千葉市美術館)

2015-12-20 10:02:15 | 芸術
千葉市美術館にて、杉本博司さんの展示を見てきた。
本当にほんとうに素晴らしく、何度も何度もなめるように見た。行っては戻り、行っては戻り。
12/23までなので是非行って見てほしい。



杉本さんは現代美術作家だが、古美術商もされ、古典芸能の脚本家・プロデューサーもされ、写真も撮られるし、・・・・多面的な顔をお持ちの方。

杉本さんの表現が自分の深い場所へと染み入るように入ってくるのは、やはりそこに重層的な時間が流れているからだと思う。
短時間で見ると浅い意識にやってきて、長い時間かけてみていると、水が土にしみ込むようにじっくりと深い層に染み入るようだ。
杉本さんは古典文学への愛情も深い。

能楽でも「いまはむかし、、、」というように、ある特殊な場では、今と昔との時間は流動的に重なり合い分離できなくなる。そこでは未来も含め時間性のあるものは一つの集合体のように融解する。
そうした美術品の前でやっと「時間」という存在から自由になれるのだ。夢の世界と同じように。

『歴史の歴史 杉本博司』 (2008/12/16)



『婦人画報』で連載中の「謎の割烹 味占郷」という企画も素晴らしいものだった。
その企画で使われた本物の美術品が惜しげもなく公開されていた。

『趣味と芸術 謎の割烹 味占郷』講談社 (2015/10/23)


杉本さんが各界の著名人を架空の料亭世界へ招く。
そこでは客人をもてなすために、ゲストから事前に得たInspirationを源泉にして、掛軸や置物を選んで床飾りをあしらえる。杉本さんの季節に応じた料理ももてなされる。

レンブラントと織部の組み合わせだったり、古代エジプトの本物の死者の書の一部や、月の写真とお団子、新石器時代から平安期、奈良、室町、華厳の僧・明恵上人や春日神社、法隆寺・・・時代と空間を超えて。


美しいものは美しいがゆえに時代を超えて受け継がれる。
これまで、戦乱、飢饉、地震・・色々なことがあったはずだが、美しいものはその美しさゆえに次の世代へ必死に受け渡され続け、こうして残っている。
なんと素晴らしいことだろうか。
美は人類に何か思い出し、取り戻すきっかけを与える。その重く崇高な使命のためか、美は生き続けるミッションがあるのだ。

人類が、時代を超えて美を感知する普遍性のきらめきがある。
時代を観察し続け、時の流れと共鳴しているものたち。
美は揺るがず、静かにたたずみ、存在の力のみで主張する。


杉本さんの展示で特に素晴らしいのは、美しいもの、古いものを、ユーモアと言う香辛料をほんのすこし、節度ある形でふりかけているところ。
だからこそ、何か肩肘はらずに美術品を自分の価値観で見ることができる。そこに観賞をするための固定観念は準備されず、むしろ鑑賞者の審美眼こそが試されるのだ。


ライフワークとされる水平線の写真も劇場の写真も素晴らしく、絵の前で対峙していると、絵の中にひきこまれそうだった。鏡の間のような。
此岸と彼岸の膜は、ほんの薄皮一枚なのだろう。
現実と仮想とは、そうして互いが互いを支え合いながら相補的に存在している。意識と無意識のように。
 

*信じられないことに、この展示は写真OKでした。
杉本さんの古美術への深い共感と、鑑賞者への深い信頼が感じられる演出で、それ自体が感動でした。
当日の様子を簡単にUpさせていただきます。このブログを見て、一人でも多くの方が見に行くことを願いながら。

未だに体の芯に、空間で感じた深い感動が発熱しています。


千葉市美術館は学芸員の方が素晴らしいのだと思いますが、いつも刺激的で面白い展示をしていて、注目しています。


開館20周年記念展 杉本博司 趣味と芸術-味占郷/今昔三部作(千葉市美術館)





ジャック・ゴーティエ・ダゴティ「筋肉解剖図完全版」(1745-1748)
背筋図軸装
水注 鎌倉時代




装飾法華経
妙法蓮華経妙音品(平安時代)

享保雛(江戸時代)




堀口捨己 短歌

キリスト胸像 
イタリア トスカーナ地方(14世紀)



月(パリ天文台 1902年)




小島切 小野道風(平安時代)



明恵上人像 高山寺(鎌倉時代)

春日若宮社伝来
神鹿御神体(鎌倉時代)
榊 鞍 角 須田悦弘作




伝 後京極良経「古今集」
大江千里和歌(鎌倉時代)
「つきみれば ちゝにものこそ かなしけれ
  わかみひとつの あきのはわねど」



エジプト『死者の書』断片(紀元前1400年頃)

青銅製 猫の棺(エジプト第26-30王朝 紀元前600‐300年頃)