Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

「民俗コラム」

2009-01-09 12:41:49 | 民俗学
 『伊那』(伊那史学会)の1月号は毎年民俗特集ということで長い間発行されてきた。そして今年の1月号も恒例の民俗特集が組まれている。ところがどうも最近の傾向として「これって民俗なの」という内容のものが目次に見える。もちろん民俗関係だけで組めなければ別の論考を掲載するのは「民俗特集」に似合わないというわけではないが、巻頭に並ぶものはとくに「民俗」を意識したものにしてほしいものだ。民俗に関わっている程度のものは掲載しても巻頭は避けるというのが本来だと思うのだが、どうもそのあたりがどういう視点で目次立てをしているのか理解に苦しむわけだ。思うに文量と上下関係みたいなもので並んでいるように見える。文量のすくないものを巻頭に掲載するのはしのびないかもしれないが、「民俗特集」というテーマを意識してもらいたい。加えて『伊那』の目次の欠点は口絵とその解説を目次のトップに載せることだ。本来なら論考のトップを目次のトップに掲載するべきだと思うのだが、解説文もそこそこ長いということもあってか、昔からこのスタイルをとっている。しかし、口絵はコラム的なものであって、それを目次のトップに掲載するのはそれ以降の執筆者に対して配慮が欠けるというようにも思うのだがどうだろう。もしトップに掲載するのなら目次の表現に工夫が欲しいところだ。例えば文字のポイントを落として口絵だということがすぐに解るような配慮である。「口絵」と現在も表示はされているが、並びがまったく他の論考と同等のため、常に巻頭の論考が口絵と見間違えるわけだ。

 今号の巻頭は「小笠原氏の家紋」というもので、前述したようにどことなく「関わっている」というものであって、内容そのものは民俗と歴史という観点でいけば明らかに後者の比重が高い、いやほとんどそれである。二編目は「江戸時代における部奈疎水工事の入札と落札」というものであってこれもまた歴史編といえる。三編目にようやく「江戸時代の婚礼記録の一例」という儀礼に関わったものが見えてくるが、これもまた内容的には古文書を紐解いたもので、歴史編と言ってもよいかもしれない。視点が「民俗」であるかどうかということに照らし合わせるとけして古文書が「民俗」とは無縁ではなく利用することは良いことなのだろうが、視点の置き所はどうみても歴史である。

 ようやく四編目に「折口信夫の三信遠国境の旅を辿る」というものが登場し、「民俗特集」へ突入するという感じである。すでに冊子の半分ほどを経過している。週刊誌の特集記事だって冊子の半分以降に掲載することはないはずだ。以降六編ほど「民俗」という視点のものが続く。文量的に短いものばかりということもあるのだろうが、そうはいっても四編目は7ページある。これを巻頭にあてても十分なはずである。五編目以降は文量が短くなるためか、ページトップの見出しではなくなる。ようは新聞形式にページの途中から論考が始まる。たまたま「民俗」に関係したコラムを集めたみたいな組み方で、こうしてみてくると「民俗特集」とは形式的であるということがわかる。もちろん投稿を募っても「特集」を組む内容で組めないという編者の苦しみもあるのだろうが、短編でも巻頭に掲載してこそ「民俗特集」と言えるような気がする。もちろん四編目のものが巻頭に掲載できるのなら、その方がベストと思うのだが…。

 そんななか興味深いものが桃沢匡行氏の「私の見たワラ人形、聞いたワラ人形」というものである。災いをもたらそうとワラ人形に五寸釘を打つという呪いのことはだれでも知っているだろう。最近はそういう話もあまり聞かなくなったが、むかしは「○○がワラ人形を釘で打ちつけていた」などという噂がよく流れたものである。子どもの世界でもそういう会話で盛り上がったものだ。桃沢氏が飯島町で聞いたワラ人形の事例に「山師が御神木を買うなというのは「神の祟り」と「呪の釘が打たれている」ことがあるから刃物が痛むからだ」というものがある。現代はともかくとして、まことしやかに語られたワラ人形への呪いの話からすれば、神木に打ち付けてより一層呪いを実現させようという考えは当然のことかもしれない。桃沢氏の事例の中にも「七久保芝宮神社の鳥居横の杉の大木の地際にワラ人形が釘で打ち付けられているのを見た」というものがあるし、それ以外にも「観音堂のイチイの大木」とか「白山権現社の古い御神木」「御嶽神社の太い松の木」といった具合に神社の太い御神木らしき木に釘が打ちつけられる例が多いようだ。この興味深い報告は九編目である。郷土史の専門の方だから、巻頭へ掲載することを了解していただければ、それなりにまとめてくださったはずである。「民俗コラム」の末尾に載せるには忍びないとわたしは思う。
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