日常

「レーピン展」

2012-09-09 06:58:18 | 芸術
渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで「国立トレチャコフ美術館所蔵 レーピン展」を観てきました。

レーピンと言っても、自分は中野京子さんの「怖い絵 死と乙女篇」の表紙に載っている「皇女ソフィア」の画家、というくらいしか前知識ありませんでした。



そんな前知識なく行ったレーピン展。
ちらしの絵が素晴らしかったので並ばないように開場同時い行ってきましたが、とんでもなく素晴らしい展示でした!(フェルメールとかピカソとかに比べてネームバリューがないからだと思いますが、空いててゆっくり鑑賞できます。)
今のところ、2012年の中で自分のベストワンかもしません。それほど、自分のレーピンとの出会いは衝撃でした

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2012/8/4(土)-10/8(月・祝)
近代ロシア絵画の巨匠、日本初の本格的回顧展!

19世紀後半から20世紀初頭の混沌としたロシアを生きたイリヤ・レーピン(1844‐1930)は、近代ロシア絵画を代表するリアリズムの旗手として活躍しました。
進歩的グループ「移動展派」に加わり、社会的矛盾を糾弾する作品や、革命運動をテーマにした作品を発表して名声を得たレーピンは、ロシアの民族精神を鼓舞する歴史画の大作や、深い洞察力で文化人等を描いた肖像画の傑作を描いた画家としても知られています。
また一方で、家族などを描いた心温まる作品にも注目したい画家です。

本展はロシア美術の殿堂であり、世界最大のレーピンのコレクションを誇るモスクワの国立トレチャコフ美術館より、画業の初期から晩年に至る様々なジャンルの油彩画と素描約80点により構成される、過去最大の本格的なレーピン回顧展です。
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  2012年8月4日~10月8日   
  Bunakmuraザ・ミュージアム

  2012年10月16日~12月24日
  浜松市美術館

  2013年2月16日~3月30日
  姫路市立美術館

  2013年4月6日~5月26日
  神奈川県立近代美術館 葉山
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という感じで1年かけて日本を巡回するみたい。東京の人は10月までやってますので是非行ってみてください(行きそびれても来年葉山に舞い戻ってくる)。

まず、人物描写がすごいです。
その人の内面性や精神性、感性や感情までもが一つ一つの皺に込められているかのように、その人の生きた内的世界が見えてきます。
やはり、顔は世界の窓。内的世界と外的世界を交通する象徴的な場所なのかもしれません。
「目は口ほどにものを言う」というように、僕らは非言語の膨大な情報を、顔の表情を介してやり取りしているんでしょう。


レーピンの絵から強く感じたのは、個人を描きながら「普遍」を表現しようとしていること。個ではなく普遍(universal)を描いているのです。
どの人物の表情も引きこまれるのですが、それはあるシンボルであり、そこから普遍性を感じます。
そのことが、個人を描きながら、国や時代を超えて人間の深みをも感じるところになっているように思えます。ありていにいえばその人のSpiritを描いて言うようにも見えるわけです。


文学でも芸術でも、単に個を書いているだけでは、内輪受けになってしまいます。
ただ、個から普遍へ至る表現は時代を超えて読み継がれ、人へ感動を与えるのでしょう。村上春樹さんの作品と同じです。
レーピンはトルストイとも仲良く、そこには文学と芸術で相通じるものを感じていたのかもしれません。


レーピンの人柄を表すようなエピソードで、トルストイの肖像画は、当時のトルストイ専属の肖像画家が亡くなってから描いた、というのがありました。
そういう謙虚で控えめなところもレーピンの人となりを表しているようで顔がほころびました。(レーピンだったら、そのほころんだ一瞬の表情を逃さずに、絵に表現してしまいそうですが)

あと、体制批判を、露骨ではなく静かに絵の中に込めていたところも、男気があってかっこいい、と思いましたね。
当時の時事問題なども、まるでその場で見てきたかのような生々しい描写で。そこにReality(僕らが作り出す「現実」という状態)というものの不思議さも垣間見ました。


あと、レーピンの作品群を通して見て感じたのは、抜群の安定感。
時代や年代を通して、常にすごいクオリティー。全くぶれがありません。
そんな安定した質の高さも、観るポイントです。レーピンの心そのものが禅僧のように安定しているのでしょう。驚愕しました。



レーピンの絵は、一つ一つの絵に無限の情報が込められているかのような(それは天然・自然と同じですね)、何時間も見続けることができるような不思議な絵だと思います。是非行ってみてください。個人的には今年一番のお薦めです。