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大学院であまり役に立ちそうもない勉強をしたり、陶芸、歌舞伎・能、カメラ、ときどき八ヶ岳で畑仕事、60代最後半です。

松たか子、喜劇「2人の夫とわたしの事情」を熱演!

2010-05-03 16:14:25 | 文学・文芸・芸術
 

<シアター・コクーンの松たか子>

5月1日(土)、シアター・コクーンでサマセット・モームの喜劇「2人の夫とわたしの
事情」を見た。見た、というような穏やかな座席の取り方ではなく前夜の新聞での
舞台評を読んで翌朝急に思い立って渋谷へ向かった。開演1時間半前に到着した
が既に10人ほど並んでいた。土曜日だったこともあり当日券は多分30人~40人分
しなかったようで、7000円の席は10人でお終いとなり、後は9000円の席で、しか
も最後尾の方の席だった。 最近わたしは喜劇や笑いに凝っている。しかし松たか子
がサマセット・モームの本格喜劇に出演していることは知らなかった。この女優がデビュ
ーのときから注目していたが今や開花したその才能はさすがにサラブレットの血脈を
思わせる。

 サマセット・モームの「人間の絆」と「月と6ペンス」は知っているがとてもシリアスな
小説で、モームがこんな軽喜劇の舞台小説「2人の夫とわたしの事情」を書いていた
ことは知らなかった。

日本初演だそうだが、原題は「Home and Beauty(故国と美女)」、イギリスでは
過去に200回を超えるロングランを記録したとのこと、アメリカでは「Too Many
 Husbands(夫が多すぎて)」というタイトルで好評を博し、50年前にはハリウッドで
「私の夫(ハズ)は2人いる」でミュージカルコメディ映画が撮られているという。

 日本初演の今回の翻訳は、吹き替え翻訳者 徐 賀世子で、2006年に「ヴァージニア・
ウルフなんかこわくない?」の演劇翻訳で優れた外国戯曲・脚色・上演者に贈られる
湯浅芳子賞を受賞している。彼女の現代風の翻訳が松たか子の膨大で、速射砲の
ような台詞を可能にしたのであろうか。




<演出家「ケラリーノ・サンドロヴィッチ」>

ところで今回の演出家・上演台本は「ケラリーノ・サンドロヴィッチ」という日本人男性の
劇作家、脚本家、演出家、ミュージシャンである。

ケラリーノと出演者の段田安則とは「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない?」で一緒
だが、松たか子と渡辺徹との組み合わせは初めてである。どんなものに仕上がるのか
これが興味津々であった。


<松たか子の“驚異的な台詞の多さと速さ”!>

  舞台は13時30分から10分間ずつ2度の休憩を挟んで約2時間40分、16時10分に
終了したが、松たか子と段田安則と渡辺徹はほとんど出ずっぱりである。この日は昼夜
上演なので2時間20分後にはもう舞台に立ていることになる。 段田安則も渡部徹も通しで
相当な量の台詞であるが、松たか子の台詞のボリュ-ムは半端ではない。膨大な台詞の
量というだけではなく、鉄砲玉のように、いやそうではなく機関銃のように、しかも軽やかに
次から次へと台詞の嵐である。これだけでも驚異の演技である。松たか子は、かわいらし
さや美しさが先行するため少々色っぽさに欠けるが、チャーミングで邪気のない天然愛と
信じている天衣無縫なセレブな妻の役が十分出ている。



<松たか子とケラリーノ・サンドロヴィッチ>

  



<戦死したはずの夫ビルが帰ってきた!>

美しい妻のヴィクトリア(松たか子)、戦死したはずの夫のビル(段田安則)、ビルの死後
ヴィクトリアの夫となった親友のフレディ(渡辺徹)、そこに戦死したはずの夫ビルが突然
生きて帰ってきた。ここからドタバタ劇が始まる。ヴィクトリアの天真爛漫で、奔放で、第3
者から見ると身勝手な欲望(本人は自分のそのときどきの熱愛に忠実なだけ)に振り回さ
れていく。これは戦争の悲劇なのか、人間の愛憎の現実なのか、サマセット・モームの原
作が目指したものと、ヴィクトリアの本性と男たちの本音を包んだ抱腹絶倒な会話の中で
ケラリーノ・サンドロヴィッチの軽妙な演出が絡み合って楽しい喜劇に仕上った。


<サマセット・モームの「月と6ペンス」>

しかしそれにしても私が知っているサマセット・モームの作品とはかけ離れている。
「月と6ペンス」を読むと、画家ポール・ゴーギャンと覚しき人物は、自分が好きな絵を描く
ためには妻への愛情も周囲の人たちとの関係も全く斟酌しない人生の生き方を厳しく描い
ている。その真逆の表現が「2人の夫とわたしの事情」であろうか。どちらの生き方も
夢(月)と現実(6ペンス)を合わせ持つ人生なのだ、といっているのであろうか。折角喜劇
を楽しんでいるのだからこれ以上難しく考えないことにしよう。

