2006年12月9日(土)10:12
ひきこもりから立ち直りつつある少女が日田市のギャラリー喫茶で写真展を開いている。高校を休学中のmitsuさん(16)。家族や友人の支えもあり、 「ゆるゆるでいい(ゆっくりでいい)」と、1歩を踏み出した。会場には携帯電話で撮影した田んぼの中の鉄塔、電柱、スーパーなどの風景12点を展示。暗闇 から抜け、今を生きる喜びが表現されている。 (日田支局・新西ましほ)
mitsuさんは中学3年になり、学校に行けなくなった。卓球部のキャプテンを務め、友人も多かったが、部活動や受験、クラス内のゴタゴタの中で「心と体がバラバラになった」という。
怒らない、泣かない毎日。学校へ行こうとするが、体が動かない。学校へ着いても教室に入れず、トイレにこもって泣き続けた。教師は「甘えているんだ」という。過食と拒食を繰り返しながらも、何とか高校に合格したが、入学して間もなく、再び不登校になった。
「悩んで、悩んで、なぜ悩んでいるのかが分からなくなって、人と接することができなくなり、外に出られなくなった。真っ暗な中で日々、自分自身と闘っていた」
「今まで頑張ったね。もう頑張らなくていいよ」。家族からそう言われて、散歩に出られるようになった。見上げると、久しぶりの空はゆったりとしていて、毎 日違った表情をのぞかせる。携帯電話のカメラで何げない風景を撮影、パソコンで加工し、自身のホームページに掲載。「写真を見て外に出てみました」「頑張 ろうね」などの感想が寄せられ、元気を取り戻していった。
展示作品「独りじゃない」は自身の影を撮影。「太陽に照らされたら、必ず影が できる。独りじゃない、みんな一緒なんだよ」。そんな思いを込めた。「ノンタイトル」は田園にポツンと立つ鉄塔。美しい空を強調した。電柱を撮影した「機 械星」は「宇宙に浮かぶ機械の惑星」をイメージした。
写真展は幼なじみから持ち掛けられた。ギャラリー喫茶のオーナー、内柴雅道さん(60)は「自分の中の寂しさなどの感情を客観的にとらえ、表現する目を持っている」という。
今は小さなハードルを設定し、1つずつ乗り越えている。「友だちに連絡を取る」「人と会う」「個展を開く」。夢は広告デザイナー。アルバイトをしながら定時制高校に通い、写真関係の専門学校に進学しようと考えている。
mitsuさんは「今でもまだ、怖い。でも、今の私は太陽の光も浴びられるし、写真も撮れる。出会いがいっぱいあって、自分を見つけられた。人の存在の大 きさを感じられるようになって、つらくても頑張れると思えるようになった。『ゆるゆるでいい』と、教えてくれたみんなのおかげです」と話している。
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写真展「ケータイで撮った私の好きなもの」は同市淡窓1丁目のギャラリー喫茶「喫茶去(きつさこ)」で14日まで。
■心の問題に詳しい福岡県大牟田市の不知火病院、徳永雄一郎院長(精神科医)の話
過食、拒食の背後には「うつ」があった可能性がある。大切な人やモノ、目標を失うなど「対象の喪失」がきっかけになるケースが多い。彼女の場合は写真を撮 り、ホームページで公表することで、別の生きがいや目標が見つかり、それを第三者から認められ、評価されたことが心の回復につながったのだろう。
=2006/12/09付 西日本新聞朝刊=