「オフリョウ」という単語を初めて意識したのは、平成23年度長野県民俗の会総会における三田村佳子氏の「灯火風流の展開―松明・灯籠・提灯―」と題した講演だった。そもそもこの単語を中信地域以外で聞くことはない。そして、オフネ祭りの調査で複数の地区で話を聞き、またまったくそれとは無関係な地域の神社祭典の日程表の中に同じような「オフリョウ」という単語を見て、あらためて「オフリョウ」とはどのようなものを指すのかわからなくなっている。
今日は、長野県民俗の会217回例会が開かれた。テーマは穂高神社のお船祭りである。高原正文氏の解説(講演)と見学が中心だった。そして穂高神社でいう「オフリョウ」を垣間見て、オフリョウとは何か、の答えは相変わらず出なかった。三田村氏が『風流としてのオフネ』(信濃毎日新聞社 2009年)に著した「オフリョウ」を記述の中からイメージしてみよう。なお、カッコ内のページは前掲書の頁を示している。
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かつては大人の行事であり、松本藩主献納の旗三十三本と長柄槍十本を先頭に、三十人ほどでオフネを担いで神楽殿を中心に三周して、二艘でその速さを競ったとされ、これをオフリョウと称した。(松本市筑摩神社/43頁)
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オフネが到着すると、大和合のオフネを先頭に二艘が並んで境内に入り神楽殿を一周し、神官からオフリョウ(お祓い)をしてもらう。(松本市入山辺大和合/65頁)
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オネリ(お練り)といって、青柴で飾り幟を立てたシバブネで地域内を練り歩き、境内でオフリョウを渡した。(松本市入山辺西桐原/65頁)
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社殿近くの三本の松に囲まれたセンド石を氏子惣代、大人のオフネ、子供のオフネの順で右まわりに三周し、オフリョウを渡す。(安曇野市堀金岩原/)68頁
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オフリョウワタシ、あるいはオフリョウ神事といい、氏子総代や区の代表が布令灯篭・小幟旗・丸提灯などを持って、等々力区を先頭に両町区・穂高区の行列が闇夜の中、神楽殿を右まわりに三周する。(中略)鼠穴(北安曇郡松川村)の三階菱の旗を先頭に(中略)各区と地元の四区の布令(ふりょう)旗を持った行列が神楽殿を三周する。(中略)今でも、「鼠穴の旗が来なければオフリョウが渡らない」といわれるのはこのためである。(穂高神社/92~93頁)
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中央に埋め込まれたセンド石を三周してオフリョウを渡す。(安曇野市穂高有明新屋/104頁)
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境内でセンド石を右まわりに三周してオフリョウを渡す。(安曇野市穂高有明嵩下)
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舞宮の周囲を右まわりに三周半廻ってオフリョウを渡すが、この時「オフリョウ囃子」が囃される。(安曇野市穂高有明立足)
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センド石をを三周してオフリョウを渡し、その後祭典となる。(安曇野市穂高有明富田/107頁)
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神社に着くとオフネはセンド石を三周するが、その時オフネをゆさゆさと前に後ろに大きく揺さぶって、オフリョーを渡す。(安曇野市穂高有明厩/107頁)
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神社まで練ってセンド石を三周してオフリョウを渡す。(安曇野市穂高北穂高青木花見/108頁)
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提灯を持った者を先頭にオフネをセンド石の周囲を三回廻してオフリョウを渡し、その後祭典となる。(安曇野市穂高西穂高柏原/109頁)
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境内のセンド石を三周してオフリョウを渡した。(安曇野市穂高西穂高柏原塚原/109頁)
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境内の御神木とセンド石を三周してオフリョウを渡す。これをオフネマワシともいい、氏子総代が灯篭を持ち、その後をオフネがついて廻っている。(安曇野市穂高西穂高高牧/109頁)
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サンガイ・提灯を先頭に神楽殿を三周して拝殿前に並び、「オフリョウを渡す」といって神官からお祓いを受け、祭典が終わると神楽殿では神楽や獅子舞が奉納された。(安曇野市明科東川手潮/118頁)
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外向きに右まわりに三周してオフレ(オフリョウ)を渡し、拝殿前に向いて置く。(安曇野市豊科重柳/122頁)
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ブタイが神楽殿を三周するオフレワタシが行われる。(安曇野市豊科真々部/124頁)
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オフリョウワタシはオフリョウ囃子の囃される中を神楽殿を右まわりに三回廻るが、二周目に拝殿前に来ると両側の腕木を持って前後に激しく揺さぶる。(安曇野市三郷中萱/126頁)
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境内を三周してオフリョウを渡した。(北安曇郡池田町中鵜中之郷/130頁)
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宵祭りにブタイは神社でお祓いを受けてオフリョウを渡し、その後地区内を練り廻り、最後に再び神社に入る。(松本市岡田下岡田/179頁)
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オフネを三周させてオフリョウを渡して終了した。(安曇野市豊科熊倉/182頁)
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各ブタイは拝殿前を三周してオフリョウを渡すが、その際に威勢良く囃子が奏される。(安曇野市豊科田沢/184頁)
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「オフリョウをする」といって境内のセンド石を三回廻ってお祓いをし、その後次の当番へと当番渡しが行われる。(安曇野市明科光/185頁)
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センド石を廻ってオフリョウが渡される。(安曇野市豊科下鳥羽/193~194頁)
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ブタイが神楽殿を三周して、オフリョウが渡される。(安曇野市豊科細萱/199頁)
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ダシは猛烈な勢いでセンド石を二周してフリョウが渡されるが、この時には「オフレ」と呼ばれる囃子が奏される。(安曇野市豊科本村/199頁)
千度石あるいは神楽殿などを3周廻ることを「オフリョウ」とイメージできるだろう。しかし、例えば2.では「お祓いをしてもらう」ことをオフリョウと言っているように、必ずしもそれだけではないのである。そして何といっても違和感を抱くのは「オフリョウを渡す」という言い方である。渡すと言うから何かを渡すものなのか、と思うが実際はそうではない。
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