<出演者万歳!>

とにかく楽しかった。
松たか子の大活躍と、態度で笑いを誘う演技巧者の段田安則、役柄ぴったりで持ち味
発揮の渡辺徹にも拍手!!
美女ヴィクトリアの天衣無縫さ、自分のことしか考えていないのに自分は2人をこんな
に愛している、そのためにどれほど苦労してきたか、と公言して憚らない自分中心人間。
一方元の夫・段田安則のビルと今の夫・渡辺徹のフレディ、この2人のあきれるほどの
人の良さと真面目さ、ノー天気さ。ヴィクトリアのためになることばかりを考えているのに、
そのヴィクトリアに
「あなたの立場?私の立場はどうなるの?」
と一方的に言われても怒らない2人。しかしこの2人も言葉には出さないが、何とかして
愛する?ヴィクトリアを一方に譲ろうとするのだが行動が伴わない。着々とヴィクトリアの
一方的な言い分にはまり込んで行く。2人の演技は実際の本人そのものではないかと
思えるほど自然なボケぶりである。イヤーお二人ともご苦労様です。

ヴィクトリアの母シャトルワース夫人の新橋耐子は声といい態度といい、男に会うときの
女のたしなみを娘に伝授?する台詞も笑わせる。ベテラン女優の貫禄十分。このベテラ
ンが
「男を1人つかまえたからって、他の男の気をひかなくていいのか」

とヴィクトリアに言いいながら、自分の唇を強く口の内側に吸い込む動作に大笑い。
娘ヴィクトリアと成金ペイトンとの関係についても

「何言ってんの、させるものでしょ プロポーズなんて」

と、今まで見てきた彼女の持ち味とは大違いの演技に私自身が笑ってしまった。


戦争成金ペイトン役の皆川猿時の大げさな演技。夫でもなく、元夫でもない成金
ペイトンがヴィクトリアに
「甘えて下さい、思い切り」と言われたとき、ペイトンではなく皆川猿時が本当に
喜んでいたように見えたが・・・。

離婚弁護士ラーハム役猪岐英人が、「男女の仲は何が起こるか分からないという
ことです」と、大まじめな、ドタバタ演技で笑わせる。この当時の離婚は女性には
ハードルが高かった模様で、ヴィクトリアが離婚できるように男たちに演技指導を
することで儲ける弁護士である。

この弁護士の離婚劇のパートナー役、変わった名前の貴婦人(?)モンモラシーの
水野あやの出現、
「過ちを犯したジェントルマンはどちらかしら?」
と、おかしな演技で笑わせた後、帰るときにドアの外まで送ってきた弁護士のラーハム
と熱烈な抱擁、これを窓越しに見てしまった3人、私を含めてこの芝居の先がますます
分からなくなってしまった。

誰も居なくなってしまったヴィクトリア家の調理師に応募してきた池谷のぶえのポグスン
夫人、威高々の態度でヴィクトリアを翻弄する会話のやりとりに大笑い。ヴィクトリアが
ポグスン夫人を雇い入れようと躍起になっていろいろ言うのだが、大きな身体を揺す
って、

「どこのお宅でも同じこと言うわね・・・ホッホッホ」

「あと9軒回りますからご返事はその後で(します)」

と、どちらが雇い主なのか分からない始末に大笑い。
出番はこのとき5分間くらい。本人も「この芝居における私の役回りは一体
何なんでしょう?」と大きな身体を揺らしながら(想像です)、舞台の外で
発言している記事を読んだ。何のための5分間かは分からないが強烈な
インパクトがあったことは確か、それだけで可笑しい!

幕が開いた途端に、横たわっているヴィクトリアの爪を化粧しながら一番
最初に台詞を言うのがネイルアーティスト、ミス・デニス役西尾まり。
幕が開いたときからヴィクトリアに振り回されている印象を自然なリアクション
で表現しなければならないと苦心、帰り際に新しい化粧品を必死に売り込ん
だ演技が可笑しい。

ドアノックをしないで入ってくるメイド役のテーラー、皆戸真衣。彼女の雰囲気
から、天衣無縫、身勝手な愛すべき性格のヴィクトリアに振り回されていること
が一目瞭然。最後はメイドやコックがみんな出て行く雰囲気を随所に醸し出し
ていた。出て行くことを通告するために「奥様、宜しいでしょうか」、ちょっと話が
あると、まじめな雰囲気で呼びかけるときも、相手(ヴィクトリア)がノー天気なの
でかえって可笑しい。

最後に、難しい喜劇に挑戦した演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチと翻訳家に脱帽!


<練習光景>

  西尾まり
 
                
                  渡辺  松   段田
段田  松  新橋耐子

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