(チベット動乱60年:上)先細るチベット社会 インドへの難民減少、伝統継承に影
2019年3月11日05時00分
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世がチベットからインドに亡命するきっかけとなったチベット動乱=キーワード=の民族蜂起から10日で60年。ダライ・ラマを追って多くのチベット人がインドに渡ったが、中国政府が統制を強めるなか脱出者が減っている。終わりが見えない難民生活も文化や言語の伝承に影を落としている。(バイラクッペ=奈良部健)
ヤシの林を歩くサフラン色と赤の法衣をまとった僧侶に強い日差しが照りつけていた。インド南部バイラクッペ。インド最大のチベット難民居住地で約1万4千人が暮らす。
難民によって運営されている寄宿学校を訪ねると、ダライ・ラマの写真が飾られた教室で中学2年の子どもたちがチベット仏教の「思いやり」の考え方について議論していた。
ツェリン・パルデン事務長(65)によると、学校には4~18歳の子どもが通う。9割の子がチベットに暮らす親の元を離れ、ネパール経由でここにやってきて寮生活を送る。親たちは幼い我が子を親類や仲介業者に託して、インドに送るのだという。
中国側の学校では中国語による教育が基本。ツェリンさんは「我が子に過酷な越境を強いてでも、チベットの言葉や文化を学ばせたいというのが親の切実な願い」と説明してくれた。
しかしこの5年間はチベットからの入学者はいないという。中国当局による国境警備やチベットの人々への監視強化で、越境が難しくなったことが背景にある。1990年代、2千人近くいた児童生徒は900人弱にまで減った。
バイラクッペには祖父母や親の代から暮らす家庭の子が通うチベット人学校もあり、その児童生徒数も減り続けている。英語で学ぶ私立学校に通わせ、欧米の大学を目指す傾向が強くなった。寄宿学校に通うテンジン・チョギャルさん(18)も「両親と一緒に外国に住むのが夢」と言う。
「チベット社会のために働くと言っても教師か亡命政府職員くらいしかない。悲しいことだが、よりよい教育や仕事を求めるのはやむを得ない」。そう語るツェリンさんの娘2人も米国とスイスに渡った。
こうしたことが、チベットの伝統継承を難しくしている。40年前に亡命政府が設立した手工芸センターでは、がらんとした建物の中で女性2人がじゅうたんを織っていた。サニモさん(46)は「20年前はここで70人が一斉に織っていた。今の若い子たちはやりたがらない」と話した。1枚を約20日間かけて織り上げる地道な作業。「作り手はいつかはいなくなってしまうのだろう」
チベット仏画の掛け軸「タンカ」の店は2店舗に減った。そのうちの一つを営むジグメさん(40)は「伝統の保護は大事だが、それだけでは生きていくのが難しい」と語った。
■亡命政府、募る危機感
「中国政府は我々の国土を奪った。次はチベットの文化を消し去る狙いだ。チベット人の存在そのものが消されてしまう」。インド北部ダラムサラに拠点を置くチベット亡命政府のバイラクッペ事務所職員テンジン・ナムドルさん(32)は危機感を募らせる。
だが、有効な手が見つからないのも実情だ。「チベットに戻れないならインドで待つ必要はないという思いもあるのだろう。欧米に出る人を止めることはできないし、今後もっと増えるだろう」と亡命政府の幹部は語った。
さらにチベットの人々や亡命政府が懸念するのが、83歳になったダライ・ラマの後継者問題だ。ダライ・ラマはインドに脱出した59年に亡命政府を樹立して以降、チベット人を政治・宗教両面で率いてきた。2011年に世界各地のチベット難民による選挙で選ばれたセンゲ首相に政治権限は譲ったが、チベット人の心の支柱だ。
観音菩薩(ぼさつ)の化身とされるダライ・ラマは、その死去後に生まれ変わりの少年を高僧らが捜して後継者にする伝統が続いてきた。ただ、この方法だと亡命政府を敵視する中国政府が国内で都合の良い後継者を選び、利用する可能性がある。亡命政府は高僧らの会議を開いて後継者問題を議論する予定だ。
60回目の民族蜂起記念日の10日、インドなど各地で中国政府に抗議する集会が開かれた。ダラムサラの集会でセンゲ首相は「ダライ・ラマ14世がラサに帰れるよう世界中のチベット人が力を尽くし続けよう」と呼びかけた。
◆キーワード
<チベット動乱> 1951年の中国軍のラサ進駐後、50年代後半から武装蜂起が相次いだ。59年3月10日、軍によるダライ・ラマの観劇招待を拉致の策略とみた市民ら数万人が集結して軍と衝突。ダライ・ラマはラサを脱出し、中国政府は同月28日に統治権の確立を宣言した。チベット亡命政府は3月10日を民族蜂起記念日としている。
保守記事.91-82 アノ国クオリティー
保守記事.91-83 アノ国クオリティー
保守記事.91-84 アノ国の政治
保守記事.91-85 台湾の中国化
保守記事.91-86 問題の発端
保守記事.91-87 これがアノ国か。。
保守記事.91-88 アノ国クオリティー
保守記事.91-89 アノ国クオリティー
保守記事.91-90 アノ国クオリティー
保守記事.91-91 アノ国クオリティー
保守記事.91-92 アノ国クオリティー
保守記事.91-93 アノ国クオリティー
保守記事.91-94 いやあ~、乱世乱世
保守記事.91-95 図書館戦争
保守記事.91-96 ローマ化する?アノ国
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます