Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

“はさ干し“ ③

2019-09-26 23:09:19 | 民俗学

“はさ干し“ ②より

 

 

 2段掛けとは、竿を2本横棒として渡しているもの、とわたしは捉える。しかし、重ね掛けしたものも見た目は2段だと捉える人もいるかもしれない。重ね掛けの意図のひとつに「笠」として掛けるものがある。しかし、見た目2段のように重ね掛けている場合は、「笠」の意図とは捉えにくい。したがって2段風に見える重ね掛けをする上伊那地域、あるいは中信地域は、重ねてもよく「乾く」、ようは風が強く、日当たりが良い地域なのだろう。

 さて、以前にも触れた通り、『長野県史民俗編』(第1巻から4巻の(二)「仕事と行事」)は、まとめた際の視線が、すべての巻で統一されていないようにもうかがえ、この「笠」として掛けられたものへの視線に強弱がある。もしかしたら生のデータには、もう少し具体的なデータが記載されているのかもしれない。図は、いわゆる雨よけらしい「笠」に対しての呼び名と、雨よけの意図でで掛けられたと思われる例を拾って分布図化したものである。とても事例が少ないのが、前述したように視線の強弱ではないかと思う。わたしの生家では、雨よけのために掛ける稲を「ワカサ」と呼んでいた。示した分布図にも、「ワカサ」が見られる。まさに上伊那南部から下伊那北部にそれは現れている。比較的狭い範囲でも、呼称に違いが見られ、また、県内ほとんどの地域ではそれらしいデータの記載がないため、地域性をここから読み取ることはできないが、そもそもはさ干しの「笠」が存在しないとすれば、それに代わるものは何だったのか、と思う。

 ちなみに、いくつか事例を拾ってみよう。

〇雨よけの乗り掛けといって、二段に掛ける。下は交互に又掛けにし、上はおおい掛け(一段又掛け)にする場合と、二つ割におおい掛け(二段又掛け)にする場合がある。(高森町大島山)

〇一段掛けで詰めて掛け、その上にフリガサに掛けた。それは雨でハザに直接掛けたのが株の方からぬれないためだった。一段掛けの上にフリガサのほか、ヨコガサ、ワリガサなどもまれにあったが、風で落ちやすいのでめったにしなかった。ヨコガサは束の根元をそろえ、ぎしぎしに上に横に並べる方法で、ワリガサはハザの上にまたがったように掛けていく方法である。麦ハザは一〇段掛けにもした。(飯田市名古熊)

 いずれの例も記述からははっきりした形がわからないが、「おおい掛け」はおそらくはさの方向に平行に横に割って掛ける姿がイメージされる。また、「フリガサ」も同じものを言うのだろう。「ヨコガサ」ははさに対して直角方向にへの字形に掛ける方法だろう。となると「ワリガサ」は…!?

 かつて稲束を「笠」として雨よけにしたが、今でも笠掛けとして稲を横たえて掛ける姿をまれに見る。しかし、今の雨よけの主流は、ブルーシート、あるいは透明シートである。

続く


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