urt's nest

ミステリとかロックとかお笑いとかサッカーのこと。

古川日出男『ルート350』講談社

2006年04月29日 | reading
ネタバレ一応注意。 《教訓だらけの映画だった。生きろ、はめろ、疾走しろ。それから氷山に衝突して沈没。セリーヌでディオーンだ。》(「ストーリーライター、ストーリーダンサー、ストーリーファイター」、78p) 古川日出男の短編集。 「はじめての純粋な短編集」とのこと。『gift』なんかは連作と捉えるべきなのか。初出はそのほとんどが「小説現代」。「群像」の方がしっくりくる感じだが、そのチープさがかっこ . . . 本文を読む

田口ランディ『富士山』文春文庫

2006年04月29日 | reading
ネタバレ一応注意。 こちらもお久しぶりの田口ランディ。三部作以来かも知れません…あ、エッセィとか何冊か読んでるか。 近景・遠景に富士山を置いた短編集。富士山はこの作品集のスピリチュアルな感性の象徴ですね。なんかよくテレビや書籍で目にする「スピリチュアル」って単語に失笑することの多い僕は、この作家の小説ってこんなに胡散臭かったっけ、などと思ってしまったのでした。カルト宗教とかゴミ屋敷とか、面白そう . . . 本文を読む

新堂冬樹『炎と氷』祥伝社文庫

2006年04月27日 | reading
ネタバレ一応注意。 お久しぶりの新堂冬樹、お得意の闇金小説。 迫力もスピード感もありますが、人物造型がどこかマンガ的で(マンガには失礼な形容ですが)、深みに欠ける気がしました。「炎と氷」、瀬名と若瀬のキャラクタ設定と対立構図、あるいは瀬名のトラウマなどの描写は単純だと思ったし、説明的な描写、コントみたいな九州弁の台詞(「イクばい!」ワロス)も、作品から緊張感を奪っているように思いました。 馳星周 . . . 本文を読む

いしいしんじ『トリツカレ男』新潮文庫

2006年04月25日 | reading
ネタバレ一応注意。 キラキラ号車中にて読了。 いしい的なイメージの奔流は抑え目。いつも通り瑞々しいながらも端整な寓話に仕上がっていると思います。「幸福の王子」的な献身と、恋の物語。 「トリツカレ」の意味が重層化するところなど、ストーリーテリングはやっぱりうまい。短くてやや物足りない部分もありますが、凍てついた情景の後に仄かな灯を点す幸福な読後感が楽しめます。後半のペチカの吹っ切れ振りが実にかわい . . . 本文を読む

鯨統一郎『ミステリアス学園』光文社文庫

2006年04月24日 | reading
ネタバレ注意。 《「叙述トリックというのもある」/「なんですか、それ」/「文章そのものに罠が仕掛けられているもの。たとえば、男だと思っていた登場人物が、実は女だったとか」/「なるほど。さっき話題になっていたやつか。それは犯人が仕掛けるんじゃなくて、作者が読者に仕掛けるトリックですね?」/「そうだ」/「代表的な作品を教えてください」/「いやだ」/部長はにべもなく断わる。ぼくは他の人に顔を向けた。み . . . 本文を読む

朱川湊人『都市伝説セピア』文春文庫

2006年04月23日 | reading
ネタバレ一応注意。 ふーむ。この直木賞作家の作品を読むのは初めてでしたが、ノスタルジィの演出はなかなか上手だし、乱歩的な怪奇趣味もセンス良く取り入れられてます。小説手法も多種多様で、なかなかのスキルを持った作家であると思いました。「アイスマン」は乱歩の、「死者恋」は皆川博子あたりの再解釈のようにも感じられ、器用だなあ、などと。 「都市伝説」というモノにこだわりのある自分としては、その取り扱いが残 . . . 本文を読む

町田康『権現の踊り子』講談社文庫

2006年04月23日 | reading
ネタバレ一応注意。 《意識が途切れる寸前、矢七は、「おぼん」と言った。その意味は誰にも分からない。》(234p) ここ、爆笑(良い意味で)。 町田康の短編集。ビートフルでナンセンスな町田ワールドは相変わらずの炸裂。 引用した水戸黄門コント「逆水戸」も含め多彩ではあるが、長編に比べていまいちノリきれなかった印象があるのも事実。アドレナリンがようやく回り始めたぐらいで終わってしまうような。それを . . . 本文を読む

