悠々time・・・はなしの海     

大学院であまり役に立ちそうもない勉強をしたり、陶芸、歌舞伎・能、カメラ、ときどき八ヶ岳で畑仕事、60代最後半です。

世阿弥「風姿花伝」<人々心々の花>

2005-11-23 07:07:07 | 歌舞伎・能

<そもそも因果の花とは>

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そもそも、因果とて、よき・悪しき時のあるも、公案を尽くして
見るに、ただ、めづらしき・めづらしからぬの二つなり。

同じ上手にて、同じ能を、昨日・今日見れども、面白やと見えつ
る事の、今また面白くもなき時のあるは、昨日面白かりつる心慣
(な)らひ、今日はめづらしからぬによりて、悪しと見るなり。

その後、またよき時のあるは、先に悪かりつるものをと思ふ心、
また、めづらしきに返りて、面白くなるなり。 


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  そもそも、因果というものには、良い時と悪いときがある
  ことを、よくよく工夫し尽くして考えてみると、結局は、

  ただ「珍しい」か「珍しくない」か、の二つに帰結する。

  同じ上手が、同じ能を演ずるのを、昨日今日と続けて見た
  場合でも、昨日は大変面白いと感じたものが、今日は少し
  も面白くないと感ずることがあるのは、昨日見て、面白か
  ったと感じた印象が心に残っているため、同じ演技を今日
  は珍しいと思わず、今日の能は良くないと思うのである。
     
  その後にまた、同じ上手の、同じ能を見て、今度は面白い
  と感ずることがあるのは、これは、前回は良くなかったとい
  う気持ちが、今度は反転して、また珍しさを感ずるように
  作用して、それで面白い、と思うのである。 

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<されば、この道>

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されば、この道を極め終りて見れば、
花とて別(べち)にはなきものなり。

奥義を極めて、よろづにめづらしき理(ことわり)を
我れと知るならでは、花はあるべからず。 



""""""""""""""""""""""""""""

  されば、能の道を極め、研究し尽くして考えてみると、
  花というものが、特に別個に存在しているわけではな
  いのである。
  
  能の芸の奥義を体得し、あらゆる場合にわたって、どう
  すれば、珍しさを生み出せるか、その道理を自分自身で
  悟らない限り、花は見つからないのである。

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<私見>

 上記は、世阿弥の能芸に関する「秘伝」の一部である。
 最後の章、さればこの道を極め終りて見れば・・・以降
 を読むにつけ、稀代の剣豪、宮本武蔵を想像する厳し
 さである。
  
 最後は、すべての欲得、すべての殻を脱ぎ捨てて、厳し
 い能の修行の行き着く先は、無、であり、虚、であると
 云っているようにも思える。

 人人心心の花か。

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  世阿弥は、次のように言っている。

 「この別紙口伝は、能の芸において家の大事となるもの
  ゆえ、一子相伝とする。たとえ跡継ぎが一人しかいな
  くとも、その者が無器量であれば伝えてはならぬ。
  家はただ続くから家なのではない。継ぐべきものがあ
  るから家なのだ。家の跡継ぎもそこに生まれただけで
  そこの跡継ぎとはいえない。その家が守るべきものを
  知る者のみ、その家の人(跡継ぎ)といえるのだ」と。
  
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  この別紙口伝の條々を先年、弟の四郎に相伝したが、
  一子元次も能の器量があるので、重ねて相伝するも
  のである。秘伝である。


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  最後に、世阿弥著「花鏡(かきょう)」から次の
  言葉を以って、世阿弥語りを終わることとしたい。

    一、是非、初心を忘るべからず
    二、時々の初心を忘るべからず
    三、老後の初心を忘るべからず


  (念のため)
    初心に返って・・・は意味のはき違いである。
    常に成長しているので、返ってしまうと、能の
    未熟な時に戻り、修行の成果は元の木阿弥
    になってしまうのである。あくまでも、
     初心を忘るべからず、なのである。

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