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食料自給率と農民④

2009-01-16 12:29:11 | 農村環境
 食料自給率と農民③より

 これまで食料自給率向上に向けた取り組みがまったくなかったわけではないだろう。しかし野党の追及はもちろんのこと、マスコミなどからも食料自給率のことが頻繁に報道されることにより、その数値40%というものは多くの国民が認識するところになった。したがって国も更なる対策をせざるを得ないというのはもちろんのこと、具体的に数値を上げる施策に平成21年度は向かっていくことになるのだろう。容易にはその数値が上がらないと言ったが、とりあえず目に見えてくる行動をとろうとしているのは来年度予算の農林水産省の方向を見れば明確である。報道でも聞いている人が多いだろうが、米粉の利用増大に向けた取り組みが始まる。前回までに触れてきたように、穀類の自給率は極めて低い。麦類の生産を上げられないとなれば、常に余剰米として問題になる米の利用をするのが手っ取り早いことは事実である。

 平成21年度予算に上げられている重点項目を見ると次のようものが上げられている。
 ①水田等の有効活用による食料供給力向上対策
 ②米粉・飼料用米粉の飛躍的利用拡大に向けた供給体制の整備
 ③飼料自給率向上対策
 ④国産野菜・果実等の利用拡大対策
 ⑤耕作放棄地解消対策
 ⑥食料自給率向上、食品廃棄物の発生抑制等に向けた情報発信

以上6点の国内における食料供給力の強化を前面に掲げている。穀物の問題、そして飼料のこと、食品廃棄物の発生抑制のこと、どれもこれまでわたしが触れてきた問題を掲げている。したがってこれらの対策を行うことで、現実的に数値が向上していくと考えられるが、農業農村の課題を解決できるものではない。そして現実の問題の中で果たして可能なのかというものも見受けられる。
耕作放棄地が増えてきた背景には、耕作不利地においてまず放棄が始まった。今やその放棄は不利地でなくとも増大している。不利地で放棄され始めると、付随して耕作地にかかわる環境が悪化していく。例えば用水路を使わなくなって崩壊していく。道路も同様である。国は災害復旧において耕作放棄地については復旧不要という線で査定してきた。そうした流れでどんどん環境が悪化していった。これらを元に戻すのは容易ではない。農林水産省の拡充事業には、中山間地域の小さな集落の耕作放棄地も可能な限り解消に向けたいというものがある。それがために耕作放棄地があれば補助金を出して再生されることを条件にハード事業を認めるというものだ。まったくもってこれまでと相反するような視点がある。なりふり構わずに食料自給率アップを目指そうというのだ。農民の心などそこには関知されていない。地方のリーダーは、ここぞとそうした事業へ飛びついて悪役の公共事業に手を出したりするが、地方のリーダーの多くは課題の本質を見抜いていない。

 いずれにしても食料自給率という数値に目標をあげて取り組むというものだから、その目標を達成できなければ無駄な補助金利用ということになりかねない。これらを会計検査院が調べていくわけだから、上げざるを得ない。ということで食料自給率はおそらく上がることになるのだろう。果たしてここに、再び農村を舞台に悪い物語が出来上がらないことを望むが、すでにその環境と農民との間に横たわった大きな問題は反故にされているようなものである。
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