室積光『都立水商!』小学館文庫

2006年04月19日 | reading
ネタバレ一応注意。 《二人組の一人がサングラスをとった。スポーツを愛したことのない、つまりは誰も尊敬したことのない、ヤクザの目であった。/見下ろす男もゆっくりとサングラスをとった。/周囲がざわめいた。/江夏豊であった。》(196p) ここ、爆笑(悪い意味で)。 「お水の学校」というアイデアが面白いのは認めます。しかし文章が安すぎる。人物描写が薄すぎる。設定から連想され得る(そう、連想され得る . . . 本文を読む

横山秀夫『第三の時効』集英社文庫

2006年04月17日 | reading
ネタバレ一応注意。 横山秀夫の最高傑作と評価する向きもあるようです。警察小説連作短編集。確かに良かった。少なくとも『半落ち』の百倍面白い。 もともと本格志向はある作家と見ていましたが、どんでん返しの仕掛け、カタルシスのあるプロットと、この作家の警察小説の魅力がいかんなく発揮されています。「モノクロームの反転」なんておもくそ本格だ。 そしてそこに、三人の「班長」を中心とする捜査一課の三班の手柄の奪 . . . 本文を読む

小林泰三『脳髄工場』角川ホラー文庫

2006年04月16日 | reading
ネタバレ一応注意。 ホラー中短編集。 『密室・殺人』なんて作例もありますが、ホラーとミステリの親和性を田中啓文などと共に体現する作家、小林泰三。ここに並んだ作品も、体面としてはホラーでありSFでありながら、「ひっくり返そう」という心意気が随所に見られます。しかしそれが効果的かと言うと…完成度としてはそれほど高くないと思われました。ショートショートはすぐにネタが割れてしまったり、長くなると文章や構 . . . 本文を読む

ASIAN KUNG-FU GENERATION 『ファンクラブ』

2006年04月16日 | listening
なかなかいいアルバムタイトルだと思いますよ。『君繋ファイブエム』って正直あり得なかったからね。 なんかすげー実験的だみたいな前評判を聞いていて、ひねくれた難解作だったらどうしようかと思ってたのですが、杞憂でした。ちゃんと素敵なメロ書いてます。①⑥の構成とか確かに独特だけど、ありあり。⑨なんかもそうだけど、捻った構成がサビの高揚に繋がっていると思いました。 個人的には②⑤あたりのサビメロ、⑧のギター . . . 本文を読む

GOING UNDER GROUND 『TUTTI』

2006年04月15日 | listening
レヴュー書くのが遅くなってしまいました。 前作あたりから、このさびしんぼうたちがどんどん洗練されて来ている気がして…このアルバムも、⑥の壮大なアレンジ(コーラスも効果的。あと詞がバンプみてーだ)、⑪⑬で聴かせる洗練されたポップスなど、ポップ・バンドとしては着実に力をつけ、まとまりが良くなっている印象はあります。ポップ・アルバムとしては、非常に聴き応えのあるアルバムでしょう。曲数も多いし。「どこかで . . . 本文を読む

eastern youth "365-STEP HARDCORE BLUES!"

2006年04月13日 | live
2006.4.12@渋谷クラブクアトロ 社会人のなにが悲しいって自由にライブ行けねーんだよ。 でもイースタンは絶対行くけどね。 ってことで東京での初ライヴ。 渋谷駅でスーツを脱ぎ、イースタンのTシャツにスラックス、会社で履いてた体育館シューズというあり得ない格好でセンター街を走る。擦れ違う彼も彼女も俺を嘲っているように見える。 破顔一笑。 スローモーションの街を抜け、生涯二度目の渋谷クア . . . 本文を読む

高田崇史『QED 竹取伝説』講談社文庫

2006年04月11日 | reading
ネタバレ注意。 このシリーズを読むのはすごく久しぶりな気がしますが、そもそも御伽噺の絵解きってのは、いつかやるだろうなと思ってて、期待していたのです。しかしながら、あまりのめりこめなかったというのが正直なところでした。 頁をかなりの部分割いてまくし立てるように述べられる「解釈」は、膝を打つと言うより煙に巻かれる感じ。進行する殺人事件に関しても、動機をはじめとする真犯人の設定自体はなかなか魅力的な . . . 本文を読む

浦沢直樹+手塚治虫『PLUTO③』小学館ビッグコミックス

2006年04月10日 | comic
やっぱ序盤は面白いわね。 この巻はプルートゥやエプシロンをめぐっての肉付けの部分が見て取れますが、原作読んでからだと浦沢のドラマの作り方が見えてきてなかなか興味深い。KKKのパロディとか20世紀少年ぽいし、プルートゥとウランのやり取りはMONSTERぽい。そうした浦沢的要素が、大雑把だった原作に細やかさを加えているように思いました。ゲジヒトの骨格設定なんかの小ネタも心憎い。 あとは間延びしないで収 . . . 本文を読む